東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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ウェルカム・トゥ・御湯殿(おんゆでん)いづな

 

 

 

─────「御湯殿(おんゆでん)いづな」。

 

天狗社会が外の世界の温泉街を参考に作った全く新しい温泉街であり、妖怪の山の地熱を活かした源泉から溢れるお湯による熱々で香ばしい匂いのする透明感ある湯が特徴。

この妖怪の山に住み着く神々の信仰と兼ねて、それらの秘湯には文武や豊穣に関するご利益が多いとされている。

少し前にできたばかりだが幻想郷じゅうから観光客が訪れてきており、今や妖怪の山を代表する観光地のうちの一つとなっている。

そして、これを開いたのが文たちの属する天狗族だった。

大天狗、天狗の長の命により造られたこの街には温かい湯気と人の声、そして和を感じる穏やかな建築からする木の匂いが立ち篭め、そこはそこは長閑な温泉街なのだ。

 

そして、その最奥に位置するこの旅館こそが、この街で最大の建造物、「いづな旅館」。

外の世界のホテルを参考にしたモダンな意匠が施された白やベージュといった上品な色がする建物だ。

この日、いづな旅館には青葉たちと同様、仕事を頼まれた者たちが集められており、一階のロビーには大勢の人間が集められていた。

 

 

「うわっ、こんなに人が集められてる」

 

「この全員が、例のトラブルへの対策ってか?」

 

「それにしては人数が多すぎるような………」

 

 

俺達3人はさっき文さんがどこかへ行ってしまう直前に彼女によってこのロビーに押し込まれたのだが、いかんせん人が多すぎる。

ワチャワチャしすぎていてとにかくもう騒がしい。

 

 

「これじゃあ温泉どころじゃないな………」

 

隣りにいるのに慧音さんの声が良く聞こえない。

 

「オオバ、あれ!」

 

「ん?」

 

妹紅が指さした方向を見る。

そこには、イベント事で設置される台の上にマイクが立てられ、そこに向かって誰かが歩いていた。

 

青のワンピースを着た紺の髪の、背が高い女。

上から黒いマントを羽織っており、何故か右肩に金色の肩当てをつけている。

頭の兜巾、彼女も天狗族か?

てゆーか…………なに、あの三脚!?

なんで三脚なんて持ち歩いてるの?先にカメラや望遠鏡があるならまだしも、何もついてないし。

 

「あいつが大天狗だ」

 

「え?あの人が………?」

 

その女性はマイクの前に立つと、脚を閉じた三脚で床をダン、ダンと大きな音で二回突いた。

その動作だけで、騒がしかったロビーは一気に静まり返った。

なんという指揮力だ。このあまりにも広いロビーを埋め尽くすこの人数をこの僅かな動作だけで黙らせたのだ。

 

「──────集まってくれた諸君に、いまいちど感謝するとともに、今回の件についての説明等を行わせてもらうわ。御湯殿いづな代表の、大天狗「飯綱丸(いいづなまる)(めぐむ)」よ。ではこれより、飯空Projectのオリエンテーションを行う!」

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 〜鴉天狗の大将〜

 

   飯綱丸 龍

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「飯綱丸龍…………」

 

たしかに一目でわかる、これは大物人物だ。

見た感じ偉い人って感じがする。この人が、文さんたちの上司ということになるのか。

 

 

「君たちはまだここで何が行わられるかは知らないな。うむ、心配は要らない。なぜなら私が一切説明しないように言っておいたからだ」

 

流石に仕事内容ぐらいは言っとくべきだと思うけどね俺は。

 

「知っての通り………いや、朝もあったように、が正しいか。この通り、現在の天狗社会は謎の飛来物の危機に脅かされている。そして、天狗たちの身の安全が保証できないことはこの妖怪の山の発展の停滞………それすなわち幻想郷全体の文化の衰退を起こし得る事態だ。よって、私は極秘に君たちのような腕っぷしの利く強者たちをここへ集めた。あまり情報が漏れると敵側にも警戒されてしまうからな。だからここに集める、という事だけを伝えさせた」

 

