東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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探せ!失われたオルレアン人形!

 

「──────なくした本を探す?」

 

俺とちっちゃくなったアリスはパン屋を出たあと少し散歩していたのだが、気になる話を聞いた。

なんでも、アリスを元の姿に戻すにはなくしたモノを取り戻さなければならないそうで。

 

 

「えぇ。こんな姿になって無力になってしまったのに、なぜか何をしたらいいのかはわかるの。この幻想郷のあちこちに飛んでいってしまったグリモワールを全て集めて、その力をもう一度取り込むことで私は元の姿にもどれるの!」

 

「グリモワール?」

 

「私の持っているこの本のこと。他にも何種類かあるんだけど、それがバラバラになってしまったみたいなの。本当はこの一冊にぜんぶまとめていたのに………」

 

ションボリとした顔でうつむくアリス。

小さくなったアリスは言動の一つ一つが可愛らしい。

こーれは黒歴史だぞ。あとで広めちゃおっと。

にしても本当に身体だけが縮んだのか。俺との記憶はちゃんと残っている。

言動が幼稚になって見た目が幼くなっただけで、他に変化はないらしい。

俺の事まで忘れてしまっていたらもとに戻すのが大変だったが、知能は引き継いでいるならまだやりようはある。

 

「本か………そんな小さなものではないけど幻想郷じゅうを歩いて探すのは難しいな………」

 

「あぁ………それなんだけど、場所もある程度わかってるの」

 

え、なんで?

なんで場所もわかるの?

 

「でも、コレは好都合よ!どこを探せばいいのかわかるんだもの!早くぜんぶ見つけて、さっさと元の姿に戻るわ!」

 

「う、うん」

 

なんか………アリスへの条件が甘いような気がする。

何をすればいいのかも、なくしたものの位置も把握している。なんか、おかしくない?

事前に知らされてるとしか思えないような知識。

もしかすると、ただの家電事故なんかじゃなくて、すでに何者かに仕組まれた事件なのでは………?

いや、そう推察するにはまだ早い………か。

 

「それじゃあ、最初の1つ目を目指しましょ!1つ目はオルレアン人形、白のグリモワールよ!」

 

「場所はどこ?」

 

「場所は…………太陽の畑ね!」

 

太陽の畑…………たしかずっと向日葵が一面に咲いているあの絶景スポットか。

たしかあそこは幽香さんの縄張りだったような気がするが………

まぁ、幽香さんはあぁ見えても優しいし。きちんと事情を説明すればわかってくれるだろう。きっとグリモワール探しも手伝ってくれるに違いない。

 

 

 

 

 

「────というわけで、太陽の畑よ!」

 

一面に広がる向日葵。

金色の大地が俺たちを温かく包んでくれる。

 

「────ここに白のグリモワールが………」

 

「さっ、探しましょ!日が暮れちゃう前にね!」

 

パン屋の若旦那も言ってたように、確かに暗くなってアリスを連れるわけにはいかない。

日が暮れる前に決着を着けたいが…………

 

 

 

「この広大な敷地でどうやって!?」

 

ここがあまりにも広すぎて何もできない。

本当にここに落ちているのかもわからない。

 

「これ、向日葵の茎を一つ一つどけてやっていけってこと?」

 

こんなの、日が暮れるどころの話じゃない。

 

「でも、なんでこんな所にあるんだろう………あの爆発に巻き込まれたとしたってまさかこんな遠くまでは行かないはずなのに」

 

「それはごもっともだけど………」

 

困ったな、どうやって探そう…………

 

 

 

 

 

「あれ?青葉じゃん。こんなところで何してんだ?」

 

ヌッ、と俺の前に影が現れた。

 

 

「あっ!君は───」

 

俺は見上げた彼の姿に歓喜してその場で立ち上がった。

左手に食べかけの大福、右手に飴玉袋を持ったその男は向日葵の間に紛れてもバレない鮮やかな草色の髪をしていた。

 

「御衣黄!」

 

元五輪華、緑の華・長ドスの御衣黄、衣黄御だ。

 

