テリーに転生したので、ネタキャラ扱いされないよう強くなる   作:なー

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第十九話

 ようやくムドーの島に到着した俺達。否が応でも決戦の時が近いことを認識させられ、得も言われぬ緊迫した雰囲気に包まれる。

 俺達は手早く錨を下ろし、上陸の準備を進めていく。

 

「よしっ! とうとうムドーの島についた! 皆、準備はいいかい?」 

 

 今度こそ本物のムドーと戦うとあって緊張と不安を感じているはずのレックだが、それを一切感じさせない勇敢さで俺達に檄を飛ばす。

 

「おうよっ! ムドーに俺達の実力を見せつけてやろうぜ!」

「ええ! はやく行きましょう!」

 

 いち早く元気に反応したのは、パーティー内の盛り上げ役であるハッサンとバーバラ。少し遅れてミレーユとチャモロも「……いよいよね!」、「集中しないといけませんね……」と意識を集中させている。

 皆が気持ちを一つにする中、俺の意識はある人物に向けられていた。

 俺も違う意味でだが、ムドーとの決戦には全身全霊で挑む覚悟が既にできている。

 しかし、それ以上にこのタイミングで起こるはずのイベントが気がかりなのだ。

 

「……ん? なによテリー、私の方を見て。私の顔に何かついてる?」

 

 俺の視線に気付いたバーバラがそんなことを言いながら小さな手で顔をぺたぺたと触りだす。

 

「いや、別に何もない……」

「……ふーん? テリー、もしかして緊張しているの? 急に数時間も瞑想しだすし……。大丈夫よ! 私が支えてあげるじゃない!」 

 

 バーバラが冗談ぽく明るい口調でそんなことを言いながら、俺の肩を乙女とは思えない力でばんばんと叩いて来る。普段なら叩くな、と突っ込みを入れるところだが、俺はあることを考えていた。

 

 ゲームでは、ここでバーバラは船に残ると言い出していたが……。

 

 そう、このタイミングでバーバラは船に残ると言い、一時パーティーを離脱するのだ。黄金の竜であるバーバラはミレーユが持っているオカリナの音色を合図に俺達をムドーの城に送り届ける使命があるのだ。その為、バーバラはこの船に残る選択をしたのだ。とはいえ、ここはゲーム内では明確に説明が無く、ぼかされていた部分だ。俺はほぼ間違い無いと思っているが確信は無い。

 ……大丈夫だろうか。

 こうして皆がやる気に満ちているところに、自分だけ船に残ると言い出すのはさぞかし勇気がいることだろう。

 ……でも今のところバーバラは行く気満々なんだよな。どういうことだろうか?

 

 

 

「――――あ」

 

 

 

 俺が不思議に思っていると、バーバラが突然短くそう呟くと、先ほどの明るい雰囲気から一転、険しい表情へと変わっていく。

 ……突然どうしたんだ? もしかして自分の使命を思い出したのか?

 何かきっかけがあったようには見えなかったが……。

 

「どうした?」

 

 訝しげに思いつつ俺がそう聞くもバーバラはそのまま俯いてしまい、顔色を窺うことができなくなってしまう。

 

 

 

「今―――ゲント―――――――声―――、それに――前――夢――――じゃあ私って…………、『――』なの?」

 

 

 

 バーバラは俺にも所々しか聞き取れないほどの小さな声でそう呟いている。

 ゲント? 声? 夢? ……何があったんだ?

 

「大丈夫か、バーバラ?」

 

 そう声をかけずにはいられなかった。それほどにバーバラの様子はただ事では無かった。その証拠に俺が声を掛けても尚、それに気付かない程だ。

 

「おい、バーバラ!」

 

 今度は俺にしては珍しく大きめの声でそう呼びかける。これによってレック達も何事かと俺達に注目してくる。バーバラもようやく俺の呼びかけに気付き、ゆっくりと顔を上げ、俺を見つめてくる。

 そして俺は驚いてしまう。

 

 バーバラが酷くショックを受け、怯えていたからだ。

 

 その小さな体は、カタカタと震え、大きな瞳は動揺のあまり儚く揺れている。

 こんなバーバラは初めて見る。普段のバーバラからは想像もできない様相だ。最初にレイドックで出会った時でもここまででは無かった。

 

「……どうした、バーバラ? 気分が悪いのか?」

 

 バーバラの異常に不安に駆られ、早口気味にそう声をかける。レック達も心配そうにバーバラの周りに駆け寄ってくる。

 バーバラはそんな俺達を見ると、再び顔を伏せてしまう。そして数秒の沈黙の後。

 

