五条悟並みのチートをゲットした 作:隣の家に晩飯凸する止まらないゴルシ
ちょっと星燃やしに行ってて…(もしかして:ルビコン3)
術師はクソ、というのは的を射ている。
時に人を殺さなければいけないし、時に隣にいる誰かが死ぬ。
そんな世界に、俺たち子供は立たされる。時に否応なしに、時に自ら進んで、その地獄へ足を踏み入れる。
それを大人の怠慢だと言うつもりはない。それは、呪術というものが才能に左右される限り、解決しようのない仕方ないものだからだ。
けれど、その大人は子供に地獄を押し付けるだけで、のうのうと飯を食らっている。
そんな地獄。
全てが、何もかもが。ありとあらゆる何もかもがしっちゃかめっちゃかで、無茶苦茶で。
けれど、それに惹かれる。
『子供じゃない』『もう自分は大人だ』『何だって一人でできる』
そう唱えている連中を見て、俺はつくづく莫迦な奴らだと思う。俺達はそんなのじゃない。まだ、子供なんだ。
それを客観的に捉えることができない莫迦は、すぐに人生のレールがガタガタになる。
そう思って、蔑んだ。
それも、つかの間だった。
「夏油」
「葉月かい………これを見なよ。汚い
「お前が―――やったのか」
答えは分かり切っている。辺りに散らばる残穢は間違いなく目の前の男のものだ。
「そうさ」
男は、夏油傑はさらりと答えた。罪悪感など何も感じていない、むしろ善行を成し遂げたのだと言わんばかりの清々しさが、そこにあった。
「葉月、私はね。こう思うんだ。世界には正義も悪もないのだと―――」
「それには同感だな。だが、俺が目の前のお前を逃がす理由にはならない」
「それくらい分かってるさ。ちょっと位付き合いなよ」
夏油は、炎の上がっている民家を横目に、血の海を歩き始めた。嘗ては道であったのだろうそれは、住民の内臓と血で赤く彩られていた。
矢田は、何も言わず彼についていった。
「正義というのは、誰かのために悪を粉砕し、何かを守るものである―――そう、誰かは言う。そういう点では我々術師もまた、正義なんだろう」
「………」
「けれど、よく考えてみなよ。正義というのは、単なるレッテルに過ぎない。立場が違えば、悪は正義に見えるし、正義は悪に見える」
「そんなものに、価値はない」
「そうさ! だから、葉月も術師を続ける必要は無いだろう? 君は何で術師をしているんだい?」
「……社会という、一つの巨大なシステムにとって、俺は道具に過ぎない。けれど、それが俺を殺す可能性があったとしても、術師でありたいと思うのは、他ならない俺の自己判断だ」
「他人ですら侵すことのできない己の主権―――社会もまた、己を侵すことはできないと?」
夏油がこちらを向くと、辺りから呪霊が蟻のように出てくる。
「そうだ。だから俺は術師をやってるのさ。他ならない俺の心の救済のために」
「……私も、もしかしたらそうなのかもしれないな」
「止まる気はないんだな?」
「無い。これは私の選択だ。だから、そうだな。君の言い分を借りるなら、『私の主権は侵させない』」
閃光と爆発が両者の間を幾度か行ったり来たりして、ひときわ大きな爆発が起きた。
夏油は彼の術式詳細を知らない。彼の呪術についてわかることは、術式は呪力の吸収、反転術式を使え、対領域の対策を持つということ。だが、夏油の思考は今しがた行われた熱線と爆発のやり取りで、彼の術式とは何たるかを掴みつつあった。
爆炎が晴れて、矢田の姿が見えた。特におかしな様子もなく、彼は佇んでいた。
「―――――ちょっとは手加減したらどうだ、えぇ?」
「無傷のくせによく言うよ」
再び、攻勢。
今度は遠距離攻撃手段を持つ呪霊を後方支援に、それ以外を呪力強化で一級程度まで引き上げ、あちらへ突撃させる。
「ナンセンスだな、夏油!?」
遠距離攻撃も、近接攻撃すらものともせず、着々と最低限の呪力で彼は呪霊を減らし始めた。夏油の頬を、冷たい一筋の汗が伝った。
「あんまりしたくないんだけどな。格闘戦」
夏油が駆けだすのに合わせて、葉月も呪力を練り出す。
「――――だから、やらない」
簡単なブラフだった。駆け出して、ギリギリの所で上に跳びあがり、自身の体で死角になっている空間から呪霊を呼び出して攻撃する。
まさか、それを覆らされるとは、夏油は微塵たりとも思っていなかった。
「安直だぜ、夏油!」
ぐ、と心が気圧されるような、体が後ろへ吹き飛ばされるような圧を空中で感じて、夏油は気付いた。
矢田を―――彼を取り巻く周りの空間には、呪力が満ち溢れている。大気に、土壌の奥にまで染み込む様にして。
「くっ―――」
閃光と激しい熱。そして爆音が鳴り響いて、後には巨大なクレーターと、その中心に佇む一人の男が残された。
「アイツ、ギリギリの所で逃げたな…………面白く、なりそうだったなぁ」
夏油はあの村から遠く離れた場所で、膝をついていた。
まさかあれ程とは思わなんだのだ。あの瞬間、夏油はどうにか呪霊で全身を覆い、あの爆発から逃れ、そのまま全力で村を離れた。あの村で見つけた二人の子供は先に逃がしておいたから、何も気にせずただ走り抜ける事ができたのは、不幸中の幸いであった。
油断していたつもりではない。驕っているつもりでもなかった。だが、あの矢田葉月には、驕っていないものは驕っていて、油断していないつもりでも油断しているようになってしまう。到底予測できないやり方で、上を行く。術師にとってそれは常だ。だが、矢田には術師の常識というものが無い。
我を押し付ける、あるいは強制的な二者択一を強いるとか、そう言う訳ではない。あの術式も、発想も、解釈も―――全てが、今の夏油には追い付けないものだった。
「ふ……………は、久しぶりに、怖かったな」
夏油はそう呟くと、己の家へ歩を進めた。
理由は言わずもがな、己の覚悟を固めるためであった。
矢田の広域自爆(仮称)、もしかしなくてもアサルトアーマー…?