IS BURST EXTRA INFINITY   作:K@zuKY

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14:一組代表祝賀会

 翌日の夕方。

 千冬が放つドアノックの音で、今の今までオカン呼称によって心を閉ざしているシロウの説得を片手間ながらに続けていたセンクラッドは、もうこんな時間になったのか、と溜息をついた。

 網膜に服装データを投影し、黒いエナメルロングコートが特徴のスイーパーノワールの上下を呼び出し、身に纏ってから、右手でややぞんざいな風にドアが開くように指示をかけた。

 やや勢いをつけて開いたドアを見て、何時もよりドアの開閉速度が上がっていると千冬は気付いたが、間違っていたらアホらしい上に指摘しても恐らく些事なので答えないだろうとスルーして、センクラッドに声をかけた。

 

「センクラッド、オルコットから聞いたぞ。してやられたようだな」

「一夏の祝賀会に異星人が出席しておけば箔が付くだろうさ。それに、そろそろアイツも表に出してやらんとストレスが貯まるだろうからな。引き篭もりはいかんよ、引き篭もりは」

「確かに――」

「確かに、そうだな。ただ、引き篭もるつもりは無かったのだが」

 

 その声に、ぎょっとしたように振り向く二人。そこには壁に背を預け、腕組みをしているシロウがいた。心なしか怒気を孕んでいる気がしないでもない。

 いつの間に、と呟く千冬に、右の眉だけを器用に上げて誤魔化すシロウ。脂汗ダクダクといった感じのセンクラッドを尻目に、千冬は多少なりとも畏まって、シロウに聞いた。

 

「貴方がセンクラッドが言っていたサーヴァントですか?」

「今は母代わりらしいがね」

「は?」

 

 生徒の前では滅多に見せないきょとんとした表情を浮かべた千冬に、もう勘弁してくれよと額に手を当ててぼやくセンクラッド。

 私が知るかと鼻で笑ってシロウは追撃を開始した。

 

「いや、そこのマザコンがそう言っていたのでね。忠実な僕の私としては、頑張ってその役目を全うしようとしている最中なのだよ」

「はぁ……そうですか……」

 

 え、そうなの?という風に視線をセンクラッドに向けた千冬だが、苦い表情を浮かべて首を振るセンクラッドを見て、ニヤリと笑みを零した。

 未来予知に近い、瞬間的かつ決定的に嫌な予感が背筋を駆け抜けた事を察知したセンクラッドは、最速を以って言葉を投げ飛ばした。

 

「昨日もう早く寝なさいと言われたので、つい『お前はオカンか』と言っただけでここまで弄られるのは俺位だと思う」

 

 何だ、そういう事か。と落胆した千冬に、ギロリと睨むシロウ。自分が弄られるという惨劇をギリギリで防げたセンクラッドは、歩きながら自己紹介していこう、と提案し、二人が頷いた事もあり、千冬とシロウに先導を促す。

 部屋を出る直前、センクラッドが何気なく口にした言葉に頭を振る千冬。

 

「――そういえば、この部屋に侵入しようとした奴はいるのか? 居たとしたら捕えて引き渡せば良いのか?」

「我々教師と生徒会が協力して此処の部屋付近は立ち入り禁止にしている。万が一があるとは限らないが……」

「一応言っておくが、手加減だの容赦だの出来るかどうかはわからんからな? 特にIS操縦者なら尚更」

「弾みで殺してしまうという事が無ければ良いさ。それに、侵入するほどの技量を持つ馬鹿なんてこの学園にはいないだろう」

 

 そうか。と呟いたセンクラッドだが、実はその言葉を隠し持っていたレコーダーに録音していた。これで言質は取れたな、と思いながら、歩み始めた千冬を追う。

 その際、本当に何気ない仕草で後ろ手に手を組みながら、右手の親指を立てて部屋から出た。出る時には親指は仕舞われ、人差し指がとあるサインを描いた。

 ウィンと言う電子音と共にドアが閉まるが、それの音に紛れて強大な力を持つ存在がその部屋に現れた事は、センクラッドとシロウのみぞ知る。

 シロウも良く知るその気配に、やや咎める様な視線を送るも、それを何処吹く風でスルーしたセンクラッドは歩きながらシロウの紹介を始めた。

 

