少年少女が抱える闇で殴りあいをさせたかった   作:よくメガネを無くす海月のーれん

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お待たせ、待った?

感想評価ありがとうございます!
1.5章『過去を想って哭いて叫べ(うたえ)

セカンド性癖バトルだ!!
自分を変えたくて頑張って自分のなりたい自分に変わったけど、周りとの差異や自分が捨てたはずのものが急に眩しく見えて、捨てたはずなのに、要らないものと断じたはずなのに、途端にそれが狂おしいほど求めてしまって、泣いて縋って、苦しんでもそれはもう二度と元に戻らなくて、塗りつぶしてしまったはずの過去の自分が泣き叫んでいることにようやく気付いて、それが何で泣き叫んでいるのかもうわからなくなってしまって、覆水盆に返らないことにようやく気付いて、訳も分からない号哭に苛まれる女の子からしか摂取出来ない栄養があるし。
誰に対しても傷つけるような言動して、誰かを貶すような口ぶりをしていて、その実、自分が傷ついてしまうのが怖くて、過去の過ちから他者の痛みを理解してあげたいという想いから、自分自身を殺してしまうほどに苦しんでしまって、人の心が劇毒そのもので、苦しくて泣きたくてたまらないけど、それでも、他者に共感することをやめられない、
「それでも俺は可哀想だって思っちまうんだよ」
と切り捨てることが出来ない、優しい、優しすぎた少年が、心を削って、擦り切れて、大人にならざる負えなくなって、俺だけが苦しめばいいみたいな諦観の顔を覆い隠して、人前では飄々と、気楽に、自由気ままに、傲慢に見えるように生活している少年が、
自分に似た人を見つけて、見失ったはずの自分を見つけて、本心から救ってやりたい、助けてやりたいと思う人に出会って、その人を助けられたことで、ずっと皮被っていたものとは違う心の底からあふれた、ヘッタクソな笑みでしか摂取出来ない栄養がある。

追記
ちょっと女性が乱暴された描写が存在します。苦手な方はブラウザバックを。大丈夫な方でも、きついと感じたら一旦閉じて一呼吸休んでもらえれば…。

(まーた予約投稿ミスってる…。何処かで詫び連投しますね…)



第1.5章 過去を想って哭いて叫べ(うたえ)
プロローグ 現代が生んだ闇の作戦  改稿済(改稿前 Who am I)


side現在・虚実

 

「いいかァ!敵は世界を侵食する噓が意思を持った存在!気張んねぇと嘘に飲み込まれんぞ!」

 

ネット配信された映像、泣きながら笑って歌ってる女がいる。トラッキングにしては妙にリアルだ。異能の影響がネットにまで侵食していることを暗に示していた。

 

急がねぇと終わっちまう。異能持ちだけが…狂ったヤツだけがまともな世界になっちまう。異常が正常になる世界が訪れる。

 

俺は体のバルブを勢いよく回した。決戦仕様、今日みたいな時のためにチョイスした最強の俺になる。気を強く持って、異能に呑まれずに、俺らしく…!

 

体が膨張する。足が組み変わる。腕が変色する。背中から徐々に世界に溶けていく。調整はバッチシだ。これが俺の到達点、俺だけしかできないこと…!

 

目の前には人から生えて美しい花を咲かせるヒイラギの木。季節感がバグってる。それ以上に人に寄生する木が存在していること自体おかしいことだ。でもそれがまかり通ってしまった。異常を正常に、嘘を真に、それがアイツの異能。止めるべき…最悪レベルの異能。

 

人寄生ヒイラギは宿主を動かして俺たちの足止めをしようとしている。世界は静かに狂い始めていた。普通に過ごす人の中に、寄生された人が平然といる。誰も気に留めない。認識していない。そして、寄生された人は、近くの人に近づいて拘束して……寄生の種を植え付ける。

 

増殖する寄生ヒイラギ、葉っぱが異様な形だ。なんだって切り刻めそうな鋭利さがある。化け物。それが世界に徐々に浸透している。

 

「捕まったら寄生されると思えよ!準備はできたか!」

 

「大丈夫だ!」

 

「えぇ問題ないわ」

 

「癪だが…まぁ彼の頼みだからねぇ…?」

 

この異常を対処できるメンバー俺含めてたったの4人。このメンバーで勝てるのかって?勝つしかねぇんだよ。やるしかねェ。

 

