少年少女が抱える闇で殴りあいをさせたかった   作:よくメガネを無くす海月のーれん

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2023/12/09
おまたせ、待った?

何でランキング載ってるんですか…
何でランキング載ってるんですか!?
はい、三度見しました。読者様にケツ叩かれたので頑張ります…

戦闘描写…ムズイね。色んな作品を読み漁ってるけど
≪カンカンッ、ザシュッ≫みたいな効果音付きの方が臨場感あふれるんじゃないかとか
[相手の襟をつかんでそのまま手前まで引っ張り体勢を崩したのちに、思い切り振り上げた膝を鳩尾に叩き込んだ]みたいな描写重視のやりかたとか

「才能があるってのは… 

互いの武器がぶつかり合い火花を走らせる。片方は流派に則った正道の構えから繰り出された一撃に対して、もう片方は流派もクソもない完全な我流で互角にやりあっているという事実が、○○を焦らせる。

羨ましいことだなぁッ!」

高ぶる感情を武器に込め、思い切り振りぬいた。両者は後退し、仕切り直しとなる。

みたいな会話の間に地の文を挟むやり方なのかとか
色々悩んでたら遅くなったよ。
他にも、環境描写と心理描写に割きすぎて、行動に対する描写が足りないとかいろいろ苦悩がね…。

そんなわけで、どうぞ


誰もが一度は考えたことある/第二ラウンドよ 改稿(改稿前 誰もが一度は考えたことある)

「ま、待ってくれ!?」

 

「待たないといったはずだァ。ここまで聞いて、待ったは通じねぇ」

 

畳みかける。すまんな。知ったからには協力してもらう。

 

肩を組む腕に力を入れた。引き寄せて、顔を近づけて話を続ける。

 

「世界を救うってそんな大規模な異能なんておかしいはずだろっ!出力がデカすぎるはずだっ!」

 

さっきまで吐いてた顔を別の意味で青くした柳田が俺を振りほどこうとするが、残念俺ァ鍛えてるんでね。振りほどけない。振り払ってもらうと困るんだ。わかってくれよな?

 

そして尚も挟まれる言葉に俺は内心舌舐めずりした。良いねぇ鋭いじゃねぇか。その知識は実体験か?それとも先生か?俺はまだお前を()()してないぜ?

 

だから脅迫してんだ。まぁ気付かねぇか。人生の積み重ねが違ェってなもんよ。

 

だが、褒めてやる。お前は先生や白鷺と違って案外まともらしいな?

 

動揺が言葉に現れているが的を得ている発言だった。確かにそうだ。そんな大規模な異能はあんまりいねぇ。居たとしても何かしらの犠牲を払ってそうなっている。例えば制御を捨てていたりな。

 

だから、代償なしの広範囲で高出力、持続力の高い異能なんて都合のいいものはあまり存在しない。あまりな。存在はするぜ?正真正銘の化け物だがな。

 

だが、アイツは違うぜ。アイツは……

 

「理由がある。嘘を本当にする力で、コイツのミソは対象を選ばない。それこそ、異能すら対象となる」

 

異能に絡繰がある。異能は別に魔法みてぇな都合がいいもんじゃないぜ?過程がなくなるなんてことはない。結果にゃ必ず過程がある。そうなった経緯がある。

 

「はっ…?なんだよ?異能を対象って…」

 

「いうなればスイッチが入ったんだ。『明日振るう異能の力は今日よりも出力が上がっている』。もちろん、そんな簡単に異能の出力が上がるわけがない。異能ってのは心に起因する物だ。心に何かしらの変化がなければ強くも弱くもならない。つまり、『嘘』だ。だから『本当』になった」

 

アイツが吐いた嘘なら適応される。一歩間違えたらデ○ノートみたいなことも出来るんだよ。新世界の神になれるぜ?

 

「ここで、異能が循環した。入力と出力の対象が同じになっちまったんだ」

 

対象がずっと嘘を吐き続けることになってる。それを本当にしてるから、どんどん出力が上がっていっている。

 

本来はそんなに力を持っていなかったはずなのに、たった一言のせいで制御できない化け物が生まれた。

 

「っ…?ま、待ってくれ。それじゃあっ!?」

 

この異能の暴走は

 

「あぁ、お察しの通り、時間が経てば経つほど出力はどんどん上がっている。水風船みてぇにな。ぶくぶく膨れ上がっている。そして、アイツの異能は『嘘』を『本当』にすることはできても、『本当』を『嘘』にすることはできない。戻せない」

 

()()()()

 

「じゃ、じゃあ、逆に『明日振るう異能は今日よりも弱くなっている』って言えば…!?」

 

頭が回るヤツは好きだ。そうだよ。蛇口が緩んでるようなモンだ。締めればいいって話だよな。でも…

 

「あぁ、治るはずなんだよ。でも治さなかった。時間が経ち過ぎたんだよ。夢に浸りすぎて、現実を捨て過ぎた」

 

強すぎて、万能で、やれることが多いから、生まれたんだ。生まれちまったんだよ。

 

人は弱い。嘘は甘い毒だ。その毒杯を呷った人間は次を求める。

 

頭に入れろよォ、後輩。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?嘘吐きをやめられない理由なんて人間が弱いからにほかならねェ。

 

「そんなら自業自得じゃ…「違う」」

 

確かに毒杯を呷ったのは柊 真自身だ。でもたかがかそれくらいで死ぬなんてあんまりじゃないか?

 

「簡単なことだよ。お前は軽い嘘を吐いたら死ぬ状況に納得できるのか?そういうことだ」

 

「それは……」

 

口をつぐんだ柳田、よかったよ。お前にまだ人の心があってよかった。やるせないと思ってくれてよかったよ。

 

だんまりになる理由はわかるか?そりゃあ納得できないからだ。俺が救いたいと思ったのも、納得できねぇからなんだ。

 

共感しろよ。それが俺の武器だ。俺はハイスペックな人間じゃねぇ。使える手札を増やすことはできるが、十全に扱うことはできねぇ。だから、いつだって俺の切り札は共感だった。俺にはこれしかねぇからな。これしか残らなかったの間違いか。嫌になるぜまったく…。

 

「いったろ?嘘で塗りつぶされそうになってるって。今の柊 真はほとんど存在していない。アレはニセモンだ。アイツが望んだ理想の姿であり、嘘の塊、ドッペルゲンガーみたいなモンだ」

 

やれることが多いからこそ生まれたんだ。嘘の柊 真が。異能自体が自我を持った…化け物が。

 

