IS BURST EXTRA INFINITY   作:K@zuKY

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遅れました



34:生徒会室へ

 ラウラと一夏が弾かれたように声の方を向くと、センクラッドとシロウがそこに居た。シロウは目を細めて一夏達の様子を伺っているし、センクラッドは無表情のままだが、何処か苛立っている雰囲気を纏っていた。2人に苛立っているわけではなく、左眼が発した痛みやら昼食を採るのが遅れるやら、着いた早々に覚えのある気配隠蔽をした誰かさんがこの会話を盗み聞きしている事に気付き、やっぱり来なければ良かったとげんなりしている等、割と別の方面での負の感情が混じった結果なのだが、一夏達にはそう見えない。

 一体何に苛立っているのか、と考えれば、このやり取りを見ての可能性もある為、凍りついていた。

 

「もう一度聞くが、一体何をしている」

「今日の模擬戦での、総括を」

「それにしては、更識簪の姿が見えないが」

 

 声を掛けられ、瞬時に動揺を消し去って淡々と話すラウラに、同じく淡々と返すセンクラッド。今や空気の密度を下げ、重さを付加した雰囲気が、この場にはあった。

 センクラッドは道中フィルタリングをかけ直した左眼で視て、模擬戦前後と比較してラウラと一夏の負の感情が酷く強くなっている事を確認し、何かあったのだろう、と推察していた。

 問題は、何があったかだ。一夏の逆鱗に触れたのはラウラで間違いなく、ラウラも一夏に対して何らかの想いがある。敵意や憎悪が互いに向き合っている以上、そう考えるのが自然だ。

 ただ、一夏とラウラの接点を知らないセンクラッドからしてみれば、この状態は予想外と言わざるを得ない。情報が少ない以上、予測を立て、情報を引き出して仮説を確定させる、という何時もの作業に従事する為、

 

「互いに敵意を向け合った原因は、模擬戦ではないな。もっと決定的な何かだ」

 

 先ずは断定した。

 すると、ラウラが表情を改め、さりげなく一夏の腕を外して、

 

「込み入った事情がありまして」

「事情?」

「えぇ。それも重要な」

 

 言外に、これ以上踏み込まないで欲しい、という情報を乗せた言葉に、センクラッドは苦笑する。まぁ、異星人に教えられない情報等腐る程あるだろう。それに、それ程親しくも無いのだ、教えて貰える義理というものは今現在、存在していないし、存在してはいけない。

 よしんば教えて貰えたとしても、些細かもしれないが、貸し借りに繋がりかねない、という事にも遅まきながら気付いたのだ。

 

「そうか。なら、仕方ないな」

「申し訳ございません」

「構わん。そちらにも事情があるのは考えてみれば当然の事だった」

「感謝します。ただ、1つ聞きたい事が」

 

 左眉を上げて、何だ?と聞き返したセンクラッドに、ラウラは、あくまでラウラの中では穏やかに、だが実際は硬質な響きを伴って、質問をセンクラッドに叩き付けた。

 

「何故こちらに? ここは部屋から相当離れている筈、こちらに来る用件があったのですか?」

 

 その言葉は、裏を返せば来るのが不都合だという事。ただ、それを示してまで知りたいのだろう。現にラウラの瞳は一切の嘘を赦さない光を帯びている。一夏もそういえば確かに、という風にセンクラッドを見ていた。

 幾らなんでもこのタイミングで、ともすれば暴発したであろう一夏を止めるようなタイミングで声がかかるのは流石に偶然とは言い切れないのは確かな事。

 故に、1度、ちらりとシロウを見て1つ頷いてからセンクラッドは情報を開示した。

 

「用件は無いよ。ただ、一夏の感情の乱れが酷すぎたのでな。だから、此処に来た」

「……心を読んだ、と?」

「そこまで便利じゃあないが、大体それで合っている。技術ではなく、俺の能力でな」

 

