テリーに転生したので、ネタキャラ扱いされないよう強くなる 作:なー
澄み渡る青空から陽の光が降り注ぎ、風が吹き抜け草木が揺れる。昼寝にはもってこいの穏やかな気候だが、周囲は肌がピリつくような殺気に包まれている。
……五、六、……全部で八体か。
俺は、冷静に周囲を観察して分析すると、腰に帯びた剣の柄にそっと手を添え、構えをとる。
ズシン……ズシンとわざとらしく大きな音を立てて近づいてくるのは、巨人の魔物である『トロル』の群れ。
人の倍以上ある図体を、申し訳程度の毛皮で包み、その手には巨大なこんぼうを携えている。舌をだらしなく出しているその姿から、知性はあまり感じられない。トロル達は俺がたった一人で戦おうとしているのを見て、馬鹿にしたように嘲笑ってくる――、たかが人間に何ができるのかと。
「……まったく、相手の力量も分からないとは、見た目通り馬鹿なんだな」
トロル達の腹に響く不快な笑い声を、俺は一刀両断する。盛り上がっているところに水を差されて苛立った様子を見せ、臨戦態勢に入ってくるトロル達。やがてそのうちの一体が雄たけびをあげながら突っ込んでくる。俺はその様子を不敵な笑みを浮かべて見つめる。
「――ふっ、少しは楽しませてくれよ? でないと経験値の足しにもならん」
俺は静かに剣を抜刀し、迫りくる巨体を迎え撃つ。
突然だが、俺は『テリー』。
ドラゴンクエスト6に登場するさすらいの剣士――、真っ白な髪に、紫色の瞳、そして姉であるミレーユと同様に整った顔立ちが特徴のあのテリー。
……気付けば俺は、そのテリーに転生していた。
なにがどうしてこうなったのか全くの不明。
前世の記憶はあるのだが、かなり朧である。自分のかつての名前すらも思い出せない。しかし、そんな俺にも残されているものがある。
まず、ドラクエ6に関する記憶だ。これはかなり鮮明に残っている。前世ではかなりやり込んでいた。不思議だがドラクエ6をプレイしている時の記憶だけ残っているのだ。
そしてもう一つ。
ドラクエ6に対する熱い想いだ。
その証拠に、この世界にやって来れたことを心から歓喜している自分が確かにいた。もしかしたら、前世で善行を積んだから大好きなこの世界に転生できたのかもしれない――、そう思えるほどには俺はこの状況を好意的に受け入れていた。
しかし、重要なことがある。
それは俺が『テリー』である事。
テリーと言えば、ドラクエを代表する人気キャラクターの一人だ。かく言う俺もテリーは好きなキャラクターの一人である。
孤高の剣士であり、主人公の前に現れてはその圧倒的強さを垣間見せる強キャラムーブには厨二心をくすぐられたものだ。
だが、このテリー…………。
――まったく使えないのだ。
いや、もう本当に酷いの一言に限る。
テリーは物語の終盤に仲間になるのだが、レベルは低い。職業もほとんどマスターしていない。バトルレックスであるドランゴとの戦いで見せた数々の技も覚えていない。そもそも同時期に仲間になるそのドランゴの方が強い。などなど。
ストーリーにおいても、伝説の剣を見抜けなかった、魔物側に墜ちてしまうといった失態からドラクエファンからはネタキャラ扱いされてしまう始末。……まあ、魔物側に墜ちてしまったのは、テリーの悲惨な過去からの流れもあるので、一概に馬鹿にするのはどうかと思うが。
それでもテリーが不遇な境遇にあるのは間違いない。テリーが仲間になった時、ウキウキ気分でステータスを見た直後のあの絶望感は忘れられない。その後もテリーが仲間の預り所であるルイーダの酒場から戻ってくることは無かった……。
ここまで散々ボロクソに言ったが、本当にテリーが嫌いなわけではないのだ。ただ、弱すぎるというだけで……。少年漫画なんかではよくある、仲間になった瞬間弱くなるという感じの位置づけなのだ。
ここで改めて俺がテリーとして転生した理由を考えてみる。
……いや、違うな。
理由では無く、俺がどうしたいかだ。
俺はネタキャラとして馬鹿にされるテリーなんて見たくなかった。見たかったのは、強キャラとして猛威を振るうテリーの姿だった。ならば俺がやることは決まっている。
――前世での記憶をフル活用して、圧倒的に強くなってみせる。
これしかない。きっとできる。できるからこそ俺はこの世界に転生したのだろう、間違いない。
俺が転生したタイミングは、姉であるミレーユと引き裂かれてしまってから一年といったところ。既に強くなるための旅に出ている状況だ。
幼少の頃、俺とミレーユはガンディーノに住んでいたが、マフィアであるギンドロ組によって、ミレーユは連れ去られてしまったのだ。そしてその時、力が無く、ミレーユを守れなかったことを悔いてテリーは強くなることを決意した。
しかし、力を求めすぎるが故、最終的には魔物の手に墜ちてしまったのだ。そこを主人公達に倒されて仲間になる、というのが本来のストーリーの流れである。
主人公達とどう関わっていくはゆくゆく考えるとして、まずは強くならなければ話にならない。というわけで俺は、まず修行に専念した。といってもがむしゃらに努力をするわけでは無い。
まずは、ゲーム知識を活かした経験値効率の良い地域での修行。メタル系のモンスターが出る地域等を修行の地に指定した。この世界でレベルや経験値といった仕組みがゲームと同じなのか疑問だったが、メタル系のモンスターを討伐した直後は大幅に自分が強くなる感覚があった。恐らくゲームとおおよそのシステムは同じと考えても良いだろう。
次に職業だ。ドラクエ6では、ダーマ神殿にて好みの職業につくことができる。近接戦闘に特化したいなら、『戦士』、『武闘家』。魔法に特化したいなら『魔法使い』、『僧侶』といった具合に。