「オイ、クソ変態。ちゃんと外に出してないんだろうな?」

 

「ふぅん…?そんな風な口を聞くのかい?へぇ…信用がないなんてねぇ?」

 

「頼む…頼むからさ…えぇっと…燐火さん?」

 

「よよよ…ワタシの呼び方は決めてくれたじゃあないか…呼んでくれないと拗ねて結界を解除してしまいそうだよ…」

 

「早くしてくれないかしら…それに、いい加減面倒なことしないで。邪魔なのよ。アナタ」

 

「助けてくださいなんて縋り付いたのはそっちのほうじゃあないか。ワタシとしては別にこのまま嘘が広がっても彼さえ無事ならどうだっていいんだけどね?」

 

「待って、やめて、呼ぶから…"燐ちゃん"。結界…大丈夫だよね?」

 

「…!フフフ、あぁもちろん。街から一片の力も漏らしてないし、人も入ってくるのは許容して出る人は出られないように思考誘導をかけてある。それに…まだ誰にもバレてないさ。時間の問題だろうけどね?」

 

「あぁうん、ありがとうね。あぁほら…燐火ちゃん大丈夫だから…今はそっちじゃないから…ね?わかってくれるよね?」

 

「…えぇ癪なのだけれど…理解しているわ」

 

「大丈夫なのかよ…ったく」

 

俺が現状を聞いてみればすーぐ喧嘩し始めて、柳田に宥められる。ホント…協調性っつーか、イカレばっかだよな…。異能持ちはよォ…。

俺はガシガシと頭を搔いてパーティーメンバーに目をやった。

 

柳田、腕がフレイルみてェなことになってる。最近異能の扱いに慣れてきたばっかだ。…まぁ詳細は違うんだが。

 

白鷺、アスリートみてぇな肉体と体に釣り合ってないバカでかいピンク色と白色のこん棒みたいなのを持っている。腰のあたりから支えるように触手?っぽいのが足先まで生えている。赤黒い触手だ。白髪、真っ白な肌、全身真っ白だからか妙に映える赤。時折振り回しているこん棒に合わせて脈動している。異能持ちで明らかなパワースタイル。

 

白鷺…いやシラサギ?別個体シラサギ、俺と同じような異能っつーか俺の上位互換だ。全身真っ黒いスーツで宙を浮いて柳田の周りを揺蕩っている。ときおり、電気やら火やら、血やらが揺蕩ったり、足先が液状化したり、歪なこすり合わせる不協和音が鳴っている。名前呼びされてニチャリとした笑みを浮かべている。キショイ。

 

最低最悪な勇者パーティーだぜ…。笹垣先生は別のところでデカいのとやりあってもらっている。他の異能持ち…というかシラサギの手先も同様だ。残ったのがこの3人。うち一人っつーか二人か、は柳田の…個人の命令でしか動かないポンコツ。だから実質二人パーティーだ。勇者と魔物使いとの二人だ。

 

俺はかったりぃパーティーメンバーから目を外して前を見る。

 

ここは学校前だ。もっと言うなら校門前。眼前広がるは動くヒイラギの森。それに対応するは、白鷺と同じ顔をした無数の人。ここが世の末か?だが残念なことにこれは現実で、こうするしかなかったというのが事の顛末だ。

 

手元のスマホから垂れ流される配信を尻目に俺は気合を入れた。

 

「もうどうしようもねぇし、これでいいのかわかんねぇ!だがやるしかねぇ!いくぞ!」

 

「いまから…!」

 

俺はやけくそ気味に叫んだ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

side過去・嘘

 

 

「ハロハロ―!」

 

笑顔の下で、心が軋んだ。

 

「ようこそー!インターネットでアイドル活動中!ウツロイマコトのゲームチャンネルっ!」

 

哲学的ゾンビみたいだ。主観が死んで客観性だけが残った。

 

「今日はこの○○というゲームをね。罰ゲームありでやっていくよー!負けないからっ!」

 

締め切った窓、間接照明の頼りない明かりが差す部屋に煌煌と照らされたパソコンの光、眩しいほどのブルーライトの光が乱反射して、照らされなかった私の背中に負い目を感じさせるように黒い影を落とした。

 

軋んだ心が悲鳴を上げている。

 

「いやーリスナーさんからオススメされてたやつなんだけど、やっぱ怖くってさ~」

 

