テリーに転生したので、ネタキャラ扱いされないよう強くなる 作:なー
タイジュにわたぼう、ね。
…………何だそれ?
少なくともドラクエ6において、タイジュとやらも目の前にいるわたぼうも存在しなかった。しかし、だからこそ俺のドラクエ6を好きな心が燃え上がる。これは言わば本編で語られなかったテリーの夢に触れることができたということなのだから。
とはいえ油断はしない。ルビス様の警告を今一度思い出し、わたぼうに向き直る。今はとにかく情報を集めなければ。冷静に……あくまで冷静に……。
「お前は何者なんだ? 俺のことを知っているようだがなぜだ? わたぼうと言ったが魔物なのか? なあ、どうなんだ? 答えてくれ!」
「ちょ、ちょっと!? 落ち着いてよ! そんな息を荒くして迫らないでよ!」
気付けば俺は、わたぼうに掴みかかるように質問していた。好奇心とは恐ろしい。……そりゃあ、長年の謎が分かるかもしれないのだ。息も荒くなるというもの。しかし、このままでは一向に話が進まない。仕方ないので深呼吸をして無理やり気を落ち着けて再度わたぼうに向き直る。
「悪かったな、少し取り乱した……」
「少しだったかな……? というか本当に君はテリーなのかい? こちらのテリーとは性格が随分違うようだね……」
「……一応ちゃんとテリーだよ。それより、ここにはもう一人の俺がいるのか?」
「そうだね。その通りだよ」
予想はしていたがやはり俺にも夢の世界に生きる俺がいたのか。なんかそれが分かっただけでも感動だ。
「……そうか。それでわたぼう、改めてお前は何者なんだ? 魔物なのか?」
「さっきも言ったけど僕は精霊だよ。……でもまあ、一応分類上は魔物になるのかな?」
わたぼうは、うーんと考えながら答える。その仕草はやけに人間臭く、魔物の姿に化けた人間と言われた方がしっくりくるほどだった。敵意は全く感じない。
精霊と言うとルビス様が思い浮かぶが、このわたぼうとルビス様は同類の存在と言うことなのだろうか? とてもそうは見えんが……。どう見てもマスコットキャラクターにしか見えない。まあ、精霊にも色々あるのだろう。
「……そうなのか。しかし魔物か……。急に俺を襲ったりするなよ?」
しかしわたぼうが強い力を持っていることは間違いないので、試す意味も含めてそう言ってみる。
わたぼうはきょとんとした後、呆れたように溜息を漏らす。
「君は魔物を何だと思っているんだい……。僕はそんなことしないよ。そもそも魔物は純粋な生き物なんだよ? まあその分、邪気にも染まりやすいのは確かだけどね」
純粋ね……確かにわたぼうからは邪気を一切感じない。それに似たようなことをチャモロも話していたな。確かチャモロは魔物と人間は分かり合えるって言ってたんだっけか……。
そう言えばこのドラクエ6の物語は、人間と他種族とのやり取りを描いたシーンが多いような気がする。人魚とか雪の精霊とか、チャモロの故郷であるゲントの村の件もそうだ。偶然とは思えない。そこには意図があるのだろう。自分の中で点と点が結びついていくのを感じる。
ドラクエ6とは人間と魔物を含めた多種族の在り方について描いた物語――。
そう考えると妙にしっくりくる。
……それにそういう意味で言えばバーバラも――。
……。
「そうか、疑って悪かったな。よろしくな、わたぼう」
「……やけにすんなり理解してくれたね。まあ、テリーだから当然だね」
一瞬驚いたわたぼうだったが俺だからという謎の理由ですぐに納得してくれた。会った時からそうだが、このわたぼうは俺の事情にも詳しいようだ。であれば色々聞いて俺の夢の正体を突き止めるのがいいだろう。
「ところでここはタイジュの国と言ったが、俺のいた世界とは完全に別の世界なのか?」
「うん、時間も空間も断絶された完全な異世界だよ。唯一の繋がりは君自身だよ」
「……俺の夢だからか。しかしなんで俺の夢だけこんな異世界なんだろうな……。他の人は皆同じ世界に夢が具現されているのに……」
「うーん、それは僕も詳しくは分からないね。でも、多分だけどテリーの夢があまりにも大きすぎたからじゃないかな? 従来の夢の世界には収まらなかったんだよ。まあ、知らないけどね、あはは」
「適当だなおい……」
楽しそうに笑うわたぼうに今度はこちらが呆れてしまう。こんな感じでも精霊やれるのか……。
「……そう言えばここは何なんだ? 何かの部屋のようだが」
可笑しく笑うわたぼうを見続けるのもなんとなく癪だったのでとりあえず思いついた質問を投げかける。この部屋自体が不思議な力に満ちており、俺が最初に腰掛けていたのは何かの台座であり、儀式でも執り行いそうな雰囲気だ。
「え? ああ、ここは『ほしふりのほこら』だよ。愛が形を為し、新たな命が誕生するとても神聖な場所さ。一言で言えば『配合』を行う場所だね」
「なんだそれ……? 配合? 何かを組み合わせるのか?」
「え? まさか知らないのかい? えっとね……、ここを訪れた魔物同士の愛がタマゴの形になってここに誕生するんだよ。そのタマゴから新たな魔物の命が誕生するんだよ。これが配合だよ」
「……へぇ」
「……本当に知らないのかい? この法則は君の世界でも変わらないはずだよ。それを配合と呼んでいたかはわからないけどね」
「……いや、初耳だし知らん」
なんでそんなことも知らないのかみたいに言われてもな……。
わたぼうは酷く驚いたようにこちらを見つめているが、知らないものは知らない。
魔物のタマゴって言われても、こっちの世界にそんなタマゴはない……。
いや、待てよ。ドランゴがいた洞窟にもタマゴがいっぱいあった気がする。俺に八百長疑惑がかけられる舞台となった例の洞窟だ。あれは多分ドランゴが産んだのだろう。ということはこっちの世界でも魔物はタマゴから生まれるという事になるのか?
