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夜空に浮ぶ赤と青の二つの月に、エルデは物珍しそうな表情―――兜を被っている為、ルイズには分からないが―――を浮かべていた。
「この世界には、月が二つもあるのか。何とも珍しい」
「こっちじゃ、別に当たり前の事なんだけどね。私からすれば、アンタの世界の方が珍しいわよ」
疲れた様なため息をこぼすルイズ。だが、それも仕方のない事だ。
召喚には成功した。使い魔も呼び出す事が出来た。
しかし、その使い魔は魔物ではなく人間、しかもその世界における王であるという。
それが嘘か真かなぞ、判断するのは実に簡単だった。
何故ならば、ルイズもその脳裏に、あのまま彼を止めなければ何を仕出かすかの光景が刻まれていたからだ。
教室が惨状となる光景。クラスメイトが誰一人として例外なく、湾曲した大剣によって斬り捨てられる様を、だ。
彼女は彼らを見返したいと思う事こそあれ、全員を殺したいとは思わぬのだ。
召喚されて直ぐに敵を殲滅せんと構える様は、王ではなく戦場を乗り越えてきた歴戦の騎士のそれだった。
強いのは確かだ。だが、手綱を握るのは大変だと、ルイズは確信した。
おまけに、別の世界から召喚されたという事もあって、このハルケギニアの常識を一切として知らないというのだ。
「それはそうだろう。私の居た世界は、いわば神代。その全盛期だった時代だからな」
「…ねぇ、それ、本当の事なの?」
「嘘を吐く理由が無い。信じられないなら、証の一つでも見せようか」
そう言って、王は虚空から、まるで其処に収納していたものを取り出す様な動作で、事もなげに一本の杖を取り出した。
『カーリアの輝石杖』。
青い輝石が埋め込まれた杖。二つあるカーリア杖の一方。
魔術師を騎士とする杖であり、カーリアの剣の魔術を強化するものである。
王はそれを取り出すと、学園の庭の方へと歩み、それを構えた。
「君たち魔術師、いや、メイジが扱う魔法は大きく別けて五つだったな?」
「え、えぇ。土・水・火・風、そして伝説の『虚無』の五系統よ」
「では、今から君に伝説をお見せしよう。私が居た時代において、最古の源流魔術と言われた、伝説の魔術を」
杖を高々と天へと掲げたその瞬間、幾つもの光が宙へ登り、その空に輝かしい星々が浮ぶ暗黒の星雲を呼び出し、頭上を覆う。
其処は地上である筈にも関わらず、それを見たルイズはまるで庭が未知なる空の領域であると錯覚していた。
それ程までに、その暗い星雲は美しく、神々しく、また未知で魅力的なものであったのだ。
星雲から地上へと落ちてくる無数の星雨。それらはまさしく雨の様に地上へ降りしきり、雫となって儚く消え失せる。
幻想的で、神秘的な光景を生み出すその魔術の名を、『創星雨』。
かつて古い星見が見出した、最古の源流魔術。「伝説の魔術」のひとつ。
空に暗黒の星雲を呼び、しばらくの間、凄まじい星雲を降らせるもの。
それは、輝石の魔術のはじまりとされる。
星見の垣間見た源流は、現実となり、この地に、星の琥珀が降り注いだのだ。
もし、この魔術が人に放たれたのであるならば、相手はその星雲によって全身を貫かれ、雨粒の様に儚くその命を散らすだろう。
単独にも軍勢にも大きな力を発揮するこの魔術は、まさしく伝説と呼ぶに相応しい。
「輝石の魔術という一つの魔術の源流となった、原始の魔法だ。これで、私が神代を生きていたことを信じてもらえたかな?」
「え、えぇ…」
「これを使った時は、師にも驚愕されたものだ。だが褒めてもくれたよ」
君は本当に、素晴らしい