やっぱりなんか起きてたんだな、ここは。

 

「ちなみに、特典はちゃんと用意してあるぞ。それは、出来たばかりのこの御湯殿いづなを無料で楽しんでいける事だ!本来は高く付くが、他の種族である天狗のために、幻想郷の一員として他の種族も護るというその勇気と正義で戦ってくれる君たちの雄姿を讃え、少しでも快適な秋を過ごしてもらおうと計画したのがこの飯空Projectだ!…………名前の由来は特にない!星空みたいで語呂が良いから決まったことだ。…………ともかくだ、このまま放置していては本当に笑い事では済まされない事になる。私達には君たちの力が必要だ。どうだ、やってくれるか?」

 

 

スピーカーから響き渡る、大天狗飯綱丸龍の透き通った声がロビーじゅうに届く。

その圧巻の演説に息を呑んだのか、会場は静まり返る。

 

 

「同じ幻想郷の一員として、共にこの世界の文化を守ろう。私達が手を取り合えば、幻想郷はもっと素晴らしい世界になると思う!その礎になりたいという、勇気ある戦士はいるか───!!」

 

 

 

俺は「おーっ!!」と叫ぼうとしたが、誰も叫ばなかったのでやめた。

あれ?今のって叫ぶところじゃないの?

 

 

 

 

 

「────聞いてた話と違うぞー!!」

 

 

突然、ロビーの中央から男性の声がした。

 

 

「あの狐からは「旅館の水回りの整備」って聞かされたんだぞ俺は!」

 

その近くからまた一人。

 

「命に関わる危険な仕事、そう安々と受け入れられるかよ!」

 

ロビーの隅から。

 

「てゆーか、そういう仕事なんだったら事前に言っとけよ!」

 

「別に俺らじゃなくてもいいんだろ!なら俺等みたいな無力な人間より強い妖怪を頼ればいいじゃないか!」

 

「そうだそうだー!!!」

 

「俺たちの命をなんだと思ってるんだ!」

 

「戦争反対─────!!!」

 

 

 

「反対─────!!!」

「反対─────!!!」

「反対─────!!!」

「反対─────!!!」

「反対─────!!!」

 

 

ロビーじゅうからのブーイングの嵐。

周りを見渡せば、反対の声を上げていないのは俺と妹紅と慧音さんだけだった。

周りの人たちは老若男女問わず全員が腕を挙げて反対と叫んでいる。

 

 

 

 

「もう行こうぜ、こんな所にいられねぇ」

 

「何が無料の温泉だ、死んじゃあ意味ねぇだろっての」

 

「やれやれ、天狗の詐欺かよ………」

 

「つーか、タダ風呂の代わりに死ぬくらいだったら金払って温泉入るって話だ」

 

「おれたちはお前らの遊びに付き合ってやれないんだよ」

 

「どうせデマカセから生まれた話だろ?」

 

 

会場に集まっていた人々はぞろぞろと帰っていく。

入るのが困難だった俺たちは今度は出ていく人たちに押し潰されそうになる。

 

 

「ちょっ、ちょ、押さないで───!!!」

 

 

次々と押し寄せてくる人の波に押されて俺たちはロビーの真ん中最後尾から、隅の方まで押し出されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

─────こうして、1、2分程度待ったのか。

ロビーは空っぽになってしまった。

あ、本当はこんな素敵なロビーだったんだ。

いいカーペットだし、ランプも綺麗。

てゆーか広いんだなここ。

俺は呑気な思考のまま、意味不明な茶番の終わりの虚しさを紛らわすためにキョロキョロ見回して何かしらの「感想」を探す。

 

 

 

「誰〜れもいなくなっちまった…………」

 

妹紅が俯いて呆れたように目頭を押さえる。

 

「これでゼロ、だな」

 

慧音さんは直立したままこの状況を受け入れる。

たぶん整理に脳容量かけすぎて手足を動かす信号が脳から出ないのだろう。

 

 

 

 

 

「あ゙……………あ゙……………あ゙ァ゙……………」

 

 

