東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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プラスチックマインド〜スペルなき弾幕勝負

 

 

「さて…………それでどうするの?弾幕勝負はできないみたいだけど、」

 

「そうね…………」

 

 

見た目の変わった幽香さんからグリモワール………アリスの力の一部を取り返すために俺たちは幽香さんと勝負することになった。

だが、アリスが力を奪われすぎて弾幕を使えなくなっており、弾幕勝負による決着はできなくなってしまった。

 

あわよくば俺も巻き込まれそうな流れだったので俺としてはそれで非常に助かる。

しかし、何かしらの対決で幽香さんに勝たなければアリスの力は手に入らない。

それだと縮んだアリスを治すこともできない。

 

 

「せめて………何かしらの勝負ができればいいのですけど………」

 

 

パン屋の綾さんも鎖鎌を片手に同行してきたが、結局何のためにいるのか半分以上分からない。

 

 

「よし………ここは一対一のじゃんけん勝負で………!!!」

 

 

俺は右の拳を掲げ、力強く握りしめる。

 

 

「ちょっとまちなさーい!!!」

 

 

俺はアリスの飛び膝蹴りを食らった。

 

 

「ぐわーっ」

 

「なにかんがえてんの!?私の身体の一部を取り返すための大事な戦いよ!?なに運ゲーしようとしてんのよ!?」

 

「大丈夫、俺じゃんけんつよい!」

 

「そういう事を言ってるんじゃないわよ!!コケたら私の力戻ってこないのよ!?」

 

 

なんか、ツッコミモード中のチビアリスって結構普通のアリスに口調が似てると思うんだけど俺だけだろうか。

 

 

「試しに条件なしでただのじゃんけんやってみようよ幽香さん」

 

「なんでそんな事しなければならないのよ」

 

「出さなきゃ負けよじゃんけんポン!!!」

 

「ちょっ……!!咄嗟に出しちゃったじゃない!!まだ私はやるとはひと言も………しかも負けたし!?」

 

 

────────よし勝った。

 

 

「凄いですね!?ほんとに勝っちゃった………」

 

「幽香さん、傘を握ってない方の手をずっとグーで握っていたからね。咄嗟にじゃんけん勝負を吹っ掛けられたら傘を握ってない方の手でじゃんけんをやらされる。そうすると、反射的に自然体であるグー以外の形を出す心理になるんだ。パーかチョキの2択ならチョキを出したら最低でもあいこ以上。そしたら幽香さんパー出したから俺が勝った」

 

「凄い…………じゃんけんのプロですね…………」

 

「まぁ………こんな心理戦しなくても俺の動体視力と反射神経ならたぶん出される前に手の動きで何出すか読めると思うんだけどね………」

 

「幽香!!!約束通りグリモワールを返してもらうわよ!!!」

 

「さっきと言ってる事違うじゃないのこんのマセガキ……!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「それで………幽香さんは何して遊びたい?」

 

「ちょっとー、私のグリモワールを探しに来たんだよ!あそびにきたわけじゃないもん!」

 

「そうねぇ…………ホントは性能を競い合いたかったのに、それが叶わなかったのは残念ね………それなら………どんぐり独楽でもして遊ぶ?」

 

 

血の気の濃い幽香さんが思いもよらぬ平和な提案を持ちかけてきた。

 

どんぐり独楽?どんぐり独楽って、どんぐり回すアレ?

 

 

「なにそれ!?やってみたい!!」

 

 

アリスは飛び跳ねる。

だがアリスはまったく理解していない。

どんぐり………植物の勝負になった時点で、完全に向こうのほうが圧倒的に有利な土俵になっているということに。

 

 

「今はちょうど秋の始まりですからね。里の近くに生えている木々を探せばいい形のどんぐりが見つかるかもしれません」

 

「そう。なら、決まりね」

 

 

パチン、と幽香さんが指を鳴らすと空から大量にどんぐりが降ってきた。

 

 

「あいたたたたたた!!どんぐりがいっぱい降ってきた………!!」

 

「すごいすごーい!もっと見せて!」

 

「いたた………勘弁してください………先っぽが頭皮に刺さってヒリヒリします………」

 

 

 

「はい。どんぐりなら腐るほどあるわ。私の力にかかれば瞬時にどんぐりの雨を降らすくらいわけないもの。10分あげるわ。この中から使うどんぐりを厳選して、この爪楊枝に刺して独楽を作りなさいな」

 

