IS BURST EXTRA INFINITY   作:K@zuKY

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第一章:邂逅編(原作一巻+α)
01:来訪


 インフィニット・ストラトス。

 通称ISと呼ばれるマルチフォームスーツが篠ノ之束博士の手によって開発され、白騎士事件――たった一機で何千ものミサイルを撃墜し、公式上では全世界の軍隊と戦い、死亡者を出さずに勝利した事件だ――によって既存の兵器では全く太刀打ち出来ないという幻想を植えつけた事で、世界は激変した。

 既存の兵器を取り扱っていた幾つもの企業は倒産、或いは破産宣告をし、経営者は首を括り、労働者は職を無くし、大半の失業者は犯罪へ走る――その筈だった。

 それでも幾つかの企業は戦車や航空機などの軍事兵器からISの製作へと舵を切り、それらに成功した企業は他の没落した企業を吸収や合併をする事で、何とか世界規模の暴動や大恐慌は抑えられた。

 無論、大衆の眼に見えにくいところでは血生臭い争いがあり、それらは日々のニュースには乗らない、敢えて言うなればアンダーグラウンドの世界では常識として語られている部類となった。

 だが、その手の問題はISが出る前からもあり、どちらかといえば平常とも言えるだろう。

 それよりも問題なのはISの欠点である。

 欠点は二つで、だがそれらは致命的だった。

 一つは、男性は扱えないという事実。

 これを特性と見るか欠点とみるかは、文字通り性別で分けられた。その欠点のせいで女性優遇の体制、否、もっと言えば女尊男卑の風潮が僅か数年で広がってしまった。

 ISを整備する者、兵器開発をする者の大体は男性だというのにも関わらず、だ。

 その余りの定着の早さに、一部では何者かによる陰謀論や企業側と政府側の暗黙の了解があった等の憶測が飛び交ったが、不思議な事にマスコミは黙殺、或いは取り上げたとしてもワイドショークラスでの取り扱いで終わらせていた。

 もう一つはの欠点は、ISの核となるコアは、IS製作者兼発表者である篠ノ之束博士しか作れぬという事。

 ただ一人の天才以外作れぬということは、仮に博士が死亡した場合、ISという“事業”は意味を成さなくなり、遺されたパイの奪い合いになるという至極つまらない、またそれによって利益も頭打ちになりかねないという懸念があった。

 故に、世界は篠ノ之博士を『保護』しようとした。しかし、予めそれを予想していたのか、篠ノ之博士は何処へと姿を消し、今尚、行方知れずである。

 そして、雲隠れしてしまった為、コアは467個以上は世界へ貸与されなくなり、自然とそれらは戦争の道具としては使われる事が無くなった。

 当然だ、絶対数が少ないISで一体どうやって国を守りながら他国へ攻め入れるのか。片方だけならばともかく、両方こなせる程の十分な数のコアは貸与されていないのだ。更に言えば、たった数機のISは戦略兵器としては価値があったが、その数の少なさ故に、国防の全ては任せられない。結局のところ、戦艦や戦車、ヘリや航空機等の前時代的と言われる兵器は、眼に見えやすい場所から姿を減らし、代わりにISという眼に見える抑止力が誕生した。

 そう、結局のところ事実だけ見れば、女尊男卑の風潮は広がり、軍需系企業と戦争の在り方が変化した、ただそれだけである。

 それが大事か些事かどうかは、身を以って体験した者達のみぞ知る。

 

 だが。

 

 どのような事でも例外と言うモノは存在する。偶然であれ、必然であれ。

 性差という意味では、女性のみが扱える筈のISに初の男性搭乗者が現れたという事。

 第一世代IS搭乗者の元日本代表にして、モンド・グロッソと呼ばれるIS同士の決闘、或いは競技会の大会優勝者であり、公式試合の戦歴では無敗、そしてその戦歴に拠って『ブリュンヒルデ』の称号を持つ女傑、織斑千冬の実弟。

 名は、織斑一夏と言う。

 世間では遺伝子が似通っているから、或いは篠ノ之博士のお気に入りだから、等の憶測が報じられたが、真相は未だ闇の中。

 兎にも角にも、織斑一夏という、姉よりも遥かに平々凡々な人間は、今や姉以上の価値がある存在として世界中から注目を浴びた。

 故に、誘拐される事を恐れた日本政府は、どこよりも先んじた一手を打つ。

 それが、IS学園入学であった。

 

