IS BURST EXTRA INFINITY   作:K@zuKY

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15:黛薫子のインタビュー

「どもどもー、整備課二年、新聞部副部長やってます黛薫子ともーしまーす」

 

 そう言って眼鏡とその声が特徴的な二年生は、センクラッドに名詞を差し出した。

 千冬が「待て」と制止する前に「これはどうも御丁寧に」と受け取ったセンクラッドに対し、胸中でだが全力で罵倒した。この後の展開が面倒な事に成りかねないからだ。

 センクラッドはそんな千冬の想いに一切気付かず、まゆずみ・かおるこ。何か黒が多い名前で読みにくいなぁ、とスッ呆けた思っていた。

 その直後。

 

「センクラッド・シン・ファーロスさんにインタビューをしに来たんですけど、名刺を受け取ったと言う事はOKって事ですよね?」

「どうしてそうなる」

「え、ここではそれが常識なんですよ?」

「何、そうなのか?」

「いや違――」

「そうですよ、なので、ちょこっとだけインタビューお願いできますか?」

「非公式で?」

「勿論です。新聞部の副部長、つまりあくまで一生徒としてお願いしてます」

「ふむ。一夏達にインタビューをしていたと思うのだが、俺達のせいで中断していた筈だ。だから、一夏達にインタビューをし直して欲しいんだが、約束できるかい?」

「確約します」

 

 この会話が僅か数秒で為されてしまった為、千冬は珍しく口を開閉した後、黙るしかなくなってしまう。

 それを見て激烈に嫌な予感と未来を察知したシロウは、またかと言わんばかりに溜息をつき、センクラッドが余計な事を言い出した瞬間に止める心構えを作って様子を見始めた。

 インタビュー用のレコーダーを起動させ、ヘッドセットを頭にかけてマイクをセンクラッドへ向けながら、薫子は質問を開始した。

 一夏に対してのインタビューが生徒用だとしたら、こちらは大分本格的な仕様を持って迫っている分、本気で有るという事が伺えるのだが、それを知らないセンクラッドは、何と言うか腰は低いが頭が高いタイプのブンヤみたいだな、と言う感想を持つに留まっている。

 勿論、異邦人であるシロウやあの一夏でさえも、アレが本気でインタビューする姿勢だという事に気付いていた。気付いてしまったので「俺の扱いって軽いんだなぁ……」と、一夏は凹んでしまったのだが、それは何ら関係ないので割愛する。

 

「先程の会話で篠ノ之さんと織斑君の視線が貴方に向いていましたが、アレは一体どういう事なのでしょうか?」

「ええと、それは多分本人から聞いた方が良いと思いますので、申し訳御座いませんがパスでお願い致します」

「わかりました。それでは次の質問です。インターネットから情報を仕入れていると聞きましたが、自分の眼で地球を見て回りたいと思った事はありませんか?」

「ああ、ええと――」

 

 おお、丁度良い質問が来た、とセンクラッドは思い、シロウと千冬はマズイ、と思った。

 センクラッドなら絶対に「そりゃ勿論」とか言ってしまい、外からの干渉を否が応にも受け付ける原因を作るだろうと確信していたのだ。

 

「――勿論、見て回りたいですが、流石に地球のお金は持っていませんからね。なので――」

「お、何ですか?」

 

 手を眼の前に掲げ、ナノトランサーから年代物の木像を呼び出した。

 おおお!?と、どよめく生徒達。千冬も眼を丸くしている。センクラッドからしてみればISの即時展開と同じ風に見えないものなのかね。等と考えつつ、現出させた木像を隣に居た千冬にポンと手渡し、

 

「コレを織斑先生経由で換金したいと思います。換金後、織斑先生の許可を得て、織斑先生と共に見て回ります」

 