「幽香さんは作らないの?」

 

「えぇ。私もちゃんと作っておくわよ────とびっきりの、最強の独楽をね…………」

 

 

幽香さんが元の幽香さんにもあったあのゲス顔を使ってきた。

これは何か不吉なことが起こる前兆と思っていいだろう。

 

 

「しかし困ったな………どんぐり独楽の遊び方は知っているけど………」

 

「私も主人と遊ぶときはこういう遊びはしませんからね………」

 

 

ウッソでしょ、あの堅物すぎる若旦那ってスキマ時間に妻と遊ぶことあるの。

そんな可愛い一面あるの、意外と俺らが見てないところだと結構イチャイチャするタイプの夫婦だったりする!?

 

 

「さぁさぁ!時間ないわよ!はやくはやくー!」

 

 

アリスは地面に両膝をついてあちこち回りながらどんぐりの山の中を探し始めた。

 

 

「やれやれ………アリスが一番はしゃいでいるよ………」

 

「かわいいお子様ですわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「拾ってきたかしら?」

 

「うん!拾ってきたよ!つるつるのやつ!」

 

「私は少し細長めの子を拾ってきました。主人みたいでたくましいです」

 

 

俺たちは自分たちの一つずつ拾ってきたどんぐりを差し出す。

 

 

「ふむふむ…………あら。少年貴方、いいの選んできたじゃない」

 

 

俺の持っていたどんぐりに幽香さんは興味津々のようだ。

 

 

「どれどれ!見せて見せて!」

 

「俺が拾ったのはこれ」

 

 

俺はアリスに自分が拾ったどんぐりを見せる。

 

 

「……………なぁに、これ。へんなのー、上はほそいのに下の方はなんかおっきいよ」

 

「────どんぐり独楽はどんぐりを独楽のように横に回転させて回す遊びだ。どんぐりのような丸いものを回して遊ぶ場合、上よりも下が太いほうが重心が下に集まるから持久力が上がるんだ」

 

「む…………むずかしーい…………わかるように説明してよー」

 

「わかりやすくいうと、ジャイロ効果の補強だよ」

 

「────余計に難しくなってませんか?」

 

 

 

回転する物体は回転中に回転方向や向きを変えることができない。

これはジャイロ効果による慣性が働くからだ。

重心が低い位置にあれば回転中に倒れることが減る。

 

なぜ独楽は立たないのに回す時だけは縦に立ち続けることができるのか?

 

その答えこそがジャイロ効果による重心維持だ。

独楽が回転している間は、独楽が倒れようとする力がゼロになるわけではない。

回転が減速し、やがて止まれば独楽は倒れる。

 

独楽が回転している間は、独楽が倒れようとする運動と独楽が立った体勢を維持しようとする運動が拮抗している状態なのだ。

 

重心が下にあるから倒れない、同じ現象を利用しているものはいろいろある。

ダルマとかがそれだ。あれだって倒れても下に仕込んだ分銅で起き上がる。

 

よって、どんぐり独楽を遊ぶときは下にだけ重心が向く下に太い、洋ナシのような形をしたどんぐりが好ましいわけだ。

 

 

 

 

「─────ガチすぎるわよ……………」

 

「ただのお遊びにここまで全力になれるとは………やはり底の見えない御仁ですね………」

 

「…………素敵な人。私との勝負に、ここまで全力になってくれるなんて………その豊富な知識、勝負を真っ向から受けようとする覚悟、理想のカタチのどんぐりを見つけようとする根性……………それと攻めに弱そうな顔。貴方、いい男ね。気に入ったわ…………」

 

「…………?ど、どうも………?」

(俺、今褒められてるの?)

 

 

(どんぐり拾うだけで女堕とす男・神門青葉)

 

(イミわかんないわよ………!!!)

 

 

 

「ところで、幽香さんの独楽は?」

 

「私のはこれ」

 

 

幽香さんが取り出したのは─────

 

 

「でかーっ───!?」

 

 

人間の頭くらいの大きさを誇る超巨大どんぐり。

 

 

「これはオキナワウラジロガシと呼ばれる植物が持つ、自然界で最も大きなどんぐりよ。年中温暖で少し暑い特定の地域にしか生息しない固有種。このどんぐり、ただのどんぐりに見えて貴重なのよ」

 

 

能力使っただろこれ絶対………!!

