テリーに転生したので、ネタキャラ扱いされないよう強くなる   作:なー

13 / 22
第十三話

 グランマーズとの話が終わった後、俺は言われた通りに体を入念に洗った。

 先ほどは興奮で一時的に気分の悪さを忘れていたが再び頭痛と吐き気に襲われた俺は、風呂から出るとすぐに眠りについた。朝早かったこともあり、グランマーズ以外は皆寝ていたのが幸いだった。二度寝を咎められないからな。

 

 

 

 

 

「――――」

「――――――――」

 

 ドロドロと纏わりつくような闇の中、遠くから微かな声が聞こえてくる。

 朧げな意識下で、その声を辿るように進んでいくと徐々に光が差し込んでくる。それにつれて俺の意識もだんだんはっきりしてくる。

 やがて、それが誰かが話し合う声であることを理解する。

 重い瞼を持ち上げると、眩しい光が飛び込んでくる。目を細めながら耳を澄ますと、どうもミレーユとバーバラが話し合っているようだった。

 

「バーバラ、あなた顔色が悪いわよ? 少し熱があるようね……、大丈夫?」

「……うん、これくらいならなんとか。……昨日の夜、池に飛び込んだからそのせいね……へっくちっ!」

「あぁ、くしゃみまで………って、えっ? ど、どうして池に?」

「…………色々あったのよ」

「………………そう。きっと疲れているのよ、今日はゆっくり休むといいわ。皆には私から話しておくわね」

「ミレーユ、そんな残念な人を見る目で見ないでよ……。はぁ、私は悪くないのに……。でもお言葉に甘えさせてもらって今日は休むわ。昨日はあまり眠れなかったの……。誰かさんのせいでね」

 

 ぼんやりとしながら、そんな会話を聞く。

 まだ頭は多少痛むが、眠ったおかげでだいぶ体調は良くなってきた。

 しかし、一体何が要因でこんなに体調を崩したのだろうか……。未知の毒にでもかかったのだろうか? 念のため、姉さんに『キアリー』をかけてもらうか……。

 そんなことを考えながら鉛のように重い上体を起こす。

 

「あ、テリー起きたんだね。おはよう」

「……ああ、おはよう」

 

 レックも起きていたようで、笑顔を浮かべて爽やかな挨拶をしてくる。

 そんなレックの横ではハッサンが横たわりながら「うっ……、み、水を持ってきてくれ……し、死ぬ……」と、頭を押さえながら苦しそうに呻いている。どうも起きているようだが重度の二日酔いでダウンしているようだ。体調悪い人多いな……。

 

 結局俺達は、バーバラの体調が優れないという事で引き続き今日も館に留まることになった。レック達としては早く夢の世界のレイドックに行きたいところだろうが、致し方ない。

 バーバラの様子を見たが、穏やかな寝息を立てて寝ていたことから、今日一日休めば良くなるだろうと判断する。ハッサンもそのうち復活するだろう。

 

 ……それにしてもバーバラはなぜ池に飛び込んだんだろうな?

 俺が生臭かったことと関係あるのだろうか?

 ……これは、これまでバーバラと過ごしてきた経験則によるものだが、バーバラが奇天烈な行動をする時は俺が原因になっている可能性がおおいにある。俺に昨夜の記憶が無いのも怪しいしな……。一応、手は打っておくか。

 

 ミレーユは、久しぶりに館に帰ったこともあり、グランマーズの手伝いをしながら、バーバラの看病をしてくれるらしい。そんなミレーユは俺とも一緒に過ごしたそうにこちらを見ていたが、華麗にスルーさせてもらった。

 ハッサンはまだ二日酔いが酷いらしくまだしばらく寝るとのこと。

 

 

 

 

 

 朝食を済ませた頃にはすっかり体調が良くなった俺は、早々に『キメラの翼』で故郷である『ガンディーノ』の周辺まで向かい、魔物を相手に魔法の特訓に勤しむことにした。早く『魔法使い』をマスターしたくての行動だ。

 

 ……強くなろうという想いに溺れるな、か。

 