だがこの異能の唯一の救いは過去を変えられないことだ。過去を塗りつぶすことはできても存在した過去は変えられない。

 

じゃあどうするかって?簡単だよ。過去を表す物や出来事を周りから消していけばいい。

 

過去を変えることはできないなら、過去に関わるものを消して、新しい過去()で上書きしてしまえばいい。

 

誰も覚えていない過去は過去じゃなくなる。なかったことになる。それを実行しようとしている。

 

だから、嘘は元々の柊 真を殺そうとしている。もう消せるモンは消したと思ってる。思い出の品も、家族も、全部嘘で塗りつぶしてなかったことにしようとしている。最後に、殺すことが出来ない元々の柊 真(過去)に、自殺を促そうとしているんだよ。

 

もし、心を殺してしまったら、晴れて嘘は本当に成り代わる。末路はわかるよな?嘘を本当にできる化け物が好きなように生きるんだよ。メアリー・スーもびっくりのご都合主義の始まりだ。

 

「アイツは自分が作り出した嘘に殺されそうになってる。本当に殺されかけてるんだ。例え本来の柊 真が『明日振るう異能は弱くなる』といっても、嘘の柊 真が打ち消す。嘘の柊 真が強く強く、自分自身()を願ってるんだよ」

 

「理想の自分が自我を持ち始めた。願った自分が思考を持った。言い方はいろいろあるが、アイツは異能によって自分の理想の姿になって、それ以上を求めた故に、理想に潰されかけている」

 

「異能が自我を持っている」

 

「なんだよソレ…」

 

振り払う力が抜けて、顔に色濃く絶望が表れる。救いようがない話だろ。だから救いたいんだ。

 

「こんなの、あんまりにもあんまりだ。よくあるだろ?こういう人間になりたいって。例えば…アイドルとかな。それを願ったら叶ったんだよ。叶っちまったんだ。アイドルになれちまったんだよ。だから…次を求めた」

 

「ささやかで叶わないはずの願いが、人を狂わせた。柊 真を狂わせた」

 

人は次を求める生き物だ。満たされた幸福の水準はどんどん上がっていく。そして、いずれ満たされていた幸福は日常に変わっていく。一度上げた生活水準を下げることが出来ないように。一度満たされた幸福の水準を下げることはできねェ。それが人間だ。含蓄あるだろ?実体験だぜ?

 

「願いがどんどん叶ったんだ。そりゃあ嬉しかっただろうよ。でも理想ってのは現実があるから成り立つモンだろ?もし、その理想が現実になったら次はどうなると思う?」

 

目標は今の基準点を元に決まる。お金持ちになりたいと願うのは現在の財布や口座の中に不満を持っているから生まれるんだ。美味しいものが食べたいと願うのは、今の食生活があるからだ。基準がある。なら…

 

「理想は現実に変わったなら、次の理想を求めだすんだ」

 

基準点がどんどんズレていくんだ。ものさしのプラスだった地点が0になった。そういう話だ。

 

「そんで、現実は忌まわしき過去になる」

 

そして、0だった基準点はマイナスになる。

 

成りあがったヤツからしたら、成り上がる前の自分は消したい過去だ。成功したヤツにとって、燻っていた時の話は触れたくない過去だ。

 

それを消せるとしたら消してしまいたい。そう考えてもおかしくない。

 

マイナスをなかったことにしようとしている。

 

文字通り、()()()()()になるために。失敗がない人間になるために。シミ一つない人間になるために。

 

「嘘のアイツにとって、元のヤツは理想を叶えられなかった負け犬だ。だから存在を消そうとしている。成り代わろうとしている。"夢を叶えた自分で"、"夢を叶えられなかった自分"をなかったことにしようとしている」

 

「いいか?アイツは治せないんじゃない。()()()()()()()。ニセモンだろうがモノホンだろうが、アイツは柊 真なんだ」

 

異能が自我を持つという言葉の意味がわかったか?

 

「クソッ…な、なんだ。なんなんだよ…ソレ…!喋らないでくれっ!これ以上話さないでくれ!理解したくない!異能が人を乗っ取るのか!?そんなことあっていいのか!?」

 

ガキのように叫ぶ柳田。目には涙がにじんでいる。感受性が高い、キツイだろうが現実だ。現実なんだよ。

 

「救いようがなさすぎるッ!異能は心の病気みたいなものだろう!?」

 

肩に力を込める。言い聞かせるように俺も叫んだ。納得してくれよ。じゃないと話が進まねェ。

 

「今から話すことはどうしようもない現実だ!耳を塞ぐな目を瞑るな!」

 

目を瞑ろうとする柳田を見据えた。逃げるな。いずれ向き合わなくちゃいけねぇんだ。今向きあっとけ。

 

組んでいた腕を外して、柳田の両の二の腕あたりを掴んだ。ちょうど真正面に向かい合う形。腕に力が込められる。いてぇだろうが、俺も止められない。止めることが出来ねぇ。

 

口が回る。俺だって認識したくない言葉が口から次々と吐き出された。異能持ちにとって絶望の言葉。

 

「異能はソイツが抱える生来の願いや性質、求めているものを叶えるために発現すんだ!なぜ異能が人の闇から発現すると言われていると思う?」

 

揺さぶる。揺さぶって夢でないことを伝える。正気を保て。心を壊すな。

 

「そりゃあ倫理や道徳、社会、果ては本人にとって実現してはいけないものだからだ!リスクに対してリターンが釣り合ってないんだよ!クソがっ!知ってるか!?異能は神からの天罰、もしくは悪魔の契約なんて言われたりするんだよッ!願いは等しく災いとして本人に降りかかるからなッ!身の丈に合わない願いをもった末路ってことだよッ!」

 

俺自身、こんな現実を振り返ることは心底辛い。辛いさ。辛いが……、()()()()()()()

 

何人異能持ち諭してきたと思ってんだ。()()()()()()()()()()()()()。ガキを導いてやるのもジジイの務めってなもんよ。

 

「な、なんだよ…おかしい…おかしいだろ。生まれもったものが原因の異能は…生まれながらに罪だっていうのかよ…」

 

焦点が合わなくなっている。歯はカチカチと鳴らされ、唇は青い。汗が嫌な感じに流れている。パニック症状か?精神が不安定になっている。

 

耐えろ。止める気はねぇが、もう一息だ。

 

「落ち着け!一回深呼吸しろ!」

 

息を吸わせる。過呼吸気味だ。吐く息が浅い。無理やり深呼吸させなきゃいけねぇ。

 

異能を発動する。『風雷貌』だ。風と雷を操る異能。汎用性が高いから『消遮必滅』と合わせて常用してる。

 

風を操って無理やり空気を送り込む。強風が口に入り込むみてぇにな。コツは呼吸に合わせて空気を送りこむこと、そうすりゃあむせにくい。

 

わかる、わかるぜ。おかしい。おかしいはずなんだよ。なんで生来の特性で苦しまなきゃいけねぇんだ?。なぜ、罰せられるべき罪として罰せられないといけない?