 淡々と、まるで今日の天気を語るように、自分の名前を告げるように話すセンクラッド。

 だが、その言葉に秘められた事実は重い。離れた場所に居る個人の心の機微を読む、或いは感情を読み取ると言う事は、何処にいても探知出来るという事ではないか。

 その事実に気付いたラウラは、背骨が氷柱へと変化したような錯覚に陥った。紛れも無い未知への恐怖。だが、それをラウラは捻じ伏せる。

 感情を読むのと、記憶を読むのは違う。センクラッドは今話していた内容には一切触れていないのだ。故に、感情を読めたとしても、記憶そのものを読めると思うのは、短絡的だ。それに、センクラッドはこちらに害意を持っていないし、ララウも敵意を持っていない。

 ここで恐れを以って接するという事は、それこそ感情を読まれてしまえば減点対象になるだろうし、親交を深める事もなくなるだろう。

 何より、ラウラの気質がそれを許さない。未知を不必要以上に恐れる事をしないように軍で叩き込まれていたラウラにとっては、タブーに等しいのだから。

 

「それはまたなんとも、便利な能力ですね」

「……そうでもないさ、弊害が大きいからな」

 

 軽くでも情報を開示していくセンクラッドに引っ掛かりを覚えたシロウは怪訝な顔をしてセンクラッドを見たが、黙殺された為、ちらりと一夏に視線を送った。

 表情は酷く強張り、顔色は青く、そして感情を持て余している雰囲気。爆発寸前と言った風な気配を察知し、シロウは眉根を寄せた。少なくとも、模擬戦終了後に見た簪よりも酷い状態だ。こちらを放っておく事は些か拙い事になるのではないか、そう考える程、一夏の表情は酷い。

 センクラッドはそれを把握していたが、視線をやる事はない。オラクル細胞は五感全ての役割を担う事が可能だ。別に視線を合わせずとも状態の確認は呼吸をすると同義でもある。

 ただ、その便利さにかまけて視線を送らなかったのは、少しだけ拙い手だろう。対立している片方に話しかければ、肩入れしていると思われても仕方が無い。

 この時、少なくとも一夏はそう思ったのだ。

 

「まぁ、良い。それで結局2人は、どうやってケリをつけるつもりだ?」

「どちらが正しいか、ツーマンセルトーナメントで証明する事になりました」

「あぁ、良いんじゃないか。話し合いだろうが力だろうが、強い方が勝つのは真理だしな」

 

 言外に、力が無ければどうにもならん、という意味を込めた言葉。それは今の一夏にはキツイ一撃となって胸中を深く抉った。意図せずして歯を食い縛った一夏が言葉を放てず、その場でぎこちなく一礼して足早にシロウ達の横を抜け、校舎へと姿を消した。

 その態度に、ラウラは溜息をつく。判ってはいたが、まだ子供だ。少なくとも、軍という観点から見た一夏は新兵以下でしかない。アレを矯正していくのは相当だと思うと、溜息位はつきたくもなる。ラウラが理想とする千冬と比較しても、まだまだどころか光年単位の距離が開いている。ならばせめて心構えだけでも変わってくれれば、そう願いたくもなるのは仕方の無い事だ。

 

「ボーデヴィッヒさん。期待したり失望したりというのも程々にしておいたらどうかな?」

 

 ぎくり、と身体を強張らせるラウラ。感情を読まれたのだと悟り、意識せず表情に苦味が混じった。ただ、心を読まないで欲しいと願うよりも先に、センクラッドから見た一夏の評価というものに興味がわいた。

 グラール太陽系でたった1人を助ける為に、教団を壊滅手前まで追い込んだ話を聞いているのだ、どう考えているのか、そこが気になった。

 

「ファーロスさんから見て、織斑一夏はどのように見えますか?」

「そうさな……当然だがまだ子供だ。ただ、その分伸びる素地は多いし、鍛え方に間違いが無ければ強くなるだろう。それに、少し前に願いも聞いた。身の丈にあった生き方だと思うよ、俺はな」