「………………私、この船に残る。理由は……、ごめん、言えない」

 

 弱々しく呟いたこのバーバラの言葉にレック達は驚愕する。

 

「どうしたの、バーバラ? もし体調が悪いのならあなたを放っておけないわ」

「そうだよ、バーバラ。僕たちは仲間だ。何か困りごとがあるなら言ってくれ」

 

 ミレーユとレックが優しくそう声をかけるも、バーバラはそうじゃないと言うように首を横に振る。

 

「おいおい、どうしたんだよ? ここまで来たんだぜ? ムドーを一緒にぶっ飛ばそうぜ! もしかしてびびっちまったのか?」

 

 ハッサンの冗談を交えた言葉にも、バーバラは小さな声で「ごめん」と答えるだけに留まる。普段自分を馬鹿にしているバーバラの変わりようにハッサンも困ったように頭をぽりぽりと掻いている。チャモロはどうしたらいいのか分からず静観している。

 

「……分かった、バーバラがここに残るべきだというのならそうしよう」

 

 皆が静まり返る中、俺の言葉は異様なほどよく周囲に響く。バーバラ含めて、皆が俺の方に注目する。

 バーバラ以外の四人は困惑したように俺を見つめている。本当にそれでいいのか、そう問われているようだった。

 バーバラは、不安そうに俺を見つめている。

 

 ……ここは、考えて喋らないとな。

 考えて喋るとか俺の苦手分野だが頑張るしかない。

 

「……バーバラがそうするべきだと言ったんだ、ならそうするべきだ。理由が言えないのも事情があるのだろう。……バーバラは意味の無い事を言わない。…………バーバラのことは信用しているからな」

 

 少し恥ずかしかったが噓偽りの無い俺の考えを言い切る。仮に俺にゲームの記憶が無くても同じ言葉を言っただろう。

 真っ先に反応したのはバーバラ。

 まず驚愕、大きな瞳をさらに大きくしてそこに俺を映す。そしてすぐにその顔を紅潮させていく。同時に嬉しそうに、しかしどこか悲しそうな表情を浮かべる。

 

「テリーがそう言うならいいけどよ……」

「ふふ、テリー。そうねあなたの言うとおりだわ」

「私もテリーさんがそう言うのであれば異論はございません」

「…………決まりだね」

 

 と、四人も納得してくれた。何とか丸く収まってくれて良かった。予想していなかった事態だけにかなり焦ってしまった。

 

 ……本当にバーバラに何があったんだ?

 心配だが、今はムドー戦に向けて気持ちを切り替えないとな。

 

 バーバラは、顔を赤くさせたまま俯きがちに「ありがとう」と俺に一言述べるとそのまま船室に駆け足で向かって行ってしまった。

 そうして俺達は、後ろ髪を引かれる思いではあるものの船を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖なる力が満ちる不思議な空間。

 火を消したばかりの焚火跡から炭の香りが風に乗って漂ってくる。

 ムドーの島を問題無く突破した俺達はオープニングの場所でもあるここで一晩を過ごし、休息をとった。

 準備を済ませた他の四人はこの先のムドーの城が見える崖まで行ってしまった。薄暗い空間で俺は意を決してゆっくりと立ち上がると、やがて歩き出した。

 

 崖上には風が吹き荒れ、天には黒雲が立ち込め雷が轟いている――、まるで俺達の不吉な未来を暗示しているようだ。

 ここから見えるその先、蠢く闇のさらにその奥、そこに不気味にそびえ立つ巨大な城があった。間違いなくムドーの城だ。

 

「……いよいよね」

 

 ――真っ暗なこの世界で透明な声が響く。

 姉であるミレーユが、凛とした面持ちで俺達を見つめる。

 

「……やっぱりだ、どこかでこの景色を見たことがある気がする」

「そうだ、僕も覚えがある。記憶が正しければこの後――」

 

 レックとハッサンは、かつてと同じ景色を目にして、ムドーに挑んだ時のことを思いだし始めているようで困惑している。一方のチャモロは瞼を閉じて集中している。俺も準備はできていると答える代わりに真っすぐにミレーユを見つめる。レックとハッサンも未だに混乱しつつも一旦は意識を切り替え集中しミレーユを見つめる。

 皆の意識が一つになったことを確認したミレーユは、くるりと俺達に背を向け、崖の先までゆっくりと歩いていく。そして、崖の淵で歩みを止めたミレーユは、鞄から例のオカリナを取り出す。

 

