東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
「妹紅……………」
「慧音……………」
私と妹紅は顔を見合わせて同じことを思っているのを目線で感じ取りあった。
妹紅も気づいているのだろう。
「これ、罠だ」
「これ、罠だ」
間違いない。
先ほどから話を色々と聞いたが。やはりこれ、ただの戦闘員ではないか………!!!
青葉はともかく、私まで…………!
「ん?2人ともどうしたの?」
「あぁ青葉………これ………たぶ………ん!?」
私と妹紅は入ってきた青葉の姿を見て絶句。
「…………?どうしたの?」
青葉は腰にタオルだけ巻いた状態で、上裸で部屋に入ってきていた。
さっき青葉はここの露天風呂に行ってくるとか言っていたが。
「ばばばばばばばバカやろう!!女の前に出るんなら服着ろ!!」
「え?いやいや、そんな気にならないでしょう。最悪下は覆ってるんだから」
「そういう問題じゃねぇ!上もちゃんと着ろ!」
「まだ髪が乾いてないから服が濡れちゃうよ。櫛とかもぜんぶこの部屋に置いてきちゃったし」
青葉はなんでもない涼しい顔をして事情を説明してくる。あたかも私らのほうがおかしな事を言っているかのようじゃないか。
いやいやいやいやいやいや。下覆えば良いって、そういうコトではない。
え?これ素で言ってるのか?
いや、たしかに下はタオル巻いているが。
半裸で異性の前に出ることほんとに何も気にしていないのか?
というか、それよりも髪下ろした青葉美少年すぎないか!?一瞬誰か分からなかったぞ?
あのアリス・マーガトロイドがあぁなるのも納得だ(アリスとの冒険を参照)。
「…………それよりさ、これからどうするの?」
「どうするって、何がだよ」
「俺はてっきりただ温泉開発のサポートかと思っていたら、まさかの戦争兵士として雇われることになるとは思ってなくてさ。嫌だったら、2人には先に帰ってもらったほうがいいなと思ったんだ」
青葉は今日のお天気みたいなトーンで訊いてきた。ちょうど今その話をしていたところだったのだがこれは偶然か。
「………………………」
「………………………」
妹紅と私は顔を見合わせた。
「オオバ、お前はどうするんだ?」
「質問してるのはこっちなんだけどなぁ。…………俺は残るよ。この刀貰うのと引き換えに大天狗様の手伝いをする。そういう契約だ」
青葉は何でもないように言う。
いつも唯々諾々としている男だが、今回に関してはその意志を曲げてくれそうには見えない。正直者すぎて騙されやすいし利用されやすいし単純だが、約束だけは必ず守る男だ。途中でやっぱ無しと違約するような行為は絶対に許さないだろう。
私と妹紅2人がかりで引っ張っても嫌だと言うに違いない。
「わかったよ。なら、私も残る。慧音はどうする?」
「もとより。友人を置いて早退できるものか」
「そうだそうだ。一時とはいえせっかく付き合う気になってやったんだ。もっと私らを頼りなよ」
「慧音さん………妹紅………」
「………それに。ここの温泉どうやらめちゃくちゃ気持ちいいらしいぞ?恋愛成就、金運上昇、無病息災………色々ご利益もあるってさ。なんせあの守矢の神の管轄する山だ。とんでもない効果ばかりに違いないよ。オオバの手伝い云々関係なくとも私はここに残る」
妹紅は冗談っぽくそう言うが本当は青葉のことが心配なのだろう。
「加えて、お前は怪我をしているのだろう。文たちがいるとはいえ彼女らだけに任せておいてはトラブル必定だ。私と妹紅がお前の面倒を見るしかないんだ」
「な?だからお前が巻き込んだ時点で、私らも帰れないんだよ」
妹紅は笑いながら言った。
「……………ありがとう、2人とも」
青葉は心の底から嬉しそうに微笑んだ。
「なんだよ水くさいな。私ら友達だろ?な、慧音」
「うん、そうだな」
「ご歓談の所悪い!」
「緊急の用事だわさ!」
「安曇、一千子さん!」
隣の部屋の二人組がこの部屋を訪れていた。
「な、何の用なんだ?」
二人は深刻そうな顔をしている。
まさか…………いきなりトラブルだと…………!?