 此処でまさかのご指名である。

 シロウは予想が外れた事に驚いていた。何も考えずに「そりゃ勿論行きたいに決まってるだろう、常識的に考えて」とか何とか言い出し、それならば案内をばと言うであろう眼の前の女子生徒に連れ回された挙句、社会的にヤバイ噂を立てられるコースに直行するだろうと確信までしていたのだが、そうはならなかったのだ。

 少しは成長したようだ、と感心する程の事ではない筈なのに感心してしまうシロウ。

 千冬は千冬で、思考が停止していた。どう見ても付加価値云々の前に造りからして高値がつくであろうソレを、まさか素手で渡されるとは思っても見なかったのだ。

 思わず助け舟を求めてシロウを見るが、シロウも驚愕した感がある眼の見開き方をしていた為、コレは本当にイレギュラーな出来事なのかと改めて驚愕した。

 その間に質疑応答はテンポ良く進んでいた。質問の内容が様々な方向に飛ぶ為、センクラッドは若干面食らいながらの応答をしていたが。

 

「ちなみに今のはどう言うカラクリで出したんですか?」

「ナノトランサーと呼ばれる格納庫から呼び出しました。詳しい事は技術者ではない為、返答致しかねます」

「わかりました。それでは、次の質問ですが、好きな食べ物と嫌いな食べ物は?」

「え? あ、ああ、ええと素材を活かした料理が好きですね、味は薄めの方が良いです。嫌いな食べ物は、まぁ不味いと判断した料理は全て、と覚えて頂ければ」

「成る程成る程ー、ではでは、次の質問です。公式インタビューで聞かれていなかった、貴方の出身地を教えてください」

「出身地、ですか。地球に良く似た環境の星で生まれました」

「地球に良く似た? ニューデイズですか、パルムですか? それともコロニーですか? その名前は?」

 

 面倒だったのでグラール太陽系で通せば良かったか、と若干後悔しながらも、公式インタビューの時に予め用意した答えを脳内から引き出すセンクラッド。余談だが、公式では出身地=グラール太陽系と認識されていた為、その手の質問は一切無かったのだ。

 故に、この非公式インタビューで重要なワードを引き出していく事に成功した彼女は、その性質と才覚によって様々な箇所で重用される事になる。

 

「グラール太陽系ではありませんね。きちんとした活動はグラールからでしたが。尚、出身惑星名は公開禁止されている場所の為、控えさせて頂きます」

「残念です。次の質問ですが、既婚者ですか? それとも恋人募集中ですか?」

 

 何だかキラキラした目線だなぁ、流石女子高生、やっぱりそこに質問が来るよなぁ、というか随分極端だなオイ。と思いながらも、苦笑を浮かべて首を振るセンクラッド。

 

「いえ、残念ながら。恋愛に割ける時間が余り無いので――」

「恋愛は時間ではないんですよ!! タイミングと勢い、ですから!!」

「は、はぁ……ま、まぁ、相手が居れば、という事で……」

 

 この現状で恋愛を激しくプッシュされても、その、なんだ、困る。みたいな乾いた笑みを浮かべるしかないセンクラッド。

 シロウは理由を知っている為、半ば同情の気持ちでやり取りを見ていたのだが、ふと周囲を何気なく見渡せば、一夏達一年生を始めとして、代表候補生を務めているセシリアや、教諭の千冬までもが「そっかー、恋愛はタイミングと勢いが大事なのかー」という顔をして聞いている事に気付き、危うく吹き出しかけた。

 腹筋と背筋と表情筋を駆使して本当に何気なく小刻みに肺から外へ空気を出して何とか誤魔化していたが、千冬までもがそんな顔をしているのがシロウとしては面白かったのだろう。姉弟だと似るのか、そういう仕草は本当に似ていたのも笑えるポイントだったに違いない。

 何気に呼吸困難による生命の危機に陥っているシロウには誰も気付かず、インタビューは続いていく。

 

「では、恋愛に関してなのですが、どんなタイプが好きなのでしょうか? 外面と内面、どちらもお願いします!!」

「え? ええっと……」

 

