TSおねショタ雷十太   作:WhatSoon

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第二十二幕「鍛錬とその先へ」

微睡み。

漂う意識の中。

全てを出し尽くし、精も根も尽きた。

今はただ眠い。

 

 

「オイ、起きろ」

 

 

だというのに、吾輩を呼ぶ声が聞こえる。

鬱陶しいと感じて、存在しない布団を被るように意識を妨げれば──

 

頭上から、水が降り注いだ。

 

 

「っ、ぷは……!?」

 

 

跳ね起きて、顔を上げる。

そうすれば目に映るのは……水桶を持った比古清十郎、その人であった。

 

 

「やっと、起きたか」

 

 

顔を拭いながら、起き上がろうとして──

 

 

「っうぐ」

 

 

全身の骨が軋むように悲鳴をあげた。

瞬間、この状況に陥った理由も思い出す。

 

比古清十郎の試験……そこで吾輩は限界を超え、全力で立ち向かった。

その際に身体に負荷がかかったのだろう。

だが、吾輩の記憶はそこで途切れている。

 

 

「清十郎殿……吾輩達は、貴殿のお眼鏡に適ったか?」

 

「ああ、てめーら二人の勝ちだ」

 

 

比古清十郎が腕を上げる。

そうすれば、腕当てが叩き割られているのが見えた。

吾輩はそんな一撃を入れていない。

であれば──

 

 

「剣心か」

 

 

視線を逸せば、吾輩と同じように地べたに寝転がる剣心がいた。

満身創痍、といった様子だ。

 

 

「さて、約束だ。稽古を付けてやる。立て」

 

「ぬ……」

 

 

吾輩は満身創痍である。

足の筋も、腕の筋も、骨の髄まで限界である。

立ちあがろうにも、力が入らない。

 

 

「オイオイ……もう立てねぇからって、寝てんのか?戦場(いくさば)じゃ見逃されねェぞ」

 

 

煽るような比古清十郎の言葉。

吾輩はその言葉に苛立ちはせぬも、立たねばと使命感を得て……立ち上がった。

 

 

「……っ、ふぅ」

 

 

しかし、立つのが限界である。

そんな吾輩を見て、比古清十郎はニヤついた笑みを浮かべた。

 

 

「根性が必要な時は、腹に力入れろ。歯を食い縛れ。身体を筋肉で引き締めるように意識してみろ」

 

「っ、ふ……ぅ!」

 

 

力が入らない身体に、無理矢理、意識的に力を込める。

骨格を覆う筋肉が引き締まり、意図的に動かす。

……なるほど、疲労を無視して、無理矢理動ける訳だ。

 

 

「やはり、お前は筋がいい。そこの馬鹿弟子より、よっぽど俺に近いぜ。お前は」

 

 

自分に近い──という言葉は、比古清十郎にとって最大級の褒め言葉だろう。

彼は自身を最強の剣客だと認識している……そしてそれは、事実でもある。

であれば、近しいというのは、それだけで褒め言葉なのだ。

 

 

「ま、近いつっても、その辺の池にいる亀と、満月ぐらいの差はあるがな」

 

 

前髪を掻き上げつつ、そんな事を宣う比古清十郎に内心でげんなりとしつつ、目を向ける。

 

吾輩の全力、そして剣心の全力。

それを迎え撃ったにも関わらず、疲弊した様子すら見せない。

流石は飛天御剣流の正統後継者である。

 

 

「じゃあ、まずは……お前、さっきの戦いの中でやってたアレ……アレだ」

 

「アレ?」

 

「俺を見透かそうとしてた奴だ。してみろ」

 

 

具体性のない話だが、吾輩には理解できた。

目に力を込めて、意識を集中する。

身体の動き、挙動の上から見える筋肉の動き。

仕草、吐息、鼓動……目に映るものを見透かす。

 

 

「そう、それだ。所謂、観察眼の延長線上にある眼だな。余程、目が良くて、人体への理解がなきゃ出来ねぇ芸当だ。そいつはお前の武器になる」

 

 