例えば、『舌裂散寸』の持ち主は、自分を指したとある単語にコンプレックスを抱いていた。だから、それを言ったヤツを殺してやりたい、喋れないようにしてやりたいと思っていた。でもよ、思うだけなら罪にならないはずだろ?それを罪として罰せられるなんておかしいだろ。思うことは罪なのかよっつー話だ。

 

幾らか冷静さを取り戻した柳田が俺を見つめて口を開いた。

 

「異能って………なんだよ……?」

 

「……俺の所感だが、たぶん真実だ。長く生きてきて異能はそういうモンだと理解したことがある。心して聞けよ」

 

今から伝える言葉は、俺の経験から基づくもので、どうしようもないほどの真実だ。俺自身、嘘だって指摘されたら諸手を上げて喜ぶよ。こんなの、あまりにも救いようがない。

 

絞りだされた言葉に俺は現実をぶつけた。目を反らすな。向き合えよ。

 

「その人が抱えてる隠したいこと触れたくないことを曝け出すンが異能だッ。まさしく人の闇なんだ。光を当ててはいけない黒の部分が異能だ」

 

「黒の部分って…」

 

「自覚しろッ、異能は心の病気じゃねェ」

 

「異能は……ソイツの一部だ。ソイツそのものだといってもいい」

 

『舌裂散寸』は確かに発現したヤツが願ったことなんだよ。でもそれは叶えるべき願いじゃねェはずだ。心の中だけに留めておくモンのはずだ。

 

だって、その単語を発した時点で舌を裂くことができるヤツが社会に馴染めるわけがねェからな。

 

NGワードを発しただけで人を殺せる人間を世間は同じ人間だと思わねぇだろうよ。バケモンだよ。バケモン。そういう目で見られる。

 

俺の言葉は徐々に力が入っていた。実体験が、今までの人生が、言葉に重みを与えてきたからだ。

 

「潔白な人間なんてこの世に存在しねェ!だれだって何かを抱えているッ!それを世間に曝け出されて本人もそれのせいで苦しむ!それが異能なんだよッ!」

 

とめどなくあふれ出した感情が、言葉になって外へ出る。抑えていたはずの心がどんどん剥き出しになっていく。態とじゃないが、狙ってやった。こうした方が、共感を得られやすい。

 

「隠したい自分が暴れ出す!それが異能として現れる!」

 

この気持ちは嘘じゃないが、自分の気持ちを利用するくらいのことはできないとな?

 

「理解しろ!理想の為に自分を殺すことを選択できる人間がいる!そしてそれは、秘密にしていたことだったんだよ!柊 真自身が!隠していたことなんだよ!」

 

秘密を人にバラされて人生終了、言葉にすれば簡単なことなのに実際は本当にシャレにならん。しかも、その秘密がどんなものであれ、周りや自分に危害を与えるかもしれない者に変わるんだ。勘弁してくれって話だよホント。

 

「曝け出してしまったら世界に馴染めないから!それ以前に自分自身が死んでしまうから!」

 

「蓋をしてなかったことにしていたのに、その一面が!異能として現れた!」

 

「白鷺だってそうだ!自分を変えたり増やしたりできる異能だろ!?つまりは自分が増えたり変化したりすることを望んだ人間だってことだ!それを受け入れられる人間だってことだ!」

 

「俺だってそうなんだよ…!俺の根本は忘れたが!確かに俺は隠したいナニカを抱えていたはずなんだよ!それが異能として現れた!」

 

「人の痛みを受け入れられる人間が!人の記憶を追体験して平然としている人間が!まともな人間なわけないんだよッ!」

 

「異能は闇だ!隠さないといけない人の闇!世間には馴染むことが出来ない狂った一面!」

 

「いいかよく聞け…!」

 

「俺も…!お前も…!」

 

「異能を発現させたなら、人でなしになったんだッ……!」

 

「もう社会に本当の意味で馴染めない。隠していた一面が表出したからだッ…!」

 

「はみ出しモンが社会でやってくには仲間を見つけるしかねェ…!」

 

「これは…お前を救う話でもあるんだぜ」

 

さぁ、俺の言いたいことは終わった。俺が経験したどうしようもない世界の真実だ。嘘なら嘘だと言ってくれていい。そんなら俺が救われるからな。

 

あとはお前次第だ。お前が選択するんだ。俺に選択権はねェ。俺はあくまでメッセンジャー、語り手、話者、色んな呼び方があるが、ともかく判断材料を提示するだけで、判断はお前に委ねる。

 

ふぅ、すっきりしたぜ。たまにゃ本心を吐き出さないと人間壊れちまうからな。ったく、脆いんだよなァ人間の心ってヤツァ。

 

俺はとりあえず適当なフラストレーションを曖昧模糊な本心に混ぜ込んで、都合がいい言葉に包んで吐き出した。人間ってのはそこそこに不便で便利な生きモンのようで、こうやって感情の真意を隠すことだってできるし、相手に言葉の解釈を任せることもできる。相手に本来の意味が伝わらないという意味じゃ不便だが、こうして濁したいときなんかは都合がいい。

 

俺だって本当にそうなのかわからねぇよ。俺は神じゃねぇ。でも俺が感じたことを話すことはできて、それをどう解釈するかは聴き手次第だ。聴き手が話に神を見出そうが、悪魔を見出そうが、それはソイツの解釈で俺の考えじゃねェ。勝手にしろ。

 

自分勝手だって?いったろ。人でなしだぜ?俺ァな。俺以外もそうだぜ。言ってなかったが、異能持ちは多かれ少なかれ狂ってんだ。いや?狂ってないと発現しないが正解か?『舌裂散寸』は、自身に対する言葉にゃ敏感なのに、他者に対する言葉にゃ異常なほどに無頓着だった。誰が何言っていようと、自分以外の事なら何の興味も持たない。他人に興味がない。

 

『消遮必滅』は…自分に対する意識が欠けていたな?自分の身体がどうなろうと気にしない。世界を独特の価値観から認識していた。死に黒ではなく白を見出す思考。太陽を見て、まぶしいと思うのではなく、太陽の光量によって認識する色が違うことに疑問を見出す。常人じゃあんまりなじみのない発想になるようなヤツだ。だから、存在の透過なんて異能を発現するんだが。