「自分に関わった全ての者を守る、という生き方が、ですか?」

 

 不可能だと断じている口調に、あぁ、成る程な、と納得し、隣に居る元・正義の味方を横目でチラリと視ると、予想した通り、苦笑を浮かべて此方を見ていた。視線を戻し、ラウラの感情が不服に揺れているのを確認してから、

 

「ボーデヴィッヒさんは、不満のようだな」

「というよりも、それで足を掬われる可能性がある以上、もう少し違う考えを持って欲しいだけです。もしくは、優先順位をつけられる程度には妥協して貰わないと、周りが苦労しますから」

「俺はそこまで不相応とは思えないんだがな。少なくとも、関わらない者や関わっていない者まで守ろうとする奴よりはずっと良い。なぁ、シロウ?」

「やはり振ってくると思ったよ……まぁ、確かに。正義の味方を気取っていないし、身内を守ろうとするだけなら、まだ可愛げがあるとは思うよ」

 

 意味有り気に、クックックと小さな笑みを浮かべながら話を振ったセンクラッドに対し、苦味を強め、そして肩を竦めて答えるシロウ。そのやり取りに興味を引かれたのか、ラウラは首を傾げて、

 

「過去にそういう人が?」

「いや、私の事だよ。もう少し若い頃に、正義の味方の真似事をしていてね。マスターはそれを言いたかったのだろう。あの時は私も若かったからな」

 

 センクラッドは浮かんでいた笑みを消し去ってシロウをガン視した。本当に言うとは思わなかったのだ。誤魔化すなり何なりするだろうという予想が外れた為、困惑していた。

 ラウラから見れば、皮肉交じりの苦笑を浮かべながらシロウがそう言ったので、警察関係者なのか?と推察し、

 

「えぇっと、つまり、警察関係者だったと?」

「私のやり方は感謝された事も、怒られた事も両方ある、とだけ言っておこう」

「……探偵、もしくはグラール教団員だった、とか?」

「職業当てはご想像にお任せするよ。ただ、今はしがない護衛役だがね」

 

 むむむ、と秀麗な相貌を崩して考え込むラウラを尻目に、センクラッドはジットリとした視線を送った。言葉にするならば「おい馬鹿。何勝手に過去ストーリーでっちあげてんだよ」といったところか。

 対するシロウは皮肉気な笑みに切り替え「先に仕掛けたのは君だろう。それに嘘は言っていない」と目線で返した。

 

「まぁ、彼は私のような失敗は犯さないだろうと思っている」

「失敗?」

「周りに心配するものがいて、その言葉をキチンと聞こうとしている。それがある以上は問題は無いよ」

「そうか? ボーデヴィッヒさんの言葉は聞き入れられていなかったように見えたがな」

 

 そう茶々を入れるセンクラッドをジロリと睨むシロウ。綺麗に纏めようとしてもこの男がいる以上、纏まるものも纏まらないのはもはや常識だ。ただ、やはりラウラにはその言葉は懐疑的に聞こえたようだ。

 あんだけ言ってもダメだったのにか?と思っているラウラは、正しく千冬の弟子だ。少なくとも、もう少しオブラートに包むなり、有る程度親交を深めてから言えば良かった。0歳からの軍育ちではコレが限界なのだから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。

 此処で、昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。

 ぺこり、と一礼してラウラも足早に教室へと消えると、センクラッドは表情を変えて、溜息をついた。シロウも同様だ。

 

「あー、シロウ? まぁ、お察しの通りだ」

「――成る程」

 

 彼らの言が何を指しているのかと言うと。

 オラクル細胞を励起した状態のままこの場に登場していたセンクラッドは、一夏達の会話を盗聴している存在を感知しており、ラウラとの会話中、試しに左眼で感情の検索を行ってみたところ、蒼髪の生徒会長と合致した故の、言葉だ。

