「野郎……!!」リコの眉間が谷川岳みたいに
「野郎……!!」
リコの眉間が
木刀を真上にふりかぶって叫ぶ。
「心堂円佳……! ナメやがってえええ――ッ!!」
薫は息子が縮んだ。
円佳をかばって間に入ろうとしたが間に合わない。
ビュオッ!とうなって襲い来る木刀――
――円佳が白刃取りで止めた。
「何ィ!?(リコ)」
ねじるような動きで得物を奪い、
「――ていっ!」
膝蹴りで折った。
床に転がり落ちる左右の破片。
あっけにとられて一同沈黙、リコもへなへなと床にへたり込んでポカンとして円佳を見上げる。
おそるおそる薫が言った。
「円佳さん……強いですね」
「むかしナイル川空手をやってたから」
(……ナイル川空手って何だ?)
「それより王乃さん、これ見て!」
「あ、はい」
たしかほ~むらん☆倶楽部がピンチとか。あの野球冒涜団には関わりたくないが男バレの危機を救ってくれたのだし、と薫はひとまず付き合った。
「今朝うちの郵便受けにこれが……」
フォントもサイズもバラバラな切り抜きの文字がA4の紙に貼られて並んでいた。
脅迫状
(どこの雑誌から切り抜いてんだ?)
貴様ラの二塁ベースを盗んでやぁ……ッタァ!
我々no求めを飲まねヴァ さらに參塁、本塁ベースを盗むゾッ
「なんじゃこりゃ」
「一度の出塁でセカンド、サード、ホームに盗塁することをサイクルスチールと言うらしいけど……」
「最近では望郷レトルトスワローズの「令和の三冠王」、さらに「
「で、なんとなく不安になってリヤカーを見たら本当にベースが一枚なくなってて、手紙のとおり盗まれたみたいなの」
「なら通報して十年以下の懲役または五十万円以下の罰金にしてもらいましょう」
「待って! 続きも読んで」
「はあ」
返シて……欲しい奈良
本日夕方 立川市 貴様らのサッカーグラウンドに
王乃薫を連れてこい 以上
(途中で切り貼り飽きただろ……)
「王乃さん、わかってもらえた?」
「要求通りあたしを連れていきたいと? 一枚盗まれたくらいなら新品を買いましょうよ」
「みんなでお金を出しあって買った大事なベースなの。お願い、グラウンドまで来て!」
いいですよとは言えない。窃盗犯の目的がわからない。
最悪、凶悪事件に巻き込まれたらどうする。王乃ホールディングスの人間としてリスクは一般人より気にしなきゃいけない。
「王乃さん、一生のお願い……!」
胸にすがって懇願してくる。野球冒涜団を助ける義理はないのだが。
脅迫状がひらりと床に落ちた。
「あ、円佳さん、裏にも書いてますよ、『追伸』って」
「え? そうなの?」
気づいてなかったんかい!
拾って読み上げた。
追伸
薫、きみもこれを読んでるな?
求めを拒めば百万本のヴィデオを家に送りつける
百万本のヴィデオだぞ? 来る気になったな?
さあバッチコーイ!
「ソ連で作曲されて日本語版を一九八七年に
「王乃さん、世代を考えてボケてください!」
「まあいいですよ。放課後いっしょに行きましょう円佳さん」
「ほ――本当に!?」
「犯人わかっちゃったんで。ハァ……あいつら……」