IS BURST EXTRA INFINITY   作:K@zuKY

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17:過ぎた接待

 一夏の代表祝賀会から一週間以上が経過した。アレからセンクラッドは外出をせず、日がな一日中インターネットから観光名所百景等の日本の観光・説明用サイトを見て回っていた。千冬の観光案内で回る時に、もしリクエストを受け付けてくれるのなら、という前提で色々見ていたのだ。

 そして今日、センクラッドは気合最高、気分は上々という感じで早めの朝食を取り終え、千冬を待ち続けていた。

 昨日千冬が部屋を訪れて「そちらに問題が無ければ明日の土曜に観光案内が出来る」と言われたからだ。

 鼻歌でも歌いだしそうな位浮かれているセンクラッド。別世界の地球で範囲が限定されるとは言え、故郷である日本を散策出来るのだ。懐かしさも手伝ってか、ワクワクしているというのを隠そうともしないセンクラッドに、優しげな視線を送るシロウ。

 ふと何かに気付いた風に、センクラッドはシロウの服を見つめ、むむ、とばかりに眉を寄せ、シロウに対し、

 

「シロウ。まさかとは思うがそのままの格好で行くのか?」

「流石にそれは無理があるだろう。ラフな格好に着替えるつもりだよ」

「ほう、ラフな格好か。どんな服を持っているんだ?」

 

 シロウの私服を見た事がないセンクラッドは、好奇心にかられて質問した。その疑問に答えるべく、シロウは身に纏っていた赤原礼装を解除し、黒のシャツに真っ赤なレザージャケットを羽織った服に着替えた。首には黒いチョーカーが巻かれており、ベルトは赤色のレザーを二つ巻いたものを装着していた。

 その余りの派手派手しさに絶句する他無いセンクラッド。モデル立ちで佇んでいる元サーヴァントに、恐る恐る尋ねた。

 

「……それは、ガチでか?」

「春とはいえ、流石に素肌にレザージャケットは寒々しいだろう?」

「いや、うん、ああ、いや、何だ……ええっと、そうだな……お前さん、ファッションセンス無かったのな」

 

 余りに酷いが的確すぎる一言に眼光鋭く睨みつけるシロウ。本人としては生前プレゼントされ、愛用していた服装の一つをディスられたのだ、怒りたくもなるだろう。

 だが、センクラッドからしてみればネタならば乾いた笑いを、ガチならば完全に引くしかないと言う格好なのだ。しかも素肌にジャケットというのは、どうにも既視感を感じてしまう。

 

「……ボル三兄弟にお前さんが混じっても俺は問題ないと思ったわけだが」

「誰かね?」

「グラール太陽系に居たビーストの三兄弟だ。一言で言うと、へっぽこ三兄弟だ。もうとにかくへっぽこでな。散々こちらを引っ掻き回そうとして、結果的に自爆したり、その過程でも自滅したり、俺やイーサンにボコボコに張り倒されたりとまぁ、何というか、殺伐としていたあの頃の俺を癒す一種の清涼剤になっていたよ。正直あそこまでへっぽこだと見ていて気持ちが良い程――」

「怜治、私に似合う服を至急ナノトランサーから貸し出して欲しい」

 

 思い出して遠い眼になっていたセンクラッドが、その声でシロウに視線を合わせると、ものっそい打ちひしがれた状態に陥っているシロウが居た。哀愁が滲み出るどころか、溢れ出ている状態を見て、センクラッドは何だか申し訳ない気分になってしまった。

 やはりあんなんと比較したのが不味かったか、と思っているセンクラッドだが、実際は少し違う。

 それに加えて生前、魔術師仲間や師匠から散々「へっぽこ」「へちょい」「へぼい」等言われてきた事を思い出した為だ。トラウマの領域にまでは発展しなかったが、それでも思うところはあるのだろう。そしてボル三兄弟とやらの紹介も酷いものも手伝って「私はそんなお笑い三人集と同列なのか……」と凹んでいるのだ。

 センクラッドとは対照的にテンションが著しく下降の一途を辿っているシロウを見て、流石に可哀想になってきたのだが、かける言葉が見つからなかった為、取り合えず見合う服を見繕う事にし、ナノトランサーからデータをリンクさせて網膜投影していく。ブレイブスシリーズの上下が無難だな、と判断したセンクラッドは、それを現出させ、シロウにそっと手渡した。