「まさかアンタが向日葵畑に顔を出すなんて。ゆうかりんに用かい?」

 

「そういう君こそなんだってこんなところに」

 

俺達との旅が終わってからはどうやら修行の旅に出たということだが、こんなところで再会するとは思ってなかった。

 

「俺はゆうかりんに用事があって来たんだ。今日は2人で出かける予定でね。用意が整ったから来てみたんだけど散歩中なのか、姿がないんだよ」

 

「そっか、幽香さんはいないんだね。ねぇ御衣黄、少し探し物を手伝ってくれない?」

 

「おぅ、いいぞ。何の探し物だ」

 

「グリモワール!」

 

「うわっ!誰だお前!?」

 

 

 

 

 

 

というわけで御衣黄にも事情を説明した。

 

「はぁん。にわかには信じられないがそいつは災難だったな」

 

「信じられないのは俺もだよ………」

 

「それにしても、子供化したアリスは可愛いんだな〜。元々美少女だとは思ってたけど、幼い頃から片鱗があるよなぁ〜あははは、」

 

御衣黄はアリスに後ろから抱きつくと抱えあげてブンブン振り回す。

 

「ちょ、ちょっと!やめなさいよー!私はちっちゃくなっただけで、ほんとはもっとお姉さんなんだからー!」

 

「こんな子供っぽいカッコして何いってんの〜、てか口調も幼いし」

 

「いっ、ぐっ、びええぇぇぇぇん!もうやだ、かえるー!」

 

あーあ、とうとう泣かせちゃった………

 

 

「御衣黄…………子育て向いてないよ…………」

 

「え゙っ………いや、これは、その………」 

 

「もぅ………ごめんねアリス。お詫びに何かお菓子出してもらおうよ」

 

「うっ、ぅ゙………うん………」

 

「御衣黄、お菓子」

 

こんぐらいはやっておかせないと。

この男は本当に子供扱いが下手だな………

 

「お、おう!任せとけ!なんでも言ってくれよ!」

 

「なんでも!?やったぁ!じゃあ、ケーキがいい!」

 

「ハイ!?」

 

贅沢ッ!?

 

「まんまるの大きないちごのケーキ!」

 

しかもホール単位!?

 

「御衣黄、ケーキは………」

 

「あるわけない…………」

 

ですよね。

御衣黄は困った様子で顔を反らす。

和菓子マニアの彼にはスイーツなんて管轄外な挙げ句、ケーキなんて……

てゆーか、クリームや苺みたいなナマモノをふんだんに乗せるようなスイーツが着物の内から出てきたら逆に怖い。

 

「ないの?なら、近くにケーキ屋さんはある?」

 

「いや、ない…………御衣黄、君が箱買いで仕入れてる和菓子の店って、」

 

「もちろん和菓子専門だ、というか俺の実家だ」

 

それは初耳。君んち和菓子屋さんだったんだ。

 

「あ、一つだけケーキを売ってる店を知っているんだけど………」 

 

「あ、そうなの」

 

「行こう行こう!おやつの時間だわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────あのなぁ、お前ら………どんな常連客でも3時間間隔では来ねぇって………」

 

というわけで、あのパン屋に戻ってきました。

 

「いいじゃん〜。儲かってよかったね」

 

「うぅ……そういう問題じゃねぇ………厚かましいってもんだろ………」

 

迷惑そうな顔をして若旦那は俯き唸る。

 

「えー?一号客にそういう事言うんだ?」

 

「彼一号客なんです!?」

 

なんと、この店の一号客は御衣黄だった。

 

「残念ながらな………それで?探し物は見つかったのか」

 

「ううん、まだ………」

 

「何やってたんだこの数時間」

 

「その………向日葵畑にあるようで、なかなか見つからないんですよ。そしたらゴネだしたアリスがここのケーキを食べたいって言い出して」

 

「そうか。で?うちのケーキは結構高く付くが勘定は覚悟しとくんだな」

 

「──────やばい、お金ないかも」

 

御衣黄が着物の内を探ってる内に冷や汗を浮かべる。

 

「は?御衣黄?」

 

「ご、ごめん青葉………あとで返すからさ、」

 