「────────歓迎パーティーさ」
二人は張り詰めた顔を崩して笑いながら誘ってきた。
「なんだ………びっくりしたぁ………」
「もっとマシな誘い方しろよなぁ」
「まったくだ…………」
「おや、来ないのかい?今ごろネムノのやつがせっせと至極の御卓を拡げてくれているだろうに」
ついでに駒草太夫まで現れた。
「姐さんまで。これは行くしかないよ」
青葉は嬉しそうに立ち上がる。
「美味いもんが食えたらなんでもいいやー」
妹紅も飛び起きる。
「慧音も行こうぜー」
「わ、わかった。今行く」
《いづな旅館 廊下》
「へぇ………まさか虹龍洞の採掘ボンのところから出た玉鋼に唐傘の妖怪の錬鉄、そしてお前の鍛造製法が合わさって出来た一刀か………いいじゃあないか」
「しかし、試しにさっき文さんとの試合で振り回してみたけどホントに良い刀だよ」
「あらゆる意味でとっておきの一刀だからな。使い込んでいれば、そのうち真価が出るさ」
太夫と青葉と一千子はずっと刀の話をしていた後ろで私たちは安曇と話をしていたが妹紅がなかなか攻めた質問をしてきた。
「─────オオバと安曇は昔から友達だったんだろ?ちっちゃい頃ののオオバはどんなヤツだったんだよ?昔からあんな感じなのか?」
確かに、それは私も気になる。
『お人好し』の四文字に手足が生えたような存在である青葉のことだ。
どうせ故郷でも人々から好かれていたさぞ可愛げのある子供だったのだろう。
「とんでもない。俺と親友だったぐらいだ、そりゃあもう大層な不良さんだ」
「まずお前が不良なのか………?」
「俺は不良だろー。あいつほど頭は回らんし、挙げ句、商売なんてしちまえば士族の商法だ」
士族の商法とは、商売のノウハウがない者が下手に商売を初めて大失敗するという意味のことわざだ。
「不良つっても、お前らの言う不良なんてせいぜい夜中になっても帰らないぐらいだろー?」
「しでかした悪事思い出せってか?………そうだなぁ、そりゃひったくりや殺しなんかはやったことないが、喧嘩や悪戯は日常茶飯事だろうなぁ。今でこそ大親友だが、実は昔の俺たちはワーハクタクの里の中では一番危ない組み合わせだったんだよ」
「そうなのか?そりゃあどうして」
理由は単純、あまりにも仲が悪かったからだよ。里のお偉いさんたちから接近禁止命令くらったぐらいの「混ぜるな危険」だ。元々俺らは同い年だし近所住まいだから交流自体は多かったんだよ。
けれど、俺はそうしているうちにオオバのとりあえずだいたいの事はできる、ってところに嫉妬してた。
逆にオオバのほうは、俺にとっての陶芸みたいに自分が一番になれる要素があった俺に妬いていた。
で、そしてるうちにお互いの不満が募って募って、最終的にちょっとしたことでそれを爆発させてきた。当時は喧嘩に関しては俺のほうが圧倒的に強かったからいつも最後は俺が勝ってたけどな。
まぁでも、力で勝とうが、知能に関してはまるで頭が上がらなかったけどな。
で、28回目ぐらいの殴り合いの時、俺が
「ちょっと待てお前ら28回殴り合ってるの」
「どんだけ仲悪いんだ」
俺が勢い任せにオオバの腕をキメちまった時にもう里じゅうから大バッシング食らってさ。
里じゅうの大人からキレられ………というより、何かしらの重てぇ罰則でもなんでも食らう………果ては親父から勘当されるかとも思ったが、そんな時だよ。
(違うんだ!悪いのは化野くんだけじゃないんだよ!)