 どんよりとしたまま無言でゴソゴソと着替えるシロウを横目に、センクラッドは再度、自身とインターネットを接続し、情報を見ていく。ある意味現実逃避ともいえる。

 それから五分程度経った後、控えめなノック音が部屋に響いた。

 来たか、と呟き、何食わぬ顔を作りながら、インターネットとの接続を切って、ドアをスライドさせると、そこに居たのは、センクラッドが予想していた人数よりも少し多いグループだった。

 いつもの服装の千冬は良いとして、青を基調としたワンピースにハイヒールを履いているセシリアに加え、白いモコモコしたセーターと黒のスキニーパンツをブーツインさせた箒に、白のカットソーとGパンの一夏まで居た。

 

「ふむ。セシリアはともかくとして、お前さんが篠ノ之さんや一夏まで連れてくるとは思わなかったのだが」

「事情があってな、連れて行かざるを得なくなった」

 

 苦虫を噛み潰した様な表情でそう言う千冬。今更ながらに政府からの圧力がかかってきたのは、恐らくセシリアと異星人との『交流』をIS学園から外へ流した者のせいだ。主に黛薫子とかセシリア・オルコットとか黛薫子とか。

 日本政府からしてみれば、ブリュンヒルデの弟である織斑一夏や、篠ノ之博士の妹である篠ノ之箒が異星人と仲良くしているシーンが欲しいのだろう。イギリスに置いて行かれない様にと、そういう指示があったのは明白だ。

 IS学園は表向きはあらゆる国家や法から解放されるのだが、それはあくまで建前だ。運営しているのは日本であるし、ISを発明したのも日本人だ。そしてこの世界の日本も例外なく外圧に弱い。故に、日本領土内にあるIS学園は、どう足掻いても干渉を受ける立場にあった。

 

「まぁ、別に良いんだがな。これ以上は増やさんでくれよ、誰かが迷子になるかもしれんからな」

 

 眼の前の男が陰謀を企むような性格ではなくて本当に助かった、と心の底から思う千冬。まぁ、それらはセンクラッドの護衛を務めるシロウの方が担当しているのだが、今は言うまい。

 シロウとしても千冬は板挟みになっているのかと察していたし、元々は品行方正とまではいかないがセイギノミカタを気取っていた事もあるのだ。弱みに付け込んで徹底的にやるのが彼の信条だが、別に千冬は敵ではない。むしろセンクラッドもシロウも世界を相手取ってドンパチなんぞ御免蒙ると思っているし、火中の栗を拾う様な真似はしたくはない。

 

「で、もう出発するんだな?」

「ああ、時間が必要なら、校門前で待つが」

「いや、支度はすぐに出来る。後は俺が着替えれば良いだけだしな」

 

 そう言ってセンクラッドは椅子から立ち上がり、部屋の外で待っている千冬達に足を向け、その途中でナノトランサーからお気に入りの服を呼び出した。

 白のYシャツが長さが膝まである黒のロングコートへ、青色のズボンが黒のゴルドバの皮をなめして作られた藍色のレザーパンツへと一瞬にして変更された。その際、ペタペタと素足で歩いていた足音もコツコツと硬質な音を響かせるファー付きのブーツに変わっている。更に言えば、髪形も少し変化していた。左眼の眼帯部分を隠すアシメトリーは変わらずだが、全体的にシャギーを入れて軽めに見せた形になっている。

 その事に驚く面々。

 一夏が皆の驚きや疑問を代表するような形で質問をした。

 

「ファーロスさん、今のどうやってやったんだ?」

「ナノトランサーから服装を呼び出して交換しただけだ。髪型に関しては記憶媒体から読み込ませて変化させている」

「へぇ、何か遅刻せずにいられそうだよな」

「あー、それはあるな。低血圧だったからこの機能は本当に有り難かった」

 

 低血圧だったんかい、と思わずツッコミ口調で言う一夏。千冬がそれを叱責しようと口を開きかけるが、センクラッドが目配せをした為、口を開く事無く黙って聞き役に徹する。

 

「お前さん、異星人だからって低血圧とか高血圧とか無いと思っていたら大間違いだぞ。お互い人型なんだ、それ位あるに決まっているだろう」

「あぁ、そういうものなのか」

「そういうものだ」

 

 と頷いたセンクラッドだが、過去形で言っている通り、嘘はついていない。

 オラクル細胞で再構成した体は人型ではあるが、単細胞群体生物であるアラガミと同様に内臓や血液は無い。外殻だけ日系デューマンで、中身は最早別物だ。やろうと思えば手から物を喰えるし、背中から第三の腕も生やせる。生やせるだけで、実用には程遠いのだが。

 