 シロウの場合は、護衛としてセンクラッドに付き従っている為、自身の能力をフルに発揮し、気配を察知していた。当然ながら心当たりは無かったが、IS学園の教本に記載されている主立った生徒達のプロフィールや条件、現在の状況、そしてセンクラッドとかわした会話から推測し、何となくだが正体を看破している。伊達に天性の鋭いカンを持ち得てはいない。

 溜息を深々と吐き終えたセンクラッドと、ある種の予感を感じたシロウが、雑木林の一角をジィィイっと見つめた。

 数秒して、諦めたようにヒョッコリと、一際太い樹木からバツの悪そうな顔をして出てきたのは、生徒会長の楯無であった。

 

「えぇと、ちょっち久しぶりね、センクラッド」

「久しぶりだな、趣味が覗きの生徒会長さん」

 

 辛辣な言葉に対し、この男、本当に容赦無いわ、と感想を持ちつつ、澄ました顔をしながら楯無は不敵に言い放った。

 

「あら、必要な事だからよ? 万が一を考えれば、ね」

「ふむ。つまり、一夏とボーデヴィッヒ嬢が物理的に激突する直前までいった場合、生徒会権限で決闘を禁止するつもりだった、と?」

「そう、正か――」

「シロウ、それは俺達が来なかった場合だ。俺達が来た以上、それは無かった。その後は趣味に走ったんだぞ、絶対」

「――いよ、って酷い!!」

 

 ドヤ顔で正解よ、と言いかけた瞬間に、コレである。断じて覗きが趣味なわけではない。異星人達がどのような思考や主義を持っているかを調べるように通達されたのもあって、黙って見守っていただけなのだ。勿論、少し面白そうな展開になっていた、という事も重要なポイントではあったが。

 

「そもそも盗撮とか覗き見が趣味なわけないじゃない!!」

「完璧な人間や公僕ほど、露出や盗撮とか女装や男装等の倒錯したアンダーワールドへと突き進む。そう書いてあったぞ、インターネットでは」

「何でもかんでもネットを鵜呑みにしないで、お願いだからっ」

 

 殆どの場合において弄くられる側に回ることの無い筈の楯無だったが、センクラッドにフルボッコされている図が出来上がっていた。千冬達教職員や生徒会の面々が見たら2度見どころか何度も見返してしまう程のインパクトの強いシーンであったが、幸いな事に此処には3名しかいなかった為、楯無の名誉は守られていたりする。

 誰かに見られでもしたらIS学園生徒内最強の看板が緩い事になってしまうだろう。

 まぁ、千冬という前例が既に居るのだが、緩さ云々に関しては。

 

「まぁ良い。それで一体何しに来たんだ、お前さんは」

「貴方が来るように仕向けたんでしょう!?」

「俺はお察しの通りだと言って適当な方角を向いたら、何かお前さんが出て来たわけだが」

「まさかの自爆!? い、いえ、そんなわけないでしょう。感情を読めるから、誰が何処に居るかなんてわかる筈よ。それとも、アレはブラフって事かしら?」

 

 ふふーん、騙されないもんね、聞いていたし。と言いたげにメロン級の胸を張る楯無。

 この瞬間、センクラッドの中で、からかう方向性は趣味は盗撮盗聴の残念会長で良いな、と確定したが、そろそろシロウからジットリとした圧力が増加してきた為、今言う事は諦めて、

 

「その通りだ」

「……どちらに対して言ったのか、聞いても良い?」

「ご想像にお任せする。まぁ、常識的に考えればおのずと判るだろう」

「マスター……」

 

 流石にからかい過ぎだろう、と言いたげなシロウに、センクラッドは判った判ったと両手を挙げた。

 自分がやられたら間違い無く嫌になるパターンで言葉遊びを仕掛けてみたらドンピシャだったので、もうちょっと、もう少し、とばかりに遊んでいた、と言ったら確実に全員から説教を喰らう事間違いないので、流石にそこは自重し、ついでに本題に戻すべく咳払いをして、口を開いた。

