IS BURST EXTRA INFINITY 作:K@zuKY
「ここか」
Bピットの扉を目の前にして、何かメンドクサイ事にならなければいいのだが、と半ば祈るような気持ちでドアを開けた。
中は閑散としているのはやはり観戦側に回りたい人間が多かったからだろう。必要最低数残っている整備係の人々もやる事が無いのか、暇そうに雑談をしていた。
その中で一際目立つのは、やはりというべきか、当然と言うべきか、セシリア・オルコットがISを展開して自身の状態を確認している。
何だあのエロい格好は、けしからん尻だ。というか、水着っぽいスーツ越しにISを装着して問題ないのか。いやいやそんな事よりも伝言だったと思い直し、セシリアに声をかけた。
「あら、ファーロスさん、どうしましたの?」
「千ふゅ……織斑先生からの伝言を持ってきた」
「異星人(ゲスト)をメッセンジャー扱いとは、また……」
世界最強の教師が顎で異星人をこき使う図を思い浮かべたのだろう、絶句し、同情の視線を送るセシリア。
「織斑先生には世話になっているからな。俺に対してのコンタクトは全て織斑先生がやり取りしている筈なので、それ位はやっても良いとは思っている。だから、問題は無いさ」
「そうですの? わたくしはてっきり……」
その後の言葉を濁すオルコットに、苦笑いを浮かべるしかないセンクラッド。
確かにあの女帝ぽい雰囲気で指図されたら誰もが従うだろうよ、と思いながらも、それを言葉にする事はしない。言うとしたら本人の眼の前で言うべきだろうという思いがあるからだ。
そんな事よりも伝えるべき事があったな、と思い出し、
「あぁ、そうだ。織斑先生からの伝言だが」
「なんでしょう?」
「織斑一夏の専用ISの搬入が遅れている為、セシリア・オルコットはBピットで待機。織斑一夏の機体が搬送されたら即試合に移る、との事」
その言葉に、あら、と言う表情を出し、次いで、
「わたくしの勝利は確定したも同然ですわね」
と、不遜な笑みを浮かべるセシリアに、センクラッドは待ったをかける。
「初期設定のままで戦える程、あの猿が強いとは思えませんけど」
「そうだな、普通なら、そうだ。だが――」
普通を強調するセンクラッドに、不快さを感じて額に眉を寄せたセシリアだったが、放り込まれた言葉に耳を疑うことになる。
「実戦経験があるなら別だろう」
「!? まさか、ここは日本ですわよ?」
「これは俺が抱いた印象だが、あいつの身のこなしは実戦経験者のそれに近い。流石に従軍経験は無いとは思うがな。そしてお前さんは実戦経験をしていない」
「してますわよ。これでもわたくしは代表候補生、甘く見られては困りますわ」
失礼な、と言わんばかりに憤慨するセシリアに、怜悧な視線でじっと見つめ、意味を取り違えている事を見抜いたセンクラッドはそうじゃないと首を振った。
「ISに護られながら試合をするのと、IS無しで戦闘に巻き込まれるのでは雲泥の差だ。少なくとも、前者は命のやり取りではない」
「……織斑一夏に、殺し合いの経験があると言いたいのですか?」
「そこまではわからんよ。だが、慢心して良いわけじゃない。慢心がそのまま命取りに発展するケースなんてザラにある」
「御忠告、感謝致しますわ。ですが、勝つのはこのわたくし。幾ら篠ノ之博士の妹が鍛えたとしても、IS戦を経験した事の無い素人に負ける筈はありませんわ」
もう何言ってもこいつは負けるまで変わらないだろうな、と呆れるセンクラッド。好きにしろと投げやりに言うが、何時かの様に待ったをかけられる。
やや辟易とした様子を見せて「なんだ?」と応えたセンクラッドに、冷ややかな調子でセシリアは問いかけた。
「何故わたくしに助言めいたことをおっしゃるのですか? まさかわたくしの美貌や家柄に――」
「無い、それは無い。絶対無い。というかイタイ勘違いをしているとしか思えないので、その発言は流石にやめておけ」
「なら何でですの!!」
そんなキレ気味に言われてもなぁ、と溜息を一つ付きながら視線を壁掛け時計に向ける。
時計の針は此処に来てから二十分が経過した事を伝えていた。まだまだかかるようだ、と判断したセンクラッドは、暇潰しの為に意見を述べ始めた。
「前にも言ったが、視野狭窄に陥ったものに対する忠告だ。それに、織斑先生と賭けをしているからな。負けてもらうのは困る」
