東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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アリス・イン・マイ・ハウス?

 

こうして、俺はアリスを連れて自宅に帰ってきた。

 

 

「ただいまー、うー………!つっかれたぁ…………」

 

 

帰るなり俺は居間に敷きっぱなしにしていた布団に飛び込んで横になった。

 

 

(どうしよう………なりゆきとはいえ、青葉の家に来ちゃった………)

「おじゃまします………」

 

「うーん。狭い部屋だけど、自分ちだと思ってゆっくりしていってね」

 

「部屋、きれいね。ちゃんと掃除してるんだ」

 

「ん?まぁ…………そうかな。普段暇すぎて家事をする時間がたっぷりあるからね………あぁそうだ、庭の鯉に餌あげないと」

 

 

俺は立ち上がって庭の鯉に餌をやりにいった。

 

 

 

 

 

 

「………んー………?なんか、おかしいわね……」

 

 

一方のアリスは先ほどから異変を感じ取っていた。

 

 

「急になんだか、服が窮屈になったような…………いたた………っ、服がギチギチで………張る………」

 

 

アリスの服は気がついたら彼女の体系にピタリと合わさり、いやむしろ彼女のサイズより小さくなっていた。

ピッチピチになってしまった服を脱ぐために、アリスは居間を出て左奥にあった部屋の中に入っていった。

 

 

「うぎぎ…………なんで、こんなに窮屈に…………服が、どんどん縮んでいってる…………なんでこんな急に………なんでなのよ………!!」

 

 

アリスは急いで着ている服を脱いだ。

あわよくば引きちぎれそうになっていた。

 

 

「なんでこんなに急に私の服が…………それになんだか、さっきより視点が高くなっているような…………?」

 

 

アリスは暗がりのなかで、すぐそこに立てかけてあった鉄板を鏡の代わりに見つめる。

 

 

「き─────きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

そして、とんでもない勢いで叫び声を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「はーいこれ輝(テル)ちゃんのぶんね。これは永(ナガ)ちゃんの。…………鈴(スズ)にはあげたっけ?まぁいいや、いちおう多めに入れとこう。池の掃除は………やりすぎないほうが良いか。前に水換えたばっかりだし」

 

 

鯉は雑食で、強い魚だから俺みたいなこんなおざなりなお世話でも健康に生きてくれるから育てやすい。

黄色のやつが姫様と月に似てるから輝。

赤白の斑模様に黒のぶちがあるのが、永琳さんの服みたいだから永。

そして、全身黒色なのがブレザーの色に似ているからウドンゲさん、鈴。

 

今では過ぎ去った椰子飼事件の一連の流れの始まる前夜、慧音さんはこの池に落ちたらしい。

だいぶ長い間水を抜いてなかったからそれはもう臭いが取れなかったようで。

それで思い出した俺は帰ってきてから大怪我の身体にムチ打ってなんとか水を入れ替えた。

 

 

「どうしたのみんな。あぁ………そうか。紅(ベニ)ちゃんが死んじゃったのが悲しいんだね」

 

 

この池にはもう一匹、紅という全身赤色の鯉も棲んでいたのだが、いくらか前に寿命を迎えて亡くなった。

この池の皆にも見えるように、池の真横にお墓を作って埋めたが…………

 

名前の由来はもちろん妹紅だが、彼女じゃあるまいし流石に魚がリザレクションというわけにはいかなかった。

 

 

「また、どこかで新しい子を拾ってきたら一緒に入れてあげるからね」

 

 

こうして見ていると、小さい頃の俺を思い出す。

これが母性というものなのだろうか。

俺は母親の記憶がないから、いわゆる母性や、そこから来る愛についてよく理解できていない。

 

こうして見ていると、つい鯉の生き方と今の自分とを重ねてしまう癖がある。

彼らのような自由な者でありたいと思うこともある。

 

寂しい日や感傷に浸りたい日は、酒を片手に彼らを眺め、自分のことを考える。

 

考えてもみれば…………今の今まで、俺に生きる意味なんてなかったから。

医者になるなんていう夢ももう辞めてしまったし、なんで医者になろうとしたのかその動機も忘れたし、永遠亭を出たから日課だった仕事もなくなってしまったし。

 

それが今では、慧音さんという新しい友達ができたから、寺子屋の手伝いをしながら子供たちと日々を送るのが今の俺の新しい日常だ。

これくらいのほんとうに平凡な、生が終わったときに何も振り返ることのないような人生も悪くないと思う。

 

けれど俺は今でも謎なのが、なぜ俺はワーハクタクの里を飛び出して、永遠亭に行ったのだろう。

 

俺は…………父さんの手伝いをしに里に降りたはずだったのに。

 

 

「まぁ…………いいか、そんなこと」

 

 

少なくともそれは今の神門青葉の人生には関わりのないことだ。

疑問を忘れ、今を生きる…………そっちのほうがはるかに楽で幸せなものだろう。

そうでなくとも、今の俺には友達がいて、居場所があるのだから。

 

 

 

