IS BURST EXTRA INFINITY 作:K@zuKY
勝者と敗者が明確に示された決闘は、しかし、どちらの表情もその立場の者らしからぬそれを浮かべていた。
勝者となったセシリア・オルコットは、その表情を曇らせたままBピットへ戻り、敗者となった一夏はどこか釈然としない顔でAピットに戻った。
一夏は今頃、自分の武器の特性――自らのエネルギーを犠牲にしてバリア無効化の必殺攻撃――を千冬から教授されているだろう。
Bピットへ帰還し、ISを解除したセシリアに対して口々におめでとうと言う整備課の生徒に、形ばかりの笑顔と返答を返しながら、セシリアはセンクラッドを捜していた。あの男や千冬が言っていた事が、何となくわかってきたのだ。
果たして、センクラッドは壁面に埋め込まれているディスプレイを目の前にして佇んでいた。
その背中にセシリアは声を届けると、センクラッドが振り向いて視線を合わせた。何処か達観したような、老成したような不思議な雰囲気を持つ男の瞳は、何処までも黒く、吸い込まれるような輝きを秘めている事に今更気付く。この男ときちんと眼を合わせたのは今だと言う事にも。
「勝利、おめでとう。それで、オルコットさん、俺に何の用かな?」
「貴方が言っていた事、ようやくわかりましたわ」
「ふむ?」
「確かに、わたくしは慢心しておりました。搭乗時間が数十分足らずの素人に、いえ、男になんて負ける筈が無い、と」
どこかすっきりとした表情で語りだすセシリアに対し、ほう、と漏らすセンクラッド。
対戦前までにあった苛立ちや悪意がその心から消え失せていたのだ。今のセシリアの心はセンクラッドの眼を通しては何も視えて来ない。つまり、邪心は消え去ったと見ても良い。
ただの一戦、されど一戦か。と内心で呟きつつも、耳を傾け、相槌を打つことは礼儀として忘れない。
「あの時のわたくしは、男というだけで過剰な……そうですわね、ある種の期待と軽蔑を持って見ておりました。でも戦ってみて、蓋を開けてみれば――」
あの場で恐ろしい程の冷静さでクレバーな戦術を採った織斑一夏という存在に、セシリアは身も心もぶるりと震わせていた。もし、あそこで一夏のエネルギーが0になっていなければ、セシリアは敗北していたかもしれないのだ。
冷静さを欠いていたとはいえ、対戦相手の射撃の癖を見極める為に『見』に徹するというのは、素人では絶対に出来ない真似だ。銃口を向けられればプロですら僅かながらの動揺が入る筈なのだが、一夏は躊躇わずにその選択をした。
「言っただろう、一夏が機体性能を駆使すれば、お前さんの敗北する可能性は50%まで跳ね上がると」
「ええ、流石はブリュンヒルデの弟。正直わたくしは、土壇場で臆して逃げると思っておりました」
「土壇場でこそ、発揮するものもある。特に、生き方というのは血筋に寄らず、親や年長者に似ていくものだ」
そう言ってセンクラッドはグラール太陽系警察機構ガーディアンズの総統とその娘の事を思い出していた。血は繋がってはいなかったが二人の生き方は何処か共通していたな、と。
対してセシリアは、生き方、ですか、とぽつりと零すに留まる。遥か彼方の惑星群に想いを馳せていたセンクラッドは、左眼がセシリアがじわりじわりと湧き出ている負の感情を察知する事で現実へ戻る。
「時間があるならで構わないんだが、俺の部屋で少し話さないか? あぁ、言っておくが――」
「美貌と家柄は関係ない、でしたわね」
あっさりと切り返された事にパチパチと眼を瞬かせるセンクラッドを見て、フワッとした笑顔を見せるセシリア。
それは、間違いなく肩の力が抜けた、本来の彼女が出す表情の一つだった。
暫くそれに見惚れていたセンクラッドだったが、瞳を閉じて口の端を上げてフッと笑う。これならば問題は無いだろう、と。
だが、誘った手前「やっぱ何でもないから部屋に来るのはナシで」等言える筈もなく、取り越し苦労だったなぁと思いながら言葉を紡いだ。
