IS BURST EXTRA INFINITY 作:K@zuKY
よって、亡国機業が絡む二章以降は、独自展開+原作イベントとなります。
注:プロットを見直した結果、変更は当初思っていたよりも僅かに留まる事になりました。
大型の360度全方位対応投影型ディスプレイが、会議室と呼ぶにはやや大きめな部屋の中央に鎮座していた。
ディスプレイに対する視認性を向上させる為に、一部の光を除いて電灯は消されている。
そのディスプレイに映っているのは、
『やぁ。お前さんは誰だ』
無人ISと相対しているセンクラッドと、それに付き従っているシロウであった。どうやら記録の再生をしているようだ。センクラッドを真正面からいる鮮明な映像と音声から、このデータが無人IS機に搭載されているものだという事が判る。
空気が遮光カーテンのような重量感を持って、この部屋に降りているのは、何も人の多さだけではない。
今いる全ての人間が、固唾を呑んで、再生されている動画を見守っている。そして何かアクションがある度に、手元にある各々によってカスタマイズされたPCにデータやメモとして打ち込んでいた。それは、人数の多さも相まって、機械がざわめいているように聞こえている。
「確か、この辺りか」
「はい」
出口から最も遠い場所で座っている年嵩の男性が、声帯を押し潰したような声を発し、横に控えていた女性に確認を取った。視線はディスプレイに釘付けになっているのは、此処に居る全ての人間に共通している事だが、この男だけは、その中でも特異な雰囲気と容姿を持っていた。
まず、両目がバイザータイプの義眼で有る事が、真っ先に特徴として挙げられよう。全身を余す事無く鍛えたその体躯は、決してボディビルダーのような筋肉の肥大化によって大柄に見せるのではなく、己の目的の結果として、その体になったというものを見せ付けていた。
また、頭髪は短く刈り込まれており、義眼さえなければ軍人やそれに準ずる職についていてもおかしくはない、穏やかさと鋭さを併せ持つ独特の空気を纏っていた。
男は、王である。ISという人類史上最も急激な変化を要求されたにも関わらず、それを正面から受け止め、飲み干した男は、紛れも無く裏社会と黒い政府や企業達の上に君臨する王だ。
その横に付き従っている黒いスーツに身を包んでいる女性は、まるで一流のモデルの様な長身、豊かなバストにほっそりとしたウェスト、存在感のあるヒップやむっちりとした脚、そして豊かに波打つ金髪と、それらに見合った涼やかな美貌を持っていた。だが、纏う空気は自らの主と同様のそれだ。決して表舞台に立つ事が無い、王の為に裏側で暗躍する存在。それが彼女であり、この場に居る者達の内、約半数がそれにあたっていた。
『本当にやるつもりか? こちらの技術を見せればどうなるか、わからぬ君ではあるまい』
『売られた喧嘩は最安値で買い叩くだけだ。後で高値で売りつけてやるがな。それに服代の請求もせんと。あぁ、シロウは手を出さないで良い、この程度、俺一人で十分だ』
「止めろ」
即座に映像の再生を中止されたのを見て、男は周囲にいる者達へ言葉を投げかけた。
「どう思う?」
右手側奥にいた女性が手を挙げた。男は発言を許可すると、立ち上がって、
「先にあった記者会見とこちらの映像を照合にかけた結果、両者共に翻訳機を使用しての発声ではありませんでした。よって、センクラッド・シン・ファーロスとシロウにつきましては、言語能力が極めて高い種族だと判断致します」
その言葉を発し終えてから五秒が経過すると、男は次へ促した。五秒の間に誰かが意見を出さない場合は先へ行くのだ。
「判った。次に行け」
それぞれが持つ事実に齟齬が無い事を検証しながら、作業は進んでいく。
しかし、その作業がすぐに止まった。理由は、無人ISに攻撃する直前のセンクラッド行動と言動だ。
センクラッドは一度ISから視線を外し、空を見上げ、もう一度ISに視線を戻し、
『誰だと聞いて黙っているのは、まぁ、無人機だからという理由にしておくが。取り合えず、視ているお前さんに伝えておこう――』
「止めろ」
即座に映像を中断させ、男は此処にいる全ての者へ疑問を投げかけた。
「どう思う?」
先と同じ言葉に、しかし、それに答える者は誰一人としていない。有り得ないのだ。最初から無人機だと見破り、遠隔操作している者へ呼びかける事は、通常の人間では絶対に不可能だ。カマを掛けるのでもなく、淡々と事実を話しているとしか思えないセンクラッドの言動と能力は、常識の外のものであり、いっそ不気味でさえあった。
