テリーに転生したので、ネタキャラ扱いされないよう強くなる   作:なー

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第二十一話

 ミレーユを受け止め一安心したのも束の間、上空から爆発によって巻き上がった瓦礫やらが降り注いでくる。俺はミレーユをお姫様抱っこの要領で抱いたまま巨大な枝の下に隠れるように逃げ込んだ。

 ……ふぅ、ここなら大丈夫か。

 そう判断し、膝をつきミレーユをその場にそっと横たわらせる。

 本当に姉さん……だよな?

 わたぼうから話を聞いていたとはいえ、やはり現実味が無い。

 しかし、幼さが残るが綺麗な金色の髪も彫りの深い小さな顔もミレーユそのものだ。 

 

「おーい、テリー。急にどうしたんだい? ――あれ、その子はミレーユじゃないか! ……そうか、上で戦っていたのはミレーユだったのか」

 

 急いで飛んできたわたぼうが幼いミレーユを見て神妙な表情を浮かべる。

 

「おいわたぼう。こっちの俺がこの世界に戻って来たのは教えてもらったが姉さんも戻ってきていたのか?」

「……いや、僕も知らなかった。多分ワルぼうがもう一度連れて来たんだろうね……」

「なんなんだよ、そのさっきから言っているワルぼうって、仲間か?」

「まあ、そんなところだよ。僕と同じ精霊だよ。マルタの国のね」

「そうか、なんか名前からして性格悪そうだな……」

「…………まあ、そこはご想像にお任せするよ」

 

 性格悪いのかよ……。いや、そんなことはどうでもいい。

 まずこの小さい姉さんをどうするか……。わたぼうの口ぶりからしてこっちの俺は滅茶苦茶強そうだ。そこに姉さんを背負っていくのは流石に……。でもこんな危険な状況で置いていくわけにもいかないしな。

 膝立ちのまま周囲を警戒しつつこれからの行動を思案している時だった。

 

 

 

「………………テリー?」

 

 

 

 ――――え。

 足元から小さな鈴のような声が聞えてくる。視線を下に向けると――ミレーユが起きていた。ミレーユは信じられないといったように、俺の姿を捉えたつぶらな瞳を大きく見開いている。

 ……か、完全に起きてる。

 ミレーユは上体を起こす。俺は膝立ちのままずりずりと後ろに下がる。ミレーユは、そんな俺をじっと見つめる。状況が理解できないようで驚いた様子でじっとこちらを見つめている。そりゃあ目が覚めたら現実世界の俺が目の前にいるとか意味が分からないだろうな。

 ……なにか声を掛けて安心させなくては。

 

「こ、こんにちわ……」

「…………え? え、あ、えと……こ、こんにちわ」

 

 突然の俺からの挨拶に、さらに混乱したミレーユは状況が理解できないながらも礼儀正しくぺこりと会釈してそう返してきた。

 なんかミレーユに気を遣わせたみたいで申し訳なさが込みあがってくる。

 ……違うんだよ。こっちの姉さんとは普通に接することができるんだけど、小さくなった姉さんにどうやって接していいか分からなかったんだよ。向こうは俺のこと知らないだろうし。くそ、顔が熱い。

 

「……テリー、どうしていきなり挨拶したの? 顔も赤いし」

 

 そこに空気の読めないわたぼうから素朴な質問が飛んで来るが無視。

 

「あなたはタイジュの国のわたぼう……? いえ、それよりやっぱりあなたテリーなの? で、でもテリーはさっきまで私と……。それにもっと小さいはず……。でもどう見てもテリー……。どうなっているの? これは夢? やっぱりテリーがあんな風になるわけが……」

 

 わたぼうが俺のことをテリーと呼んだことでミレーユは訳がわからないとばかりにぶつぶつとああでもないこうでもないと呟きながら思考に耽ってしまった。

 ……いや、というかこれ全部説明して理解してもらうのに小一時間はかかる自信があるんだが。仕方ない。

 

「時間が無いから手短に説明する。俺もテリーだが、別の世界のテリーだ。ねえs……君がさっきまで戦っていたのが多分こっちの世界のテリーだ。訳が分からないと思うが、今はそういうものだと思っといてくれ」

 

