テリーに転生したので、ネタキャラ扱いされないよう強くなる 作:なー
小一時間ほどかけて、昼食の準備を完了させた俺達は机に並べられた料理を前にしていた。
天気が良かったので、家の中では無く外で食べることになった。レックの家の近くの木の下に木製の机と椅子をセッティングし、木漏れ日の中での食事だ。この中で食べる昼食はさぞかし美味しいだろう。
初めて他人が作る料理を食べられるとあって、正直俺は楽しみで仕方がない。厳密にいえば、これまでも町などの飲食店で人が作った食事を食べたことがあるが、業務的に作られたそれをあまり美味しいとは感じなかったし、手作り感は無かった。
「まじで料理が得意だったんだな……、正直滅茶苦茶美味しそうだ」
信じられないといった様子で目の前に並べられた料理を見つめるランド。腹が一杯のはずだが、ごくりと喉を鳴らしている。
「本当にテリーさん、凄かったわ! 手際なんて特に凄くてね? 包丁の動きが速すぎて見えなかったのよ? 私も負けられないと思ってつい熱が入っちゃったわ!」
ターニアはまるで自分のことのように興奮冷めぬ様子で皆に俺のことを自慢している。調理中もこんな感じで俺のことを褒めちぎってくるものだからむず痒くてしょうがない。嬉しいのは嬉しいが。
「よし、食べよう――もうお腹ぺこぺこだよ」
「そ、そうだな、早く食べようぜ!」
「ふふふ、そうね」
そうして俺達の昼食が始まった。
「――う、うまい!! なんだこれ!! ターニアちゃんの料理にも匹敵するぞ!! 食えば食うほど腹が減るようだ!」
ランドが大興奮でがつがつと俺の料理を食べている。レックは「うう、ターニアの料理とテリーの料理を同時に食べられるなんて、僕はなんて幸せなんだ……」と感激しつつ食事を進めている。
「わぁっ! 本当に美味しい! テリーさんこれ凄く美味しい! どうやって作ったの? 横で見てたけど調理が速すぎてしっかり見えなかったんだよね……。迷惑じゃなかったら教えてほしいな! ……あれ? テリーさん?」
――俺は密かに感激していた。
それはターニアが作った料理を食べたからだ。
……なんて心温まる美味しいスープなんだ。
俺が食べたのは山菜とキノコをふんだんに使ったスープ。絶妙な加減で味付けされたそれはこれまで口にした食べ物の中で間違いなく一番美味しかった。
似たようなスープなら俺も数えきれないほど作ったことがあるが、この味を再現するのは不可能だと確信する。それがなぜかは分からない。使っている調味料や具材も全部分かるのに。
「あ、あのテリーさん? もしかして口に合わなかった? 無理して食べなくてもいいよ?」
俯いて固まっている俺を見て、心配したターニアが声を掛けてくる。
ちなみにターニアの口調が砕けているのは俺が頼んでのことだった。敬語を使われるのは慣れない。さん付けもいらないくらいだ。
「……いや、違う。あまりにも美味しくて感動していたんだ……」
俺が顔を上げながらそう答えると、ターニアは一瞬驚くもすぐに嬉しそうににっこりと笑顔を見せる。
「ふふ、気に入ってくれたなら良かった。『愛情』をたっぷり込めて作った甲斐があったわ!」
「……愛情?」
「うん、愛情を込めたお料理は普通に作るよりとっても美味しくなるのよ♪」
楽しそうにそう語るターニアを見て俺は困惑してしまう。
……愛情がこの味を生み出しているのか?