 腐った肉体を赤い服で纏った『リビングデッド』三体を斬りつけた後、もう二度とゾンビ系には直接触れまいという想いも込めて後ろに飛びのき、すかさず『イオラ』で追撃する。

 目の前で大爆発が起こる中、俺はグランマーズから忠告されたことについて考える。確かに本来の俺は、その想いが暴走して魔王『デュラン』に敗れ、魔物にその身を捧げることになった。

 

 ……でも、今の俺なら多分『デュラン』にも単独でも勝てるけどな。

 

 いや……、そういう問題ではないか。要は強くなりたい欲求を抑えきれずに闇墜ちするなということだろう。相手が『デュラン』かどうかは問題では無い。

 ……それに、流石に回復魔法が無いと『デュラン』の単独討伐はきついか。後、『魔法使い』のままでもきついな。

 しかし、順調に数多の職業をマスターし、種ドーピングしまくった俺だ。回復魔法さえ覚えて、まともな職業になってしまえばこちらが負ける要素は無い。まあ、そもそも単独で戦う機会はもう無いだろうが……。

 勿論、自身の想いに溺れて闇墜ちするつもりなど毛頭無いが、強くなっておく必要はあると考えている。

 

 それがレック達を守ることに繋がるからな。

 

 実はこのレック達を守るという目的が、レック達に同行しようと決めた判断材料の一つでもある。

 この世界で死んでしまうとどうなるかは俺も分かっていない。一応死んですぐであれば、『ザオラル』や『ザオリク』といった蘇生魔法で復活はできるらしい。その為、回復役の仲間がいる中での死ならばまだいい。だがパーティーが全滅してしまえば一体どうなってしまうのか……。

 昨日、月鏡の塔で主人公達に全滅した時気付いたら教会にいるなんてことがあるか聞いてみた。しかし、何言っているんだこいつみたいな目で見られる結果に終わってしまった。どうも、レック達はこれまで全滅したことが無いし、全滅イコール永遠の死という認識らしい。一応、俺も死んだことは無い。死にかけたことは何度もあるが。

 

 バーバラやミレーユと出会う前の俺は、レック達にはできるだけ本来の物語通りに展開を進めてほしいと思っていたが、全滅が全ての終わりを意味する可能性があるのならば話は別だ。

 もし、そんな俺の身勝手な考えでバーバラやミレーユが死んでしまったらそれこそ俺が闇墜ちしかねない。こんなこと言うのは似合わないがそれほどあの二人は俺にとって大事な存在なのだ。自分でもこの数カ月――というよりバーバラとミレーユと出会ってから随分と考え方が変わったものだと驚いている。

 

 ――必ず、俺が皆を守って見せる。

 

 そんな使命が俺に芽生え始めている。

 しかし、俺だけでは不十分だ。それを昨日の『あくまのカガミ』との戦闘で痛感した。俺一人では手に余る不測の事態はどうしても起こるものだ。

 やはり俺だけではなく、レック達にも強くなってもらう必要がある。

 というわけで早速行動に移しているわけだ。

 

「あ、相変わらず凄いね……。動きは全然見えないし、『イオラ』まで使えるんだね……」

 

 後方で防御に専念していたレックが感嘆の声を漏らしている。このガンディーノ周辺は、推奨レベルが30を超える地域。今のレックでは到底太刀打ちできない訳だが、防御に専念し、俺の戦いを見てもらっている。こうしていればバーバラの時と同様にレックにも経験値が入るからな。本当はハッサンも連れてきたかったのだが仕方ない。

 一応、ガンディーノで購入した『ほのおのたて』や、カジノの景品で手に入れた『プラチナメイル』というムドーと戦う前ではあり得ないほど豪華な防具で身を固めてもらっている。これでよほどのことが無い限り倒されることは無いだろう。

 ちなみに、このレックとの修行は俺の望むことでもあったが、申し入れてきたのはレックからだ。ムドーを倒すための力を手に入れる為、俺に修行を見てもらいとお願いしてきたのだ。この正義感の強さこそが勇者たる所以なのかもしれない。

 

「そうでもない……。レックもこれくらいすぐに強くなれるさ」

 

