ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
さて、今日一番の用事は終わったから、後は諸々の消耗品を補充するぐらいかな。
その前に腹ごしらえと言うことで、私は行きつけとなっている屋台が集まる広場に足を向けると、威勢のいいかけ声と共に食欲をそそる香りが漂ってきた。
「今日は何にしようかな。二人は何か食べたいものある?」
「えーっと、こういうところは初めてだから」
二人は物珍しそうな顔で立ち並ぶ屋台を忙しげに目をやっている。ダイダロス通りというのは、ここから結構遠いのかな? 普段は教会で過ごしてるなら、あまり外食はしないと言うことかもしれないな。
「そうなんだ。じゃあ、私のお勧めでいいかな?」
「ああ、それでいい」
ジョンさんの返事にメイヤさんもコクコクと頷いてくれたので、私の好きな物を選ばせて貰おう。
最近は不定期でハンバーガー屋さんも屋台を出すようになってたけど、今日は来てないみたいだね。ちなみに私のお勧めはジャガ丸くんのペッパーソルト味と、鳥の串焼きだね。今日はどちらも店を出しているから、とりあえずそれを食べてから考えるか。
「お兄さん、ジャガ丸くんのペッパーソルト味を3つください」
私はそう言うと三人分のヴァリスをカウンターに置いて注文を出した。
「あいよ、いつものだな」
店主はそう短く答えると、衣を振った種を手早く油に落とし込み、何度かひっくり返しつつ油が爆ぜる音に耳を傾けると、その音の変わり目を狙って素早く引き上げ十分に油を切って粗熱を取り、紙の手持ち袋に滑り込ませるとそれを3つ私に手渡してくれた。
「まいど!」
私はジャガ丸くんを落とさないように気をつけつつ手を振ってその場を離れると、すぐそばで二人に「お待たせ」と言ってそれぞれジャガ丸くんを手渡した。
その後、鳥の串焼き屋に並んで、私はある程度お腹が満たされたけど、食べ盛りの二人はまだまだ足りなさそうだったのでもう二軒ほどはしごして、私はちょっと苦しくなるぐらいに膨れてしまった。
「うーん。ちょっと苦しいぐらいかも」
私は少しだけぽっこりしたお腹をさすりながら、二人に見えないようにゲップまでしてディアンケヒトファミリアへの道を歩く。
「無理しなくても良かったのに」
そういう二人はちょうどいいぐらいの腹持ちなのか、心なしか艶々している。
「美味しそうだったからね」
胸焼けがするほどではないから、店に着く頃には人心地付くだろう。
そして、ディアンケヒトファミリアのお店ではちょうど店番をしていたアミッドさんに大きくなったお腹を見て「どうされたのですか?」と聞かれてちょっと恥ずかしかった。
「食べ過ぎただけですよ。それよりも中級ポーションを2本くださいな。二人の分なので初心者向けでいいです」
私は背後で値札を見て緊張している二人を指さして注文を入れた。
「なるほど。すぐに用意いたします」
アミッドさんは後ろを振り向くと戸棚に納めている手のひらサイズの瓶を二本取り出して私の前に置いた。
「ありがとうございます。お支払いはこれでお願いします」
私は値札通りの交換券を提示して、アミッドさんは驚くことなく受け取ってくれた。
「はい、確かに……便利ですねこれは。早く私どもも導入したいものです」
「ギルドが許してくれればですねぇ。とにかくしつこいぐらい要望を上げるのがいいと思います。ロキファミリアとかヘファイストスファミリアとかと連名で要望書を出してみるのもいいかもしれませんよ?」
今は試用期間なので、新規発行は難しいんじゃないかなとは思うけど、あまりにも要望が多ければギルドも折れるかもしれない。
「すぐに検討します」
フィンさんにはおそらくアリシアさんから話しが上がっているだろうし、ヘファイストスファミリアではスィデロさん経由ですでに支払方法として正式に認めて貰っているからね。