流したいはずの涙をどうやって流すのか忘れてしまった。口から吐き出したいはずの自分を失くしてしまったから口を噤むしかなかった。

 

「ずーっと二の足踏んでたんだけど…この度ね。チャンネル登録者が50万人突破したということで…」

 

叫びたい、その気持ちが先行して肝心の叫ぶ言葉が見つからなかった。

苦しいという想いだけがまるで線香花火のように弾けるのに、その火花を火種ごと直に触れて、必死に、必死に、消そうとして、癒えない火傷が身体に残り続けているのに、最後にはポトリと落ちてくれると諦めながら火種を眺め続けているのに、一向に消える気配がなかった。

 

「あ、あとゲームが終わったら重大発表があるよ…!楽しみにしててね!」

 

安寧があるはずの家でさえ地獄に変えたのは自分だというのに、子供みたいに嘆いている。

 

「それじゃあやっていくよ!」

 

誰か私を暴いてくれ。晒してくれ。もうワタシが誰なのかさえ分からなくなってしまった。

 

ふと棚に立てかけられていた写真立てが目に入った。

 

家族写真、私と父と母がいる。

 

知らない父だ。高そうなスーツを着て、誇らしげに胸を張っている。腕には高級時計を付けていた。

 

知らない母だ。とてもきれいな人で、派手ではない、しかし地味過ぎない自分自身を映えさせる服を纏っていた。

 

知らない私だ。果たして自分の顔とはこういうものだったか。まるで今が幸せの絶頂というように笑顔を浮かべていた。

 

全てが間違っていた。

 

でも、どれが間違いだったのか思い出せない。

 

こんな父ではなかった。じゃあ本当の父はどういう姿をしていたっけ。

 

そんな母ではなかった。じゃあ本当の母はどういう人だったか。

 

私は私じゃなかった。なら、本物の私はどんなだったのか。

 

もう何も思い出せなかった。

 

あったはずの思い出が摩耗していく。

 

あれ、父と母に連れられていったのは遊園地だったっけ?動物園じゃなかったか?

 

あれ、父がプレゼントしてくれたのは高級化粧品だったっけ?本じゃなかったか?

 

あれ、母にプレゼントしたものは高い花束だったっけ?確か手紙じゃなかったか?

 

思い出そうとするたびに、都合のいい記憶に塗りつぶされて本当に大切だったものが貶されていく。

 

こんな風になるから、思い出すのが辛くて、見て見ぬふりをしてきた。

 

消えないように、私が私で居たはずの朧げな記憶がこれ以上薄れないように。

 

確かにいたはずの私とその家族を消してしまわないように。

 

あぁ、薬を飲まなければ。

 

「ヘックシュン!ごめんね!ちょっと風邪気味なんだ~。皆も体調には気を付けてね~!」

 

くしゃみをするフリをして、そばに置いてあった薬を飲み込んだ。

 

すぐに溶けた薬は、私の形が崩れないよう、嘘を押しとどめて事実を固めていく。

 

そうだ、私は。

 

柊 真 巷で話題のネットアイドル、ウツロイ マコトの中の人だ。

 

今の私は、夜空のような蒼と漆黒が混じるロングの髪、目はオッドアイで白と黒だ。瞳の中に流れ星が流れるようなデザインがされている。

 

嘘から生まれた本物の女の子。皆の(願い)を叶えるためにこの世界に降り立った女の子。

 

前者だけ、私にぴったりの設定だ。ぴったり過ぎて、自己嫌悪が湧いてくる。

 

ネット上で活動をしていて、チャンネル登録者は50万人。企業から商品PRの依頼やチャンネル収益化で稼いでいる所謂ネットアイドルだ。

 

主な活動はゲーム、雑談、歌。ゲームではホラゲーが苦手ながらプレイをしてリスナーに絶叫を聞かせたり、泣きべそかいたりするのが可愛いということで人気コンテンツの一つだ。次点で死にゲーや高難易度ゲーのプレイ。

 

雑談では、話しの節々に匂うお金持ちの雰囲気とそれに伴う一部常識を知らないことでの驚きやギャップが売りだ。

 

歌は、高音から低音まで幅広い音域からなる一人デュエット曲の歌い分けが再生数100万を超える等一押しされている。

 

そんな、今をときめくネットアイドル…なんて言えたらいいが、上には上がいるし、自分が有名になっているという自覚なんてない。思ってはいけない。もうワタシは上を目指さないし、現状を穏やかに維持していくだけだ。それしかできないのだから。