 俺が早口にそう告げるとミレーユはぱちくりと一度だけ大きく瞬きする。

 そして、俺の説明で僅かにでも賢いミレーユは状況が飲みこめたのだろう。「やっぱり、さっきまでのことは現実なのね……」そう言ってその整った幼い顔がどんどん歪んでいく。

 そして、ただ一言。

 

「…………逃げて」

 

 絶望と悲しみが混ざり合ったような言葉。今にも消え去ってしまいそうなミレーユ。

 こんな姉さんの姿は見たくない。

 例えこれが夢なのだとしても。

 

「テリーにはもう私の言葉は届かなかった。最早私の実力程度じゃ足止めにすらならなかった。このままテリーはこの世界を滅茶苦茶にしてしまう……。あの子は優しい子なのに……。どうしてこんな……」

 

 ポロ……ポロ……と、ミレーユの瞳から透明な雫が零れ墜ちていき、それがタイジュの樹に吸われていく。

 ……姉さん。

 

「――テリー。ミレーユの言う通りだ。君は逃げるべきだ。今、君の世界を探ったけど、お仲間が真実の光を放とうとしている。その光が君を元の世界に導く。時間の進み方がこことは違うからもう少し時間がかかるけど、それまで逃げるんだ。……僕が足止めするからさ。強さを求め続けたこちらの世界のテリーのモンスターマスターとしての実力ははっきり言って最強だよ。君が敵う相手ではない」

 

 覚悟を決めたようなわたぼうの言葉を聞いた俺はゆっくり立ち上がる。

 

 

 

「――――『70』だ」

 

 

 

「え? 70? なんだいいきなり? それより早く逃げ――」

 

 唐突な俺の言葉にわたぼうは懐疑的な視線を投げかけてきて早く逃げるように促してくる。しかし、それを俺は遮るように続ける。

 

「――俺の推定レベルだ。加えて種による強化――本来の俺のレベルカンスト時のステータスは超えているだろう。加えてバトルマスターによる職業補正。最早俺は引換券のテリーじゃないんだよ」

 

 幼少の頃から気が狂うほどの効率重視の経験値稼ぎに種集め。ダーマ神殿の加護が無い為、職業こそマスターした数は少ないが、それでも十分な強さを俺は既に身に付けている。ギリギリだが回復呪文も覚えるこができた。

 こっちの世界の俺が強さを求めたと言っていたが、それは俺も同じ。

 それに何より泣いている姉さんを置いて逃げるなんて弟の俺にできるわけないだろう。

 

 

 

「――――俺も戦う」

 

 

 

 その一言にわたぼうとミレーユが驚いたように俺を見つめてくる。まず最初にわたぼうが口を開いて来る。

 

「ごめん、テリーが何を言っているのかいまいちわからないや。……けどその表情を見れば分かる……。何を言っても無駄だってね。やっぱり君はテリーなんだね」

 

 わたぼうの呆れた口調。しかし、どこか楽しそうでもある。

 そして、俺はまだ驚いているミレーユの元まで歩み寄る。ゆっくりと屈み、ミレーユと視線を合わせる。潤んだ瞳が不安と絶望でゆらゆらと揺れている。

 そんなミレーユの頭に俺はぽんと、手を置いた。ミレーユの瞳が大きく見開かれる。

 

「大丈夫だ……姉さん。弟の俺を信じてくれ。俺はそこのわたぼうと同じくらいには強いと思うぜ? こっちの俺も止めてみせるさ」

 

 ミレーユは、「え? あ、あなた一体……」とやはり戸惑うばかりである。まあ、仕方ないだろう。俺がミレーユの立場なら確実に混乱するだろう。

 

「テリー。おしゃべりはそこまでのようだよ」

「……みたいだな」

 

 わたぼうの警告に俺も立ち上がり歩きながら答える。わたぼうも相変わらずふわふわと飛びながら俺に並走してくる。

 巨大な力を持った何かが、こちらに猛スピードで近づいてくる。

 剣の柄に手を添えて、短く息を吸い込み集中する。

 出し惜しみは無しだ。

 

「一応確認だけど、テリー、本当に強いんだよね? 嘘だったら一瞬で死ぬことになるよ? ちなみに僕は元々強いけど、テリーの配合によってさらに強くなっているから頼りにしてくれていいよ」

 

 折角人が集中しているのにわたぼうが横槍を入れてくる。なんかわたぼうって緊張感が無いような気がするんだよな。

 