「この笛を吹くと私達はムドーの城に運ばれていくでしょう……。さあ、吹くわよ」

 

 ミレーユは確信したようにそう言うと静かな動作でオカリナをそっと口に添えて吹き始めた。

 オカリナから奏でられる透明で美しい音色が周囲に溶け込んでいく。

 

 ……綺麗だ。

 

 思わず俺は姉であるミレーユの姿に引き込まれてしまう。黒雲が立ち込めるこの闇の世界は寧ろミレーユという存在を際立たせる舞台のようである。オカリナを吹くミレーユの姿はまさに天から舞い降りた女神のように見えた。それは他の三人も同じようで、ミレーユを見つめながら、聞こえてくる心地よい音色に身を委ねているようだ。

 やがてオカリナを吹き終えたミレーユは、そのまま後ろを振り返り、天を仰ぐ。俺もミレーユと同様に、天に視線を向ける。

 

 ……さあ、来るぞ。黄金の竜が。

 

 俺がそう思った瞬間だった。

 

 

 

 グオオオオオッッ!!

 

 

 

 雷鳴をかき消すほどの力強い咆哮が轟く。

 闇とは対照的な黄金の体を持つ、ドラゴンが巨大な双翼を羽ばたかせながらゆっくりと舞い降りて来た。神秘的なオーラを纏い、先日降臨したルビスを彷彿させる。

 そしてそんな黄金の竜を生で初めて見た俺はと言うと。

 

 か、かっこいいっ……。

 

 全身が雷に打たれたような感覚に襲われる。強さ、美しさ、気高さ、その全てを兼ね備えた存在を前に俺は、その姿が魅了されてしまう。こんなことは初めての経験だ。

 

 いいなぁ、バーバラ、いいなぁ……。

 俺もドラゴラム覚えたらこんな風に変身できないものか。

 

 黄金の竜がバーバラであると信じている俺は、心の底からバーバラを羨ましがる。さらにある事に気付きさらに驚く。

 

 ……すごいな、この魔力。人間の姿の時とは比較にならない程強いじゃないか。

 

 黄金の竜からほどばしる魔力の奔流に思わず目を瞠る。これが本来のバーバラの力ということなのだろう。

 

「テリー! 何をしているの? 早く乗りなさい!」

 

 俺がしばらく黄金の竜に見惚れていると、ミレーユの叫びが聞こえて来た。どうも他の四人はとっくに黄金の竜の背中に乗り移っているようだった。

 心なしか黄金の竜も困惑しているように見えた。その様子はやけに人間味を感じさせ、困った時のバーバラの姿が重なった。やはりこの竜はバーバラであると確信する。

 バーバラをこれ以上困らせるわけにはいかないと慌てて背中に飛び移る。再び咆哮を上げた黄金の竜が背中に五人乗せていることを感じさせない力強さで上空に上がっていき、ムドーの城目掛けて物凄い速さで飛んでいく。俺達の行く手を遮るように激しい雨が降り始め、雷や風も益々激しさを増していく。しかし、黄金の竜は止まらない。全てを切り裂いて真っすぐにムドーの城に向かって行く。

 やがて、ムドーの城に付いた黄金の竜は俺達を下ろすと、上空に羽ばたいていく。

 黄金の竜が見えなくなる寸前に聞こえた一際大きな咆哮は俺達に向けた激励のようであった。

 

 

 

 

 

 その後、俺達はそう時間をかけずにムドーの城の最深部にやってくることができた。目の前にある巨大な扉の向こうにムドーが待ち構えていることだろう。

 

「……この奥にムドーが待ち構えているはずよ」

「よっし! 行こうぜ! 今度こそ絶対に倒してやるぜ!」

「……今こそ、ゲントの力を発揮する時ですね」

 

 先ほど記憶を取り戻したハッサンがミレーユの言葉にやる気を出している。チャモロも眼鏡の位置を正しつつ、ゲントの杖を強く握りしめる。

 

 …………いよいよこの時が来たか。これから俺の夢とご対面か。

 レックが『ラーの鏡』を持っているとは言えどうなるか……。

 

 流石の俺も緊張してきて心臓が早鐘を打つように鼓動する。

 

「大丈夫かい、テリー?」

 

 俺の緊張を感じ取られてしまったのか、レックがそう声を掛けてくる。

 

「……ああ、大丈夫だ。問題ない」

 

 そう答えるもレックは少し可笑しそうに笑いだす。どうしたんだ一体。

 