 

白鷺燐火だってどっかしら狂ってんだろ?自分を増やしたり変化させたりすることから察するに…『消遮必滅』と同類か?自分に対する意識が低い。あるいは…自身の命を無価値だと思ってる…そんなところか?まぁどっちにしろ狂ってんのは同じことだ。

 

「仲間を作るんだよ、兄弟(人でなし)。先輩の言うことは従った方がいいぜ」

 

「さぁ、もう一度聞く。世界を救うために協力してもらえるか?もちろん返事はYESかはいだ。拒否はねェ。理解しろ。拒否したら自分を殺すことになるということを。孤独になるということを」

 

そんなことはねェ。都合のいい言葉だ。自分単体で完結する究極的なエゴを持った人間だっているからな。たかだか孤独になったくらいで自分が死ぬヤツなんて異能持ちはあまりいない。

もうちょっと言うなら、異能がたかだか孤独くらいで自死を選ばせてくれない、が正しいな。異能ってのはソイツの一面だって言ったろ。柊 真の隠したい一面は…嘘か?たぶん嘘。だから、自分を殺そうとするなんてモンが現れた。嘘吐きの自分を本物にしようとしてるってことはよ。嘘つきを治そうとしてるってことに言い換えられないか?吐き続けてきた嘘に苦しむなら、その嘘を本当にしてしまえばいい。そういう思考なんだよ。

 

だからまぁ、柊 真が例外というか…マイノリティだ。普通はそんなんじゃねェよ。もっとこう…面倒なパワフルさがあるんだ。例えば隠したい一面が性癖だったら、異能は性癖に起因するものになるだろうよ。異能持ちは狂ったヤツが発現するモンだから、「この発現した異能…隠さなきゃ」なんて思考じゃなく「発現しちゃったんだから従うかぁ!」という開き直りをする。そして、其処で発生するリスクを考えねェヤツが多い。ずっと我慢してきたものが異能という形を持って外に出てきたんだ。否が応にも自分の隠してきた性癖と向き合わなくちゃいけないし、その性癖を叶えるための都合がいい異能という手段もある。我慢できねぇはずがねェ。異能持ちに異能を使わないという選択肢はねェのはそういうことだ。そう考えると、俺よりも異能を世間に隠し続けてきた先生ってのはすげぇんだよ。まぁあの人も使うときは躊躇いなく使う面は異能持ちらしいが。

 

人の闇なんて言葉を変えているが、人それぞれで言葉を変えるのは当たり前だ。性癖とも、食人衝動とも、他人に全く興味が持てないサイコパスとも、自分以外のことを考えない自己中心的とも言い換えられる。でもそれじゃあ纏まりがないし、「異能はソイツが隠したい性癖だ」なんて言ってみろ。白けるだろ?だから言葉を選んだだけのこと。

 

騙してる?さぁ?俺は別に柳田に嘘を教えたわけじゃない。ただ言葉を並べただけだ。それで判断すんのは柳田だろ?これ以上の情報は柳田がパンクしちまうだろ?優しさだよ優しさ。

 

俺は歯列をギラつかせて、選択肢を回答者にバレないよう意図的に潰した協力に対する回答を迫った。

 

頭を抱え、悩む柳田。悩んでも解決しない。なんせ、助ける以外の選択肢がないからな。助けないとお前たちの身にも危険が迫る。嘘で塗りつぶされる。心情的にも助けたいはずだ。こんな救いようがない話はな。

 

何に悩んでいる?自分はどうにもできないという力不足からか?それとも、やべぇ異能持ちに関わるというリスクを考えてからか?どっちにしろ…お前に選択肢はねぇはずだぜ。

 

選択を先送りなんてせずによォ、さっさと言っちまいな。たった一言、はいって言うだけだぜ。簡単なことで赤子でもできる。立った二音だからな。ほら、さんはい!

 

「待って」

 

「おん?」

 

今誰が喋った?俺の周りには柳田以外にしかいねぇ。その柳田も、頭は抱えていたが、口元は見えていて動いていなかった。誰だ?

 

「私の修介君をいじめないで」

 

「白鷺か?どこにいる?」

 

当たりを見回す。どこにもいない。だが、確かに白鷺燐火の声がする。

 

「いいわ。修介君の代わりに言ってあげる。yes、イエスよ。白鷺燐火が協力するわ」

 

違う。声は…柳田から発されている。

 

俺は柳田の腕を掴んで顔が見えるようにした。そして絶句する。

 

「ちょっと待ってて、こちらの用は済んだし、そっちへ行くわ」

 

「りょ、両面〇儺…?」

 

頬に口がある。もう一つの口が平然と会話している。おまっ…!なんて異能発現させてんだ…!

 

俺は柳田修介の異常性を理解した。コイツの歪な形はこれが正体だ。白鷺燐火の異能が身体の中で混ざっている。コイツはもしかすると異能持ちじゃないのか?異能持ちに寄生された被害者?いやだが、白鷺燐火とは違う異能らしき反応もある。詳しく見なくちゃいけねェ。

 

俺は目の異能を強めて、柳田修介を見ようとしたとき…

 

「えっち」

 

ちっ!遮断されやがった!

 

急に見えなくなった。目の異能ってのは例えるなら、窓から覗き見してる感覚だ。カーテンを閉められちまったら途端に見えなくなる。出力を上げればカーテンの隙間から覗き見ることはできるし、カーテンを透過よろしく透かして見ることが出来るが…それをやると余裕で死ねる。

 

「なにがえっちだ馬鹿野郎!人の身体に寄生するヤツが何を言いやがる!」

 

柳田が白鷺の異能で命を助けてもらったということは教えてもらっていた。いたが…どうやって助けられたかは聞かなかった。重要じゃないと判断したからだ。柳田も話さなかったから、優先度が低いモンだと判断した。そりゃあ自分の命を寄生されて救われましたなんて言いにくいだろうがよッ!クソがッ!

 

俺の予想とは違う方向に行こうとしてる現状に焦りが生まれる。冷静になれ。一息深く息を吸って、頭をフル回転させた。

 

白鷺はなおも口を開く。

 

「同意の上よ。私の異能は自分にしか対象にできないもの。じゃあ私を混ぜ込んで”私”にすれば助けられるでしょう?」

 

「それを実行する人間は少数派だよッ!」

 

クソッ!やっぱ異能持ちはイカれたヤツが多い。どうする?俺が出会ってきた中でイカレランキング上位に位置するヤツっぽいぞ…!『消遮必滅』はまだ俺に合わせて会話のレベルを下げてくれる優しさがあった。『舌裂散寸』は他人に興味がないといっても人間の範疇に収まるヤツだ。白鷺燐火は、どうにも人間を逸脱しているっぽいぞ。『消遮必滅』みたいな狂気の天才じゃねぇ。根本的なモンが合わない…そう宇宙人や化け物の価値観だ。自己変化系はそういうヤツが多いって傾向でもあんのかねェ!

