IS BURST EXTRA INFINITY   作:K@zuKY

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お久しぶりです、インフルから回復しました。


31:平穏と模擬戦

 無人機騒動から少しの時が流れた。

 センクラッドの周囲で変化が起きた事を挙げるならば、IS学園から何処かに移動する際は千冬か真耶、ラウラのいずれかがほぼ必ず付いている事、これによって気が向いた時に外に出る事が不可能になった事、この二点だ。

 IS学園全体の変化と言えば、破損及び戦闘区域となった第3アリーナでは未だに授業に使われていない事と、センクラッドに対する有形無形のサポートが付いた事による、様々な意味での授業効率の低下が挙げられるだろう。

 これに関しての対策は、第3アリーナのBピットを突貫で修復作業している事と、教師陣による授業の見直しや生徒会の増員を決定した事でどうにか平常時の効率に戻りつつあった。

 もう少し違った変化をあげてみると、1年4組代表の更識簪と1年5組代表のラウラ・ボーデヴィッヒの授業の欠席率がやや目立つ事だが、語弊を恐れずに言えば、彼女達は既に現役で有る事に加え、その知識も三年次以上は持ち得ている為、余り問題ではない。

 1年3組にフランスのデュノア社から出向してきたシャルル・デュノアの方が、大事となっていた。何せ人類史上2人目の男性IS操縦者なのだから。

 今年は企業にとっても、国家にとってもIS学園にとっても豊作の年で有る事は間違いない。

 男性初のIS操縦者にしてブリュンヒルデの弟、1組代表織斑一夏。

 織斑一夏の幼馴染であり、ISを単独で発明した篠ノ之束博士の妹でもある、篠ノ之箒。

 同じく織斑一夏の幼馴染であり、たった1年という短い期間で中国代表候補生まで上り詰めた才気の塊、2組代表凰鈴音。

 デュノア社から出向してきた、人類史上2人目の男性IS操縦者、3組代表シャルル・デュノア。

 15歳という若さで日本代表候補生になり、単独で専用機を組み上げようとしている生徒会長更識楯無の妹、4組代表更識簪。

 ドイツ軍IS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』隊長にして、グラール太陽系星人デューマンのセンクラッド・シン・ファーロスを護衛を担当している、5組代表ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 代表候補生クラス、或いはそれ以上の価値を持つ者はこれ以外にも居るのだから、人類全体で見て有益で、有用な一年になるのは間違いなかった。

 尤も、それはセンクラッドにとっては何の意味も為さないものだったが。

 

「――それで、千冬、真耶さん。大丈夫か? どうしたんだ一体」

 

 そう言いながら、シロウに疲労困憊という状態に陥っている千冬達教師陣に割と特殊な用途で用いられている御茶を出す様に指示するセンクラッド。

 この状態の彼女達を見かけたのが、久しぶりに授業風景を見学させて貰いたいと打診した際の事だ。

 ボロッボロになっている彼女達を見て、日を改めようかと提案したのだが、むしろ構わず授業を観覧して欲しいと懇願されてしまった為、その勢いに押された事もあり、頷いてしまったのだ。

 ただ、そんな状態で授業と言われても生徒達も困るだろうと予想をつけたセンクラッドは、シロウに栄養増強用の御茶を出すように指示したのが、さっきだ。

 

「襲撃事件が公表されてから、IS学園に対して責を負わせようとする者達が多くてな……」

 

 青息吐息と言った感じの千冬。実際彼女達は最近まで殆ど休みが取れていない状態であった。

 センクラッドに対して会談要請が引っ切り無しに来ていたのは、単純に心配していたというアピールだけではなく、技術交流をどうにかして漕ぎ着けたいという透けて見えている思惑も多分にあった。

 巧い事それらをかわしつつ、逸らしつつ、時には恫喝めいた対応をして世界各国の政府やジャーナリスト達を追い払いながらも授業に不備無く滞りもなく進め、第3アリーナの修復で発生しかけていた業者間の癒着を阻止し、センクラッドの護衛を交代で行いつつ、人類史上2人目の男性IS操縦者シャルル・デュノアの受け入れ先や、部屋割りの変更等を行っていた為、正直2人とも限界ギリギリであった。

