スカーレットとの関係を踏み外さないように色々我慢してるトレーナーと、トレーナーとの関係を一歩踏み進めたいダイワスカーレットの話です
年相応だけどつよつよのダスカが見たくて書きました

某所に投稿したものを多少手直ししたものになります
また、pixivにも同じものを投稿しています

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ミセス・パーフェクト

「ねえねえトレーナー! 今日は一緒にお出かけしようよ!」

 

「ははは、ウララは甘えん坊だなあ。それじゃあ今日は一緒ににんじんスイーツ食べに行こうか」

 

「ほんと!? やった~!」

 

 ハルウララが自らのトレーナーに抱きついて甘え、ハルウララのトレーナーが優しくその頭を撫でる。トレセン学園ではよく見る微笑ましい光景だ。

 そのありふれた光景を、なぜかスカーレットはじいっと見ている。

 

「どうした、スカーレット?」

 

「……ねえ、トレーナー」

 

「ん?」

 

「アタシも、アレやっていいかしら」

 

「ん、にんじんスイーツ食べに行きたいのか?」

 

「そっちじゃないわ」

 

 ん? 

 突然、この子は何を言いだした?? 

 

「え、それってつまり……えっ?」

 

 あの、ぎゅってするやつ? 

 俺は混乱して、スカーレットと自分を交互に指差す。

 スカーレットは首をこくりと縦に振った。

 

「いや、それはその……色々、マズいだろ」

 

「なんでマズいの?」

 

「いやほら、だって、トレーナーと担当ウマ娘だし」

 

 スカーレットは無言でハルウララのほうを指差す。

 二人は抱き合ってるどころかトレーナーはハルウララのことを高い高いまでしていた。

 ええい、仲が良すぎる! 俺はなんとか、断る口実を探す。

 

「で、でも、アレはハルウララが子供だから許されてることだろ。俺たちがやったら洒落にならんぞ」

 

「ウララ先輩、アタシより歳上なんだけど」

 

「えっ? あっ、そう言われれば……」

 

 そういえばハルウララは黄金世代と同じ学年だ。

 つまり、スカーレットよりも学年が上だった。なぜか完全にスカーレットよりも年下だと認識していた。

 ハルウララが年齢不相応に子供っぽいのか、それともスカーレットが年齢不相応に大人っぽいのか。

 いや……スカーレットも言うほど大人っぽくはないんだ。でも、その、発育が、その、ね……凄いから。

 競技者のトレーナーとしては喜ぶべきところなんだが、一人の男としては正直いって大変だ。

 彼女と契約してもう三年以上経つが、日に日に魅力的になっていくスカーレットを『そういう対象』として見ないようにするのに必死だった。

 

 彼女はあくまでも大事な担当ウマ娘。俺はトレーナー。そういう仲になるような関係ではない。彼女にもそういった感情はない。

 トレーナーとして信頼されている、と思う。

 だからこそ薄汚い欲望を抱いてはいけない。そんなものが露呈してみろ。信頼を失うどころか、彼女のことをひどく傷つけてしまうに違いない。

 それだけは、俺のもっとも避けたいことだった。彼女が走る姿を、もっと見ていたい。彼女がレースで一番になったときの喜ぶ姿を

 一番近くで見ていたい。できる限り多く、そして長く。

 

「イヤなの?」

 

「そりゃ、イヤって訳じゃないけど……」

 

 嫌じゃない、むしろ、何のしがらみも無ければ嬉しいことである。

 だが、スカーレットに抱きつかれた場合……俺のほうが、どうなってしまうかわからない。

 だから俺は、やってはダメな理由を探して逃れようとする。

 

「あー、っと……ほら、人目があるだろ」

 

「じゃあ、なければいいの?」

 

「……いや、それは」

 

 答えに窮する。確かにその理屈だと、人目がなければOKということになってしまう。

 くそ……俺も弁が立つ方ではないから、説得することができない。困り果てていると、スカーレットは無言で俺の手を引いて歩き始めた。

 

「お、おい!?」

 

 スカーレットはずんずんと進んでいく。俺は手を振り払うこともできずに、ただただスカーレットについていく。

 やってきた先は、トレーナー室。どうしよう、本当に人目のつかない場所まで来てしまった。

 

「なあ、どうしたんだよスカーレット。今日、なんかちょっとヘンだぞ?」

 

 そう問うと、スカーレットの足がぴたりと止まる。

 そして手を離し、ドアを閉めてこちらに向き直る。彼女は怒ったような、悲しいような、複雑な顔をしていた。

 

「アンタがいけないのよ。だってアンタ最近、アタシと距離取ろうとするじゃない。前はもっと普通だったのに」

 

「……そうかな?」

 

「そうよ」

 

 全く自覚がなかった。俺はいつの間にか、スカーレットと距離を取っていたのか? 

