テリーに転生したので、ネタキャラ扱いされないよう強くなる 作:なー
今日でバーバラと行動を共にして二カ月ほどが経つ。
俺は、修行の合間にこっそりと主人公達の動向を確認していたが、どうも主人公達が少し前にアモールまで来ていたことが分かった。アモールの教会の神父に確認したので間違いない。
主人公達がアモールを発った日から逆算すると、今日あたり月鏡の塔に来ると見込んだ。と言うわけでこの月鏡の塔までやって来たのだ。
やはりここは本来の物語通り、バーバラは主人公達と旅をするべきだと判断した。勿論、俺はまだ同行しないつもりだ。
…………これでいい。
しばらくバーバラと一緒に暮らしてきたこともあり、正直寂しい気持ちもあるが、俺達はまた出会うことになる。
そもそも俺とバーバラで交わした同行する約束もこの月鏡の塔までだしな。
問題は別れ方だ。ここでは次の点に気を付ける必要がある。
一つは、主人公達と接触しないようにすること。
次に、主人公達……特にミレーユには俺のことを黙っておくようにお願いすることだろうか。
これを解決するにあたって、まず俺は主人公達が接触する直前にバーバラにも気付かれないように自然に去ることを考えている。
しかし、黙って去ってしまえばバーバラが困惑することは目に見えている為、俺はバーバラに伝えるべきことを手紙に纏めてポケットにいれている。これを去る間際にこっそりバーバラに渡して去るという計画だ。本当は言葉で伝えたいところだが、口下手な俺が上手く伝えられる気もしないしな。
この作戦の肝は、タイミングだ。主人公達の気配をいち早く察知する事。常に集中する必要があるが問題ない。よほどの緊急事態でも起こらない限り大丈夫だろう。
しかし、実はそれ以外に大きな不安要素が一つある……。
「あ、敵ね。……ぞろぞろと来たわね」
バーバラの言う通り、魔物が十体ほど現れた。塔の内部に住み着いた巨大な蛾の魔物である『デスファレーナ』である。蛾もここまで大きくなると気持ち悪いの一言である。
「テリー、ここは私に任せて! 覚えた新技を試してみたいの!!」
雑魚敵の出現にいまいちやる気の出ない俺は仕方なく臨戦態勢に入ろうとしたが、バーバラの元気な声でのお願いを聞き入れて素直に静観することにする。同時に心の中で魔物達に合掌しておく。
俺が一歩引き、反対にバーバラが前に進み出たことでデスファレーナ達もバーバラに狙いを定める。しかし、バーバラは一切臆することなく、闘志に満ちた表情を浮かべている。そこに出会った当初のか弱い少女の面影は一切無かった。バーバラの祖先であるバーバレラもこんな感じに勇敢だったんだろうか、なんて感想を思い浮かべる。
バーバラは両の掌を前に突き出し、意識を集中させて凄まじい速さで膨大な魔力を練り上げていく。そして数秒とかからない内に、準備を完了させる。……相変わらず神業のような速さだ。
そして、バーバラは叫ぶ。
「――――くらいなさい!! 『ベギラゴン』!!」
直後、バーバラの掌から超高温の炎が生まれ、逆巻く火炎の奔流となりデスファレーナ達を襲う。一階のフロアの一部を覆いつくすほどの巨大な炎。熱せられた空気が熱風となり吹き付けてくる。俺は帽子を押さえながら戦い(というより一方的な蹂躙)を見守る。
明らかにオーバーキルなギラ系の最上位呪文をまともにくらってデスファレーナ達が生き残れるわけも無く、あっという間に消し炭へと変貌していた。
これこそが、不安要素。
……そう。
バーバラは強くなりすぎたのだ。
この二カ月間、色々とあった……、本当に色々……。
大前提として、バーバラは俺から認識されているなら、急いで他の人に認識してもらわなくてもいいとのことだった。つまり『ラーの鏡』を探すのは後回しで構わないと。さらに俺が魔法を極める為の修行に協力してくれるとまで言ってくれた。その代わり、「毎日美味しい食事を作ってね!」と笑顔で言われたが俺からすれば渡りに船。主人公達が来るギリギリまで修行に付き合ってもらうことに決めた。
