少年少女が抱える闇で殴りあいをさせたかった 作:よくメガネを無くす海月のーれん
はい、短いうえに予定ぶっちしましたが、これからギアを上げていきます。週一投稿とは言わずとも頑張ってそれに近いペースで更新します。あと少し。
きっと俺達は油断していた。いろんな問題が立て続けに起こって、それを一つずつ解決していって、ようやく最後の問題の、それも解決策が見えただけで事態は好転すると思っていた。でも、時間は平等に過ぎているもんだから、事態がこのままなんて都合のいい事ありえるわけがなかった。ストーカー事件だって、後手に回れば殺されると判断したから先手を打った。相手は異能持ちで、そして俺は対応が後手後手に回ることの最悪さを理解していた。あの時は運が良かっただけなんだ。
プルルルル、プルルルル、プルルルル……
一時の静寂を切り裂いたのはスマホの着信音だった。音の主はどうやら逢坂のポケットからで、取り出されたソレは画面がひび割れているものの問題なく使えるようだった。あの戦いで無事だったのかよとかぼやけば毎回買いなおしちゃだりぃからちと細工したと言われた。それ俺のスマホにもやってほしいんだが…
「今度な。すまん定期連絡だ。俺の協力者で今でも異能でジャミングしてもらってる。警察とかそういう政府のお世話になってねぇのはコイツのおかげだ。……もしもし、どうした?こっちはまぁ終わったからジャミング切っても…あ?外を見ろって…んだってそんな…あ」
通話中の逢坂がそのまま屋上の端に移動する。そして、外の姿を見て絶句していた。
妙な汗が体を伝う。わけもわからず、俺も屋上から外をのぞいた。燐火ちゃんも、纏先生も、谷崎さんも、誰もが顔から余裕を消して、屋上から外を見た。
屋上から見える景色、校門の外にぽつりと一人の男性が立っていた。
スーツ姿で片手には社会人が使うような四角いバックを持って、なんてことはないように校門の前に立っている。その男の頭は異形だった。
首から側頭部に掛けて張り付くように木が生えている。その樹木は生えている男性の身長を優に超え、3m4mほどの大きさとなっている。だが男性は自重に沈むことなく、特徴的なギザギザの葉っぱと赤い実を揺れ動かしている。
顔半分を樹木に浸食された男はなんでもないような茫洋とした顔でこちらをじぃっと見つめている。確かにこちらを見ているのだ。
その男性は校門に手を掛ける。しかし、その手は見えない何かに遮られて虚空を張っている。アレがジャミングなのだろうか?触るたびにバチンと静電気のように弾かれている。探知妨害と結界の役割をしているのか。わからない。だが今はアレがあるおかげで幾分か時間に余裕が出来たことは理解できた。
また一人、校門に人が来た。それは紛れもないうちの生徒だった。うちの学生服を少しだけ着崩して両手でスマホを持っている。今時の女子高生で誰も気に留めないはずだった。ただ、顔の側頭部に樹木が浸食してること以外。
その女子高生もまた、こちらをじぃっと見つめて、スマホを手放し、透明の膜を叩き始める。
そこに一人の学生が通りかかった。男子高生だ。歩きスマホをしているようで、校門を叩く女子高生や社会人を気にも留めない。すぐ横、木に浸食された女子高生が近づいた男子高生に触れた。体を揺する。すると、実が落ちた。赤く、朱く、熟しきった実を落として、そして、裂いた。
裂けた実は瞬く間に男子高生を侵食した。浸食された本人は全く気にもしていなかった。まるで何事もなかったように。触られたことさえ気づかないように。スマホから意識を離さず。そうして、首から側頭部に掛けて柊の木が生える。命を吸うように生えてくる。そして枝を撓らせ、花を咲かせて実を付ける。浸食されてしまった男子高生はスマホを落としてこちらを見た。
ぐりん、音にするならそのような音でこちらを向いた。顔には柊の枝が浸食し、片目に覆いかぶさるように赤い実が付いた。男子高生は無色透明の壁を叩き始めた。
あぁ、マジかよ。
一人、また一人、植物に浸食された人間が増えていく。建物の隙間から柊が生えていく。年齢、性別、職業だってバラバラ。なのに皆一様に植物に浸食され、特徴的なギザギザの葉と赤い実を揺らしている。遠目に見てわかってしまうのだ。なにせ、学校に集おうとしている植物の群れが建物の先や陰から見え隠れしているのだから。