 

こんな大きなどんぐり、勝てるわけがない。

 

 

「私はフラワーマスターであると同時に、どんぐり独楽の達人でもあるのよ。この私にかかれば三枚抜きは余裕。3人まとめてかかって来なさい」

 

「一投で、俺たち3人を!?」

 

「えぇ。ルールは簡単、私の独楽を倒せたら貴方たちの勝ち。この本は譲るわ。ただし、もし私が貴方たち3人を全員倒したら………文句は言わせないわよ。仲間の独楽が倒れたら、残った者のうち誰か一人が3秒以内に独楽を投入すること。いい?」

 

「や、やってやるわ!ぜったいに、私のグリモワールを返してもらうんだから!」

 

「ふふっ。良い眼をしているじゃない。これは、いじめ甲斐があるわ…………」

 

 

 

 

 

花畑の中央に生えてきた巨大な切り株を前に、俺達3人と幽香さんは対面に向かい合う。

 

 

打順は、綾さん・俺・アリスの順番。

初っ端からアリスを出して早期退場させられてもしゴネられでもしたらたまったもんじゃない。

ここは先に大人二人で、穏便に戦いを終わらせる。

 

綾さんはまん丸で大ぶりの、桃のようなどんぐりを拾ってきた。

だが、持ってきた短刀で削ったのか、左右非対称の歪な形をしている。

 

 

俺が拾ってきたのは以下略。

 

 

問題はアリスのやつだが………

 

縦に細っそ長い…………ふっつーーーのどんぐり。

 

正直、これでどうやって戦うんだみたいな形をしている。

 

筋力的にもどんぐり的にも、アリスを戦力として数えるのは難しそうだ。

実質的に2人以内に仕留めないと厳しい。

 

 

「ふふっ…………拾ったどんぐりを見るだけで、その人の性格が出ていて面白いわ。さて、私も作戦を考えないと………」

 

 

幽香さんも本気だ。

こちらを潰しにかかるために必死に策を練っている。

 

 

(袴の女のどんぐりの形、アレは重心を外側にずらす事で複雑な回転をかける事に特化した形状。おそらく、花丸を描くように回転を繰り返し、私の独楽に連続攻撃を仕掛けてくるつもりね)

 

(こちら側は3人もいるんです。私一人を犠牲に相手の独楽の体力を削りきり、青葉さんの綺麗な独楽で耐久勝ちする…………)

 

(なるほど………この女、頭がきれるかどうかはさておき、ゲームの才能は相当なものね)

 

 

 

(綾さんが相手の独楽の体力を削ったあとは、俺の粘りどころだ。俺がやられたら、アリスの2秒回るかも怪しい独楽の出番になる。子供の遊びなら2秒の差は大きいが、このレベルの対決になってくると、2秒あっても意味がない…………)

 

(ま。あのお子様は取るに足らないでしょう。この二人を撃退すれば、私の勝ち…………)

 

 

(が、がんばるわよ………ぜったいにかって、グリモワールを返してもらうんだから!)

 

(よし、勝てるわね。軽くひねってあげましょう。相手が子供だろうと、勝ちを譲る気はないわ)

 

 

 

 

 

 

 

こうして、ついにグリモワールをめぐる戦いが始まる。

先鋒はパン屋の若女将・綾さん。

 

対する幽香さんはその巨大どんぐりで俺たちを3枚抜きするらしい。

まさか嘘だろうと思っていたが、ホントらしい。

 

 

「こっちの準備はできたわよ。いつでもかかってらっしゃい、」

 

 

幽香さんは勝ち誇ったような表情で手招きしてくる。

勝負する前に勝ったかのように振る舞っているが、これでもし負けたらどうなるか分かってるだろうな。

子供を相手に能力使って大人気なくバカでかいどんぐり出したんだぞ。

 

 

「では………私も負けず嫌いでして、ゲームは手加減なし小細工ありの、本気の本気で行かせてもらいますから!」

 

 

しかし、対する綾さんも負けていない様子。

綾さんはどんぐり独楽を真上に高く投げると、着物の袖口に隠し持っていた鎖鎌を構える。

 

 

「尋常に…………です!」

 

 

若い乙女の手元で鎖鎌が回転を始め、その右手の中に遠心力の累進が蓄積されていく。

 

 

どんぐり独楽が彼女の頭上より少し高い位置へと落ちてくると同時、

 

綾さんは回転数を最大まで跳ね上げた鎖鎌を勢いよく投げ放った。

鎖が自分の独楽をとらえる。

 

