東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
というわけで、太陽の畑に戻ってきた俺たちだったが。
「見つかりませんね〜、どうしましょう」
「御衣黄、どうだった?」
「ぜんぜん。あっちにはなかった、お前は?」
「俺も見つけられなかった」
「私も見つけられなかったわ。どこへ行ったんだろう………たしかにここの畑にあるはずなのに」
アリスがなぜ知っているのかは不明だし、まず本当にここにあるのだろうか。
疑っているわけではないが、場所だけわかっていて細かい位置は把握できないのはなぜだ?
向日葵で視界が狭くなってしまう上にこの広大さ。探すのは大変だ。
だんだんと日が傾いてきた。このままあと1時間もすれば夕方になってしまう。
そうすればアリスが危ない上にそもそも暗くなってしまうのでグリモワールの捜索は間に合わなくなってしまう。
それまでに決着をつけたいのだが…………
「ゆうかりーん!ゆうかりんはいるかー?」
御衣黄が向日葵畑の真ん中で大声で叫ぶ。
本来は幽香さんと出かけに行く予定だった。
なら、彼女はこの辺りで彼を待っているはずなのだ。
だが、御衣黄はいまだに彼女を見つけられていない。なら、まだここにいるはずだ。
フラワーマスターである幽香さんならこんなところでもあっという間に探し物を見つけるコツを知っているかもしれない。
「──────いない………のか?」
しかし、幽香さんは現れないし返事も聞こえない。
完全に見失ってしまった。
これじゃあ間に合わない……………
「私のグリモワールが…………」
アリスがしょんぼりとした顔をする。
「大丈夫ですよ。グリモワール探しは明日にでもできます。明日は違うところを細かく探して、何か見落としがないか確認しましょう」
綾さんがアリスを慰めようとしていた時だった。
「あら?グリモワール?それはもしかして、コレの事かしら」
どこからともなく、声が聞こえてきた。
「ゆうかりん!」
御衣黄が言うなら間違いない、幽香さんはやっぱりここにいたんだ。
「ゆうかりーん!どこだー!いるなら教えてくれー!」
「馴れ馴れしく呼ばないでくれるかしら。捻り潰すわよ?」
ガサッ、と音がする。
そっちの方向をバッと見たがそこには誰もいない。
「幽香さん!?どこにいるんだ!?」
「ここよ、」
ひときわ強く向日葵が揺れたところから、人影が空へ舞った。
「──────────────」
その姿を俺達はなにも言えずに見つめることしかできなかった。
草色の髪とエレガントな姿と格子模様の服はいつもの通り。
──────だが。
「───────髪長っ!」
それは腰に届くほどの長さがあり、
「───────前髪長すぎます!?」
右目は長い前髪によって軽く覆われている。
その奥の瞳が見えないでもないが右側だけ長め。
「───────スカートじゃねぇぞ!?」
下に履いていたのは格子のスカートじゃなくて格子のパンツ!?
「───────いつもより綺麗よ!?」
パンツスタイルのおかげで脚が細く長い!めっちゃスタイル良い!顔もなんか普段より綺麗!
「「「───────誰だぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」
俺たちは一斉に叫んだ。
こんなの幽香さんなんかじゃない!!!!!
「なんてこった、こいつはゆうかりんの偽物だ!本物はスカート履いてるし、そんな髪も長くない!加えてそんな綺麗じゃないし、もっと下品だし、もっと太ってるs((((」
言い終わる前に御衣黄の足元が爆破された。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
御衣黄はあの雲の彼方へと吹っ飛んでいった。
悲報。アリス一行、戦う前に仲間を一人失う。
「あら失礼。邪魔が入ったから消し飛ばしてしまったわ」
「…………………………………」
…………………根は変わらんな。
「ゆ、幽香さん。その………俺たち、アリスの落とし物探してるんだけど、この辺に本って落ちてたりしないかな………?」
「本………?あら、これの事かしら」
いつもと何か様子が違う幽香さんは背中から一冊の本を取り出した。
白い表紙に黒い文字の書かれた分厚い本。
アリスが持っているその革表紙の本に色以外は酷似している。
「あ、青葉!あれよ!白のグリモワール!」
あ、アレが!?
……………あれがそうか。
「幽香さん、それを譲ってくれないか?アリスの落とし物なんだ」
「悪いわね、ソレは却下させてもらうわ」
いつもよりも透き通った声で幽香さんはそれを拒否した。
「……………!?なぜだ!」
「花が咲き誇り、鳥が囀り。こんな素敵な場所だもの。もう少しだけ長く留まらせて貰いたいに決まってるじゃない」
「………………………?」
こ、ここは幽香さんの縄張りじゃないのか?