 誰か助けてくれ、と視線を思わず彷徨わせたセンクラッドだが、シロウを見ると無表情になっているのを見て、はて?と疑問に思って観察してみると、極僅かだがプルプルと震えているのが見えた。唇の端が微妙にひきつれてもいる。

 ビキリと青筋が立ちそうになるのを苦労して誤魔化しながら「何嗤ってやがるあのステポテチン」と内心で罵倒するに留め、周囲を探ると視意図せずバチっとセシリアと眼が合ってしまう。

 頼む、助けてくれという意味を込めて暫く凝視していると、何故か見る見る内に顔が赤らんでいき、手のひらを頬に当てた。

 その視線を追っていた薫子はにんまりと笑う。そして、そういう意味じゃねぇよ、お前は前日や代表決定戦の時に一体何を聞いてやがったとばかりに半眼になっているセンクラッドに、

 

「外面はイギリス代表セシリア・オルコットさんのようなたおやかなお嬢様がタイプとして」

「おおおおお!!!!」

「は? いや、違――」

「それでは内面をお願いしますッ!!」

 

 否定もさせてくれないのかこのクソアマ、と呪うが、ちょっとした歓声が沸いている為、後で何かの形でやり返す、絶対に。と誓うセンクラッド。

 近くのテーブルに置いてあったミネラルウォーターを手に取り、ゴクリゴクリと二口豪快に飲み込んで、喉と心を潤し、

 

「内面は、俺に合わせられる人が良いですね」

「おお、意外とオラオラ系という奴ですね? ありがとうございます」

 

 オラオラ系って何ぞ?殴り愛か?と少しの間だけ真剣に考えるも、考えても無駄だと思い直し、次の質問を促すセンクラッドの背後で必死に笑いを堪えているシロウ。

 適度にドツボにハマるセンクラッドを見るのが楽しくなってきたのだろう。心構えがどーのこーのと言っていた口は何処に飛んで行ったのか、完全に傍観者に徹している。とは言っても、センクラッドに何か物理的な被害が及ぶのならば、即座に割って入る護衛としての役目は捨ててはいないようだが。

 

「次の質問ですが、こちらも公式で聞かれておりませんでしたが、武装に関して禁則事項というものはありますか?」

「そうですね……基本的には資格を取得して、その資格にあった職に着けば、それに付随した武器の使用は許可されております」

「資格というものは具体的にはどういったものですか? 企業ごとに資格が必要だとか?」

「いえ、企業ごとではなく、あーそうですね……資格という言い方はちょっと語弊があり、順序も逆ですね。所謂ランク付けです。ランクで管理してます」

「そのランクはガーディアンズや軍が決めるのでしょうか?」

「基本的には組織によって異なります。軍ならば階級や実戦経験ですし、傭兵会社ならば即時対応能力、ガーディアンズならば身体能力や任務達成数等で判断しています。ただ、いずれにせよ言えるのは、武器を扱う者の能力次第で扱える武器には制限が自動的にかけられるという事です。この仕様によるミスは未だかつてありません」

 

 その言葉に驚く薫子。どのような方法で武器に制限を課しているのかは不明だが、それが事実ならば、相当な管理能力が高い社会だという事になる。

 隣で聞いていた千冬も、その内容には驚きを隠せずにいた。

 

「差し支えなければで良いのですが、ランクはどんな感じで分けられているのでしょうか。また、ファーロスさんはどのランクに位置付けされていますか?」

「ええと……ちょっと待ってください。グラール太陽言語から地球向けに言語を変換致しますので――」

 

 言って良いのか、悪いのか。だがまぁ、言っても良いかと判断し、正直に言うセンクラッド。

 

「下から、英語のアルファベットで言うと、C・B・A・S・EXの順です。EXは特殊な状況下で扱う、或いは文字通りS以上の威力だと思って下さい。俺は基本的にBからAを扱う事が多かったですね」

