少年少女が抱える闇で殴りあいをさせたかった   作:よくメガネを無くす海月のーれん

31 / 39
挿入話です。

ランキング入り…ランキング入り!?

はい、本当にありがとうございます。圧倒的感謝…!
(と思ったら転落…。泡沫の夢ウレシイウレシイネ…)

というわけで挿入話。主人公の曇らせはやっぱいいね…(10000字)
曇らせだけでこんなにも文字数使ったから仕方なく分割して、次話を加筆中。タノシイタノシイ

そんなわけで、どうぞ


悪魔の囁き

突然現れた先生、その先生が起こしたとは思えない状況が目の前に広がっていた。逢坂と燐火ちゃんは屋上に転がり、俺を守るように、俺と逢坂達を隔てるように、先生はこの場に出現した。咄嗟に動こうと、へたり込む身体に力を入れようとするもどうにも身体が動かない。燐火ちゃんのリスポーンは思ったより消耗が激しかった。何分初めてやられたことだったから、慣れていないというのもあるだろう。辛うじて顔を上げると、そこには真っ直ぐにこちらを見る先生がいた。

 

「先…生……!」

 

「無理をするな。あとは私に任せろ」

 

そう言ってしゃがみ目線を合わせる先生はどこかおかしかった。

 

()()()()。いや()()()()()()のほうが正しい」

 

ボタンの掛け違い、真昼の幽霊、テーブルに転がる頭蓋骨に誰も気にしない、太陽が黒いことが当たり前の世界にぽつり放り込まれたような、キーボードにAが存在しない世界でただ疑念を抱き続けるような、そんな、自分だけが気付いた致命的なエラーに直面したという実感があった。

 

対面する先生は雰囲気が違っていて、本当に取り返しのつかないところまできてしまったという後悔に似た諦めが心に湧いた。

 

そんなことはない。そんなはずないのだ。先生はたぶん先生のままのはずなんだ。

 

そう思っても、そう信じても、先程逢坂に言われたことを思い出す。過去の記憶がぼやける現実を一つずつピン止めしていく。

 

異能持ちは人でなし、そんな言葉が頭をリフレインしている。知りたくない、聞きたくない、俺の手はそれを掬える(救える)ほど大きくない。

 

先生が人でなしなら…もし人でなしであるというなら…

 

「…先…生!もう傷つけないでください…!お願いします!」

 

一抹の希望、かすかな願い、元の先生だったら聞いてくれるであろう、いや当たり前だと言ってくれるであろう言葉を期待して…

 

返されたのは無慈悲なナイフだった。

 

「それは無理な話だ。逢坂も白鷺もやらなくてはいけない。そうしなければ…お前の人生が食いつぶされることになる」

 

「それだけは絶対にダメだ」

 

()()

 

これは先生なのか?そんな感想が脳裏に浮かぶほど、今までの先生と違っている。

 

「先生は…先生ですか?」

 

そんな言葉が出てしまったのはしょうがないはずだ。縋るような言葉に先生は振り返る。

 

目には確かに光が宿っているが、それは何だが濁っていて

 

読み込みきれなかった感情が、にじみ出てきた本心が、まるで目から零れ落ちてしまったような

 

本能的に理解した。

 

目の前の人は、先生は()じゃなくなった。正しく()()()()になった。主導権が入れ替わる。人が異能を使うのではなく、異能が人を使う。逆転現象、本性の表出、欲の開放、言葉なんてどれでもいい。確かに言えることはこの人は捨て去ったのだ、社会の枠に収まることを。()()()()()()()()()()()、今まで積み重ねたものを。

 

「大丈夫だ。大丈夫。先生がいる。()()()()の先生がいる」

 

その言葉にはどうにも隠し切れない確かな重みがあった。

 

違和感は正しく、確信に変わる。

 

吐き気、言葉の重圧に潰される。

 

「オイオイ!先生だろうがよ~!ソレはいけねぇんじゃねぇの!一人の生徒に執着するのはよォ~!」

 

吹っ飛ばされた逢坂が食いついてくる。それを意に介さず、先生は俺に向かって言葉を続ける。

 

「よく頑張った。大変だっただろう。頼りない先生ですまなかった。だが問題ない。もう気負う必要はない。()()()()()()

 