「推論を許可する」
滅多に出ないその言葉に応じたのは、ミディアムヘアにカットされた金髪に、絵に描いたような好青年に10年程度の歳月を足したような男だった。その者は、表舞台では余りにも有名な人物だ。その名は――
「デュノアか……述べよ」
表向きは彼の代で傾いたと言われているデュノア社の社長その人である。温和そのものという顔の造りはそのままで、
「まず、先に正しておきたい事が一つ。彼らを我々と同種と見ている点です。解剖でも出来るのならば別ですが、基本的には彼らは我々が知るあらゆる法則を覆す、という前提で進めさせて頂きます」
その内容と声は驚くほど怜悧だった。だが、その発言からは些かの驚きも生まれず、むしろ納得するような空気を生み出し、物理的な重ささえある空気を緩やかに動かしていた。五秒程経過し、男は次を促す。
「続けよ」
「この後の映像で彼は自身の腕におよそ2000度前後の炎を宿し、素手で重金属タイプの装甲を砕き、対冷熱ケーブルを溶かし、綺麗にコア以外を破壊しました。その事から骨格、及び筋組織は通常重力生活可能ラインよりも9倍以上の強度と柔軟性を持ち、指向性バイロキネシス、及び耐熱皮膚を持っているものと推測されます。また、先の記者会見ではインターネットに常時接続している事を彼自身が述べていた為、彼は電流を扱う意思言語の読み取り、つまり電子ネットワークに介入する能力もあると見て宜しいかと」
そう言って一礼し、着席をするデュノア。誰も声を発さない。それだけ予想の外にある発言だとも言えよう。
しかし、誰も彼を非難する事や、否定する事も出来ない。
以前にも似た様な事が有った。ISが世界へ発表した直後に開かれた会合で、殆どの者達がISを否定したのだが、彼はISが浸透する理由を幾つも挙げたのだ。その時は、彼の意見をその大多数が一笑に伏そうとした。
だが、それは王が考えていたシナリオの一つに的中していた為、その発言は大きく取り上げられ、結果としてこの場に居る者達はその恩恵を有形無形で受けている。
故に、今回もそうではないか、と考える者達は少なくは無い。
デュノア社は彼のせいで傾いたと言われているが、それは彼自身が撒いた種の一つを自ら芽吹かせた結果に過ぎない。ラファールが再誕したように、彼があらゆる変化を的中させ続ける、その千里眼が曇らぬ限りデュノア社が潰れかけようとも、実際に潰える事は無い。
彼の発言から五秒直前になって、一人が手を挙げた。
「補足という形で良いなら」
王の横に居る美女が、そう発言すると、数瞬、ざわめきが入ったが、すぐにそれは沈黙へと変化した。幾つもの実働部隊を束ねる彼女が話の進行や確認以外で言葉を発する事自体が珍しい。基本的には、上から下される戦略的命令に従ってプランを組み上げて命令を下す事のみに終始している彼女だが、この場での発言は実に数年ぶり、とある作戦のキーパーソンを誘拐する際に怪我を負わせるか否か、その確認のみであった。
「ミューゼルか。良い」
「センクラッド・シン・ファーロスが浅草へ観光に行った際、織斑千冬とその弟へ家族について追求しかけましたが、その発言の直後、二人が反応する前に訂正を入れたとの報告が上がって来ております。人の思考も読み取れる可能性もあるかと」
ざわり、と空気が戦慄いた。まさか、という声も上がるが、それよりも早くデュノアが手を挙げていた。
「確認ですが、生体電流を読み取る可能性も視野に入れるという事ですか、ミューゼル?」
「その通りよ。電子ネットワークに介入出来るとするならば、そちらも疑った方が良いわ。彼は普通じゃないのでしょう?」
「成る程、貴女が言うのなら、それは限りなく事実だと思えますね。私は、彼女の私見を支持致します」
そう断じたデュノアの表情は、何時もと変わらぬ穏やかなままであった。
ミューゼルと呼ばれた女性も艶然とした雰囲気を崩さず、むしろ胸を張って佇んでいた。
「続けよ」
男がそう下した事で、センクラッド・シン・ファーロスの備考欄に、今までの『事実』が追加されていく。
そうやって、検証と推論を交えた会合は続き、最後のシーン、つまり、センクラッドが無人IS機の砲台を蹴り上げた直後のシーンに入った。
手を挙げたのは、デュノアやミューゼルではなく、黒髪を無造作に後ろで束ねた、陰鬱で神経質そうな顔の造りをしている青年だ。
人嫌いで会話を嫌う彼が手を挙げた事に、周囲は驚きの表情を浮かべ、注目していた。倉持……という言葉が誰かの口から転がり落ちた。