 

ネットアイドル、ウツロイ マコト、その中の人、柊 真は、普通…ではない女の子。高校一年生で周りからよく真面目という印象しか持たれない地味な女の子。

 

そして

 

嘘を本当に変える異能持ちである。

 

私は…私は…

 

薬によって自我を固めていく。今の私に都合がいいように自分自身に型を嵌めていく。

 

私は…柊 真でウツロイ マコト。

 

大金持ちの家に生まれた、大企業に勤めるエリートサラリーマンの父と、女優をしていた美人な母を持つ、文武両道で、眉目秀麗な才女にして、ネットアイドル。それが私だ。

 

違う

 

心の底でかすかな嘆きが聞こえた気がした。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

side過去・共感

 

「うっせば―か!!!」

 

「なによ!!助けてくれるって言うから足を運んだのにその態度っ!!!!」

 

傲慢ちきな女に罵倒を吐き捨てる。

 

俺ァ確かに国に命じられてっから、こんなことをやってるが、慈善事業で続けてるわけじゃねぇ。憲法と一緒なんだよ。憲法に従ってるから憲法の恩恵を受けられるんだ。それと一緒で、国の恩恵を受けられるから命令に応じてるだけであって、不当に食いつぶされるようなことされたら、切り捨てるにきまってんだろ。誰が自分を守ってくれねェ憲法なんざ守る必要があるんだよ。

 

「テメーのソレはただの被害妄想だろ!クソがっ!躁鬱とか聞いてたから下手に出て聞いてたのによぉ~!ただクソみてぇな愚痴聞かされただけじゃねぇかよッ!」

 

「酷い!!!私だって苦しくて、その苦しみをわかってくれる人が居るっていうから態々来たのになにその態度!?信じらんない!!!」

 

「帰れカスッ!テメーより救いを求めてるヤツなんざ他に掃いて捨てるほどいるんだよッ!俺ァそいつらに利用価値があるから動いてるだけであって、テメーみてぇな無価値のカスに関わってる暇なんかねぇんだ!」

 

「異能持ちのくせに!!!異常者だからって優遇されるとは思わないでよね!!!」

 

「はぁ!?テメェ言いやがったなァこの野郎!」

 

身体に突出したバルブが一斉に現れる。まるでハリ〇ンボンみたいだ。ポケ〇トのモン〇ターな。アイツにゃ親近感湧いて好きだぜ。そのバルブが一斉に右回転するとどす黒い煙を噴き出した。噴き出す黒い煙はどんどん多くなっていって、それと同時に俺の体は異形に近づいていく。

 

身体は膨れ上がり、筋肉ダルマみたいな有様だ。全体的に2倍3倍にまで膨れ上がって、常人じゃああり得ないほどの筋肉量となる。服は伸縮性のものを着ていたが、それでもパツパツになる。巻いていたはずの包帯が取れて酷い有様の地肌が見えた。

 

顔つきが変わっていく。眼帯を付けていて、片方しか見えてなかった目つきの悪い三白眼や、乱雑に切っていた髪が綺麗になっていき、中世的な顔つきになってくる。終いにゃ絶世の美女かっつーレベルにまで美化された。ま、眼帯してるが。

 

左腕、蛇のような生き物が巻き付いている。そいつは牙がなく目もない。ただ、物理的にあり得ないほど口を大きく開けてあくびのような動作をした。まるで相手を飲み込めるかどうか口を開けて獲物の大きさを測っているようだった。

 

右腕、腕を覆うように植物が生えた。食虫植物のハエトリグサのような見た目をしている。しかし、ハエトリグサにはない舌があった。鋭利で人一人貫けそうなほどのものを宙に揺蕩わせ、相手に狙いを定めている。

 

ひとまずはこれでいい。コイツを殺すのにゃ十分だ。

 

「ひぃっ!来ないで化け物っ!」

 

座っていたはずの椅子に後ろから倒れて、しりもち付きながら後ずさりしていく。そりゃあそうだよな。よっぽどの化け物に見えるらしい。筋骨隆々で頭に乗っけたように美人な顔がついていて、そのくせ腕にはモンスターを侍らしている。そりゃあビビるよな。でもこんな風にしたのはお前のせいだぜ?自分自身を恨むんだな。

 

「よォ!化け物だよッ!テメェがそんなこと言うからよォ!化け物の俺ぁ傷ついちまったよ!!おら!!責任取って死んでくれよなァ!」

 

そう言って俺とカスを隔てていた机を強引に引き裂く。折ったり壊したりするんじゃあない。引き裂くのがコツだ。より化け物染みた演出になる。

 

引き裂いたテーブルを放り投げてずかずかと歩いていく。増々怖がって後ずさりしていき壁にまでぶつかった。もう逃げられねぇぜ?