 レックに褒められて密かに喜ぶ俺だが、努めて冷静にそう返す。

 勇者の素質を持ち、唯一伝説の武具を装備できる主人公――レック。俺が言ったことはお世辞でもなんでもなく事実そのものだ。ステータス的にも普通に俺より強くなるし。まあ、種のおかげで今は俺が最強の自信があるが。

 

「……ははは、そう言ってもらえると心強いよ。……でもテリーに敵う魔物なんているのかな? 流石の僕でも分かるよ。この辺りの魔物はとても強い……。でもテリーはそんな魔物相手にも難なく勝っている……。それこそ、ムドーにだって――」

 

 そう言うレックの言葉はとても弱々しい。

 ……しまった。

 修行を開始してから一時間ほどが経つが、その間、レックは俺の戦闘を見続けていたわけだが、俺とのあまりの実力差に自信を失っているようだ。喜んでいる場合では無かった。

 

「――――いるさ」

 

 俺の一言にレックは、顔を上げ困惑するようにこちらを見つめてくる。

 俺は口下手だ。流石にそれは自覚している。だから変に誤魔化してレックを元気づけようとしても逆効果だろう。だからここは事実だけを述べることにする。

 

「……俺にだって敵わない魔物はいる」

 

 確かに俺は強くなった……。

 それでも俺だけでは敵わないと思う敵はいる。

 このドラクエ6にはまさに化け物かと思う敵が存在する。

 

 ――まず大魔王『デスタムーア』。

 

 第三形態までの姿を持つデスタムーアは――まあ強い。

 第一形態でも固定の大ダメージを与えてくる攻撃をバンバン仕掛けてくるし、第二形態では、『だいぼうぎょ』しながら攻撃してくるというチート行動にでてくる始末。そして第三形態では、手と顔に分かれ、それぞれ強力な攻撃を繰り出してきて、挙句の果てに『ザオラル』や『ザオリク』を使ってくるという初見殺しの行動に出てくる。

 まず間違いなく、一人ではきつい。ゲームの時みたいに行動パターンがある程度決まっていたら行けたかもしれないが……。

 

 

 

 そして、世界最強の存在――『ダークドレアム』。

 

 

 

 謎の異世界の最深部で待ち受ける、ドラクエ6の裏ボス。

 そのHPは驚異の一万を越え、魔物の癖に勇者の専用技である『ギガデイン』や聖なる『グランドクロス』といった強力な技まで使用してくる。

 その実力は、『デスタムーア』を遊び感覚で血祭りにあげるほど。

 一定の条件を達した時、ダークドレアムとデスタムーアの夢の対決を見ることができるのだが、これが……。

 初めて見た時は、驚愕したものだ。あれほど苦労して倒したデスタムーアがああも無残にやられるところは、爽快である一方、どこか物寂しいと感じたものだ……。

 流石にデスタムーア戦で見せたあの実力はネタだと信じたいが、そうでなくてもダークドレアムだけはタイマンで勝てる未来が全く見えない。

 ……もし、あの実力がネタじゃなくて主人公達を相手にしている時は手加減していたのだったらどうなるのだろうか? ……考えたくも無い。

 

「…………テリーがそこまで言うなんて。いや、そうだね、世界は広い……。どこに強力で邪悪な魔物がいるとも分からない。テリーに敵わずとも、僕も強くなって平和な世の中を実現させるために力になって見せるよ!」

 

 レックは、俺の言葉に暫し何かを考え込む様子を見せるも、最終的にはやる気を出してくれた。そんなレックの様子を見て俺もほっと胸を撫でおろす。

 

「あぁ、その意気d――っ!」

 

 俺がそう答えかけた時、視界にある魔物が映り込み、思考を中断させられる。

 瞬間的に集中力を極限まで研ぎ澄ませ、瞳に殺気を込め、爆速で駆けだす。目の前にいたレックも俺のあまりの速さに何も反応できない。

 

 ――俺がこの地を修行場所に選んだ理由。それが今、目の前に現れたのだ。

 

 魔物までの距離は、約二十メートル。俺はその距離を一秒とかからずあっという間に詰めていく。職業補正で素早さが落ちているのが歯がゆい――、頭によぎったそんな雑念をすぐにかき消すと、静かに鞘から剣を抜刀する。

 しかし、魔物まで数メートルといったところで俺に気付いた魔物が俺より数段早い、俺の動体視力でもギリギリでしか追えないほどの物凄い速さで逃げていってしまう。

 

 ――もう遅いっ!