「――では、着替えてから来てくれ。場所はわかるか?」
「把握しておりますのでご心配なく。ではまた後程」
セシリアは一礼してピットから出て行き、センクラッドはAピットへと足を向ける。千冬に黙って帰るのは礼を欠いた行為だと認識しているし、セシリアを部屋に呼ぶという事も一応報告せねばなるまい。
特例とまではいかないが、センクラッドが誘ったと言えば自室に無理矢理入ろうとする輩が出てこない筈だ。万が一、セシリアが無い事を吹き込まないように監視カメラのスイッチを入れておくか。
そう思案しながらAピットに付いたセンクラッドが見た光景は、何故かうちひしがれている一夏と、幼馴染を慰めようと色々な言葉をかけている箒に、オロオロと慌てふためている真耶と、失言したと言った風に口を抑えている千冬、という何とも言えないものだった。
「なにこのカオス」
その情景をたった一言に集約させながら足音を大きく響かせて歩み寄るセンクラッドに全員が気付いたのか、振り向く皆だったが、箒がまず反応した。
怒髪天を突く、とまではいかないがかなりの勢いを持った怒りの感情を左眼から視てとったセンクラッドは、嫌な予感を察知しながら一夏達に挨拶をした。すると、
「センクラッドさん、どういう事ですか?」
「は? ええと、何がどういう事なんだ、コウ……篠ノ之さん」
「一夏とセシリアの勝負で賭けをしたと聞きました。しかも、両方とも負ける内容で賭けたと聞きました! どういう事ですか、それは!!」
自分で喋っておいて怒りが込み上げてきたのか、最後は割と怒鳴り声になっている事に気付いているのかなこの子、と思いつつ、千冬にどういう事なのかと視線を送ると、口が滑ってしまったのでどうにかフォローしてくれ、という目線が返ってきた。
センクラッドはクラっと立ち眩みを覚えて脱力する。どうして厄介な事を増やすかなあの女帝は、恨むぞホント、と心の奥底で愚痴を吐き出しながら、もっともらしい事を告げる為に脳を回転させる。
「簡単な事だ。考えてもみてくれ。ブリュンヒルデの弟だろうが、篠ノ之博士の妹だろうが、代表候補生には圧倒的なアドバンテージがある。それは何だと思う、篠ノ之さん?」
「――搭乗時間、ですね」
「その通りだ。いかに上手く教えようとも、鍛錬した時間に勝るものはない。勿論才能と言う近道はあるが、今回のケースは一週間しか時間は無かった。搭乗時間300時間以上の代表候補生を打倒するには少々どころか、まるで足りていないと判断した。故に、一夏が何処で負けるかを予想した。ただそれだけのハナシだ」
と言って会話を打ち切ろうとするが、箒はその手には乗らんとばかりに会話を続ける。
「賭けの内容には納得致しました。ですが、生徒を賭け事の対象にする事自体がどうなのかと言ってるのです!」
「賭けのハナシはそもそも千冬が持ちかけたのだから、それは知らんよ。文句があるならそこに居る堕落教師に言ってくれ」
馬鹿な、という風に全員の視線を集めた千冬の表情は、裏切ったな貴様と言わんばかりのそれだったが、騙して悪いがこれも性分でな、と視線で切り返し、千冬に対してトドメを刺す為に、爆弾を放り投げた。
「ちなみに言うと俺も千冬も当然ながら一夏が敗北する事に賭けた為、これでは賭けにならないと判断してわざわざ敗北の内容で賭けを持ちかけてきた奴が皆の眼の前にいるわけだが……それを踏まえて一夏、お前さんはその姉をどう思う?」
「え。いや、最低だなと……あ」
最愛の弟からの必殺の一撃によって真っ白に燃え尽きたようにガクリと膝から崩れ落ちた千冬。さらっと起爆させた一夏がヤベェという顔をするが、今回に限っては千冬が悪い為、何も言えないのだろう。
恨みがましい涙目でセンクラッドを睨みつけるが、それを何処吹く風とばかりに涼しげな表情でスルーし、だがフォローもしておかないとダメだと判断したのか、センクラッドは、
