少年少女が抱える闇で殴りあいをさせたかった 作:よくメガネを無くす海月のーれん
放送室、此処は私の聖域だ。私の異能を校内で十全に発揮できる場所であり、私の力を増幅できるものがある。
だからこそ、もし異能持ちに出会った場合はすぐに放送室に行くことを心掛けていた。生徒会長というレッテルやこれまでの行いから先生達には信頼されていて、放送室の鍵も入手はたやすかった。もし兎角言われたとしても複製した鍵を見せ理由を何かしら付ければ納得する者が大半だった。それに、ダメなら異能を使うまで。
私の異能は声を媒介にする。世界に声が届かなければ意味がないのだ。声が大きれば大きい程、そして、改変したい対象を含めた多くの人がその声を聴いていればいるほど異能は通りやすくなる。逆に言えば誰にも聞こえず、誰にも耳に届かないものは改変の対象になりにくい。それは私が如何しても変えることが出来なかった異能の欠点であり本質だった。
嘘は誰にも聞かれなければ嘘になりえない。私自身に嘘をついたとしても、それはただの思い込みや自己暗示の類に過ぎないからだ。嘘とは自分以外の誰かが事実と発言が乖離していることに気づかなければ嘘足り得ない。
どこまでいっても他者ありきの異能なのだ。誰かが私の言葉を嘘と認識しなければ発動さえままならない。今の転移でさえ、消えかけの私の残骸を使って嘘と認識させたから出来た芸当…忌々しいがこうでもしないと運用できない。
逆に言えば私が異能を発動させやすいということはそれだけ嘘を認識した人間がいるということだ。
私の残骸だけで異能を使った場合、転移はあと十数秒掛かっただろう。しかし10秒で事足りた。なら…私を認識している者がいる。嘘を嘘だと断じられる者がいる。つまるところ…敵がいる。
絵筆で世界に塗りたくるように放送室に現れた私はすぐさま異能を使う。声を張り上げろ。喉を張り裂けさせろ。私は此処にいると世界に宣言しろ。眼前、全身が黒だと認識できるモノがいる。私を認識したな?私が放送室に居ることを理解したな?それだけで私の異能は強くなる。嘘の補強は真実がするものだ。虚実の乖離が力となる。虚構の現実が塗りつぶす…!
「『虚偽判定!私の手元には拡声器がある』」
数秒と経たずに現れた拡声器を握る。敵か味方かなんてどうでもいい。ほかならぬ残骸の私を含めて、一切合切すべてが敵だ。すぐさま電源をオンにし、あらん限りの声でもって叫ぶ。叫ぶ。
「『虚偽判定!私以外は窒息する!』」
音割れ気味に放たれた言葉は世界の認識を塗り替える。嘘が私を起点に世界を侵食し、自分自身を確固たる事実にする。放送室内に…いやこの拡声器によって声が届いた人間すべてに発動する窒息攻撃。近くにいる生徒にも被害が及ぶから人気のないところで使うものだが、どうせあの異常だ。私や屋上の異能持ち以外に人はいないだろう。
眼前の黒一色の人間は歪められた世界の力によって窒息している。声も出せないはずだ。苦しくてもっと息を詰まらせるはず。もがいて苦しむはずなのだ。つまり…
「異能持ちだな。呼吸を必要としないのか?人間をやめているな…なら『虚偽判定、目の前の人間は炎上する』」
窒息が効かないことを即座に判断し、別種の現象を引き起こす。冷静になれ。焦れば死ぬ。どもって時間が掛かればその分致命的な時間が生まれる。朗々と、滑らかに、ヤツが死ぬことを諳んじろ。
拡声器の力により数秒の時間を持ってまたもや世界は塗り替わる。眼前の女に火が付き、だんだんと炎が体を覆っていく。呼吸を封じているから一酸化炭素中毒にはならないが少なくとも体を焼かれる痛みはあるはずだ。皮膚は焼け爛れていく。骨肉に火が通り血が急速に熱し始めて血管を焼き尽くす。死んだっておかしくない。それなのに…
「いつまで笑っているつもりだッ!?私の異能は歯牙にもかけないとでもいうのか!?」
黒スーツを着たショートカットの女が炎にまみれながら邪悪な笑みを浮かべている。酷く歪んでいて酷く悍ましい笑みを浮かべている。
効いていないのか…?いや効いているはずだ。此処は私が入念に準備を重ね、異能を張り巡らせたまさしく聖地なのだ。私が異能を十全に発揮できるように多くの力を裂いて、事務所、自宅、生徒会室、そして此処に仕込みを行った。此処に来る者は徐々に私に敵意を抱けなくなる。私を害する気持ちを失っていく。時間は私に味方しているはずだ。それなのに、なぜ、なぜ…
「こんなにも不安が拭えないのか…かな?」
「っ?!」
火だるまの女に手を翳される。何があるのかと身構えるがそれよりも体が硬直する。思考が停止する。そこにあったのは、その掌にあったのは…口?