見透かしている中、比古清十郎の右肩の筋肉が動いた。

腰は動かさず、外から見れば全くの動きはない。

にも関わらず、力が肩を通して腕、手に持つ剣と流れて──

 

 

「む……っ!?」

 

 

吾輩は咄嗟に後ろへ避けた。

その空間に対して、比古清十郎は剣を振り抜いていた。

すんでの所で吾輩は避けたのだ。

 

冷や汗をかきながら、比古清十郎を睨む。

だが、当の本人は何処吹く風だ。

 

 

「ほらな。不意打ちも効かねェ」

 

「何を、危ない事を……」

 

「俺はお前が避けられると信じてやった。俺の目が腐ってるとでも言いたいのか?そりゃ、師匠の顔に泥を塗るようなもんだぜ」

 

 

勝手に師匠と弟子の関係になっていたらしい。

だが、比古清十郎の弟子というのは、普通の剣客であれば喉から手が出るほど欲しい立場だ。

悪態も吐きたくなるが、喜びも半分ある。

 

 

「話を戻すぜ?その見透かす目は防御に使える……だが、それ以上有用な使い方がある。分かるか?」

 

「……相手の手の内を読んで、先手を取る……か?」

 

「違ぇよ、タコ」

 

「づっ」

 

 

剣の背で頭を小突かれた。

結構、痛い。

 

 

「俺を見ろ」

 

「……む?」

 

「今から剣を振るう、俺を見ろ」

 

 

比古清十郎は剣を手に、吾輩から少し離れた。

そして、ゆっくりと構えて……ゆっくりと、振り下ろした。

 

その姿を吾輩は透ける目で見た。

いや、“観た”。

 

全身の筋肉を無駄なく使い、関節から関節へと力を倍増させていく……緩慢ながらも、剣の術理の極地とも言える一振りだった。

 

そうして、吾輩へと目を戻した。

 

 

「見たか?感想はどうだ」

 

「……素晴らしい一振りだった、と思うが」

 

「それで、感想だけか?」

 

 

その言葉に吾輩は理解した。

すぐさま、真剣を抜いて……虚空へと構えた。

 

今見えた剣の術理。

足の指先から、膝へ、腰へ、肩へ、肘へ、手首へ、剣へ、剣先へ。

流れるように、流すように。

全身の筋肉を扱い、すべての関節を使う。

流体のように滑らかに、されど力強く。

 

脳裏に浮かぶ比古清十郎の一振り。

それを反映させるように……吾輩は剣を振るった。

 

 

「ふんッ!」

 

 

全身の疲弊感など、知らず。

平常時と同様、いやそれ以上に無駄のない一振りを放つ事が出来た。

 

無駄な力が一切存在しない、最短で最速の斬撃……その形が手にあった。

 

 

「ま、一度目にしちゃ上出来か。どうだ?目の有用性は分かったか?」

 

 

比古清十郎の言葉に、吾輩は意図を理解した。

 

 

「……優れた剣客の所作を、教本に出来る。表面ではなく、内面から理解できるという事か?」

 

「そうだ。ま、お前ほどの奴なら、参考になる剣客などそうはいねぇ。あまり意味はないだろう……だが、運がいい。俺様がいるからな」

 

「…………」

 

 

また、前髪を掻き上げた。

自惚れた仕草であるが、その容姿も相まって様になっている。

 

 

「さて、俺は今から剣を九つ振るう。先程の唐竹、袈裟斬り、逆袈裟、右薙、左薙、右切上、左切上、逆風……刺突。どの流派も、我流だろうが、斬撃そのものはこの九つ以外にない」

 

 

比古清十郎の言葉に頷く。

 

 

「お前は今から、この九つの斬撃を“全て”、俺と同等の領域に仕上げろ」

 

「…………」

 

「フン、力の差は分かってる癖に、少しも怖気付かないか。それでこそ、教え甲斐があるってもんだ」

 

 

そして、比古清十郎は剣を構えた。

 

 

「いいか。見せるのは一度だ。それに追従して、全て熟せ。最初は完璧に真似しなくていい……だが、完璧に覚えろ。分かったな」

 

「委細、承知した」

 