ターニアが俺をからかっているわけではないのは分かる。
にわかには信じられないが、他に理由も見当たらない。
……愛情か。
……なるほどそれは確かに俺に真似できないわけだ。愛情とは無縁の人生を送ってきたからな……。そう言えばレックも愛情がこもったターニアの料理は世界一だと言っていたな。
愛情と言う形ない感情が料理をここまで美味くするのか……。知らなかったな。
――不思議なものだ。
その後も四人で食事をしていると村の人が集まって来た。娯楽の少ない村だから盛り上がっている場所があると気になって集まってくるのかもしれない。
「なんだなんだ、レック帰って来てたのか? それにしても美味しそうなもの食べてるじゃないか」
「お、誰だそこの男前は? レックの新しい仲間か? 前の筋肉もりもりの兄ちゃんはいないのか? いたら一緒にまた酒でも飲みたかったのにな」
「あら本当、凄くいい男じゃない!」
「あれ、ランド? どうしてまたお昼を食べているの? 私と一緒に食べたでしょう?」
「ランドー、俺にも食わせろー」
そんな中、真っ先に反応したのはランドだった。
口にしていた料理をごくりと飲みこみ、おもむろに椅子から立ち上がると、皆を見渡す。
「皆にも紹介するぜ! こいつはテリー! レックの新しい仲間だ! そして料理の神様だ!! テリーは口数は少ないが良い奴だぜ! みんなも仲良くしてやってくれ!」
力強くそう言い放つランドを、ターニアとレックも同意するようににこにことしながら頷いている。
俺の料理を大層気に入ってくれたランドは、それまでの態度が嘘のように距離を縮めてきた。さらに俺がターニアを狙うような奴でないと分かると急速に好意的になってきた。こういうのを胃袋を掴むというのだろうか。まあ、受け入れられたのなら良かった。凄い絡んでくるので少々鬱陶しいが。後、そんな大々的に紹介するのもやめてほしい、皆が俺に注目してきて居心地が悪い。
「ふーん、どれどれ? ――っ!? 本当に美味しいわ! ランド、こんな美味しいものを私に内緒で食べるなんて酷いじゃない!」
「ジュディ!? あ、俺のテリーの料理が!? 最後だったのに!?」
人の輪から抜け出てランドの料理に口を付けたのは村長の娘であるジュディだ。ランドのことが好きな少女だったはずだ。頭につけた大きなリボンが似合い、村長の娘と言うだけあって、他の人より育ちの良さを感じる衣服に身を包んでいる。ていうか普通に可愛い。山奥の村に可愛い女の子が二人もいるって凄いな。
そのジュディは、頬に手を当てて俺の料理を堪能している。
ランドが言ったようにこれで机の上に載っている俺が作った料理は全て無くなってしまった。ちなみにターニアが作った料理は俺とレックが取り合うように食べまくった為、既に無くなってしまっていた。
「うーん、凄い美味しいわ! でもこれで最後なのよね……。これをあなた――テリーさんが作ったの? あ、私はジュディっていうわ、よろしくね」
「よろしくな。そうだ、俺が作った。口に合ったようで良かった」
「口に合うどころじゃないわ、とっても美味しかったわ! そんなに格好良くて料理もできるって信じられないわね……。あなたの料理、もっと食べたいわ!」
ジュディが興奮気味にそう言うや否や周囲からも声が上がる。
「そんなに美味しいなら俺も食べたいな」
「俺も俺も! ランドとジュディがあそこまで言うってことは間違いないな」
「私も食べてみたいわ!」
どんどんと盛り上がっていく村人。
そんなこと言われてもな……。
困る俺の肩に手を置く人物が――ランドであった。
「なあ、テリー。皆もこう言っているし、今日の夜ちょっとした宴会を開くから、料理を作ってくれないか? 勿論礼はするぜ!」
「そうね、ランドにしてはいいこと言うじゃない。私も賛成よ。勿論私もお礼もするわ、織物なんてどうかしら? この村の名産よ?」
ランドとジュディが前のめりにそんな提案をしてくる。
――いや、姉さんにあまり帰るのが遅くならないように言われているしな。
それに修行もしなくてはいけない。昼からはレックにも実戦で戦ってもらおうと思っていたのだ。ゲームならいいが、ここは一応現実世界、いや夢の世界か、ややこしいな。とにかく俺の戦いを見ているだけでなく、実戦での経験も必要だからな。
「うふふ、大人気ねテリーさん。お兄ちゃん、とっても良い人が仲間になってくれたね!」
「そうだろう? 僕もテリーは信頼しているんだ」
信頼している割には俺を帰らせようとしたけどな。レックに対して心の中で突っ込みを入れつつもどう断ろうか考えていると、レックが話しかけてくる。
「テリー。すまないけど、ここは皆のお願いを聞いて貰えないかな……」
「……いいのか? レックも強くなりたいと言っていたじゃないか? それなら、修行をするべきだ」
意外なレックの提案に驚いてしまう。どういう心境の変化だろうか?