「なぜ笑っているんだ?」

「いや、ごめんね。君ほどの強さを持っていても緊張するんだなって思うと少し可笑しくなっちゃって……」

「……俺だって緊張くらいするさ」

「はは、そうだね。僕もそんなこと言いながら怖くて緊張しているんだ」

 

 そう答えながらレックは、にこりと笑顔を向けてくる。そのままレックは続ける。

 

「でもテリーや皆がいるからこうして逃げ出さずにいられるんだ。……みんなで力を合わせればきっとムドーを倒せる! さあ、行こう!」

 

 レックの言葉に皆が頷き合い、レックが扉に手をかけゆっくりと開いていく。

 

 

 

 扉を開けた先に広がっていた光景は、少し先さえも見えないほどの濃い霧だった。ただの霧で無い事はそこら中に充満した魔力が物語っていた。

 

 ……凄いな、これも魔法なのか? 普段俺達が使用する魔法とはまた別のムドーが持つ固有の幻惑魔法ということなのか。

 

 魔法使いを極めた俺がつい考察していると、全身が金縛りにあったように動かなくなり、体が宙に浮いてしまう。

 

 ……っ! ……だめだ、ゲームの展開と同じで本当に体が動かないな。ムドーってやっぱり凄いんだな。これも魔法なのだろう。俺、魔法はまだまだだしな……。

 

 バトルマスターで高レベルの俺でさえもこの不思議な力には抗えない。もしかしたら抵抗できるかもと考えていたが無理そうだ。このまま俺は夢の世界に飛ばされることだろう。俺は大人しく腹を括る。

 

「だ、だめだ、これじゃあの時のように!」

「きゃっ!?」

「うわっ!」

 

 他の四人もどうすることもできず、慌てたように口々に叫んでいる。

 そこへ、どこからともなく地獄の底から響くような邪悪な声が聞こえてくる。

 

 

 

「わっはっはっ!! 夢の世界の私の偽物を倒して思いあがったか? お前たちのような虫けらが何度来ようともこの私を倒すことなどできぬ! 再び石となり、永遠の時を悔やむといい!」

 

 

 

 そして俺の意識はぷつりと切れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………う、んん。俺は一体……。

 

 頭の中に靄が掛かったように意識がぼんやりしている。しかし、時間の経過と共に少しずつ意識が戻ってきて思考できるようになっていく。

 どうやら俺はどこかに横になっているようだ。そして、なにやら独特な臭いがしてくる。悪いものでは無い。……これは木の香り?

 

 目を開くとそこにはなんとも不思議な空間が広がっていた。

 巨大な樹木の根っこで覆われたトンネルのような部屋だった。木の根っこの間からは陽光が差し込み、部屋全体が光り輝いている。俺が横たわっているところは台座のようになっており、ふわふわしており、寝心地は抜群だ。

 

 ……なんだここ?

 

 上体を起こし、きょろきょろとあたりを見渡す。こんな場所は見たことが無い。俺以外には誰もおらず、木の根っこのトンネルの奥には扉が見える。あそこから出ればいいのだろうか?

 俺がそんなことを考えていると、ようやく思考が纏まり、俺に起きたことを思いだした。

 ――そうだ、俺はムドーと対峙してここに飛ばされたのだ。

 

 ……ということはここが俺の夢?

 

 

 

「――――わた、わた」

 

 

 

 その時だった。誰もいなかったはずのこの空間に声が響いた。急いで声のした方に視線を向ける。

 そこにいたのは、見たことも無いなんとも不思議な生物だった。

 ふわふわと上空に浮いたそれは、白い毛皮に覆われた小柄な生き物だった。頭からぴょこんと生えている毛?みたいなのが特徴的だった。人間でないのは間違いないが魔物と断定してもよいのか分からなかった。魔物にしては纏っている力が神聖なものだったからだ。それに見た目に反してとんでもない力を感じる。これまで見てきた中で一番強いと断言できる。俺は警戒を強め、何が起きても反応できるように集中する。

 その不思議な生物は、驚いたように俺を見つめて再び口を開く。

 

 

 

「――まさかこんな形で『君』と出会うことになるなんてね。…………なるほど、魔王ムドーの魔法か。しかし、こんなタイミングでね……、これも運命ということなのかな……?」

 

 

 

 その生物はそんなことを言うと、「……こほん」とわざとらしく咳払いすると、訳が分からず固まっている俺に笑顔を向けてくる。

 

 

 

「君をこう呼ぶのはなんだか違和感があるね……、はじめまして、テリー。僕は『タイジュの国』の精霊、『わたぼう』って言うんだ。よろしくね!」

 

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