「じゃあ、行くぜ」

 

 

そこから、比古清十郎が剣を振るった。

 

唐竹。

袈裟斬り。

逆袈裟。

右薙。

左薙。

右切上。

左切上。

逆風。

そして、刺突。

 

九つの型を全て、目に見えるようにゆっくりと……だが、一寸の狂いもなく。

 

そうして一拍置いて、吾輩に目を向けた。

 

 

「さぁ、真似してみろ」

 

「……っ」

 

 

その言葉に吾輩は剣を構えた。

 

 

「…………」

 

 

そして、剣を振るう。

今まで振るってきた剣を上書きするように、一つ一つを重ねていく。

目に映る軌跡をなぞるように、身体を動かしていく。

 

脳に刻んだ記憶を、身体へ落とし込んでいく。

その過程をゆっくりと、流し込む。

 

そうして全てを観て、全てに追従した吾輩は……膝から崩れた。

 

 

「はぁ……はぁ……っ」

 

 

全身から汗が流れる。

限界を超えた上で、剣を九つも振るった。

立つ事すらままならない。

 

 

「まぁ、及第点だな。後は反復して、身体に刻み込め。そうすりゃ、少なくとも志々雄一派には負けやしねェよ」

 

 

そう言いつつ、比古清十郎は吾輩を担ぎ上げた。

 

 

「ぬ、ぉ……!?」

 

 

まるで米俵を担ぐかのように、肩に。

吾輩の背丈は高いのだが、比古清十郎も長身である。

大男が大女を担いでいる、という訳だ。

 

 

「おう、どうした?」

 

「……清十郎殿……些か、恥ずかしいのだが」

 

「寝床まで送ってやろうと言ってるんだぜ?感謝して、黙って担がれろ……っと」

 

 

そうして、比古清十郎は剣心も持ち上げた。

そちらは傍に抱えるような姿勢だったが。

大の女と、細身に男、二人を担ぎ上げている。

随分と力持ちである。

 

 

「……しかして、清十郎殿。剣心に奥義を教えるというのは……」

 

「んなもん、明日だ。この馬鹿弟子を叩き直さなきゃならねぇ」

 

「叩き直す……?」

 

「これじゃナマクラだ。鈍ってんだよ……剣じゃなくて、心がな」

 

 

何とも納得し難いが、師匠である比古清十郎の言う事だ。

頷いて、新たな質問を投げる。

 

 

「……して、吾輩は?どうすればいい?」

 

「お前は勝手に鍛錬していろ。教える事はもうない。良かったな、晴れて免許皆伝だ」

 

 

随分と適当な……少し呆れつつ、文句は口にしない。

 

比古清十郎は吾輩へ剣を教える事を急いていた。

それは何故か?

明日の保証が無いからだ。

 

飛天御剣流、奥義の伝授。

それは生命の危機を伴うものだと吾輩は知っている。

 

故に、これは清十郎の優しさなのか。

今夜の内に見せるものだけを見せて、未練を無くしたのだ。

これから先の解答を見せて、自分が例え、死んだとしても進めるように。

 

暗闇の道の先、進むべき道に灯りを点す行為であった。

 

 

「……感謝する、清十郎殿」

 

 

吾輩の言葉に、比古清十郎は反応する事はなかった。

だが、耳には入っていたのだろう。

 

 

「フン」

 

 

満足気に、鼻を一つ鳴らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかして、吾輩は薫や弥彦、操と由太郎の居る山小屋まで戻ってきた。

そうして、泥のように眠りについた。

全身の疲労を回復させ、損傷した筋繊維を蘇らせるように。

 

そうして、時間が過ぎて。

吾輩は目を覚ました。

 

 

「あ、先生!おはようございます!」

 

 

由太郎の言葉に、すわ朝かと外を見れば。

十二分に太陽が昇っており、眉間を揉んだ。

もう、昼過ぎらしい。

 

視線を逸らすと、薫と弥彦も居る。

だが、剣心と比古清十郎は居ない。

随分と寝てしまっていたようだ。

 

 

「由太郎。剣心と、清十郎殿は?」

 