「うーん、そうなんだけどね……。テリーには色々な人達と関わる時間も大事にしてほしいって思ったからかな。僕が言うのもなんだけどこの村の人達はみんな良い人だから、テリーにも知ってもらいたいんだ。余計なお世話だとは思うし、料理を作ってもらうってなると手間を取らせるだろうけど……」
レックの神妙な顔つきとその言葉から、俺のことを思っての提案だと言うことが伝わる。その意図はいまいち理解できないが。
もしかしてこれがレックが俺をこの村に招いた理由だったりしてな。まあ、俺を帰らせようとした(ry。
「私ももっとテリーさんのこと知りたいから皆のお願いを聞いてくれると嬉しいな。あ、勿論私もお手伝いするよ!」
レックの様子を見て何かを察したように後押ししてくるターニア。本当にできた妹である。周囲もお祭りの気配を感じてか、盛り上がっていく。
この状況で断れるほど俺のメンタルは鍛えられていない。昨日に続き騒がしい夜になりそうな気配を感じながら俺は諦めた。
「……分かった」
その言葉に周囲にいた人達が一斉に盛り上がった。
……あぁ、遅くなったら姉さんに怒られるだろうな。バーバラも何て言ってくるか……。今のうちに言い訳を考えておかなければ、……あ、そうだ。
「ランド。お礼の件だが一つ頼みたいことがある」
「お? なんだなんだ? 俺にできることならなんでもするぜ?」
俺のお願いに、にかっと歯を見せて笑顔で返してくるランド。本当、会った時と別人だな……。これくらい単純な方が気楽なのかもしれないけど。
「ああ、実はな――――」
今、俺はターニアと一緒にターニアの家の台所で食事の準備を進めていた。
昼食を作った時は、ランドが俺を注意深く監視していたが、完全に信用されたようで、今は俺とターニアと二人きりである。レックとランドは外で夜の宴会の準備をしているらしい。
「テリーさんはどうやってこんなにお料理が上手になったの?」
「……独学で色々試していたらいつの間にかという感じだな」
「そっか、独学でって凄いね!」
「……ターニアの料理も美味しかったけどな」
「ふふ、ありがとう。……もしこれから時間があれば私にも作り方を教えてほしいな。私ね、私の作った料理で他の人が美味しそうに食べてくれるのが凄く嬉しいの」
正直最初は、ターニアと二人きりになってしまい緊張していた。しかし、いつの間にか緊張は解け、次第にとある感情に支配されていた。
――これは『癒し』だ。
ターニアと一緒にいると心に溜まった暗いものや負の感情が綺麗に浄化されていくようだ。ゲームをプレイしていた時も感じていたが、本当にターニアは天使のように良い子である。自然と、守ってあげたいと思ってしまう。
そんなターニアに俺はどうしても聞いてみたいことがあった。今が絶好のチャンスだと言える。
「……一つ聞いてもいいか?」
「ん? どうしたの?」
鼻歌を歌いながら野菜を切っていたターニアが手を止めてこちらに向いて来る。
しかし、いざ聞こうとしていも急激に気恥ずかしくなってきて中々聞き出せない。質問の内容が内容だけにまじで恥ずかしい。ターニアは絶対に馬鹿にしてこないと確信を持てるが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。
ターニアは、俺が言い淀んでいることを察して優し気な笑顔でもって
「どうしたのテリーさん? なんでも聞いて? ここには私しか居ないわ。誰にも言わないって約束もするわ。だから、ね?」
……本当に、ターニアは天使の生まれ変わりではないだろうか?