 いつから? なんで? いや……理由はある。きっと俺は怖かったんだ。スカーレットの近くにいることで、自分が理性を失ってしまうのが。

 俺はバカだ。そんな自分の都合で、担当に不安な思いをさせてしまっていたのか。

 

「ねえ……もしかしてアタシのこと、嫌いになった?」

 

 よくよく考えれば、スカーレットが自分で言っていたように、彼女はハルウララより年下なのだ。体付きは大人顔負けでも、まだまだ子供。

 もしかしたら、甘えたかったのかもしれない。親元を離れて暮らしているんだ、誰かに寄りかかりたくなる時もあるだろう。

 でも、スカーレットは同年代に対して弱みを隠すタイプだ。俺のこと、頼ってくれているんだ。

 ならば支えてあげるのが大人であり、パートナーだ。俺は保身ばかり考えて、大切なことを忘れていたらしい。

 

「……わかった」

 

 俺は一度だけ深呼吸してから、スカーレットに向かって両腕を広げた。

 

「おいで、スカーレット」

 

 そう言うとスカーレットは遠慮がちに近づき、その頭を俺の胸元に預けた。

 ふわりと靡いたスカーレットの髪から、すごくいい匂いがする。花の匂い? シャンプーの匂い? それともまた違う芳香……ダメだ、深く意識を割くとクラリといきそうになってしまう。

 

「トレーナー……」

 

 そのままスカーレットは俺の背中に手を回し、ぎゅっと控えめに抱きついてきた。スカーレットの身体が密着する。あったかい。そして、柔らかい。

 普段あんなにハードなトレーニングを課して、レースではパワフルな走りを見せてくれるスカーレットの身体。俺よりもよっぽど力強くて、頑丈なはずの身体。それなのに……こんなに、柔らかいんだ。

 とても不思議な感覚だった。なぜだか、そんなスカーレットの事をとても愛おしく感じてしまって……気づいたら、俺もスカーレットのことを優しく抱きしめ返していた。

 

「あ……」

 

 スカーレットは吐息と声の中間くらいの音を出し、俺の胸板におでこを押し付ける。

 

「……ねえ、トレーナー」

 

「ん?」

 

「アタシ、イヤな夢を見たの。あんたがアタシを置いて、どっかに行っちゃう夢」

 

 スカーレットは消え入りそうな声で、そう呟いた。

 

「アンタは、勝手にどっか行ったりしないわよね?」

 

「行くわけないだろ。俺はスカーレットのパートナーなんだから」

 

「『今は』よね」

 

 ドキリ、と心臓が大きく跳ね上がった。それは、俺自身もなるべく考えないようにしていたこと。

 彼女との別れ。スカーレットが走ることに区切りをつけたとき、今の関係は終わりを告げることになる。

 俺は新しいウマ娘の面倒を見ることになり、スカーレットは人生の新たな道を歩むことになるだろう。

 それで交友が途切れるわけではないが、少なくとも今のような関係ではなくなる。

 

「わかってる。こんなこと言っても、あんたが困ることくらい。でも……でも、イヤなのよ。アタシ以外の誰かが、あんたの一番になるなんて」

 

「スカーレット……」

 

「どこにも、行かないで。アタシがレースを引退しても、アタシが大人になっちゃっても、ずっと──」

 

「スカーレット」

 

 努めて優しく、諭すように名前を呼ぶ。

 

「そう言ってくれるのは、すごく嬉しい。でもね、それ以上言われちゃうと……俺は君を、教え子として見れなくなってしまう。一人の女性として、君を見るようになってしまう。そうなってしまったら、俺は……君を傷つけてしまうかもしれない」

 

 元々、女性の扱いに慣れているわけでもない。おまけに、トレーナーとしてもスカーレットが初めての担当。

 これ以上踏み込まれたら、俺は……俺は、抑えられなくなってしまう。

 ずっとスカーレットの身体に触れていて……ただでさえ、おかしくなってしまいそうなのに。

 