 

 実は、センクラッドを含めてだが、グラール太陽系に住まう人々が実戦においてEXを扱う事は殆ど無い。絶対的に数が少ないという理由もあるが、その武器の性質上、どうしても使用できないものばかりなのだ。

 たった一振りで星や運命などの概念すらも両断する程の力を秘めた剣や、たった一射するだけで小型隕石が地表に衝突する際に起こるインパクトを与える銃器なぞ、一体何処で使えと言うのか。

 荒廃した大地が広がるモトゥブで寄生型生命体SEEDをたった一人で食い止めた時や、亜空間などの特殊な地形が形成されている場合に限り使用した事はあるのだが、仲間や上層部から使用禁止と通達されるしか無い程、威力がべらぼうに強かったのだ。

 特にレリクスと呼ばれる遺跡から出土したものは使用禁止に指定されるものばかりだった。掘っても掘っても使用禁止になる為、その内申告をやめてナノトランサーに放り込むだけになっていたりする。

 また、これは別の世界の話になるが、人類の天敵種であるアラガミや、そのアラガミを構成しているオラクル細胞を利用した神機使い(ゴッドイーター)達の武器も相当アレなキワモノが多数存在していた。

 アレならまだ全力でやりあってもギリ振れる分マシなのだが、全力でやりあった結果、廃墟と化した街が一夜にしてマグマに沈んだり、肥沃な大地が永久凍土へと変貌したりと、惑星に与えるダメージも並大抵ではなかった。その為、相手の力を利用する事や、カウンターを狙って精確に攻撃するなど、武器に頼らず技術でカバーする戦いが徐々に徐々に多くなっていたのだ。

 余談だが、そういったケースを散々体験してきた為、オラクル細胞にフォトン粒子を結合させたらとんでもない兵器が出来上がる事は間違いと確信している。

 だが、そんなん何時何処で使うんだという想いから、実験すらしていない。エミリアやシズル、シズルの体を乗っ取っていたグラール太陽系旧人類種の長、太陽王カムハーンですらやらないだろう。

 自らが扱いきれない利器を使用すれば、種族ごと滅ぶのは知悉しているのだ。狂人でもやろうとは思わない筈だ。

 Aフォトン関連で自身も嫌と言うほど思い知っている為、そんなマッドな改造は絶対に施さないと誓っている。

 

「中堅クラスの実力という事ですね。私達よりも少し年上に見えますが、期待の新人という事でしょうか」

「……ええ、まぁ、そうですね」

 

 もはや何も言うまい。俺はこの世界では若いんだ、そういう事にしておこう。という意味を込めて曖昧に微笑むセンクラッド。その胸中は中々複雑なもので一杯になっていた。世界を救っても身分証明書を見せるまで酒が飲めなかったあの日とか、第一部隊の現隊長や元隊長から「未成年は酒を飲んじゃダメ」と言われて配給ビールを取り上げられたその日の思い出とかで。

 千冬やシロウはそれに気付いたのだが、センクラッドが言わないのならとだんまりを決め込む事にしたようで、口を挟まなかった。

 

「次の質問ですが――」

「――すまないが、そろそろ一夏のインタビューに移行してもらえるか? 流石に質問が多い。次で最後の質問にしてくれ」

「あ、わかりました。それでは」

 

 悪戯を仕掛ける子供の様な笑顔に、嫌な予感をヒシヒシと感じながら、センクラッドは先を促した。

 

「それでは最後の質問です。最近、織斑先生の機嫌が良いのは異星人と出会ったからという噂がありますが、本当ですか?」

「は?」

「ほう」

「おい黛……」

 

 ちょっと何言っているかわからないですね……という風に唖然とした表情で薫子を見るセンクラッド。

 そう来たかと眼を細めるシロウ。

 その言葉のお陰で再起動を果たした千冬は、お前マジお前ふざけんなと言う感じで威圧感すら伴った視線をぶち当てた。

 

