東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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おくり()

 

 

────────今から6年前。

 

 

 

(──────藤原さんは普段何をして過ごしているんだい?)

 

 

私は、彼にそう問いかけられた。

 

(別に。しがない焼き鳥屋だよ)

 

私には焼き鳥屋なんて肩書は存在しないのだが、訊かれた時はそう答えるようにしていた。

いつもの習慣でそいつにも同じことを言った。

 

 

 

 

 

 

 

───────彼との出会いは少しだけ前。

 

 

 

(てめぇ…………輝夜ぁ!!!)

 

(あらぁ?妹紅じゃなーい。ぷぷぷ………なぁに、その見た目ー?どうしちゃったのよ〜)

 

コイツは私の仇敵、蓬莱山輝夜。

まぁ………インネンについてはただの腐れ縁だ。

なんつーか。殺し合うほど嫌い合ってるが、結局お互いがいないと生きていけないと言うか。

定期的に私たちは弾幕をぶちかまし合って殺し合いをするのだが、昨晩の輝夜は率直に言ってキモかった。

まさか…………私との勝負の約束をすっぽかして、代わりに見たこともない(ある)刺客を差し出してきたのだった。

 

 

 

(姫様、捕まえてきましたよ〜。で?この子をどうしたらいいんですか?ちなみにこの子俺の知り合いなんですが)

 

亀甲縛りにされた私は輝夜の部屋の畳にポイッと投げ捨てられる。

私は自分を縛り付けた男と輝夜を交互に睨む。

 

(ぷぷぷ………ホントに哀れな姿ねぇ………www)

 

(おい、どういう事だ輝夜………!説明しろ!なんだ昨晩は来なかった!コイツはお前のなんなんだ!)

 

(オオバったらやりすぎよ………確かに「その女は竹林の安寧を脅かす悪い魔女だからコテンパンにして捕まえてきなさい」って指示したのは私だけど………まさかそんなにド派手にやる男の子とは思ってなかったわぁww)

 

輝夜は捩じ切れそうなお腹を抱えて大泣きしながら笑う。

 

(はい!永琳さんからは「敵を捕まえるときはとことん尊厳を踏み躙れ、特に女なら」と教わっていますので!)

 

(お前んちの教育方針どうなってんだよ!!!)

 

もしかしなくても道徳0点だろこの病院の奴ら。

昨夜の事を詳しく説明すると、いつも私より来るのに今夜に限って殺し合いの約束の時間になっても来ない輝夜を今か今かと待っていた私。

しかしそこにやってきたのは腰から刀を吊るした三度笠の侍だった。

その見覚えのある風貌と笠を見て私は即座にその男の正体を悟ったのだがあえて黙っておくことにした。

 

──────輝夜のヤツ、すっぽかしやがったな………これは罠、そして目の前にいるコイツはアイツからの刺客!

 

そう思った私はすぐさま戦闘態勢に移行したのだが………………

 

 

 

(そこ、貰った!!!)

 

(ぐわぁぁぁぁぁ!!!)

 

 

 

わずか3分で私はこの男に敗北した。

理由は蓬莱人でもない敵を殺すわけにはいかないわけで私が遠慮していたのと、竹林を燃やせないという2つの理由で全力を出せなかったのもあるが、それにしてもコイツが強すぎた。

 

激闘の末に服をメッチャメッチャに切り裂かれてほぼ全裸にされ、ついでに輝夜に持たされたと思われるロープで私を(何故か手慣れた動作で)亀甲縛りにするとこうやってここに持ってきたのだ。

女を女と思わないような扱いから一瞬輝夜じゃないガチのヤバイ男なのかと思ったら結局は輝夜のからかいだった。

不安は吹っ切れて大きな怒りに変換された。

つか、こんな張り付けたような笑顔で張り切ってこんな形で女を辱めるって…………コイツやばすぎる。

だが、不思議なのは男はなんも私に興味を示していないのだ。

ほぼ全裸にした女を縛って。無防備な状態のこんなモノが自分の目の前にあるのに、この男は常に平常心だ。他の男だったらどうなってたことやら。

なんか……………めちゃくちゃ腹立つ。

 

 

 

(その子はオオバと言ってね、私の可愛いペットなの)

 

やっぱりこいつが飼い主だった。

 

(オオバ、彼女は藤原妹紅。私の言ってたあの竹林ホームレスよ)

 

(おい待て家ぐらいあるからな私にも!?)

 

(確か君はこのあいだ患者さんと一緒に搬送された子だよね。姫様の知り合いだったんだ)

 

姫の知り合いだったんだ、はこっちの台詞だ。

いや………でもそうか、あの女医の助手だったんだものな………そりゃあそうなるか。

 

(腐れ縁だよ………つか敵だしな。ところで輝夜、なんで私を連れてこさせたんだよ)

 

(うーん。強いて言えば交友会、ってところかしら?)