耳鳴り、音が遠のきただ俺の言葉が心を反響する。

 

「生徒を導くのが先生の役目なら、生徒を守るのが先生の役目なら」

 

俺から顔を外し、逢坂達に向き直る。振り向き様、目に映る俺の顔は絶望が色濃く表れていた。

 

「私の今の役目はここで奴らを潰すということになる」

 

視界はまるで望遠鏡、一気にフェードアウトしていく視界を必死になってピントを合わせる。

 

「教師らしく、授業を始めよう。異能の先達として、柳田に教えておきたいことはいくらでもある」

 

俺に止める力なんてない。ただ原作知識という人よりも世界に詳しくなるだけのちっぽけな力で、この状況を止めることなんて俺にはできない。

 

だから、だからせめて

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「『万物流纏』、『世界着・片腕』」

 

先生の左腕が空中に溶け込んだ。その直後、辛うじて立ち上がった逢坂の鳩尾に、先生の腕が現れる。

 

振り抜かれる腕は下から上へ。

 

「うごぇ!?」

 

痛みに呻いて宙へと浮く。鳩尾を殴った腕はもう消えていた。

 

俺が生きていなかったら、こんなことにはならなかったかもしれない。ただそんなことを思っていた。だが、俺は原作知識で俺が死んでいても白鷺燐火が自力で助かることを知っている。正しくエゴで、俺は生き残った。

そのツケの一部を今まさに見せつけられている。そして、これからも俺はそのツケを払っていくことになる。生きる代償、それがこれなのだとしたら、たとえどんなに辛くても見届けなければいけない。自分にできることをやっていかなければいけない。

 

「私の『万物流纏』はあらゆるものを身体に纏うことが出来る。その力で世界を対象にした時、私は疑問に思ったことがある」

 

()()()()()()()()()()()ということだ」

 

口から胃酸が漏れる。だが吐かない。俺は必死になって喉を噴きあがろうとする胃酸を押し戻す。口の端から垂れる胃酸を手で拭って、震える足で立ち上がろうとする。必死になって、足に力を入れる。四つん這いの情けない恰好、それでも…

 

先生は淡々と話し続ける。宙へと浮かんだ逢坂にまた現れた腕が背中を強く叩かれる。逢坂は背中に来る衝撃に息を吐き出し、しかし、こちらに向き直り急加速して飛んでくる。

 

「だからどうしたァ!ガッぐえっ?!??!」

 

虚空から突如として生えた腕に首を捕らえられ、首を強打する形となっていた。地面へと転がり、首を押さえて必死に息をしている。

 

「私は最初、世界を纏っているとしたら、私はどこにもいない状態となるのではないか。そう思っていた」

 

死角から燐火ちゃんの急襲。ばら撒かれた銃弾は、世界の歪みと同時にはじかれる。見えない壁が存在している。

 

燐火ちゃんは優しい。俺が絶望しているのを繋がりから理解し、感情操作を行っている。だから俺は取り乱さずに冷静に、この状況を直面出来ている。ただそれはダメだ。そう思った。

 

心を閉じる、俺は燐火ちゃんと融合したことで、常人では理解できない心を閉じるということを感覚で理解していた。たぶん、自分の領域に相手を踏み込ませない、所謂心の防衛反応なんだろう。心を開く、その言葉の逆のことをしている。イメージは簡単だった。他者の言葉を一切聞かず耳を塞いで蹲る。俺が今したいことを心の中でやればいい。

 

心をシャットアウトした俺は、湧き上がる絶望と後悔と自罰心を受け止める。燐火ちゃんは俺がやったことに気付いてこちらを向いて目を見開いたが、大丈夫、大丈夫だから。俺の為にやってくれてるのに、俺に意識を割くなんて迷惑かけない。

燐火ちゃんは焦ったように、しかし先より集中して先生に攻撃を続ける。それは俺が燐火ちゃんに先生を攻撃するよう命令したのと同じだ。罪を重ねる。その実感。それでいい。

 

「世界を纏う感覚は言ってしまえば、俯瞰視点というのが正しい。世界全体を俯瞰してみることができ、まるで自分がそこにいるという錯覚に陥る。誰もいないのにな。視点だけが存在しているという状況、そこが始まりだった」

 