ドラクエ6では主にこの転職システムを利用して、様々な呪文や特技を覚えていくことになる。逆に言うとこの転職システムが無ければ碌な呪文や特技を覚えられないことを意味する。これで色々な技や呪文を覚えていく事が楽しかったのを覚えている。
だが、俺がいる現実での世界のダーマ神殿は既にデスタムーア率いる魔王軍によって遥か昔に滅ぼされてしまっている。
人々の夢の世界ではダーマ神殿は健在だったのだが、それも魔王ムドーによって封印されてしまっている状況ときた。一応夢の世界にも行くことができるようだったので、行ってみたのだが、やはりそこには封印された跡地である大穴があるのみだった。
このダーマ神殿が解放されるのは、主人公たちが魔王ムドーを討伐してからなのだ。それまでは転職システムを利用することはできない。
このままでは俺は職業につくことができず無職まっしぐら……。多彩な呪文や特技を覚えることができない。
だがこの転職システムについてはある疑問がある。
仲間になったテリーはなんと職業についていたのだ。『戦士』の職業をマスターし、上級職である『バトルマスター』に就いていた。
しかし、これはおかしい。
まず、『バトルマスター』になる為には『戦士』と『武闘家』になる必要がある。だがテリーは『武闘家』はマスターしていなかった。
そして、テリーは現実世界の住民だが、そもそもどうやって職業に就いたのかということ。夢の世界の住民ならムドー討伐後に転職したと考えれなくもないが……。
そこで俺は一つの仮説を立てた。
それは、職業に就くのは必ずしもダーマ神殿が必要ではないのではないかということ。我流でも修行をし続ければ、いずれその職業をマスターできるのではないかということ。無論、ダーマ神殿の転職による祝福を受けることができないので、茨の道になることは間違いないだろうが。
というわけで俺は、この仮説が正しいと信じて、その職業に就いているのだとイメージしながら修行に打ち込んだ。
それだけでは無い。ある時は軍事力の高い国に傭兵として紛れ込み、実力者たちの技を盗んだ。ある時は魔物の戦い方すらも参考にした。
妥協は一切許さない。
時間の許す限り俺は、力を求め続けた。
すべては、自分の力の礎にする為……。
もしかしたら、元来持っていた力を求めるという執念が俺の中には残っているのかもしれない。
――そう思えるほど、俺は貪欲に力を求め続けた。
目の前で起きていることが現実のものであると理解できない。
最初は、獲物が紛れ込んできた。それくらいの感想だった。
相手は唯の人間。それもたった一人。剣を持っているものの、そんなものは自分達にとってみれば、玩具のようなもの。
……そのはずだった。
次々と絶命していく同胞達。苦悶の叫びをあげる暇も無く、大地に倒れ伏していく。何をされているのかも分からない。あの人間が攻撃しているのだと予想するが、あまりも早くてその姿は目で捉えることはできない。
――お前で最後だ。
どこからともなくそんな声が聞こえる。
とてつもなく冷たく鋭利な声質でありそこに慈悲は含まれていなかった。トロルの背筋が凍り付き、死を予感する。迫りくる死から逃れようと持っていたこんぼうをがむしゃらに振り回すが、次の瞬間、トロルは苦しむ暇も無くその命を刈り取られた。
……ズシンと最後のトロルが地に沈んだのを背後に、俺は剣を一振いして血を振り払うとそのまま剣を鞘に戻した。
……大したことは無かったな。
トロル相手にこれなら、俺もだいぶ強くなれているんじゃないだろうか?
ゲームの時と違って、ステータスが数値として分からないからいまいち実感しづらいんだよな……。
とはいっても我流だが、職業もマスターしていっているし強くなっているのは間違いない。
ただ、魔法についてはあまり上達できていなんだよな……。魔法ばかりは我流ではどうしようもない。剣技は他の人を真似ていれば形になるが、魔法はまじで分からん。
ドランゴとの戦いではテリーは確かに攻撃魔法を使っていた。だから少なくとも攻撃魔法は絶対に覚えなくてはいけない。欲を言えば回復魔法も覚えたいところ。もう薬草とアモールの水を大量に持って歩くのは疲れた。最悪、ダーマ神殿が解放されてから魔法使いと僧侶に転職するのも手だと考えている。
それよりもそろそろ主人公達も動き出している頃合いだろうか?
俺の成長具合からもそろそろ物語が動き始めているはずだ。青年と呼べる年に成長した自身の容姿は、ゲームのパッケージで見たテリーの姿そのものだからだ。
今、どの辺にいるのかは分からないが、いったん現実世界の『レイドック』に行ってみよう。そこで情報収集だ。主人公達の動向を把握しておくのは重要だ。
俺はキメラの翼を使って、その地を後にした。
レイドックの城下町を歩きながら主人公達の動向に関わる情報を探している時だった。
少し離れたところに全身がうっすらと半透明な状態になっている少女が必死に色んな人に話しかけては無視されている様子が見えた。
……なんだあれ? 幽霊?
気になって近づいてみると、それはとても見覚えのある『キャラクター』だった。
……え、あれって?
その時だった。その少女とバッチリと目が合った。見つかってしまったと固まってしまう俺。少女は俺をジーと見つめてくる。なぜか俺の額から汗が滴ってくる。そんな俺に構わず少女はジリジリと距離を詰めてくる。
……や、やっぱり間違いない。この子は――。
少女は俺の目の前までやってくると、やはり俺の瞳をジーと見つめて、やがて口を開く。
「……ねえあなた。もしかして私のことが見えてる?」
バ、バーバラ……だ。