独楽の外周に触れた鎖はそれを這うようにして巻き付き、本物の独楽を巻く糸のようにどんぐり独楽を縛りつけた。

 

 

 

「そぉぉぉぉーれっ!!!」

 

 

さらに綾さんは鎖鎌を引いたままその場で勢いよく回転。

自身の回転から生み出される遠心力が、鎖に巻き付かれた独楽をハンマー投げの要領で振り回す。

 

鎖の先につながれた独楽と彼女の体の中心は鎖を挟んで遠く離れている。

その分、遠心力は強化される。

 

 

「今です!!はぁっ!!」

 

 

そして彼女は鎖と独楽を切り離した。

 

鎖から勢いよく飛び出した独楽の底面は決して大きくはない切り株のテーブルの真ん中を寸分違わず捉え、無事に着地した。

 

 

「─────器用なのね………それでも、フラワーマスターであるこの私の選んだ至極のどんぐり独楽に勝てるかしら?」

 

 

幽香さんは何の工夫も凝らさず、普通に手から独楽を投入した。

 

西瓜とか舐瓜とかそれくらいのサイズにものぼる巨大などんぐり独楽が切り株の領域を我が物顔で支配する。

 

これがこの場に置いてあるだけで、綾さんの独楽は居場所すらほとんどない。

 

 

だが、綾さんははじめから己を犠牲に俺とアリスに次を託すつもりでいた。

綾さんの独楽は居場所の狭さにも関わらず、外周から花丸を描くように連続でフィールドを舞い、中央に鎮座する巨大な独楽に連続攻撃を仕掛けていく。

 

 

「どんなに巨大な相手であろうとも、大きさは逆に弱点にもなりうる。足元をすくってしまえば、むしろ大きく重いものほど体勢を崩しやすくなる、そういうものでしょう?」

 

「へぇ…………やるわね、」

 

 

綾さんの言葉の通り、独楽は四方八方から連続で幽香さんの巨大どんぐりに体当たりを仕掛ける。

最初のほうは中央でびくともしなかった巨大どんぐりが、四方から連続で与えられた衝撃によって、傾きをつかみ、中央で角度を変えながら斜めに回転し始めた。

 

あれ?これ綾さんだけで十分なんじゃ………?

 

 

 

 

─────なんて思っていた俺が間違いだった。

 

 

「大したものね、でも………甘いわね、」

 

 

幽香さんが傘で地面を突くと同時、なんと幽香さんの独楽の回転が逆向きになった!!!

 

 

「な、なにぃぃぃ…………っ!?」

 

「フラワーマスターであるこの私にかかれば、木の実の意志すらも操る。花を自在に咲かせるように、木の実の回転も自由自在」

 

 

突如として回転方向を切り返した急制動。

右回転の速度が落ちてゼロになり、マイナスの方向………左回転に切り替わる。

 

…………のではなく、+100が、いきなり−100に裏返ったような、物理現象を完全に無視した挙動だった。

 

非現実の挙動に切り換わったのは綾さんの独楽が十何度目の接触をしてきたその瞬間だった。

 

 

右回転での衝突と左回転での等倍の威力が衝突した時の証明不能な動作を受け、独楽はあり得ない吹っ飛び方をして場外に消えていった。

 

 

「あらあら………どうしましょう負けてしまいました………」

 

 

「な、なん……………こんなの、アリなの!?ズルいわよズル!!!」

 

 

アリスはもはやルールガン無視な蛮行に流石に抗議の声を上げる。

 

 

「3対1でかかっている側が、何をのたまっているのかしら?」

 

「でっかいどんぐり使ってるヤツが言うなーっ!」

 

 

 

だが、俺はそれ以上に焦っている。

 

 

(やばいぞ…………回転方向が自由自在だって言うのなら………それはつまり、独楽の動く方向も自由自在って事だ………!俺たちが投げた独楽の挙動に対する逆択の動きに操作すれば、俺たちの独楽なんて瞬殺だ………!)

 

 

まして、俺の独楽のような安定性に全振りしたようなもの、彼女の巨大な独楽からしたらいい獲物だ。

 

俺は接触による撃破ではなく、回転の耐久力で勝つつもりだった。

でも、幽香さんは独楽の動きを、ラジコンのように制御できるというのなら、俺が耐久戦に持ち込もうとした瞬間に、向こうが回転を切り替えて体当たりしてくる可能性もあるってことだ。

 

あんな質量で体当たりされたら、助かるわけがない。

せめて、綾さんのように攻撃に特化したものならまだかち合って相殺し、ふっとばされる可能性を少しでも下げれたかもしれないのに。

 

 

(────────────────)

 

 

どうする…………状況はハッキリ言って最悪だ。

はじめから分かりきっていたことだが、やっぱり勝てるわけない。

 

どうする…………この状況をひっくり返すには、俺たちも何かしらのイカサマをしなくちゃならない。

 

だけど、どうやって………?