 

「まぁ、気配には気付いていたからな。前にもあったし、お前さんの隠密能力は知っていたのもあって、特定は容易だった」

「感情云々は?」

「勿論使った。確認の為に使っただけだがな」

 

 言外に、お前さん程度の隠密なら特定は容易だ、と言われているようで、楯無は内心でショックを受けていた。学園最強やISの国家代表、日本の裏側を纏め上げている更識家の当主の肩書きなんて、宇宙レベルで見たらナンセンスだという事は頭で理解していても、今までの矜持があるのだ。

 だが、それをおくびにも出さないのは流石だと言える。伊達に10代半ばで裏社会と渡り合ったり、腹芸をこなしたり、国を相手取っての交渉を担当してはいないのだ。

 余談だが、センクラッドがこの世界で初めて観測された際、真っ先に行動、つまり根回しをして千冬をぶつけるように仕向けたのは楯無率いる更識家、そしてIS学園生徒会長としての楯無、ロシア代表としての更識楯無だった。人類史上初のコンタクトに対しても躊躇う事も、余す事も無く権力と権限を行使し、最良の結果を得た事で、更識楯無個人の評価も、更識家の評価も大きく上がった。

 

「その能力の他にも、聞きたい事があるのだけれども、宜しいかしら? 勿論、此処ではなくて、生徒会室で」

「盗撮と盗聴しないなら、考えてやらんでもない」

「しないってば!! しかも考えるだけとか言いそうねその言い方だとっ」

「何故判った。冗談だがな。こちらも質問があるので願ったり叶ったりだ」

 

 ……まぁ、評価が上がろうとも下がろうともそんな事センクラッドは知らないし、知っていたとしても関係無しに誰彼構わず引っ掻き回すのが、彼だ。

 真顔のままだから冗談なのか本気なのかイマイチ判らない、と嘆く素振りを見せる楯無。割とガチで言っているのはご愛嬌。それを華麗に黙殺し、センクラッドは言葉を続ける。

 

「だが、昼食を採っていないし、千冬に相談や報告をしないまま生徒会へ向かうのもアレだ」

「問題ないわ。既に許可は取っているから、後は貴方達次第」

「昼食は?」

「勿論、出すわよ」

 

 その言葉に、シロウと視線を合わせるセンクラッド。良いか、ダメかの判断を仰いだのだ。尤もダメと言われてもセンクラッドは行くつもりだったので、どちらかといえば判断というよりもついてくるか否かの確認、と言った方が正しい。

 シロウもそれが判っている為、行くのだろう?と右目を瞑って応えた。

 

「なら、行かせて貰う」

 

 センクラッドの言葉に頷き、先導して歩き始めた楯無のすぐ後ろについていく2人。

 授業が始まって閑散とした校舎へと入った際、センクラッドは何の気なしに質問を口から飛ばした。

 

「ところで、出すという事は、生徒会の誰かが今から用意していると言うことか? それとも、食堂に出前を頼むのか?」

「此処で出前はやってないわよ。まぁ、ファーロスさんが頼めばやってくれるとは思うけどね。昼食はさっきまで私が作ってたものを出すわ」

 

 流し目気味に背後を見ながら胸元から扇子を出し、軽い空気の破裂音と共に広げた楯無。『愛妻』と書いているのだが、一体何時仕込んだのだろうか。会話の流れを予想して出すのなら本数が多く必要になるから違うだろう。可能性としてはISの技術を流用して投影しているのか?と考察するシロウ。

 シロウの考えている事が長い付き合いで透けて視えたセンクラッドはそれも黙殺し、至極真剣な表情を浮かべ、彼にしては珍しく声量を上げて言葉を楯無に向けて発した。

 

「――チェンジで」

「何でよ!?」

 