 真耶なんぞ口から魂が抜け出ている。

 

「……『IS学園襲撃される!! 目的はグラール太陽系親善大使か!?』これか」

 

 試しに電子世界へ飛び込んで検索してみると、ニュースサイトでのトップはセンクラッドの言葉通りのものだった。

 様々な予想が立てられており、センクラッドが唇を歪めてしまったのは、ISの存在意義を危ぶんでの襲撃、星間戦争を引き起こして女尊男卑の世界をリセットさせる為等の文言だ。幾らなんでもそれは無い。

 

「ファーロスさんは、一体どうやってインターネットを閲覧しているのですか?」

 

 シロウから御茶を貰い、魂と共に口の中に流し込んだ真耶は一息ついてから、そう質問した。

 サラッとセンクラッドは、

 

「前にも言っていた通り、電波を拾って網膜に投影してるだけですよ?」

 

 とだけ返した。実際はもう少し手順があるが、大体あっている為、上のような言葉になったのだろう。ただ、そう言われてもどうにも理解が出来ないという表情をしている2人には難しいハナシだったようで、うーんと唸ってしまう。

 そんな2人に、

 

「ISにそういう機能は無いのか?」

「インターネットを閲覧する機能は無いな。ところでセンクラッド」

「何だ?」

「どうして山田君には敬語なんだ?」

 

 そう言われると、気になってきたのか、真耶もアレ、そういえばという表情でセンクラッドを見詰めた。

 センクラッドに他意は無い。敬語をやめるタイミングを逸したから、としか言い様が無い。

 その事を正直に話すと、手をパタパタとさせながら真耶が、

 

「え、大丈夫ですよ、敬語じゃなくても。ファーロスさんの方が年上ですし」

「なら、そうさせて貰おうかな。あぁ、そうだった。コレを喰ってくれ」

 

 そう言ってナノトランサーから取り出したのは、小さな棒状のお菓子だ。

 

「ええと、ファーロスさん、これは?」

「強いて言うなれば、増強剤だ」

「……増強剤?」

「グラール太陽系で販売されている、肉体疲労時の栄養補給を目的として作られた薬だ。効くぞ」

 

 いや、効くぞと言われても……と戸惑う真耶だが、迷う事無く千冬がそれを紅茶で飲み下したのを見て、

 

「せ、先輩!?」

「どうした?」

 

 いえ、どうしたって……と絶句しかける真耶だが、遠慮していても好意を踏み躙ってしまうと思い当たり、恐る恐る口にすると、芳醇な香りと程好い食感と甘さだったので、思わず表情を綻ばす真耶。紅茶にも合う事で全身の疲れが外へと抜け出ていく感覚が発生していた。

 

「暫くすると、大分リフレッシュしている筈だ。あぁ千冬、一応言っておくが善意だからな? あと、流石に俺やシロウが作った物じゃなくて、市販品だからな?」

「……よく言おうとした事がわかるな」

「お前さんが言いそうな事は、大体ならもう判る」

 

 他意の無い発言にも関わらず、僅かながらも動揺したのは千冬だ。まだあの誤解を引きずっているのだが、他の3人は気付いていない。

 

「まぁ、お前さん達が忙しいのはネットを視て大体把握した。疲れた時は此処に来ても構わん。シロウの茶は旨いからな、少しだけでも疲労を和らげる事が出来るだろう」

「確かに、あの旨さは生徒会で淹れられているものと比べても同等以上のものがある」

「――ほう」

 

 この時、千冬の発言は全くと言って良い程、どちらも貶める事も無く、極めて正確な評価を下している。

 問題があるとすれば、その言葉に琴線が触れてしまったシロウにあるだろう。

 ちなみにこの瞬間、言われた本人は背筋に多大な悪寒を感じ、誤って楯無が差し出したカップに……ではなく、差し出した手首に向けてジャバーっと紅茶を注いでしまい、楯無の「ぎゃぼーーー!?」という珍妙な悲鳴を聞いてから我に返り、平謝りするという珍事に発展していた。

 