元ストーカーが手を向ける。先生が燃え上がり、口から黒い煙を吐く。しかし、先生はなんともないという忽然とした態度で、ナニカをした。

 

「体内で燃える、厄介だな。しかし、体内にあるということは、私の中にあるということで、解りやすく解釈するなら、私の筋肉や内臓が火を纏っているという認識が出来る」

 

「私が纏っているものは私自身に害を与えることはない」

 

先生は火を纏った。身体の内側から滲むように火の粉が舞う。

 

先生は意図的に操作したのだろう燃え盛った腕で、元ストーカーを殴る。殴る。執拗に、まるで親の仇のように。

 

「話を戻そう。もし私が世界と同化し、どこにでもいてどこにもいないという状態になったなら、私は存在という縛りから自由になったと解釈した」

 

「異能はその人間の心や認識によって姿形を変える。私は世界に溶け込むことを怯えていたが、その怯えはもう気にしなくていいものとなった」

 

異能を極めるとこうなるのか…それは人間として逸脱したもので、もはや抵抗する術はないのではないか。そう思えるほどだった。

 

「たとえ世界と同化しても、たとえ世界に溶けこんでも、私は役目を果たし続ける限り、そこに私がいる」

 

「目的意識が私を確固たるものとした」

 

「大事なのはイメージだった。世界と同化し、どこから同化を解除するかをずっと考えていたがそうではない」

 

「発想の種はいつだって身近にある。私は服をイメージした」

 

先生は身体にまだくっついている腕で服をつまんだ。

 

「服は肌を隠している。肌が見えるのは手先の部分や首の部分だけだ。しかし、隠されている部分が消えたわけじゃない」

 

「隠されているだけであって、そこに私は居る。いうなれば…」

 

()()()()()()()

 

「ということだろう」

 

「今逢坂を攻撃したのは、服の先から出ている手の部分。私が瞬間移動したように見えるのは、私が服に頭を隠したからだ。服を脱ぐときを思い浮かべればいい。服を脱ぐとき、頭が服にすっぽり隠れてしまうだろう?頭が見えなくなっている。脱ぐ過程でその部分は完全に見えなくなる」

 

「私はただ服を着て脱いでいるだけに過ぎない。ただ服の大きさが桁違いだからできる芸当だ」

 

「いってしまえば虚空に現れた私の腕は、とても長い袖を通しているだけで、今の事象は私がただ殴っただけに過ぎない」

 

「私が消えたように見えたのも、滑稽なことに自分のサイズに合わないほど大きな服に身体が全て覆い隠されてしまったというだけだ。そんな大きな服をまくり皺をよらせてようやく顔を出す、服を脱ぐ、それが転移の正体だ」

 

「だからこそ、こういうこともできる」

 

「『四肢流転』」

 

そういうと、先生の身体が頭や胴、片足を残して消える。転がっている逢坂や燐火ちゃんの周りに足や腕が入れ替わりで消失と出現を繰り返し、蹴りで転がし、腕が頬を打ち、胸倉を掴んで、暴力を振るう。

 

「宙に浮くことはできないから、今私が立っている片足を引っ張られれば私は転んでしまうだろうが…どこに居ても相手に力を振ることが出来る」

 

ようやく立ち上がることが出来た俺は、みっともなく叫んだ。それしかできないから。それしかできないならやらなくていいなんてそんな言い分が通るわけない。俺はやれることをやる。

 

「やめてくれ先生!そんなことしなくていい!もういいはずだろ!」

 

俺は重い身体を引きずって、先生にしがみ付く。いくらかバランスを崩したものの、先生は片足で立ち攻撃を続けた。俺は必死になって先生を引き倒そうとする。

 

その瞬間、身体が重くなった。しがみ付いている先生も身体が重たくなっているはずなのに倒れない。忽然と立っている。

 

「私の異能で重力を纏わせた。手荒な真似をして済まない。だがしかし、今更止められる訳には行かないからな。これは私もその場を動けなくなる欠点がある。これに限らず、私の異能の有効範囲は肉体から半径2mもない。こうして他者に適用するには、密着していないといけないし絶望的に射程がない。だからプラスチックを飛ばしたり、間接的な攻撃方法を模索しなくてはいけない」

 