「で、前に言ったが、彼がサーヴァントのシロウだ。特技や趣味とかは自分で言ってくれ……あー言っておくが二人とも、せめて俺の前での敬語は禁止で頼むぞ。重ね重ね言う事も無いのだが、お前さん達の敬語は何と言うか、悪の組織のボス格に通ずるものがあるからな」

「君がそれを言うのかね……」

 

 呆れた風に呟くシロウだが、ついっと千冬に視線を送ると、本当に良いのかと眼で伺っていた為、肩を竦めて、

 

「センクラッドのサーヴァントをさせてもらっているシロウだ。趣味は家事とガラクタ弄り、特技は……家事位か」

「私は織斑千冬。このIS学園で専任教師をしている。ええと、宜しくシロウ」

「こちらこそ、織斑教諭」

 

 いったん立ち止まって握手をする二人。思わずセンクラッドはナノトランサーからカメラを呼び出し、古めかしい電子音を響かせながら写真を撮った。

 パッと手を離した二人に対して「いや、珍しいショットが撮れそうだったので、つい」という弁解をするが、じっとりとした視線を感じ、諦めたようにカメラのデータを初期化するように見せかける。

 三者三様の足音を響かせながら、目的地へと歩むセンクラッド達だったが、このままだと黙ったままだろうと思ったセンクラッドは、途中までの暇潰しの為に質問を投げかけた。

 

「千冬、聞きたい事があるんだが」

「何だ?」

「一夏の代表決定の祝賀会について聞きたい。お前さんは出るのか?」

「出ないよ」

 

 何?と言葉を零したセンクラッドに、当然だろうと言う千冬。

 

「一教師としてこの学園に勤務している公務員が、公の場で弟を祝福するのは、な。それに、あの祝賀会は私が提案したものではないし、普通ならばそんな事で祝う事はしないのさ」

 

 だから、私が出る事は無い。と静かに呟いた千冬。センクラッドの左眼を通して見えた感情は、寂寥と少しばかりの苦悩に諦観。

 これは何とかして良い部類かもしれん、と判断したセンクラッドは、シロウに眼をやると、シロウも同じ事を考えていたようで、バチリと眼が合ってしまった。

 お互いに苦笑し、お互いに頷きあった二人は、順番を即座に決めると、シロウから口を開いた。

 

「織斑教諭、会って早々申し訳ないと思うが、言わせて貰う。君のその考えは間違いだ。一教師である前に一人の家族として在るべきだ」

「シロウ?」

「弟を祝わない姉の方が問題だろう。今回は、立場よりも重んじなければならないモノがあるという事を知る良い機会だと、私はそう感じた」

「だな。千冬、普通ならば祝わない様な、取るに足らん出来事なのかもしれん。だが、一夏は今現在においてあらゆる意味で普通じゃない。一夏はまだ16歳だろう? 大人の都合で此処に強制的に入学したと聞いている。幼馴染が居るとはいえ、そんな状況下で本当に親しい人が居るとは到底思えない。しかも他に男性が居ない事もある。子供達で取り決めた祝賀会の中に大人が監督者として参加する、とか口実なら幾らでも作れる。後からこっそり祝うのかもしれんが、やはり今祝ってあげた方が良い。一夏もそれを望んでいる気がする、きっとな」

「センクラッド……だが、私は既に断っている身だ。今更出るのも気が引ける」

 

 交互に諭された事で、迷いが見え始めた事を関知したセンクラッドは、ダメ押しとばかりに一つ、事実を放り込むことにした。

 

「まぁ、そうだな。それに、お前さんの立場上、絶対に出なければいけない事が一つだけだが、あるだろう」

「一つ?」

 

 有ったかそんな事、と小声で呟いた事を聞き逃さなかった二人は苦笑する他無い。

 馴染みすぎたか、とぼやいたセンクラッドを受け、シロウが答えを提示した。

 

「織斑教諭、我々は異星人だろう? 私はマスターを護衛するために此処に居るが、マスターやマスターに付随して起きそうな政治的な面においての厄介事の阻止や我々の動向を監視する人間は、現状君にしか務まらない筈だ」

 

 あっ、と声を上げた千冬は、二人が苦笑している理由にようやく気付いたようで、表情をやや明るくさせる千冬。

 普段の凛としたそれとは違ったその表情に、センクラッドは「ほう」と感嘆を漏らすと、馬鹿にされたと認識したのか、即座に表情をいつものクールフェイスに戻し、

 