「……心配いらない。それより姉さんに被害がいかないように何かできないか?」

「ああ、それなら心配いらないよ……。ほら、ミレーユの魔物達がミレーユを守っているよ。かなり傷ついていたけど、僕が回復しておいたよ」

 

 わたぼうの言葉通りに後ろを振り返ると、そこには先ほどのメタルキングに見たことの無いドラゴンと鳥の魔物の計三体がミレーユに駆け寄っていた。三体ともかなりの修練を積んでいることが伝わってくる。魔物達はいずれもミレーユが無事であることに歓喜しているようだ。ミレーユも三体が無事であったことに安堵し、喜んでいるようだった。

 あんなにごつそうな魔物達とミレーユが笑顔で触れ合っているのなんか凄い画だな……。皆が見たらなんて言うだろうか。

 

 そんなことを考えていると、ズンッ! と巨大な地響きを鳴らしながら二体の魔物が上空から降り立ってきた。

 

 その二体の魔物を見た瞬間、俺の心臓が――ドクンッ!と跳ねた。

 思わず息を吞んだ。全身から汗が噴き出してくる。

 

 やはりその魔物達は見たことが無かった。

 一体目はドラゴンであった。人の何倍もある巨大な図体。全身を紫色の強固な鱗で包み、紅い瞳から放たれる鋭い眼光がこちらを射抜いて来る。

 そして二体目。こちらも巨大な図体だが、その見た目は人型である。頭からは二本の角が生えており、青色の皮膚を覆うのは山吹色のローブと赤紫色のマント。その首元には髑髏のネックレスを身に付けている。

 二体ともこれまで出会った魔物達と比較しても桁違いの実力を持っていることは明白。

 

 ――間違いない。この二体、大魔王だ。

 

 確かにこの二体の魔物は見たことが無い。しかしそれだけは確信できた。

 ……ということは、こっちの俺、大魔王を従えているってこと? まじで?

 

「ほう……、ミレーユを追いかけて来てみれば、わたぼうがいるではないか。わたぼう、貴様我々を旅の扉に閉じ込めてくるとは、無駄なあがきをしてくれたな。もう二度と同じ手は食わないぞ」

「しかし、これでテリー様の夢ももう間近だ。さっさと片付けるぞ。わたぼうは手強いが、連携しながら戦えばそう時間はかからないだろう……」

 

 目の前にいるだけで、心臓を握られたような錯覚に陥ってしまう。

 圧倒的存在感が俺と言う存在をかき消そうとしてきているようだ。魔物の頂点に君臨する存在。……これが大魔王か。

 ……だが、戦えないことは無い。気をしっかりもて、俺。

 まずはこっちから仕掛けるんだ。この世界に俺の強さを見せつけてやるんだ。

 

「ん? 横にいるのはテリー……様?」

「……ふむ、確かにテリー様と同じ魂を感じる。しかし、テリー様ではない。……この世界の存在では無いな。……いつどこから紛れ込んだ?」

 

 二体は俺の存在に気付き、俺の正体について話し合っている。

 その時だった。わたぼうがこそっと俺に耳打ちをしてきた。

 

「テリー。味方に攻撃がいかないようにはするけど一応防御態勢をとっていてね。ミレーユの魔物達にも伝えているから、あっちも上手く対応してくれるはずさ。タイジュも……まあ、多少は被害が及ぶかもだけど僕の加護があるから大丈夫だろう」

 

 そう言って、わたぼうは目の前にいる二体に照準を合わせる。

 

 ……おい、急になんだ。何をするつもりだ? 嫌な予感がするんだが。

 

 俺がわたぼうに何をするつもりなのか問いただそうとした瞬間、わたぼうが瞳を閉じて、その内に秘めた膨大な魔力を急激に膨らませ、解放していく。

 

 ――――おまっ、それってまさか!?

 

 俺は慌ててその場から後方に飛びのきながら腕を交差してぼうぎょの姿勢をとる。目の前にいる二体もわたぼうの行動に気付いたのか、急いで臨戦態勢に入る。しかし遅い。それを伝えるようにわたぼうが叫んだ。

 

 

 

 「先手必勝さっ!! 『りゅうおう』に『ゾーマ』!! くらえっ!! 『マダンテ』っ!!!!」

 

 

 

 わたぼうは

 すべてのまりょくを ときはなった!

 

 ぼうそうした まりょくが

 ばくはつを おこす!

 

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