テリーに転生したので、ネタキャラ扱いされないよう強くなる   作:なー

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第十話

「……では、テリーとバーバラの加入を祝して――乾杯!!」

 

「「乾杯!!!」」

 

 レックの乾杯の音頭に皆が続き、宴が始まった。

 

「――ぷはぁっ!! いやぁ、今日は酒が美味いなっ! さて、それじゃあテリーの料理も頂くとするかな! どれから食べるか迷うぜ……」

「ハッサン、お願いだから一人で全部食べないでよ? 僕も楽しみにしてるんだから」

「……ふぅ、本当に今日は良い日だわ。テリーとも再会できたし……」

 

 それぞれが酒や食事を楽しみ盛り上がる中、俺は端っこの席でちびちびとミルクを飲んでいた。

 

 ……今日は色々あって疲れた。

 

 皆も手伝ってくれたとはいえ、こんなに料理をしたのも初めてだったしな。

 思わずため息が零れそうになるが、なんとか堪える。

 ……でも皆楽しそうにしているし、頑張った甲斐もあったか。それに主人公達とこうして食事できるなんて夢のようでもある。

 賑やかなのは苦手だが、皆が心から楽しむ様子を見ていると、たまにはこういうもいいかと思ってしまう。

 ただ、問題が一つ。

 

 

 

 …………バーバラは一体どうしたんだ?

 

 

 

 

 バーバラの方を見ると、どうも向こうもこちらを見ていたようだ。一瞬、視線が交わるが凄まじい勢いで逸らされてしまう。そのまま目の前にあった料理を凄い勢いで食べ始め、ハッサンとレックに必死に止められている。

 席順を決めるときもそうだ。わざと俺と対角の席に座っているように見えた。

 

 完全に避けられてるよな……。

 

 やはり、ポイズンゾンビの残骸が付着している服の洗濯を任せたのがダメだったのだろうか? 

 姉さんによると、洗濯の途中で逃げるようにどこかに走っていったらしいし。その後、すぐにひょこっと帰って来たがよほど嫌だったのだろう。申し訳ないことをしてしまった。

 

 でも昼間みたいに怒ったり悲しんでいるわけでは無いような気がするんだよな……。

 なんというか困惑しているような。

 ……まあいい、この食事中に機会を見つけてバーバラと話し合おう。それがいい。このままあれこれ考えていても埒が明かない。

 

「……これをお前さんが作ったのかい? たまげたねぇ……、長い事生きているが、これほどの料理を食べられるのは久しぶりだよ」

「そいつはどうも……」

 

 俺の真向かいに座るグランマーズが、料理を一口すると目を丸くして驚いている。褒めてもらって悪い気はしないが、先ほど臭いと怒鳴られてから何となくこのお婆さんに苦手意識を持ってしまった。

 

「お前さん……、うちで住み込みで働かないかい?」

「断る」

 

 急に真剣な眼差しになったと思ったら、そんな恐ろしい提案をしてきた。

 冗談じゃない。料理させる気満々じゃないか。料理関係なく嫌だが。

 

「ふぉっほっほっ、嫌われてしまったねぇ。……安心しな、冗談じゃよ」

 

 グランマーズは、何が面白いのか愉快そうに目を細めて不気味に笑っている。

 まじで魔女だな……。

 バーバラもいずれこうなるのだろうか……? 

 想像するだけで恐ろしい……。

 グランマーズから視線を逸らし、グラスを傾けミルクを喉に流し込む。

 ……やはり美味い。何より体にいいからな。

 

「テリーはお酒は飲まないの? 美味しいわよ?」

 

 隣を見ると、こちらを覗き込んでいるミレーユが目に入る。その手にはぶどう酒が注がれたグラスが握られている。まだ宴が始まって間もないが、既に数杯は飲んでいる我が姉。頬がほんのり赤くなっているものの、しっかり意識は保っている。どうも酒が強いと言うのは本当らしい、一安心だ。

 

「俺はいい。……酒は多分苦手だ」

 