「ささ、ズズィっと答えを。もしくはズヴァっと答えをどーぞ!!」

 

 センクラッドが困った様子でふと周囲を見渡せば、いつの間にか喧騒が止んでいて、興味津々という風に展開を見守る生徒達が居た。

 何気にセシリアも野次馬側に回っていた。この手の話題、しかも異星人との恋愛なんて滅多に、もしかしたら一生無いものかもしれないのだ。そりゃ回らぬものも回らざるを得なくなるのだろう。

 ちなみに一夏は飲み物を吹き出してむせており、箒はその世話をしている。

 え?何このふいんき、と思わず呟いた言葉も何気にバッチリと記録されているのだが、それには気付かずにセンクラッドは質問を疑問で返した。

 

「ええと、つまりそれはどういう事ですか?」

「織斑先生に換金をお願いしたり、案内を頼んだり、織斑先生の弟さんや篠ノ之さんの目標になってあげたりしているので、お互い恋愛感情があるのでは? という意味です!! さあ、答えをどーぞ!!」

「――ああ、そういう事ですか」

 

 成る程成る程、納得しました、と頷くセンクラッド。というかこの女子生徒、目標とか気付いてるじゃねぇかと思ったのだが、その手のツッコミはアレだろうな、と思ってスルーする事にし、さてどう答えようか、と彼なりに悩み始めた。

 シロウは頼むから余計な事を言うな、絶対に言うな、絶対だぞ、と念を送っていたが、パスが繋がっていない現状ではどうにもならない。

 千冬は千冬でそういう話になるのかと頭を抱えたくなっていた。もしかしたら今の今まで千冬に異星人の会談要請が来なかったのはソレか、ソレなのかと、あらぬ邪推をしていたが、そんな事は一切無い。国家間及び表と裏社会で異例の取り決めが極秘裏にあった位だ。

 五秒程思考した後、センクラッドは天啓が閃いたと言わんばかりにハッとし、次いで柔らかな笑顔を咲かせながら言ってはいけない事を言い放った。

 

「織斑教諭とは、そうですね。良い友人関係を築かせて頂いております」

 

 間。

 

 何と言うか、間としか言えない、間。

 

「おおおおお!?」

「キターーーーー!!」

「嘘だぁあああ!?」

「い、いいい一夏落ち着け!!」

 

 まるで芸能人達が良く使う常套句の一つである「私達恋愛しているけど今は友人です」と言わんばかりのその台詞に、生徒達のボルテージは急激かつ一気に上がった。一部発狂した者もいるが、それは極々一部だ。主にシスコンとガチレズと親友が少々。

 興奮を隠せぬと言わんばかりに、マイクの距離を近づける薫子。

 

「そ、それはお互いに好きだと言う事で宜しいでしょうか!?」

「俺から見れば人として好感が持てる人物ですね。恋愛ではありませんが」

 

 ピタリ、と止まる声とテンション。いくつかを除いてぽかんとした表情で見つめる全員。

 澄まし顔のまま、或いは飄々とした雰囲気のまま、センクラッドは言葉を紡ぐ。

 

「恋愛事に結び付けたがるのはこの星に住まう人々の共通した悪癖ですか? もう少し学習して頂かないと、非公式でも査定が悪い方向へ響きかねませんよ」

 

 と、さらりと痛打を浴びせてくるセンクラッドに引き攣った表情を見せる薫子。社会的に消されかねないと焦った薫子と、流石にそれは拙いだろうと思った千冬が声を上げかけるが、

 

「冗談ですよ、冗談。あくまで非公式ですから、査定なんてモノがあるわけないじゃないですか。ちょっとしたブラックジョークですよ」

 

 と温和な笑顔で返された為、一体何処までが冗談なのか煙に巻かれてしまった生徒達とその他数名。

 