 

(──────────────)

 

蓬莱人の最大の敵は退屈。

だから輝夜は時々理由のわからないことを催したりするのだが今回もそれの一環だったんだろうな。

 

(妹紅、最近刺激がなくて退屈してるでしょう?だから特別に私のオオバを貸してあげるわ。楽しいわよ〜)

 

人をモノ扱いか。

でも私には慧音がいるしそんなに退屈してないんだよな…………

でも、そんな貴重なモノをそんな顔で譲ってくれるってなるとその思いやりをむげにしたくもない。

 

(わかったよ、で?コイツどー養ったらいいんだよ。扶養の押しつけとかだったらブッ飛ばすからな)

 

(大丈夫。その子の生活力はとてつもないわよ〜。料理も洗濯も片付けもお手の物。永琳にだって負けはしないわ)

 

(………………………………………)

 

 

 

 

 

そして、私はこの男を家に押し込まれた。

夜竹林で迷った人間を泊めることもあったから、男を家に入れるのは問題ない。

しかし…………それは一晩だけの話だった。

だから、誰かと一緒に暮らすというのは、慣れないものだった。

 

男は女の家に通ってくる…………それが私の知るいわゆる男女の仲というものだが、同棲というのか…………こういうのは聞いたことがない。

女医がオオバと呼んでいた男の本名は神門青葉。

医者になるために10年ほど前に田舎から出てきた、と本人は言っていた。なぜ医者になりたいのかについては濁されて頑なに教えてくれなかった。

そんな男を竹林の奥に案内したことがあるのだろうか………まぁ、稀に………いや、ごく稀に?いやいや、ごくごく稀に。この竹林を迷わずに行けてしまう豪運の持ち主がいたりもするのだが、こいつもその一人だったのか。おめでたいことだ。

確かに…………竹林に10年も住んでいてあの日になるまで私のことを知らなかったという訳だ、そりゃあ確かに私とは面識がないのだろう。

子供の頃にちょっと道案内してくれただけの女の顔を覚えているかと言われたら………アレかもしれないが。

 

ちなみに、慧音と出会うまで心を閉ざしていた私は永遠亭に向かうようなことはなかった。

ただ眠って暮らし、満月の夜にだけいつもの場所で姫を待つ。

そんな生活をしていれば、たかが10年の刹那の間永遠亭に暮らしていただけの男のことなど知る由もない。

 

 

 

(─────へぇ、そんな事があったんだ。驚いた)

 

姫の関係者の中で私の身の上を知らないのは彼だけだった。だから、私は勇気を出して彼にも自分の過去を打ち明けた。

自分がかつては外の世界の人間であったこと、父親の仇を討つために人殺しをした事、その後に不老不死の蓬莱人となったこと、そして────そうして千年以上も生きてきたこと。

 

(そっか。それはよく頑張ったね)

 

(……………………………………)

 

彼は「辛かったろう」とか、「大変だったな」という事は言わなかった。彼にはもちろん、父親をコケにされることが恨みの種になる、という文化に生きていないし、千年以上も生きたことがない。

人を殺したこともない彼には、私の辛さは1ミリも理解できやしなかった。

でも、だからこそ彼は私に「頑張ったね」と言ってくれた。

私は、共感されるより、気を遣われるより、単純にそう言ってくれた事が嬉しかった。

 

───────本当は、彼にも私の辛さはわかってしまえただろうに。

アイツは愚かにも、自分の過去をそこで打ち明けるようなことはしなかった。

こういうのってさ、「自分もこういう事があったから君の辛さは分かるよ」と言うのがこういう系統の男のはずだ。

しかし彼はそれをしなかった。

それにどんな意味があったのか、私にはわからない。

 

「なんかリアクション薄くないか?もっと驚くと思ったんだけどな」

 

私は彼が声を濁らせながら叫ぶ様子が見てみたかったのだが、この話ではそうは至らなかったそう。

 

「いやいや、そりゃあ驚いたよ。まさか外の世界を知っていたなんてさ。それに、千年も長生きしていることにだって。あと死なないことにもね」

 

「おい………これ、結構壮絶な過去だと思うんだけど」

 

結構壮絶な過去を持っていると自負していたが、そこについては全くツッコミがなかった。

外の世界を知ってるとか、長生きしてるとか………そんなのは正直どうでもいい。

まさかこいつ、話の大事な部分聞いてないとかあるか?

 

「俺は、人の過去なんてどうでもいいからね」

 

「はぁ!?」

 

コイツ……………こっちが真剣に打ち明けてやってるのに最低の返しを堂々としやがった…………!!!