そこで、ばかみたいな奴が現れた。
(ボクも、悪かったんだ…………!だから、化野くんを怒るんだったら、ボクと半分半分にしてよ!)
オオバが弱いってのもあったが、あいつこんな大怪我をさせたことはなかった。だから、初めて骨砕いたりなんかした俺が全面的に悪いってのに、オオバの野郎「悪いのは自分もだ」って庇ってくれたんだよ。
ちなみに俺らはあのあと俺一人で100怒られるはずがオオバの提案むなしく100は2人ぶんになって合計200叱られた。
さんざんに叱りきって、もう限界を迎えた大人たちは俺ら二人を見捨てて先に帰った。あとは二人で話し合えとか言われたよ。今後一切関わるなとさ。
オオバの家の引っ越し手続きを始めるとか里の長に言いかけるほどの沙汰になった。
俺ら二人は残されたあと、しばらく黙っていた。
怒られたばっかりだし、さっきまでずっと嫌い合ってきたし。二人にされたら言うことがなくなった。
そんな時に俺は一つだけずっと言いたかったことを口にした。
(なぁ、)
(………………………………)
(…………どうして、俺を庇ったんだ、)
(………………………………)
オオバは俺の顔も見ずに黙っていたままだった。
(………………………)
(………………………)
沈黙が流れた。
(………………悪い、俺とは話したくないよな)
(………………普通だったから)
今思えば、これが今のあいつの原点なのかもな。
(……………そうするのが正しいと思ってそうしたんだ)
(……………自分も怒られてまでか?あそこで黙っていりゃ、お前は怒られずに済んだし里の大人たちにも見限られずに済んだのに)
(…………そうだね)
(お前はアホなやつだな。損しちまったじゃん)
(大事なのは損得じゃないよ。そんなものに関係なく、正しいことをするのが一番良い)
(……………は?)
俺は言ってる意味わからなかったよ。始めは。
あいつは自分が怒られるとわかっていて、大人たちを誤魔化しきれる事がわかっていて本当のことをわざわざ言ったんだ。言わなければ良かったのに。
試験で採点ミスで得点が上がっていて満点だった時………気づかない採点者にそれをわざわざ申し出てまで減点させて本来の点数を付け直させるように。
黙っていりゃあ満点だったのに。あいつはそれを自ら放り捨てた。
その次にやつが言ったことは、俺の中では大きく記憶に残っている。
(他人は欺けても、自分だけは騙せない。ボクは自分にも非があることを知っていながら、それを隠して、君だけがワルモノにされているのを見ようとすることが、最低で悪辣で卑怯でものすごくイライラしたんだ。だからボクは本当のことを言った)
こいつは本気でバカで正直で純粋なんだなって思った。
こいつはきっと大人に向いていない。大人になってからの社会の理不尽すべてにイチイチ疑問を抱えていちゃあ、小さな考え事で貴重な1日使い切る。
あまりにも無垢すぎて闇がない。闇を知らない。
無知で無垢で無邪気。永遠に子供だ。
でも…………だからこいつはあんな奴になれたんだと思う。
事実、あいつほどのよく出来た野郎は他に知らない。
単純に人ができすぎている、あいつは。
(…………ごめんな、)
(…………ボクもごめんね、これからは仲良くしようよ)
(あぁ、よろしくな…………)
その後、仲直りしてからは気が意外と合うものでな。理系脳のオオバと文系脳の俺とじゃ話はまるで合わないが、なぜか不良同士、気だけは合う。
色々やらかしたヤンチャもあった。
一回、火遊びしてたら民家に燃え移って民家が焼けそうになった。
この時は過去イチ怒られた。