「では、行こうか。俺としては行きたい場所が結構あるんだが、その手の要望は受け付けてくれるのか?」

「見たいものによるが、何処に行きたいんだ?」

「秋葉原だ」

 

 凍りつく面々。よりにもよってそこか、と言う表情を浮かべた千冬とシロウ。一夏は乾いた笑顔を浮かべているし、箒はそれの何が問題なのか全く把握していないのか、何時もの凛とした表情のままだった。セシリアは僅かに嫌悪感を出しているが、口を挟む事はしなかった。

 

「……余り言いたくないのだが、そこを選ぶのはお奨め出来ない。それに何故秋葉原なんだ?」

「インターネットで外国人が選ぶオススメの観光地トップ10で常に上位にランクインしているからだ」

 

 その言葉に、一夏は「へぇ、そうなのか」と言った顔をした。ちなみに、他国では余り見かけないミニスカメイド喫茶や電気街、巨大ショッピングモールや隠れた名店が有る事に加えて、特に同人漫画を取り扱う店が多数あるというのが理由に挙げられていた。

 

「まぁ、他にも回りたい場所はある。関東地方の観光場所では東京ディズニーランド、浅草、ドイツ村あたりか。歌舞伎町も良いな。ホストやホステスという水商売の店も覗いてみたいな。それと皇居も見てみたい」

 

 他意は無いのだろうがものっそい下世話な場所を回りたがるセンクラッドに頭痛を感じる千冬。間違った知識を持った外国人を接待した様な感覚に陥りつつあったが、それを振り払う為に首を振って答えた。

 

「生徒がいるから無理なところは無理だ。特に歌舞伎町と秋葉原は駄目だ、情操教育に良くない。それに、外出許可は今日だけ出されるものではないから、もう少し絞って欲しい」

「そうか、残念だが仕方あるまい。浅草なら問題ないだろう」

「判った」

 

 そう言って、校門へと歩き出す面々。センクラッドとシロウもそれに追従する形で歩き出した。勿論、部屋にロックをグラール言語で掛ける事を忘れない。

 そうして校門に辿り着くと、眼の前には黒いリムジンタイプのリンカーンが止まっていた。

 眼を瞬かせてそれを凝視するセンクラッドと庶民組生徒達。シロウはある種の懐かしさを感じて見つめていたし、セシリアは平然としている。千冬はそのままドアを開け、センクラッドを促した。

 

「……俺の予定ではIS学園前駅で東京駅直通の満員電車に乗る筈だったんだが……」

「異星人が電車に乗ったら大パニックを起こすに決まっているだろう。それに関しては許可が降りなかったが、代わりに車を用意した」

 

 早く乗ってくれといわれ、センクラッドが大人しく乗り込んだ。変な言い方になるが約十年ぶりの満員電車を満喫しよう、と意気込んでいたら、予想以上の物が来た、という思いがあったのだろう。その背中は少し煤けていた。

 センクラッドが乗り込み、シロウが追従し、生徒達が乗って、千冬が最後に乗り込んでドアを閉めると、車は静かに走り出した。

 やれやれと溜息をついて気を取り直し、視線をあげると眼の前には白ワインと赤ワインとシャンパンがそれぞれ一種類ずつワインポケットに配置されていた。

 思考が停止したまま、視線をぐるりと巡らすと、眼の前はどうやら俗に言うところのバーカウンター形式になっているという事が判った。

 千冬やセシリア、シロウはバーカウンターに備え付けられている冷蔵庫から平然と各々が好きな飲み物を手にとって飲んでいるが、一夏と箒に関しては物凄く居心地が悪そうに、もっと言えばどうして良いか判らず、取り合えず自分の膝小僧をじっと見つめて何かに耐えるような表情で俯いていた。早く時間が過ぎ去りますように、という願いが駄々漏れである。

 表情を無くした状態を維持しながら、センクラッドは横に居るシロウを眺めた。何でコイツはそんなに平然としているのだろうと思っていると、シロウは、

 

「――あぁ、すまない。シャンパンで良いかね?」

 

 と言って、ワインポケットから良く冷えたシャンパンを取り出し、針金を静かにゆっくりと外していき、布ナプキンを被せてボトルをゆっくりと回し、栓を徐々に抜いた。

 シャンパングラスをセンクラッドに持たせ、静かに6分目まで注いだ後、そっと栓を閉めて元の位置に戻すと、シロウは千冬やセシリアと談笑を始めた。具体的には、シロウのシャンパンの開け方が手馴れているというツッコミだったが「インターネットの動画を見て覚えた」と、さらりと言い切り、異星人に対するハードルをガン上げしたり、セシリアのお嬢様っぷりを聞いたりしていた。

