テリーに転生したので、ネタキャラ扱いされないよう強くなる   作:なー

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少し短めです。


第五話

 その後、俺達は順当に塔の攻略を進めていく。基本的に魔物との戦闘は避けていく。ただし、『ふしぎなきのみ』を落とす『あくまのカガミ』と『まもりのたね』を落とす『シャドー』だけは執拗に倒していく。種集めは重要だからな。さきほど『まもりのたね』を一個入手した。これでまた一つ強くなれる。

 

「……ねえ、どうして急に月鏡の塔に来ることにしたの?」

 

 突然バーバラがそんなことを聞いてきた。

 視線をバーバラに向けると、バーバラは、こちらを見ることなく前を見て歩いている。その様子から雑談ぽく話しかけてきているように見えるが、これはバーバラがそう見せようとしているだけだ。先ほどの口調には緊張が含まれていた。二カ月も一緒にいるとそれくらい分かる。

 ただ、なぜその質問を緊張しながら聞いて来たのかは分からない。

 

「……深い理由は無い。それにバーバラもいい加減、人に見られない生活はやめたいだろう?」

 

 主人公達と合流してもらうなんてことが言えるわけもなく、そう言い訳しておく。

 

「…………ふーん、そっか。まあそういうことにしておこうかな」

 

 納得がいかない様子のバーバラはそう言った後、思い出したかのように続けてくる。

 

「……あ、一つ言い忘れていたけど、ラーの鏡を入手出来ても私、テリーについて行くからね? テリーを一人にするのはなんだか心配だし。……勝手にいなくなったら許さないからね」

 

 すると言いたいことは言ってすっきりしたと言わんばかりに「よーし、じゃあ先に進もう!」と元気よく歩いていってしまう。その動きはまるで俺から返事を聞く前に逃げようとしているようにも見えた。

 

 ……なん、だと?

 俺は頭を思い切り殴られたような感覚に襲われる。それはそうだろう。俺が考えている計画を根底から覆す発言がされたのだ。

 

「お、おい待て。護衛は月鏡の塔までの約束だろ」

 

 俺の言葉にバーバラは立ち止まって、ばっと振り向いてくる。

 バーバラの浮かべる表情は不満と怒り、そして悲しみが混ざったものだった。初めて見る表情を前に俺は言葉を失ってしまう。

 

「……やっぱり。テリー、ここで私とお別れするつもりだったんだ……。いつもと様子が違うから怪しいと思ったんだ。でもどうしてこんなに急に? これまで楽しく毎日を送っていたのに、……私なにかしちゃったかな?」

「いや、それは違う、バーバラは何もしていない……。けど、最初からそういう約束だろ?」

「――っ、そ、そうだけど、それはそうだけど……」

 

 俺の言葉にバーバラはショックを受けたように、その小さな顔をくしゃっと歪める。しかし決して泣き顔を見せないとばかりに、キッと俺を睨みつけてくる。

 

 ……ど、どうすればいいんだ。急だったことを怒っているのか?

 ……わ、分からない、これがよく聞く女心というやつなのか?

 

 バーバラが何に怒っているか分からずに硬直していると、

 

「…………いた」

 

 と何やらバーバラが呟く。小声だったので聞き取れずにいると、バーバラが勢いよく口を開く。

 

 

 

「お腹空いた!! テリーご飯作って!! クリームシチュー!!」

 

 

 

 なんてことを塔の内部に響き渡るような大声で言ってくる。話の流れをぶった切るような突然のお願いに当然俺は戸惑う。

 

「……いや、いきなりどうした。……というより、こんなところで食事って正気か?」

 

 作れるけど。

 

「作って!! 今ここで! もう私お腹ぺこぺこで動けない!!」

 

 いや、朝たっぷり食べてたじゃないか――、なんてことが言える状況でもない。しかし、よりにもよって一番時間のかかるクリームシチューか……。そんなに好きだったっか? バーバラの意図は不明だが、ここは大人しくバーバラに従うことにする。

 とりあえずポイズンゾンビの肉片が付着した服は脱いでおくか……。間違って料理にでも入ってしまったら最悪だ。

 

 と言うわけで俺達は、端の方に場所を取り、急遽食事の準備を進める。Tシャツ姿になった俺が料理をしている最中、バーバラはいつも通りシートを敷いたり、食器やらを並べたりと準備を進めている。ちなみに以前は野菜を切ったりなども手伝ってもらっていたが、切り方や皮の剝き方が雑なことが判明して以降、調理には関わらせないようにしている。

 

 そんな俺とバーバラだが、当然の如く会話は無しだ。シンとした月鏡の塔の内部に、ぐつぐつとシチューを煮込む音と、食器のカチャカチャとした音が響く。『せいすい』を振りまいているので、魔物も寄り付かない。

 ……どうしてこうなった。

 相変わらず訳の分からない状況にどう振舞えばいいか分からない俺は、ただ黙々と調理を進めていく。そして一時間以上が経った頃、ようやくクリームシチューが完成した。混乱しっぱなしで普段はしないようなミスをしたせいで時間がかかってしまった。だが完成度に問題はないはず。その証拠に食欲を刺激する良い香りが月鏡の塔の内部に漂っていく。

 

 クリームシチューが入った皿と昨日購入していたパンをバーバラに渡すと、バーバラは「……いただきます」とぼそっと言って、食べ始めた。恐る恐る俺もそれに倣う。

 当然だが、俺の作ったクリームシチューは美味だ。いつもバーバラは「美味しい!」とうるさいくらい騒ぎながら食しているのだが、今日はずっとだんまり。ただただすごい速さでスプーンでクリームシチューを口に運んでいる。

 

 相変わらず何を考えているのかさっぱり分からないバーバラを前に、どうしたらいいのか考えている、まさにその時だった。

 

「おい、なんか良い匂いがしないか?」

「……あら、本当ね。何かしら? 凄く食欲をそそられる香りね」

「気を付けて、ハッサン、ミレーユ。さっきみたいに魔物の罠かもしれない」

 

 なんて会話が微かに聞こえてきた。

 

 …………え?

 

 ばっと会話の聞こえてきた方を振り向く。

 まだ姿は見えないが、主人公達と思しき人の気配がする。近いぞ!?

 ……し、しまった。バーバラのこと考えていて主人公達のことを完全に忘れていた。

 

 背中に冷たいものが走る。

 このままだと主人公達と鉢合わせしてしまう。こんな意味の分からない状況で鉢合わせしたくない。特に生き別れた実の姉であるミレーユとこんな再会は純粋に嫌だ。バーバラも声に気付いたようで、きょろきょろしている。

 

 ……くそっ! こうなったら『リレミト』で脱出を。いや、しかしこんな状態でバーバラを置いてはいけない……。いっそのこと、ここはバーバラと一緒に脱出して出直すか……。

 

 そんな考え事をしていたのが致命的だった。

 奥から主人公達が姿を現し、バッチリと目が合ってしまった。

 

 ……万事休すか。

 




前回も感想ありがとうございます。長文で頂いている方は特に感謝。
設定が甘い所もありますが、温かく見守っていただけると幸いです……。
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