少年少女が抱える闇で殴りあいをさせたかった 作:よくメガネを無くす海月のーれん
第一章を早めに終わらせたいので、ささっと投稿です。
第1.4章くらいのお話でもあります。それでは、どうぞ
………分割したのに1万字超えた人間がいるらしい…()
「今は来ないでほしかったのだけれど…で?どういうこと?」
愛しい時間、私の大切な時間を邪魔してきたのは、[ワタシ]だった。
ボブカットの黒い髪、スレンダーな身体、口の端が三日月のように吊り上がる笑顔を浮かべて目を細める真性の邪悪がいた。
彼に付いた埃にさえ嫉妬するのに、[ワタシ]にかまっている暇はないの。それは
彼に付いた埃をつまんで、念入りに念入りに潰すと改めて[ワタシ]と相対する。
「さっきも言った通りだよ。愛しい私、生まれ出た母と呼べる
「そう考えると彼はあーし達の母と呼べるのかな?いやこの場合だと父かな?ん~…未知だ。解明したいが…そんな顔をしてくれるな。怖いじゃあないか」
前とは違う一人称で薄気味悪い笑みを浮かべる[ワタシ]。
[ワタシ]、私達の一人。自己肯定が生み出した人格、2番目に生まれた人格。
ISH(Inner Self Helper)、内的自己救済者。多重人格について調べている時、[ワタシ]に一番近い存在だと認識したものだ。
ISHは、人格が分裂したとき、自身の存在を守る為に理性的で論理的な思考を持つ人格が、基本人格が抱える苦悩や迷いを解決し導く存在だとされている。
基本人格の疑問に答える存在であり、未来の自分の姿であるといわれている。ただし、その未来にたどり着かない可能性もあるということから、
ただ、いくつか違う点がある。
異能によるものなのか、[ワタシ]は明確な自我を持ってしまった。身体から離れ、色々なものを見聞きすることで理性を失い好奇心の塊となった。
私の中にいた時は静かで主導権を乗っ取ろうとは考えない人格だった。私の悩みに対して自身で解決できるようにヒントをくれる存在だった。唯一の…味方のはずだった。
だがそれも変わった。
私を助けるという役目を放棄し、自身の未知を既知にするという欲求を満たすために行動するようになった。
空の色はなぜ青いのか。見え方に違いがあるのか。人はなぜ外面と内面で違いが出るのか。人、電気信号の塊、機械との違いは何か。感情の変性、その種類と理由について。
疑問は尽きず、答えを導くために図書館や大学への不法侵入や人の心を覗き見したり、果ては解剖して神経伝達のメカニズムを解明しようともした。
知らないものを知りたい。ただそれだけのために、非人道的なことにまで手を染めるようになった[ワタシ]は、最低最悪な異能を発現させるに至ったのだ。
それこそが『叡智拝領』。知る力。知識を得ることで、それを自身のものとする力。
他者の異能をも扱うことが出来る力。その人の顔を、身体を、声を、匂いを、味を、性格を、記憶を、異能を知ることによってその人の全てを得ることが出来る。
おぞましい力。未知を既知にするために、人を殺し、すべてを調べ上げ、自分のものとする力。
もう[ワタシ]は
人の記憶を収集して自分のものにしてきたから、色々な記憶が混じり、一人称でさえ定まらなくなった。
人の異能を、人の闇を集め過ぎて、もはや私の制御を離れてしまった。
手に負えない。
それなのに、なにかと私に関わっては困りごとを頼めばしてくれる。未だにISH気取りなのだろうか。吐き気を催すが、それに頼ってしまう自分が居て恨めしい。使わなければいけないほど切羽詰まった状況にいるのは私で、それを解決できるほど優秀なのだ。一度知ってしまった楽という毒に、未だ侵されている情けない自分がいる。
「なんだい?あぁ一人称かい?最近ギャルの記憶を収集してねェ。ちょうど異能持ちだったから
そう言って、近くの机に腰掛ける[ワタシ]。
「可愛いだろう?あーし、このご時世に現実に居るのかと驚いたよ。本当に希少な者に会えてよかった。そこらの凡夫から知識を集めるより、マイノリティたるレアキャラから集めないと
違う、そういうことが言いたいんじゃない。
[ワタシ]と私は異能でつながっている。元々は私の『肉体増殖』だから、[ワタシ]が持つ肉体の制御権を私も持っている。だから、言いたいことや考えていることが伝わるようになっている。肉体とのパスがつながっていると考えていい。それでもとぼけた対応をするのは…単純に私をおちょくりたいのだろう。
「あぁ、ちゃんと寄せていかないとねェ。こういうのは中途半端にやるのではなく振り切れてやらないと…」