「その弱点を無くすのが、世界を着て射程を伸ばすということだ……新たな欠点として、世界を着ている間は呼吸ができないし消耗も激しくなる。短期決戦向きということだろう」

 

「柳田、応用の話をしよう。私の異能は私を害することはない。が、今この状況では例外的に柳田にかかる重力が私にかかっている。これは、誰かを経由した自分の異能は自分を保護するフィルターが無くなるということだ」

 

「あぁ、何で立てているか…という疑問があるだろうな」

 

「ただ私が折れるわけにはいかない。その矜持で立っているというだけだ」

 

私の信念は揺るがない

 

「がっ!?うぐっ!がぁ!?」

 

「っ!ふっ!邪魔をするなッッ!」

 

来るとは思わない方向からくる痛みに逢坂は耐えるしかなかった。避けようがないからだ。

 

燐火ちゃんも必死になって対応しようとしているが、防戦一方で全身から骨の針を出しても、その隙間から殴られ蹴られる。防戦一方だった。

 

「ちなみにだが、重力を纏うというのはどういうことかと言えば、肉体を中心にかかっている重力を調整することが出来る。加重したり、ベクトルを変えたり応用が利く」

 

先生が重力を纏ってから明らかに逢坂達に振るわれる拳や蹴りが強くなっている。

 

「先生…やめてください。お願いします…俺はいいんです。俺はもう大丈夫ですから……」

 

懇願するしかなかった。それほどまでに酷く、罪科が頭を蝕んでいるからだ。逢坂達が可哀想なんて思うよりも、ただ自分がしでかしたことの大きさに苦悩している今から解放されたかった。しかし、そんなの後の祭りだった。

 

「やめん、お前が他者のために人生を使う必要はない。お前が人生を無駄にする必要はないからだ。お前は消費されるべき人間ではない」

 

「話は聞いている。嘘で塗りつぶされるのだろう?問題ない。例え嘘が本当になるのだとしても、ソイツにとって都合がいい人間になるのだとしても、お前には手を出させることはない」

 

先生の言葉の後、身体に強い力が加わる。横方向へと押し出されるような力。俺はそれに押されるがまま、先生から引き剝がされる。重力方向の操作、加重の調整、どれをとっても、異能持ちとして上回っていることが理解できた。

 

「修介は私だけのものよ…!それに私だってあなたの生徒じゃないッ!」

 

「『肉体増殖・緊急プロトコルッッッ!!!全わたしに告ぐッ!ワタシ級滅殺対象と認定ッ!擬神暗来・端末顕現運用特化個体・アルコーンをインストールッ!』」

 

殴られながら必死になって言葉を発する燐火ちゃん。それを聞いて、逢坂も腹をくくったのか、奥の手と思われるものを切った。

 

「畜生ッ!切りどころかよッッ!気合入れろファッキン異能ッ!『同鋲相輪・その場限りの勇者』ッ!」

 

「そしてぇッ!固定の異能ッ!『同鋲相輪・固定観念、対象・その場限りの勇者』ッ!」

 

逢坂が手に持っているのは、何の変哲もない木の棒だった。伝説の剣というにはあまりにも貧相なもの。でも俺はソレに対して異常なほどの恐怖と第六感の存在を確信できるほど、アレはヤバイという認識で、頭が警鐘を鳴らしていることを自覚できた。

 

「とんでもなく面倒臭い異能で俺が持ちうる最強の一つだッ!条件発動でその条件が俺がピンチになることッ!能力もカスだッ!たった一瞬!特定感情に比例した力が与えられる!」

 

「ソレを固定した!変わらないものとした!」

 

「ソイツは特別な力を持たない只の凡人だった!ただ勇者や英雄、そういう奴らに憧れがあった凡人だ!」

 

「自分が凡人であるという自覚はあって、それがどうあがいても覆せないものだと理解していた!」

 

「ヒーローになりたいという英雄願望ッ!それは日に日に肥大化していった!」

 

「そして自分が凡人で特別な力を持たないから、特別な力を持たずとも使えるものを願ったッ!凡人のための特別を願った結果産まれたシロモンだッ!」

 

「だから最初の異能は、玩具を本物にする異能だった!玩具の剣は本物の剣へ!玩具の変身ベルトは本物の変身ベルトへ!」

 

