東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
─────幻想郷、人間の里。
ここには多くの人間が住まい、平和な日々を送っている。
幻想郷でもっとも暮らしやすい場所のうちのひとつだ。
のどかな暮らしを約束され、刺激はあまりないけれど………それでもときどき里の外からやってくる賑やかな幻想郷の住民たちと触れあえる。
まさに、モブキャラが集う里。
──────そして、その里の地味な通りの端っこに、究極の雑魚キャラが住んでいた。
弾幕を放てない。
弾撃たれて数発で消滅する道中クラスの雑魚敵。
…………だが、そんな彼は………すごく強い。
─────これは、人間の里に住まう雑魚が繰り広げる、幻想郷の少女たちとの物語。
───────季節は流れ。
幻想郷、11月15日───正午。
人間の里、上白沢慧音の開く寺子屋にて。
「温泉旅行────?」
歴史の教科書を広げて、寺子屋に通う子供たちに勉強を教えていた上白沢慧音はその男に訊き返した。
「あぁ。実は新しい大きな温泉街ができたって話だから、慧音さんも誘おうって思って妹紅と計画してたんだ」
慧音の友人、いぬゐ舎店主の神門青葉も彼女と同じように算学の教科書片手に子供たちと話していた。
「───負の数と正の数の四則計算における符号が変わるって概念なんだけど、例えば、3+2=5っていうのがあるでしょ?「=」をまたいで移動したものは+と-が逆になるんだ。じゃあほら、2を移動すると+が逆になるから………?」
「-2だ!てことは、5-2=3ってことだね!」
「お、正解!そう、実は引き算って足し算から派生したものなんだよ!」
「そうだったんだー!オオバの兄ちゃんわかりやすーい!」
「オオバさんの教えてくれる勉強、わたしもすごく参考になってます!」
勉強を教える青葉は子供たちから大人気のようで、今は昼休みの時間なのにたくさんの子供たちが青葉のところに来ている。
「そ、そう?君たちが賢いだけだよ~、」
「ううん!けーね先生の授業よりわかりやすいもn」
「ちょぉぉっ、ちょ…………大型地雷だからやめとこうね」
口を強引に押さえながら青葉はちらちらと慧音の顔を見る。
幸運にも夢中で歴史の講義をしていたので聞こえなかったようだ。
青葉はほっと胸を撫で下ろして座り直す。
「───それで?慧音さんは行かないの?もうすぐ秋休みでしょ?慧音さんだってたまには羽を伸ばそうよ」
「そ、そうかな………しかしお前、どこでそんなことを知ったんだ?」
「あぁ、それなんだけどさ」
今朝、いぬゐ舎にて。
「──────ばぁっ!!!」
「えーっと、そろそろ来るはずなんだけどなぁ」
「ちょっとー!驚いてよ!!!」
「うわぁっ!?いつからそこにいたんだ!」
「驚くタイミングが違うような気がするけどやったー、ビックリしてくれた?」
「結構心臓に悪かったよ。君、奉行所行こうか」
青葉のもとに、一人の少女が現れた。
水色の長袖ワンピース衣装を着て、特徴的なデザインの唐傘を持ったいかにも人間には見えない少女。
「よぅ、お前が依頼人だな?」
そして、その横からスコップとツルハシを握った少女が現れた。
その少女の姿を見た瞬間に青葉は顔を真っ青にして固まった。
「ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
座っていた椅子から転げ落ち、我を失い無我夢中で店の奥に消えていった。
「あはははははは!!!お兄さんすっごくびっくりしてるー!」
「おいおい、注文の品を持ってきてやったのに逃げんなよー!」
二人はわちゃわちゃと追いかける。
「く、来るな…………これ以上近づいたら………!!!」
青葉は両手に包丁を持って部屋の隅に立っていた。
「おい………悪かったって。脅かすつもりはなかったんだ」
「ム…………ムカデ…………こんな巨大なサイズを見たのは初めてだ…………舐めるなよ、俺に剣を持たせたら最強だからな………!!」
ムカデは青葉の最も大嫌いなもの選ばれた生き物だ。
なぜかわからないけど本能的に苦手らしい。
「その剣を持ってきてやったんだよ俺らは」
俺っ子口調のムカデは長い包みを取り出すと、床に置いた。
「───────────」
青葉はサッ、と袋を取って開ける。
中から細長い鉄の板が出てきた。
「─────俺の新しい模造刀………」
「俺の炭鉱から持ってきた玉鋼とそこの小傘の錬鉄技術、あとはある刀鍛冶の技術の合わせ技で鍛えたんだ。注文通りの寸法にした筈だ、どうだ?」
「─────あ、ありがとう………」
青葉は金属の板を取り出すと軽く振るう。