「もう修行に行きました。僕達は、先生が目を覚ましたら帰るようにと伝えられまして」

 

「ああ、そうか……すまなかったな。寝坊したようだ」

 

「い、いえ!先生はお疲れでしたので仕方ありませんよ……薫さんもそう思いますよね?」

 

 

由太郎に話題を振られた薫が頷いた。

 

 

「ええ、確かにね。雷十太さん、不安になるぐらいボロボロだったから」

 

 

そう言われて、吾輩は身体の調子を確かめるべく起き上がった。

 

 

「あ、先生!安静にしないと──

 

 

由太郎の心配する言葉を聞きながら、全身の筋肉に力を入れて、身体の状態を確認する。

骨は元々、問題ない。

筋肉は……問題ない。

皮膚は多少の擦り傷があるが、既に治りかけている。

これも問題ないだろう。

 

 

「いや、問題ない。心配をかけたな」

 

 

吾輩がそう口にして、周りを見ると……何故か、引いたよう目で吾輩を観ていた。

 

 

「大猿(ゴリラ)ね」

 

「大猿(ゴリラ)だろ」

 

 

操と弥彦がこそこそと喋っているが、耳に聞こえている。

まぁ、子供の言う事だ。

苛立ちはしないが──

 

 

「お前ら!先生に無礼だぞ!」

 

 

由太郎は怒っていた。

 

しかし、普段は弥彦を叱る薫は苦笑していた。

彼女にも、流石に思うところがあるのか。

 

……吾輩にもさっぱり分からない事がある。

この程度の自己治癒、剣客であれば当然なのだ。

怪我を負った所で数日で完治する……剣心だって同様の筈だ。

だというのに何故、吾輩だけが咎められるのか。

これが分からない。

 

 

「じゃあ、私達は白べこに戻るけど……雷十太さんはどうする?」

 

 

薫の言葉に少し悩みつつ、吾輩は首を横に振った。

 

 

「いや、吾輩はここに残ろう。清十郎殿とはまだ少し話したい事もある」

 

 

吾輩の言葉に薫は納得し、帰宅の準備を進めた。

そんな中、由太郎が吾輩に駆け寄った。

 

 

「先生、必ず戻って来ますよね?」

 

「む?無論、そうだが」

 

 

少し心配そうな顔だ。

しかし、由太郎は……吾輩がここに残ると口にした時、てっきり自分も居座ると言い出すかと思ったのだが。

吾輩が拒否するであろうと理解して、態と言わなかったのか。

成長ではあるが、由太郎はまだ子供だ。

子供らしい我儘を言わせられないほど、成長を強いられているのか。

 

そう考えて、吾輩は由太郎を抱きしめた。

 

 

「んぐ、っ、せ、先生!?」

 

「そう急くな。まだ子供らしく振る舞っていい……我儘など、吾輩に言っても良いんだぞ?」

 

「……あ、ありがとうございます……ですがその、は、恥ずかしいです」

 

「む?」

 

 

周りを見れば、穏やかな笑みを浮かべている薫。

面白がるような顔をしている弥彦。

顔を赤くしている操。

 

思春期の由太郎にとっては、確かに恥ずかしいか。

吾輩は手を緩めて、由太郎を解放した。

 

さすれば、顔を真っ赤にしていた。

余程、恥ずかしかったのだろう。

 

 

「すまぬ。恥ずかしかったか……もうしないようにする」

 

「え?あ、いえ、そういうわけでは……べ、別にして頂いても良いのですが」

 

「ぬ……そうか?」

 

 

何とも複雑な感覚らしい。

 

 

 

して、由太郎は弥彦に揶揄われながら、薫や操と共に帰路に就いた。

対して、吾輩は山小屋の前に立っていた。

 

太陽が登った下で、剣を抜く。

木の葉が風で舞う中、目を閉じた。

 

 

「……すぅ」

 

 

息を深く吸って。

 

 

「……はぁ」

 

 

息を深く吐いた。

 

全身の筋肉を硬直させ、弛緩させる。

脱力と緊張を交互に繰り返して、身体を強制的に目覚めさせる。

 

