テリーに転生したので、ネタキャラ扱いされないよう強くなる   作:なー

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第十四話

 山の頂に位置する小さな村――『ライフコッド』。

 自然に囲まれ空気は澄み渡っている。鳥のさえずりが聞こえてくる以外は静かであり、実に穏やかな雰囲気に包まれている。まるで時間がゆっくりと流れているようだ。

 

 ……ここがライフコッドか。

 

 俺とレックは今、村の入り口前にやって来ている。

 ドラクエ6の始まりの村でもあり、夢の世界の主人公の故郷でもある。個人的にも思い入れのある村の一つである為、感動しながら村の様子を見つめる。

 この村のBGMが好きだったんだよな……。最初、自分の家から外に出た瞬間、BGMが流れると同時に陽光が差し込んでくる演出が熱かったのを覚えている。

 

「ここが僕の村だよ。何も無い所だけど静かなところで僕は大好きなんだ」

 

 レックは自分の村に帰って来たとあって、明るい様子である。多分愛しのターニアに会えるのが嬉しいのだろう。かく言う俺もターニアに会えるのが楽しみである。ドラクエ6では、女性キャラとしてはバーバラやミレーユに注目がいきがちだが、ターニアも二人に負けず魅力的だ。是非ともターニアには仲間になってほしいと思ったものだ。そのターニアの手料理を食べられるときた。テンションが上がらない方がおかしい。

 

「そうだな、いいところだ……」

 

 静かなところが好きな俺も素直に同意の言葉を返す。そんな俺に嬉しそうな表情を浮かべたレックは、「じゃあ行こうか、僕の家はこっちだよ」と歩き出す。

 静かな村ではあるが、静寂というわけでは無い。要所要所から、男たちが仕事に精を出す声や、おしゃべりに夢中な婦人の会話が聞こえてきたりする。俺も老後はこんな感じの土地に住みたいものだ。

 

「お、レックじゃないか。なんだよ、また帰って来たのかよ……」

 

 のんびり歩く俺達に気付き近づいて来る男が一人。

 年齢は俺達と同じくらいだが、金髪であり、どことなく軽薄な雰囲気を漂わせる。この男は確か『ランド』だ。ターニアにぞっこんであり、結婚を迫っている不届きものである。

 ランドはへらへらした様子で近づいてくると、

 

「ターニアちゃんのことなら任せておけって何度も――って、おおいっ!? 後ろにいる男前は誰だ!? お前の仲間か!? お前の仲間はガチムチの筋肉ダルマだっただろ!?」

 

 ランドは俺に気付くと、驚愕し、恐ろしいものを見るようにわなわなと震え出してしまう。どうしたんだ?

 というか、ガチムチの筋肉ダルマってハッサンのことか……。酷い言われようだな……まあ、間違ってはいないが。

 

「なんだ、ランドか。何度も言っているけど、ランドにターニアを任せた記憶は無いし、これからもそんな時は永久に来ないよ。大体ランドにはジュディがいるだろう? 後ろにいるのは新しく仲間になったテリーだよ。後、ハッサンは二日酔いで休んでいるよ」

 

 冗談抜きの厳しい表情と口調でランドにそう言い放つレック。昔からの顔なじみが相手と言うこともあるのだろうが、普段の優しいレックからは考えられない様子である。ターニアが絡むとこうなってしまうのか……、兄妹愛とは恐ろしい。

 

「おおいっ!!?? そんなことはどうでもいい!! 仲間だと!? お前馬鹿じゃないのか!? 頭でも打ったのか!?」

 

 なぜか大慌てのランドは急ぐように駆け足で俺達の元まで来ると、そのままレックの腕を引っ張って俺から離れて行こうとする。流石のレックもランドの急変に「な、なんだよ急に」と戸惑いつつもランドの勢いに圧されて連れていかれてしまう。

 二人は俺から十メートルほど離れたところで立ち止まり、ランドが内緒話をするようにレックに切り出す。

 

「レック、おまえな、あんな奴をターニアちゃんに会わせる気か!?」

「そうだけど、何か問題が? テリーは凄く良い人だよ?」

「良い人だと!? なら余計に問題大ありだ! イケメンで良い奴をターニアちゃんが見て、万が一惚れちゃったりしたらどうするんだよ!!」

 

 大自然で鍛えられてきた聴力をもってすれば、二人の会話も丸聞こえである。

 ……そんなことかよ。

 ランドが俺に戦慄していた理由を知ったわけだが、杞憂に終わるだろうと予想する。確かにたまに食材や武具を買いに町に行った時なんかに女性に熱い目線を送られることはよくある。俺がイケメンだからそれは自然なことだが。

 けど、ターニアほどのできた子が見た目だけで人を判断するとは思えない。そんなことはレックもランドも分かっているとは思うが……。

 が、しかし。

 

 …………ん? 