ともかく、ターニアの後押しもあってようやく俺は口を開く。どちらが年上か分からないな……。
「…………あー、その。どうすれば、『愛情』を込めて料理を作ることができるんだ?」
俺は不思議だった。正直料理のスキルだけなら僅差ではあるが俺はターニアに勝っている自信がある。しかし、ターニアが作った料理は俺に感じたことが無いほどの感動を与えた。その要因をターニアは愛情だと言った。その未知の力――愛情を知りたいと思ったのだ。
ターニアは、俺の質問があまりに予想外だったのか、小さな口を開き、ぽかんとしている。
やがて「……うふふ」と今日一番楽しそうに笑うと、ターニアは腕を後ろに組み下から俺を覗き込むように俺を見つめてくる。
レック、こういう仕草は男をドキドキさせるからやめるように教育しておいてくれ……。
「テリーさんって、結構不器用だって言われない?」
なんてことを、確信めいた口調で聞いて来る。
思わずドキッとしてしまう。
「…………言われる」
主にバーバラとかバーバラとかバーバラに。
俺の答えを聞いたターニアはおかしそうに「ふふふ」と笑うと
「笑ってごめんなさい、テリーさん。愛情を込めて料理をする方法よね? それはとても簡単なことよ。その人に美味しく食べてもらいたい、幸せになってほしい、元気になってほしいって想いながら作るの。――そして、これは料理だけじゃないわ。そういう人の想う心ってね? とても大切で強い力だと思うの。私は自分一人の力で生きているわけじゃない……、沢山の人に支えられて生きているわ。私はそんな人達皆に幸せになってもらいたい、そう思っているの。するとね、不思議と自分の体に力が湧き上がってくるの」
優しくゆっくりとした口調で語ってくれたターニアの思想――それは俺にとっては新鮮で衝撃的なものだった。これまで大半の人生を自分の為だけに生きてきた俺にはなかった価値観だ。
――想う心、愛情か。
「えへへ、ちょっと偉そうに色々言っちゃったね……。今のは恥ずかしいから他の人には言わないでね?」
少し頬を赤らめて悪戯っぽく舌を出すその姿は、破壊的な可愛さだった。まさに神が起こした奇跡だ。
ターニアの可愛さに頭がショートしていると、ターニアが再び静かに話しかけてくる。
「……私ね、テリーさんは凄く優しい人だって分かる――私こう見えても人を見る目はあるのよ? だからテリーさんなら沢山の愛情を込めることができるわ! ……ううん、テリーさんが気付いていないだけで既に――」
そんなことを言ってくる。ターニアは決して嘘を吐かない――それは間違いない。そのターニアが俺を優しいという。俺もターニアのように愛情を振りまくことができるとも。……いや、無理だろう。ターニアと俺を比べるなんておこがましいにも程がある。
「俺がか?」
「うん!」
ターニアは、疑いなど微塵も無いと言うように満面の笑みを浮かべている。ターニアがそう言うのなら俺に否定することはできない。
「……そうか、正直まだよく分かっていないが……」
「ううん、テリーさんならいずれ分かると思うわ」
愛情か……。
心の中でそう呟くと自然とバーバラやミレーユの顔が思い浮かぶ。
……今度、料理をする時、ちょっと意識してみるか。
そんなことを考えていると、ターニアが羨ましそうにこちらを見つめていることに気付く。……何事だ。
「……どうしたんだ? 何かしてしまったか?」
「……ううん、ごめんね。ただテリーさんに大事に思ってもらっている人がちょっと羨ましいなって……」
恥ずかしそうにそう呟くターニア。何を言っているんだ?
俺はターニアが何を言っているの理解できずに困ってしまう。下手なことを言って、ターニアを傷つけてしまえば切腹ものだ。……しかしなんて答えればいいんだ?
「あ、困らせちゃってごめんね? さあ、皆に喜んでもらえるように続けて頑張ろうね!」
ターニアは切り替えるように元気よく振舞う。俺はターニアの態度にモヤモヤしつつも「ああ」と答えた。
それから俺達は意識を切り替えて、協力して料理を完成させることができた。その出来栄えはこれまでで一番の自信があった。
ターニアの愛情が籠った俺の料理だ――不味いわけがない。