俺には、途中で回転方向を切り替えるなんてそんな超越物理学的な投法を持ち合わせていないし、そんな能力もない。

弱体化したアリスが、この状況を好転させる魔法を持っているとも思えない。

 

俺一人で、これを止めるなんて………ホントにできるのか………?

 

 

「ねぇねぇ青葉…………」

 

「ん?どうしたの、アリス?」

 

「わたしたち、ほんとに勝てるのかなぁ………」

 

 

アリスは回転するかどうかも怪しいどんぐりを手に握ったまま、俺の顔をみてくる。

 

 

「………………ふっ、」

 

 

────────なるほどな。

 

そうか、俺一人でやろうとしたことが間違いだったんだ。

 

 

 

「大丈夫だよアリス。必ず勝てる。俺に考えがある」

 

「なになに!聞かせて聞かせて!」

 

「よし。じゃあ今から俺が言うことを聞いて、」

 

 

 

俺とアリスはひそひそと話す。

 

俺の言った言葉は一言だけ。

 

それだけで作戦は終わりだからだ。

やることは俺の努力だけ。

アリスは普通にやるだけでいい。

 

 

 

「負けてしまいましたね………敗者は着ているものを脱─────」

 

「ちょちょちょちょちょ何やってんのよ!?」

 

 

ホントに何してんだあの人。

普段旦那さんとどんな遊びしてんだよ………!!!

 

 

とはいえ、これで一瞬幽香さんの視線を逸らせた。

そのわずか一瞬で仕込みは完了した。

 

 

 

「おほん。それで?もうすぐ3秒経つわよ?今すぐ投げないと失格負けよ」

 

 

幽香さんの催促。

ふざけやがって…………こんな小さな子に大人気なくそんなバカでかいどんぐり投げて、挙句試合中にイカサマまでしやがった。

 

許さん…………そっちがその気なら、こっちだって最大限に小細工してやるよ、こんのぉ………っ!!!

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁ………せりやぁぁぁっ!!!」

 

 

俺は切り株の目の前まで疾走し、コンマの動作でどんぐり独楽を場に投入。

 

当初の計画はやめにした。

俺が持久戦に持ちこんでも勝てる保証はない。

 

だったら、幽香さんの独楽の体力を全力で削るだけだ!!!

 

 

俺は安定性も平行感も全て放棄し、ただパワーだけを一点に込めて投入した。

 

俺の独楽は幽香さんの独楽の底面に滑り込むように、斜めに体当たりした。

 

掬い上げるように突入していった俺の独楽は幽香さんの独楽に勢いよく衝突し……………

 

 

 

 

 

 

────────場外へ弾き飛ばされた。

 

 

 

 

「え?」

 

 

俺の口から間の抜けた声が漏れる。

 

 

「ふふふ…………お馬鹿さん。貴方の独楽はもとより安定性に特化した形状よ。攻撃性に特化した投入をしようものなら、おかしな挙動になって、はじき返されるに決まっているじゃない。焦りが出すぎておかしくなったのかしら?」

 

 

「───────くっ、」

 

 

「さぁ。3秒間待ってあげる。それまでに準備しなさい、おチビちゃん?」

 

「くぅっ…………まけないんだから!」

 

 

アリスは煽る幽香さんを睨みつける。

 

幽香さんは余裕の表情だ。

それもそのはず、アリスはパワー的にもどんぐりの形状的にも、まるで戦力にならないからだ。

すでに勝ちを確信している。

俺たちも負けを確信していた。

 

 

 

 

 

「ふふふ──────ん?」

 

 

すると、幽香さんの余裕の表情が歪む。

 

 

切り株の上にある彼女の独楽は鉄壁にして天賦に盤石の一個。これを倒すことは不可能だ。

 

 

だが、その独楽が今、大きく揺れている。

 

 

「……………………どうして、」

 

 

突風でも吹けば倒れてしまいそうな不安定な体勢で、彼女の独楽は回り続けている。

 

 

「な……………なぜ……………いえ。そんなはずは…………だって、あの形状では私の独楽の足元に潜り込めない。切り株のテーブルとの接触部を突くには、細長い形状のどんぐりでなければ…………」

 

 

「────────ふっふっふ、」

 

「ま…………まさか少年、貴様……………」

 

 

幽香さんは俺の方に首を向けてきた。

そして俺は笑いながら、拾った自分の独楽を見せつける。

 

 

「─────すり替えておいたのさ!!!」

 

 

俺の手元に握られていたのは、細長いとても戦える形状ではないどんぐりだ。

 

これはそう、アリスの作った独楽だ!!!

