ほ~むらん☆倶楽部   作:姉村一男

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自打球の章
四月、入学してすぐの体力測定で


 四月、入学してすぐの体力測定で(かおる)は力をセーブするつもりだったが、ふと隣の走路の子に負けたくないと思い、ついつい五〇メートルを五秒三で走ってしまった。女子たちが騒いで群がってきた。

「すごいわ王乃(おうの)さん!」「なんて俊足! いっしょに自転車部入らない!?」「いいえ水球部に!!」「フェンシング楽しいわよ!!」「トライアスロンにご興味は!?」「支えつりこみ足!!」「デコピン研究会」「セーーーーーパーーーーーターーーーークーーーーーローーーーー!!!!」

 王乃薫(おうのかおる)、十五歳、高校一年生。

 男。

 ここは(セント)タイカップ女学院のグラウンド。薫以外は女子ばかりだ。

 ちなみに聖タイカッ「プ」女学院なので決してタイカッ「ブ」と間違えてはいけない。本作は実在の人物・団体とは一切関係ありません。

 薫は男であることを隠して入学した。

 だから今はこう考える。

(運動部なんて入ったら絶対着替えで男バレするだろ!)

 しかも万が一公式戦でバレたら部には出場や活動の停止処分が下されて大迷惑をかけるかもしれない。

「お、お誘いありがとう……でもあたし、だめなんです。家で毎日たまごっ○の世話しなきゃいけないんで……」

「「「ええーっ、ウソでしょーっ!!」」」

「すみません、どうしても無理で……ごめんなさい……」

 頭を下げまくってどうにかやりすごした。

 ウソで男バレを回避しなきゃいけない場面がこれからもやってくるだろうと思うと薫は頭痛がしてくる。

 そもそも彼が女子高にいる理由はというと……

 

 ~回想シーン~

 

 三月、南太平洋、バヌアツ共和国、エロマンガ島。

「心の傷をいやせ」

 そう父に言われ、薫はこの実在の島の別荘ですごしていた。別荘は七〇〇LDKの平屋でジャグジーが一二〇個ある。

 薫の曽祖父は戦争のときこのエロマンガ島に潜伏し、アメリカ軍・オーストラリア軍の船をかたっぱしからボコって略奪し、帰国後に戦利品を闇市で売ってボロ儲けした。日本屈指の巨大資本・王乃ホールディングスはこうして誕生したのである(参考文献:王乃誠司(せいじ)[編著]『王乃ホールディングス70年史』2015年、酷書刊行会)。

 プライベートビーチで海をながめていたら、薫の父・誠司が水平線の向こうから迷彩柄の軍用ヘリコプターでやってきた。

 砂浜に降りようとするヘリコプターは非常にうるさい。着陸の前にドアを開けて誠司が叫んだ。

「――、――……――!」

「何言ってるか聞こえねえよ親父!」

「ヘリがうるさいだと? こんなものは二〇〇三年、乱神(らんしん)タイガースが一八年ぶりに本拠地・孟子園(もうしえん)球場で開いた日本シリーズ・第三戦の盛り上がりに比べればなんともない!」

「ヘリと大声で張り合うな親父!」

「乱神の外国人左腕テリー・ムーワが一回表、福岡背泳ホークスの先頭バッター柴畑均(しばはたひとし)に一球投げるたび、地鳴りのような声援で孟子園が震えたんだ! 第二戦まで乱神タイガースは福岡で連敗していたから乱神ファンはこの試合に賭けていた! 絶叫のごとく応援し、その甲斐もあって、なんと乱神は孟子園で三連勝して――」

「全部知ってるよ! 結局そのあと四勝三敗で背泳が日本一だろ! いいから早く着陸しろ!」

 

 

 親子ならんでビーチに座った。静かに波が寄せてくる。

 軍用ヘリコプターが沖のほうで燃えていた。静かに飛べない「不良品」を誠司が爆破したのだった。

 父が息子を見ずに海のほうを向いたまま聞いた。

「お前、服は着てるか?」

「は?」

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