「柊 真、年齢17歳。高校二年生で生徒会長を務めている。表は真面目で実直、先生から慕われているが、生徒からは憧れの目で以て距離を置かれる。しかし、裏の顔は新進気鋭のバーチャルユーチューバー、ウツロイマコトとして名をあげている。表の顔とは打って変わって、明るく、快活で、天然染みた言動で人気を博しているが、その実すべてが仕組まれたものである。異能名はわからないが、嘘を本当にする力を持っている。その力でもって、自身を塗りつぶして成り替わる嘘の塊…いや嘘が自我を持った存在かな?どうだい?下調べしたんだ。合っているかな?」
掌に口がある。その口はまるで煙や炎を気にせず、喋る。発声する。息をする…!なぜ!?どうしてだ…!?
「どうやって喋っている!?私は窒息と宣言した!!であれば掌の口でさえ息は出来ないはずだ!?」
例え掌の口であろうが喋っているならば声帯を、口を通して喉を、肺を、空気が振るわせているはずだ…!窒息、喉が閉塞することで起こる呼吸不可の状態、ならば塞がれていいはずだ…!
「ふふふっ、なに、とても簡単なことさ。そもそもこれは喉ではない。喉モドキと言えば良いかな?発声器官なんて構造さえ理解してしまえばいくらでも変更させることが出来る。あぁ息をしていないというのは事実だ。これはただ閉塞しないように作り変えた発声器官を腕の中に作って空気の通り道を肺以外で作ったに過ぎない。別にこの空気…正しくは酸素と二酸化炭素だがそれらは体内に循環することはないし肺に行くこともない。腕だけで完結しているよ。だから…」
「息はしていない。最も、息なんてしなくとも生きられるがね」
「くっ!?『虚偽判定!!私以外雷に打たれろ!』」
悍ましい姿でもって会話する化け物にすぐさま異能を行使する。畳みかける。喋らせるな。行動させるな。ここで殺す。此処ですべてを使って眼前の化け物を殺す。これはダメだ。存在してはいけない。直感でなくともわかる。人体の構造に造詣が深くなければいけず、そしてそれを実行するに躊躇わない倫理観の欠如、そんなものが罷り通ってしまう化け物はいずれ敵対する。いや、もう敵対しているのだ。あの時、廊下での違和感、あれは放送室に行かせないようにするためじゃない。放送室に誘導させるためだったんだ。無限に続く廊下に違和感を持った時点で即座に離脱するべきだった。
誘われた…!
世界はまた塗り替わる。忽然と放送室内に現れた落雷は不規則な軌道と轟音を以てして対象をつんざく。雷に打たれたのならたとえ異能持ちでもただでは済まないはずだ。だが…
「『衣身電芯』、シンプルに電気を纏う異能なんだが副次効果として絶縁体…いや電気耐性かな?まぁ雷といったものに耐性を得ることが出来てね。限界はあるんだが…たかだか雷ごときで耐性は突破できないよ」
「『虚偽判定、対象は『衣身電芯』を使えない!』」
名前を出したな…!名前を出して認識できたなら発動できる。一時的にだが機能停止できる…!そしてもう一度味わえ…!
「『虚偽判定!もう一度落雷の嵐を受けろ!!!』」
ぐっ喉が痛い。使い過ぎた。出力を分散している私には限界だったらしい。痛む喉を抑える。しかし、これで女も死ぬだろう。落雷の、それも嵐とくれば幾重にも重なり荒ぶる雷が女を打ち下ろし、見るも無残な焼死体になるはずだ。だというのに……!
焼け焦げた姿でも平然と嗤う。嗤っている。私を…嗤って……!