「此処を見てくれないか」
そう言って倉持技研の若き鬼才は、中央にある投影型ディスプレイに手を伸ばしながら指で広げる仕草をすると、センクラッドがビーム砲を掠めるようにしてかわしたシーンへと進み、彼の服装と皮膚がビーム砲に反応して赤い膜を作っている部分をクローズアップした。
「高熱量のビームに反応してシールドを張っている事から、彼自体には攻撃を通す事が可能だよ。自身が纏う炎よりも高い数値ならば、という条件がつくけどね」
「どの程度の攻撃ならば?」
スコールがそう聞くと、不機嫌そうな表情のまま、少年にも青年にも見える年齢不詳の男が、虚空で何かを描いた。
すると、甲高い電子音が各自のPCに鳴り響き、それを見るや否や、呻き声があがった。スコールは僅かに眼を見開いただけで、また直ぐに表情を戻した。
「確認するけど、貴方の予測最大値がこの数値という事?」
「予測最低値だよ。君が言ったんだろ。どの程度って。だから僕は最低限の数値しか出していない。今までの速度や攻撃、無人ISのリアルタイムでの損害報告(ダメージリポート)があったからこそ、ここまで予測出来たとも言えるけどね。彼女様々だよ、本当に」
隠そうともしない、悪意を伴った言葉は、恐らくこの場にいる殆どの者達が大なり小なり持っているものだ。思惑がどうであれ、彼女が提供しているデータや映像があるからこそ、今回の会合を開催したと言っても良い。
だからこその、悪意なのだが。
「それと、この直後、彼は空間に力場を発生させて、自身を固定化している。パッシブ・イナーシャル・キャンセラーともアクティブ・イナーシャル・キャンセラーとも違う、まさしく正体不明の力場。現存する計算式のどれにも当てはまらないものだった。空は飛べないかもしれないけど、これを何度も出せるのなら、空を走る事は出来るだろうね」
まぁ、実際やってもらわないとわからないけどさ、と付け加えた彼は、何処までも苛立っていた。科学から真っ向対立するような、魔法のような技術を見せ付けられるのはこれで二度目だ。一度目はIS、二度目は異星人。
ただ、苛立ちもあるが、実際にはそれ以上に探究心が渦巻いている。どうやったら再現できるのか、今の彼にはその事で頭が一杯なのだ。だから、他の事に割けるタスクは殆ど無いに等しい。それは例えIS学園からの新型機の要請だろうとも、王からの命令だろうとも、彼を動かす理由にはならない。彼の目的に沿った命令や指令が出せない限り、この男は絶対に動かない。文字通り死んでも聞かないのが、彼なのだ。
「それで、僕から皆に質問して良いかな?」
皆と言いながらも視線は王に向けて、言葉を放り投げた倉持の全身を、殺意が全方位から突き刺したのだが、それを意に返そうともしないこの男の肝は相当据わっている。或いは、鬼才故に、そんなものを歯牙にもかけないタイプなのか、或いはその両方か。
義眼でじっと見つめられても揺るがない彼に、王はゆっくりと頷いてみせた。
「彼の扱いをそろそろ判断して欲しいんだよ。ファースト・コンタクトからもう一ヶ月以上も経っている。このままでは埒が明かない。静観するにせよ、こちらから接触を図るにせよ、なんにせよそろそろ一度動くべきだと思うんだけど」
この場に居る全員にそう問いかけているが、実際はただ一人、王に向けての言葉だというのは誰もが理解している。理解しているが故に、その不遜な態度に、周りが苛々させられているのだが。
「やれやれ、倉持の鬼才は白黒ハッキリつけたがりますね。彼が単独で来ている保障が何一つとして無い以上、賭ける事は出来ませんよ」
「デュノアの意見は静観って事だろ? そんなのは知ってるさ。ミューゼルが意見を持たないのも何時もだから良いよ別に。僕が聞きたいのは、この映像を3回も眺めて、頭付き合わせて出た結果は、以前と同じなのかって事」
「私は以前と変わりなく、静観ですよ。ミューゼルの話を聞いて、少し検証したい事が出来ましたので。静観している間は、一方的ですが協力は受けられていますしね」
「アレを現時点で制御出来るとは思えないけど。今後も彼女が攻撃をしたら、人類の総意と見なされる可能性だってあるだろうに。それに、アレとは絶対に相容れなくなるのは判っているだろう?」
人類史上最大級の天災をアレ扱いした彼に、苦笑して首を振るデュノア。可能性の話ならば、現時点で行方が掴めない篠ノ之博士やあの異星人を捕える事は可能だろう。だが、今の技術では不可能に近い確率だ。彼女がその気になれば此処を特定する事だって可能だろうし、あの異星人の場合はISを駆使しても捕獲出来るかどうかすら危ういし、捕獲したところでその技術をどう物にするかが問題になる。そんな状態では手を出す方が自殺行為だ。故に、デュノアは首を振る。