「何が、ほう、なのか聞いても良いか、センクラッド?」

「『単純なハナシだ。お前さんの喜ぶ姿は普段とは違って魅力的だ』とでも言うんじゃないかね?」

「なっ――」

「……最後が違うだけで概ね同意出来る内容だが、人の台詞を取るのはやめてくれ」

 

 思わず声を出してしまった千冬に、辟易した風に呟くセンクラッド。

 ちなみにシロウが台詞を先取りしなかった場合、センクラッドは珍獣を見た気分だ、と言っていた。その後がどういうフラグが建つかは推さずとも知れるだろう。

 セシリアではないが、決闘という名の殴り合いに発展しかねない迂闊な失言をホイホイと放つ男がマスターだったのだ。それ位の配慮はやってのけねばなるまい。シロウは主従関係を結んだ数日後からそう思っており、そう思ったからには実行している、ただそれだけの事だ。

 それを本人が判っているのかいないのかは、それはまた別のお話。

 照れ隠しなのか、ついっと視線を外しながら千冬はセンクラッドに言った。

 

「……しかし、歯の浮くような台詞だな、センクラッド」

「シロウが言うとサマになるとは思うが、俺が言ったら絶対に似合わんだろうよ」

「確かに」

 

 肯定するか普通、とぼやくセンクラッドに、くすりと笑みを零して「ありがとう」と言った千冬に、意訳すれば「当然の事をしたまでだ」と言わんばかりに肩を竦める二人。

 それを見た千冬は、余りにも仕草が似ていたり、タイミングが同じだったりした為、一応の確認を取るために質問を投げかけた。

 

「二人は兄弟なのか?」

「俺が? コイツと? おいおい、こんなムッツリキザ野郎と似ているとか勘弁してくれ」

「私が? マスターと? 織斑教諭、過ぎた冗談は毒にしかならないのだが」

 

 同時に言って同時に「今何て言った?」と言う風にガン飛ばし合う二人に「ガキかお前ら……」と呆れる千冬。

 取り合えず、睨み合いをしている場合ではないとばかりに視線をそらし、センクラッドは千冬に聞いた。

 

「ちなみに、何でそう思ったんだ? まさかあの服か?」

「色違いのを纏っていただろう? それに、仕草とかも似ていた」

「あー……まぁ、あの服はレプカと呼ばれる贋作だ。シロウが纏っている服が本物、と言えば良いのか?」

「その言い方だと、マスターは私の熱烈なファンにしか聞こえないのだが……」

「……言われてみれば確かに、そう聞こえるな。ただ、あの服は割とお気に入りなんだぞ」

「それは構わないのだが、私としては何故君が贋作を持っているかの方が気になる」

 

 と、シロウが零したので、言ってなかったか、と呟き、センクラッドは応えた。不用意に、何気なく。

 

「遺跡で発掘した。データが出てきたので復元した。その時の服がコレだったわけだ」

「……それはまた、凄い偶然――」

「前にセンクラッドが言っていた『幽霊みたいなもの』とはそういう事か?」

 

 千冬の何気ないその言葉に、シロウが若干厳しめの視線をセンクラッドに向けた。千冬からは見えない角度で眉を下げながら、センクラッドは取り繕うように返した。

 

「言っておくが、シロウは幽霊でもロボットでもないからな?」

「判っているさ。握手も出来る幽霊が居るとは思えんよ。ただ概念だのなんだの言っていたからな」

「まぁ、そのようなものだ。科学が進歩したら辿り着くであろう境地の一つ、とでも考えておいてくれ」

 

 この言葉を千冬は記憶し、後の話だが、シロウの戦闘力や容姿を纏めてレポートとして提出している。そのレポートのタイトルが『英霊』というタイトルであったのは如何なる偶然か、此処では語るべきものではないだろう。

 気付くと祝賀会場である食堂が見えてきていた。ガヤガヤと騒いでいる声が聞こえてもきている。

 徐々に徐々に歩幅が小さくなっていく千冬に「オイオイさっきのはどうした独身女帝」とツッコミを入れかけたセンクラッドだが、シロウが動いた為、黙っておくかと口に溜めていた言葉をただの二酸化炭素に変えて小さく丸めて吐き出した。