「私達を、賭けの対象にしたのですか!? って、その口ぶりだと織斑先生は弟さんに賭けたようですけど――」
「頼むから人の話は最後まで聞いてくれ。俺も織斑先生もお前さんが勝つ事には賭けた。というよりも、織斑一夏の負ける内容で賭けた。これがどういう意味かわかるか?」
暫く考え込むセシリア。顎に手を這わせて考え込むその姿は、光の照り返しを受けて輝く金髪と蒼いISを纏う姿が相まってセンクラッドから見ても美しく思えたのだが、その心にどす黒い怒りと苛立ちが湧き出すのを視て、あぁこれはきっと俺に八つ当たりぽい何かが来る、きっと来る、と諦念して待つ。
「……僅差か、圧倒的か、という事ですか?」
「俺は機体性能を活かせないまま敗北すると判断した。だが、織斑千冬は逆転負けと考えていた。一度引っ繰り返される要素があるから、あのような発言をしたのだろう。身内に甘い人間じゃないのは僅かの間しか話していない俺でも理解出来る。つまり、お前さんが織斑一夏に負ける可能性を持っていると考えても良いだろう?」
「わたくしが、負けそうになる、と……」
歯噛みして、拳を握り込むセシリア。眼から視なくともわかる。アレは怒りだ。自らを不当に下に置かれたとでも思っているのだろう。
実際セシリアはそう思っていた。あのような気品も知性も品性すらも無い極東の猿に負ける等、微塵も思っていなかった。
しかし、織斑千冬――伝説のブリュンヒルデ――はそう思っていない。何処かに弱点があるという事を看破しているのだ。
不安な点は確かにある。中距離機体特有の近接戦闘の脆弱さ、こればかりは現状では如何ともし難い課題として自覚している。
だが、そこをつかれるような迂闊さは持ち合わせてはいないし、そもそも接近される前に自らの狙撃技能で瞬殺出来ると思っていたのだ。万が一接近されたとしても、セシリアには切り札があるのだ、負ける筈が無い。
しかし――
「織斑一夏を余り舐めない方が良い。あの男はきっと、今のお前さんになら手が届く」
あくまで一夏を擁護するような言葉に、セシリアはカッと頭に血が上り、思わずセンクラッドに詰め寄る。掴み掛からんばかりの形相にも小揺るぎもしない眼の前の男に苛立ちを感じ、それを声にしてぶつけた。
「わたくしに負ける要素はありませんわ!!」
「織斑一夏が機体性能を発揮できるのなら、お前さんが負ける確率は50%まで跳ね上がるだろう。俺も織斑先生もそう見てる」
「何故あの猿がそんなに強いと思えるのか、わたくしには理解できません」
「何故そんなに自分を高く見せようとしているかが俺には理解できない。セシリア・オルコット、お前さんは一体何者だ」
「何者、ですって!? わたくしはオルコット家の当主にしてイギリス代表候補生、ブルー・ティアーズの搭乗者のセシリア・オルコットですわ!!」
「愚かな」
激昂して吐き捨てるように言ったセシリアの言葉をたった一言で両断したセンクラッドは、底冷えする様な目線を向け、
「そんなものにすがり付いているのなら、ここで勝てたとしても今後は織斑一夏に勝てなくなるだろう」
「言わせておけばッ」
「この学園に入学しISを学ぶ為に来た、言わば雛鳥達の中で一番殻を破るのに速かったとしても、それが強さに結びつく訳が無い。それと……人の強さは、家柄では推し量れない。そして、見下すものや利用するしか脳の無い者は必ず足元を掬われる」
俺はそういう人種が破滅して逝くのを何度も見届けてきた、と呟くセンクラッドの言葉は奇妙な重石となって激昂していたセシリアの心にズシリと落ちた。
「見届けてきた? 貴方が破滅させたと?」
「あぁ、そうだ。手を下しても下さなくても実際そういう人種はそうなるがな」
乾いた声で乾いた事実を淡々と話すセンクラッドに、薄ら寒さを感じ、黙り込むセシリア。
重苦しい空気があたりを静かにさせた。まるで空気自体が重力を持ったような、そんな息苦しさを皆は感じていた。
整備関連の生徒達は帰りたいよう、と涙目になっていたりする。完全にとばっちりだ。
「セシリア・オルコット」
「……なんですの?」
「日本語は難しいが、敢えて言わせてもらう。視野狭窄の原因の一つだと思うが、プライドと誇りは別だ。お前さんはプライドが高いが、それを誇りと勘違いしている。それを正すべきだ」