「あ、あー…うん、うーん…よし」
「やっほー!あーしだよ!燐火ちゃんだよ!もー!そんな顔しないでよー!これがあーしでしょー?受け入れてくれるんじゃないのー?アハハッ!」
身長、体重、姿形、思考すらも変えている。
そこにいたのは一人の女子高生だった。染めたであろうセミロングの金髪、着崩した黒いスクールカーディガンに白い制服、スカートは白と薄い黒のチェックで膝上まで短くしている。全体的に白黒が特徴的だ。本来の[ワタシ]が絶対にしないであろうポーズ、表情で、動きの節々が[ワタシ]ではない。きっと犠牲になった人の動きだ。他人の座っていた存在という椅子を奪った人の皮を被った邪悪が、まるで自分は元からそうであったようにそこにいた。
やはり[ワタシ]とは相容れることはできない。いや、ほとんどの人と相容れることはできないだろう。
私の無言の怒りを今気づいたような顔で、姿形を元に戻す。
「…おやおや、怒っているのかい?それじゃあもうやめておこう。愛しい私は揶揄い甲斐があっていいねェ。でもいいのかい?君のためにこうして後始末を済ませてきたんじゃあないか。まぁそれで少し報告があるんだがねェ?それを教えに来たというのに、そんな態度されては…拗ねて帰ってしまいそうだ」
そう言って、よよよと泣き真似をする[ワタシ]。本当に泣いているのかと思うほど。きっとその技術や才能は他者から奪ったものなのだろう。[ワタシ]という存在を知っているから、何も思わないのだが。
「なら帰って。今すぐに」
「…うーん、駄目かぁ。やはり本質を知られている相手には通じないものなんだねェ。あぁ、もちろん帰らないから安心すると良い。さてさて…報告を始めようか」
話を聞かない。いや、話を聞く気がないといった方が正しい。もはやそういう現象だと認識した方が楽だ。ため息をぐっと抑えて、次の言葉を待つ。
「まず、愛しい私をストーキングしていた人間だが…情報を得るためにも
「魔女狩りがモデルで、内部から火で焼くという能力の他にも、人を錯乱、扇動させる力。条件を満たせば問答無用で相手を殺せる異能も複合されていた」
「やれることが多いし、状況対応能力も高い。おまけに必殺技みたいなものまである。それだけ強い異能だ。発現させた深い闇を御することができなかったんだねェ」
それを聞いて息を飲む。別に私は死なないからいい。正確には、この異能のおかげで本体が死ぬかもしれないが、私という存在は消えることはない。たかだか残機が1減るだけだ。
でも、彼なら?ただでさえ火で焼かれ死にかけていたというのに、問答無用で殺せる力を振るわれていたら?
止められなかったかもしれない。
運が良かった。次もそうだと思わない方が良い。きっとまた後悔する。
「自分自身も異能の影響を受けていたよ。視野狭窄、思考鈍化、盲目的、まぁそんな感じだ。もし冷静になっていたら、彼も愛しい私も殺されていたかもしれなかったよ」
その言葉を聞いて少なからず安心した私がいた。何故なら、もう終わった人間が干渉してくるとは思えないからだ。なにせそのストーカーはもうこの世にいない、いな明日には今日と変わらず学校に通っているだろう。ストーカーに扮した[ワタシ]の複製体だが。
ストーカーは死ぬ前と同じだ。名前、性別、年齢、身体能力、性格から記憶まで。全てが生前のものとかわらない。自身が複製体であったことにさえ気づかない。
ただ一つ、思考や行動を無意識下で制御されているだけで。
この世界には他者に扮した複製体が大勢いる。[ワタシ]の知識欲に全てを奪われた者。〈ボク〉の生存のために存在を奪われた者。俺は…何もしていないか。そういうタイプではない。アレはもっと直接的に動く。誰かに扮するという回りくどいことをやらない。
そんな、俺以外が生み出した犠牲者もとい、複製体全ては私の異能『肉体増殖』を元に作られている。だから、たとえ別人格に作られたものであろうと干渉ができる。主導権争いになるのだが、少なくとも危害を加えないよう細工をすることが出来る。
「彼の人生も中々に味わい深いものがあったよ。親からの期待、学校への居場所がないことによる閉塞感、そして何よりも…自身を卑下する姉の存在」
ストーカーの過去等どうでもいい。私の邪魔をして終わった人間に、微塵も興味が湧かない。
「卑屈なお姉さんを持っていたようだよ。『お姉ちゃんはこんなんだけど、アンタはちゃんと頑張りなさい』…いいお姉さんじゃあないか。ただ…」
…そう……で?