 

 

 

「俺のパワーで、この独楽を君の独楽の底面に全力で矢のように投げ入れたんだ。すると、この細長いどんぐりの底面、さらに細い部分が君のどんぐりの底に潜り込んで、掬い上げるようにして足元を取ったんだ!」

 

「凄い…………これだけ体勢を崩せば、無理な方向転換もできないですね!あとは耐久戦あるのみ、です!」

 

 

 

 

 

「ば…………ばか…………そんなばかなこと…………しかもじゃあ、残っている独楽は…………!!」

 

 

幽香さんの顔に焦りの表情が浮かぶ。

 

 

「3秒経過!!!今だ、頼んだよアリス!!!」

 

 

アリスの手から、最後の独楽が投げられる。

 

 

「えぇ!ぜったいに勝つんだから!青葉からもらったどんぐりでね!」

 

「超耐久特化どんぐり───ッ!?」

 

 

アリスのようなパワーや技術も拙い子供でも、武器の性能が高ければ戦いには勝てる。

そこで、俺の独楽をアリスに託したんだ。

 

アリスの投げた俺の独楽は、切り株の外側をぐるりと綺麗な円を描き周遊する。

 

 

これを追いかけるような回転に切り替えるほどの余力は幽香さんの独楽には残っていない。

無理をすればその場で倒れ、仮に方向転換できたとしても、中央から外側を周る独楽を攻撃するには円の中心から円周に向かって半径を直進するしかない。

そうしたら、そう…………勢い余って切り株の外に落下するのは、外側に向かって直進する彼女の独楽の方だ!!!

 

つまり、彼女の独楽がこちらの独楽に接触することは、もうない!!!

 

 

 

「ふふふ…………お馬鹿さん、」

 

 

幽香さんは指を鳴らし、独楽の軌道を変化させた。

 

 

「残り時間が僅かであろうとも、貴方の独楽を場外に押し出せば、すぐにこちらの勝ちが決まるわよ、」

 

 

アリスの独楽に向かって、どうしようもない巨体が突進してくる。

 

 

「そうはさせないわよ………!!はぁーっ!!!」

 

 

アリスが虚空を掴む指を引く。

それに応じるように、アリスの独楽が横にズレて、独楽の突進をかわした。

 

 

 

「何ですってぇぇぇぇ!?」

 

 

独楽をアリスの魔法の糸で引っ張った。

 

 

突進をかわされた独楽は急制動により、連続での方向転換をする自由と回転を失い、そのまま切り株の外周のスレスレへ。

 

 

「しまっ…………」

 

「もらったぁ!えーい!!!」

 

 

アリスが糸を掴む指を切り返す。

 

糸に引かれた独楽が、外の縁に佇む巨大どんぐりめがけて全力疾走。

 

俺の知略とアリスの魔法、そして綾さんの圧倒的パワーの3つが折り重なった、文字通り三位一体の大作戦だ!!!

 

 

「わたしの勝ちよ、風見幽香────!!!」

 

「ぐ…………うぅぅぅぅーっ!!!!!」

 

 

風見幽香の体もろとも、独楽はアリスの猛追に弾き飛ばされ、城下町へと吹き飛ばされていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ………はぁ………はぁ…………っ………!なかなか………やるわね………小さな魔法使いさん。幻想郷最強の妖怪と恐れられたこの私を、倒すなんてね…………」

 

「私はなにもしてないよ。すごいのは青葉さんとパン屋のお姉さん!」

 

 

風見幽香は地に片膝をつきながら、こちらを見上げてきた。

 

そして、ふっ………と負けを潔く認めて笑うのだった。

 

 

「完敗ね…………約束通り、この本は貴方に譲ってあげる」

 

「やったー!わたしのグリモワール!」

 

 

幽香さんの持っていた本をアリスは受け取る。

 

それと同時に、太陽の畑一面が白い光に包まれ、花々の景色が粒子となって消えていく。

 

 

「な、太陽の畑が…………!」

 

「─────その本を失ったことで、私も元の次元に送還されるというコトね………合点がいったわ」

 

 

べ、別の次元ってどういうこと!?