「だがソイツは、好きなヤツが死にかける危機に瀕した時!改めて自分を振り返って気付いた!」

 

「自分がなりたいのものはこれではないと!自分が憧れたのは勇者やヒーローのような大切な人を守れる人間であって、それら勇者やヒーローになりたいわけじゃないと!」

 

「自分は凡人で何かを成し遂げる力なんて持ち得ていない!だがそれでも!後先考えず自分の力を振り回すことはできる!」

 

「この木の棒はソイツの自覚から現れたものだ。自分には勇者の剣なんて振るえない。ヒーローの武器を持つ資格なんてない。凡人の自分には木の棒がお似合いだ…そういう卑屈さの表れだよ」

 

「ソイツは自覚していたからな。特別になれないことを…!だからたった一瞬だけでいい!たった一回!本物と同じことが出来ればいいと願った…!」

 

「好きなヤツを救うためにッ!その場限りの後先考えない勇気を形にした!勇気や覚悟を力に変える異能に変化させた!」

 

逢坂は深呼吸してこちらを見つめる。

 

「『固定観念』と『その場限りの勇者』の持ち主は幼馴染だ。『固定観念』の持ち主は自分のために『その場限りの勇者』を発現させたのを見て自身も願った」

 

「自分を守ってくれる相手は本物だ。貴方は本物の勇者だと。たとえ貴方自身すら偽者だと揶揄していようと、私にとっては本物のヒーローなのだと」

 

「自分の主観を相手に適応できる力。『固定観念』は、自分の主観に依存する。ひどく対象も効果も限定されたものだ。俺が火を正常だと認識できたのは、俺が火に関する異能を持っていて、そのときと同じだという認識をしたからにすぎないからな」

 

「その女にとって、ただ自分が思う相手になるという独善的な力だ」

 

「だがそれでいい。それだけで十分。私が考える本物のヒーローに出来ればそれでいいと」

 

「身勝手な思考。自分の考えを相手に押し付ける傲慢さがある」

 

「異能っつーのはそういうモンだ。自分の願いが叶えられればそれでいい。自分が思うものが世界に適用されればそれでいい」

 

「それを人は浅ましくも希望と宣うんだぜ…!」

 

「偽者は本()へ…!異常は正常へ!」

 

「使わせてもらうぜクソバカ共…!」

 

「『複合異能・勇者』ッ!数分間だけ、俺は勇者だッ!」

 

火が身体を蝕もうと、立ち上がり絶望に立ち向かう勇者がそこに居た。

 

 

「あなただけじゃない…!」

 

声を上げたのは、燐火ちゃんだった。

 

「私は守らなくてはいけないの!私が()であるために!」

 

肌には玉の汗が滴り、苦しい表情を浮かべ、胸を押さえている。

 

「私には代わりがいる!でも彼には代わりがいない!」

 

真っ白だった髪が徐々に徐々に、先端から黒く染まっていく。

 

「まだ救われていないわ!まだ…!まだ…私は取り戻せてない!!」

 

目には涙が浮かんでいる。けれど、その涙は片方は白く、もう片方は黒く濁っていた。

 

「これから…!これからなのよ…!私だけの人生は…!!!!」

 

喉から裂けるような叫びが響く。それは純然たる燐火ちゃん、いや白鷺燐火の本心で、隠れようがないほどの怒りが含まれていた。

 

「始まったばかりの私の人生の邪魔をするなッ!私だけの人生に手を出そうとするなッ!」

 

紅い両の目は、左目だけが黒く染まっていく。オッドアイへと変わっていく。

 

「ソレは私だけのモノだッ!お前には渡さないッ!!!!」

 

身体の内側からどす黒いナニカが溢れ出すように侵食している。

 

ナニカが湧き出ようとしている。しかし、ソレが完全に出ていくことはなく…滲むようにぽたりぽたり、ナニカが滴り落ちる。

 

「私は…!私が…!彼を救うんだ…!そのためなら…!」

 

白鷺燐火の左顔半分が歪んだ。

 

吊り上がった笑み、嗜虐的な笑み、あそこにいる半分は白鷺燐火ではない。

 

感覚として理解できた。

 

「私ga彼woすくuんdあ。約sokuしtakあら…!彼haわたshi…!かreがwaたしをすkuうなra…watashiも彼を救わnakeれba…!』

 