「だがまぁ、実際まさかの逆転負けだっただろう。それに機体性能……というよりは武器性能を把握していない為に敗北したと思わないか? 武器性能さえ把握出来ていたら勝利を掴めたと思うのだが、皆はどう思う?」
「まぁ……」
「それは……」
「確かに……」
と、灰になった千冬以外の賛同を得られて満足したセンクラッド。賭けはチャラになったし、千冬は灰になったし、面白いものが見れて良かった良かったと本当に満足しているこの男、本当に最低な野郎である。
「ただ篠ノ之さんの言う通り、非公式の場でとは言え賭けをする事自体、間違っていたと思う。すまなかったな一夏」
と殊勝な表情で頭を下げたセンクラッドに対し、慌てた様子で、
「いやえっと、俺もそんな風に賭け事に使われない位強くなるって誓ったので……」
「そうか。篠ノ之さんは許してくれるかい?」
「そうですね。ちゃんと謝罪しましたし、何より本人が許しているので」
「ありがとう。ちなみに真耶先生、千冬の処遇は?」
「え!? あ、はい。織斑先生には後でお説教しますから」
あー、お説教するんだ。セシリアと一夏の決闘を持ち出して誤魔化すのかと思ったがと感心するセンクラッド。一人勝ちも良いところである。それに気付いているのは千冬のみだが、ここまで事態が終息してしまった以上、覆すことは不可能と悟り、項垂れる。
その表情は普段見せない表情だったので、真耶なぞ「先輩が可愛くてもうなんというか」状態に陥っている。
ふと、センクラッドは気付いた。一夏が敗北したとなると、セシリアと一夏の賭けはセシリアの勝ちになる、それはつまり――
「そういえば、一夏。お前さん、セシリアと決闘して敗北したら奴隷になると約束していたが……」
「あ」
そんな事すっかり忘れてたという表情を浮かべ、次いでがっくりと肩を落とした。箒は「そんな賭け事無効だ!!」と叫んでいる。
まぁ、普通に考えてみれば傍若無人な賭けなので、例え本人達が了承したとしてもイギリス以外が反対して有耶無耶になる事は眼に見えていたのだが、センクラッドはそこで提案を持ちかけた。
「実はこの後セシリアと話し合いがあってな。決闘云々はともかくとして、その後の処遇に関しては一言申し出ようと思うが、その方が良いかな?」
「も、勿論です、お願いします!!」
本当に嫌なのだろう、全力で頭を下げた一夏に任せてくれと強く頷いた。一部の人は除くが誰だって奴隷は嫌だろう。特に今の世の中は女尊男卑、何をやらされるか溜まったものじゃないのだ。
センクラッドが決闘前日までにインターネットを介して拾った世界情勢はどれも眉を顰めるものばかりだった。
例えば女性が絡む裁判では裁判員は9割女性で固められ、男性に不利な証拠ばかり何故か見つかるという事例が発生していた。
見知らぬ女性が買い物の荷物持ちを命じ、それを拒否した男性を警備員に突き出したという、センクラッドからして見れば噴飯物な事件もあった。
極めつけは、道を教えなかったからと警察に突き出せば逮捕される、という情報だ。
これは流石に嘘だろうと思いたかったが、そのような事例は数多くのぼっている事から残念ながら事実なのだろう。
何と言う歪んだ世界だと、男としても人としても苦々しく思っていた後に、先の約束事を思い出したのだ、そりゃ一夏を助けたくもなる。
「大丈夫だ、俺に任せておいてくれ」
「ファーロスさん、ありがとうございます!!」
「いや、気にする事は無い。不当な扱いを受ける人を助ける事は、前にもやっていた事だ」
「あの……ファーロスさん」
遠慮勝ちに声をかけてきたのは、真耶だった。センクラッドがどうしました?と聞き返すと、意を決した風に、
「ええと、つかぬことをお聞きしますけど、人を助ける仕事を?」