 

近づいて、頭を掴む。肥大化した左腕はちょうど女の頭なら掴めるくらいに大きくなっているからな。巻き付いていた大蛇が口の中をぽっかり開けて、自分の中の暗い暗い虚空に繋がっていそうな体内を見せつける。今からお前を丸呑みしてやるぞって感じにな。

 

「腹が減って仕方がないんだよこの姿。だがちょうどいいところにいい餌があるじゃねぇか。…なァ!?」

 

そうやってすごんでやると、白目を剥いて泡を吹いて失神した。じょぼじょぼと汚ねぇ音が聞こえてきて、下を見やれば、お気にの靴を汚す黄金色の液体…

 

「きったねぇなァ…。はぁ…オイ、コイツの後始末」

 

俺は身体のバルブを閉めた。どす黒い煙がなくなっていき、元の姿に戻っていく。放り捨てた傲慢女を尻目に、全身に巻かれていたはずの包帯が全部とれちまった状態だから、床に散乱した包帯を拾いつつ、俺はどこかで見ているであろうヤツに命令した。

 

また巻き直さねぇとなァ、なんて思っていると力の代償がきたもんで、俺はその場にうずくまる。今回はそこまでだったらいいんだけどな。

 

フラッシュバックする記憶、俺の記憶じゃない他人の記憶。いや俺の記憶でもあるものだ。他人の記憶だろうが体験しちまったらそりゃあ俺の記憶ってことになるだろうよ。

 

汚いおっさんがいる。汗だくだ。身体を洗ってないのか異臭がする。汚っさんが俺の両腕を片手で押さえて、胸をまさぐっていた。

 

クソッ、()の記憶か。まぁ最初がこれならまだマシか。汚っさん最後に据えられるのが一番きつい。

 

俺は必死に抵抗する。いや俺じゃない、俺が変身した顔の持ち主の記憶だ。必死になって足で蹴ったりするがびくともしない。増々興奮したのか身体全体で圧し掛かってきた。

 

頬を舐められる。クソ不快だ。気持ち悪くて吐き気がする。嫌がってもやめない。ニタニタと悍ましい笑みを浮かべている。しまいにゃ口を強制的に開けて…

 

俺はうずくまって必死に耐えた。これがあるから、いやなんだ。誰がこんな異能にしてくれって頼んだんだよ。俺は頼んでねェ。ホント、カスみてぇな能力だ。

 

記憶は徐々にひどくなっていく。五感が鋭くなって、感じる不快感は増していく。腹部に押し付けられたいつもの気色悪い感触に、少しの安堵を感じた。次のクソを乗り越えたらこの記憶は終わりだ。

 

……………………っ。

 

「死ねカス!!!!!」

 

ようやく終わった記憶を打ち消すように、床に拳をたたきつけた。ジーンと痛みが伝わってきて不快感をいくらか紛らわしてくれる。最後どうなったかって?言わせんじゃねぇよクソ!被害に遭った女は男性恐怖症になったってオチを聞かせれば想像できんじゃねぇか!?

 

誰に対する怒りかわからぬまま、俺は必死にあふれる怒りを抑えた。どこにもぶつけようがなかったからだ。汚っさんは既にこの世にいない。俺が、被害者の女にケジメを付けさせた。めった刺しにして哀れに死んでったぜ?絶望の顔をしていたよ。それでも被害者の顔は晴れなかったし、俺ァ殺した責任被ってまたカスみてぇな記憶を見せられたんだが。

 

死んだカスのことなんざどうだっていい。また、女のメンタルケアしにゃいけない。関わっちまったもんだから、死なないように見ておかなくちゃいけねぇ。関わりたくなかったんだがな。ホント。哀れに思っちまってずるずると…しまいにゃこうだ。死んだら寝覚めが悪いなんてもんじゃねぇ。苦しくてもこの世に絶望しても、生きてもらわなくちゃいけねぇ。これは俺の行動を無駄にするんじゃねェって思いからだ。せっかく助けたのに、不意にされたらじゃあ俺は何のためにここまで苦しんでんだってことになる。俺の苦しみを無駄にすんじゃねェ。

 

そんなことやってたら、部屋の扉が開いた。今更ながらだが、ここは国が管理する精神病院みてぇな所だ。重度のトラウマを抱えたヤツを助けるために国が設置した場所。そこで俺ァメンタルケアの職員見てぇなことをやってる。16歳で就職してんだぜ?しかも公的にゃ公務員扱いだ。将来安泰だよなァ!