 万感の想いを込めた、と言わんばかりの口調は流石に想定外だったようで、思わず振り返って抗議する楯無に、だって、なぁ、と頬を1掻き、2掻きした後、センクラッドはやや躊躇いがちに聞いた。

 

「お前さん、調味料間違えるとか初歩的なミスを犯すタイプじゃないのか」

「しないわよ!! どんだけ私をうっかりさんにしたいのよ貴方はっ!! 言っておくけど、私は料理が得意だからそんな事は有り得ないしっ」

「何だ……しないのか……」

 

 お前さんには失望した、或いはガッカリだよと言いたげなセンクラッドに対し、ビキビキっと青筋を立てながらも堪える楯無。十中八九、センクラッドはコレで外交云々は言わないと理解しているのだが、可能性がある以上はある程度は我慢しなければならないのだ。

 いやむしろ、こちらが精神的云々と言った方が良いのかしら?と真剣に検討する楯無の不穏な気配を察知したのか、一度大きく咳払いをするセンクラッド。

 

「割と真剣に言わせて貰うと、どれだけ料理が出来るか、楽しみではある」

「貴方の護衛さんと同じ位じゃないかしら」

「――ほう」

 

 面白い言葉を聞いた。と、シロウは思考を中断して楯無をジッと見つめた。正確には、扇子を持つ指に、だ。暫く凝視した後、クッと笑みを零し、

 

「成る程、言うだけはあるようだ」

 

 と呟いた。料理人にしか判らないものを感じ取ったようだ。センクラッドとしては何を勝手に納得しているのやら、と呟くしか選択肢が無い。そもそもシロウは料理人ではないのだが。

 その後、暫くしてセンクラッドは誰に聞いたのか、という疑問が過ぎったが、すぐに誰が話したのかを把握し、確認の為に口を開く。

 

「千冬から聞いたのか?」

「えぇ。凄腕の宮廷料理人がいるって」

「……まぁ、良い。それで?」

「それを聞いたら、私の料理人魂もグワーっと燃え上がってしまったわけよ、ここ数日で。後は思い立ったが吉日という感じで。再会出来て良かったわ、無駄にならずに済んだもの」

 

 その言葉に、呆れの視線をぶつけるセンクラッド。その言葉が真実だった場合、ラウラと一夏の衝突を見越した上に、こちらの動向を有る程度読んでいた、或いは何処かで監視をつけている可能性があるという事に他ならない。

 別の見方をすれば、此方にちょっかい出すまで料理をひたすら作っている、という線もある。後者だったら完璧アホの子だと思いながらも、センクラッドはそれを指摘しない。IS学園最強の生徒会長が実はアホの子だった、というのは、流石に無いだろうと判断した為だ。

 真実は楯無のみぞ知る。

 段々相手にするのが面倒になってきたというのもあるが、舌戦するのもかったるいというどうしようもない理由があった。

 そうやって会話しながら移動すること少し。

 生徒会室と記載されている部屋まで辿り着いた一同は、まず楯無が立ち止まって、くるりと振り向き、センクラッド達に一礼して扉を開けた。

 

 

 

 

 

 おまけ

「……大将、遅いな……」

 

 黒塗りのアンティークタイプのテーブルにペペロンチーニと、ナスとキノコのチーズリゾットが入っているそれぞれの皿を3人分配膳し、拙いながらも紅茶を入れて待つ事10分。

 タイミングを合わせて作ったのにも関わらず、帰ってこない2人。

 

「……先、喰うのも、なぁ……」

 

 ぽつり、と零す。

 カッチ。

 コッチ。

 カッチ。

 コッチ。

 時計の針だけが、無情に時を刻み、徐々に徐々に温かかった食べ物は冷えていく。

 

「…………遅いなぁ、ホントに……」

 

 結局。

 すっかり冷めた料理を口に運んで「冷めても美味しいや、流石オレ」と呟きながら黙々と自分の分だけをかきこむロビンフッド。俯きながら喰う彼の頬に幾筋かの水が伝っていたかは定かではない。

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