IS BURST EXTRA INFINITY   作:K@zuKY

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02.:後悔と住み込みと

 実のところ、センクラッド・シン・ファーロスこと神薙怜治は絶賛大後悔中だった。

 本名ではなく、グラール太陽系で悲惨な目に遭った実験体時代のコードネームを使ったのは、地球に馴染みが余り無いグラール太陽系の言葉を組み合わされていたものだから、というものが大きかった事と、前回の時空移動の際に魂が分離し、その魂がどこぞのサーバー上に放り込まれてしまった事故の際、そしてその後に辿りついたハズレの地球で本名を使った結果、余り良い事にならなかった為、という二つの理由があったのだが。

 

「……このように、グラール太陽系とは三つの惑星と一つの太陽で構成されており、緑豊かなニューデイズ、地球に近いパルム、不毛の惑星モトゥブと言う――」

 

 IS学園などという馴染みの無い言葉に、今回もハズレだというのは覚悟していたのだが、まさかインフィニット・ストラトスとか言うパワードスーツのせいで女尊男卑な世界になった地球で、グラール太陽系の説明をするハメになるとは思わなかった。

 

 どうしてこうなった?いやいや、どうしてもこうなったんだろうよ、俺が記者会見という言葉を安易に使ったからな。初回ワープアウトの際は、ワープアウト中の事故で肉体と精神が切り離されて、記憶をトバした精神体になってバトルロワイヤルとかわけのわからん状態になっていたし、それを勝ち抜いて元の肉体に戻ったら戻ったで、そこに在った地球では良く判らん化け物が地球を席巻していたから問答無用で交戦状態になった挙句、気付いたら極東支部のエースとか言われてしまっていたし、今回ようやく地球外生命体として華々しくウソデビュー出来るからといって、調子ブッ扱いて記者会見マダーとか言わなければ良かった。

 

 と、この駄目男、本気で後悔していたりする。

 

 ちなみにこの駄目男、記者会見の最初にて、オレンジジュースを舌で味見して「コレは……毒かね」と真顔で聞いて大混乱に陥らせた馬鹿でもある。

 勿論その直後に「冗談だ。それに、大抵の毒は無効化できるから大丈夫だ」とフォローになってないフォローを言っており、小休止中に千冬からこっ酷く叱責されていたりする。

 その時点で千冬は敬語を使うのをやめた。やめさせられたのもある。センクラッド曰く、「敬語を使われる奴は、大体怪しく見えるし、何だかお前さんは敬語が全くもって似合わない。むしろ使われる側というか女帝ぽいというか」と。

 故に、千冬は敬語を使うのをやめている。使うのやめるを通り越して何時もの傲岸不遜になっているが、センクラッドは別に気にもしていない。気にしているのはむしろ、今後の利用価値云々を考えている連中の方だろう。

 

 閑話休題。

 

 説明文を脳内で作成し、自身の神経ネットワークからダイレクトでスクリーンに投影する技術を提供する事は、文明的格差がどーのこーのという事にして、ポンポンと脳内文章と脳内絵をIS講堂内の巨大スクリーンに投影しながら解説をしていく作業をただひたっすら行っていた。プロジェクター要らずな体は本ッ当に便利だなぁ、アラガミになって良かった良かった、と現実逃避していながらだが。

 自身がわからない質問には門外漢と言い張り、言いたくない事は在りもしない機密や惑星法で貫き通し、観光的或いは浅い質問にはサラっと返すという手法を用いて疲労困憊になりながら説明を終えたのは、なんと夜の20時過ぎ。この世界にワープアウトしたのが12時丁度だから、都合8時間も拘束されていた事になる。

 さぞアップロードサイトやテレビは大盛況だった事だろう。ここまでフレンドリーな異星人(偽)は他に居る訳がない。

 外見も割かし整っていて、忌々しくて禍々しい眼帯を強制的にかつ一生着けなければいけないお陰でミステリアスかつデンジャラスな雰囲気を醸し出しているだろうさ。

 更にブラックユーモア溢れるジョークも言えて、漫画やアニメに出てきそうなトンデモ技術を引っさげての御開帳ときたもんだ。

 こんなに好条件が揃っているのなら軒並み視聴率も取れてスポンサーはウッハウハ、低迷しているであろうテレビ業界も大歓喜だろうから、俺に感謝してジュース奢れ。9杯で良いから!!