と言うわけで、バーバラ先生ご指導の下、魔法使いとしての修行の日々が始まった。
……しかし、これが失態だった。
まず一つ目。
俺に魔法を指導する過程で、バーバラも自然に『魔法使い』の職についてしまった。そして、つい先日『魔法使い』をマスターしてしまった。
いや、まさかバーバラもダーマ神殿の加護無しで『魔法使い』になるなんて思わないだろ。まあ、魔法については俺より才能があるバーバラが職に就くことは自然なことだと、今となっては思うが……。
ちなみに俺はまだ★7だ……。俺の方が先に魔法使いになったのに……。バーバラに負けないように睡眠の時間すらも削って死ぬ気で修行したが、大魔女様にはあと一歩敵わなかった。……死ぬほど悔しかったが、それをバーバラに悟られないようにするのは大変だった。
そして二つ目。
知らない間にバーバラのレベルが大幅に上がっていたことが判明。
俺は魔法使いとして実力を上げる為に実戦を踏まえて修行していたのだが、レイドック周辺ではあまりに敵が弱すぎるので、ゲームでいう推奨レベル30前後の敵が現れる地で修行をしていた。ところが俺の戦闘を見ていたバーバラにも経験値が入っていたようで、気付いた時にはバーバラも相当強くなってしまっていた。戦闘を見ているだけで経験値が入るというシステムを完全に漏らしていた。
さらに途中から、バーバラは強くなり、様々な呪文を覚えていくのが楽しくなったらしく俺と共に積極的に修行するようになってしまった。途中でバーバラを止めればよかったのだろうが、才能溢れるライバルが現れたことで、俺も負けじと無我夢中になっていた…………。
ちなみに、この月鏡の塔に来る道中で高レベルとなったバーバラが『沈黙の羊』を鞭の一振りで粉砕していた。これには流石のバーバラも「…………え?」と乙女にあるまじき力を得ていたことにショックを受けていた。
つまり現時点で、ハッサンよりも力があり、ミレーユよりも呪文に長け、主人公の全てのステータスを上回る女の子――バーバラが誕生したことになる。
果たして主人公、ハッサン、ミレーユの三人は笑顔でバーバラを迎え入れてくれるだろうか?
……というか、この強すぎるバーバラと主人公の間に恋愛感情は生まれるのだろうか?
考えたくも無いが、もし主人公とバーバラが結ばれなかったらどうすればいいのだろうか……。
…………。
まあ、想像していても始まらない。
まずは出会わなければ話は始まらない。その為にもやはり、バーバラと主人公達を合流させなければ。
それにバーバラは見た目と性格は可愛いし案外主人公もコロッと恋に落ちるかもしれない。
「うーん、やっぱり上級呪文って爽快感があるわね!!」
大量殺戮を実行した可憐な少女が、こちらに振り返りながら楽しそうに笑いかけてくる。俺にはまだ使用できない上級呪文の感想を言われて、若干むかっとしてしまう。バーバラには一切の悪気が無いと分かっているから質が悪い。
「……それは良かったな、ほどほどにな」
絶対すぐに魔法使いをマスターして見せると心に誓い、ぶっきらぼうにそう言いながら先に進むべく足を動かす。
しかしバーバラは俺の様子がおかしいことにすぐに気付いてくる。不思議そうに顔を傾げるも、すぐに合点がいったのか、怪し気な笑顔を浮かべながら俺の隣に駆け寄ってくる。
「……ははーん、もしかしてテリー、私が先に上級呪文を覚えちゃったことが納得いかないのかな?」
俺を下から覗き込むように見上げながら、からうようにそんなことを言ってくる。
「違う」
「……ふーん?」
本当かな? と言いたげににやにやしながら俺を見つめてくるバーバラ。
「……俺とバーバラでは元々持っていた魔法に対する素質に差があった。それだけだ」
「あはは、そうなのかな? でも安心してテリー! バーバラお姉ちゃんがテリーを立派な魔法使いにしてみせるから!」
……だれがお姉ちゃんだよ。
そう突っ込みたいところだったが、心底楽しそうなバーバラを見ていると、どうでもよくなってしまった。