 IS学園。

 それはISの操縦者育成を目的とした軍事教育機関であり、その運営や資金調達は全て日本が行っている。

 また、IS学園に在籍中の生徒はあらゆる政府の干渉から身を守れる場所であり、その為に一夏はその学園に強制的に入学させられる事となる。

 アラスカ条約という、運営資金は日本国のみ、技術は全国家で共有等、日本にとっては不当以外何者でもない条約を強制してきた世界に対する、云わばささやかな仕返しだった。

 これにより、ドイツを初めとする特殊部隊による『体験入部』や、女性至上主義者からの刺客、果てはマフィアの拉致などからも守られる事になったが、卒業後のその先は決して明るくはない。

 強くならねばならないのだ。誰よりも、強く。男という以前に、織斑千冬の弟であるが故に。

 そうでなければ、万が一、この先、他にも前例が生まれなかった場合、モルモットにされるしか道がないのだから。

 ただ、不幸な事に一夏は、現時点ではその事に気付く事無く、気楽といえば気楽、楽観的といえば楽観的に人生を謳歌していた。

 

 のだが。

 

 ここに来て、世界全体を震撼させる出来事が起きる。

 所謂、異星人の来訪である。

 

 それを初めに察知したのはIS学園であった。

 IS学園はただの育成機関ではない。

 ありとあらゆる干渉から文字通り身を守れる場所としての側面を持つが故に、政治的のみならず防衛力や防諜力は、世界でも有数の場所だ。

 故に、察知するのは当然の事とも言えた。最も、それはすぐに全世界が知る事となるのだが。

 入学試験の一つである実技試験。その為の広いアリーナで一夏と、この先、彼の副担任を務める山田真耶が激突する直前、両者のISのレーダーに遥か上空、成層圏を越えた宇宙空間にて異常重力波等を感知したのだ。

 

「――え?」

 

 そう呟き、ISのレーダーをそこへ伸ばす真耶。少し遅れて、顔を上に持ち上げてレーダーと延長された視界も使って捉えようとする一夏。

そこに映っていたのは、ジャンボジェット機よりは小さな、だが明らかに地球製ではない、鋭角的かつ攻撃的なフォルムをした、世界のどこを探しても違う特殊な文字らしきものが外郭に焼き付けられている“宇宙船”であった。

 

「宇宙、船……?」

 

信じられないと言わんばかりの言葉、直後に一夏もそれを確認し、マジかよ、と呆然と呟いた直後、2人に緊急無線が入った。

 

『山田先生、試験は中断だ。未確認飛行物体が日本上空に出現した。レーダー機器の故障ではない。世界規模で確認されている。アラスカ条約に基づき緊急戦闘配備に移る為、山田先生は試験生織斑一夏の保護及び退避先である講堂に避難誘導をする事。繰り返す、アラスカ条約に基づき全世界同時緊急戦闘配備に移行する為、教師山田真耶は試験生織斑一夏を講堂に避難させる事』

 

「わ、わかりました!! お、織斑君、こちらへ!! 急いでください!!」

「あ、え、あっ、は、ハイ!!」

 

 真耶は講堂へと疾走し、一夏もそれに追従する。

 その数十分後、IS学園の生徒や天文学者等から情報が漏れる事になったのは、仕方ない事だったのかもしれない。

 どの国の政府も機関も、言い換えれば世界ですらもこのイレギュラーな事態は当然のことながら初めてだった為、足並みが揃って無い状態だったのが大きい。

 しかも情報を規制しようにもインターネットに情報が流出してしまえばアウトだ。その為、その後の事を考えると表裏問わず各国の首脳陣は頭を抱える他無く、しかもその問題は脇に置くしかなく、現時点でやれる最善の事、つまり全ての通信手段とチャンネルを使っての通信、もっと言えば対話が可能なのかどうかを判断する事が、各国政府に求められた手段であった。

 次策としてISは相手の神経を出来うる限り逆撫でしないように待機状態にしておくが、織斑千冬のみ、打鉄で日本上空に移動し、相手から攻撃されない限りは一切の攻撃せず、万が一攻撃された場合は全ISを稼動させ、可能な限り捕獲するという作戦が提案された。

 これには理由と思惑があった。日本上空に現れた宇宙船という事から、十中八九厄介事だろうと踏んだ各国首脳陣は、先の仕返しとばかりに織斑千冬を出せと日本政府に脅しをかけたのだ。

