「ナイル川空手です!! テヤーッ!!」
「ウワーッ!?」
よくわからない技で十メートルくらい吹っ飛ばされ、薫、ノックダウン。
おやおや、そこまで張り切るなら本番前のエキシビションとして心堂君と対戦してもいいだろう、とアンディが提案し、反対する者はなかった。
円佳が女神の笑顔で言った。
「わたしは毎日伸び盛り! きっと今日は打てるはず! 王乃さん、応援よろしくね?」
「はい……」
打席に入ったら彼女の笑顔が消えた。真剣そのもの、オーラだけは大打者・門川博実のようだ。
「さーて美人さん、薫の前に片づけちゃうよ? 私たちは勝利の味噌カツセット(一二八〇円)を食べてきて……ムムッ」
ヴィッキーが大打者門川のオーラに気づいてピリピリした。
キャッチャーのアンディも円佳をじいっと観察し、このバッターを打ち取るためにどうするべきかと思案を始めている。
みんな最初は見た目で騙されるのである。
薫は鼻をほじりたい気分だ。
(あいつら軟式用より重い硬式用バット持ってきたからな……ちゃんと振れなくてまぐれでも当たんねえわ)
使うボールも硬式だ。中空のゴムボールである軟式と違い、コルクの芯に糸をキツく巻いて革で包んでいて石のように硬い球だから、かよわい女の子ならぶつけられるのが怖くて打席に立てない。円佳がそういう人なら良かったのだが。
(まあ三球三振だ。次は俺に替わってくれるだろ)
プレイボール。
多河兄が球種のサインを送る。
薫がテキトーに即興で応援歌を歌う。
「♪我らは待っている~気合の一打~
打ちぬけ円佳~振りぬけ円佳~ラーイトポールまで~♪
かっとばせー、ま・ど・か!」
サッカーグラウンドにライトポールなんてないけどな!
円佳は勝負に集中し、斜め四十五度に傾けたバットを揺らしながら待つ。
ヴィッキーが球種を決めてうなずく。
打者、投手、捕手――三人の呼吸が合わさった。
ヴィッキーが内野手らしいコンパクトな腕の使い方をしながら力強くステップする。
円佳も足を上げた。
真っ向勝負のストレートがシャーッ!と音を立ててストライクゾーンへ。
ホームラン狙いのフルスイングが迎え撃つ。
――ブォン!!
ガキィン!!!
え!? 当たった!!??
十六倍速みたいな打球がピッチャーへ!
危ないと言う間もない。
「ンギッッ(ヴィッキーの断末魔)」
彼女は股間を破壊された。
猪にタックルされたように飛ばされ、うしろでんぐり返りで地面を転がり、土煙が上がった。
「「ヴィッキー!!」」
エビを逆さに置いたような姿勢で彼女の回転が止まり、土煙が風で流されていくと、薫とアンディは急いで駆けつける。
犠牲者がうめく。
「……ち、恥骨が……」
「「大丈夫かヴィッキー!!」」
「ありがと薫……女の子も、股間は急所だね……明日おまたから大出血かも……あー痛い動けない目がかすむ……」
「待ってろ! お兄ちゃんがすぐ救急車を呼ぶ!(アンディ)」
ピーポーピーポー……
担架で救急車に乗せられるときヴィッキーは真っ青で脂汗をかいてガタガタ震えていた。
だが笑っていた。
「薫……打たれたけど気持ちよかったよ」
「は? マゾ?」
「それもあるけど薫があんな強打者を育ててたなんてびっくりだよ」
「俺はいつさすらいの打撃コーチになったんだマゾ妹」
「次から美人さんも私たちのライバルだね。また勝負しよ?」
「いやです」