そして、カリスマの欠片もなかった大天狗は口をあんぐり開け、顔を真っ青にして白目を剥きながら震えている。

あんな自信たっぷりのスピーチをしていたんだ。まさかこんな事になるとは夢にも思っていなかったに違いない。

 

 

「う………うそだ…………」

 

三脚を落っことすと、大天狗様(笑)は泡を吹いて膝から崩れてうつ伏せに倒れた。

 

 

─────カンカンカンカンカーン。

 

 

え──────えぇぇ………………(困惑)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐすっ…………うっ………ずずっ、」

 

 

──────めっちゃ泣いてる。

ひな壇の隅っこで体育座りしながら泣いてる。

 

 

 

「──────────」

 

「──────────」

 

「──────────」

 

気まずすぎて慧音さんは沈黙した状態でロビーの椅子に座りながらテキトーに辺りを見回す。

妹紅も座った状態で何もせずただ次に何をすべきか考えている。俺の指示を待っているのだろう。

 

俺はというと、持ってきたトランプをシャッフルして遊んでる。

昔っからトランプや花札のシャッフルが得意なもので、マジシャン並の動きで魅せるためのシャッフルを極めている。

音が気持ちいいんだよね、これ。

 

 

「────────────」

 

慰めに行ったほうがいいのかな…………

 

俺としてはこのまま帰りたくない。

俺たちはこの場に残った唯一の組だし、なにより俺はこのまま帰って刀を有料で払いたくない。

俺は温泉よりもあの模造刀をタダで貰うためにここへ来た。

試し切りにもなるし、この任務はぜんぜん引き受けれる。

なんだかんだでお人好しな二人もきっとそう思ってる。

 

「─────────っと、」

 

俺はトランプを片付けると二人に気付かれないようにすっ、と椅子から立つとひな壇の隅に向かってゆっくり歩く。

 

「ひっく、うっ………いっ、」

 

押し殺すような声で泣きじゃくる大天狗の情けなさすぎる姿にクスッとする笑いを噛み殺しながら俺は隣に座る。

この場合、なんと声をかけてやったらいいのか。

うーん…………

 

「───────────」

 

俺は黙って頭を優しく撫でてやるだけにした。

あんまり喋ってはいけなさそうな状況だったから………

 

「うっ………う…………?」

 

涙目でこっちを見てきた。

 

「────ど、どうも………」

 

目が合ったら挨拶するしかない。

 

「─────人間の里一番の商人…………」

 

 

───────────デデドン!?

 

 

「え?」

 

「ぐすっ…………お前は、帰らなくて良いのか?」

 

味方が出てきてホッとしたのか、泣き止むと今度は体勢を崩して脚を伸ばした状態で座り始めた。

 

「いや………その………俺らは普通に、その………引き受けたいなって、」

 

言いながら俺は鼻紙を差し出す。

 

「ズズ…………ほんと…………?」

 

鼻をかみながらきょとんとした顔で見てくる。

 

 

「あ、はい。だって………このままじゃ、危ないんでしょ?天狗社会が」

 

「そうだが………皆帰ってしまったのに………」

 

「大丈夫。俺はやりたいからやるんですよ。それに────」

 

俺には、泣いている人を見捨てるなんて勇気のある事はできない。

 

「このまま天狗のリーダーである貴女を泣かせたまま帰るのは、里一番の商人として顔が立ちませんから」

 

なんか、そういうことになってるらしいな!

俺は立ち上がると、頼もしげに胸をポン、と叩いて得意げに笑った。

 

「────お前というやつは………ほんとうに助かるわ………」

 

大天狗はすっと立ち上がるとそのまま俺に飛び込んでくると両腕でぎゅっ、と抱きついてきた。

 

「むごっ…………!!!」

 

やっ、ばい…………!!こ、こんな綺麗な方に………!