幽香さんは最後に意味深なことを口にした。

 

幽香さんは花畑と同化するように、身体の色が薄れて半透明になって、徐々に見えにくくなっていく。

そのまま光の粒を流しながら空へとゆっくり昇っていく。

 

 

「幽香さん!身体が………」

 

「─────どういう理屈かは知らないけれど、その本は異なる次元とこの世界を繋ぐ何かしらの魔力があるということ………そう、不思議な魔道具もまだまだ世の中にはあるのね」

 

 

別の次元とこの幻想郷を繋ぐ魔道具………それがアリスのグリモワールの正体なのか?

どうやら…………幽香さんが姿を変えてここに居たことは、何か大きな意味があったということだ。

アレは異なる次元からやってきた、俺たちの知る幽香さんとは別人の誰かなのだろうか。

それとも、違う時空での彼女なのか。

 

そんな疑問が色々と浮かんでは消えていく。

 

 

 

「────それはさておき………楽しかったわ。久しぶりよ、悔しいという感情を味合わされたのは。次に会うときは…………真っ向から力を競い合えるくらいに成長して、私を心の底から楽しませてほしいわ。小さな魔法使いさん、」

 

「べーっ、だ!次来たときもやっつけてやるもーん!」

 

「ふふっ…………」

 

 

幽香さんは最後に俺の方を見た。

 

 

「貴方、顔覚えたわよ。素敵な男の子。近いうちに、また貴方と会えることを夢に見ているわ」

 

「それはどうも。俺も、次に会うころには覚えておくように努力はしておくよ」

 

「そちらの次元でもお達者で〜、あっ!最後にうちのパン食べて行ってくださ〜い!」

 

 

綾さんが消えゆく幽香さんにメロンパンを高く放り投げた。

 

 

「お土産?………受け取っておくわ」

 

 

 

 

「そうそう…………『そっち』の私にもよろしく言っておきなさい青葉」

 

「わかった。後でどんぐり独楽の勝負で、子供相手に小細工していたって言っておくよ」

 

「別に構わないわよ。どの次元の私だろうが、勝負事に手加減はしないのが強者の美徳だもの」

 

「そっか…………ふふ………変わらないな。どの次元の君も、」

 

 

 

「ばいばーい、幽香ー!」

 

 

そろそろ俺たちの見えぬほどの高さまで浮かんでいった幽香さんに、アリスは手を振る。

 

 

「──────さようなら、アリス。『また会う日』まで、」

 

 

 

 

 

 

そうして、風見幽香は空の彼方まで消えたあと、俺たちが彼女の姿を見れなくなったところで、静かに、穏やかに。

 

揺蕩う花びらが散るかのごとく、その光の身体を溶かして消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし!これで白のグリモワール、オルレアン人形をゲットね!」

 

「よかったね、アリス」

 

「この調子で残りも集まるといいですね!」

 

 

 

すると、花畑の向こうから誰かが走ってくるのが見えた。

 

 

「綾───っ!!!」

 

 

それは息を切らしながらおぼつかない足取りでこちらへと走るパン屋の若旦那だった。

綾さんのことが心配でついてきたのか。

 

 

 

「あなた……!どうしてここに?」

 

 

息切れして膝をつく若旦那の身体を綾さんは抱きかかえるように支えた。

 

 

「はぁ………はぁ………どうしてって、お前が心配だからに決まってるだろ………」

 

 

若旦那は弱い身体でここまで走って綾さんを探しに来たのか。

相変わらず凄い夫婦愛だ。

 

 

「……………それで、怪我はないか?」

 

「えぇ。青葉さんとアリスちゃんが最後まで守ってくれたわ」

 

「はぁ…………やれやれ。ほら、いつまでもこんな所にいないで早く帰るぞ」

 

 

若旦那は綾さんの背後に回ると、強引に肩を押してその場から退却する。

 

 

「あぁん、ちょっとあなた…………まだ彼らに、」

 

「うるさい。さっさと帰るぞ。ここで何をしていたのか、危ない目に遭わなかったかあとでじっくり聞かせてもらうからな」

 

「あらぁ?あなたがそんなに早く帰りたいなんて、ひょっとして私がいない間さみしかったのかしら〜?」

 