……後、タマゴと言えば、ゼニスの城にもあったな。
ゲームの最後、何かが生まれるんだよな。何が生まれたかは分からなかったけど ……まさかあれも魔物のタマゴなのか? いや、まさかな……。けど、あれも大きな謎の一つなんだよな。バーバラとゼニス王が自分たちの未来が生まれたとか言ってたしさぞかし重要な存在なんだろうけど。
……ん? ちょっと待て。
「…………おい、今魔物って言ったか? まさか魔物の子がここで生まれるってことか?」
「うん、そうだよ」
それがどうしたと言わんばかりのわたぼう。嫌な考えが浮かび、次第に不安に襲われてしまう。
「……そ、そうか。ということはここはもしかして魔物達の拠点か何かなのか?」
先ほど魔物は純粋だと聞いたばかりではあるが、ここが魔物達の拠点とあれば流石に身構えずにはいられない。そう思っての確認だったが。
「ううん、違うよ。最初にも言ったけどここはタイジュの国、人間達の国さ。とはいえ僕も含めて魔物達も一緒に暮らしているから人間だけの国と言うわけではないけどね」
「え? 人間と魔物が一緒に暮らしているのか?」
「そうだよ。この世界では魔物と人間が協力し合う世界なのさ」
「まじか……」
「まじだよ」
真面目に答えるわたぼうの様子から、冗談を言っているわけでは無い事が伝わる。一応、こっちの世界にも『魔物使い』はいたが、かなり珍しかったし、少なくとも魔物と人間が共存する国なんて存在はしなかった。俺達の世界とは根本的に何かが違うのだろう。
「まあ、君がいた世界とはずいぶん違うし、混乱する気持ちは分かるよ。この世界では、魔物は強さを求めて『モンスターマスター』である人間について行くんだよ」
俺が驚きで固まっているところにわたぼうがそう続けてくる。
……モンスターマスターか。また知らない言葉だ。
「なんだそのモンスターマスターとやらは? 俺の世界に魔物使いという職があったがそれと同じようなものか?」
「魔物を従えて他の魔物と戦わせたり、他のモンスターマスターの魔物と戦わせたりするんだよ。君の世界の魔物使いとは少し違うかな」
「……そうか。変わった世界なんだな……」
「君が言うんだね……」
魔物を従わせて……ね……。要は魔物の力を借りるということか。
この世界は元来のテリーが創り出した世界なのだろう。ということは、姉さんを守れなかった後悔から魔物の手を借りてでも力を欲した結果この世界が生まれた……とかだろうか? ということは……。
「もしかして、この世界の俺はその『モンスターマスター』なのか?」
俺がそう問いかけると、わたぼうは待ってましたとばかりに誇らしげに笑みを浮かべて俺に答えてくる。
「ああ、そうだよ! この世界のテリーは最強のモンスターマスターなんだよ! 僕の目に狂いはなかったんだよ! 『ワルぼう』が連れて行っちゃった天才のミレーユも打ち破ったんだよ! いや~、あの時の勝負は今でも昨日のことのように覚えているよ――」
「――ちょっと待て! 姉さんがいるのか!? この世界に!?」
聞き捨てならないワードが聞えて懐かしそうに語るわたぼうを遮る。
「うわっ!? びっくりした……。もう、急に大声をださないでよね」
わたぼうは空中で後ろにのけ反るような仕草をとったが、驚きの仕草だったらしい。思い出を語っているところを急に遮られて不満気な様子である。しかし、俺はそれどころでは無い。急に姉さんの名前が出てきて心臓が大きく脈打っている。
「……わ、悪い。ただ姉さんの名前が出て来たんでつい」
「まあ、いいけど。……本当に君はお姉さんが大好きなんだね。そこはどっちの世界の君でも同じなんだ」
「……さっさと答えてくれ」
わたぼうにからかうようにそう言われた俺は顔が熱くなるのを感じながら早く先を言えと促す。