そこにディアンケヒトファミリアも利用しているとなると、その信用力を担保に利用できる商店が広がっていくと思う。そうなると、
そのためには私がもっと交換券を使って啓蒙していく必要があるって事だね。決して浪費を肯定するわけではない。
「お待たせ、それじゃ、これを二人が持っておいてね」
私は消耗した分の補充として二人に買ったばかりの中級ポーションを手渡した。
「大切にするね」
メイヤさんがうなずいて一旦は二本とも受け取って腰のポーチに大切に入れた。収納する際に柔らかそうな布でくるんでいたからよっぽど値段に驚いたのだろう。もっと稼げるようになろうね。
「それじゃ、次は下級のポーションとか毒消しとかを買いに行こうか。上層向けだったらここじゃなくてミアハ様のお店がいいかもね」
ミアハ様の言葉を聞いて、一瞬アミッドさんの表情が柔らかくなったけど、今は突っ込まないでおこう。楽しみは後に取っておくものだ。
「それじゃ、ありがとうございました。またよろしくお願いしますね」
私はアミッドさんにそう言ってペコリと頭を下げた。
「いえ、またのお越しをお待ちしております」
アミッドさんもそう言って美しい所作で腰を折って挨拶を返してくれた。
「次のお店は二人に任せるよ。ちゃんと正規のお値段で買えるよう頑張ってね」
「?? どういうことだ?」
「まあ、行ってみたら分かるよ」
そう言いつつ私はミアハ様の預かるミアハファミリアのお店へと足を向けた。ミアハ様は自分のポーションを新米にタダで進呈するぐらい慈悲深いお方だけれど、その優しさがファミリアの金庫を常に圧迫しているらしく、その皺寄せとして団長であるナァーザさんが商売の場で結構ふっかけてくるのである。
私も最初は相場が分からなくて高い買い物をしたことがある。まあ、寄付だと思えば気にならないけどね。結構苦労してるみたいだし。
そして、ミアハファミリアのお店で買い物をして貰い、下級ポーションを自分たちの資金から4本ほど調達して貰った。
値段は、相場のだいたい2割増し程度だったから随分手加減して貰えたようだね。といっても、二人の後ろを見守るように私がニコニコしながらナァーザさんを牽制していたのも大きいと思う。しかも、最後にナァーザさんがジョンさんに泣き落としという高等テクニックを披露したものだから、ちょっと冷や汗をかいたね。
私がアレを喰らっていたら危なかったな。困った人の涙には弱いんだよ私は。もっとも、流石のナァーザさんも(見た目)幼女の私にそれをするほど落ちぶれちゃいなかったとも言えるか。割とプライドが高そうな人にも見えるし。
しかし、そこはしっかり者のメイヤさんの事だ。ナァーザさんに同情しつつも自分たちのお財布事情を正直に話し、「次も必ずこちらに買いに来ます。お互いに頑張りましょうね」と見事な返し刀を放ってみせたのだ。次の瞬間、ナァーザさんの口元から一瞬だけ「チッ」とごくわずかな舌打ちの音がしてたね。
その後、何事もなかったかのように目をウルウルさせてメイヤさんの手を握りしめるナァーザさんだったけれど――あのおそろしく速い手のひら返し、私じゃなきゃ見逃しちゃうところだったね。
「それじゃ、そろそろ行こうか二人とも。ありがとうございました、ナァーザさん。これからも、――
私はこれまでにないほどの満面の笑みをナァーザさんに向けて手を振り、店を後にした。ナァーザさんが一瞬だけ怯んだように肩を震わせていたので、今日のところはそれで溜飲を下ろしておいてあげよう。
今後もこの新米二人をせいぜい鍛え上げてやってください。
<7月末日現在>
暑さと忙しさとお盆休みが取れないのと定休も潰れたのとで精神的肉体的にちょっとノックダウン気味です。
ということで、今年は年初より定期更新を頑張ってきましたが、ここで一旦お休みをいただきます。
皆様は、よい夏休みをお過ごしください。
熱中症には気をつけて、外で作業をする場合は空調服か、水冷服の導入を検討されるといいでしょう。
では、またいつか ノシ