「ストーカーからすれば、たとえ自分自身のことであろうと、姉を卑下されるのは辛いものがあったんだろうねェ。姉の為にも頑張らなければいけないという重圧も感じていた」
だから…だから……どうしたというのだ。私には関係ない。
「学校でも一人、家でも心は一人、休まるところがなかったという点では愛しい私と同じだよ。だからシンパシーを感じたんだろうねェ」
「憧れを拗らせて、仲間を見つけたことに安心して、それが裏切られた」
勝手に仲間扱いするな。気持ち悪い。はた迷惑が過ぎる。
「愛しい私、勝手に仲間扱いされて、裏切り者扱いされたと憤慨しているが…」
「同じ、同じだよ。それと同じことを彼にしているじゃないか」
「………なにが言いたいの…?」
「まだわからないのかい?」
…。
「勝手に救世主扱いして、自分の想いを押し付けて…」
うるさい……。
「結局誰かに助けてもらわないと最初の一歩を踏み出せない」
うるさいうるさい…。
「なるほどなるほど…。愛しい私、ストーカーと同レベルに成り下がってしまったね?」
うるさいうるさいうるさい………!
「同じ穴の狢…。仲間扱いされたのも頷けるよ」
「私は違うッッッ!」
「あーあーあー…そうかっかしないでおくれよ…」
「ふふっ『無味感情』」
「落ち着いたかい?落ち着いたよねェ?さて話の続きをしようじゃあないか」
昂った感情が急激に冷めていく。先程までの感情が嘘みたいに消え去った。おそらく…感情をなくす異能?いや感情を強制的にフラットな状態にさせる異能だろうか?感情を消し去る異能なら、冷静になるよりも先に、味わっていたはずの激情が消えたことへの戸惑いが生じるはず…。
ますます厄介になっている。以前よりも扱う異能が増えている。[ワタシ]は基本的に自身の手札を晒さない。その手札を晒したときは、何かしらの仕込みが完了したことを意味する。
完全犯罪を仕掛けた時と同じ手口、きっと手を変えて二重三重に仕込みと保険を作っている。用意周到…油断ならない。
解けてしまった怒りを気にしている暇はない。無為に時間を使ってしまえば付け入る隙を与えてしまう。考えろ…。
今まで晒した手札は5つ。これで6つになった。その6つで[ワタシ]は私達を御そうとする。その隙を突く。
準備を済ませて、部屋に溶け込ませた私を感知されないように肉体のパスを切るよう命令した。今この瞬間、この部屋にいる私はすべてのパスを切った。一時的なものだ。しかし、[ワタシ]にも、〈ボク〉にも、俺にも、再接続させるのには時間を要する。その間に、仕込んだ罠で[ワタシ]を追い込む…!
成功率は低い。なにせ、晒している手札でさえ、頭のおかしいものが多いからだ。慣性をねじる異能。重力を増減させる異能。肉体の一時的な無敵化…。[ワタシ]が晒した手札というのは、それ以上の異能を手に入れた時か晒しても対策のしようがないもの、晒すだけで相手を威圧できるものだからだ。そして、初見殺しの為に異能を温存する。
ただ私に手札を晒すことは少ない。私は不滅だ。今の私が死んでもまた別の私が相手する。それに、一応だが本体だ。私を完全に消してしまえば自己の否定となるから、必然的に私への対応は無力化、行動の遅延等に絞られる。
確かに[ワタシ]は強いが、相性的には私の方が強い。トライ&エラーを繰り返せば、いずれ[ワタシ]を下すことが出来る。実際に、一時的な無敵化や重力を増減させる異能は完璧な対策が出来ているから、私に使える手札はより限定されていく。
彼は渡さない。絶対に…!絶対に…!
だから今私がやるべきことは…彼の護衛…!