 

「分かった、お前嫌いだ。あんたとはこれまでだ、縁切らせてくれ」

 

「え゙ぇ!?なんで!?」

 

あ、めちゃくちゃ驚いた。

 

「人の過去をどうでもいいって言うようなやつ、お前なんかに相談して損したよ」

 

なんでって………本当にどうでもいいんだな、私のことなんて。

 

「だ………だって………藤原さんの過去を聞いたって何も減らないじゃないか」

 

「はぁ?」

 

「俺は他人の過去に興味はないよ。まぁ、知っておくだけなら構わないけどね。過去を聞いたって俺はその人の見方が変わったりしないし、俺はそれより未来を見たい」

 

「…………………………………………」

 

「あ。でも一つ言うならそうだな、君は凄い子だと思うよ。だって千年も生きているんだから!俺も知らないような事をたくさん知っているだろうし、外の世界の事も知っている。たしかに君の過去は変わったものだから俺は凄いと思った。けど、それ以外の感想はないよ」

 

 

 

 

 

「ぷ………プレゼント………?」

 

ある日私は彼に細長い木箱を差し出された。

人から貰い物を受け取ったことがない私は少し戸惑った。

 

「うん、藤原さんにはお世話になってるからね。姫様の事も、俺の事も、あと俺に笠をくれた件についてもね」

 

そういえば、こいつの笠は私があげたものだっけ。

そんな事をまだ覚えているなんて。

 

「─────────────」

 

私は箱を見つめる。

その中身…………あり得るとしたら…………

 

「……………………ゃ、」

 

それは…………受け取れない。

 

「……………………ごめん、それは受け取れない」

 

「───────────」

 

それは、【一生そばにいる】という意味のはずだ。

私の生きた時代にとって、贈り物とはそういう意味だった。だから、彼もそうなのではないのかと思ったんだ。

気持ちは嬉しい。彼といられたら、どんなに良かったのか。

だが…………彼は蓬莱人ではない。

永遠を生きる私は…………必ず最後になるまで死ねない。

私より必ず、彼が先に死ぬ。

たとえ千年、万年、億年と寿命があっても、永遠を生きる私より先に彼が死ぬ。

だから…………その気持ちは受け取れない。私は、自分と最後までいてくれる人がいい。もちろんあんな女は絶対に勘弁被るが。私がその気持ちを許してやれる相手は私の決まりでも、誰に決まりでもなく、ただなんとなく、同じ永遠を共に過ごせるような人でなければ嫌だった。

特別な人が自分より先に旅立たれるその辛さは嫌と言うほど知っている。

それを、そんな笑顔でいなくなられてほしくない。

愛したい、欲しい、いてほしい。

けれど、それ以上に…………私の前から居なくならないでほしい。

 

それを一言で無碍にした自分が許せない。

理由(ワケ)を伝えてやれずに彼の素直な気持ちを突き放したことに対する罪悪感に押しつぶされそうになりながら私は勇気を出して拒否の言葉を振り絞った。

 

「──────そっか、」

 

彼はそう言って箱を着物の中へ戻した。

なんで?という問いも、べつだん残念そうな様子もなく、ただ「駄目なものは駄目だ」と納得した。

あぁ──────なんで、こんなに素直で、純粋なバカに…………私は…………

こんな男に、失恋なんて似合わないものを背負わせてしまった。

 

「ごめん…………」

 

私はその一言しか言えなかった。

この時、なぜもう一度謝ったのかは未だに分からない。

 

「いいんだよ、藤原さんが謝ることはないから。受け取れない理由があるんでしょ?訊いたりなんてしないから、そんな申し訳無さそうにしないで」

 

それどころか、コイツは笑って誤魔化した。

彼はどんな気持ちでこの一言を言ったのだろう。

いや、この笑顔は心の底からのものにしか見えなかった。私の身勝手な理由から自分の熱心な想いが拒絶されたと気づかずに。

 

 

 

「────その代わり、いつか必ず受け取って欲しい。これは、君にしか渡せないものなんだ。俺が死んだその後何年経ってもいい。君が俺の事を忘れたその後でもいい。ただふとした時に、これを見てほしいんだ。これは藤原さんにしか似合わないものだから」

 

 

 

「……………うん。約束する」

 

 

 

もっとも、彼のことを忘れることは絶対にないのだろう。

 

 

 

「あ─────」

 

そうだ。それを受け取れなくてもいい方法がある。

こうすれば、きっと………………

 

 

 

「な……………名前。妹紅って呼んでくれ。私もあんたのこと、オオバって呼ぶから」

 

 

それが、想いを許せない自分に向けた、小さな反発の意志。

これでいい。初めからこれでよかったのだ。

 

 

 

「そう。じゃあこれからもよろしく、妹紅」

 

素直に私の名前を呼んで彼は笑った。

 

「あぁ。よろしくな…………オオバ…………」

 

震える声だが、それでも私は笑っていた。

久しぶりに、幸せだと思った。

蓬莱人となって初めて、生きていて良かったと思った。

 

 

 

 

 

生まれて初めて、贈り物を貰ったから。

 

 

 

 

 

 

 

いつか、お前と心の底から繋がれた時に、それは友達として受け取ってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日あの時を境に、同じ箱を彼の手から渡されることは二度となかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が初めてこの箱の中身を見たその日には、

既に神門青葉は死んでいたのだから。

 

 

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