だが俺らはどんだけキレられても、だいたい怒られるときは一緒だから味方いるし心強かった。
逆に言うとそのせいで懲りずに悪戯や危険な遊びやりまくって何度も怒られたが。
ある程度善悪の判断付く頃には、もう俺らは別れちまった。オオバが里を出て、自分の親父を追って山を降りちまったからだ。
「─────それで、20年近くも経った今、ようやく再会できたってわけだ」
「オオバ………意外な一面あるんだなぁ」
「不良からあぁなるか………お前はどうやら、それはそれで青葉の成長に貢献していたようだな」
「そうか?ありがとな」
化野安曇…………青葉ほどの狂った善人とは違うが、どこかしら彼の要素を思わせるところが感じられるな。
「そのオオバのマル秘エピソード言うか?」
「なんじゃあそりゃ」
「あれはオオバが永遠亭っつー病院みたいなところで医療の修行してた時だ。鈴仙ちゃん………修行先にいた友達から聞いたんだけどさ。オオバ16歳になっても子供は母の腹のなかで勝手に作られるもんだと思ってたらしくてさ、師匠にイチから説明させたらしいぞ。凄い困ってたってさ」
「ブッほ……………!」
「ヴッふ……………!」
やばすぎだろ、その話。
「んがっ………な、なぜそれを…………」
マジなのかしかも。
───人間の思春期男子に生殖の説明をする女医の構図なんて間違っても絵に起こしたくないな。
そして、いづな旅館の食堂にて。
「というわけで、良くぞ来てくれた同志の諸君よ!飯綱丸龍、射命丸文、姫海棠はたて、犬走椛、上白沢慧音、人間の里一番の商人、駒草太夫、坂田ネムノ…………あと誰かいたっけ。まぁいいや!とりあえずこの………えーと、いち………に…………さん………まぁ、たくさん!たくさんの仲間たちの力で、えー。うんと、ガンバロウの乾杯をするぞ!」
「オオバだけウソ丸出しの肩書じゃねーか。しかも私の名前ないしよ」
スピーチがやはりグダグダすぎる。
しかし机の上に並んだ料理は実に立派だった。
すき焼きか。牛肉の肉汁が輝いて仕方ない。
ぐつぐつと音を立てて弾ける熱湯の音が乙だ。
そういえばさっきからずっと思っていたのだが誰かが雑用をずっとやっている。
大天狗の最初の大問題演説の時もマイクの設置とかやっていたあの狐みたいな女が今度は全員に酒の入ったグラスを持ってきていた。
その女は私たちのところまでやってきた。
青葉はそのグラスを受け取る。
「ありがとう。えーっと、君は………」
「私ですか?私は
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
〜耳元で囁く邪悪な白狐〜
菅牧 典
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「立派な尻尾だね〜。触っちゃだめ?」
「ふふっ、良いですよ〜。おさわりは一分単価でお高く付きますが………」
胡散臭さでいったらかなりの数値叩き出してるこの狐。
どこの誰とは言わないが…………八◯紫、的なオーラが溢れる。
「そこの典は私の忠実なる部下よ。毎回必ずトラブルを巻き起こすが、そっちのほうが良いんだよ。市場の流れはカスタマーの需要こそが中心。そいつの起こすトラブル事というのは世の中の動向を丸ごと変革するクラスになることもある。そうなれば当然ながら需要も変わる。だから、そこを突ける新しいビジネスが始められるというわけなんだよ。それに、典のゆく先々に起きた需要に対応できるようなビジネスに投資してゆけば、それはもうガッポガポなわけ!」
つまりこの女が世の中を惑わすと、大天狗には金銭的な利益が生まれるわけだ。