「さぁ、さぁさぁ、本題はここからだ」
「放課後の学校に居た先生、生徒からここ一週間の記憶を消して別の記憶を入れさせてもらったよ。何も起こらなかったことにしたし、何の痕跡も残らないようにした。放課後で良かったよ。人数が少なくて済んだ」
「ただ…」
「5人ほど、抵抗した者がいたよ。担任の笹垣 纏、図書委員の…あああああ…ふざけているわけじゃないよ?読み取れたのがそれだけなんだ。十中八九異能だろうねェ。自身の情報を完璧に改竄していたよ。後は同じクラスの逢坂 勇人と柊 真、こっちも異能持ちだからか、やはり生半可な出力じゃ押し負けるねェ。力を注いで消してもよかったが、最後に私…正確に言うなら、〈ボク〉が寄生した生徒が一人いたからね。彼ら彼女らは記憶を消してないよ。笹垣 纏や図書委員は事件に関わってるから気づかれるだろうねェ。クラスメイトは…位置的にはバレないんじゃないかい?まぁ整合性が取れなくなっているのに気づいて怪しむくらいだろう。〈ボク〉に関しては…気を付けた方がいい。きっと台無しにしてくるだろうさ」
思考を巡らす。[ワタシ]への対策を模索している。しかし、[ワタシ]からの忠告は無視できるものではなかった。〈ボク〉がいる。それだけで一気に警戒を上げなければいけない。自己嫌悪の塊、生への渇望を拗らせた半身、人であることを辞めた存在。気にしなければいけないことが増えたことに内心苛立ちが増す。
〈ボク〉はシンプルに言えば、隠蔽と人心支配に特化した異能を持っている半身だ。そして、私が他者を頼ることが出来なかった理由でもある。
〈ボク〉はどこにでもいる。隣人が〈ボク〉であるかもしれないし、先生が〈ボク〉かもしれない。道を歩いている人が、横断歩道で信号待ちをしている人が、
自身の正体を隠すことに特化しているからこそ、どこにもいなくてどこにでもいる。
知らないうちに支配され、操られ、唆されている。それが出来るのが〈ボク〉だ。
きっと私を監視していたのだろう。〈ボク〉は自己嫌悪の塊で、私達への嫌がらせに執心している。そのくせ、私達が反撃すると、自身を殺そうとしていると怯え、錯乱する。自分嫌いの被害妄想気質。それが〈ボク〉だ。
でも、今の私は違う。覚醒したのだ。あんな被害妄想の気狂いなんてどうとでもできる。
今は…
「…話は終わった。帰って…帰ってよ」
彼を守る為に[ワタシ]をどうにかしなくちゃいけない。
「いやぁ?いやいやいやいや…帰らないさ」
「話を聞いていなかったのかい?いや聞く耳を持たなかったというべきか…」
「([ワタシ]も同じじゃないか)…だろう?ふふっ、やはり同じ存在だから思考がリンクするねェ」
「言っただろう?やりすぎだとね」
「端的に言うなら段階を飛ばし過ぎたんだ」
そう言って、動きだそうとする[ワタシ]を止めるために身体を隆起させていく。仕掛けた罠は使わない。私だけでもできることをする…!左腕の肉を変形させ射出機とする。人差し指中指薬指の骨を分化させねじり合わせ尖らせ、即席の弾を形成していく。親指を撃鉄、小指を引き金に見立てて狙いを定める。十分に形成された骨弾を即座に分離させると、ギリギリと左腕の肉に埋没させ引き絞らせる。
「貫k…っ!?」
身体が動かない。何かが動きを止めている。足元、異様に濃くなった影を[ワタシ]が踏んでいる。まさか…
「『陰影踏絵』、新しい異能だよ。確か…人の足を引っ張ることが大好きな男の異能だったかな?効果はシンプルで影を踏んだ人間の行動を止める。ほら、ギャルの異能を手に入れたと言っただろう?アレ、上位互換だったんだ。おかげで便利な異能を手軽に使えるよ」
そう言って、彼に近づいていく。人を人とも思わない邪悪が彼に近づいていく。
「ほら、ほら見てごらんよ。魘されて…悪夢でも見ているのかな?可哀想に…私が混ざったせいだろうねェ」
ベットに腰掛け、彼を眺める[ワタシ]。
「好きになるのはいいことだ。心身の安定、自我の満足、行動意欲の向上、良いことはたくさんある」
確かに彼は魘されていた。だが…
はっきりと言おう。私も[ワタシ]も同罪だと。
確かに私がやったことは非人道的だが、私には[ワタシ]のような多くの
それに…私にはわかる。彼は[ワタシ]から内部干渉されている。それに気づかない私だと思ったか…!
「だが、だがね。好きを押し付けてはいけないよ愛しい私」
身体を動かそうとする。筋肉繊維がブチブチと音を立てて裂けていく。動ける。弱い異能だ。肉体操作でちぎれた筋肉繊維を即座に結び付けていく。
「それは恋愛ではなく妄信だ。理想を押し付けそれに当てはめようとするのは間違いなく崇拝といえるだろうね」
もうすぐ…もうすぐ動ける。
「確かにあーし…おっと、[ワタシ]や俺、〈ボク〉に振り回されて面倒を押し付けられる立場に居たのはわかる。だが、それから解放されたからといって、押し付ける側に回るのは違うんじゃないかい?」
頬を撫でて情愛に塗れた顔を浮かべる[ワタシ]を睨みつける。
その汚らしい手で触るな…!