建物で柊がつっかえている人がいる。その人は柊を折ってでも外に出た。折れた柊から赤い朱い
近くに幼稚園があった。子供がいた。その子供達は柊の自重に耐えきれなかったのだろう。横倒しになった柊が見えた。ばたばた、わさわさと揺れる木々の群れがある。それらを助ける保育士の人もまた、柊を揺らして、保育園を出て行った。子供達はどういうわけか、いやどういう力か、ゆっくり、ゆっくりと這いながら外に出て行こうとしている。地面と擦れ、木々は朱に染まる。屋上からよく見えた。良く見えてしまった。その惨状が。
動く木々は増え、そして林となって森となる。
校門前は瞬く間に風も吹いていないのに動き揺らめき、人を襲う幽霊柊の森となってしまった。人々が透明の壁を叩いていく。一人一人はそこまでの力はない。でも数人、何十人と増えていく姿に危機感が募る。
一部、一部の人達は壁を叩かず手を翳す。その手の先から、世界が茹った。ふつふつ、ぷつつ、世界が粟立って、その景色が吹きこぼれていく。そして、手を壁に近づけた。透明の壁が瞬く間に沸騰していく。ぼこり、ぼこりと茹り、穴を開けようとしている。現実には起こり得ない事象、異常、異能持ち…。
一人だけじゃない。ある者は手を右から左にずらした。瞬間、手を追うようにして軌跡が眩いた。キラキラと光るソレは、ダイヤモンドダストのように、瞬間、明滅、爆音、爆発する。なぞった部分が爆発でもするのかよ。その爆発は鳴りやむことはなかった。まるで人込みをかき分けるように、ひたすら、手を左に、右にと、振っていく。その軌跡は一瞬の明滅の後に爆発する。…周りの人を巻き込んで。
ある者は片手の指全てを折った。自身の手前に、レバーでも引くように関節を逆に折ってしまった。折れた指の断面からは血は漏れず、静かに何かが這い出た。ゆっくりと、赤黒い姿で、指の中に潜んで、骨を騙っていたハズのナニカは静かに、静かに漏れ出していた。それは瞬く間に巨大な、巨大な顔のない蛇と化して、壁へと激突する。頭をひしゃげさせる。ひしゃげた頭から、折れた指を再演するように、また静かにナニカが生えた。それは入れ子のように一回り小さく、しかし顔はなかった。勢いは先のそのままにぶつかり、また折れた指を再演する。
はは、まるでゾンビの大群だ。それにアレ、ゾンビパニックもののボスかなんかかよ。
顔が引きつる。あぁなるほど。現実改変って此処までなのか。ゾンビパニックモノを引き起こせるってなんだよ。これが罷り通るってなんだよ…。
逢坂が呆然としながらも電話を切って口火を切る。
「一旦、一旦切る、お前は隠れとけよ……はぁ、俺が頼んだジャミングっつーのは…だ。指定した場所と外を分けてくれるモンなんだよ。だから…内側で起こったことは外には伝わんねぇし、外側で起こったことは基本内部に伝わんねぇ。そういうモンだ。そういうモンのはずなんだよ」
引きつった笑いで言った。自分が見えているモンが現実だと思いたくないという声色をしていた。奇遇だな。俺もだ。
「逢坂…、お前…「おかしいんだよ」
「おかしいんだ。アレは明らかに柊 真の異能によるもんだ。出力が同じなんだよ。それが学校に集まって来てる。理由はなんだ?安直に考えるなら俺達が居るからだ。でもどう考えてもおかしいんだよ」
「
「はっ?」
その言葉に疑惑が噴出する。記憶が駆け巡る。谷崎さんの言葉が脳裏をよぎる。[ワタシ]はなんて言っていた?口止めして引かせたと言っていた。それは谷崎さんもだと。ならそれはこの学校に柊 真も谷崎さんも居たということじゃないか?そうじゃないなら口止めする理由がない。居ないんだったら口止めしなくていいはずだ。
谷崎さんは怒っていた。なぜ怒っていた?[ワタシ]のやり口が気にくわないからだと。言っていた。俺は約束を破ったことだと思っていた。
「だって学校に柊 真がいたらこんなことするわけねぇだろ。俺等がやってること丸わかりだ。だから居ない時を狙ったんだよ。そのはずなんだよ。それにあぁしてるってことは異能を使ったってことだ。基本的に異能を使えば気づくもんだ。でも気づけなかった。」
おかしい。どうしてだ?谷崎さんは何に怒った?本当に約束を破ったことなのか?