『#(*(4☆4゜€|…!』

 

滴り落ちた床に黒い歪みが出来あがる。そこから、黒い手が無数に伸びてくる。黒い手だけじゃない。黒いナニカは鳥や小動物、果ては暗闇に光る大きな爬虫類の目、顎だけを覗かせるソレは、太古の昔に滅んだとされる恐竜の似姿を作り出していた。

 

『gい々2☆しシシし々2☆ン々2☆あn々2☆kkkkkkkki』

 

酷くノイズが混じる中、ただその単語だけが聞き取れた。

 

最大級の化け物はすべてを弄ぶために顕現しようとする。

 

『まちtttttiっちtittitttiiがえeeっっeeえなiiiiiiiいiいiいいい」

 

強靭的な意思により化け物をねじ伏せようとしながら、それでも、目線はずらさず先生へ向けられている。

 

「1☆%・|1☆%・|1☆%・|1☆%・|1☆%・|1☆%・|1☆%・|』

 

最早何を言ってるかわからない。けれど、つながりがある俺にはただただ一つの、莫大ともいえる感情が理解できてしまった。

 

 

白鷺燐火が膨れ上がらせ、今なお化け物をねじ伏せられる精神の強さは愛に起因する物だった。途方もないほど大きくなった愛が、たとえ狂気に浸ろうと異形に浸食されようと、目的意識を違えることはないということを伝えてくる。

 

 

大して俺はどうだ。

 

かたや勇気を形にして立ち向かい、かたや俺の為に神モドキをその身に宿した。

 

何もできない。ただ縋りついただけでなにもできなかった。自分のできることをやる、なんて自分を肯定する言葉を吐いても、ただ自分の無力さを痛感するばかりで、自分がこの状況を打破できる力なんてないことをまざまざと見せつけられているだけ。

 

何が正解なんだ。

 

目の前では最終ラウンドと言わんばかりに、勇者が先生に木の棒を振るい、そのひと振りごとに暴風が吹き荒れる。雷を背負い、風を操り、その他さまざまな力を振るいながら、先生を滅多打ちにしようとする。燐火ちゃんも黒いナニカを操りそれらを嗾けている。ナニカは嗾けた時にはネズミの形をしていたのに、接敵する瞬間には身体が膨れ上がって、頭が巨大な豚へと変わる。噛みつこうとするその口は、牙が乱雑に生えそろい、その一部が蠢き、小さな蟲となって口から飛び出す。

 

二人の攻撃を世界との一体化で避けながら、数瞬の隙を逃さず攻撃を続ける先生。

 

当たれば御の字というふうに、やたらめったらと振るわれる勇者の攻撃に燐火ちゃんも巻き込まれるが、その無差別攻撃の防ぎ方も異常だった。

 

勇者からの攻撃の余波を黒いナニカから飛び出した猫モドキが防ぐ。猫の尻尾が膨れ上がり、左右に揺れながらその先が大きな亀へと変わる。それが防いだのだ。なぜ防げたのかわからない。暴風や衝撃が周りに被害を及ぼすはずなのにそのすべてが吸い込まれたように。亀に触れた瞬間無くなる。その代わりに亀は風船が萎んだようにどんどん小さくなるが、猫があくびをすれば、亀は元の大きさに膨らんだ。なにもわからない、理論がなく理不尽だ。

 

殴られぺしゃんと溶けたナニカの水たまりは、蠢き揺れ動き、ぴたりと止まったかと思うと、黒い円錐が乱雑に飛び出す。先生も、逢坂も狙っているその円錐の先は誰にも当たらなかったことに気付くと、まるで自分はそうであったと思い出すように、花開いた。

 

花からおぎゃあともいえない鳴き声が響き渡り、花弁が完全に開くとそこには、鶏冠が大きな鸚鵡がおぎゃあと泣き真似をしている。

 

その声に俺は何も感じなかったが、逢坂や先生は違うらしく、逢坂は頭を押さえキッと鸚鵡を睨みつけて、先生は世界との一体化をやめ、両手で頭を押さえている。

 

鸚鵡モドキによる赤子の鳴き真似が合唱される。それは精神的なダメージを与えるものらしく、聞けば聞くほど、二人の顔はどんどん蒼白に変わっていく。

 