その笑みが私の苛立ちを駆り立てる。どうしようもなく人を小馬鹿にする笑みが、私が積み重ねてきたモノを笑うように感じて、私は。私は…!たまらず吐き捨てる。
「化け物め…!」
「君もだろう?」
耳を裂く轟音、お腹を響かせる強い衝撃、数多の雷が打ち据えたはずの女は何事もなかったかのように忽然と立っていた。悠然と、先と変わらない歪んだ笑みをこたえて。手が嘲笑った。まるで道化にすらなりきれない三流ピエロでも見るかのように嘲笑って、そして…すっと表情が消える。
「もういいかい?正直、君の力じゃ出力すべてを使わないと[ワタシ]にとって致命的にはなり得ないよ。まぁ多少は干渉されるがね。コラテラルダメージというものだ。許容すべき犠牲だろう」
「それに表面上を変えられたとしても、[ワタシ]の本質が変わることはないし変えることもできない。変えられるならやってみたまえよ。……っと失礼。[ワタシ]を焦らすこともできない君には到底できないことか。忘れてくれたまえ」
「それに、[ワタシ]はただ警告しに来ただけだよ。殺すために来たわけじゃない。だから誘ったんだ。回りくどくね。[ワタシ]は結構真っ直ぐ動くタチなんだ。殺すつもりならこんな回りくどいことせず、さっさと罠に嵌めて殺しているよ。それとも…まだやるかい?」
「私を誘導したな…!あの時の脅しも…!お前か?いや…違う。お前達だな!?屋上の人間とグルになって…!私を消そうとしているなっ…!」
激情を吐く。持っていた拡声器にひびが入った。スカートのポケットに入れてあるものを祈るように握り締める。私を陥れようとしている…!私が今まで積み重ねてきた
「ふーん…そう考えるのか。君、被害妄想が過ぎるんじゃないかい?見ればわかるだろう?君の異能なんて歯牙にもかけていないじゃないか。やろうと思えば[ワタシ]一人で終わらせられる。屋上の彼ら彼女らは直接的な関係はないと言っていい。」
さらに黒く焦げた服をはたきながら嘆息させる姿に苛立ちが増々募るが今はどうだっていい。その言葉は少なくとも事実で、今の出力じゃあ勝てるわけがない。出力をすべて集めて、奥の手を使わなくては勝てない。今は時間稼ぎだ。本当に警告だけならそれでいい。今は一つでも情報が欲しい。ひとつ、深呼吸する。苛立ちをすべて息として吐きだしてから、冷静を吸った。
「はぁ……信じられないな…異能持ちだぞ?ロクな人間がいない」
「それは自己紹介と受け取っても?」
「不本意ながらそうでもある。私自身忌々しいと思っているからな」
問答する。その言葉一つ一つに込められた皮肉は私以外の異能持ちにも通じるものだ。異能持ちなんてロクな人間が居ない。まともな異能持ちが居るなら、ソイツはまともに見える真正のロクデナシ…あるいはこの時代に間違えて生まれてきてしまった聖人かなにかだろう。
「なるほどなるほど…
指を一つ二つと折っていく。無限に続く廊下、それに周りの人間が異常な行動、肉体を作り替える力、呼吸を必要としないのも肉体の作り替えか…?『衣身電芯』といった雷を防いだ力、炎を防いだ『焼身焦命』…最低5つ持っている。異能は一人一つだ。それは異能がその人の闇に依存していて、複数の異能を持つというのは体に複数の人間を持たなければあり得ない。つまるところ土台無理なことだ。なら残る理由は…!
「複数の…異能持ち…!逢坂とやらと同じものだな…?私を尾行していたあの男…!」
「おや、そうなのかい?…確かに今戦っているが………あー…なるほど。そういう手合いなのかい。うーん、そうだな。正直なところ手の内を明かしたくないが、かといってあんなものと同じ扱いをされても困るからね…彼の上位版だよ。[ワタシ]は。彼が異能を借り受けるなら、[ワタシ]は異能を奪うタイプだ」
「っ!?奪いに来たのか!?私を…!この力を奪いに「自惚れるなよ」っ…」
声色が酷く冷たいものに変わる。今まで面白くもない喜劇を見るような目が、まるで路傍の石でも見つめるような視線へと変わる。どこにでもあるものをなんてことはないというように見据える視線に。女は淡々としゃべる。淡々と、私を打ち据える。
「いいかい?君は確かに嘘を本当にするという現実改変能力持ちなんだろう。下調べはしているしそれが珍しいものなのは承知している。時間は多少かかるものの、ほぼありとあらゆるものを変えられるだろう。何なら死すら塗り替えることだってできるはずだ。コレクター欲は騒ぐが…正直なところ、
「私が…大したことない?こんなに…苦しんで、悩んだ私が…大したこと…ないだと……!?」
聞き捨てならなかった。それだけは、それだけは流せるものじゃなかった。大したことない…?私が?嘘を本当にする異能として生まれ、生まれながらに嘘であると断じられ、それを後から本物ですと宣う姿がどれだけ滑稽なことか、どれだけ馬鹿げた行いなのか…私自身こんなものが罷り通ってしまったら終わりだとさえ思っているのに…!私は新たな柊 真として生まれたが原型には異能持ちたる元の柊 真がいる。だからこそ、原型となった常識が、倫理観が宣うのだ。こんなのが罷り通る世界は馬鹿げていると。
それに苦悩し、
まだ私は始まっていなくて、まだスタート地点にも立っていない。未だプロローグにすら満たない前日譚なのだ。それでもあがいて…あがいて…ここまで、此処まで来たというのに…!