「これ位で宜しいですか?」

「え、あ、はい、ありがとうございました」

「こちらこそ……では約束通り、一夏達にインタビューを頼む」

 

 毒気を抜かれた表情のまま「わかりました」と言って一夏の元へ向かう薫子。ちゃんとインタビュー出来んのかアレで、とやや心配しながら見送ったセンクラッドは、傍らで未だフリーズを起こしたままの存在に気付き、右手で右手側に居たシロウの目の前を、左手で左手側に居た千冬の目の前で手を振った。

 

「お前さん達、そろそろ戻ってきてはどうだ? そんなフリーズする事じゃないだろうに」

「……こ、こ……」

「こ? コケコッコー? シロウ、お前さん何時の間に鶏の親戚になったんだ? 共通しているのは赤しかないだろ――」

「この、たわけッ」

 

 ゴッという人体では決して響かない音を伴った一撃で、センクラッドの顎を打ち抜いたシロウ。たまらずよろけたセンクラッドの左膝裏を鋭角な角度と十分な速さを持って右のローを振り抜く千冬。即席ながら息の合ったコンビプレーである。

 半回転して地面に叩きつけられ、肺から空気を強制排出させられる事になったセンクラッドは「ゴフゥ!?」と苦鳴を漏らしてのた打ち回りかけたが、生徒が居るという事もあり、そこは我慢をし、見上げるに留めた。

 

 それが裏目に出た。

 

 鳩尾に寸毫の容赦も狂いも無くヒールが突き刺さったのだ。声にならない悲鳴を上げているセンクラッドをグリグリと踏み躙りながら、青筋をミキリと立てた千冬が鬼火を連想させる様な声を落とし込んだ。

 

「貴様は一度と言わず、三度死ね」

「なにそれこわ痛だだだだだだだ!! っつーか、千冬ッ、ヒールはいかんだろ、ヒールはッ!!」

「マスター、私は何度も言っている筈だ。いい加減に君は自重を覚えろ、と。それが出来ないなら三度と言わず、四回位死ね」

「成る程、シロウと千冬の言い分を合わせると、七回位転生して来いと。これが本当の七転び八起――」

 

 全部言わせねぇよ、と言わんばかりに顔面を踏み潰す勢いで踵から足を落としたシロウだったが、一瞬早くセンクラッドが千冬の体重移動を見切って、オラクル細胞を励起しながら瞬時に横に転がって立ち上がった為、ドンッという大きな音を立てるに留まる。

 チッ、という舌打ちはほぼ同時に異なる音域で鳴らされた。勿論千冬とシロウである。

 インタビューをしていた薫子とインタビューを受けていた一夏以外は完全にフリーズしていた。所謂ドン引きである、というか眼の前でそんなん起こっていたら普通はガチで引く。

 薫子は表情を輝かせてその情景をカメラを回して録画していた。用意周到なものである。

 一夏は一夏で、何今の体重移動、おかしくね?と思っていた。何処の世界のバトルジャンキーに転職したのだお前は。

 

「折角シロウにインタビューが飛ばないように配慮したと言うのに、何と言う仕打ち。マスターの心サーヴァント知らず過ぎる」

「……正直に言い給え、場を引っ掻き回せる方を選んだのだと」

「まぁ、それも九割位ある」

 

 空気の壁を破る音と共に、シロウの右ストレートがセンクラッドに迫るが、寸前の所でセンクラッドの左の掌にガシリと抑えられた。至近距離で視殺戦をおっぱじめた二人の間に入れる人物は、この場においては一人しかいないが、その一人も割と怒っていたので、シロウ側に助太刀する程度にしか動かないだろう。

 

「お前さんさっきから割と本気で殴りに来てるだろ、普通は死ぬぞ」

「君は普通じゃないだろう。それに、コレは本気じゃない、手加減をしていないだけだ」

「どちらもおんなじじゃねぇか」

「マスター、君は日本語を学習し直した方が良い。日本語は奥深いものなのだよ」

「あぁそうかい」

 