 この言葉に嘘偽りは無い。今もミレーユから微かにアルコール独特の香りが漂ってくるが、それだけで頭がくらくらしてくるようだ。メダパニにかかった時の感覚に似ている。そんな俺が直接酒なんて飲んだ日にはどうなるか……。

 

「……そう、残念だけれど苦手なら仕方ないわね」

 

 少し寂しそうに笑みを浮かべたミレーユはそう言うと、くいっとぶどう酒を飲み干した。……本当に凄いな。見てるだけで酔ってきそうだ。

 俺が素直に感心していると、ふぅ、と息をついたミレーユが今度は優しく微笑んでくる。

 頬を上気させた姉の姿は平素の時以上に雰囲気がある。なんというか、非常になまめかしい。世の男が今の姉さんを見ればころっと恋に落ちることだろう。

 だが俺は姉に対しては劣情を抱くことは無い。やはり弟だからなのか。

 

「でもテリー、本当に強くなったわよね……。昔は私の後ろを必死に付いて来ていたのに……」

 

 ミレーユは昔を懐かしむように楽しそうにそう呟きながら続ける。

 

「テリーは世界中を旅していたんでしょう? その時のお話を聞かせてくれないかしら?」

「お? なんだなんだテリーの話か? 俺も興味あるぜ! 聞かせてくれよ!」

 

 するとレックとバーバラと料理の取り合いをしていたハッサンも割って入ってくる。その手にしっかりと酒が入ったグラスが握られているあたり、俺の話を酒のツマミにするつもりらしい。

 

「あ、ぼ、僕も聞きたいっ! テリーの強さの秘密を教えてほしいんだっ!」

 

 ハッサンに続き、レックまでそんなことを言ってくる。ハッサンは単純に興味本位という感じだが、レックの瞳には使命を感じさせるような力強さがある。

 レックとハッサンに取り残される形となったバーバラは、少し寂しそうにこちらをちらちら見つつも近づいて来ることは無く、一人で食事を続けていた。今はそっとしておいた方がいいだろう。

 

 それよりもこの期待に満ちている三人をどう捌くか……。と思ったら、グランマーズまでも興味深そうにこちらを見つめている。老いを感じさせないその力強い瞳で見つめられていると、全てを見透かされているような気がして落ち着かない。

 ここは適当に喋ってさっさと解散してもらおう。

 ……はぁ、嫌なんだよな。これまでのことを話すのは。

 

 

 皆に集中されて若干緊張を感じながら、俺は自分がどのような人生を送って来たのかをなるべく簡潔に話した。

 と言っても、世界を旅しながらほとんど修行していた俺。基本的に、起きる。修行する。飯を食う。寝る。その繰り返しだ。ただその一言だけで済ませると満足してもらえるか分からなかったので、適当に今まで訪れた国や町を言ったり、これまで苦戦した魔物との戦いなんかを説明した。

 自分で話していて、これ面白いのか? と疑問だったが皆は意外にも真面目に俺の話を聞いてくれた。

 

 

 

「――まあ、そんな感じだな」

 

 俺が一通り話し終えてそう締めくくる。これだけ話すのも久しぶりで口の中がからからだ。

 皆の反応はというと、例外なく驚愕している。静寂が周囲を満たし、館の外から微かに虫の鳴き声が聞えてくるほどだ。

 普通の人とはかけ離れていた人生を送っている自覚はあるので、この反応は自然なものだろう。ただ、長々と話した手前、この何とも言えない沈黙は辛いものがある。 

 だから嫌だったのだ。以前にバーバラにも話した時に同じような反応をされたからな。

 

 

 その中で真っ先に口を開いたのはレック。

 

「テリー。……君はどうしてそこまで強さを求めるの?」

 

 そう質問してきたレックは、やはり真剣な眼差し。ムドーの魔の手から人々を助ける為に強さを得るためのヒントを欲しているのかもしれない。

 ミレーユとバーバラもこの質問に対する俺の回答を聞き逃さないようにと、緊張した面持ちでこちらを見つめてくる。

 