「はいはい。えっとね、モンスターマスターの頂点を決める大会――『ほしふりの大会』の決勝戦、そこで『マルタの国』の代表として立ちはだかったのがミレーユだったんだよ。その大会で優勝したテリーは無事お姉さんと元の世界に帰ることができたんだよ」
「……再会? まさかここでも俺は姉さんと引き離されていたのか?」
「うん。マルタの国のワルぼうが有望なモンスターマスター候補としてミレーユを連れて行っちゃったんだよね。そこで僕は仕方なk――ごほんっ! 僕はテリーの方が優秀だと見抜いていたから君をこのタイジュの国にモンスターマスター候補として連れて来たのさ。新たなモンスターマスターを連れてくるのが僕達精霊のお仕事の一つだからね。ほしふりの大会で優勝すれば願いが叶うと知ったテリーはお姉さんと再会する為、この世界でめきめきと力を付けていったってわけさ」
……なんか色々ややこしいな。
要するにこの世界でも俺は姉さんと引き離され、再会するために色々頑張ったのだろう……。
世界は違っても結局本質は現実世界と同じというわけか。……違うか、現実世界で姉さんを救えなかった後悔から、姉さんを救い出す夢の世界を思い描いた、というのが正解だろう。
しかし、話を聞く限りこの世界の物語はもう完結しているように思える。夢の俺も姉さんと再会して帰ったと言っていたしこちらの世界の俺は満足したのではないだろうか。ルビス様やグランマーズが心配するような事態にはなっていないように思えるが。
ここまで考えたところで、ふと。
俺はある事に気付く。
「…………なあ、わたぼう。ここは『国』だって言ったよな?」
「うん? そうだよ?」
「その割には……静か、すぎないか?」
そう、今更気付いたが、俺がこの世界に来てからわたぼうと俺の話し声以外の音が全く聞こえないのだ。ここがダンジョンの奥だという事ならば納得はできるが国だと言う。それもわたぼうの言葉を信じれば、ここはこの国にとって重要な場所にも関わらずだ。
そして質問を受けたわたぼうはと言うと、先ほどまでの楽し気な様子はどこへやら、悲し気に顔を俯けている。まずいことを聞いたのかと思うと同時にわたぼうが「……あはは」と自嘲気味に笑う。
「気付いちゃったか……。そうなんだ。偉そうにここはタイジュの国だなんて言ったけど、今この国には人も魔物もいない。皆には今マルタの国に避難してもらっているんだ。流石のワルぼうも状況が状況だけに文句ひとつ言わず協力してくれたんだよね……。僕や他のモンスターマスターではどうにもならなかったからね。結果、ここにいるのは僕だけさ」
わたぼうの突然の絶望した様子を見て緊張が走る。
しつこいようだが、目の前にいるわたぼうはこんな見た目だが物凄く強い……はず。俺の見立てではそれこそ大魔王に匹敵する程度には。そんな存在がどうにもならないと言っているのだ。
……いや、その要因は分かっている。
これこそ、ルビス様やグランマーズが警告に繋がるのだろう。
「この世界の俺――テリーが何かしているのか?」
俺の言葉にわたぼうは驚いたようにそのくりっとした目をこちらに向けてくる。しかし、やはりすぐに消沈したように項垂れてしまう。よほど追い詰められているらしい。
……俺、何をしたんだよ。
どうしたものかと思っていると、わたぼうがぽつぽつと語り始める。
「…………ほしふりの大会までは良かった。本当に楽しかった。国中がかつてないほど盛り上がっていたよ。モンじいが優勝した時以上だったな……」
わたぼうは遠い過去を思い出すようにここではないどこかを見ながら語る。
「お姉さんと再会したテリーは一度自分の世界に帰ったんだけど、もう一度この世界に戻って来たんだ」
「戻って来た……? なぜだ?」
俺がそう質問すると、わたぼうはじっとこちらを見つめる。わたぼうが浮かべる表情はとても寂しいものだった。俺は思わず口をつぐむ。やがてわたぼうは答える。
「さらなる『力』を求める為だよ」
――っ!?