なぜか必ずトラブルがついて回るという注意書きが不可解だが。
「ところで大天狗様、」
「どうしたんだい、文?」
「私たち明日から捜査を開始するそうですが、具体的にどこをみれば良いんですかね?」
いい質問だ。
鞍馬天狗…………鴉天狗とは別の天狗族の存在についての捜査が主になるのだろうが彼らの集落の位置も知らない。
情報が足りないぶん、大天狗から情報をもらうしかない。
「ははっ!そんなの、山をしらみ潰しに探し回るに決まってるじゃないか!おかしいところがあるなら、絶対に分かりやすい目印があるはずだ!めちゃくちゃ禍々しいオーラがでているところを探すんだ!それだけだ!」
よくこの女はそんな笑顔で鬼のような事を言えるものだ。
「あー、こらだめなやつだべ」
「あぁ。こいつは軽く四半世紀は帰れないパターンのようだねぇ」
すかさずネムノと太夫が目頭押さえて呆れる。
「大天狗、鞍馬天狗って知ってるか?」
もうしびれを切らした妹紅がストレートに尋ねた。
「鞍馬天狗?あぁ、
ここで新人物登場。
重要参考人の名前をめちゃくちゃ自然に言う大天狗。
「ひゃっきまる…………?」
「鞍馬天狗の大将、その人のことさ。私が鴉天狗の大将であるようにね。私とはまた別の、鞍馬天狗で言うところの大天狗だ」
「大天狗は、一人じゃない………?」
初耳かのように目を丸くしている青葉を見ていたはたてが口を開いた。
「そういうコト。椛、分かりやすく説明して」
「はい。…………大天狗というのは、天狗社会の頂点、天魔様の一つ下の階級に位置する上位の天狗。天魔様を社長に例えるなら、大天狗は中間管理職、部長のことです」
「なるほどさ。つまるとかぁ、大天狗が2も3もいるってのは普通のことって事だわさ」
「まぁ、そこのが天狗のトップだと流石に天狗族の未来が心配だったから俺はホッとしたがな」
「あっはっはっは!…………ちょっと外の空気吸ってきていいか?」
絶対このあと泣く。
「こらー!化野さん、大天狗様をいじめないでくださーい!言わぬが花って言葉をご存知ないんですか!」
「否定はしないのね」
「やれやれ…………」
椛殿、貴女様のブレーキ無くなったらどうしろというのです。
「大天狗様、そんなズビズビ泣いてないで教えてください。鞍馬天狗の大将とは、どんな存在なんですか」
「青葉お前も結構鋭いぞ」
確かに毎度この調子では話がまるで進まないが。
「グスッ…………ふっ。はははは!なら、教えてやろう、彼女のことをな!この大天狗、鴉天狗の大将飯綱丸龍に任せるがいい!」
その自信はどこから出てくる。
切り替えの早さは一級品だな。
「先に説明しておくと鞍馬天狗というのは優れた天狗の種族だ。もともと鞍馬天狗はただ一人のとある大天狗の名をこそ指し示していたが、今では似たような天狗が誕生して種族名となったがな。我々鴉天狗は妖怪的な部分が濃い天狗ね。一方で鞍馬天狗たちは天狗の中でもさらに格式高いもので、天魔様に最も近い偉大な天狗族よ。例えるのなら………一般の妖怪よりは、鬼や神に近いと言えるわ」
「鬼………神…………どっちとも幻想郷じゃ最強の種族さ。それと同等たぁまるで御山の権現さね」
「まさしくその通りだ。鞍馬天狗の長、その名は「
「クロウ…………」
「鞍馬天狗は誰もが武芸に長けている。鞍馬天狗の
「フン、「彼女」つったな?じゃあ要は可愛いお嬢さんの集まりだ。俺とオオバがいるんなら楽勝さ。これでも俺ら喧嘩では負け知らずだぜ?」
安曇は自身ありげに青葉と肩を組む。
「勝手に俺を入れないで…………」