そして、そんな状態に陥っている事に、誰よりも苛立ちを感じているのが、倉持技研の鬼才だ。
「落ち着きなさい、二人とも」
宥めるように言ったスコールの表情も、まさしく苦笑であった。一見すると激しく遣り合っている二人だが、実際にはこれはコミュニケーションなのだという事を知っている故に、他の人間よりは比較的静かな心境で見ているのだ。
これが知らない相手であったら、価値があろうとも即座に射殺体になっていただろう。
「提案があるのだけど、宜しいかしら?」
「どうぞ」
スコールの口調が若干砕けた風になっている事を受け、倉持が面白くもなさそうに答えた。これが丁寧な口調であったのなら、王に向けての言葉だという事がわかっているからこそだ。
「なるべく早い段階で、私が直接コンタクトを取るわ」
空気が固形化した。千里眼も、鬼才も予想はしていなかったようで、驚愕の表情を浮かべて固まっている。一人を除いた全ての者達が、同様のそれを浮かべていた。
あら、と首を傾げたスコールは何処か面白がるように、
「予想して然るべきだと思っていたけれど、そうでもなかったのね」
「君自身が動くとは思わなかったんだよ。代わり(スペアパーツ)が無いのに、動かれると面倒になった時に対処しにくいだろう? どうせならエムを使ったらどうだい?」
「今は、少しマズイのよ。あの子、ニュースで見ちゃったから」
誰のニュースなんて言われずとも理解している。実際、この話は彼もある意味他人事ではないのだ。故に、エムが今どの状態に居るのかを理解した鬼才は、舌打ちで手打ちをした。
デュノアは構わないよ、と頷いた。実際この場で戦闘力のみを図るのなら、スコールを凌ぐ人間は数人もいない。彼女が下手を打つことは万が一も無いし、打ったら打ったでそれすらも利用するのがデュノアの役割だ。今までもそうしてきたし、これからもそうするだけだ。
「言っておくけど、一度コンタクトを取ったら、確実にその姿はデータとして採られている可能性があるって事、忘れていないよね?」
最初の記者会見で、スクリーンに自身の記憶からグラール太陽系星図や景色を投影した手法を指した言葉に、勿論と頷くミューゼル。
「で、接触してどうするのさ? 協力を仰ぐのか、技術交流を望むのか」
「それは彼の出方次第ね。少なくとも、敵対はすべきではないでしょう?」
当然の回答が、確認の為の手順で有る事を見抜いているミューゼルに、なら良いよ、と手を振って答えた。
それから時が5回刻み、王が口を開いた。
「では最後に。無人機のコアについてだが……ミューゼル」
「2つのコアはIS学園の最深部、Lv4エリアに秘匿、解析する事が織斑千冬の提案により決定、移送する時間帯は明日の午前3時過ぎに行われます。また今回の騒動は緘口令を敷いており、どこからも漏れるような事は物理的にありえないとの事です」
言外には、口封じを含めているという事を示唆しており、その言葉は予定調和の響きが込められていた。
この場に居る全ての者達が、当然だという想いを持っており、次いでの言葉も大して驚きはしなかった。
「尚、IS学園側の声明では、国籍不明の正体不明機2機がIS学園を襲撃、グラール太陽系星人と協同してこれを撃退、と」
予想した通りの流れだった為、誰も何も物言いがつくことは無かった。それは王とて同じ事。
表情に変化も揺らぎも無い王に、ミューゼルは一礼して報告が終了したという事を示した。
「今回はこれまでとする。IS学園に関してはデュノア、異星人に関してはミューゼルに一任する」
立ち上がって王が体を翻すと、その場から消えるように居なくなった。ホログラフだったのだが、皆はそれには驚かない。ISの技術の御陰で、様々な新技術が生まれ、既存の技術でさえも底上げされているのだ、今更驚くような者はいない。それに、王が直々に姿を現す事等、ISの発表以降は滅多に無いのもある。
こうして、姿形を変えて人類の歴史を紡いできた者達の、幾度目かの会合が終わりを告げる。
だが、これが終わりではない。
王が決めた二つの事、それ以外を決めるのは、今からなのだから。
今北産業+何処が変わったのか知りたい人向
・地位が低い楊さんこの場からリストラ
・今後のオリジナル展開への伏線
・王とスコールとデュノアと倉持以外全員ガヤポジ