「それは一度、競い合ってみたいものだ」

「競い合うってお前さん……それは何か、ロビンに負けた腹いせにしか聞こえんな」

「それは違うぞマスター。同じ材料ならば私の勝ちは揺るがなかった。それに、私に匹敵する程の御茶を淹れられる者が居るのならば、やはり知っておきたいのが道理だろう」

「まぁ、理由あれこれつけてもお前さんの敗北は揺るがないんだがな」

 

 センクラッドの容赦ない言葉にぐぬぬ、と呻くシロウに、やや呆れながら千冬が、

 

「あーシロウ、本日か明日にでも生徒会とも引き合わせる事となっているから、それまでは我慢して欲しい」

「判った」

 

 襲撃の件でも話を通しておかねばならないし、護衛に関しても同様だ。故に、センクラッド達と楯無達を引き合わせる事になるのは千冬も判っていたが故の、言葉だった。

 

「で、そろそろ始業チャイムが鳴ると思うのだが、俺達は一緒に行っても良いのか?」

 

 という、暢気なセンクラッドとは裏腹に、さっと顔色を変えて腕時計を見る教師陣。

 時刻は朝の8時14分、否、15分になり、チャイムが鳴り響いた。完全に遅刻だ。

 慌てて出て行く2人。

 いきなり静かになった空間に、ぽつりと低音美声が流れた。

 

「廊下は走らないと教本に書いていたような」

「教師陣にとっては今が非常時なのだろう。私達も行くぞ」

「あぁ、行くか」

 

 こちらの2人はのんびりとした足取りで1年1組へと向かっている。

 道中、教室から夥しい数の視線を受ける度に、辟易とした風にシロウが、

 

「君は良く耐えられるな」

 

 と零し、表情管理をオラクル細胞に投げているセンクラッドが、

 

「オラクル様々、と言ったところだ。実際はしんどい」

 

 と返す事で、微妙に羨ましそうな視線が追加されてしまい、取り繕うならお前さんの鉄面皮も同等だろうにと呆れたりしながらも1組に到着し、扉を静かに開けると、予想通りSHRだった。

 

「遅かったなセンクラッド」

「廊下は走らないように、と教本に書いていたからな」

 

 至極真剣な表情でそう返したセンクラッドに対し、やや引き攣った表情をする千冬と、デッカイ汗マークを浮かべる真耶。生徒達は何ぞ?とばかりに疑問符を浮かべていたが、大人達は全てスルーした。

 咳払いをして、授業を再開する真耶を一瞥してから、ナノトランサーから教本を呼び出して続きの頁を捲るセンクラッド。

 

「あ、ファーロスさん」

「ん?」

 

 真耶に呼ばれ、オラクル細胞に命じて外界情報をシャットアウトしようとしていたセンクラッドは、それを中断して視線を真耶に向けた。

 

「ええと、この後ですね、第2アリーナで4組、5組と合同授業をするので、今から皆さん移動するのですけど」

「あぁ、了解した。それで、第2アリーナにはどう行けば?」

「一夏、案内してやれ」

 

 唐突に命令されたせいで、一瞬ぽかんとした表情を浮かべるも、ギロリと千冬から視線をぶち当てられた事で、返事をする一夏。毎回毎回着替えだの何だのになった際に女子生徒達に追い回される一夏にセンクラッドをつける事によってその手の騒動を回避させるのが目的だったのだが、シロウもセンクラッドも、一夏でさえもそんな事の為に指名されたとは夢にも思わなかった。

 

「あぁ、一夏」

「え?」

 

 扉を開けて、案内する為に先導し始めた一夏に対し、ほぼ並行して歩いているセンクラッドが声をかけた。歩みを止めずに首だけを向けた一夏が、

 

「で、鈴音と箒は仲直りしたのか?」

「え……あ。あぁ、多分仲直りしたよ。悪い、言い忘れてた」

「構わんよ。だが、その口振りだと持ち越したのか?」

 