「いやいやいや、俺もないから…………」

 

「ケーキ………ないの?」

 

アリスが状況を察してまた泣きそうな顔になる。

 

「───────なるほどな、」

 

それを見ていた若旦那納得したように頷くと、店の奥に消えていった。

向こうへ行く直前、

 

「ま、とりあえず座んな。少し待ってろ」

 

そう言い残していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────まだなの〜?」

 

若旦那が向こうへ行って4、5分は待ったがまだ何も起きてない。

俺たちはお座敷に上げられたまま座ってただ待っていた。

そろそろアリスが退屈そうにしてくる頃だ。

 

 

 

「────待たせたな、」

 

店の奥からやっと若旦那が戻ってきた。

両手でトレイを持ってやってきた。

 

「美味しいケーキがやってきましたよ〜!」

 

その後ろから若い美女が同じようにトレイを持って軽い足取りでやってきた。

彼女はここの若女将だ。若旦那とは夫婦なんだとか。

 

「若女将さんだ、ご無沙汰してます」

 

「はい。毎度ありがとうございます〜。あら、一号客さんもご一緒で」

 

若女将は穏やかな笑顔で御衣黄に会釈する。

トレイの上には5皿のケーキと5本のグラスがあった。

 

「ケーキだ〜!いちごの!」

 

アリスが飛び跳ねて喜ぶ。

5皿、ってことはここの全員分?

俺たちも貰って良いのだろうか。

 

「新メニューを出す事になってな、味見を誰に頼もうか迷っていたがお前らに任命してやる。お前らなら別にあたって死んじまっても構わないしな」

 

「もうあなた〜、縁起でもないこと言わないの………」

 

「縁しかない。俺らと死はいつも隣り合わせだろ。俺も昔、溶岩の海に落ちかけた時だってお前が上から投げた鎖で縛って俺を拾ってくれなかったら俺は死んでたんだ。自爆したのに死に損なったお前に比べたら大したことないがな」

 

若旦那はせっせとケーキを並べる。

 

「い、いいんですか?」

 

「あぁ。これは味見だから買ってないことにしてやる」

 

おいおい神かよこの店主。

 

「にしてもわざわざ俺らにまで………」

 

「ちびっ子だけにフィードバック任せられるわけないですから。どうせこの子は美味しそうに食べて終わりなんだから、しっかり良いところと改善点を指摘して貰うには大人の意見が要るんですよ」

 

若女将がそう言っている後ろでは冷血漢にしか思えないようなあの若旦那が、アリスに好きなジュースを選ばせている姿が見える。

なんだかんだって優しいんだな………この人は。

 

「だからって俺らが食う必要はないだろ………」

 

なぜか若夫婦まで食べるらしい。

 

「そんな事ないわ。みんなで食べたほうが美味しいもの」

 

「やれやれ、自炊になっちゃったよ………」

 

呆れた様子をしている若旦那と楽天的にしている若女将。

何もかもズレているがなにかとお似合いだ。

さぞいい夫婦なんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした~」

 

すごい美味しかった。

見た目はただのイチゴのショートケーキなんだが、中にミカンやキウイが入ってたりして外側よりも中身がよく詰まっている感じがする。

 

「美味しかった〜!」

 

アリスはうっとりとした顔で寝転ぶ。

 

「洋菓子はあまり好きじゃないんだけど、そんな俺でもこれは美味しい」

 

「ケーキの一番退屈な、中身の部分に具材を詰めていくっていうのはいい案ですね。形も保ちやすいし。ただまぁ外側ももうちょっと盛っても良いような気もしますけど」

 

「しっかり評価するんだな………助かるよ。これでただ味わって帰られたらブチギレてた」

 

「そりゃ言われたことはやりますよ」

 

「単純に美味しかったからその感想述べたまでさ」

 

「おかげでケーキが食べれて嬉しかったわ〜!ありがとう!」

 

アリスは若女将と若旦那に抱きつく。

 

「あらぁ………もぅ、いい子〜」

 

アリスの頭を撫でる若女将。

 

「─────綾、今動けるか?」

 