 レックの様子が……。

 

 先ほどまでランドに噛みついていた様子はどこへやら、急に固まってしまい、何かを考え込んでいるようだ。

 ――嫌な予感がする。

 まさか、ランドが言うように万が一の可能性を危惧して俺をターニアと会わせるべきでないとか考えているのか?

 ターニアには会ってみたいし、人が作る食事を食べることができると普通に楽しみなのだ。是非ともレックにはランドを突っぱねて頂きたい。

 

「おい、レック。悪いことは言わねえ。今日は大人しく帰れ。またあの筋肉ダルマとでも一緒にきたらいいじゃないか。あいつなら安心だ」

 

 迷う様子を見せるレックに追い打ちをかけるランド。

 ラリホーでもかけてやろうか。

 ……頼むぞ、レック。お前は勇者なんだ、そんな理由で俺を拒んだりしないと信じているぞ。

 するとレックがゆっくりとした動きでこちらを見つめてくる。気のせいだとは思うが、その瞳はいつものように澄んでおらず濁っているようだ。そしてランド同様に何かに怯えるようにわなわなと震えているようにも見えた。

 ……レック、何を考えている?

 

 数秒の経過があり、何かを決断したようにレックがその表情を引き締めてこちらに近づいて来る。

 「おい、レック!」というランドの制止を振り切ってまっすぐに俺の元までやって来たレックは、いつもの晴れやかな笑顔をこちらに向けてくる。

 謎の緊張を感じつつ俺がレックの言葉を待っていると、レックが元気よく言ってくる。

 

 

 

「テリー、やっぱり帰ろうか!」

 

 

 

 ――嘘だろ。

 

「……なぜだ? けっこう楽しみだったんだが……」

 

 なんとなく無駄だと分かりつつも一応抵抗してみる。

 

「え? 楽しみだったの? ……あー、ごめん、色々あったんだ。今度埋め合わせはするよ。それよりテリーの手料理を食べたいよ、僕も手伝うからさ。じゃあルーラですぐにとびたつよ?」

 

 まさか俺が楽しみにしているとは思わなかったのか、驚いたレックは急かすように早口でそう言いながらすぐに立ち去ろうとする。

 そこにランドがやってくる。

 

「よう、レック。お前のその判断、俺は尊敬するぜ? ちょっと見直したぜ」

「……うん、僕も大事なことを見落としていた。初めてランドに感謝したよ、ありがとう」

「へっ、よせよ」

 

 何かを成し遂げたような爽やかな表情で肩を組みながら互いが互いを褒め合うその光景は、無性に俺を腹立たせた。衝動でイオラを唱えて全てを爆発させてしまいそうになる。ライフコッドの住民はボストロールとかとタイマンで戦えるくらいだし、多分死なないだろうしな――、あれ、それは下の世界のライフコッドだったか? まあなんでもいい。

 

 ……はぁ、ターニアの手料理を食べたかったし、普通に会いたかった。

 しかし、レックが帰る気満々なのだ、ここは諦めるしか無い。ちょっとレックに対する評価が変わったな……。

 というか俺、このテンションで昼の料理を作らないとだめなのか? 

 ……レックの昼ご飯は『かしこさの種』でいいか。あの種はいらんし。

 

 

 

「――あれ、ランド? それにお兄ちゃん!? 帰って来てたの?」

 

 

 

 だがルビス様は俺を見放していなかったようだ。

 レックとランドの表情が一瞬で絶望に染まるのを見て、俺の中にあった負の感情が綺麗に消えていく。清々するとはこのことだろう。

 声のした方に顔を向けると、少女がそこにいた。

 ぱっちりとした透明感のある瞳に小さな顔、肩にかかる程度に伸ばされた青い髪は丁寧に手入れがされており陽光に反射してきらきらと輝いている。その柔らかい表情から彼女が優しい性格をしているのだと伝わってくる。都会の女性が着こなすような煌びやかな衣装ではなく、水色を基調とした素朴な服装はターニアによく似あい、彼女をより清純たらしめている。

 

「もう、いつも急に帰ってくるんだから……。というかランドもお兄ちゃんも肩なんか組んじゃってどうしたの? そんなに仲良かったっけ? 私は仲良くしてもらったほうが嬉しいけれど」

 

 ターニアにそう言われて慌てて離れるランドとレック。先ほどまでの良い雰囲気はどこへやら。

  

「あ、ああ、ターニア……。え、えっと、これは……」

 

 困ったように狼狽えるレック。そんなレックを不思議そうに見つめるターニアは、ふと視線を俺の方に向けてくる。

 

「あれ? あなたは初めて見ますけど、もしかしてお兄ちゃんの新しい仲間の人ですか?」

 

 そう問われた俺はなぜか緊張してしまい、「……ああ、テリーだ」と短く自己紹介し、軽く頭を下げる程度にとどめておく。

 