 

 もう時既になんというか、この通りの馬鹿であった。

 

「お疲れ様」

 

 控え室のソファーで両手両足を投げ出してグッタリとしているセンクラッドに、苦笑しながら冷緑茶が入ったペットボトルを渡す千冬。

 パキリパキリともどかしげに、だが、かったるそうに開封していく様子を見、からかいも含めて千冬は言った。

 

「記者会見中に呑んでいたオレンジジュースとは違う味だろう。苦いが、それは毒ではなく緑茶というものだ」

 

 片眉だけを器用に上げながら、音を鳴らして飲み干すセンクラッドを見、思わず苦笑した。最初逢った時は触れてはいけない刃の様な雰囲気や瞳をしていたのに、今やコレだ。

 ……いや待て。自分もブリュンヒルデとして初の記者会見に望んだ後の時はこうだった気がする、と思い出した。思い出してしまった。

 弟に見られない事を良い事に、こいつぁ同類だから問題ないと無意識で認識してしまった為か、思い出してしまった数々の黒歴史にウオオォォオオと声にならない苦鳴を器用に無音声で漏らす千冬。

 それに気付かずにペットボトルを口で固定して手を離してソファーに首を預ける急角度の状態でゴッキュゴッキュと飲み干しているセンクラッド。「毒だろうが薬だろうが、俺は何だって飲んじまう漢なんだぜ?」とでも言いたいのかお前は。

 

 もう時既になんというか、この通りの馬鹿が、この通りの馬鹿共になった。

 

 飲み干したペットボトルを口から外し、漏れ出そうになるゲップを我慢して千冬に視線を戻すセンクラッドと同時、苦悩と懊悩を黒歴史として封じ込めて精神状態を戻し、いつものクールビューティへと戻る千冬。

 互いの痴態が見えてなかった為、この時は精神的優位はお互いに全くといって良い程無い状態だったのにも関わらず、それを知らないので非常かつ微妙に気まずい雰囲気となっていたが、それを打破するのが我らが主人公、センクラッドである。

 

「あー、その、なんだ。大丈夫だ」

 

 この時、センクラッドは悪くない。

 センクラッドは疲労困憊の余り自分でも良く判らない奇行に走っていた為に出た、いわば自己弁護の言葉であり、自身にも言い聞かせるように呟いたのである。欲を言えば、『大丈夫だ』ではなく『もう大丈夫だ』と言えば良かった位だ。

 が、そう受け取れない人物も居る、というかこの部屋には一人しか居ない。

 まさか、見られていたのか!?と、万人から見たらお前は一体何を言っているんだ、という事実を指摘された気がして愕然とする千冬。

 俯き、暫し言葉を選ぶ為に間を取り、当たり障りの無い言葉が口から転び出た。

 

「すまない、さっきのは忘れてくれ」

「あぁ、問題ない。この手の事には慣れている。俺も悪かったしな」

 

 致命的に食い違った会話は、訂正される事なく次の話へ飛んでいく筈であった。忘れたい側がスルーするのは往々にしてある事だ。地球側の配慮として此処に記録・記憶装置が一切無くて助かったのは、確実に千冬の方だろう。

 センクラッドは異邦の旅人として、僅かな期間此処に留まるだけなので、もしここの行動が記録されており、何処かの動画サイトにアップされたとしても、比較的ダメージは少ない。対策としては、思い出さなければ良いのだし、元居る世界に戻る為に何度もワープアウトを繰り返すだろうから、自然と記憶も薄れていくだろう。

 だが、千冬は違う。この世界に住んでいる限り、アップロードされでもしたら精神的に死ぬ。社会的には死なずとも、精神的に死んでしまう。何より、大好きな弟から変人扱いされるという、シスコン的な意味で確殺が待っているのだ。

 だから、記録装置だの記憶装置だのがあってもなくても、言質を取りたくなるのも仕方が無いのだろう、きっと。

 

「疲れていたんだ」

「そうだな、俺も疲れていたから仕方ない。気にせずにいこう。それでだ」

 

 もうどうしようもないほど拗れに拗れた話題はそろそろスルーすべきだろう、というセンクラッドの配慮(?)に内心感謝しながら、千冬はどうした?と聞き返した。

 