それを見ていた若旦那がさっと口を挟む。

 

「あら、今日の体調は絶好よ」

 

「なら、手伝ってやってくれないか?このチビ、落とし物探してるらしくてな」

 

「そうなの。何をなくしちゃったの?」

 

「私の大事なグリモワール………」

 

「要は絵本を無くしたって事だ、向日葵畑で落としたんだと」

 

「あら………それは大変ね。ねぇ、お姉さんが探してあげましょうか?」

 

マジかよ。どんだけ優しいんだこの人たち。

 

「いいの!?やった〜」

 

「でもあなた、いいの?お店は」

 

身体の弱い二人でギリギリの経営なのに、若女将のほうが外出してしまったら若旦那は一人でやらなければならない。

 

「ふん。元々はお前を楽させるために店開けようとしたんだぞ?働かせる気なんてなかったんだ、元々の覚悟でやりゃ良いだけの話、お前がゆっくりできているなら本望だ」

 

当然のような笑顔で微笑む若旦那を見て若女将は顔を赤くする。

 

「あなたって人は本当に優しいのね………」

 

「別に…………お前譲りだよ」

 

照れたようにそっぽ向いて若旦那は店に並べてるパンの籠の向きを整える。

 

「─────用がねぇならさっさと出ていけ。後片付けはこっちでやっとくから。暗くなったら探せなくなるだろ」

 

「あはっ………ありがとうございます、若旦那さん」

 

この人、すごく優しい。

と、思っていたら若旦那は俺の目の前までズンズンと歩いて来て急に胸ぐらを掴んで壁に押し付け、顔をぶつかる寸前にまで近づけてきた。

 

 

「─────いいか、俺の妻に傷の一つでもつけて持ち帰ってきてみろ、今までの買い物の勘定8000万倍にして払わせるからな。金がなくなってもその時はお前の家の物など売らせて丸裸にするからな」

 

「でも無料にしてくれてたじゃないですか。ゼロに何かけてもゼロでしょ?」

 

「殺されてぇのかお前」

 

「ごめんなさい」

 

どんなに優しくても冗談は通じないらしい。

若旦那は着物から手を離すとトレイを持って食器を回収し始めた。

 

「────さっさと行け。もうじき夕方になるぞ」

 

「お兄さん、ありがとう!」

 

アリスがお手伝いのつもりで食器をトレイの上に乗せてお礼をいうと、小さく若旦那は笑った。

 

「捜し物、見つかるといいな?」

 

そのまま手を振って店の奥へまた消えていった。

 

 

 

「──────変わったけど変わらないんだな」

 

「御衣黄、なんか言った?」

 

「いいや。なんでもない、行こうか」

 

「うん!」

 

「それでは、お供しましょう」

 

綾、と呼ばれた若女将さんが店の戸を開けて俺達を優先して外に出してくれた。

 

「久しぶりの運動ね。思わずはしゃいでしまいそうだわ。そうだ!久しぶりにこれを持っていこうかしら〜」

 

会計テーブルの中から何かを取り出すと若女将さんが遅れて店の外にやってくる。

 

「それは…………」

 

「鎖鎌です。こう見えて昔習ってたんですよ?」

 

 

 

 

 

え───────えぇぇぇ………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────なんか、振り出しに戻ってない?

 

ゆーちゃん、言っていい事といけない事の区別つけよう。

 

しかしあの若女将、戦えるのね。

 

そりゃあ、ねぇ。若旦那の妻だし。

 

ところで神羅、オルレアンに何かある風なことを前に言っていたわね。何があるの?

 

さぁ〜?なんだろうねぇ〜?

 

貴方の監視役に抜擢されてから一度も言った事ないこと言うわねそろそろ。

 

お?なになに〜?

 

 

 

──────ウザいわよ、貴方。

 

 

 

……………………………………え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回、東方編史帖アリス編Extra第3話、

「日元に華やぐフラワーマスター」。

 

 

 

……………………………………え?

 

 

 

──────じゃ、あとは適当に頼むわ。

 

 

 

 

 

 

……………………………………え?

 

 

 

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