「わぁっ! やっぱり新しい仲間の人なんだね! テリーさんね! 私はターニアです、いつも兄がお世話になっています!」

 

 自分でも不愛想な反応だったと思うが、ターニアは気にした様子もなく、その顔をぱあっと明るく輝かせて屈託の無い笑顔を浮かべる。

 ――これはモテるわ。

 

「馬鹿野郎、レック! お前がさっさと立ち去らないからこうなるんだ! 馬鹿!」

「は、はぁっ!? ランドが気持ち悪いことを言いながら肩なんか組んでくるからだろう! あれがなければとっくに帰ってたさ!」

「んだとっ! 大体旅立った後も、ターニアちゃんに会いに何度も帰ってくるお前が悪い――」

 

 一方のランドとレックは俺とターニアを会わせることになってしまった責任の所在を押し付け合っている。仲いいなこの二人。

 レックに呆れの感情が芽生える一方、親近感も湧く。ここにくるまでのレックは、正直聖人のように良い人だったからな。未来の勇者と言えどレックも人の子ということなのだろう。素のレックを知れてよかったかもしれない。正直距離感があったからな。

 

「……あはは、ごめんなさい。見苦しいところを見せちゃって」

 

 そんな二人を溜息を吐きながら見つめるターニアは申し訳なさそうに俺に謝罪すると、すぐに二人に向き直りその表情をキッと切り替える。

 

「もう二人とも! いい加減にして! テリーさんもいるのよ!」

 

 可愛らしい声、しかししっかりと芯のあるターニアの怒声によって二人はぴたりと喧嘩をやめる(お互い睨み合ってはいるが)。

 

「もう、いい加減仲良くなってよね……。それよりお兄ちゃん、この時間に帰って来たってことはお昼ご飯を食べに来たってこと?」

「う、うん、その通り。大丈夫かな? 無理そうなら帰るけど……」

 

 ターニアを前にしたレックは、自然に笑顔になってしまうのか少々情けない感じになっている。ターニアを溺愛していることがよく分かる。どこかの姉にそっくりだ。

 

「ううん、ちょうど今からお昼にしようと思っていたからいいわよ。そうと決まれば久しぶりに腕によりをかけて作っちゃうわよ!」

 

 ターニアは嬉しそうにそう言うと、「テリーさんも期待しておいてね。私、お料理には自信があるの!」と言いながら、お茶目にウインクを飛ばしてくる。先ほどレックとランドが俺とターニアを会わせたがらなかった理由が少し理解できてしまった。

 

「ちょ、ちょっと待った! ターニアちゃん! 俺も! 俺も一緒していいか!」

 

 そこに慌てるように食いついてくるランド。よほど俺とターニアに何かないか心配らしい。心配しなくてもいいのにな、女の人と手を繋いだことすらないのに。

 

「え? 別にいいけれど……。でもランド、村長さんの家の横でジュディと一緒に山頂からの景色を眺めながらお昼を食べたって聞いたわよ。もうお腹一杯じゃないの?」

 

 きょとんとしたように尋ねるターニア。

 ランド……、別の女の子とご飯を一緒に食べたうえでターニアに迫っているのか。許せん奴だな。レックもランドを修羅の表情を浮かべて睨んでいる。

   

「な、なぜそれを……。い、いや俺は育ち盛りだからな! まだまだ食べたりないんだよ!」

「ふーん、まあいいけど。でもそうなると少し人数が多いわね……。ちょっと時間がかかってもいいかしら?」

 

 すこし困ったように、顎に手をあてて考え込むターニア。ここは俺の出番だな。

 

「――なら、俺も手伝おう」

「え、テリーさんが? ううん、お客様に手伝ってもらうわけにはいかないわ」

「いや、料理は好きだから構わない」

「……うーん、でも」

 

 本当に手伝うことに苦は無い。というか時間がかかる方が俺的には嫌だ。

 ターニアがどうしたものかと考え込む一方、横で話を聞いていたランドが俺の前に立ち塞がり睨みつけてくる。やっぱりラリホーをかけようかな? メダパニでもいいな。

 

「テリーと言ったか。お前、手伝う振りしてターニアちゃんに近づこうって魂胆だろう。なあレック?」

「…………いや、テリーが料理が得意なのは本当だよ。そうだね、手伝ってもらおう。僕達も出来る範囲で手伝おう」

 

 てっきり味方になってくれると思ったレックが、俺がターニアを手伝うことをあっさり認めたことでランドが驚愕する。

 

「おいおい、どうしたんだよレック! それでいいのか?」

「ランド……。ターニアの料理は勿論美味しいけど、テリーの料理も――それはもう美味しいよ。これを食べないなんて一生後悔するよ……。僕は正直テリーの料理も食べたい」

「まじかよ……そんなにか?」

「そんなにだよ」

「…………」

 

 というわけで無事、俺が手伝うことが許可されたのだった。

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