「……別に。ただ強くないと色々と不都合が多いんでな」

 

 まさかネタキャラ扱いされない為と答えるわけもいかないのでそんな風にぼかして答えておく。

 

「……それってやっぱり、昔のことがあったから?」

 

 ミレーユが辛そうな表情を浮かべてそう聞いてくる。昔というのは、俺と姉さんが引き裂かれた時のことを言っているのだろう。その時の俺は非力で姉さんを守ることができなかったからな。現に本来のテリーはその出来事がきっかけで強さを求めることになった。

 

 違う。と、姉さんと会う前の俺なら即答していただろう。

 

 知識として俺自身の過去は分かるが、実際に経験した記憶が無いのだから当然だ。しかし姉さんと再会を果たしてからこの考え方も変わりつつある。

 以前から俺の中にあった、強くなることへの異常なほどの執念。それはやはり俺の中にテリーとしての記憶が残っていると確信しつつあるからだ。

 さらに、計画から大幅にずれたものの、主人公達と出会い、強さをアピールするという当初の目的は果たした。そのはずなのに俺の中には未だに強くなることへの想いが滾り続けている。

 もし、俺の推測が正しければ姉さんの問いへの答えもまた違ってくる。

 

「……さあ、どうなんだろうな。俺もよく分からない」

 

 今はまだそう答えておく。俺自身、まだ確信を持っているわけではないからな。

 

「……そう」

 

 姉さんがなんとも言えない感じにそう答えると、重い空気が俺達にのしかかる。湿っぽい空気など求めていないが、俺にはこの状況を打破することはできない。ミルクを飲もうとグラスに口をつけるが、既に中身は空っぽだった。

 

「まあまあ! いいじゃないか! 今日こうして俺達は無事に出会えたんだ!! もっと楽しもうぜ!」

 

 そんな状況を打破してくれたのは、ハッサン。ハッサンは、馬鹿でかい声でガハハと笑いながら、「ほら、ミレーユももっと飲めよ! 今日はペースが遅いぜ? レックももっと食え! 大きくなれんぞ?」なんて調子よく場を盛り上げてくれる。

 

「……そうだね、今日は歓迎会だしね!」

「ハッサンの言う通りね……。ありがとう。私ももっと楽しくテリーとお話したいもの」

 

 レックとミレーユもハッサンに影響され、明るさを取り戻していく。

 

 ……やっぱり、ハッサン。最高じゃないか。

 ゲームでも頼りになったが、この世界でも頼りになる。

 

 ハッサンに感謝しつつ、胸を撫でおろしながらミルクをグラスに注いているとふとグランマーズが目に入る。そして気付くが、グランマーズだけが未だに冷静にじっと俺のことを見ていた。驚きつつもそれを表に出さずにそっと視線を外す。しかし、ずっとグランマーズから視線を感じる。すぐに我慢の限界にきた俺は、たまらず助けを求めるように隣にいた姉さんに話しかける。

 

「姉さん」

「ん? どうしたのテリー?」

 

 俺に話しかけれて嬉しそうに笑顔を浮かべてくるミレーユ。ブラコンな姉だが、今はこの優しさが頼もしく見える。

 が、何を話すか何も決めていないことにすぐ気付く。

 

「……いや、そのなんだ」

「……? どうしたの? ……あ、もしかしてお姉ちゃんに甘えたくなっちゃった?」

「そうじゃない……、そうだ、時間がある時に回復呪文を教えてくれないか?」

 

 目を輝かせる姉を落ち着かせつつ、なんとか姉へのお願いがあったことを思いだす。

 

「そんなに即答しなくても……。でもどうして回復魔法を?」

「あったら便利かと思ってな」

「ふーん? テリーのお願いですもの、勿論いいわよ。明日から教えてあげるわね」

「ありがとう、助かるよ」

「ふふ、どういたしまして。テリーはお姉ちゃんの弟なんだからどんどん頼っていいのよ?」

 

 ウインクしながら、悪戯っぽくそう言うミレーユの姿は本当に頼りがいのある姉そのものだった。俺もしっかりミレーユを守っていこうと心に刻んだ。

 