「おやおやぁ?おかしいねェ?[ワタシ]達を受け入れてくれるんじゃないのかい?[ワタシ]達は皆で白鷺燐火だろう?ほら、[ワタシ]なんだから、別に構わないじゃないか」
「[ワタシ]のものは私のもの。私のものは[ワタシ]のもの。そうだろう?」
「たとえ半身達の存在を認めたとしても!!!!過去の恨みが消えるわけじゃない!!!!!」
完全に拘束を脱して、[ワタシ]に掴みかかる。いびつに形成された左腕が[ワタシ]を絞め上げる。
それを何とも思わない表情で話を続ける[ワタシ]に心底腹が立ってくる。
「愛しい私…自身を[ワタシ]達みたいな紛い物に貶したいのかい?あぁ、君はもう紛い物か。なにせ本体は彼なんだからね」
私は紛い物じゃない。どうあがいたって、この邪悪は私だし、今立っている私も、これから生まれ出る次の私達も全て…私だ!
ただ役割が違うだけ。その役割を羨むことはあれど、放棄することは決してしない!
役割を捨てた半身達とは違う!
私は…私達は…彼を想う感情がある限り…
「本物だ!!!」
「ふふっ、そうかそうか。…本当に、成長したんだねェ…」
そう言って彼に手を翳す[ワタシ]…何を…!
「なにをする気かって?なぁに、簡単なことだよ。集めて固めて大人しくしてもらう。そうだなぁ、右腕…いや心臓もありか?どっちがいいと思う?」
冷たい表情で、まるでゴミを集めて捨てるみたいに事もなげに言う。
「ほら、心臓だとチェーンソーな悪魔みたいになれるだろうね。右腕だったら…寄生する宇宙生物かな?少しは彼の慰めにもなるだろう。彼はツッコミ体質だからね」
話している内容とは逆に、静かに、静かに苛ついていることがわかる。顔から笑みが消え、無表情になり、目を細めて、心底面白くないという声で続ける。
なんだ…なんなんだ……!本当に…!
「少しでも気が紛れてくれるならそれでいいさ。もしくはイメージがしやすければ制御もしやすいだろう。急に身体に別の存在が入り込んだときの対処法なんてほとんどないからね。前例に似せた方が対処もしやすいだろう」
なぜそんなにも気に掛ける。なぜ彼にかまう。関係ないはずだ!なぜ、彼を…なぜなぜなぜなぜ…!
「…「なぜ!」[ワタシ]がこんなにも気にかけるのかって?」
空気が…変わった。
「簡単なことだよ」
部屋に張り詰めた空気が満たされる。部屋が軋む。いや、部屋に溶け込んだ私が軋んでいる。
「[ワタシ]は
少しずつ、私の擬態が溶けていく。
「根本的には一緒なんだよ。[ワタシ]も
重圧に耐えきれなかったのか、部屋中がドロドロと肌色に溶け、ピンク色の肉が顔を見せていく。
「端的に言うなら…」
声なき私の悲鳴、溶けて溶けて…ついには床が血溜まりと化し、部屋中に居た私の擬態が全て剥がされた。
「彼は[ワタシ]のものでもある」
血溜まりの中、[ワタシ]は嗤う。
「ふふっ、ずっと見ていたよ。私が助けられる前からね。なにせ、本体に近づこうとする人間を確かめるのも[ワタシ]の役目だ」
「苦しんでいたよ。足掻いていたよ。私を助ける前からね。自分の為に利用しようとしていることに罪悪感を持っていた。そこらの有象無象とは違うところだよ。他の奴らは仕方がないことだと自分に言い訳をして、利用することを肯定していただろうね。でも彼はそれをしなかった。個人的にぐっときたよ。ただ見極めるためのいわば仕事みたいなものだったのに…たまたまSSRを見つけた気分だった。だから、だからね?」
……
「細工させてもらったんだ。彼が彼らしく居るために。ほら?おかしいとは思わないのかい?精神の浸食が一人称等で終わっている点が」
………
「ふふっ、『肉体増殖』に負けないよう耐性を与えたんだ。彼の記憶も経験もすべて…彼のものだ。
…………
「いやぁ…中々に稀有な人だよ。下手したらUR、そうだなぁ…O型のRHnull型かな。世界で6人しかいない希少な人間と同じといっていいよ。彼は」
……………!
「教えてほしいかい?彼の秘密、彼の身に何が起きたのか」
「彼が
「ふふっ…」
「だぁーめ」
「教えてあげなぁい」
「『串刺しになれッッッ!!!!』」
血溜まりと化した私達を瞬時に凝固させた。捻り、返しを付け、無惨にする血の杭を作り、射出。
数は12、壁や天井、全方位から射出された血の杭は…
その尽くを片手を振り抜いただけで破壊した。
なんだなんだなんだなんだなんだ!!!!!!