「うるさいうるさいうるさーい!店が回らなくなるって言ってるんだ俺は」

 

「あら、そう?私が行く時「始めから一人でやるつもりだったんだから任せとけ」とか言っていたのに?」

 

「ぅぐ……………んぅ……………そもそも……!愛する妻が帰ってこないで心細くない夫がいるかよ!」

 

「うふふ………本音、聞けちゃった………」

 

「やれやれ………お前にはホント敵わんな………」

 

 

なんか、最後にすごい尊いやり取りだけ見せて夫婦は仲良く帰っていった。

最初のうちは押し出す感じだったが、なんか最後見えなくなる時に手を繋いでいたように見えた。

 

 

 

「──────変わった夫婦だ」

 

「あっ!青葉、あれ幽香じゃない!?」

 

 

アリスの指差した方には、格子のスカートを履いた、俺たちのよく知る幽香さんがいた。

 

幽香さんはこちらに気がつくなり、胸元で手を振って近寄ってきた。

 

 

 

 

 

「お久しぶり青葉。それと…………その子は、」

 

「あぁ、そっちはアリス。今は子供だけどね」

 

「わたしね、魔法の実験にしっぱいして、からだがちいさくなったの」

 

「それで今、アリスを元に戻すための手がかりを手に入れにここへ来てたんだ」

 

「……………はぁ………よくわからないけど忙しそうね、」

 

 

意味不明すぎて幽香さんも対応を放棄してしまっている。

 

 

「ところで貴方たち、御衣黄は見なかった?待ち合わせしていたはずなのに、あいつどこかへ消えたのよ。いつもは約束の時間の3時間ぐらい前に来ているのに」

 

 

こわ。

 

 

「御衣黄は………………えーっと、地平線の彼方にぶっ飛ばされた、かな?」

 

「ふーん、ならいいか」

 

 

いいんだ。

 

 

「それにしても不思議ね………縮んだアリスをみていると………なんというか、不思議と納得感が湧いてくるわ。『これぞアリス』というか。この感覚がなんなのか自分でも説明はできないのだけどね、」

 

「…………お、そうだ。幽香さんにも話さなきゃいけないことが色々あったんだった」

 

「そうそう!わたしたち、別の世界の幽香に会ったの!」

 

「ふーん…………よくわからないけど、凄い冒険をしてきたのね………貴方たち、」

 

 

そこからはもうアリスの子供独特の支離滅裂な思い出語りで忙しかった。

 

あんまりにも支離滅裂な部分はところどころ俺が補っていった。

 

子供の戯言と一蹴しそうな幽香さんだが、俺がいることで信憑性が増しているのか、途中から笑いながら話を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

幽香さんと別れたあとに、俺たちは帰路についていた。

 

 

「もうすっかり夜だ」

 

「そうね………」

 

 

沈黙が流れる。

ここから魔法の森はかなり遠いし、夜になると森も見通しが悪い。

アリスを帰すのは少し心配だ。

 

 

「よし。アリス、今日は俺の家に泊まっていこう」

 

「え?え?えぇぇぇっ!?」

 

「だって、こんな夜に子供を森に連れたらまずいでしょ。アリスの家ほど大きくはないけど、今日はもう泊まっていって」

 

「ちょっと待って!?わたし、まだ男の人の部屋に上がったことなんか…………」

 

「駄目です。諦めてください。夜間の外出は大人になってからです」

 

 

(どどどどどどどどうしよう!?今日、いっぱい歩いていっぱい汗かいたのに………!)

 

 

「ほら、さっさと行こうか。若旦那も行ってたでしょ。5時までには帰れって。もう6時だよ。ほら、抱っこしてあげるからおとなしくついておいで」

 

「ちょっ……!?わたしはまだ行くなんて、」

 

 

俺はアリスを抱きかかえると全速力で花畑を疾走する。

 

 

「こらーっ!まちなさいよー!てゆーか、なんで青葉までわたしを子ども扱いしてんのよー!」

 

「じゃあ一人でおばけの出る暗い魔法の森行く?」

 

「ううぅぅっ、やだー!青葉の家がいい!」

 

「よしきた。任せて、すぐに着くから」

 

「まって!わかったから、もうちょっとスピード落としてーっ!!!!」

 

 

 

 

 

腕のなかで暴れるアリスを抱えながら、俺は夕焼けの落ちる人間の里へと走って帰っていった。

 

 

 

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