い、い、いい匂い………!あーだめだだめだ落ち着け神門青葉………俺にはトヨさんがいるんだ。

これくらいの、ちょっとナイスバディなだけの歳上風なお姉さんに抱きしめられた程度で、こんな取り乱しちゃあいけないぞ。

 

「おーいオオバ…………」

 

妹紅が気付いていたのかもう真横にいた。

 

「げ、妹紅…………」

 

「まーた女口説き落として………懲りないやつだな」

 

「ちょっ、ちがっ、口説いてはないよ!?」

 

「青葉…………見損なったぞ…………」

 

慧音さんもそんな安々と信じないで!?

 

 

 

「よし、もう機嫌は直ったぞ。私の完璧な演説によって天狗社会は3人もの有志を集めることに成功したんだ。あとで業務日誌に書いておこう」

 

報告物に嘘を書くのはよくない。

あとあの全体の人数のうちで俺ら3人はたぶん2%ぐらいにしかならないぞ割合。

そうでなくとも3人は少なすぎる。

 

 

「はははははは!ものすごく気分がいいわ!よし、それじゃあ早速、飯空Projectを始める!準備はいいわね!」

 

あまりにも大天狗様が元気なものなので必然俺たちも付き合ってあげてる感を出すしかなくなる。

 

「あぁ、任せときなって!」

 

「しょうがないな………少しでも力になれるよう尽力するとしよう」

 

「俺も頑張ります!」

 

 

 

こうして、飯空Projectはたった4人のみの有志たちから始まった。

 

 

 

 

「さて、それじゃあまず手始めに。天狗社会の平和と、幻想郷の文化の発展のために、お前たちの勇気を見せてもらおう!」

 

「──────勇気?」

 

「お、早速仕事か!張り切っていこうオオバ!」

 

「うん!」

 

 

 

「お前たちの実力と勇気を測るために、これより、弾幕勝負による審査を行う!!!」

 

 

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?

 

 

 

「────文、はたて、椛!!!」

 

 

 

「了解です、大天狗様!!」

 

ビューン、と入口から俺たち3人の真後ろに文さんが現れた。

 

「文さん!!なんで今ここに!?」

 

 

 

 

「当然よ、大天狗様のご命令だもの、」

 

 

ロビーの奥からまた一人、市松模様のスカートと茶髪のツインテールが特徴の紫色の鴉天狗が上品な足取りで歩いてきた。

派手な黄色だが、文さんと同じようにカメラを持っている。しかし、サイズが小さいし、しかもなぜか折りたたみ式!?アレはどういうカメラなんだ!?

 

 

「────「姫海棠(ひめかいどう)はたて」。文と同じ新聞記者よ」

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 〜今どきの念写記者〜

 

   姫海棠 はたて

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「─────な、どういう事………!?」

 

新聞記者が…………こんな所にこんな数!?

 

文さんが後ろに立ち塞がる中、姫海棠はたては俺達の左前方に立つ。

 

 

 

「承知しました、大天狗様。私たちが全力で相手いたしましょう」

 

 

そして正三角形状に俺たちを放置する最後の一点、右前方からやってきたのはなんと、新聞記者とはまったく程遠い見た目の女だった。

白服に、赤い楓が描かれた黒いスカート。

そして、白髪に…………ケモ耳!?しかも尻尾が生えてる!

それだけじゃない………手にしているのはカメラどころか………鉈と盾!!

この人だけは新聞記者じゃなくてただの警備員だ!

 

「白狼天狗、「犬走(いぬばしり)(もみじ)」です。これはご命令ですので、慧音さんと妹紅さん相手でも、全力で戦わせていただきます」

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 〜下っ端哨戒天狗〜

 

    犬走 椛

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

(っと…………3対3の弾幕勝負と来たか………)

 

(妹紅、3対2だよ。俺、弾幕撃てない)

 

(となると、青葉はスペルカードが来るまで待機だ)

 

俺たちは3手に分かれて、相手3人に向くようにして、背中を正三角形状に合わせる。

 

 

「てゆーか、これ………弾幕勝負して大丈夫なの?ロビー大変なことにならないかな」

 

はたてさんが心配そうな声を挙げる。

 

 

 

「ふっふっふ。大丈夫、そう言うと思ってだ!」

 

それを聞いた大天狗様が取り出した薄い鉄の板。

その上についていた赤色のボタンを押すと、轟音を立ててロビーの床が沈んでいった。

 

「このロビーは、弾幕勝負が可能になっている!」

 

 

いや、どういう設計だ─────!!!!!