おだやかで基本的に争い嫌いな青葉は迷惑そうな顔をする。
「まったく…………幻想郷で幅を利かす程度の戦力では足元にも及ばないわよ」
はたてがあまりにも理解力に欠けている安曇をたしなめる。
私も鬼に匹敵する妖怪という恐ろしさはちゃんと理解している。
「なんだって?」
「坊や。この幻想郷において鬼とはどれほどの強さの種族なのかわかっているのかい?」
「あんた、田舎から降りたことがないべか?」
「ヴッ……………!」
「化野、事実さ。田舎モノ呼びは甘んじて受け入れてやるのさ」
「鬼…………とりわけ星熊、伊吹、茨木の三童子は月面戦争にも参加した特に強大な力を持った鬼たちだ。つまるところ、百鬼丸は本気を出せばわずかの間だけ月の民とすら渡り合えるのよ」
「月面戦争……………!!」
青葉がさっきからすごい勢いで肉とこんにゃくを食べていく箸を止め、息を呑んだ。
「オオバにならわかるよな。月の民とやりあえるってことの意味を」
青葉は青ざめた顔で頷いた。
依ねぇやトヨさんから聞いたことがある。
月面戦争…………数千年前に、当時の幻想郷で最強の妖怪や賢者たちが寄せ集まって一斉に月の世界に攻め込んだらしいんだ。
ある妖怪の賢者が境界を操って月に侵入するためのルートを創り、そこから侵入して月の都にあった高度な文明技術を盗み出そうと画策した……………しかし、結果は完膚なきまでの惨敗。月の都にあった、それこそ妖怪の賢者たちが狙っていた技術兵器と…………妖怪たちとはまるでスケールが違うほどの強大な力を持った月の民に真っ向から敗れ去り、多大な犠牲と損失とダメージを受けて妖怪たちは侵略の意志を種族単位で失った…………
「えぇ。おおかた彼の説明で合っているわね。月面戦争は当時で最強とされた妖怪や神々との戦い。まして今に弱体化した妖怪族と月がやり合うなんて不可能も不可能。第二次月面戦争というのもあったらしいけど、あんなのはとんだ茶番劇だわ。最初の戦争は本物の戦争だったんだから」
「本気で月の民と侵略戦争をしようとした妖怪。その中に鞍馬天狗が混じっていたりでもしたら、俺たちはかつて月面戦争に参加したやつと対峙するんだよ」
「追加で情報を付け足しますが、鞍馬天狗はここ数百年でさらに力をつけたんですって」
文がそんな事を。
「きっと、外の世界からの伝承か何かと合わさったのでしょうね。そんな情報あんたしか持ってないなんて恨めしいわ」
「つまり、月面戦争に参加した時点よりも、彼らは力をつけていると………?平和を維持し続けるうちに幻想郷の妖怪たちからは闘争という機能が弱体化しつつある中でですか………?」
「そういうコト。どれだけヤバいかこれでわかってくれたかしら?もともとそこまで力のない私たちがナーフを受けているのにそれを差し置いて最強だった者たちが余計に上方修正を受けている。戦争して勝ち目はゼロね」
確かに、改めて考えてみればこれはとんでもない相手だ。
もちろん月の民の恐るべき能力については聞いている。幻想郷が誇る、何千年と生きてきた最強の賢者たちを軽くあしらうほどの能力を持つ者たちと「戦いができる」妖怪。
私たちでは到底勝算はないだろう。
「でも、まだ敵と決まったわけじゃないよ。安曇みたいになんにも知らないやつだっているぐらいだからそんなに恐ろしい人たちじゃないと思うよ。きっと、仲良くできるに違いないし、むしろ味方だったら心強いじゃないか。すぐに恐ろしい妖怪だって決めつけるのはよくない」
「そもそも、なぜ急に鞍馬天狗の話が?何かあったのか?」
「最近この山に武装した妖怪が増えてきたんだわさ。武装までして戦う大勢いる種族つってぇ、もう天狗しか思いつかないんだわさ」