「俺の宿泊先は、この学園と聞いた。それについていくつか確認をしたい」

 

どうぞ、と応える千冬に対し、センクラッドは若干温度が冷えた声で呟く。

 

「お偉いさんは正気か? 如何に俺が友好的に振舞っているからといって、曲がりなりにも学生ばかりが住んでいる上に、機密しかなさそうな場所にわざわざ住まわせるとは」

「何か裏がある、と?」

「ナンセンスだと言っている」

 

 斬り込む様な言葉に、千冬も冷静に切り返していく。

 

「こちらからも幾つか確認がある」

「大体察しはつくので先に答えておくが、記者会見で言った言葉は全て本当だ」

「つまり、本当にお前一人がこの地球に訪れて、次のワープアウトまでの時間が欲しい、技術提供や交流はしないでも良い、という事か?」

「本来は立ち入るつもりは無かったんだ。そちらが勝手に見つけたので無害をアピールしていただけだ。正直、ここに来る事自体、俺にとってはイレギュラーだった」

 

 イレギュラーという言葉に、聞き返す千冬。ため息をつきながらお茶を催促するセンクラッドに対し、脇にあった冷蔵庫からペットボトルを出し、手渡す。パキパキと開封し、一口だけ飲む。

 

「言葉通りさ。イレギュラー、確か英語だったか。予測していない事態だった。このあたりの惑星の文明Lvは相当に低かった筈だ。だから、気付かれる前に移動しようとした矢先に、いきなり通信が来た」

 

 コレは、半分が嘘で、半分が真実。彼が帰るべき場所は、未だ男性が優位に立っており、未だに一つの惑星内で争っている愛すべき地球だ。

 自分が今所持している宇宙船は明らかにオーバーテクノロジーで、探知されない自信、否、グラール太陽系でも有数のステルス技術を搭載したものに乗っているのだから、自信どころの話ではない。

 それが崩されたという事は、明らかにおかしいと感じたのだ。場所の座標自体は先のワープからして合っている事から、平行移動だけがずれていると確信している。問題は、その修正が機械頼みだという事位か。

 だが、それを言ったら確実に面倒な事になるのは眼に見えていた。なので、センクラッドは嘘をつき続けなければならない。どの世界でも。例え帰れたとしても。

 

「本当ならば無視しても良かったんだが、高出力の反応が数百で点在している星でいきなり先制攻撃されても敵わんからな……」

「ISの事か?」

「あぁそうだ。だから必死にそちらの言語を解読したんだぞ。全く、あの時は生きた心地がしなかった」

 

 これは言語以外は本当の事で、通信が届いた直後にエネルギー探知をかけてみたら、結構な数で且つ、これまた結構な出力がチラホラと稼動開始していたので、実際は違ったのだが、すわっ人型の巨大ロボット軍団がいる世界に転移してしまったのか!?とガチで焦ったのである。

 幾ら防壁や遮断に定評があるシールドラインを使用しているからと言っても、攻撃を受ければ故障や破損する可能性も出てくる。

 故障も破損もオートメンテナンスである程度までは問題ないが、資材がない場合はかなり時間がかかる事がネックだったので、通信という手段を採る他無かった。

 まぁ、これらは半分建前で、本音は友好的な異星人が記者会見してみた、みたいな事をやれるんならやっとくべきじゃね?という、頭が沸いているとしか思えない思考でやらかした事なので、完全に自業自得だが。

 ちなみにこの船だけに限って言えば、センクラッド単体で修復が可能だったりするが、これはまた別のお話だ。

 

「此処からは推測なのだが、技術交流なり何なりは後々言ってくると思うが、それは置いておく。取り合えずガチでソロだった場合や工作員だった場合を考えて、敢えて此処においた、という線だと思うのだが、どうかね」

「――そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「……まぁ、そう答えるしかないだろうな。別にお前さんを困らせるつもりはないから、ここで切り上げておくよ」

 

 センクラッドの発言は正鵠を射ていた。

 どちらなのかを判別する為、一部のISは記者会見時からセンサーのみ限定解除されており、何らかの兆候――例えば、宇宙なら異星人の戦艦、センクラッド個人なら攻撃意思等――が発見されれば、即座に全てのリミッターが解除される様になっていたのだ。