「さて………アリスのために何か美味しいものでも作ろうかな─────」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「えっ!?」

 

 

 

家の中から、突如アリスの悲鳴が聞こえてきた。

 

 

「アリス!?どうしたの!?」

 

 

 

 

 

 

 

俺は大急ぎで家のなかに上がり、アリスの悲鳴がした方向に一直線に駆け込む。

アリスの悲鳴が聞こえてきたのは、2階に昇る畳み梯子の降りるところの少し奥。

居間を出てすぐ左折した廊下の突き当たりにある台所だ。

 

 

「アリス!大丈夫!?」

 

 

俺は大急ぎで戸を空けて部屋の中に飛び込む。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!?」

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!!!」

 

 

──────瞬間、俺は顔面に隕石でも叩きつけられたかの勢いで一直線のグーパンチストレートを受け、顔を陥没させながらぶっ飛んだ。

 

 

「な、なななななんでいるの!?み、見ないでぇっ!!!」

 

「見ッ゙……………なにも、っ、見えない゙……………」

 

 

顔面がクレーターのように陥没した俺は真の闇に堕とされた。

 

俺は脚を引きずって部屋を出て手探りで戸を掴むみ、ぱたんと閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───なんで俺が殴られなきゃいけないの?」

 

「ご、ごめんってば………私が悲鳴をあげたから心配になって来てくれただけなのよね………」

 

 

俺、前にも同じことがあった気がするんだけど本当に毎回俺が悪いのこれ?

 

居間のテーブルには俺が作った晩ご飯が二人分。

今日は忙しかったからちょっと手を抜いて、白米と、春巻と、まぁ適当な肉野菜炒めと、味噌汁。

食材の余りを消化しておきたいと思って。

 

 

「しかし…………それはそれとして、いきなり元の姿に戻るなんて不思議だ」

 

「えぇ………私も驚いたわ。いきなり服が窮屈にだと思ったら、そこから一分もたたずに元の姿に………」

 

「まぁ、でもいいんじゃないかな?アリスが元に戻ったんだし。これで一件落着ということにしよう」

 

 

アリスの服はここにはないし、着ていたものは入るわけがないので来客用に置いてあった青い浴衣を着せておいた。

 

 

「そう思いたいわね………だけど、なんか違和感がするわ」

 

「違和感?」

 

「えぇ。理由はわからないけれど、どう考えても一件落着とは感じないわ。なにより、私のグリモワールと人形たちがまだ戻ってきていないもの」

 

「えー。まだやるの?俺はけっこう疲れたよ今日だけで」

 

 

こんなのをあと4回やるのはいくらなんでもちょっと。

 

 

「ご、ごめんなさい………でも、貴方しか頼りがいないの!」

 

「俺より霊夢や魔理沙に頼んだほうが解決早そうだけどなぁ正直………なんなら魔理沙は友達なんでしょ?あれでお人好しだし、アリスのお願いくらい簡単に聞いてくれる気がするけどなぁ、」

 

「ま、魔理沙はここのところ家を開けてて………」

 

「それはダウト。俺は昨日、魔理沙の家に行ったからね。汚部屋の掃除の手伝いをやらされた」

 

「うぅ…………」

 

 

アリスが俺に嘘をつくなんて相当珍しい。

何かバレたらまずいことでもあるのだろうか。

どうにも、霊夢や魔理沙には任せられない案件らしい。

子どものようにゴネる姿を彼女たちに見せるのが恥ずかしいから、とか?

 

 

「だ………だって私………青葉との冒険が、楽しかったんだもん。また、2人で旅ができるって思った時、私………この事件は貴方と2人で解決したいって思ったの」

 

「アリス……………」

 

「青葉……………」

 

 

 

 

 

 

 

「─────別にあの調査、二人じゃないよ?なんなら俺、慧音さんに言われて梓ちゃん………今となっては真弓ちゃんか。彼女を助けに行っただけだからね………」

 

「こ…………こんのわからず屋ー!!!」

 

 

アリスは顔を真っ赤にして突然立ち上がると、ちゃぶ台をひっくり返す予備動作を構えてきた。

 

 

「ちょっ、ちょっと待って!!!こらっ!ひっくり返そうとするんじゃない………っと!!!」

 

 

ちゃぶ台の縁を持ち上げようとするアリスの両手を全力で握りしめて押さえる。

 

 

「あっ……………」

 

「ぅぎぎ……………ち、力強ッ………ぶハァッ!?」

 

 

俺が必死にアリスの手を抑え付けていると、アリスに腕を引き抜かれてパシィンと頬をぶっ叩かれた。

 

 

「ちょっと!離して!なに気安く女の子の身体に触れてるの!」

 

 

顔を真っ赤にしたアリスが涙目にしばいてきたんですが。

 

 

「い………今ので……怒られるの、俺…………」

 

 

いくらなんでも、理不尽すぎない………?

 

 

(やだ、どうしよう………成り行きとはいえ私、青葉と手繋いじゃった………!)