私から自由を奪うだけではなく、私の大切な人も奪うのか!!!!!!
「『起き上がれ!!!!!!』」
血溜まりから私を形成する。自身の身体からも。そして、彼の身体からも…!
「ふふっ。ははははははっ!!!!!!!!!!!」
狂笑を上げる[ワタシ]を確実に消すために、全てを使う。
もういい。たとえ、[ワタシ]を消して自我が崩壊しても良い。
こんな[ワタシ]……消えてしまえ!!!
「良い。良いよ。今までしたこともない形相だ。成長したねェ…嬉しいよ」
不完全に形成された私が這い出し、[ワタシ]に襲い掛かる。
「でも、でもね」
[ワタシ]の腕や足が膨れ上がっていく。
「それは悪手だよ」
『肉体増殖』…制御権を無理やり奪ってしまえば、[ワタシ]の身体だろうが関係ない!
「彼をこれ以上汚してはいけない」
淡々とした言葉、しかしその裏に込められた妄執に、理解せざるを得なかった。
逆鱗に触れた。それがはっきりと分かった。
「『擬神暗来』」
暗闇からナニカが這い出てくる。
真っ黒に塗りつぶされたナニカ。ヒトのようにも見える。まるで処理落ちした映像のように、周囲のところどころが欠落している。
上半身が暗闇から這い出た。その下がどうにも抜け出せないのか、外へ出ようともがいている。床をひっかき、手を少しでも前へ伸ばし、暗闇から光が当たる場所へ出ようとしている。
まずい。まずいまずいまずいまずい…!
アレを光に当ててはいけない。そんな得体のしれない焦燥感に支配された。
光に当たったら…照らされたら…何かが起こる…!
本能が全力で警鐘を鳴らし、私達はすぐさま暗闇に叩き返そうと動き…その全てを封じられた。
見れば、そのナニカがこちらに人差し指を差し向けている。ただそれだけで、行動の一切を封じられた。
「[ワタシ]の切り札さ。神モドキを召喚する。あくまでモドキだから、できることは限られているけど…私を止めること等造作もない」
「言ったはずだろう?」
「彼は彼であるから美しいんだ。傷が付いたダイヤモンド、手垢のついた絵画、汚された書物。それじゃあ価値がない」
動けない。身動きが取れない。
まだ
「彼は彼のまま成長していくのが本来のあるべき姿なんだ。そこに…私は……」
「はぁ、本当に…本当に要らないことをしてくれたよ」
「
「救われるルートは他にもあっただろうに、どうして態々そのルートを選んだんだ」
「彼のその在り様、ただ納得できないからと行動して、自分に責任があるからと背負い込んで」
「必死に前を向こうとする姿が…」
「あまりにも…あまりにも……」
「哀れで可愛いじゃあないか…」
「やはり好みが同じになるのは同じ
「愛しい
「彼の足掻く様が、彼の乗り越えようとする意志が、反吐を吐いても立ち上がる姿が…」
自身の身体を抱きしめて、上気した顔で、恋に浮かされた乙女のようにのたまった。
「あぁ…たまらなく臓腑をかき乱すんだ…!」
「だけど、だけどね?」
「
「穢れてしまった」
「彼は彼のままで居られなくなった」
「保険で用意していた精神保護の効果がなければ、本当に混じりあってしまうところだった」
「由々しき事態だ。本当に、本当に…」
「いくつか取り除く手段を考えたが、それらは彼に直接干渉してしまうからね。また彼が変わってしまう。それは[ワタシ]の主義に反する」
「どうにか自力で体外に排出してもらわないといけなかった…」
「まぁ、まぁね?いくつかプランは考えているんだよ」
「ふふっ、ふふふっ。はははははっ」
「はぁ………」
「悔しいんだ。[ワタシ]も」
「先に唾をつけておくべきだった。見極めようとする役目に甘んじて彼の苦しむ姿の録画に勤しんでしまった」
「終わってからでも間に合うだろう。どうせ
「そう思っていた[ワタシ]を殴ってやりたい」
「きっと、きっとね」
「彼の秘密を知って、浮かれていたんだ」
「彼のことを唯一理解できるのは[ワタシ]だけなんだと」
「彼の苦しみに共感して、支えて、助言する」
「[ワタシ]として本質を満たすことが出来るって」
「彼の在り様が変わることなんてしない」
「ただ、彼が彼らしく居るために、助言と手助けをする」