 また、稀代の大天災である篠ノ之束博士の親友である事も利用し、あわよくばそれがどうにかしてくれるだろう、という見え透いた願いもあった……と、その親友本人から話を聞かされた織斑千冬はため息をつく外無かった。

 

 だが、ここで意外な結果が出る。あらゆる手段と言語で通信を呼びかけた結果、宇宙船は大気圏内に突入し、織斑千冬が操る打鉄にゆっくりと接近してきたのだ。

 自然体を装いつつ、千冬は相手の出方を待つ。世界も、織斑千冬の打鉄にリンクさせた画面を見て、固唾を呑んだ。

 

「こちら、グラール太陽系所属のセンクラッド・シン・ファーロスだ。そちらの言語を記録した結果、この言語が一番適正があった為、変換させてもらった。通信帯域全てに影響を与えているチャンネルを使わせて貰う。応答を求む」

 

 そして、低く響き渡る男の声。それは聞き違う事無く日本語であった。それに驚く織斑千冬や首脳陣。

 少なくとも好戦的ではないようだ、と一先ずは安心して織斑千冬は口を開いた。

 

「こちら、IS学園所属、日本人の織斑千冬です」

「アイエスガクエン……ニホンジン……オリムラ、チフユ。それでは織斑千冬、俺がどういう目的でここに来たのかを知りたいそうだな」

 

 先の通信での呼びかけを大体理解していたのか、そう聞いてきたセンクラッド・シン・ファーロスに、織斑千冬は肯定を返す。

 

「当方は侵略の目的できたわけでは無い。攻撃を仕掛けてきたのなら別の選択肢に変更したが、お前達はそれをしなかった。故にこちらは交渉を望む」

 

 交渉という名の降伏勧告だったら笑えない冗談だな、と内心毒づきながらも返答を返す。

 

「交渉、とは?」

「こちらとしては船を降ろしたいので適当な場所に誘導して欲しい。目的は、一時的な休息のみであり、技術提供や技術交流、及び同盟や隷属等の国家間の約束事を取り付ける為に来たわけではない事を知っておいて欲しい」

「何故一時的な休息を?」

「次の移動の為の燃料を補給したい。あぁ、安心してくれ。資源は一切使わない事を約束する」

「……少し、時間を」

「構わない。首脳陣と話し合って決めてくれ」

 

 さらりと言った言葉の裏に、自身には権限が無いことを見破られていた事に、冷たい衝撃が奔った。

 プライベートチャンネルでは、各国が喧々囂々としていた。

 曰く、油断させる為のものかもしれない。曰く、その技術を奪うべきだ。曰く、また日本に引き取ってもらう。等、まとまりが一切無かった。

 彼らもまた迷っていた。ジョーカーだとして、どの意味でのジョーカーになるのか。

 親しき隣人の振りをした侵略者なのかもしれないし、ただ本当に補給をしたいだけなのかもしれない。

 時間が空けば空くほど不利になる事も理解していたが、こればかりは仕方の無い事だ。誰もが良い前例にはなりたいが、為政者として最悪の決断をした、といわれる可能性がある以上、二の足を踏むもの。

 まぁ、それで最も苛々しているのは待たされている異星人ではなく、異星人と相対する事になった織斑千冬なのだが。心の中で無能な首脳陣を滅多斬りにするという大変スプラッターなイメージが既に37回程ループしている位の時間と、それに附随したストレスが溜まっていた。

 それを知ってか知らずか、否、わかっているのだろう。

 

「余り苛々しない方が良い。こう言う時は特に、な」

 

 と、異星人が話しかけてきたのだ。

 自身の苛立ちを見透かされていた事に驚いた表情を浮かべた織斑千冬。

 

「君の癖かもしれないが、先ほどから左の掌を開いたり閉じたりしている。もう少し自然体でいたらどうかな?」

 

 苦笑交じりの声に、赤面する外無い。というよりも初対面の相手にそこまで見透かされるというのも初めてだったので、つい、

 

「貴方は心を読めるのですか?」

 

 と聞いた。

 

「宇宙人や異星人と聞くと、そういう質問がよく来るが、そういうものではないさ。俺からしてみれば異星人はお前達だ。つまり、俺からしてみれば、いつお前から攻撃されるか、ビクビクしている、とも言えるんじゃないかな?」