 素直な性根ではないな、と今までの行動や言動から推察したシロウは千冬の背中をトントンと軽く叩く。

 見上げてくる千冬に小さく、だが力強く頷き、シロウはセンクラッドの背後に移動した。

 センクラッドに視線を移すと、右手の親指を心臓にトントンと当ててから、GOサインを出した。それを見て、いよいよ覚悟を決めた千冬は、いつもよりも少しばかり大きな靴音と歩幅で食堂の扉を開けた。

 そこに居たのは一組だけではなく、やはり珍しいからなのか上級生の姿もチラホラと居り、その中の一人が一夏とセシリアと箒にインタビューをしていた。

 だが、その中の一人が千冬達に気付いた様で「あれ、織斑先生だ」「グラール星人の人も居る」「あの男は一体誰?」「ISの操縦者とか?」「まさか!!」といった風に、あっという間に視線と言葉が千冬達に降り注ぐ。

 前にセンクラッドが喰らったあの時よりも多い視線に、表情にこそ出さないが、以前のセンクラッドと同じ感想を持つ二人。トラウマになる程度の惰弱な精神力は持っていないのが救いか。

 センクラッドは、だーよねぇ、とばかりにフッと息を吐いて、声をあげた。

 

「オルコットさんから祝賀会の参加要請が来たので、それを受諾したセンクラッド・シン・ファーロスだ。俺の背後に居る者は、オルコットから聞いている者もいるかも知れないが、俺の護衛のシロウと言う。千冬は祝賀会の監督役と俺の監視役で此処に来た。というわけで、混ざっても良いかな?」

 

 その言葉に、ああ成る程、と納得する者、男が来たよ、と難色を示す者、ゲッ織斑先生がいると織斑君のインタビューをやり直さないとダメじゃん、と言う者等々、様々な反応が出るが、概ね受け入れる事にしたのか、はーいと元気な声をあげる生徒達。どうやらセシリアがセンクラッドについて印象を良くするような事を言っていたのか、以前のような敵意を向けてくる生徒は限りなく少なくなっていた。

 それを見てそっと息をついた千冬に、センクラッドは行けと言わんばかりに首をしゃくった。「今か!?」とばかりに眼を剥いた千冬であったが「じゃあ何時行くんだ? 一分後か? 明日か? 十年後か?」と言わんばかりに頑として譲らないセンクラッドの視線を受け、諦めて一夏へと歩みだした。

 何となく静まり、固唾を呑んで見守る生徒達。一番緊張しているのは千冬だという事を知っているのは二人しか居ない。

 その内の一人が、とある重要な事を思い出して、小さく声を上げた。

 

「あ」

「うん? どうしたマスター?」

「いや、言い忘れてたんだが……まぁ、大丈夫か、な……多分」

 

 その言葉に、嫌な予感しかしないシロウが問い質すと、「実はな――」という形で語られた内容に絶句した。

 まさか実弟を賭けの対象として持ちかける姉がいるとは、鷹の眼や未来予知にやや近めの心眼を持つ英霊ですら夢想だにしなかった様で、頭を抱える他無いとばかりの態度を取るシロウと、余計な事を言うなよ一夏……と、祈るような気持ちで一夏を見るセンクラッド。

 

「千冬姉……あ」

 

 しまったとばかりに口を滑らし、口を覆う一夏に、手を挙げる千冬。眼を閉じて衝撃を待つのみだった一夏は、いつまでも衝撃が来ない事を不思議に思った瞬間――

 ポン、と頭に手を置かれ、それが左右に流れる事で、ようやく一夏は自分が今、頭を撫でられている事に気付いた。

 

「ちっ千冬姉!?」

「良くやったな、一夏」

 

 優しい口調と穏やかな表情でそう告げた千冬は、伝説のブリュンヒルデでも織斑教諭でも無く、間違いなく織斑一夏の姉、織斑千冬であった。

 その事を不思議に思う一夏だったが、ふとセンクラッドに眼をやると、腕時計を示す態度を取った事により、今は勤務時間外としてここに居るという可能性に十秒ほど時間を掛けてから思い当たった。

 それに思い当たると同時に、何だか気恥ずかしいやらむずがゆいやら、逆にどうして良いかわからなくなる一夏を視て、微笑ましく感じるセンクラッド。シロウはそれを見て昔の自分を思い出したのか、生暖かい視線を送っていた。