 

「アリスー?」

 

「ご、ごめんなさい………動揺しちゃって………」

 

 

アリスはおほん、と咳払いをして座りなおした。

 

 

「はぁ…………少なくとも…………あわよくば人の家の夕餉をひっくり返そうとする女の子とは居たくないよ誰だって…………」

 

 

俺は目頭を押さえて「やれやれ、」と唸る。

 

 

「─────でも、君のお願いなら喜んで。一緒にグリモワールを探して、はやくこのヘンテコな異変を終わらせようか」

 

「い、いいの?」

 

「いいのって、アリスがお願いしたんでしょ?俺はいいよ。またアリスと冒険に行けるのは、たしかに楽しそうだ。近頃は俺も暇しているし、この秋に2人で思い出づくりといこうか」

 

「わ…………わわわわ………青葉ってば、もうちょっと、い、言い方を、考えなさい……!!」

 

 

最近アリスの様子がおかしくて不安だ。

思えば、異変後に永遠亭にみんなで集まったとき、急に「好き」なんて言ってきたのでびっくりしたけど。

 

 

「それで、次のグリモワールはどこにあるんだい?」

 

「それが………なんだか不思議な事になっているのよね。夜になると昼に感じていたグリモワールの反応がなくなって………」

 

「子どもアリスにできたことは、お姉さんアリスだと感じにくいのかもしれないね………」

 

「い、言い方………恥ずかしくなってくるじゃない………ただ………一つだけ、昼には感じなかった反応があるわ。これは……無名の丘の、東?」

 

「無名の丘だって………?」

 

 

無名の丘………聞いたことはある。

鈴蘭の花が一面に咲いていると言われている場所だ。妖怪が棲み着いていて、人間には危険ならしい。

まぁ………有毒植物の花畑に飛び込んでもいいことはなさそうだからそれもそうだ。

鈴蘭の花そのものは綺麗だからいつか行きたいと思っていたんだ。

 

おもにメディスンが活動拠点にしているらしいが………そういえば、メディスンはあれからどうしているのだろう。

 

 

「どうしてグリモワールって私たちの仲間と関係のあるところに飛んでいくんだろう?」

 

「たしかに……偶然にしては、なんか出来すぎ?」

 

 

白のグリモワールは幽花さんのところにあって、今回のはメディスンだ。

綺麗に俺の仲間たちに縁のある場所にグリモワールが転がっている。なんで今回だけ夜専用で、他は昼専用なのか分からないけれど。

 

 

「それじゃあ、ご飯食べて少し休んだらさっそく行ってみよう。どっかに行ってしまう前に、アリスの身体が元に戻っているうちに回収してしまおう」

 

「えぇ。お願いするわ。ごめんなさい、さっきは取り乱してしまって」

 

「うん、かまわないよ。俺に力になれるようなことがあればまたいつでも相談してほしい」

 

「…………………青葉は、誰にだってそんなに優しいのね」

 

「………?そうかな、」

 

「自覚なし……ね……。いいのよ、そういう人が一番優しいのだから。【誰の特別でもなく】……誰にでも、分け隔てなく優しくできることが貴方の良さでもあるのだし………」

 

「アリス………」

 

 

その後の夕餉のことはあまりよく覚えていない。

いや、覚えるようなことがなかったのかもしれない。こう言ったあとに、二人の間に言葉はなかったのだから。

 

ただ、不思議と安心感があった。

俺にとっては、言葉がないのなら一人で夕飯を食べることと何も変わらないはずなのに、

 

その日の晩はやけに部屋が狭く、そして狭いからこそ余計に暖かくさえ感じた─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて…………次のお祭りは………っ、と……………

 

お祭り………一体どのような気分でしているの。

 

ふふっ、娘と母親を引き合わせたいっていう父親心くらい汲んでくれなよ、メイドさん、

 

はぁ………こんなところまで来て、また幻想郷に細工しようなんて。

 

いいんだよ、こんなことしたって誰も困りやしないさ。この程度の【誤差(バグ)】、世界の進行にはなんの影響もきたさないさ。世には見えない歴史なんてものがあるのさ。見えないほどにまで小さな歴史、それは世界の真理から遠ざかっているからこそ案件として歴史にほとんど刻まれない。

 

上白沢慧音の真似?そんな小難しい口調で。

 

端的に言うと【どうでもいい出来事】のことさ。ここで起きる出来事なんて、思い出には残るだろうがわざわざ記録しておくほどのことでもない。下駄箱の靴の左右を入れ替える程度のささやかなイタズラと思えばいいんだよ。

 

はぁ………これじゃあ彼に『お前の目的は何だ』って言われるのも時間の問題ね………

 

 

 

おっと………時間が来ちゃったようだね。

次回────『ポルターガイスト』。

まだまだお祭りは始まったばかり、いずれ訪れる結末に向かって、絡み合う【旧】と【新】の狭間を開いてあげよう、

 

言われなくとも、必ずこの悪神はこれ以上めんどくさいことする前に仕留めておくことにするわ……

 

 

 

 

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