 目を丸くしてその通りだよと肯定した一夏。鈴音と箒、セシリア達の仲は初期の頃の様な刺々しさは抜け落ちたが、好敵手として見たとしても些か険悪な状態で停滞していた。

 まぁ、大体において鈴音のせいなのだが、それをスッパリと改める事は無いだろう。本来の性質は竹を割った様な清々しいそれだが、譲れないものがある場合、話はまた別になる。

 とかく恋愛と言うものは若さが有る場合、極端に視野も心も狭くなるのが道理だ。そういう意味では箒と鈴音は正しく恋する乙女であった。

 ただ、センクラッドからすれば、それを指摘する事は避けたかった。どんな者でも発言には責任が伴う。普段いかにやらかしていたとしてもキッチリと責任だの落とし前だのをつけてきているセンクラッドだが、恋愛のドロドロ具合というか修羅場を知っている為、余りそちらの方での舵を取りたくないのだ。

 特に、今はグラール太陽系親善大使という訳の判らない肩書きがついて回っているのだ。拳1つで無人機を殴殺及び焼殺したり、剣術娘を瞬殺したりというバトル方面ならば技術的肉体的格差云々でカタを付けられるが、恋愛の場合はそうも言ってられない。精神的成長どーのこーのと言ってしまっている以上、間接的にでも関わってしまえば、そこから付け込まれるのは間違いないだろう。

 ……というのが建前で、本音としては他人の恋愛事に首を突っ込んだり巻き込まれたりというのはもう勘弁して貰いたいからだ。

 恋愛に関してのドロドロ具合を何処で知ったかと言うと、アラガミが跋扈する世界で、もう1人の極東支部のエースこと神薙ユウを巡って、恋の鞘当という名の修羅場を幾度も目撃し、ゴッドイーターの先輩であるソーマ・シックザール共々何度も巻き込まれていたからである。

 故に、センクラッドはこの手の問題は、今回は鈍感のフリをする事で回避しようとしていた。前回は自分が思った事を言ったせいで酷い目にあっていたのだ。今回は『いや、自分、人間の恋愛とかよくわからないんで』系で逃げようとしているのである。そんなので逃げられたら苦労しないのだが。

 

「――本当に良い根性してやがったな、あの苗字被りめ」

「へ?」

「あぁ、いや、何でもない」

 

 根本的には気付いている癖に、爽やかな笑顔を振りまいて八方美人でどうにかこうにか切り抜けていたタラシを思い出し、つい怨嗟の言葉が口から零れていた。言うまでも無いが決してそんな人物ではない。

 ユウからしてみたら冤罪だと叫ぶだろうし、ソーマから見たらお前も同罪だと突っ込む事確実だったりする。途中までだが言葉足らずをフォローする人物が居なかったのだ、その結果は推して知るべし、である。

 端的に言えば、直接的な被害者は誤射と女帝、間接的な被害者は女帝の弟とその嫁、及び支部長と博士が被害にあっていた。間接的な被害者達が渋々ながらフォローに回った事で軽減はされていたが、それまでは本当に酷かった。

 そうこうする内に、第2アリーナ用の更衣室に辿り着いた為、一夏は手早く着替え、センクラッドは物珍しそうに、或いは何処か懐かしそうに更衣室を見回していた。

 IS学園は、特殊とは言え高等学校である。然程通常の学校と比較しても、更衣室に関しては然程変わりは無い。更衣室にISが待機状態で置かれているわけはないのだ。単純に着替えるスペースや貴重品を置く為のロッカー等は通常の学校と殆ど同じ物を使っている。

 故に、もう10年以上前になるが地球では高校生だった怜治としては、郷愁に似た感情を胸中に起こしていた。

 

「? どうしたんだ、ファーロスさん?」

「あぁ、いや、珍しいと思ってな」

 

 珍しい?何で?と思った一夏だったが、センクラッドとの会話を思い出し、あぁ、と手をポンと打ち、

 

「そっか、一瞬で着替えられるから必要ないんだっけ」

「その通りだ。ロッカールームというものは殆ど必要無かったからな」

「便利だなぁ。ISにもそういう機能つけて欲しいもんだぜ」

「つけようと思えばつけられそうだけどな。拡張領域に服を放り込めばやれそうだろう」

 