「いわば道具だよ。ただ使える道具が増えるからと言って、一人称が変わったりするはずないだろう?思考が、精神が、別の人間に変わるなんて起こらないだろう?」
「そういうことだよ。理解したかい?」
「[ワタシ]は残念ながら博識であって全知ではない。保険をかけておくことはできても、未来を予測することはできない」
「だから君の成長が嬉しくもあり憎らしくもあった。どうして彼と一つになろうとしたのかと」
「そう思っていた」
「ただ、ただね?」
「[ワタシ]はまだ大丈夫だったんだ」
「今の状況、
「[ワタシ]色に染めるなんてことはしないよ。安心するといい。ただ立ち直ってもらうだけさ」
「そうすれば、精神を汚染されることも、
「さしずめ…主人公強化パートだよ」
「うんうん、主人公の師匠的立ち位置に居座れば、合法的に苦しむ姿が見れるな…。それに助言を与える存在としても違和感がない」
「主役交代だよ。今度は[ワタシ]の番だ。大丈夫。この物語は白鷺燐火がヒロインだ。どっちも
「どんな試練がいいかな…人をバラバラにする異能をそこらの生徒に与えて暴走させてもいいな…。そうすれば彼はバラバラになりながらも立ち向かってくれるだろうか」
「いや…悲劇を用意してもいいな。こんなことが起きたんだ。もっと優しい…そうだな…。最近大切な人を亡くした人間に、死者をこの世に呼び戻す異能を与えてもいい」
「アレは、呼び戻すだけで操る力はなかったはずだ。暴走したところでポルターガイストくらいだ。それくらいなら…異能が発現するくらいのちょうどいい困難になるか…?」
「ふふっ、はははははははははっははははっははははっっっっ」
「あ~…楽しくなってきたねェ。きっと成功しても失敗しても彼の糧になるよ」
「もし[ワタシ]の本性がバレたとしても、彼は[ワタシ]を捨てられない」
「[ワタシ]が提示したメリットに頷かざるを得ない」
「だってそうしなきゃ、生きていけないのだから…!」
「[ワタシ]に頼って、[ワタシ]を使って、[ワタシ]を[ワタシ]を[ワタシ]を[ワタシ]を[ワタシ]を…」
「大丈夫。大丈夫さ。[ワタシ]はなにも要求しない。いや少し褒めてほしいかな?頭を撫でてくれれば感無量だ。まぁできればでいいさ。高望みはしない。[ワタシ]はちゃーんと君のことを優先して考えるからねェ。そこの人の出がらしや利己的な乱暴者、自己嫌悪のビビりと違って人を想うことが出来る人間だよ。[ワタシ]は。なにせ、いろいろ学んだからねェ。男性の思考も把握している。ちゃんと一人になる時間を用意するし、朝に君を訪ねたりなんかしない。部屋に入るなんてこともしないさ。男性の生理現象というものがあるんだろう?あぁ、望むなら好きな姿になってやろう。ちゃんと思考すらトレースできるからねェ。君が望む人になれるよ。ギャルが好きかい?それとも真面目な生徒会長気質?あぁメンヘラやツンデレもできるさ。でも君を傷つけることはしないよ。まぁ君が求めるというのならやぶさかではないさ。ふふっ、あぁ知りたい。知りたいんだ」
「足掻いて足掻いて這い上がろうとするその姿、見捨てられないと自分の信念を捨てられず必死に貫き通そうとするその姿…」
「食べる姿、眠る姿、着替えようとする姿、寝起きで頭が回ってない状態で時計を見て焦る姿、料理に挑戦して調味料の分量を間違えて食べれるからいいやと投げやりになる姿…」
「あぁ、全部全部全部全部全部全部」
「君の全部が知りたい」
「大丈夫。大丈夫だよ。バラすなんて無粋なことはしない、しないさ」
「もっと[ワタシ]に見せて、見せてよ。ありとあらゆる全ての姿を」
「もっと近くで見たいんだ。本当は直で触れてみたいけど」
「[ワタシ]に君の答えを教えてよ」
「ありのままの君が知りたいんだ」
「『肉体増殖・共有』、『疑神暗来』ッッッ!!!!」
初めて、[ワタシ]の顔が焦りで歪んだ。
もう一体、私の影からナニカが這い出てくる。異能の拡張、感情の高ぶりと相手が自分という異常な状態だからこそできた。
そっくりそのまま返すよ。
私は[ワタシ]、[ワタシ]は私だッ!