「あややっ!?それ、私も今朝見ましたよ!武器を持って歩き回っている見慣れぬ集団を!」
「私も見た気がするわ、そんなのを」
「じっ、実は私も警備中に………それらしきものを、」
「ふむ……………」
「一度、鞍馬天狗の集落を訪ねてみようか。何かを知っているかもしれない。行動班を分けよう。敵と見なされて攻撃をされるという万一の可能性に備えて、強い者を鞍馬天狗を訪ねるチームに。もう一班にはまた別で見てもらいたい場所がある」
「見てもらいたい場所?」
「あぁ。……………河童の様子を見てきてもらいたいんだ」
河童……………
「なんやかんやで河童も天狗に負けじとこの山では大きく発達した種族だ。情報量があるだろうし武装集団に何か関与している可能性もある。ただしそっちは危険度は低い上にかなり友好的な種族だ。戦力を割く必要はない。とりあえず化野安曇と他多くても2、3人割くとしよう」
「ちょっと待て!?俺が弱い方!?」
「だってお前は私を泣かせたもん!大事な任務任せたくなーい!」
「めちゃくちゃワガママだよこの人!?」
「いえ。男手一班に一人っていうのは合理的な判断だと思うわ」
はたては携帯電話をいじりながら言う。
安曇には気の毒だがその通りりだ。
「あぁ。河童のほうも武装集団とやらに困らされている立場かもしれないからねぇ。最悪のケースというのは河童の方でも起こりうる。安曇を置いておくのには私も賛成だ。彼が嫌なのなら、私も同行しておこう」
太夫も考え方は同じのようだ。
「賛成だべ。うちも安曇と山如とで河童の様子見に行くべ。差し入れにキュウリの漬物なんかも持っていこうか」
ネムノにも異議はない。
「私も同意見です。さすがは大天狗様、上手く人員の配分をしてくださいます。河童にはにとり………顔見知りがいるので同行いたします」
椛の言う通り、スピーチとかグダグダだが、なぜか判断だけは賢明。これでも天狗の長か。
「よし、じゃあ私とオオバは鞍馬天狗の方に行こう。慧音も一緒にな!」
「わ、私か!?戦闘員には不向きだが………」
「すまさ、先生。だが河童のほうは4人もいりゃあ十分さ。残りはこちらに少しでも多く回しておきたいのさ。それに、人間の里で信頼されている先生を連れてくりゃあ、きっと話も通りやすくなるさね。私も行かせてくれさ」
「もちろんだよ一千子。はたて、お前は河童の方を頼む。特に情報収集ではお前が一番顔が広い」
「はいはーい。了解」
「文、お前は人里一番の商人側で頼む」
「了解しました!お任せください!」
「ところで人里一番の商人お前なまえ何ていうの?」
「「「ズコーッ!!!」」」
こんなベタ褒めな肩書でよんでおいて本名知らなかったのか。
「俺、神門青葉っていいます」
「──────あれっ、そんな名前だっけ?」
おやおやおやおや?なにやら話がこんがらがってきたぞ。
「人里一番の商人が来るって典が言ってたんだが。なぁなぁ文、はたて、知ってるか?」
「いいえ!まったくです!」
「初めて見たときは誰こいつって思ったぐらいよ」
「───────────────」
どうやら食い違いが在ったらしい。
この手違いが起きたとしか思えない意味不明の状況にようやく説明がつきそうだ。
「お前、誰だ?」
「えーっと、飯綱丸様………たいへん申し上げにくいのですが………」
典が耳打ちする。
最初は腕組みをしてウムウム、と聞いていた大天狗だったが。
「─────最初のスピーチで帰ったって?」
「はい…………」
大天狗は固まった表情で視線を青葉に移す。