 センクラッドの助言に、お、という表情を浮かべるも、しかしすぐさま肩を落とす一夏。

 

「……あーでも、俺の拡張領域、ブレードで全部取られているからなぁ」

「何?」

 

 一夏の言葉に反応したのはシロウもセンクラッドも同じだが、言葉を出したのはシロウの方だ。

 訝しげな視線を一夏に送り、腕組みをして、

 

「拡張領域にブレード一本しか入らないわけはないだろう」

「いや、ワンオフ・アビリティの方。零落白夜がクソ重いらしくてさ。第2次移行(セカンドシフト)しないでワンオフ・アビリティ発現させた代償らしいけど」

「成る程……」

 

 正確に言えば、本来、ワンオフ・アビリティとは、第2次移行し、第2形態(セカンドフォーム)となったISとそのIS操縦者の相性が極めて高くなった結果として発現するものだ。

 一夏と一夏のIS白式は、まだファーストシフト、つまりISとIS操縦者の最低限度という意味合いでの最適化を施した状態に過ぎない。その時点でワンオフ・アビリティ発現というものは事実上不可能とされていたのだが、如何なる理由か、既にワンオフ・アビリティを発現しているのだ。

 稀代の天災、篠ノ之束博士謹製の機体なのだから、今までの常識を軽々と打ち破ってもおかしくはないのだが、今まで積み上げてきたIS学を引っくり返したそれには、世界各国でも頭を抱えていた。

 まぁ、代償として拡張領域が0になったと考えれば良いのかもしれないが。

 

「まぁ、着替えに関しては手早くやれるように、いつも下に着込むとかするしかないな」

「暑いんだよなぁ……夏は無理そうだ」

 

 その言葉に、確かにと頷くセンクラッド。幾らなんでも真夏の炎天下にもう一枚着込むなんて、誰だってやりたくもないだろう。ISを展開するならある程度の気温調整は可能だが、常時展開なんて出来るわけが無い。規則というものもあるが、国際問題にもなりかねないのだ。

 着替え終わった一夏と共に第2アリーナで待機して3人が話したのは、何の事は無い、近況報告だ。

 

「そういや、千冬姉と親しくなったと思うんだけど、普段どんな事を話してるんだ? やっぱ護衛をどうするかとかそういう話題なのか?」

「そんなハナシ、したことが無いわけだが。どちらかというと愚痴ばっかだぞ」

「え。愚痴? 千冬姉が?」

「あぁ。騒動続きでキッチリ休みが取れていないからだろうな。シロウに強壮剤入りの紅茶やケーキを用意させているが、別方面でのケアも必要だろう。あのままだと胃に穴が空きかねん」

 

 むむむ、と眉間に皺を寄せる一夏。今度美味しい物を作ってもっていって、ついでにマッサージもしないとマズイかな、と考えているのだ。ただ、そこでふと、一夏は有り得ない事に気付いた。

 千冬姉は、他人に愚痴を吐く人物ではない、と。

 一夏はジィィっとセンクラッドとシロウの顔を交互に見詰めた。その視線に気付いた2人は、何だ?と疑問符を浮かべ、

 

「一夏、俺達の顔に何かついているのか?」

「あ、いや、千冬姉が愚痴を言うなんて珍しい通り越して明日は世界崩壊するんじゃないかってさ」

「……そんなに抱え込むタイプなのか?」

「ガチで抱え込むタイプだよ、千冬姉は。俺にも言わない事多いし」

 

 その言葉に、同じく眉間に皺を寄せてそれはいかんな、と呟く2人。シロウとしてはもっと家族を頼るべきだろう、との考えの下、呟いたのだが、センクラッドのそれは意味合いが全く異なっていた。

 

「千冬みたいなタイプは、溜め込みすぎた挙句、一旦タカが外れると暴走するからな、確実、というか絶対に。俺達以外にも愚痴を吐ける相手がいればいいんだが……」

「ファーロスさん、何か実感篭ってるけど、まさか」

「勿論、酷い目にあった事がある」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で、センクラッドは答えた。アラガミが跋扈する世界では雨宮ツバキという女帝が溜め込み過ぎており、それを和らげる相手が居なかったのだ。グラール太陽系でも性格は違えど幻視の巫女がそれに該当していた。