「どうして柊 真に知られている?」
取引、情報提供。何を教えた?いや違う。何が知られた?それの口封じに情報を貰ったんだ。考えられるとしたら俺達が争ってること。それを黙ってもらう代わりに情報を貰ったはずなんだ。
「誰かが隠蔽していた。俺が電話したやつじゃない。第三者だ。そして、こん中で第三者が一人だけいる。生徒でも先生でもない奴が一人いる」
つまり一つ以上こちらの情報が渡ってるはずなんだ。答えろ。[ワタシ]、何を教えた?
逢坂と俺はそれぞれ別の情報から同じ解に辿り着いた。ははっ、逢坂はすげぇな。俺はヒントありきなのに。ノーヒントでいきやがった。
「『[ワタシ]を疑うのかい?』」
頬に口が表出する。にやりと、気色の悪い笑みを浮かべたはずだ。あぁそうだった。そういえばコイツ、そういうやつだったな。
俺に対して口を開いたであろう[ワタシ]に、逢坂は堪え性のない犯人でも見るかのように目を向けた。
「お前か?あぁそうか。そうだな…気づかなかった。おかしいわけだ」
「俺はバカだな。あぁ馬鹿だ。谷崎さんが来るなら気づけるはずだったんだよ。谷崎さんは別に問題なかったんだ。だって学校に居たっておかしくない。
そうだ。[ワタシ]は外から来たんだ。一応肉体を持っていて、精神だけを飛ばしてきたんだろうと思っていた。特段不思議に思わなかったんだ。だって、燐火ちゃんだって出来ていたことだし、[ワタシ]だって出来てもおかいしくないだろうと思っていた。気づかなかったんじゃない。そういうモンだと思ってた。俺の責任だな。
「『今更かい?』」
「今更って…まぁ今更だけどよォ。なぁ…お前が教えたのかよ。柊 真に」
今更だな。でも教えてくれよ。[ワタシ]が教えたのか?俺達の事
口はひとしきり笑った後、観念したように答えた。嗤って答えた。
「『あぁそうだよ。[ワタシ]が教えたんだ。でもそこまで教えたわけじゃないさ。屋上で起こってることは直接的には関係ないことだと言っただけだよ。』」
本当にそれだけか?どうせそれだけじゃないはずだ。
「直接的に…か。十分ヒントだろそれ。それに…それだけで動くモンなのか?」
俺達の言葉は違っていて、しかし本質は同じだった。どうしようもなく[ワタシ]を疑っていて、俺はコイツの本性を知っているからで、逢坂はコイツを全く知らない部外者だからだ。視点が違う。つまるところ、受け取り方が違うということだ。それが、今の状況を決定的に分かれさせた。
「『彼女は少し被害妄想が強かったんだよ。[ワタシ]がどれだけ言っても聞きやしない。まぁ…襲われたから正当防衛さ。その後、すぐにいなくなってしまったよ』」
それじゃねぇか。なんだって…あぁもういい。
「十中八九ソイツだろ…はぁ…お前は敵か?」
[ワタシ]、俺を裏切るってことでいいのか?助けてくれるんじゃないのか?
