ほ~むらん☆倶楽部   作:姉村一男

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まだ老け込む歳ではないの章
王乃タワーの一階エントランスに


 王乃タワーの一階エントランスにホバークラフトが停まって側面タラップが展開され、薫とミルチャが降りていく。

「ソウイエバ坊ッチャマ、オ客ヲ、しあたーるーむニ、オ通シシテマス」

「シアタールーム? ってことは……」

「アノ二人デース」

「あいつらか……」

 早く帰らせよう。

 戦闘機なみの加速をするエレベーターで地上八〇階へ上がり、降りるとそこはほぼ映画館だ。チケットやポップコーンの売り場があり常駐スタッフが「お帰りなさいませお坊ちゃま!」と一礼する。

 この施設はハリウッドの大作からマダガスカルの自主製作まで全映画を公開前に観られる。ホールディングス傘下の研究所による航時素粒子技術がテスト運用されているのだ。

 客がいるという四番シアターに入る。

 立体音響の「あ~ん(はぁと)」な声が聞こえてくる。スクリーンに映るのは、全裸で激しくグラインドする男と女、ぶつかりあう裸体、エロスのわななきのハイビジョンである。

 客席からスクリーンに真剣なまなざしを向ける二人がいる。薫と同い年の双子だ。

「変わんねえな、AV兄妹……」

 兄・多河(たがわ)アンディは一八八センチ八六キロ、角刈り頭に学生帽をかぶり、でっかい丸メガネを光らせ、頬にそばかすがある。腕組みをして、紺色の詰襟がその下のムッキムキの筋肉で鉢切れそうだ。

 妹・多河ヴィッキーは一七八センチ××キロ、丸っこいショートボブの髪をライトブラウンに染め、頬にそばかすがある。兄と同じように腕組みをして、紺色のジャンパースカートがその下のボインボインの胸で張り裂けそうだ。

 どちらも野球の超名門・米武劉須(べいぶりゅうす)高校の野球部でプレーしている。

 日本に住んでいて米武劉須高校を知らないのは外国人技能実習生くらいだ。

 そしてふたりは先祖代々日本に住んでいて西洋っぽさは全くないのだが勝手にアンディ、ヴィッキーと名乗っている。本名が何だったか薫はパッと思い出せない。

 アンディが薫に気づいた。

「おお、薫! 男優の尻えくぼに見とれていてすまない」

「いきなりキモいんだよお前」

「これは先週発売された作品だが、やはりシアターで映すと段違いだ。男優の肉体美がまるで金剛力士像だよ」

 彼らは「芸術鑑賞」のために「あ~ん(はぁと)」な映像を集めている。家の倉庫とハードディスクに万(億?)単位の数が保存されているというから薫は彼らと疎遠になりたい。

 ちなみにこの国で未成年がそういうのを持ったり見たりすること自体は一応違法じゃなかったりするらしい。知らんけど。

 ヴィッキーが子供をさとすみたいに言った。

「わかんないかな~。ほら薫、この女優のド派手なあえぎ方、バカにするほうがバカだよ。歌舞伎で大見得を切るのと一緒でしょ」

「AVを歌舞伎にたとえるお前のほうがわからん」

「AVは世界の夢! 幻想の光!」

「なわけあるか」

「某球団のM選手もAVファンだったよ?」

「わあああやめろ! 実在の人物、団体のイメージを下げるかもしれないネタはよろしくない! M選手のその話は駄目! ハイこの話終了ーッ!!」

 薫は……それから黙り込んだ。

 野球をできない今は正直会わせる顔がないのだ。

『あ~ん? そこすごい、いい! あふん、あはん、いやあ来ちゃう!! 来ちゃう!! わあああああ来る来る来るうううううううううう』

「……とっとと一時停止して帰れよ」

「薫、芸術は途切れちゃいかん。多河家の家訓・第三条は『AVの再生停止は、これを死刑に処す』だ」

「どんな家だよ」

「あ~ん(はぁと)」なアレコレが終わるまで待たされた。

 やがてスクリーンに終劇の文字が出た(変なAVだ)。

 するとヴィッキーが挑戦的な目をして言った。

「――ねえ薫。バット貸して?」

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