それって――。
その瞬間だった。
外から耳をつんざくような爆発音が聞こえた。その直後、部屋全体が地震でも起きたかのように激しく震える。
「な、なんだ!? 何が起きた!? この国には誰もいないんじゃないのか?」
突然のことに軽くパニックになった俺は、防衛本能から慌てて剣の柄に手を添える。
……今の爆発音。並大抵の魔法じゃない。
混乱しつつも脳内でそう分析すると、臨戦態勢に入る。
「来たか……。そろそろだとは思ったけど。改めてテリー、君は凄いタイミングでこの世界に迷い込んだね……」
同情するように俺にそう告げたわたぼうも俺と同様に臨戦態勢に入っていくのが分かる。
「おい! 来たってなにがだ!? ……まさか俺か?」
「……うん、お察しの通りだよ」
俺の問いにやや間を置いて答えたわたぼうはそのまま続ける。
「ある時、テリーに不思議なことが起きたんだ。知らないはずの記憶がテリーに与えられた。それと同時さ、テリーが変わってしまったのは……。テリーは与えられた記憶を頼りに配合を重ねていき、究極の存在を生み出そうとした――誰も敵わない最強の魔物をね」
……知らない記憶を与えられた?
…………凄い覚えがあるんだが、その現象。
その時、再度外部から強烈な爆発音が聞こえた来た。続けて、斬撃音や衝撃音。ここにいてもその凄まじいエネルギーが伝わってくる。
というかこれ……。
「――おい、これ、誰かと誰かが戦っているんじゃないか?」
わたぼうの口ぶりからこっちの世界の俺が一方的に攻めてきたのかと思ったが違うようだ。しかし妙だ。わたぼう曰く、この国にわたぼう以外の住民はいないのに。
「……本当だね。一体誰だろう? この国にはもう誰もいないはずだけど。……この戦いの規模からしてモンじいが助太刀にでも来てくれたのかな? 嬉しいけど、無駄だよ……。既にそうやってたくさんのモンスターマスターが犠牲になったのに……」
どうやらこれはわたぼうにとっても予想外の事だったらしい。というか犠牲って……、思ったより事態は深刻そうだ。
「とにかく様子を見に行かないか? 待ちぼうけは性に合わないしな。それに自分の夢の正体を知る義務があるしな。この世界に迷惑をかけているようだし」
「……そうだね、ここにいても仕方がないしね」
というわけで俺とわたぼうは急いで部屋を出て外にでた。
外に出て広がっていた世界は、巨大な森の海にどこまでも広がる青空だった。そして俺がいたのは数百メートルはあろうかという巨大な樹であったことが分かった。何もなければ感動してしばらく景色を眺めただろうが今はそれどころでは無い。
「どうやら上の牧場で戦っているらしいね、行こう!」
わたぼうがそう言ってひゅーんと飛んでいくので、俺もその辺の大きな枝を次々に飛び移りながら上に向かって行く。
しかしその途中、上で一際大きな爆発音が聞こえた。その衝撃はこの巨大な樹すらも折れるのではないかというほど。俺も一瞬びびってしまう。
上で巨大な煙が立ち上がり、瓦礫や木の枝が飛び散る様子が見える。
それに混じって一人の『子供』も吹き飛ばされている。
――って子供!?
戦っていたのって子供だったのか!? 嘘だろ!?
一瞬思考がフリーズしたが、すぐに我に返ると子供が飛ばされた方向に切り替えて向かって行く。わたぼうが「テリー!?」と声を掛けてくるが無視する。近づいていく毎にその子供が女の子であることが分かる。どうも気を失っているようである。あのままでは樹に激突してしまう。
ここで女の子の後を追うように樹の頂上から見たことの無い魔物三体――あ、メタルキングだけ分かる――が慌てたように上から飛び降りてくるのが見える。
一瞬、女の子を襲った魔物達かと考えるがどうも違う気がする。落ちていく女の子を絶望した様子で見つめているからだ。まるで大切な存在を失うことを恐れるように。魔物もあんな表情浮かべるのかと驚愕してしまった。
魔物達のことは一旦置いておき、俺は女の子にどんどんと向かって行く。その距離はもう数十メートルほど。ようやく女の子の姿が鮮明に見えてきたのだが、再び驚愕してしまう。
――姉さんっ!?!?
間違いなく落ちてくる女の子は姉であるミレーユである。ただし、その年は十歳くらいの幼い容姿だが。
――というかやばいっ!
樹への激突までの猶予がほとんどない。俺は最後に足に全力で力を込めて大木を蹴って飛び出す。ミレーユが樹に衝突する直前、俺はぎりぎりで自身の体を滑り込ませてミレーユを受け止めることができた。遥か上空から落ちてきたにも関わらず不自然なほどミレーユは軽かった。
「――ん、んん。……テ、テリー……」
腕の中にすっぽり収まったミレーユは気絶しながらも苦し気にそう呟いている。どうも目立った怪我はなさそうだ。しかし一応、回復呪文『ベホマ』をかけておく。
…………何がどうなってるんだ。
すみません、かなり久しぶりの投稿となりました。
モンスターズ3してたらいつの間にかこんなに時間が……。