 

……なんて、イキッてみたところで苦しい思いすんのは変わんねぇ。俺が異能持ちである限り、この苦行はずっと終わらねぇんだろうさ。

 

「はぁ…もっと手加減してくれ。逢坂君」

 

男が入って来て開口一番そういった。白衣を着ているインテリ眼鏡だ。確か精神科医をやってるんだったか?まぁインテリ眼鏡でいいだろ。

 

「うっせぇ、俺の異能はもう手一杯なんだよ。出来てあと一人か二人だ。テメェらが俺に抱えさせまくったから、許容オーバー寸前なんだよ。自業自得だろ」

 

本当だ。もう少しで俺のキャパオーバーがきて、俺が壊れる。そんなん出来ねぇ。

 

「……解除に同意してくれるのは、平坂さんと喜代田さんだ。他にも何名か手を挙げてくれている」

 

優しい人たちだ。自分達だって苦しんでるはずなのに、俺のことを想ってくれてる。だから益々ダメだろ。

 

「……ダメだろ。平坂さんは重度のPTSDだ。お国の為に頑張った人にこれ以上負担かけられっかよ。それに喜代田さんだって、解除したら死ぬぞ。まだ…男性恐怖症治ってねぇんだぞ。…治るわけねェけどさ」

 

前者は紛争帰りの人だ。めちゃくちゃ筋骨隆々で、気のいい兄ちゃんといった風貌だ。仲間を失った記憶に、ずっと蝕まれている。後者は汚っさんに襲われた人だ。めちゃくちゃ美人で、月下美人って感じの人。男が怖いだろうに、身体をビクつかせながら、俺の頭を撫でてくれる。

 

「逢坂君、君は背負い過ぎなんだ。もっと肩の荷を下ろしていい」

 

良い人達なんだ。確かに苦しい。クソ辛い。だが、それ以上に苦しんでる当人がいる。その人たちの苦しさを少しでも肩代わりできるなら、それが俺の役目だ。

 

「アンタらが俺に押し付けたんだろうがッ!……助けるって決めたんだよ。じゃあ助けるしかないだろ」

 

なんでこうなったか、もう忘れちまった。過去の記憶なんざ、苦しんでる人たちの記憶に塗りつぶされた。最近じゃあ自分がどんな人間で何が好きだったのかも思い出せない。タコのから揚げが好きだなんて思っていたが、よくよく記憶を振り返ってみれば、それは平坂さんの記憶だった。趣味はジョギングだと思っていたが、振り返ってみればそれは喜代田さんのものだった。本当の俺はどっか行っちまった。

 

「俺のエゴだよ。エゴ。テメェらは、さっさと元の人達の精神治療やってろ。救わなきゃいけねぇ奴らは山ほどいんぞ」

 

「君は…」

 

「いんだよ俺のことは!さっさとソイツ運んで行け!俺に同情させんじゃねぇ!異能が発動しちまうじゃねぇか!!!」

 

俺の異能は、同情を起点に発動する。もう一つの条件を満たさないと発動しないが、それを言ってやるほどやさしくねェ。

 

インテリ眼鏡は泡噴いてしょんべん垂れた女を運んで部屋を出ていく。俺は濡れちまった包帯を隅に置いてあるごみ箱に捨ておいて、それから…

 

「クソッ!次が始まりやがった!!!」

 

粘着質な記憶がフラッシュバックする。コイツァ左腕の蛇の持ち主だ。俺に異能を押し付けていったクソ女。右腕の聖人とは大違いだ。自分のことしか考えねェクソ女と違って、右腕の食虫植物の持ち主は、俺を想って、ぶん殴ってまで俺に休みの時間をくれた漢だ。なよっとしていて、頼りねぇななんて思っていた自分を殺してやりたいと思うほどだ。

 

まぁ…そのおかげで、俺が肩代わりしていた奴らが軒並みに死にかけたんだが。

 