「……あーいや、昔ですよ。ガーディアンズという……そうですね、この世界で言うところの警察のような組織に在籍してました。新人を教える教官役を務めていたり、総統と呼ばれるお偉いさんの相談役を任されていました」
「ええと、教官役というと、私達教師みたいな?」
「うーん、まぁ、そんなもんです。実地研修も含めてやってましたよ」
白が特徴の女性型キャストを教育した事を思い出しながら言ったセンクラッドは、ふと、ヴィヴィアンは元気でやっているだろうか、と胸中で呟いた。
きっとフォトンを信仰するカーシュ族とグラール太陽系警察機構であるガーディアンの架け橋役も務めた彼女なら、元気でやっているとは思うのだが、たまーに妙なところで変な失敗するからつい心配してしまうな、と口許に小さな苦笑を零した。
それには気付かずに、一夏は疑問を投げかけた。
「つまり、ファーロスさんは警察で言うところのキャリア組って奴なのか?」
「どうだろうな、キャリア組が何を指すかはわからんが、取り合えずお偉いさん方に口出しはしていたよ」
「はえー、凄いですねー、私よりも若いのに」
実際にはキャリア組とかそういう次元を遥かに超えている。
所属や勢力を変えて何度も世界を救った英雄はこの男とイーサン・ウェーバー位なのだが、流石に「まぁほら、俺は、世界を何度か救った経験があるからな。それ位は当然サァ」とドヤ顔で言おうものなら、何と言うか嘘臭い以前に頭が残念な人になってしまう為、曖昧な表情で頷いた。
頷いて、致命的な勘違いをされている事に気付く。
「ちょっと待った山田さん、今何と?」
「え、私よりも若いのに、ですか?」
「……山田さん、俺は何歳くらいに見えましたか?」
「ええと……その、じゅう……二十歳位かと」
その言葉に、思わず天を仰いだ。幾らなんでもそれは、と呟いたセンクラッド。違うのですか?と邪気の無い顔で聞き返された為、頷いて答えた。
「今年で27ですが……」
場が一気に凍りついた。灰になっていた筈の千冬が眼を剥いてセンクラッドの顔を凝視し、真耶は「え、年上?」と呆然とした表情で呟いた。一夏と箒に至ってはフリーズを起こしている。
確かに、センクラッドは年齢よりも若く見られる。ほうれい線は全くと言って良いほど出ていないし、顔の造詣は青年の域に入るか入らないか、言い換えれば真耶とは違うベクトルではあるが、童顔といっても良い造りをしていた。
生来の気質に加えて様々な体験をした事により厭世的な雰囲気を持っている男だが、基本的に物腰は丁寧でその顔だ。
まぁ、声だけ聞けば確かに年齢相応以上には聞こえるが、あくまでそれは声質であって中身ではない。中身も愉快犯的な本性を見せていない為、大人びて見えているだろう。
色々あって肉体年齢を成長期~全盛期の間に保ち続けている事が原因か、とアタリをつけているが、それでも若く見られすぎている事にショックを受けるセンクラッド。
前の世界では余り言われなかったのは、明日生きれるかわからない世界では人の年齢なぞ気にしている場合では無かったからだろう。
「ええと、ファーロスさんの年齢って地球換算ですよね? グラール歴が365日も無くて特殊な換算して27とかじゃないんですよね?」
「地球歴で換算して27です」
キッパリハッキリとそう物申したセンクラッドは、全身から強い疲労感を滲ませていた。
前の世界の事を思い出している内に、グラール太陽系にて9割の確率で身分証の提示を求められていた事を思い出したからだ。何度も何度も提示を求められるので、いっそ整形してやろうかと思った時も有った位だ。
もっとも、センクラッドの左眼に同化している存在のせいで、顔付近はいじれなくなっているので、それは無意味な思いなのだが、時として不可能な事でも願いたくもなる時はある。
「す、すいません!! 気軽に話しかけてしまって、その――」
「あぁ、いえ、別に良いんです、若く見られるのは良いことですから」