 取り合えず、シロウの拳を脇にうっちゃって、千冬に声をかけるセンクラッド。眼越しに千冬の怒り指数がとんでもない勢いで上がっていっていたのを感知しているからだ。ここらで手打ちにさせないと外出禁止令でも出かねない。

 

「まぁ、その、なんだ。正直すまんかった」

「ゴルドバステーキで手を打たないでもない」

「……シロウにデザートを作らせる、という方向で一つ勘弁してくれ」

「良いだろう」

 

 オイ私を巻き込むな、と言いかけたシロウだが、センクラッドの事だ。どうせ「俺がマスターでお前はサーヴァントだろう? 我が名において命ずる、シロウは千冬にデザートを作れ、ついでにゴルドバステーキも頼む」等と言って来るに違いない。そう言われてしまうと現時点では何も言えなくなるのは自明の理か、と肩を竦めて了承のポーズを取った。

 後で何らかの報復を仕掛けるがな、と考えるシロウは気付いていない。その考えこそが主従共々似ているという指摘に繋がるという事を。

 

「まぁ、取り合えず、換金の件は外出と合わせて頼む。まぁ、どうせ千冬の事だから外出の手続きは既にしているだろうがな。換金に関しては手付金だけでも良いので早いところ頼む」

「ああ、わかった」

 

 実は外出の許可に関しては、予め決められたルートならば既に出ていたのだが、換金に関しては全く考えてなかったのだ。異星人からトレードを持ちかけられる事自体想定外だった。

 ただ、嬉しい誤算だったので、千冬は頷くに留める事にした。

 

「ファーロスさん」

「うん? おや、オルコットさんじゃないか、どうした?」

 

 声をかけてきたのは、セシリアだった。一体何事だ?と首を傾げながら耳を傾けるセンクラッド。

 

「いえ、インタビューと一悶着が終わったようなので」

「……いやまぁ、手打ちにはなったが、それで、どうした?」

「もし出かけるのでしたら、その時はわたくしも一緒に行っても良いでしょうか?」

「まぁ、お前さんなら良いか。日程は千冬から聞いてくれ」

「ありがとうございます」

 

 本日最大のイージーミス、此処に現出。と言う風な表情になる千冬とシロウ。イギリス代表候補生が異星人と一緒に街へ出歩くという事は、後々に重大な影響を与えかねない要素の一つになるのは間違いない。

 だが言ってしまった為、その後の事を考え、シロウは口を挟んだ。

 

「――オルコット嬢、それは君一人という事で良いか?」

「ええ、勿論。わたくしとシロウさん、ファーロスさんに織斑先生で」

「……そうか」

 

 それなら良い、と溜息をついてシロウは黙った。センクラッドは何を当たり前の事を言ってるんだ?という顔をしている為、後で説教だな、と決意を固くするシロウは、千冬にアイコンタクトを取った。

 これから説教をするという目線に頷き、千冬はこれ以上問題を抱えたくは無い為、嫌々ながらも、

 

「そろそろ戻るぞ、センクラッド」

「ん? まだ来たばかりだろう。それにお前さん、一夏とも殆ど話していないだ――」

「そうだな、マスターもお疲れのようだ。織斑教諭、すまないが先導を頼む」

「え、ちょ――」

 

 何かを言う前に、両脇をシロウと千冬に抱えられ、リトルグレイよろしくその場を後にするセンクラッド。この後、千冬とシロウから荒れに荒れた説教が待ち受けていたりする。

 

 『目的』を果たしたセシリアだったが、その表情は明るくない。遠ざかる三人の姿を複雑な視線で見送っていたが、首を微かに横に振って気を取り直すと、セシリアは指令通り、一夏の元へと移動していく。

 その足取りは、何処と無く重い。

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