俺、逢坂 勇人は異能持ちだ。人の嫌な記憶や体験を共有して、その苦しみを一部肩代わりすることが出来る。共有した人が持ち合わせている能力が使えるんだ。軍人並みの筋肉。絶世の美女の美貌、他人の異能、色々だ。その代わり、使えばそいつらの記憶がフラッシュバックする。ちなみに、使わなくてもランダムでフラッシュバックする。クソみてぇなシステムだ。

 

包帯を巻いている理由は、この苦痛が現実のものなのか判断できないからだ。幻痛のせいで、ないはずの傷口を保護しなくちゃいけないって思うし、痛みを紛らわすためにさらなる痛みを与えようと壁や床を殴ったり蹴ったりするもんだから、その怪我を手当てするのにも巻いている。

 

眼帯をしているのは、左目にバルブが付いてて、それが微妙に緩めているからだ。常に起動しているクソ便利な異能。ほんのちょっぴり緩めるくらいならどす黒い煙なんて出ねぇし、フラッシュバックする記憶も弱くて済む。その分、出力は弱いんだが。

 

発動しているのは、見えすぎる目だ。眼帯を通しても見えるし、ソイツの個人情報とか見えちゃいけないものまで見える。なんなら、カラスの視界やシャコの視界みたいに、人間じゃ見えない光も見える。見えすぎるから、出力絞ってるし眼帯をして、見える力を制限してる。それでも便利なもので、相手がどういう気持ちなのか内心を見ることが出来るんだからクソ便利だ。異能持ちにゃ出力不足で効かないが、逆に異能持ちを探す手段になる。

 

色んなヤツの苦しみを背負い過ぎて、もう自分が何だったか思い出せなくなっちまった。本当の自分なんてもう覚えてねェ。ただ、人の痛みに共感できる人間になりなさいって言葉だけが、ずーっと記憶にこびりついてる。たぶん、それが俺の原点…のはずだ。きっとな。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

side現在・虚実

 

フラッシュバックする記憶、それを振り払って俺は叫ぶ。

 

「いまから…!」

 

もう後戻りはできねぇ。これを止められなかったらもう終わりだ。

 

「目標ウツロイマコト!いや…柊 真!ソイツがいるスタジオに!」

 

「リアル逆凸を仕掛ける!!!!

 

「制限時間は生放送が終わる2時間後!猶予はそれしかない!」

 

バカみたいだろ?俺たちはバカで自己中心的でイカレたメンバーしかいないから、こんなクソみたいな作戦しか思いつかなかった。

 

「場所は把握済み!立ちはだかる敵は人に寄生するヒイラギだ!人を傷つけるなよ!ヤるなら木に限定しろ!そうすりゃ宿主の人は無事だ!」

 

クソほど悩んだがやるしかねェ。考えてる時間も惜しい。一度失敗したんだ。二度目の失敗は死を意味する。

 

「今からリアル逆凸して!ネットにデジタルタトゥーを刻みつつ!アイツのウソをひっぺはがすぞ!」

 

改めて、クソみたいな作戦に半ば自棄笑いをカマして、俺は楽し気に叫んだ。

 

「最低最悪な逆凸の始まりだァ!」

 

「行くぞォ!」




感想評価よろしくお願いします。

始まりました。1.5章。

.0章がヒロインを救う物語なら、.5章は主人公を救う物語です。

お姫様を、世界を救うのは勇者様ですが、じゃあ勇者様は誰に救われるんだろう?これが根底にあります。.5章のお話は間章とは言いましたが、.0章の本編にも結構関わってきます。原作のお話が.0章なら、.5章はオリジナルストーリーみたいな感じです。原作だけだと救いようがない話を、主人公が頑張って原作外でも行動して、良い方向に変えていく…みたいな。

投稿頻度は先も言った通り、2日に1回頻度になります。気長にお待ちください。

2023/11/30
改稿したことがわかるように削除して改めて挿入投稿しました。
ようやく改稿作業に入れた…。忙しいよォ!でもエタったわけないのであしからず…
プロローグに過去編とは別に現在・虚実編を追加。
(主に前半部〜〜〜で区切られたside現在・虚実と、最後の〜〜〜で区切られたside現在・虚実の話)

第二章ヒロイン投票

  • 支配系ヒロイン()
  • 暴力系ヒロイン()
  • 上位者系ヒロイン()
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