「道を歩いていて、突然変な光が差し込んだと思ったら、気がついたときにはこの本を抱えてこの場所にいたの。最初に私が持っていたってことは、これは私のものなんじゃないかしら?」
「だ、だめ!ソレは私のグリモワールよ!」
アリスが前に出る。
「この本を手放してしまうと、この絶景が見れなくなっちゃうじゃない。ソレは残念よ、簡単に渡すわけにはいかないわね」
「うぅ……………」
やっぱりこの幽香さんは俺たちの知ってる幽香さんじゃないんだ。
もしかしたら、今回の異変に伴って幽香さんにもアリスと同じような変異が起きているのかもしれない。
「なら、力づくで本を渡してもらうわ!」
「ちょっ、アリス!?」
「アリスさん、おイタは駄目ですよ………それに、体格的にもあちらのほうが、」
「なに言ってるのよ!二人もあいつをやっつける手伝いをするに決まってるじゃない!」
「はぁぁぁぁぁぁっ!?」
「えぇぇぇぇぇぇっ!?」
「─────────何言ってるの」
で、で、ですよね!
そりゃあ乱暴でひとからものを取り上げるなんて、ここは話し合いでまとめて…………
「ふふふ、気に入ったわ、名案じゃない。じゃあこの本の所有権を賭けて私と弾幕で遊びましょう?」
いやまじでほんとに最高だわこのガキ。
「言っておくけど。私……………私の世界では「最強の妖怪」と呼ばれているのよ?この私に勝負を挑むなんて、大した度胸ね、褒めてあげる」
「青葉!綾!やるわよ!」
アリスが自分のグリモワールを開く。
「あぁ………もう、なるようになれだ!」
俺は模造刀を抜く。
「アリスちゃんに怪我させないのが第一です、頑張りましょう青葉さん!」
綾さんも鎖鎌を構える。
「ふふふふ、さて行きましょうか。全員消し炭にして、この綺麗な花畑の肥料にしてあげる」
「そうはさせない!くらえ、私の最強の必殺技ー!!!」
「なんですって!?」
「行くわよ──────上海!!!!!!」
アリスはその腕をバッ、と前に突き出して相棒である上海人形を幽香さんに炸裂させた。
「くぅ、ぅぅぅぅぅぅ!?」
幽香さんが必死に防御体制をとった次の瞬間。
しーん。
「あれ?」
「なにも起きませんね」
上海人形などまったく現れなかった。
「───────っ、ひっぐ、うっぐ…………」
アリスは膝から崩れた。
「ずびっ、いぐ、っ、うあぁぁん!!!グリモワールといっしょに、しゃんはいにんぎょうも、なくなっちゃったぁぁぁ…………うぅっ、うぁぁぁぁぁん!!」
「─────────なんやこれ」
「─────────なんやこれ」
「─────────なんやこれ」
俺と綾さんと幽香さんは3人揃って泣きわめくアリスを見つめていた。
──────アリス、人形すらも失ったの?
…………みたいだね。
じゃあ戦えないじゃない。
いや、無くしたのは各種グリモワールに対応している人形だけさ。アリスを代表する5種類の人形が消えただけさ。
上海、蓬莱、仏蘭西、和蘭、オルレアンの5種類かな?
そう。ところで、あの風見幽香はなんなの?
あの幽香、魔界で暴れたあの風見幽香に瓜二つなんですけど。
あれ?いや、あれもアリスと同じ現象だよ。
単に、「古い風見幽香」になっただけさ。
古い風見幽香…………
まぁ、あれを新しい風見幽香と呼んでいいのかもわからないけどね。
まぁ少なくとも、「一般的な幻想郷」には住まわない存在。
並行世界からの刺客、と言いたいのね。
そういうこと。ま、俺たちからすればこっちの風見幽香のほうが既視感があるよね。
まぁ、それはそうだけど…………あ、忘れていました。
次回、東方編史帖アリス編Extra第5話「プラスチックマインド〜スペルなき弾幕勝負」。
弾幕勝負の歴史は奥深い。
ルールも移ろい変わりゆくものなんだよ。
彼女らからしたら、スペルカードなんて画期的な要素、信じられないもんだよ。
私も使いたいなぁ、スペルカード………カッコいい。
ゆーちゃん?
いえ、何でもありません。