 周囲は、割とあんぐりと口を開いて見つめていた。普段の凛としたイメージしか持てなかった生徒達は、一人の姉としている千冬が此処まで柔和な雰囲気を持っているとは知らなかったのだ。

 ほぼ初公開とも言えるレアな光景に、数人を除いてただただ口をあけて見つめるしかできない生徒達であった。

 

「たった一週間でオルコットに肉薄した事と良い、戦闘中の機動の変化と良い、成長が良く見て取れた、偉いぞ」

「それは箒のお陰さ。箒が居なかったらISの知識も経験も何も無かったと思う」

 

 千冬の視線が箒へと流れると、どちらともなしに気まずい様子で、視線を合わせる二人。先日の賭けを暴露された後、千冬は絡み酒の泣き上戸でとんでもない醜態を晒していたし、箒は箒で賭け云々に加えて酒で絡まれた事もあり、どうにも苦手意識が形成されていたのだ。

 だが、それらは今は関係もない、とばかりに、一夏の頭を撫でていた手を下に降ろし、頭を下げる千冬。

 

「ありがとう、箒。色々便宜を図ってくれたようだな」

「い、いえ、当然の事をしたまでです。それに……私と一夏は、共通の目標が出来ましたから」

「共通の目標?」

 

 うん?とばかりに顔を上げた千冬だが、すぐにそれを察知したのか、成る程と頷いた。箒も一夏も、真剣な表情でセンクラッドに視線を合わせていた。それらに敵意は一切無い。あるとすれば、あくまで固く強い信念の元に形成された挑戦の意思だ。

 センクラッドは右眉と口の端を上げる事で「構わん、挑戦はいつでも受け付ける」と応えていた。そこに不敵さはあれど、敵意は無いのは同じだ。

 それらを一瞥した千冬は、この学園に来て良い兆候が見えてきた二人に対し、柔らかな笑顔を向けた。

 

「――良い目標が出来たな」

「はい。今は難しいですが、いずれ、必ず追い越します」

「そうか」

 

 追い付くのでは無く、追い越すのだと言い切った箒に、姉と同様の、もっといえば篠ノ之家特有の苛烈さや気性が見えた千冬は微笑んで頷いた。

 覚悟と信念だけならば、今の箒は代表候補生足りえると判断したのだ。実力は後からでもついてくるが、強固な信念や想いというものはその過程でも中々身につかないものだ。それは才能ではなく努力でもない、強いて言うなれば『人の在り方』が必要な要素になるのだろう。

 

「――中座させてすまなかったな、皆。私はセンクラッド達の相手をしているから、後はのんびり楽しんでくれ」

 

 そう言ってセンクラッド達の元へ戻る千冬。それと同時にいつもよりは少しだけ緊張感がある雰囲気の元、祝賀会を再開し、楽しむ者達の喧騒で満ち溢れた。

 その内容はいつもの織斑先生ではなく、織斑千冬という魅力的な女性の在り方や、箒と一夏の仲の良さや、その二人に挑戦される側に立っているセンクラッド達の強さについての議論だったりと、様々だ。

 それらに関しては一顧だにせず、戻ってきた千冬にセンクラッドは笑みを浮かべた。

 

「良かったな千冬」

「うん、何がだ?」

「一夏に『俺を賭け事の対象にしていた千冬姉は、千冬姉なんかじゃないッ』とか言われなくて」

 

 一撃必殺の言葉に、膝をぐらりとさせかけるが、今は生徒の前だからと踏ん張り、睨みつける事で何とかしようとする千冬。

 冗談だ、冗談。アイツもその辺は弁えていたようだからな、と呟いたセンクラッドは、次いで、うん?と首を傾げた。

 シロウも千冬もその視線を追うと、一人の女子生徒がIS学園の生徒としてようやく馴染んだ証である、黄色のタイと体重移動の巧みさを何気なく出しながらこちらに歩み寄ってきていた。アレは新聞部の二年か、と呟いた千冬の視線は鋭い。

 飄々とした態度とその辣腕は何処かあの生徒会長を思い起こさせるものを持っている者なのだ。学生だと油断していたら即座に有る事有る事を書かれた経験のある千冬は、どうにも視線が厳しくなってしまう。

 その視線には気付いている筈なのだが、それをスルーし、胸元から名刺を取り出してセンクラッドに差し出しながら、陽気な感じで挨拶をしてきた。

 

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