 

 この言葉が決め手になったのか、それともタイミング的にそうであったと邪推しただけなのかはともかくとして、織斑千冬にプライベート回線で着陸の許可が出た。

 だが、場所を聞いた途端、織斑千冬の表情が微かに強張り、だが、諦念の表情を閃かせ、表情を隠した。

 

「許可が出ましたので、ついてきてください」

「理性ある配慮に感謝する」

 

 降下ポイントは、IS学園第三アリーナ。奇しくも、織斑一夏と山田真耶が試験を行っていた場所であった。

 今現在、IS学園付近はIS学園生徒以外の全ての人民の避難は完了しており、またIS学園生徒も地下シェルターに避難が完了し、大量破壊兵器を使用したとしても、想定内の被害で済む筈と織斑千冬に通達されていた。

 ゆっくりと降下し、着地をして上を見上げ、両手を振って降下ポイントを指定の位置へと誘導していく。

 宇宙船は織斑千冬と同等の速度で降下し、やがて音も無く着陸した。特筆すべきは噴射口が下部についていないのに、ゆるやかに着陸出来たという事だろう。何らかの特殊な技術を使用しての無風着陸とはまた凄まじい。

 

「ところで、姿は見せた方が良いのかな?」

「出来れば、そうして欲しいものですが」

「了解した、今からそちらに出るので、撃たないでくれよ」

 

 撃つものか。撃ったら大変な事になるではないか。いやいや、これで現れた姿が八本足のタコだったり、リトル・グレイだったりしたらどうしてくれよう、などと真剣に考えていた織斑千冬であったが、見事に裏切られる事になる。

 織斑千冬が立っている側、もっといえば宇宙船と彼女を直線で結んだ外壁が音も無く消失し、男が現れた。

 男、といってもまだ若い。まだ少年の域を脱するか否か、その程度の年齢だ。その癖に、どこか老成した雰囲気を纏っている。

 水を弾くようなきめ細かな雪色の肌に、一切の光を呑み込む闇色の右瞳は刃の様に鋭い。

 鴉の濡れ羽色の髪は左眼を隠すようなアシメトリーを形作っており、僅かに見える左眼がある位置には眼帯をつけていた。

 身に纏う服は、コートと胴鎧が一体化した服装――遠い異世界に存在していたとされる錬鉄の英雄が纏っていた服装を黒く染め上げたレプリカだ――で、それを一部の隙無く着こなしていた。

 そう、センクラッド・シン・ファーロスとは、神薙怜治の事だったのだ。

 

「日本人……?」

 

 思わず、と言った感のある小さな言葉に、センクラッドは間髪入れずに答えた。

 

「グラール太陽系のデューマンと言う二足歩行型の種族だ。まぁ、同じ人型同士、宜しく頼む」

 

 そう言って軽く頭を下げた彼を思わず、と言った風にぽかんと口を開ける千冬を誰が責められようか。異星人が礼を知っているとは誰も思わないし、そもそも本当に彼は東洋人、もっと言えば日本人ではないのか?と思ってしまう。

 

「本当に宇宙人、なんですよね?」

「あぁ、その反応なら、やはりこれで良かったのか。頭を下げるという事は人型において約87%の確率で礼を伴うというデータが採れていたので、真似をしてみたのだが」

「成る程……」

 

 わかったようなわからないような表情を浮かべる千冬に、苦笑するセンクラッド。

 

「世の中、白い旗を振れば良いと思って振ったら最後、全面戦争になったという事例もある。それはともかく、俺はどこに通されるのかな?此処では無いのだろう?恐らく記者会見、というのをやると思うので、やってみたいのだが」

「どこでそんな言葉を覚えたのですか……」

「その答えは後で良いか? 取り合えず、案内を頼みたいのだが」

 

 あぁ、失礼。と千冬は謝罪し、プライベートチャンネルで指示された通りの場所に移動しようとし、それに追従しながら何気なくセンクラッドが宇宙船に向かって薙ぎ払うような素振りをハイパーセンサー越しに見た途端、凍りついた。

 宇宙船が跡形も無く消えたのだ。

 どういう事だと眼で問いかけるも、応えるつもりが無いのか、右足の爪先をその場でタン、タン、タタタンとリズム良く動かしているセンクラッド。

 これは後でという意味か、と思い、内心ため息をついて千冬は歩き始めた。

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