「……それって、アタシのことが好きってことでいいのね?」

 

「そうだよ。でもそれじゃダメなんだ。だから──」

 

 言い終わらないうちに、天地が逆転する。スカーレットが突然体重をかけて、俺を押し倒してきたのだ。

 

「え? えっ……スカーレット?」

 

 なんで、どうして? 混乱する俺を見下ろして、スカーレットが妖しく笑う。

 心なしか、息遣いが荒い。そのまま、スカーレットの顔が近づいてきて……。

 お互いの唇が、重なった。

 

「ん……っ!?」

 

 時間にして、1秒や2秒。唇を押し付けられている間、俺は一切抵抗できなかった。

 そして唇を離すと同時にスカーレットは立ち上がり、俺を指差して言った。

 

「言質、取ったから! アタシはあんたのこと、絶対諦めないから。くだらない理由でダメとか無理とか言えなくなるまで、アタシはあんたの『一番』であり続けるから! 覚悟しなさいよね!!」

 

 それだけ言って、スカーレットは勢いよくトレーナー室から出て行ってしまった。

 嵐のような出来事に、まったく脳が追いついていない。彼女から、すっごく直接的な告白をされてしまった。

 ……俺も彼女の『一番』であり続けられるようにがんばろう。彼女の気持ちに応えることが出来る日まで……いや、その後もずっと。

 

 それにしても、スカーレットの身体……あったかかった。やわらかかった。色んなところが、当たってた。

 

「うぁぁ~~っ……!」

 

 俺は心身が収まるまで部屋から出ることも出来ず、ただひたすらに悶々とするしかなかった。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「はあぁ~~っ……」

 

 アタシはトレーナー室の扉を閉めて、しばらくフラフラと歩いた後……壁に背中を預けてへたり込んだ。

 す、す、す……すごいこと、しちゃった。チューしちゃった。すごく恥ずかしくて、顔があっつい。

 でも、嬉しい。トレーナーがアタシのこと、好きでいてくれた。

 正直言って、少し不安だった。距離を置かれてるのは、嫌われてるからなんじゃないかなって。

 でも、違うとも思っていた。距離を置かれてるのは、その……トレーナーがアタシのこと、いやらしい目で見ないようにしてるからなんじゃないかって。

 だってトレーナーの視線、不自然なんだから。トレーナーがアタシを見る時、まず真っ先にアタシの胸に視線が行く。でもそれは一瞬で、すぐアタシの目を見て話す。目以外の場所は頑なに見ようとしない。

 

 これは、もしかして……って思った。だから、思い切ってみた。ウララ先輩を口実に、わがままを言ってみた。

 トレーナー、押しに弱いから。そしたら、思ってたよりずっと上手くいっちゃった。

 ……ハグしてもらっちゃった。アタシが抱きついたら、トレーナーはカチコチになっちゃってて。でも、ぎゅって抱きしめ返してくれた。

 トレーナーの身体はちょっとだけひんやりしていて、でも気持ちはあったかくなって……幸せだった。

 身体の全てを委ねたくなっちゃうような、そんな多幸感のあるハグだった。

 

「……っ、はぁ~~っ……」

 

 思い出すだけで、顔がまた熱くなってくる。

 でも、こんなことでいつまでも恥ずかしがってちゃいられない。アタシはトレーナーの……いえ、アイツの『一番』なんだから。

 今までも、そしてこれからも……ずっと、ずっと。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 それからの俺たちは、流石に気まずく……なったりすることもなく、

 二人三脚でレースに打ち込んだ。その結果、スカーレットはそれはもう勝ちまくった。

 というか、あの日以来一度も負けなかった。その結果、誰が呼んだかついた二つ名がミセス・パーフェクト。

 なぜ「ミス」ではなく「ミセス」になったかというと……俺とスカーレットの左手薬指に、お揃いのリングが嵌っていることから分かるだろう。

 

 結局、お互いがお互いの『一番』であることはずっと変わらなかった、ということだ。

 

「今日付けで、俺とスカーレットのトレーナー契約は解消だ。今までありがとう、お疲れ様」

 

「うん……今までありがとう、トレーナー」

 

「それで……今日からは、俺の嫁さんとして、一緒に暮らしてほしい」

 

「うん……これからもよろしくね、トレーナー……ううん、アタシの一番大好きな、旦那さん♡」


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