 

「うおおっ!! 『まじん斬り』!!」

 

 俺の繰り出した攻撃は見事魔物――『はぐれメタル』に命中する。はぐれメタルが、まじん斬りを耐えられるわけもなく真っ二つになって絶命する。

 よしっ、これで大幅にレベルアップだ。

 ……それにこの感じ――、ようやくか。

 

「ちょ、ちょっとテリー! いつの間にそんなところに、一体どうしたんだい? ……ってあれ? 急に全身から力が溢れてきたような……?」

 

 俺が満足げに剣を鞘に戻していると、レックが急いで俺の方に駆けてくる。しっかりレックも急激なレベルアップを果たしたようで困惑している。

 

「ああ、すまないな。はぐれメタルが現れたんだ」

「はぐれメタルって、倒すと凄く強くなれるっていう? な、なるほど……。僕達も『メタルスライム』が現れた時は必死になって倒したもんな……」

 

 そんな会話をしていると、再び後方から『リビングデッド』が複数体現れる。

 ……ちょうどいい。

 

「この岩、ちょうどいいな……よしっと」

 

 俺が丁度良く傍にあった巨大な岩石を持ち上げてそのまま放り投げる。リビングデッド達は降り注ぐ岩石の下敷きになり、大ダメージを与えることに成功する。しかし、それでも生命力の高いリビングデッド達を殲滅するには至らない。

 『がんせきおとし』だけでは倒せないことを分かっていた俺は、魔力を集中させていた。

 

「これでとどめだ――『ベギラゴン』」

 

 俺が唱えたベギラゴンによって、灼熱の炎に包まれたリビングデッドは残らず倒すことができた。

 ……よし、これで『魔法使い』もマスターした。これでバーバラにも馬鹿にされないで済むというもの。

 次に目指すべき職業は、『魔法戦士』だろうか? 『戦士』と『魔法使い』をマスターしたことによりなれる上級職だ。『バイキルト』や『メラゾーマ』といった強力な技を覚えることができるのはかなり魅力だ。

 しかし、『僧侶』も捨てがたい……。姉さんも回復魔法を教えてくれるって言っているわけだし、僧侶を目指すべきだろうか? ううむ悩ましい……。

 

 その後も順調に修行を進めていき、昼に差し掛かる頃には『はぐれメタル』を三体も狩ることができた。かなり運が良かった。一体も狩れない日なんてざらだからな。レックも相当強くなったことだろう。こんな感じで他のメンバーも強くなってもらおう。

 目標としては、ムドーとの戦いまでにレベル30位にはなってもらいたいものだ。そこまでレべルを上げれば、全滅することは無いだろう。本来ならムドーとの対戦時の推奨レベルは20位だからバランス崩壊もいいところだが命には代えられない。

 

「そろそろお昼時だね……」

「そうだな、一旦帰るか」

 

 太陽は俺達の真上で輝いている。ぶっ通しで修行を続けてきたので、流石に腹が減った。ここで食べてもいいが野外での料理は準備が色々と面倒だ。今はグランマーズの館を拠点にしているのだから、わざわざここで食べなくてもいいと判断しての提案だった。

 しかし、俺の提案にレックは応じず、何かを言いたそうにしている。しかし遠慮しているのか、言うべきか言わないべきか迷っている――そんな感じだ。

 

「どうしたんだ? 何かあったのか?」

 

 俺がそう促すと、レックは迷った挙句、意を決したようにおずおずと言った様子で、

 

「……もし良かったらだけど、僕の故郷の『ライフコッド』に昼食を食べに行かない? 夢の世界に行く必要があるけど、ルーラを使えばそこまで時間はかからないし、どうかな?」

 

 なんて提案をしてくるのだった。

 




誤字報告頂いた方ありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。