「……………うん、良く馴染む。修行のとき、依ねぇに貸し出された模造刀に似ているな」
青葉は染々とその刀の美しさに浸ると、袋にそれを仕舞って頭を下げた。
「ありがとう、最高の一振だよ」
「おう。ちなみに、銘は「
「如意宝珠みたいだね。龍が持ってるやつ」
「あぁ、良くわかったな。ついでに、お前の出身についても少々調べさせて貰ったよ。向こうには優秀な記者がいるからな。そこの連中の事も想わせるように名付けさせてもらった。大切にしろよ?」
「ありがとう」
「で?お兄さんまだそこにいるの?」
「ごめんだけどホントにムカデだけは無理」
「いや………別に食わねぇって。確かにお前美味しそうだけど」
「そ、そんなことよりお代はどうしよう。そこに居られるとお金取りに行けないや………」
「お!その事なんだけどさ、」
ぽん、とムカデの少女は手を叩く。
「ある場所でお前を待っている偉いさんがいるんだが、そいつの頼みを聞いてやってくれないか。俺らがここへ来たのは、お前を呼びに来たのも兼ねている。それを達成してくれたら、この刀、タダで勘定を付けてやる」
「まじで!?よし、任せてくれ」
青葉は無料、特売、割引といった言葉に目がない。
無意識に二つ返事で快く引き受けてしまった。
「よし、契約成立だ。じゃ、身の回りの準備を整えたら、三日以内に来い。結構急ぎの事態だからな」
「わかった。場所は?」
「幻想郷で最も標高の高い場所────妖怪の山だ」
「─────それ、温泉旅行なんかじゃなくて、ただのお前のお手伝いって言うんじゃないのか」
慧音は冷めた目で青葉を見た。
「し、仕方ないじゃないか。聞いた所によると、結構人が必要ならしいんだ。仕事内容は………聞いてないけど………でも、俺には頼れる人が慧音さんと妹紅しかいないんだ」
「こういうのは博麗の巫女にでも頼めばいいものを………」
「霊夢さんならもう呼んであるよ。彼女はすでに仕事の事を聞いていたみたいだから俺たちとは別行動で向かうって。妹紅も温泉があるなら、って喜んで行くみたいだ」
「乗り気じゃないのは私だけか………」
「慧音さんも行こうよ。秋休みの軽い旅行みたいなものさ」
「…………お前がそう言うなら仕方ない」
慧音は笑って頷いた。
青葉はやったぁ、とガッツポーズをする。
「秋休みは明後日からだ。準備が整い次第向かうとしよう」
「わかった。妹紅にもそう伝えておく」
「と、言うわけで…………温泉旅行に来たぞー!」
俺と慧音さんと妹紅は荷物を持って妖怪の山に到着した。
木で出来た巨大な門を潜ると、すぐそこにロープウェイが見えた。
「ホントは自分の脚で登りたいけど、時間がないから今回はこのロープウェイで行こう。その代わり帰りは脚で降りようか」
「お一人様でどうぞ」
……………え?
「温泉街ができたってホントなのかよ。この辺りはなにも変化がないけどな………」
「うーん…………」
俺は妖怪の山に来ることがあまりない。
だからこの状態がどんなものなのかいまいちわかっていない。
だけどロープウェイ作ってるのはすごいと思った。
「ロープウェイは河童の技術によるものだな。あそこの文明は大したものだからな」
「そうなんだ………」
「早く行こうよ。私、温泉が楽しみでしょうがないんだよ」
妹紅がわくわくしている姿は結構珍しい。
「あのねぇ、妹紅。遊びに来たわけじゃないんだよ?ちゃんと仕事もしないと」
「はぁ?お前が刀を現金で払えば良かっただけだろ。てか元はといえばお前が折ったせいだしな」
むっ、あれは筆竜との激闘で折れたから仕方ないだろ。それ以外にも多くの剣士と戦って、刀が限界迎えてたんだから。
「ところで、仕事の内容について全く知らされていないが?」
「あぁ………それなんだけど、実はまだ何もわからなくて」
あのムカデの子も傘の女の子も、それは知らない様子だった。
まぁ、新しい温泉街の運営に携わる何かの仕事と考えて良いだろう。
「さっき霊夢も行く事を聞いた、って言っていたな。つまり、結構多くの者が集められているのではないか?」
「それに、博麗の巫女はどちらかと言うとあぁいうタイプの便利屋の中では荒事特化だ。まさかとは思うが、何かとんでもないトラブルに巻き込まれたとかなんじゃないのか。妖怪の山がわざわざお前みたいな喧嘩が強いだけの一般人に頼み事をするんだぜ?どう考えても平穏な予感はしないぞ?」
「新しい温泉街で荒事なんて、そんな事あるの?」
「なんにせよ、警戒はしとけよ。オオバ、前の怪我は大丈夫なのか?」
「歩けるようにはなったけど無理はしちゃいけないって診察を受けている」
たぶん、走ったり剣を振ったりするのは前と比べると困難かもしれない。