戯言として、無視を決め込んだセシリア。そこにセシリアのIS『ブルー・ティアーズ』に通信が入り、準備が整った旨を告げられると、一度だけセンクラッドを睨んでから、憤然とした様子でカタパルトから飛び去って行った。
やれやれと首を振って、壁面に埋め込まれている大型テレビ越しに観戦する事にしたセンクラッド。
正直そんな気分ではなかったが、この世界の新型がどの位の戦力なのかを把握しなければならない。万が一攻撃された場合、どの位のランクで応戦すべきかの判断材料が欲しかったのだ。
レールガン等の近未来的な装備で留まるならばBクラス程度のシールドラインで済むだろう。だが、それ以上があるのなら、装備を組み直さねばならなくなる。
肉体的なアドバンテージで言えば、『眼』に加えてオラクル細胞によって既存の兵器は全く太刀打ち出来ない程の耐久性に、条件さえ揃えばという枕詞がつくが、無限に近しい再生能力を持っている。更に、あらゆる状況に適応する為の自己進化をも備えているセンクラッドだが、それを言うのならばISも同じだ。
状況や搭乗者に合わせて成長していく自己成長・自己進化能力があると資料集には記載されており、それがどこまでが限界点というのは記載されていなかったのも引っかかる点だ。
例えばだが、Sランクの武器を用いて瞬殺出来たとしても、次の機会以降ではその能力によってSランクと同等以上の性能に成長する可能性がある。
それに、ISがアラガミと同様に根底で独自のネットワークで繋がっているとしたら、一度の交戦で現存するISコア全てに対策が施されてしまう可能性もあるのだ。
もし限界点がAランクの武具だとしたら、なんら問題は無い。だがSランク、或いはEXランクにまで届くのならば、センクラッド単体では勝ち目が薄くなる。
全ては大げさに聞こえるかもしれないが、常に最悪の可能性を常に考えておかねば、足元を掬われ、最悪の場合は自身が死ぬ可能性があるという事を、前の世界で嫌と言うほど体験している。
だからこそ、見極める必要があった。むしろどの世界でも、その『視る』という事はセンクラッドからしてみれば当然の事なのだ。誰も彼も、無知のまま好き好んで死地に飛び込みたくは無いだろう。
「ほう――」
一夏の姿を視て、センクラッドは感嘆の言葉を発した。真っ白のISの予測出力を飛翔能力から割り出すと、初期設定でも相当高いものと見受けられた。基準は千冬が乗っていた第二世代ISの打鉄で比較して、相当の差がついていた。
あの一週間でどれだけの修練を積んだのか、一夏の表情は一切の気負いを感じられない。観衆の中でも自分を見失わずに、ありのままで居る状態を『凪ぎ』と言うのだが、一夏はそれが出来ていた。
対するセシリアは先の口論が原因なのか、些か過剰な罵倒をしながら、銃を向けている。
これはひょっとすると、一波乱以上のものがあるかもしれないな、と思い、真剣な表情で見入る。
敵意が一夏の右肩へとマーキングされ、来るか、と呟いた途端、銃口からレーザーが射出され、一夏の反応が僅かに遅れて被弾し、生成途中であった装甲が弾け飛ぶ。
「……成る程」
牽制兼主力兵器のレーザースナイパーライフルであの程度の出力なら、シールドラインはB程度で十分か、と胸中で呟くが、まだ結論付けるには早いと反省し、画面を食い入るように見つめた。
一夏の武装はどうやら一本の太刀型のブレードしかないようで、一見攻めあぐねているような動きをしていた。専用機で近接オンリーとは相当ピーキーだな、と呟くも、視線は一夏から離さない。理由は簡単で、一夏は先の一撃を喰らって以来、被弾率としてみるならば5%以下に留まらせていたのだ。
戦う為の、言わば戦士の素質があるのか、それとも専用機の反応速度が良いのか、或いは両方か。少なくとも、一週間前まではISの稼働時間が数十分程度の人間だったとは思えない程の動きのキレが目立っていた。
対するセシリアは、酷いの一言に尽きる。センクラッドとの口論もあってか、顔を真っ赤にしながらレーザーを速射しているが、冷静さを欠いているのか、どれも照準は的確とは言えない。それもあってか、一夏の回避率が目立つように見えてしまう。
「悪循環だな、アレでは」
俺ならあの隙をついて強引にでも斬りに行くが……と思った瞬間、一夏がまるでその思考を読み取ったかのように、相手の撃つタイミングの直前に急加速して一直線に斬り込んだ。
当然、一夏は直撃を喰らうが、喰らった反動を物ともせずにセシリアとの間合いを詰める事に成功する。