 そんな三人を尻目に、箒と一夏を見ると、何も飲まずに先の姿勢を維持している。一体何の罰ゲームなのだコレは。

 

「……一夏、篠ノ之さん、コーラと緑茶で良いか?」

「お願いします」

「是非」

 

 間髪入れずに答えた二人に対し、静かに、だが迅速に冷蔵庫から目的のペットボトルを取り出し、二つを一夏に渡した。一夏はギギギギと錆び付いた音を立てながら、緑茶を箒に渡し、ペットボトルの蓋を開けた。手に汗が滲んでいたのか、何度か滑っていたのはご愛嬌だろう。一組代表決定戦で見せた凪ぎの心境は一体何処にいったのだろうか。

 箒は箒で、手渡されていた緑茶を取り落としていた。

 

「あ」

 

 と、声をあげてしまい、全員の視線を食らった箒は、少しだけ涙目になった。おろおろとペットボトルを取ろうとするも、一夏の足元からセンクラッドの足元へと転がっていくのを見て、動作を停止させてしまう。

 無言でブーツに当たったペットボトルを取り、箒に手渡すセンクラッドに「ありがとうございます」と礼を言った箒の声は、若干震えていた。きっと内心では「中身がこぼれていなくて本当に良かった」とか思っているのだろう。一体どうやって蓋を外していないペットボトルから中身がこぼれるというのだろうか。いつもの凛とした武士娘という感じが一切消失している。

 

「……庶民感覚に、乾杯」

「乾杯」

 

 ぼそりとセンクラッドが呟いた言葉に、何処か救われた面持ちの二人が同じ言葉を同時に発した。

 無表情のまま、センクラッドは注がれたシャンパンを静かに口に含んだ。悔しいほどに、それは旨かった。

 

「千冬」

「ん? どうしたセンクラッド。口に合わなかったか?」

「汚しても良いのか?」

「何だ、乗って早々もう酔ったのか?」

「いや、そうではなく、一夏と箒が緊張しすぎて目も当てられん状態だ。それに、何だかんだ言って俺もこの手の奴に乗った事がない。作法とかあるのか?」

 

 その言葉に、弟とその幼馴染を見ると、そこには可哀想な程に萎縮している二人がいた。何時もと違う二人に、セシリアが、

 

「一夏さん、篠ノ之さん、別にそんなに萎縮しなくても良いのですよ。普通にくつろいで下さって構いませんし」

「セシリアの言う通りだ。一夏、箒。汚しても別に構わない。経費で落ちるからな」

 

 お嬢様代表と女帝代表がそう言ったところで、はいそうですかといきなりだらけた感じでくつろげるわけがない。

 まるで借りてきた猫のようになっている二人を見て、センクラッドは、

 

「善意だと思うが、はっきり言って普通の車の方が良かったんじゃないか? 周りの車と全然違って浮いているしな」

 

 これでは電車に搭乗するよりも目立っているだろう、と言外に込めた意味を正しく読み取った千冬は、苦笑せざるを得ない。

 当初は四駆で行く予定だったのだが、そこを日本の首脳部から待ったを掛けられ、用意された車を見たらリンカーンだったのだから、流石の千冬もあの時、一瞬だけ絶句していたりする。

 もっとも、開き直って車内にあるものは全てかっさらう勢いで楽しめば良いかと頭を切り替えている辺り、女帝らしさが出ている。

 

「まぁ、今更言っても詮無き事、か。一夏、篠ノ之さん。取り合えず楽な姿勢にしようじゃないか。状況を楽しむ事も、一つの成長だと思えば良いだろう」

 

 そう言って、センクラッドは革張りのシートに深々と体を預け、左手で持っていたシャンパングラスの中身を飲み干した。

 暫くして、二人はおずおずとセンクラッドと同様に体を預けると、やがて大きな息をついてリラックスし始めた。リラックス通り越してグッタリしているが、敢えてそこは指摘しない大人組+1名。

 庶民組からしてみたら、こんな乗り物には縁が無いのが普通なのだ。いきなり放り込まれもしたらこうもなる。それに、前日の夜になって日本から通達があったせいで、一夏と箒は状況をまるで把握しないまま此処に居るのだ。責めるのは酷というものだろう。

 ちなみに、センクラッドは、IS学園から浅草に向かうまでにシャンパンを一人で空けたり、ナノトランサーからビーフジャーキーを取り出して皆に分けていたりと、なかなかの適応力を発揮していた。完全に開き直っている。

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