 

 

 

 

 

 

ガタン、ともう一度大きな揺れがした後、天井が閉まり、横の壁が開かれる。

天井の明かりが付いた時、そこに見えたのはなんと、池の真ん中に作られた、目視半径50メートルの円を描く埋め立ての野原。

 

 

 

「さぁ、せいぜい美しい弾幕を見せるといい!」

 

 

 

大天狗様が黄色のボタンを押すと、バコーン、とロビーの床がひっくり返って俺たちはフィールドに突き落とされる。

 

 

 

「うぉぉぉわぁぁぁっ………っと!!」

 

「くっ、めちゃくちゃだなこの旅館!」

 

「良くも悪くも、幻想郷………だな!」

 

 

 

 

「こ、こんなのがあったなんて知りませんでしたよ………!」

 

「何このカッコいい機械仕掛けの旅館!忍者屋敷みたいでステキ………!」

 

「お二人とも感心している場合じゃありません!今から戦闘になります!」

 

 

そんな堅苦しく戦闘とか言わないでよ…………

 

 

 

「慧音さん、文さんを頼む、妹紅ははたてさんの相手してくれ!俺は椛さんを………!」

 

この中で一番物騒な見た目している彼女をなんとかすべきだろう。

それに、武器がわかりやすすぎて俺と相性が良さそうだ。

剣使いの相手なら、任せてくれってことよ!

 

 

 

 

 

「さぁ、飯空Project開催記念の弾幕勝負よ。盛り上げるのも忘れずに、そしていちばん大事なのは実力を測ることだ!全員、くれぐれも抜かり無いように!」

 

 

 

「行きますよ〜!!!」

 

「行くわよ、覚悟!!!」

 

「御免────参る!!!」

 

 

 

弾幕を放ちながら神速で突入してくる文さんと遠くからカメラを構えるはたてさん、そして鉈を振りかぶって突撃してくる椛さん。

 

「妹紅────!!!」

 

「よし来た、オオバ───!!!」

 

妹紅が背中に背負っていた細長い荷物を俺に投げつけてきた。

せっかくの旅行なのに、なぜか妹紅だけは手ぶらでやってきたから持たせていたんだ。鞄は上に置きっぱだが、こんなことのために常に持たせていた。

白い包帯で包まれたその細長い物体を両手で担いだ俺は、右手に持ち替えて左手で覆っている包帯を解く。

 

 

─────中から出てきたのは黒い鞘に収まった模造刀。トヨさんから貰ったあの紋章を鍔に通した、名刀『八意蓬珠』。

俺の新しい模造刀、ようやく使う時が来た。

 

 

 

「ハッ!!!」

 

飛びかかってくる白狼天狗。その鉈めちゃくちゃ真剣だけどガチで当たったらどうするつもりだったんだろうか。たぶん死んでる俺。

───包帯をほどいてからは目にも留まらぬ素早い動作で左手に掴んだ鞘から右手で勢い良く抜刀し、振り下ろされた鉈を難なく防いだ。

 

「ふっ!!」

「せっ!!」

 

ジャキン、と2本の刃が交差したあと、俺は力いっぱい刃を身体全体重で押し出して椛さんの特攻を弾き返した。

 

「はぁッ!!!」

 

「ふっ…………、」

 

 

 

「オオバ、怪我人なんだから無茶はするなよ?」

 

「そうだぞ、こんなところでまた怪我が悪化したら任務どころじゃなくなる」

 

それは御免だな。俺は何が何でもこの模造刀をタダで貰う!

 

「無理な相談だね………俺も久しぶりに楽しみなんだ。俺の新しい、人を救う剣が、どれほどの威力なのか、お試し斬りするわけだからね!」

 

 

 

というわけで、弾幕はないけど、弾幕勝負の始まりだ!!!

 

 

 

「「「いざ、尋常に────!!!!」」」

 

 

 

「「「勝負───────!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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