そのまま俺達は会話もほどほどに1階の奥に進んでいく。
「……わぁっ! 凄い大きな鏡ね! 壁一面全部が鏡……。こんなの初めて見たわ。……でもここで行き止まりになっていない?」
バーバラの言う通り、目の前を巨大な鏡が行く手を遮っていた。しかし、一部の鏡はダミーだ。この塔の門番でもあるポイズンゾンビがダミーの鏡に身を隠しているのだ。こいつらを倒せば、奥に進めるというわけだ。
確か、こっちの方に……。
記憶を頼りにポイズンゾンビが潜む鏡の前まで向かう。バーバラは何しているんだと俺に懐疑的な視線を向けてきている。
ポイズンゾンビが潜む鏡の前に来た俺は、じっと鏡を見つめる。そこには、文句のつけようのないイケメンな俺の姿が映る。しかしこれは本当の鏡では無い。目の前に映っているのもポイズンゾンビが俺に化けて鏡を装っているのだ。しかしその姿は俺そのものだ。
……ふっ、やはり絵になるな。
そりゃあ、ベストドレッサーコンテストでも優勝するというもの。
しばし自身の姿に見惚れるも、なんとか意識を切り替える(ちなみにバーバラからは白い目で見られていたが気付かなかった)。
「……おい、そこに隠れているのは分かっているぞ」
俺が鏡にそう声を掛けると、しばらくして、
「……お、おい、ばれたぞ!」
「冗談じゃない! さっき報告があったろ! 上級呪文を使う奴らになんか勝てないぞ!」
「しかし、やるしかないだろ! 毒まみれにすれば勝機はある!」
そんな会話が聞こえてきたかと思うと、巨大な鏡が徐々に消えていき、代わりに腐った紫色の皮膚に赤色の瞳を持つ人型のポイズンゾンビ、三体が現れた。
「悪いがお前達と戦う気は無い。ただ、そこは通してほしい。どうだ?」
主人公達が戦えるように、できれば倒したくないのでそんな提案を投げかけてみる。
「は、それはできないな。そんなことしたら俺達が消されちまう」
「おい、こんなこと言ってくるってことは案外大したことないんじゃないか? ビビってる証拠だぞ。ただのナルシスト野郎だ!」
「確かにそうだな。よし、やるぞ!」
と交渉は決裂して襲い掛かってくるポイズンゾンビ達。
……仕方ない。まあ、三体もいるし、一体位いいか。
最近、魔法ばっかりで体を動かしてなかったからな。ちょうどいい。久しぶりに体を動かすか……。
俺は、目でバーバラに手出しは無用だと伝えると、気合を入れる為、大きく息を吸い込む。続けて一体のポイズンゾンビの目の前にまで超速で踏み込む。あまりの速さにポイズンゾンビは俺の動きについて来れていない。
構えを取って腰を深く落とし込み、思い切り拳を振るう。
『きあいため』からの『正拳突き』――、これがポイズンゾンビに見事に命中。
そして、
――ポイズンゾンビは、爆散した。
……え?
職業補正で力も落ちているし、剣も使っていない為、一撃では倒せないだろうと思っていたのでこれは予想外。どうも予想以上に俺は強くなっているらしい。一応、こいつらは中ボスなんだがな。
腐った肉が飛び散って辺りに降り注いでいく。近くで戦いを見学していたバーバラは飛んで来る肉片を見て悲鳴をあげている。少し笑いそうになってしまった。といっても俺の服にも肉片が飛んできたので笑いごとではないのだが。ここから出たらすぐに洗濯して風呂に入ろう。そう心に刻む。
「あ、ああ、う、嘘だろう……?」
「一撃だと……」
残った二体のポイズンゾンビは呆然と飛び散った同士を見つめて恐怖の為か震えている。そんな二体に追い打ちをかけるように俺は再度、提案する。
「で? お前達はどうする? これでも俺達の邪魔をするか? 今ならまだ見逃すぞ?」
「「…………」」
ポイズンゾンビ達は俺達を素直に通してくれた。流石に実力の差を思い知ったらしい。
というか原作でのバーバラはどうやってこの先に進んだのだろうか?
感想書いて頂いた方、ありがとうございます!
ドラクエ6の下級職は覚える技が強すぎるよな……。