 付け加えれれば、あの場の記者会見にいた人物は錚々たる顔ぶれであった。

 最初こそ一部を除いて決死の覚悟を以って臨んだ記者達のみだったが、徐々に徐々に現役IS搭乗者が集まり、その筋では有名な交渉人が集まり……と、会場の内外には軍事的にも情報的にも凄まじいと形容するに足るメンツが国家問わず目白押しだった。

 ある意味、一人を除いて地球が一つになった記念すべき瞬間だったのかもしれない。

 最も、センクラッドからしてみれば全く意味の無い事だと思っている。どの世界においてもワープに必要なフォトンがある程度貯まり、宇宙船を粒子から完全解凍出来る時間と場所さえあれば即座にトンズラすると決めているからだ。

 今回のワープアウト直後の様な即座に発見されるケースを想定して、ワープに必要なフォトン量の丁度2倍に設定している為、少しばかりこの世界に留まる期間が長くなってしまう。それまでにどうにかして技術交流だの、捕獲だのにならない様な立ち回りが必要になってしまうが、もうどうしようもない位に自業自得な為、次回から気をつけよう、と心に固く誓うセンクラッド。

 当然だがこの男、どの世界にいても自重しないので、厄介事とは無二の親友となるわけだが、それはここでは語るまい。

 既に本日だけで相当の自重知らずを露呈しているのだ。多くを語るのは野暮というものだろう。

 

「――ンラッド。おい、どうした?」

「ン……あぁ、すまん。考え事をしていた。それで、俺の部屋は何処に?」

「言われた通り既に用意している、ついてきてくれ」

 

 そう言われたセンクラッドはソファーから立ち上がり、千冬の先導で目的の場所まで歩き出した。

 控え室から大分歩き、階段を登り、長い廊下をコツコツと足音を響かせながら歩く二人。

 ふと、センクラッドは疑問に駆られた。そういえばここは曲がりなりにも学園なのだから、学生は何処にいるのかと。

 あの控え室から出た瞬間から幾つかの気配を感じているが、姿を見せないということは諜報の類だろう。それとも、コレを課題として出したツワモノがいるのか。

 

「学生は…………あぁ、部屋から出るなと指示されているのか」

「お前はゲストだからな」

 

 質問を口にした後、すぐに気づいた。恐らくは出るなと言われているのだろう、と。無用な混乱は地球側としても望んでいない、というところか。

 ゲスト、ね。と呟き、やれやれと肩を竦めるセンクラッド。

 予想した通りの事だったが、どんな生徒がいるかはきちんと眼を通して見てみたかったのだが、機会は幾つもあるだろうから、今はノンビリと部屋で過ごす事にしよう。

 靴音が止まり、千冬が振り返って鍵を差し出したことで、意外に時間がかかったなと思いながらセンクラッドは鍵を受け取り、ドアを開けて部屋を覗いた。

 

「――あぁ。これ位の広さが丁度良かった。有り難く使わせてもらう。ところで、明日、俺は何をすれば良いんだ?別にここに居ても良いのだが」

「追って政府から通達がある筈だ。それまでは出来るだけ外に出ないで欲しい」

「強制じゃないのか?」

「強制して良いのなら」

 

その言葉に、苦笑をして降参のポーズを取る。

 

「わかった、部屋からは出ないよ。その代わり、この部屋は自由に使って良いのか?」

「勿論、その為の部屋だからな」

「そいつは重畳」

 

 言質は取れた、と思いながら「ありがとう、おやすみ」と言ってドアを閉めたセンクラッドがまず最初にしたことは、徹底的に部屋を変える事だった。

 センクラッドが提示した部屋の条件は、一切の調度品をおいていない広めの部屋だった。

 何故、調度品が無い部屋が欲しかったのかというと、フォトン粒子に変換している、グラール太陽系リゾートコロニー・クラッド6にあった自室を此処に具現化させたかったからだ。

 防諜の為もあるが、やはり自分が使い慣れている部屋の方が何かとやりやすいというのもある。

 明日以降、誰かが入ってきたらさぞビビるだろうな、とニヤリとする様はどう見ても英雄とかそういう類ではなく、単なるワルガキにしか見えなかった。

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