それにしたって限度があるけどな、とささくれ立つ胸中に呟いて、やれやれと首を振るセンクラッド。千冬に視線を向けると、鳩が豆鉄砲を食らったような顔でジィィィイっとこちらを見続けている事に気付き、半眼で、
「何だ千冬、そんなに俺の年齢がおかしいのか?」
「……あ、いや、ただ敬語にすべきかどうかをだな……」
「勘弁してくれ、俺は敬語を使われるような人間じゃない。それに言っただろう、お前さんは敬語を使うよりも使われる女帝ぽい雰囲気があるから、そんな奴が敬語で話そうにも何か企んでるとしか思えないと」
その言葉に、一夏が真っ先に吹き出した。条件反射で想像してしまったのか、真耶と箒も笑いを堪えて俯いている。「お前ら……」と怨念のような一言で反射的にビシッ!!と背筋を正す三人だが、どうしても顔が紅潮している為か、それとも肩が震えているからか――約一名は両方だが――全員が全員、笑いを堪えているのがバレバレである。
「センクラッド……後で話がある」
「それは後で覚えてろよ、という台詞の改変で良いのか?」
「黙れ小僧」
本格的に怒りを買ったのか、眼光鋭く睨みつけてくる千冬を無視し、箒へと視線を合わせてセンクラッドは言った。
「まぁ、そろそろ時間もおしているので、退散させてもらうよ。それと篠ノ之」
「はい?」
何故自分が呼ばれたのだ、という顔をして見つめてくる箒に、センクラッドは不敵な笑みを浮かべ、
「再戦、何時でも待っているぞ」
「!! わかりました。何時か、再戦を申し込みます。貴方がこの星から移動する前に」
「あぁ、楽しみにしてる」
そう言ってセンクラッドは手を差し出した。意図を読み、迷わずに差し出された手とガッチリ握手をする。何時か越えるべき相手として、箒はセンクラッドの姿を眼に焼き付ける。
ここに、本当の意味で箒はセンクラッドを見た。それは小さな変化だったが、徐々に徐々に今後の篠ノ之箒を形成する重要な要素となる。挑戦する意思、諦めぬ心はこの時から強く育まれていたのかもしれない。
別れの挨拶を告げたセンクラッドは、自室に続く廊下へ足を向けて歩き出した。
その姿が見えなくなってから、一夏は箒に顔を向ける。
「箒。俺に出来る事があれば手伝うからな」
「え?」
「だってほら、俺は箒の相棒で、幼馴染だからな」
手伝うのは当たり前だろ、と言い切った一夏に対して嬉しそうに眦を下げて微笑む箒。「青春っていいなぁ」と何処か年老いた発言を零す真耶であったが、ふと背後に居た筈の千冬が居ない事に気付き、ハッとした表情を浮かべてAピットの出入り口用の自動ドアを見て、鋭く叫んだ。
「先輩!!」
ビクゥ!!とばかりに体を反応させた千冬がそこに居た。何と言うか、悪戯が見つかった幼児や子供ならそういう反応をするだろう、という風な反応だ。
プリプリと怒る素振りを見せながら、真耶は千冬の元に歩み寄り、腕を掴んだ。
「な、何かな山田先生?」
「織斑先生はお説教です」
普段の真耶からは想像が出来ない程の冷ややかな声を出し、そのまま職員室へ連行すべく、腕を掴んだまま移動した。
反抗する気は無いのか、良い訳染みた何事かを呟きながら、物凄い珍しく一夏に助けを求める目線を送るが、一夏はとても爽やかな笑顔を浮かべ、サムズアップをし、そのまま指を下に落とした。
千冬姉、賭け事は公務員失格だから怒られて来ると良いよ!!後、弟を賭けの対象にする千冬姉は嫌いだから!!
という一夏の心の怒声を余す事無く汲み取った千冬はサラサラと風化しながらドアへと飲み込まれていった。暫く立ち直れないだろう、具体的に言うと次の転入生が来る位まで。
ちなみにその後、箒が心配して千冬の部屋を訪ねたら、自棄酒をかっくらってあられもない姿で泥酔している堕落教師を眼にし、更にそこから絡み酒の泣き上戸という最悪の絡まれ方をしたせいで、箒は千冬を姉と同列に扱うべきか慎重に検討し始める事になるのだが、それはまた別のお話、という事で。