「ふっ、当たり前じゃないか。いつだって自分が一番苦しいんだと言うがそんなことはない。君よりも絶望している人間はね。君みたいに変えられる力を持っているのに苦しんでるだけじゃないんだよ。現状をろくに力も持たないのに何とか変えようと努力しているし、自分の力だけじゃどうにもならないのに必死に自分で何とかしようとするんだ。吐き出してしまえば楽になることを自分の心の中に封じ込めて、自分が無力だと知っても動かずにはいられない。それが甘っちょろい偽善者染みた考えでも、気色悪い聖人みたいな考えでもない。ましてや助かりたいなんて保身でもない。ただただ利用しようとした自分の自業自得だといって自罰心で動いている。自分が発言したことに責任をもって、それが自分を圧し潰すものだとしてもそれを曲げることを何よりも自分が許さない。一つ一つの言葉にさえ、まるで犯罪でも犯したように罪悪感を持っている。自分は地獄に落ちるべき人間だけど、せめて関わった人には報いたいという、善意でも恩義でもない、ただ罪悪感からくる償いの意志を持って動いているんだ。たった一言助けてくださいという言葉さえ、自分が悪いからと口を噤んで言わないように頑張って頑張って、それでもどうしようもなくて、謝りながら、罪悪感に駆られて無力感に苛まれながら、地獄を突き進む覚悟しかできないけど、払えるものはもうなにもないけど、それでも助けてくださいと懇願するしかない様はとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとても………………あぁっ………なんて彼は…………はぁ…………
でも君は違うだろう?」
「君は本体を殺そうとしている。嘘から生まれた偽物が本物に成り代わろうとしている。馬鹿じゃないかい。積み重ねてきたものも、経験も、記憶も、その全てが嘘の癖に。確かに君が形成された過程は
「誰がお前なんかに奪われてたまるものかっ!!!!これは、私だけの!私だけの
たまらずスカートに入れていた機械のボタンを押した。すぐさま再生されるは私の声、そう
『虚偽判定、私は自宅にいる』
すぐさま塗りつぶされていく私の姿を女は笑っていた。心底馬鹿にするように笑っていた。あぁ…殺してやる。お前は下手を打ったな…。自己陶酔しきっていたおかげでお前に執着する人間が居れることを知れたよ。それはきっと屋上にいる誰かだ。先の話で逢坂ではないと考える。なら他の人間だ。なら私がすべて、すべてすべてすべてすべて…!
「嘘で塗りつぶしてやる…!」
「期待してないけど楽しみにしておくよ。次に会うときはきっと…ね。まぁ下調べと今話してみて感じたことだが、君はすぐにも出力を集めて今日の夜にでも異能を行使するんだろう?ならすぐに再会できる。精々あがいてくれたまえ。」
「お前が執着する人間を必ず殺してやる」
「やってみせてよ。そして精々踏み台になってくれ。そのために態々君に会ってやったんだから」
「『虚偽判定…私は屋上の彼の中にいる…』使い勝手悪いなぁ。たかだか喋っただけならこれくらいか…」
悲報、主人公、標的にされる。
これを読んでから接触してきた時の『悪魔のささやき』あたりからメアリー・スーまで読むと色々…うん、察せられると思います。どうして谷崎さんがあんなにブチ切れたのか…とか。
大変お待たせしました。評価本当にありがとうございます。遅々として進めていきますので今後ともよろしくお願いします。
第二章ヒロイン投票
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支配系ヒロイン()
-
暴力系ヒロイン()
-
上位者系ヒロイン()