 ただ、千冬にも真耶という愚痴を吐ける相手がいるのだが、最近のストレスの溜まり具合は異星人関連で半端無く上がっており、真耶もまたその被害を受けている為、2人とも余裕が無かったりする。

 その表情のまま、センクラッドは一夏に向かって、

 

「良いな一夏。溜め込みすぎたものが一気に外に出た場合、往々にしてとんでもない事を仕出かしたり、醜聞を晒したりする。色んな意味で姉を護りたいのなら、お前さんが少しでもストレスを和らげる様に動くべきだ」

「やってみるよ。今度部屋に遊びにいこうかな」

「あぁ、それが良い」

 

 と、そこでISスーツを纏った女子生徒達と千冬と真耶がゾロゾロと更衣室側、一部の者達は打鉄やラファール・リヴァイヴ等のISを纏ってピット側から出てきたのを受け、何と無しに口を閉ざす3名だったが、センクラッドがポツリと零した言葉に、無言だが全力で同意する事になる。

 

「毎回思うのだが、無駄にエロいな」

 

 ISスーツ、つまりパイロットスーツの事なのだが、体にピッチリとフィットさせている為、体のラインがモロに出るのだ。しかも布地の面積が割と少なく、故に水着や下着にしか見えない。思春期真っ盛りの一夏にとっては極めて目の毒である。股間の雪片二型がいつ零落白夜してもおかしくないだろう。

 センクラッドにとっては、少なくとも他世界での露出が激しい装備や服装を見てきているのだから、そこら辺は慣れているのだが、やはり目の保養と割り切ることは出来ない。オラクル細胞によって再構成された肉体でなければ、或いは肉体の形状変化に制限を加えるように命令していなければ、大変残念な事になっていただろう。主に前屈みという意味で。この時、初めて心の底からオラクル細胞に感謝していた。

 ちなみにシロウは、露出が多いからお腹冷えたら大変なんじゃないだろうか、と余計な心配をしている。

 一夏含む生徒達が整列し、ISを外して鎮座させたところで、

 

「それでは、授業を始める。各組の代表は前に出ろ」

 

 千冬がそう声を張り上げ、一夏は気を引き締めて前に出た。5組代表であるラウラも堂々と歩む。

 数秒遅れて、少女が前に出た。4組代表なのだろう。ただ、その風貌と感情を視たセンクラッドは、おや、と首を傾げた。

 胸はともかくとして、似ているのだ、以前ちょっかいを出してきた生徒会長に。ただ、造形が似ていても、浮かべる表情と心に浮かべている感情は真逆だった。眉根を寄せて、唇を噛み締めている蒼髪の少女の心には悲哀と絶望と憎悪が入り混じった良くないモノが浮かんでいる。しかも、一夏を視る目や心が、どす黒く、とまではいかないが危険な色を宿しているのだ。どう考えてもトラブルになりかねないそれを視て、溜息を静かに吐いた。

 

「どうかしたかね?」

「――あの子、良くない感じがする」

 

 右の眉を上げて、センクラッドが指摘した女子を見るも、シロウは感情を読み取る異能は持ち得ていない。それでもどこかしらの危うさを感じ取ったようで、ふむ、と一言漏らし、注視し始める。

 

「織斑とボーデヴィッヒは専用機を、更識は打鉄に乗り込め」

 

 その言葉に、更識と呼ばれた少女が微かに顔を歪ませたのを視て、センクラッドは眉間に皺を寄せた。専用機持ちを羨むというよりも、一夏に対する憎悪や嫌悪が強まったからだ。何かトラブルでもあったのだろうか、と思案しつつも、オラクル細胞をこっそりと励起させ始めた。万が一だが、トラブルが起きた場合、即座に対応する為だ。

 同時に、更識楯無の妹或いは血縁者と言う事も推察出来た。

 淡い光と共に、即座にISを展開したボーデヴィッヒ、それからやや遅れて展開する一夏に声が飛んだ。

 