そして、目を開く。

宙に飛ぶ木の葉が、ひとりでに爆ぜた。

 

剣を、構える。

 

 

「…………」

 

 

再び目を閉じて、記憶を反芻する。

昨夜の九つの斬撃。

瞼に残った記憶を蘇らせる。

 

比古清十郎の放った九つの、力の流れを。

体の全ての関節を、筋肉を、流れるように再現していく。

そして、その記憶を肉体へと落とし込む。

 

順は不同。

まばらに、思うがままに、振るっていく。

一つ振れば、一歩近づく。

二つ振れば、半歩近づく。

 

牛の歩みのようにゆっくりではあるが、己が肉体へと馴染ませていく。

 

 

「……ふぅ」

 

 

して、そのまま剣身を震わす。

 

教わった袈裟斬りに、飯綱を乗せる。

真空を纏い、刃を空へ立てる。

そして──

 

 

「怒(ぬ)んッ!」

 

 

比古清十郎式の袈裟斬りを出した。

 

そして、目を開ければ──

 

 

「……これほどまでか」

 

 

目前にある、木々が寸断されていた。

手応えはなかった。

感じられない程に鋭く、水を割くよりも滑らかに斬撃を放ったのだ。

 

そして、特筆すべきは間合いである。

明らかに剣身が伸びていた。

 

しかし、斬撃を飛ばした訳ではない。

これは飛飯綱ではなく、纏飯綱だ。

それでも、斬撃の間合いは伸びていた。

 

纏う真空の量が増え、質が良くなったのだ。

 

しかも、これは習熟するための鍛錬の一撃である。

これをもし、全力で振るったならばどうなるか。

 

 

「……いや、まだ早い」

 

 

結果を早めに確かめるということは、己の天井を定める事に等しい。

まずは基礎だ。

結果はその先にある。

 

吾輩は剣を握り直す。

そして、振るう。

 

何度も、何度も、何度も。

昼食も食わず、振り続けて、空が茜色になる頃に──

 

 

「雷十太殿!」

 

 

剣心に呼ばれて振り返れば──

 

 

「……清十郎殿?」

 

 

剣心に担がれたまま、完全に気を失った比古清十郎の姿を吾輩は見た。

あの比古清十郎が気を失っている。

その事実は、吾輩に驚きを齎した。

 

 

「雷十太殿、少し手を借りたい!」

 

「吾輩に出来ることなれば──

 

 

比古清十郎を山小屋に寝かせて、剣心が薬を飲ませた。

曰く、傷を治すものではなく……強心作用のある薬だそうで。

 

 

「…………」

 

 

透かす目で観れば、肋骨が砕けているのが分かった。

内臓も損傷している。

いつ死んでも、死んでいてもおかしくはない。

そんな重傷である。

 

何故、こんな事になったか。

剣心は語ってくれた。

 

これは飛天御剣流奥義の伝授、その結果だ。

師の放った技を、奥義を以って弟子が越える。

それこそが、飛天御剣流奥義の伝承。

運命か、儀式とも呼べる、その結末。

 

結果は……剣心の奥義により、比古清十郎の技を破り、致命傷を負わせたのだ。

 

 

「……そうか」

 

 

吾輩はその話を聞きながら、罪悪感を覚えていた。

奥義の伝授によって、比古清十郎の肉体が傷付き、剣心の心が傷付く事は知っていた。

知っていた上で黙っていたのだ。

 

知る筈の話を知らぬといい、見えたものを見ないふりをした。

それが最善の結末に向かうと知っていたからだ。

 

だが、それでも……目前で眠る比古清十郎を見れば、罪悪感が湧くというもの。

 

それでも──

 

 

「……今はただ、清十郎殿の強さに賭けるしかない、か」

 

 

山を下り医者へ見せる猶予はない。

薬にも傷を癒す力はない。

であれば、望みがあるとすれば比古清十郎の肉体が、不殺(ころさず)を誓う弟子の一振りを越えられるか。

それだけである。

 

吾輩はただ、運命の帰着を待つ事しか出来ずにいた。

 

 

 

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