しまったと言った表情で、だが後ろに下がりながらライフルを撃つセシリアだが、狙撃型の銃は長く取り回しが悪い事もあり、命中率は格段に下がるという特性がある為、撃てるタイミングが激減していた。
そんなセシリアに何度も一夏が追いすがり、とうとう横薙ぎの一撃がセシリアの銃を破壊し、爆散させると、周囲にどよめきが走った。
「……ふむ」
双方やるな、と思うセンクラッド。
絶妙な加減速と鋭角な旋回を使ってクロスレンジが得意な剣士らしい速度と機動力を持って斬り込んで銃を破壊した一夏だが、剣道の癖からか、残心をしてしまって追撃の手が疎かになったのはマイナス評価に値するだろう。
セシリアはこのままでは確実に敗北するという事を理解したのか、取り回しの悪い銃をレーザー発射直前に斬らせて爆発を誘発、その反動も駆使して距離を稼いだ。
その心には焦りがあるものの、先程までの慢心や油断などは一切無い良い表情をしていた。
「これは、わからなくなったな。さて、どう出る、セシリア・オルコット」
セシリアが何事かを叫ぶと、セシリアが纏っているISからフィン状のパーツが三つ射出し、一夏の周囲に配置された。
それを見て、センクラッドは衝撃を受けた。アレは、まさか!!
「ファンネル、だと……ッ!? クッ、これは予想外だった。オルコット、やるな」
他の人から見たら、いきなり何を言い出してんだお前、と言った様子のセンクラッドだが、元居た地球では相当のだった為、アレを操れるセシリア……というかISに物凄い羨望の眼差しを向けていたのである。
あぁ、これだったのか、この世界の男性が抱いていた憧憬と嫉妬というものは……とひたっすらズレた考えをしているが、戦闘に関しての思考はより精確さを増していく。
虚を衝かれた一夏は数発被弾するも、即座に体勢を立て直し、回避行動に専念した。
時にはブレードを盾にし、時には直撃を喰らい、時には掠る程度で済ませているのはブルー・ティアーズの機動と発射タイミングと発射場所の割り出しを体と頭に叩き込む為だろう。
しかし、一夏がいざ攻める体勢に入った途端、ブルー・ティアーズがセシリアの元に戻り、格納された。
何の意図でそうしたのか掴めず、思わず様子を伺うのだが、これが裏目に出る。
また再度射出された数は今度は二つで、明らかに一つは対カウンターとして格納されたままだったのだ。
そして射出する数が減った為か、より緩急つけた動きや発射タイミングが大幅に異なっている為、一夏は此処で思い切って突撃する事を選択する。
……一方センクラッドは、脳から指令を出しているという可能性を見出し、益々羨ましそうな表情になっていた。
口許を良く見ると「いけ、フィンファンネル!!」とか小声で言っちゃってる時点でもう、色々な意味で台無しである。
加速して突っ込む一夏に対し、セシリアは温存していた一つを射出するだけではなく、スカートアーマーからミサイルを発射し、直撃させる事に成功する。
「何なんだこの力は。はっ、あたしが直撃を受けている!?」
とか言っている馬鹿は捨て置く。
エネルギー残量が桁二つまで減衰した一夏だが、ここに来て異変が起きていた。
煙が晴れて一夏の姿が視える様になった時、形状が変化していたのだ。何よりもセンクラッドが注目していたのは持っていたブレードもエネルギー型ブレードに変化していた事だろう。それは真に『白』を体現した武器であった。
「あぁ、あっちはレーザーブレード……月光か、スプリガンの月光なのか」
という本気で羨ましがっている馬鹿の声はスルー。
移動速度や機動能力も上がったのか、ブルー・ティアーズの攻撃を全て掻い潜って命中必勝の一撃を見舞う直前。
一夏のエネルギー残量が0になり、一夏の敗北を告げるアナウンスがアリーナに響き渡った。
双方共に、眼を瞬かせている。もう少しで一夏の一撃が入っていた筈なのに、何故敗北のアナウンスが流れたのか、と。
「……あぁ、成る程な、自身のエネルギー消費するのか。無念だっただろうな、一夏」
どうやら一夏の持っていたレーザーブレードは、自分のエネルギーを消費して放つ必殺技のようなものだったらしく、その為、少ないエネルギー残量が0になって敗北したのだ。
途中までは良かったものの最後が残念な戦闘に、途中から残念な傍観者。
色々残念な事が重なって全方位に対して残念な結果となった決闘であった。