 

俺は今までの経験から照らし合わせて予想した白鷺燐火の性格に歯噛みしながら、当の本人が来るのを待った。柊 真を助ける作戦は揃ってからだ。その口だけの状態で会話に参加されても困るんだよ!主に精神衛生的に!

 

ずりゅっ!!

 

例えるならそんな異音だ。絶望から立ち直りかけてる柳田修介の首元から腕が生えた。右腕だ。右肩が二つある。首が異様に盛り上がっている。

 

「初めてのリスポーンね。うまくいきそうでなによりだわ」

 

そんなことを頬口はのたまいながら、順繰りに生まれてくる。柳田修介という殻から生まれてくる。

 

生えた右腕が柳田の元の右腕を掴んだ。一気に力を入れて、身体を持ち上げたのか、右肩から胴体や首が波状にどんどん形成されていく。

 

裂けるチーズ、そんな感想が頭に浮かんだ。

 

頬にできた口がどんどん横に引っ張られていく。それと同時に、右耳のすぐ上に()()が生えた。それがどんどん盛り上がっていく。ついで、柳田の右目の真横に目が生える。

 

「なんだ…なんだこれ…?」

 

柳田は戸惑っていた。柳田にとってこの自分の変化は異常なものらしい。そりゃあそうだろうな。これが普通だったらドン引きだ。

 

徐々に徐々に肉が盛り上がっていって…

 

首が二つある人間が生まれた。柳田の顔と、白鷺の顔がある。まさしく化け物だ。腕が三本あって、胴体が歪につなぎ合わされている。

 

プールから上がるときみてぇだな。現実逃避気味にそう思った。

 

「た、助けて…助けて!」

 

柳田は四つん這いになって俺に手を伸ばしてくる。俺は驚いて後ろに尻餅をついた。知らぬ間に後ろにずりずりと下がっている。本能的に恐怖を感じている…?確かにこれは…冒涜的だ。冒涜的すぎる。

 

また新しく生えた左腕が、頭を軽く撫でたかと思うとそのまま反対側の柳田の左肩に手が添えられ、同じく右腕も柳田の右腕に力を入れて、ホントにプールから上がるときみたいな動作で身体を柳田から引き抜いた。反動で柳田が地面に沈む。

 

「うあっ」

 

そう言って柳田は動かなくなった。し、死んだ…?死んでねぇよな?大丈夫だよな!?

 

そして代わりに…生まれた、白鷺燐火が。

 

「い、痛みとかねぇのか?」

 

思わず声が出た。

 

「?痛くないわよ?むしろ気持ちがいいものだわ」

 

「きっしょ!てかお前じゃねぇよ!おい柳田!大丈夫か!」

 

俺は茫然自失としている柳田に駆け寄り声をかけた。肩を揺する。動かない。横で素っ裸の白鷺燐火が手を胸に当てたかと思うと服が体からにじみ出てきた様相にドン引きしながら、必死に肩を掴んで揺さぶった。

 

「大丈夫か!オイ!しっかりしろ!この際さっきの選択肢は後だ!後でいいよ!しっかりしろよ!生きてるか!?生きてるよなァ!?」

 

「い、生きてる………」

 

か細く絞り出された言葉にほっとしながら、続けられた言葉に絶句した。

 

「なんか……なんか……持ってかれた気がする…」

 

クソッ!人を助けるために協力を頼んだら、助けなきゃいけないヤツが増えやがった!

 

なにかを持ってかれたらしい柳田を支えて顔を見る。特に外傷はねぇ。ただ魂が抜けたみたいな顔してやがる。

 

「俺…俺…人……間………?」

 

そんな柳田に目もくれず、白鷺は肉体をぼこぼこと変化させる。

 

一人二人三人、次々と増殖していくのを舌打ちしそうになりながら見つめた。俺もバルブを開ける。準備しなくちゃいけねぇ。今は柳田に構ってる暇が惜しかった。

 

小さくなった飴をがりりっと噛んでから俺は白鷺の動揺を誘うべく口を開く。

 

「増殖する異能か…!柳田に自分を埋め込んで起点としたなッ!」

 

「生まれる時に必要なリソースを柳田から奪ったからこうなってんだろうッ!お前は柳田を殺しかけたんだッ!」

 

口から漏れる飴の破片、甘さが思考を冷静にさせた。こういう時こそ冷静になれ…そうした教訓が経験として身体に残っているから、甘さというスイッチを押された脳は、現状判断で自動的に思考を戦闘仕様に染め上げてくれる。

 

「そんなことないわ。加減してるもの。それに…彼を生かすために必要なことだったからそうしたのよ。彼からは後から了承をもらっているわ」

 

視野が広い。思考がクリアになる。目端が効いて、匂いが鋭くなる。存在するかわからない第六感がささやく。一筋縄ではないと。

 

「っち、やっぱ異能持ち(人でなし)か…」

 

そのささやきが示す通り、増えた白鷺が腕や足を変化させていく。両腕を大盾のように変形させたヤツ、全身から棘を生やした3mくらいあるヤツ、複数人が合わさって、無数の顔、無数の腕、無数の足の化け物になったヤツ、指導室ン時みたいに腕を銃にするヤツ、足や腕を触手状にしたヤツ、デケェ腕を持つ白鷺が肉体を槍に変化させた白鷺を持ってるのもいる。

 

「ははっ、こいつァ……骨が折れるぜ」

 

対する俺はバルブを8つ出現させ、内6つをぶん回した。噴き出す煙、それに塗れた俺は肉体を変化させた。いつものパンプアップ、透過、浮遊、それに加えて新しいヤツだ。

 

一つは触手。バルブを開けるための両腕の行動制限をなくすためのものだ。他は二つの異能を合わせたとっておきと最後の切り札として使う二つの異能をあわせた奥の手となる。

 

とっておき、俺が最終決戦兵器としてよく使う複合異能。名前は『獅肢喰餐』四肢をライオンと同じものにする異能と経口摂取したものの即時吸収を行う異能の複合。顎は強化されないから、自力で噛み砕かないといけないデメリットはあるのの、前者の異能の副次効果として、ライオンの力に耐えられるような肉体の強化が施されるからデメリットなしだ。自分の力で自壊するなんて目も当てられねぇからってことなんだろう。