 

 

 その後、酔いが回り調子に乗ったハッサンがミレーユに飲み比べを挑み、ハッサンが撃沈したといった事件が起きたものの、楽しい夜が過ぎていった。

 しかし、その時間も間も無く終わりを迎えようとしていた。

 

「じゃあ僕はハッサンを連れていって先に寝るよ……。流石に騒ぎ過ぎたよ。お皿とかは残しておいてね。明日の朝、片づけ手伝うからね」

「分かった、俺はもうしばらく起きている」

「ん、分かった。遅くならないようにね」

 

 そう言いながらレックは「ほら、ハッサン、いくよ!」と、机に突っ伏しているハッサンの肩を叩いて起こしている。ちなみにハッサンは元々ミレーユが座っていた俺の隣の席に座っている。これは酔ったハッサンが色々な席に移動した結果、最終的にたどり着いたのがここということだ。酔ったハッサンの絡み具合はかなり厄介だった。折角上がった株も急落したというもの。

 

「……まらら~、レック~! 俺はまらミレーユに負けてねえ!! まだこれを飲んでだなぁ……」

 

 意識を取り戻したハッサンは回らない舌でそんなことを呟いている。俺はそんなハッサンから視線を外して館の入り口の方を見つめる。というのも、バーバラが少し前に外の風に当たってくると言って出て行ったきりまだ戻ってきていないのだ。

 ……これはバーバラと話すいい機会かもしれない。

 

「あぁ、もうハッサン、お酒を注がない! しかもそれ違う人のグラスだよ! さあっ、もう行くよ。じゃあおやすみなさい、テリー、ミレーユ、それにお婆さん」

 

 視線を戻すと、レックがハッサンを抱えて部屋を後にしていた。その手慣れた様子をみていると、今回が初めてではないのだろうと予想する。なんやかんやこの三人、仲良くしているのだと感じる。

 

「ふわぁ、私ももう寝るわね。おやすみなさい……」

 

 驚異の酒の強さを見せたミレーユだったが、流石に疲れたのか欠伸をしながら部屋を後にした。

 ということは残されたのは俺とグランマーズになるわけで。グランマーズはあの後も時折、俺に意味深にこちらを見つめていた。俺は一貫して気付かない振りを続けたが、いい気分でなかったのは間違いない。

 早く、外に出てしまおう。そう決断するも、グランマーズに先手を打たれる。

 

「……さて、儂もそろそろ寝るかね。だがその前にテリー。明日の朝、一人で儂のところに来な。少し話すことがある。今日話してもいいが、少し疲れてしまってねぇ」

 

 そんなことを言ってきた。グランマーズのその表情から楽しい話でないことは容易に想像がつく。ずっと俺を見ていたことにも関係するのだろうか?

 

「話? ……何の話だ?」

「お前さんの事についてだよ」

 

 ……俺? どういうことだ?

 

「詳しくは明日話す、今日はゆっくりお休み。お前さんも疲れているみたいだしね。……まあ、お前さんはまだ休めないか」

 

 そう言って、グランマーズは外に視線をちらっとやると「ひっひっひっ、若いねぇ……」と笑いながら部屋を後にした。俺がこれからする事なんて全てお見通しだとでも言うように。

 

 ……本当、不気味な婆さんだ。

 

 グランマーズの言っていたことは気になるが、今はそれよりもバーバラだ。今からバーバラと二人きりで話す。そして何かの誤解を解く。

 

 ……緊張してきた。

  

 なぜか心臓が早鐘を打つように脈打ってくる。俺は緊張を紛らわせようと机の上に置いていたグラスを手に持ち、中身をぐいっと飲み干す。

 

 ……ん? なんだ? 味に違和感が……。

 

 変わらずミルクを飲んだはずだが、飲んだことの無い味がする気がする。

 ……まあ、別にいいか。

 

 俺は徐々に熱くなる体の異変にも気付けぬまま、館の扉を開けて外に出た。

 

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