さすがの彼でも気まずそうな顔で必死になんとか笑顔を崩さないようにしているのがバレバレだ。
「………………なぁんだお前じゃないのか」
そして眉一つ動かさずにこれだ。
「がーん!!!!!」
過去一番にショックそうな顔をした青葉が畳の上で倒れる瞬間は、ちなみにガッツリ文とはたてに撮影されていた。
──────一方、その数時間後。
「─────失礼いたします、鴉天狗からの
「…………………………」
豪奢でもない、ありふれた和室に座る一人の女に手紙が渡された。
それを渡したのは甲冑姿の兵士だった。
「『………………明日の正午、我々鴉天狗の一行は貴女がたの集落へお話に参る。我々には敵意も戦意もない。もとより、戦えば破滅することも理解している。よって警戒する必要はない、ただ………聞きたいことがある』、とのことだ。他にもなにやら色々書いてあるがどれもこれもくだらん。鴉天狗の世俗にまみれた話など、誰が興味を示すものか」
手紙を直接読み上げる女の目元には、黒い烏の頭のような仮面がつけられていた。
板敷きの床に敷いた畳から立ち上がり、掛けていた薙刀を手に取る。
──────そして、
「──────お前、」
「はッ!!!」
薙刀を常識を超えたレベルの速さで振り回し、手紙を塵一つ残らないまでに切り捨てた。
霧の粒子のように小さくなった紙くずは床に積もることもなく、風に流されて消えた。
常人離れしたその技を平然と………しかも薙刀でやってのけた。
「全軍に伝えろ。『明日の正午、敵襲がある。北門を中心に戦闘陣形を築き、その他門完全封鎖から全住民外出禁止令と国家緊急事態宣言の発令、前衛兵総員は準備を整え進軍に備え、後衛と補欠枠及び全哨戒隊員は人民の保護に徹しろ』、とな…………」
「て、敵襲…………ですか…………」
「グズグズするな早くしろ!!!一言一句
ダァァァン!!!と床を踏みしめた時にとてつもない重圧と小さな嵐が撒き起こった。
部屋の茣蓙や灯籠が勢いよく吹き飛んでいった。
兵士も重い甲冑に身を包みながらも部屋の中央から扉のところまで吹き飛ばされる。
「ひっ…………はいぃぃっ!!!」
とてつもない圧に恐れをなして逃げるように部屋を飛び出す兵士。
「流石は幻想郷一番の覗き魔どもだ………こんな早い段階から嗅ぎつけるとは何という情報の収集伝達速度、相変わらず恐れ入る。だが、我々は手を引くつもりは毛頭ない。この山の平穏を脅かすつもりであれば例え天狗族であろうと我々鞍馬天狗は戦う事を厭わん。向こうの戦意の有無を問わず………だ」
鬼のような女は部屋の襖を開ける。
その部屋だけはヤグラのように高くなっていて、この塔が連なる山城と城下の集落を一望できた。
堂の屋根に飛び乗り、具足を纏った女は鴉天狗の集落を睨みつけた。
「なんなのよ悪趣味な真四角の建物は。豆腐でも意識してるのか?」
彼女が見ているのはタワーホテル、いづな旅館。
鞍馬天狗の文化にはまだない形状の建物を見て、何かの形を意識しているのだと思ったみたいだ。
「あっ!あれか!かつおぶし削るときのやつ!」
……………おそらく
「─────だからどうしたというのだ。我々はもう、道を違えたというのに。【めぐみん】以外の鴉天狗など、まとめて焼き鳥にしてやるわ」
クロウマスクの穴から覗かせるふたつの蒼い眼光。
それは確かに、獲物を捕らえる鷹のように、夜に照り映える御湯殿いづなを見下ろしていた。
もう一人の大天狗…………常磐百鬼丸繰経と彼女が治める鞍馬天狗の里、
明日の巳の刻参る、君のかげを待たむ。
幻想郷にて、天下無敵となむきこえたる………いにしへのつわものどもが、この地にて。