 

元々の異能は『最後の晩餐』、『獅子真鍮の蟲』。前者は食べられるものがなく、何が何でも腹を満たしたいという願いから毒草を食べた男が発現したもの、後者は裏切り者を摘発するために苦心した女が発現したものだ。前者はソイツが口に入れたものなら何でも食える、後者は真鍮製のライオンに姿を変え、裏切り者だった場合に相手を真鍮に変えることができる噛みつきや引っ掻きをすることが出来る。

 

これを組み合わせると、前者は口の保護が無くなり、後者は真鍮に変える能力が無くなるが、俺がかみ砕けるものなら何だって栄養に変えることが出来る、ライオンの四肢とパワーを手に入れることが出来るというものになる。

 

異能の組み合わせは無限大だ。ただ相性次第でよくわからないモノになって死ぬことが多いから、正直言って何でそうなるかわからねェ。とりあえず、分身体が浮遊と『最後の晩餐』を混ぜたら身体が破裂して死んだし、『風雷貌』と『獅子真鍮の蟲』を組み合わせたら、なぜか対象を熱病にする毒ガスをばら撒く頭が獅子で翼が生えた姿になった。ネットで調べてみたところ、パズズという魔神に酷似していた。なんでだ…?

 

そんな組み合わせ次第で意外なことになる複合異能だから、俺が隠している最後の切り札はどれだけヤバイかということが伝わるだろう。

 

だが今は明かさねぇ。ネタバラシは最後にするモンだぜ…?

 

俺は思考を巡らせながら、メキメキと身体を変形させていく。

 

四肢は獣の如く、指に備わる爪は太く大きく鋭いものへ、靴が窮屈になって脱ぎ捨てると露わになった足はネコ科の肉球とパンプアップされた筋肉をさらに付け足すようなしなやかな筋が盛り上がっていた。無数のバルブが突出し、特に左胸のデカいバルブがひと際目立つこの姿。

 

全身を毛皮に覆われ、ハリネズミモドキの獣人となった俺は、舌なめずりする。

 

コレが、俺が持ちうる中で白鷺に対抗できるメタ編成だ。

 

ライオン由来の筋力と敏捷を選んだ理由は、動きを止めれば数による袋叩きに遭うからだ。防御を固めるよりもヒット&アウェイで戦った方がいい。ネコ科らしく、この姿になると落下による衝撃を殺す事ができるようになる。浮遊や透過は性質上、着地の問題がついて回るからこの姿だと都合がいいというのもある。

 

即時吸収は増殖体を食べることでの戦力の減少と長期戦を可能にするためのエネルギー供給を狙ってもいる。コイツは口に入ったものをエネルギーに直接変換するため、毒やらなにやらを仕込んでいようが、口を経由した時点ですべてエネルギーに変換される特性を持つ。ビームや火とかも一応エネルギーに変えることはできるが、口を保護する性質は持ち合わせていないため、普通に口が焼け落ちる。

 

数による圧殺を防ぐための透過と浮遊は緊急回避用として。

 

咄嗟の状況に対応するための触腕。

 

これが常用する、俺の複数対人決戦仕様だ。

 

この姿での制限時間はたったの10分。検証して理解した俺だけのゴールデンタイム。それ以上は操作をミスって自爆する可能性が高いし、終わった後が怖いものとなる。

 

俺は異能を複数持てる。だから全部の異能使えば強いって考えは真っ先に思い浮かんだ。それだと、使った後のフラッシュバックが酷すぎて、分身体がショック死したモンだから封印したという経緯が存在する。

 

ただ、バルブを回す時間をごく短い時間にすれば、フラッシュバックが発生しないという抜け道を見つけた。

 

たった一瞬という制限をかければ、俺はすべてのバルブを回すことが出来るのだ。

 

が、そううまくはいかないんだなァ。

 

なんせ一瞬回したところで即時効果が出るものなんて限られている。異能は個々人の闇の形だ。一瞬顔を出して、挨拶代わりに拳を叩き込んで帰ってくれるサイコパスもいれば、長ーく居座ってじわじわと真綿で首を絞めてくるサイコパスもいる。そうした違いが異能に如実に表れているのだ。

 

話を戻そう。俺は自分の限界を探っていった。そうして分かったのが、通常時が5つ、本気の戦闘時が8つまでということ。

 

5つまでなら、デメリットのフラッシュバックに普段の生活で耐えられる限度だった。5つまでなら開きっぱにしても、日常生活に支障をきたさない。だが、それ以上となると途端に俺はダメになる。短時間だけならば頑張ったとしても8つが限界だ。それ以上は精神の許容量を超えたということなのだろう。

 

そうした理由があるからこそ、もう俺は引くに引けない状態となっている。これを使ったからにはやらなくちゃいけないということだ。

 

俺は鋭く変わった牙をガチガチと噛み鳴らす。指先を波立たせ爪の具合を確かめる。

 

「「「「「「「「「「「「「「さて、第二ラウンドよ」」」」」」」」」」」」」」

 

一つ一つは普通の声量でも重ねれば圧が増す。同句同音で威圧すら伴う言葉に身震いしながら俺はにやりと嗤った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

前進、ただ前進する。距離にして20mといったところだろう。踏み抜く地面がみしりと鳴く。空気の中を泳いでいく。この姿は空気抵抗を如実に感じることが出来る。

 

一歩、二歩、三歩、踏み出す世界は後ろへと流れていく。

 

眼前、二歩前へ出た大盾持ちが構える。まるでアニメかゲームに出てくるような円形の盾だ。星マークが付いていたらアメコミになるだろうはずのソレは星の代わりに肉や血管が放射状に張り巡らされている。

 

周りも動き出す。複数人が組み合わさった怪物は大盾持ちの後ろへ支えとなる。カシュンと人間の腕や足が鋭利になったものが、屋上に突き刺さった。即席のアンカーということなのだろう。

 

武器持ちは静観、動きを止めた後に確実に仕留めるためなのか、準備万端な様子で構えている。

 

それとは対照的に、触手持ちはこちらの足元に自身の触手を伸ばしていく。散らしていく。まるで植物だ。屋上に根を張った触手持ちは十中八九トラップということだろうな。

 

俺は手早く状況を整理しながら、同じく俺に駆け出してきている棘塗れの対処を考えた。コイツだけは何をやってくるか予想できるパターンが多い。サボテンの如く突き刺さるから相手をハグすることでの足止めと串刺しが狙い…そう読んでいた。

 

残り10mもないかというところで、膨張するまでは。

 

「自爆かッ!質悪ィなァ!」

 

バスンッッ!!!