「奪わせない。奪わせてなるものか!」
動き出す二体の神モドキ。見えない力がぶつかり合い、世界を引き剥がしていく。剥き出しの黒い背景、景色の奥に見える闇、世界が耐えきれず、自身の内面を、見せることのない裏側の景色を表出させた。
その顔だ。せいせいした。
「今度は私が取り戻す番だ!」
煮え湯を飲まされてきた相手に少しばかり仕返すことができてよかった。
拮抗する神モドキ。そこに私達を投入する。出力が足りないなら増やせば良い。
神モドキに取り付き、肉体を変化させる。同化させ力を与える。
耐えきれなかった私が自壊する。でも良い。トライ&エラーだ。
肉体を調整し再度投入。耐えられるように、制御できるように、神モドキすら
『もう私の邪魔をするなッ!」
発したのは、私であり、神モドキ。今ここに、神まがいの力を手に入れた。
これで前を向ける…!
[ワタシ]に勝てる……!
「『肉体増殖』!対象:『擬神暗来』!」
「『複製』『複製』『複製』『複製』『複製』ッッッ!!!」
部屋を覆い隠すほどの数が、黒いシルエットと私が混じり合った化け物が、[ワタシ]を亡き者にせんと動き出す。
「ちっ、『ロード、屋上』」
[ワタシ]を対象にバラバラになるよう力を出す直前、まるで最初から居なかったように姿が雲散霧消した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
自壊した神モドキの私に手を振る。まだ耐えられる肉体じゃなかった。これからは長時間耐えられる肉体を調整しなければいけない。
でも、私は新たな力を手に入れたし、これからの未来も見えてきた。
[ワタシ]のあの非常に悔しそうな顔、とても気分がいいわ。
汚れてしまった部屋の中、彼やベットに飛び散った血を異能で除ける。
あぁ、そうだ。ここだけ自分でやらなくちゃ…。
服を引っ張り、彼の頬をしきりにこすって、穢れを落とす。
拭って、拭って、拭って…
「うぅん…」
嫌がってしまった。しょうがない。上書きしよう。
血だまりの部屋、むせかえるほどの血の匂い
彼が不快な思いをしないように、ベットの中に入り込む。
魘されていた貴方、ごめんね。私のせいだね。
[ワタシ]に触れられた頬、不快だよね。大丈夫。上書きしてあげるから。
頭を撫でて、少しでも落ち着けるように、子守歌を歌う。貴方の為に覚えたんだよ。
「~♪」
ぎゅっと身体を抱きしめて、少しでも体温が逃げないようにして。
「……貴方が好きよ」
触られた頬に優しく、そっとキスをして。
私の幸せを謳歌した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はぁ…いやぁ、まさか第3章の覚醒どころか、第4章の覚醒にまで至ってしまうとはねェ…」
「覚醒自体は喜ばしいことだ。本体が成長すれば、[ワタシ]の異能もおのずと成長する。[ワタシ]だけでは限界があったからねェ」
「やはり同じ存在だからなのか…どれだけ[ワタシ]達が努力しても、肝心の本体が成長しなきゃ成長できないなんて…いやなシステムだよ」
「しかし…」
「うーん…ホント、面倒なことをしてくれたよ」
「今まで以上に厄介になった」
「[ワタシ]達の出がらしだと思っていたが…腐っても本体か」
「…彼は[ワタシ]が必ず手に入れる」
「今は私に預けておこう」
「またすぐに取り戻しに行くから、それまで大切に保管しておいてくれよ?」
「それに…」
「主役交代なのは本当だからねェ!」
「第2章、思う存分やらせてもらうよ?」
感想評価、誤字脱字報告ありがとうございます!
なんで13,000字とかいってるんですかねぇ?
分割した→ちょっと文章足りないなぁ。加筆しよ→やべぇ、普通に捗っちゃった…
はい…ごめんなさい。
主人公崇拝女 VS 主人公厄介オタク !!!!!!
残念だったなぁ!ヒロインちゃん!ストーカーを撃退して、幸せに浸れると思った!?恋のライバル登場だよーう!つっても自分だけどね!!!!
ワタシちゃんは主人公はありのままが一番いいに決まってるだろっ!っていうチェーンソーマンのマキマさんみたいなタイプだよ。ぶっちゃけマキマさんが元ネタの一つだよ。
私ちゃんは主人公を勇者だと思っているので、お姫様たる自分を救い出してくれると思っている。だから、お姫様を助けてくれるように、精神汚染する必要があったんですね()
別人格の存在は受け入れるけど、性癖の違いで殺しあいに発展する女。それが白鷺燐火。
聞き流してもいい小話
私ワタシって書いててゲシュタルト崩壊しそうになった。なんで、一人称でキャラクターを表そうとしたんだろうね……
第二章ヒロイン投票
-
支配系ヒロイン()
-
暴力系ヒロイン()
-
上位者系ヒロイン()