「ボーデヴィッヒは及第点だ。が、織斑、遅い。少なくとも0.5秒程度で展開できるようにしろ」

「は、はい」

 

 万が一生身の時に狙われた際、瞬間的にISを展開出来なければ命を落とすから、だったかな、と教本に書いている内容を思い出しながら納得しているセンクラッドとシロウ。そこから数秒遅れて更識が打鉄を纏ってラウラの隣、つまり一夏と一番遠い場所に待機した事で、センクラッドが抱えている疑問が膨れ上がっていく。左眼の事を疑うわけではなかったのだが、やはりどう考えても一夏に対する態度がおかしいのだ。何かあったとしか思えない。

 専用機持ちでないからか、それとも打鉄を纏う速度が及第点だったからか、千冬は更識には何も言わなかった。

 

「それでは、これより5分後、模擬戦を開始する。3名はチームを組んで山田先生を撃墜する事」

 

 ざわり、と声が上がった。流石に3対1じゃ、と思っているものが多いのだろう。その中で1人、緊張の色を浮かべた者が居た。ラウラだ。IS学園に転入する際、教員や主だった生徒達の戦闘力を調べ上げていたのだが、その中でも抜きん出た腕を持つ者が居た。

 日本代表候補生時代、射撃の腕では世界屈指の腕を持つ女傑、山田真耶。公式記録では敗北数が多かった彼女だが、記録に残らない模擬戦等では、ほぼ無敗という信じられない快挙を成し遂げているのだ。

 同時に、ラウラは気付いた事がある。真耶も護衛の1人であったが、センクラッドに実力を見せていないのでは、と。

 故に、生徒である自分達と戦わせる事で、実力を披露させようとしているのではないか、と。

 それに気付いたラウラだが、別に勝たせようと言う傲慢な事は考えてはいない。IS学園の教師、それもブリュンヒルデの後輩なのだ。そんな考えで戦えば慢心を突かれて瞬殺されるだろう。

 ……瞬殺という言葉でちょっぴり涙を浮かべかけたラウラは首を振って、一夏と更識に手招きをした。時間が無いのだ、5分の間に作戦とまではいかずとも、確認しなければならない事が多い。

 

「ええと、1組代表の織斑一夏だ、宜しくな」

「5組代表のラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「……4組代表、更識簪」

 

 消え入るような声に眉を顰めかけるラウラ。更識楯無の妹にしては随分覇気が無いが、擬態か?と思った為だ。だが、それは後で考えれば良いと思考を切り替え、ラウラは、

 

「織斑は近接戦のみと聞いているが?」

「あ、あぁ、ブレード一本だ。ワンオフ・アビリティは零落白夜、シールドエネルギーを無効化して直接叩き込める……からあんまり使い勝手は良くないと思う」

「……セカンドシフトしたのか?」

「いや、ファーストシフトで使えるように調整されているらしいんだけど、詳しい事は俺も良く判って無い」

 

 頭を掻きながらそう言ってきた一夏。セカンドシフトせずにワンオフ・アビリティを使えるという事が異常なのだが、それを問い質す時間が無い為、一旦脇に置いてラウラは更識に、

 

「更識の得意距離と、武器は?」

「中距離から遠距離までなら、一応……武器はアサルトライフルとアサルトカノン、太刀とヘヴィマシンガン、かな……」

 

 ラウラはほっとしていた。IS学園で行われた組ごとの代表決定戦は動画で何度も見ており、一夏も更識も代表決定戦時の武器を持ってきているからだ。それを踏まえて、2人をどう動かすか、どう立ち回れば真耶に勝てるかを考えていた。

 真っ先にやられる可能性の高い一夏をどう使うか、曲がりなりにも4組代表となった更識の戦力も動画で大体は把握している。

 幾通りのケースから有り得ない可能性の9割を除外し、1割は保険としてとっておき、王道から奇策まで、あらゆる行動や戦術を立てる事2分。

 急に黙り込んだラウラに不審そうな視線をぶつけていた2人だったが、ラウラが1つ頷き、作戦を説明し始めると、驚きの表情を浮かべて聞いていた。

 それから2分後、千冬の号令の下、模擬戦が開始する事になる。

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