 

間抜けな音共に人間が爆発する。全身から生えた棘が近くにいるもの全てを串刺しにしようとする。

 

俺は直前で浮遊と透過を使った。そのまま爆発を素通りしようとする。通り過ぎようと爆発をくぐる中、()()()()()()()()()()

 

「隙を生じぬ二段構えェ!?」

 

白鷺燐火の中身を通るために、急いで透過の度合いを上げる。人の中をくぐるというのは気色悪くて吐き気を催すが四の五の言ってられなかった。下手をしたら白鷺と融合していたからだ。

 

こういう増殖する異能持ちは大抵本体が存在する。俺は指導室で銃持ちの白鷺燐火と会っていたから、てっきり何もしていない銃持ちが本体だと思っていた。

 

違う、勘違いだった。コイツは真っ先に突っ込む一番槍に本体を仕込むというイカレた芸当をしたのだ。銃持ちはブラフ。

 

やろうとしていることは、自爆を防がれることを考慮した上での挟み撃ち。大盾で何が何でも動きを止めて、前後からヤバイ液体入り銃弾をばら撒きながら、武器持ちやアンカーの役割をしている奴で袋叩きにしようという考え。

 

なら触手持ちは?なにがある?俺は潜り暗む視界を抜けた先の光景に絶句した。

 

あぁなるほど…!

 

「透過を切れない状態を作っての持久戦狙いが役目か触手持ちはよォ!」

 

俺の思考は読まれている。思考のレベルが違う。多分、こんな生半可なものじゃ無いはず…。手加減をされている。弄ばれている。とどのつまり…!

 

「天才かァッ゙!!」

 

言葉に混ぜて息を吐き出す。空気を抜く。筋肉を固める。準備は出来た。

 

床に張り巡らされた触手の根から肉の竹が生え揃い、間にはまるでカーテンの如く薄い膜が展開されている。それは先が透けて見えるようで、カーテンの中にはヤバ気な液体が駆け巡っていた。

 

透過は切れない。切ってしまえば俺は同化してたちまち液体に触れ、遅効性の毒に侵された状態で戦うことになる。

 

そうした状況を避けたいからこそ、俺は()()()()()

 

「最高だよッ!アンタァやりごたえがあるなァッッ!」

 

そうさ、落下操作の異能だ。落ちる方向を自在に変えられる異能。俺は叫びながら、宙へと舞い上がる。

 

直後ばら撒かれるは、弾の雨。重力に逆らう銃弾雨が俺へと降り注ぐ。これ以上の透過は死を意味する。俺は透過を切ってから、浮遊で滞空時間を稼ぎつつ、『風雷貌』を回して強風をもってして弾を散らした。風を抜けた銃弾には、俺の口で受け止める。

 

「良いねェ!タガが外れた殺意を感じるぜ…!」

 

銃弾如き、口で受け止められねェと生きていけない人生なモンでね…!

 

「ごちそうさんだッ!お礼に味わわせてやるよ…!

 

何でも食える。それがたとえ毒であろうと、人であろうと、化け物が作り上げた害ある液体だろうと、自分で噛んで飲み込めるものなら食べることが出来る。

エネルギー補給してくれた白鷺には俺の技を味わってもらわないと気が済まねェ。とくと味わえよ…

 

食らいやがれ…!俺式人力メテオ…!」

 

落下の方向を正常へと戻す。足を固めて身体を縮める。風を操り身体を押す。雷を纏い加速させる。腕はクロスに、触手は巻き付け、下へ、下へ…!

 

纏う雷の出力を上げ、なおもばら撒かれる銃弾を焼いていく。着弾地点にいる大盾は上空へと腕を掲げ、武器持ちは下に避難する。そして、ひときわデカい無数の手足を持つ白鷺が覆いかぶさった。本体は孤立しているが…そっちはいいのか?死んじまうかもしれないぜ?

 

着地する瞬間、俺は一つのバルブを一瞬だけ回した。

 

ズダンッッ!!!!

 

屋上に広がる蜘蛛の巣状の罅。尋常じゃない力で踏みつけられた無数の手足持ちが血の花を咲かせながら潰れている。

 

俺が一瞬回したのは、増幅の特性を持つ異能。例えデコピン程度の力でも、全力で殴られたような力にまで増幅することが出来る。力、というよりエネルギーの増幅といった方がいいだろう。常時開きっぱにしていると、歩こうと一歩踏み出した時点でえげつないジャンプをすることになるので、一瞬回すことがデフォルトの異能だ。

 

煙が舞う中を切り裂いて飛び出す銃弾をアクロバティックに口で受け止めながら、下から飛び出す巨大な肉槍と小規模の骨槍衾を浮遊と落下で躱した。生きてんのかよ…!しぶてぇな…。

 

上空から俯瞰する。這い出てきたのは武器持ちと銃持ち、触手持ち、大盾はヤれたらしい。肉壁となったデカいやつは潰せたから、本体合わせて残り4人。

 

本体は爆発したガワの部分に隠れて難を逃れたらしく、こちらに銃口を向けながら、外へと出ていき柳田の側へと移動する。何をするつもりだ…?盾にしようってのか…?

 

本体が柳田に何かをしようとするのを、射出された武器持ちを捌きながら監視する。触手持ちと協力してジャンプ台としての突撃、突き出されたデカい肉槍を爪を使って横へと押しのけながら、足を使って武器持ちを切り裂く。空中で移動する手段がないらしく、ろくな回避もせずに食らったが、武器から手を放して食らわせた足に絡みつこうとする。足のみを透過させて素通りさせ、直後肉体から飛び出す棘を避けた。予測できているんだな。片手間に思考を回しながら対応するなんて屁でもねェ。マルチタスクは長年の経験の賜物だ。

 

対処が面倒になったから、武器持ちと武器に落下の異能をかける。少しばかりの抵抗を感じたが構わずごり押し真横へと落下させた。残り3人。

 

「どうしたァ!もう終わりかァ!」

 

俺は挑発をしながら、目線を本体から離さなかった。へたり込んでいる柳田の首に手を当てる。そうして何かを話している。残念俺は読唇術もたしなんでいるんでね。聞かせてもらう。

 

(屋上…応援…異能持ち…?あぁクソッ…!)

 

読み取れた単語に歯噛みする。何をどうしてそうなったのかはわからないが、柳田を通して他のヤツに連絡を取ったのだ。つまりこれから増援が来る。短時間しか持たないのに追加なんて御免だ…!

