(……んん? ってことは……なるほど……)
「わかった。今から草サッカーですね? 廃れてしまった球技をよみがえらせる少女たちの挑戦、青春の物語が、このグラウンドから始まるんでしょう?」
「ちゃうよ?」ほのかが即答。
「何ィ!? じゃあこの集まりは何!? ってか円佳先輩どこです!? あたしをポ○モンバトルのあと拉致しといて、なんでいないんです!?」
「か、肩つかまんとって。あんたの左手だけ握力強すぎや。めっちゃ痛いっ」
「こっちは何度も痛い思いしてるんです! 説明責任があるでしょう!」
「じきに帰って
チリンチリン!
自転車が土手から降りてくる。でっかいリヤカーが後ろについている。
「ごめんなさーい! 遅れました!」
円佳が深緑色のジャージを着て運転している。
「あれ? ブレーキが壊れてる……」
つぶやくやいなや、速度MAXでグラウンドに突っ込み、薫を轢いた。
「グォアアアーッ!?」
「わあっ!? 大丈夫ですか王乃さん!? 下敷きになってるわね!? 今引っぱり出します! うんしょっ、よいしょっ……!」
「いいいいい痛い痛い痛い!! ストップ!!」
「抜けないわね……? 見たところ、太ももの付け根あたりの柔らかい袋に包まれたような何かボール状の物体がふたつ、リヤカーの車輪のスポークに、たまたま、挟まってるみたいね! みんな手伝って! がんばって引っ張って助けてあげましょう! ――さあ、みんな用意はいい? 思い切りいくわよ? いっせーのーで……、それーっ!!」
「ゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」
人生で一番叫んだ。
「わたしの家が
リヤカーの荷物は貧相な野球道具だった。古い軟式ボールが二十個ほど、傷だらけの金属バットが三本、積み重なってペタンコになったグローブが十数個、一・二・三・本塁の薄っぺらいベースが一枚ずつ、キャッチャー用の汚れたマスクが二つ――たったそれだけ! ちゃんとした野球をするならヘルメットやスパイクシューズ、キャッチャーのミットや防具が不可欠なのに。
さておき薫は股間をおさえてうずくまり、しくしく泣いていた。
「うう……女の子になっちゃう……」
「王乃さんごめんなさい、無理に引っぱって。太ももの内側って洗濯バサミとかで挟んだら結構痛いわよね」
「ふつう洗濯バサミで太もも挟まないですけど……あー痛い、吐きそう……もはや女の子の日だよ……」
「ロ○ソニン飲む? 持ってるけど?」
「いらないです……」
地面をいじりながら、
「あー、今日は悪夢だ……変な先輩に捕まって何度も激痛食らってその次は野球だってよ。どうなるんですじゃ……」
「王乃さん?」
「そうか、夢! これは夢でござる。ただの夢でござる。かようなことがありえようはずがござらん。夢だ、夢だ、夢だ夢だ夢だ、ゆ~め~で~ご~ざ~る~ッ」
「一九七九年の映画『柳生一族の○謀』のネタはわたしたちの世代じゃ誰もわからないと思うけど……」
「じゃあ野球ネタはわかるんかって話ですよ! ったく、どの読者層を意識してるんだが。今どき野球に詳しくない人は
「しっかりして! 目が変よ!」
「はっ!! 俺は何を言ってたんだ……?」
揺さぶられて薫が正気にもどる。
ただし野球をしたがる女子たちに囲まれている現実は変わらない。
どこまで俺を苦しめるんだろう、野球は。