しまいには、二人は鸚鵡モドキを叩くことを優先するが、それを嘲笑うかのように、円錐が次々と生まれ、避けられると花開き鸚鵡モドキが合唱に参加する。

 

「クソ耳障りなんだよクソがッ!それやめろッ!」

 

狂乱しながら、円錐に木の棒を叩きつけ、脇腹に出現させたバルブを回していた。精神攻撃に耐えるものだろうか。先生もすぐさま対応し、髪を使って耳を覆うようにし、その髪が不自然なほど固定される。上から覆うように何かを纏わせているのだろう。それでも、二人の苦しい表情が解けることはなかった。

 

 

俺は何をすればいい。俺はどうすればいい。ただ見ているだけしかできないのか。

 

へたり込んで傍観者となるしかない状況、泣く権利すら、抵抗する権利すら奪われた背景がここにいる。それがどれだけ…いや違う。

 

自分が招いたことに責任も取れていない。あの時逢坂から逃げていなければこんなことにはならなかったのではないか。

 

自分に力がないことに甘えている。誰かに頼ることでしか自分を守ることすら、抵抗することすらできない。

 

自分の為に人を歪ませる。その対価を支払わなかったからこその現状。

 

俺のせいじゃないと叫ぶにはあまりにも心当たりが多すぎる。

 

俺は悪くないと叫ぶにはあまりにも罪の念が強すぎた。

 

助けてくれという価値すらない。人でなし、異能持ちは人でなしという言葉はやはり合っているのだろう。

 

こんなのが人を名乗るなんて烏滸がましい。

 

それでも、それでも

 

もしこの状況を打破できる力があるなら

 

もし自分の異能を覚醒することが出来れば

 

俺は…

 

(お困りの様だねェ…愛しき本体クン♪)

 

そのとき、悪魔が囁いた。




次回…キショイ女、登場

楽しみにに待っててくれよな!

(元31話部分は先の話だから一旦しまって終わるまで封印しますね…ややこしくなるので…)

追記
燐火ちゃんの記号文のヒントはスマホのフリック入力です。
あと燐火ちゃんのヤツは、擬神暗来の薬指の爪くらいをなんとか運用できるようにしてるだけです。爪くらいなのにめちゃくちゃ自己主張激しい…。

あと先生が主人公に執着するのは、自分の理想を実践していたというのもありますが、ただ約束を守れなかった人間だったからってだけです。これが燐火ちゃん相手だったら燐火ちゃんだし、逢坂だったら逢坂です。そのときは主人公のことをただ尊敬すべき相手としか見ていませんでした。

ただ、約束を守れなかった相手が主人公で、自分の理想を実践し(先生が思う理想の大人)約束を守れる人間(燐火ちゃんを実際に助け出したり)だったのでクソほど拗らせてるだけです。

理想ってのは目に見えないからこそキラキラして見えるもので、実際に目の当たりにすれば、ただ嫉妬と、自分はできないのにどうして…って絶望するしかないんですよ…。そして、そんな理想を実践している相手が、自分に優しくしてくれて自分ことを考えてくれたら、そんな相手に嫉妬や絶望を感じていた自分はどうなっちゃうんだろうね…?

理想に優しくされる自分は、理想に諦められた自分は(優しくされるって捉え方変えると諦めと同じなんですよね…)

一体なんなんだろうね?

でも見て!理想の人がピンチになっているよ!理想の人でもどうにもならない状況で、その人が助けを求めていて、貴方には助けられるだけの力もある!

さぁ!見せてあげましょう!理想に見捨てられないように!理想に見放されないように!貴方の持ちうるすべてを使って、貴方が使える人間であることを証明しましょう!覆水盆に返らず!貴方は幾度と失敗しましたが、それでも理想はチャンスをくれたんですから!

上記の文は、アメリカ民謡研究会さんの曲の声を想像してもらえれば…具体的に言うと「私はずっと笑顔だったし朝の占いだって悪くないきっと今日も大丈夫良い一日になりますように。」を聞いていただければ…。あと「戻れ戻れもどれもどれも」も聞いて…

第二章ヒロイン投票

  • 支配系ヒロイン()
  • 暴力系ヒロイン()
  • 上位者系ヒロイン()
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。