 

俺は腕を振り上げる。バチバチと手に雷が集中させる。増幅を回す、締める、回す、締める。これくらいでいい。増幅を二段階重ねた雷は俺の手を焼いてくる。黄色を通り越して白色の雷、帯電してぶわっと逆立つ獣毛を無視して、俺は腕を振り下ろした。

 

「消し飛べッ!」

 

カッッッ

 

視界を覆う閃光、至近距離で空気を切り裂く爆音が響く。こんなんしてたら世間にバレそうなもんだが、この一帯は誰も気にしないようになっている。俺が知り合いに頼んだ異能の効果で、俺はのびのびと戦うことが出来る。

 

晴れた視界に黒焦げになったナニカが映る。半分焼けた中でこちらに銃口を向けるヤツが居るから、黒焦げは触手持ちらしい。残り二人。残るは遠距離のみ。近づけばこっちのモンだ。

俺は銃持ちに迫る。半焦げで死にかけの状態だ。潰すのは容易い。空中から落下しつつ、爪を振るおうと手を後ろに引き…()()()()

 

「ンだァ!!??」

 

俺は発火の異能なんか使っちゃあいない。持ってはいるがな。だがそれを回した記憶はない。それにこれは俺に痛みを与えてくる。肉を、血管を、身体を焼く炎だ。つまりは…!

 

「最初の増援、異能持ちよ。元ストーカーだけど使い勝手がいいから、学校に潜ませていたの。役に立ったわ」

 

白鷺が口を開いた。壊れない玩具を見つけたような顔をしている。腹立つなァ…!

 

屋上の入り口に視線を向ければ、前髪で顔が見えない男子がいる。ソイツは俺に手を向け握りしめる動作をすると、俺の内側から噴き出すように炎が漏れた。

 

熱い熱い熱い熱い…!だがッ!

 

「問題ねェ!依然、経験済みだッ!」

 

燃え盛る身体を無視して、引き絞った腕を前へと出して、胸の前でクロスする。

 

ドゴンッ!!

 

俺は燃え盛る自分の身体で銃持ちへと着弾した。

焼けつく肺、焦げる肌、真っ黒になった人の残骸を投げ捨てる。コイツは死んで、俺も瀕死。相手方はまだまだ戦力に余裕があるそうで、あの元ストをぶち殺さないと次がやってくるらしい。

 

俺は奥の手の一つを切った。

左胸に手を回す。明らかに大きいバルブ、それを両手でつかんでぶん回す。噴き出すは赤い煙、特別製のバルブ。

 

ほら見ろ、なんともねェ。

 

黒く炭化した肌。粘膜が焼ける匂い。肺を焦がした炎は依然として身体に残っている。残っているだけだ。

何をしたか?なに、単純な効果さ。俺が回した特別バルブの効果はシンプル。指定したもの一つを固定する。ただそれだけ。

 

例え俺が身体を再生させても、炎は俺を焼くだろう。だから、焼いたままにする。燃えたまま、身体を燃焼させたままで固定する。スーパー頭脳で考え出したんだよ。

 

相手の攻撃は利用するべきだってな。

 

俺は異能を使わずにして炎を纏った。つまり通常攻撃に炎属性が付与されるようになったということだ。やったじゃねぇかよ、苦労せず攻撃のバリエーションが増えたぜ?

 

俺は未だ燃えている腕に雷を纏わせ始める。雷だけじゃねェ、風もだ。風と雷、そして炎。三つの属性によるトリプルパンチだ。

 

「ハッハー!喰らえ三色パンチだこの野郎ッ!」

 

俺を燃やした根暗男へと突貫する。

 

瞬間、

 

眼の前が、

 

空間が、

 

そこにあった世界が、

 

揺らいで、

 

捻じ曲がって、

 

俺は世界に殴られた。

 

吹っ飛ぶ身体、

 

回る視界、

 

振り回せる視界に確かに、

 

俺と同じように吹っ飛ぶ白鷺が目に見えた。

 

 

 

 

 

 

「遅れたな、第3ラウンド…といったところか?」




主人公が社会に馴染むことが出来ないと判断して隠した前世の記憶を思い出すことに関係している狂った一面ってなんだろうね?

『誰もが一度は考えたことがある』
いろーんな意味が詰まってのタイトルです。
白鷺燐火なら、別人格を分離したかった。
逢坂勇人なら、人の痛みに共感したかった。
柊 真なら、叶わないと思った願いを叶えたかった。
まぁその人にしかわからないものもあるけど、一度は考えたことがあること、それが実現したのが異能。

じゃあ柳田 修介なら…

へへへへっ…(邪悪な笑み)

ちょっと設定開示
邪悪な海月のーれんのメモ抜粋

コンセプト
逢坂君
『もし、本当に人の痛みに共感出来たら』
人の痛みに真に共感できる人間なんていないから、同類を求めてみました。同病相憐れむ。同じ病気にかかった人はお互いを憐れむという意味です。だから、逢坂君には強制的に、その人たちが味わった痛み(病気)を味わってもらいます。そしたら、共感できるよ。憐れみとして。

柊さん
『もし夢や理想()が本当になるなら』
一度は考えたことあるイケメンになりたいやら美女になりたいやら、お金持ちになりたいやら、アイドルになりたいやら。それが叶ったら?というものです。でもね?吐いた唾は飲み込めないんですよ。過去はどうあがいたって変えられないんです。アイドルになりたいと願ったのは貴方なんですから、たとえ元の貴方が死んでもアイドルをしてもらいますよ。よかったじゃないですか。理想の貴方になれましたよ。そこに元の貴方は一片も含まれていませんが。


身近な嘘(何かになりたいという嘘)と消えないもの(人の痛み)
どっちも自分がないね。前者は現実逃避して、後者は他人に依存する。自分探しの物語だよ。そう考えると王道かもしれない。

抜粋終わり

振り返ると邪悪だなぁ…(感嘆)

2023/12/09
河川敷から屋上に描写変更。また、白鷺燐火リスポーン地点から戦闘描写を加筆。

ランキング入りありがとうございます。頑張りの戦闘描写、わかりにくかったら申し訳ない…。書いててどっちが主人公かわからなくなりました。そこの嗤ってる女がヒロインで、へたり込んでる人質みたいなのが主人公で、人質助けようとしてるのが敵です。なにこれぇ…?

第二章ヒロイン投票

  • 支配系ヒロイン()
  • 暴力系ヒロイン()
  • 上位者系ヒロイン()
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