「『…くっ、そういわれると痛いんだがね。少なくとも…君にデメリットがあるようなことは教えていない。結果としてあぁなった…が正しいよ。[ワタシ]から言えることはそれだけさ』」
「『もちろん、味方だよ。そこは間違えないでもらいたいね』」
信じて「良いんだな?」
「『あぁ。
「はぁ…クソっ…」
逢坂はうんざりしたように言葉を吐いた。逢坂はきっと今のやり取りで[ワタシ]を敵と判断した。俺は俺の名に誓ったのなら味方だと判断しているが、逢坂には判断材料がない。つまり今の言葉が真実である証拠はないし、そもそもコイツの異能は作戦に必須だから、無理やり納得しただけだ。
俺だって[ワタシ]が俺の名に誓っただけで裏切るかもしれないと言われたらそれまでだ。でもそれはないと俺は思う。そうだろ?
(もちろんだとも。本体に誓うなら嘘だと思われてもいいが、君の名に誓ったんだ。誓って[ワタシ]は嘘をついていない。本当に、彼女は被害妄想が激しかったよ)
ならいい。いや、よくはないが…どうせお前がとやかく言ったところでどうにもならない。なら俺が説得する。
「逢坂、今は信じてくれ。こいつはそういうやつだ。さっきの見たらわかるだろ?俺の身体から這い出てきたりするような奴だ。いざとなったら、俺が止める。俺が人質になる」
「…はぁ。わぁーってるよ。いいんだ。どうせ俺はお前らに頼るしかない。空手形みたいなもんと受け取っておく。少なくとも、お前は信用してる。よ―頑張ってるよ。お前さんは…。んで?どうすんだよ。彼奴らどうにかしねぇと…」
瞬間、甲高い音が鳴る。ガラスが割れるような、鈴の音が鳴るような、不可思議で快とも不快とも言えない音が鳴り響く。
見れば世界に罅が入っていた。俺達を守っている透明の膜が罅割れ始めている。世界に亀裂が走っていく。須臾の時間、校門に集まっていた人たちが何かに吹き飛ばされていた。木々を押しのけ人々が吹き飛ぶ。それと同時に先生が膝を折った。腕は真っ赤になり、血が噴き出していたのだ。玉のような汗が垂れる。落ちた血がじゅんと音を立てた。明らかな高熱を発していた。
「ちっ、ダメだな…数瞬だけ腕を飛ばしたというのに…攻撃された。世界を沸騰させる異能か?周囲に近づくだけでこれか…手強いぞ」
「時間がないってことかよ…」
「追記するなら私が扱ってる端末も支配下に置かれ始めてる。どうでもいいヤツは捨ておいて異能持ちや強い子に絞って指揮権を握ってるけど…時間の問題よ。付け加えるなら…支配される条件はあの柊に寄生された人間と接触することと、
燐火ちゃんが最悪を助長させる。…動画?逢坂はその言葉にサッと顔を青ざめさせる。スマホを操作して息を飲んだ。
「そういう事か…クソッ」
此方に向けたスマホ画面は一つの動画…いや生放送を流していた。そこに映っているのはどこかアニメ調の姿に3Dが合体したようなもので、アイドル衣装に身を包んだ女が歌って踊っていた。配信画面だった。配信タイトルは緊急生放送、100万人耐久配信とある。登録者数は地味ながらも数字を伸ばしていて、60万人を超えた。逢坂の言葉が瞬く。ネットアイドル。そして、俺自身が吐いた言葉が反芻する。あぁ、最悪だ。嫌な予感がする。
「逢坂…。俺がさっき言ったこと覚えてるか?」
「あ?んだよ。今はそれどころじゃねぇって「聞いてくれ」
「言っただろ。俺さ。嘘かどうかを判断するには必ず判断基準があるはずだって。俺はそれを元となった本人だと思ってた。元の価値基準から嘘だと判断してるんだと」
「なぁオイ…まさか」
「あぁ。もし、もし判断基準を他者に依存できるって言うなら…今の状態ってかなりまずいんじゃないか。ネットアイドル…それがヤツの力の根源なんじゃないか?だって、
「あぁだからか。だから柊 真は…あんな莫大な出力を…」
「俺達の敵は…これを見てる人間全員かもしれない」
瞬間、スマホから大量の樹木が俺達に襲い掛かった。
『見えているぞ。逢坂 勇人。………そして君もだよ。個人的な恨みだが死んでもらう』
最低最悪のゾンビパニック
第二章ヒロイン投票
-
支配系ヒロイン()
-
暴力系ヒロイン()
-
上位者系ヒロイン()