「ま、その回復のための温泉旅行って考えたら良いんだし。気にしなくていいよ」
「あんまり無理はするなよ。前みたいに死なれたらかなわないからな」
「それ、
「ほっとけ」
───────一方、その頃。
「
白い服を着た狐のような少女が、椅子に座っているいかにも大物といった人物にお茶を出しながら言う。
「うん、ようやく必要な役者が出揃ったわね。【人間の里一番の豪商】が来るんだ、今回の「飯空湯けむりプロジェクト」は必ず大成功するだろう」
「前から思ってたんですがそれ、どういうプロジェクトで?」
「ふふふ、それは秘密というやつだ。
「かしこまりました。それでは呼んで参りますね」
「丁重に扱うんだぞ。今回のビジネスを大成功させるための要なんだからな」
「了解です」
一礼して典という少女は部屋を出ていく。
飯綱丸はお盆の上に乗せた握り飯を口に運ぶ。
「さて────小手調べと行きましょう、神門青葉」
飯綱丸の椅子の背後の障子がガトン、と勢い良く開かれる。
その奥に広がるのは、想像を絶するほどの絶景と無限に広がる青空。
穏やかな川のせせらぎと、遠くに見える滝の力強さ、紅葉する椛の無数の華やかさが青と緑の美しい世界を彩る。
飯綱丸は掛けられた小さな橋を渡っていく。
その奥に広がる巨大な和風建築。
白い煙が上がっている、あれは湯気だろうか。
飯綱丸は橋の欄干に立て掛けていた天体観測用の三脚を手に取り、鮮やかな動きで振り回して担ぐ。
「さぁ、廻せ!星々を、人員を、経済を!我ら天狗社会の市場経済が、幻想郷にさらなる発展と幸福をもたらす!世はまさに大資本主義時代!楽しみすぎて笑いが溢れるわね!今こそ夜空に瞬く一等星の如し、黄金の一大プロジェクトの始まりだ!」
青い装束をたなびかせて飯綱丸は両腕を大きく広げる。
これより始まるのは、幻想郷の多くの人々を元気づけるための一大プロジェクト。
誰もを幸せにする新しい温泉街。誰もの心を癒やす新しい温泉旅館。そして誰もの腹を満たす至高の握り飯。
幻想郷で最も綺麗な空が見えるこの山で、今無限の可能性を秘めた宇宙的な取り組みが行われようとしていた。
きっかけはほんの小さな事。
すべてが100%の善意で始まった事だった。
───────だが、それが事の発端となった。
挨拶が遅れました作者です。
アリス編が完全終了し、今回からいよいよ待望の第二幕、文編がスタートします。
アリス編の感想と共にここからの意気込みについて語っていきたいと思います。
あまりにも長すぎたアリス編書き終わって、まぁ。出来栄えとしては普通ですね。納得のものではないですが、別に特別残念な仕上がりでもないと言うか。キャラが多すぎたのはいいんですが役目がちょっとうまいこと回らなかったのは感じました。なんせあの回のキャラは姉妹とかが多いし、キャラが被っちゃう人物も多かったのでそこ差分つけたりするのでかなり書く難易度高かったです。プリズムリバーに至っては半分扱いきれてなかったですし。
文編ではそこを意識して全員が個別の役目を持てる様なストーリー構成になっているのでまだ改善されていると思います。
アリス編では「過去の自分があるから今の自分がある」という慧音が発した、本作を通してのテーマとなる名言を大きく反映したストーリーになっており、それぞれの思惑や正義感、立場や身の上が交差してどうしようもない悲劇的な戦いが行われていましたが、今回はそういう要素は特になく、普通に一本の物語として楽しめるようになっていると思います。
アリス編のテーマはズバリ「友情」「笑い」。
とにかくメンバーが仲良すぎたのとでなんか最終的に物語は楽しそうな感じに終わっています。
私が愛してやまないゲームであるペルソナで言うと4にあたるイメージです。というか、そのイメージが元になってます。
文編で気をつけるべきは所々に出てくる違和感。
テーマは「真実」。
アリス編のような激しすぎる戦いが無い反面、物語の重厚感は上がっています。温泉街で起こる事件を中心にした物語となっており、所々に仕掛けてある伏線が後々になってから回収されていきます。
一方で飯綱丸様の開いた温泉街をしっかり楽しむ明るいストーリーも用意されており、総じて笑いの数はわかりませんがトータルはアリス編よりも明るい雰囲気のシナリオになっています。
東方のアタリマエ第一条「作風の明と暗の2面は1回毎に変える」。暗い紅魔館の次は明るい妖々夢、暗い永夜抄。その法則は本作でもしっかり使われています。
今の時点でも謎がたくさん残っていますがその全ては本部の中。
妖怪の山に出来た温泉街を巡るミステリー事件、その真実を求めて奔走する青葉たちの姿は必見です、どうぞご期待ください。
それでは、どうぞ。