テリーに転生したので、ネタキャラ扱いされないよう強くなる   作:なー

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第六話

 主人公、ハッサン、そしてミレーユと予期せぬ出会いを果たしてしまった。幾多の戦場を切り抜けてきた俺だが、現状頭の中は真っ白だ。

 

「え? 人? こんなところに? …………あれ? あの人達どこかで……」

 

 バーバラがクリームシチューが入った器を片手に驚きの声をあげている。だが、驚いているのは向こうも同じ。魔物が蔓延るこの月鏡の塔でピクニックまがいのことをしている人間がいるとは思わなかったのだろう。三人は、唖然として立ち尽くしている。

 

 俺の視線は自然にミレーユに吸い寄せられる。

 長く伸びたサラサラの金色の髪に緑がかった瞳。整った小さな顔にスラリとしたスタイルを持ち、言いようのない魅惑的な雰囲気を醸している。

 まさに絶世の美女と言うに相応しい。

 ここでミレーユが俺の視線に気づき、不思議そうに見つめ返してくる。俺はすぐに視線を外す。

 

 クールかつ孤高の存在として、強キャラムーブで主人公達を驚かせたかった俺だったが、この瞬間すべての俺の計画が潰えてしまった。

 俺は、三人から視線を外してとりあえずシチューを食べ始める。どう行動するのが正解か分からず混乱の末での行動だった。

 バーバラは、「……うーん」と頭を抱えて何やら考え事をしているようだ。気になるがそれを聞く余裕は今の俺に無い。

 

 三人は、警戒するように何やらヒソヒソと話し込んでいる。常人なら聞こえないだろうが、俺にはその会話もしっかりと聞こえてくる。要約すると俺達が魔物かどうか見極めているようだ。下層でポイズンゾンビがいたからこその警戒だろう。

 しかし、かつての自分達と同じ状態の半透明のバーバラに気付くと、訳有と判断したのか、とりあえず声を掛けてみることに決まったようだ。

 

 ――三人が近づいて来る。

 

「あ、あの……、こんにちは。少しいいですか?」

 

 俺達の傍まで来た青髪の心優しそうな青年――主人公が恐る恐るといった感じに声をかけてくる。未だ心中穏やかでない俺は、手を止めずに視線も合わせることなく「……ああ」と生返事をする。

 

「ちょっとテリー! 人と話す時は、もっと愛想よくしなさいよ!」

 

 先ほどまで考え事をしていたバーバラだが、俺の態度が気に入らなかったのかいつものように注意してくる。俺が「……分かったよ」と面倒そうに答えて、立ち上がって主人公に顔を向ける。

 主人公は「……あ、あはは、す、すみませんね」と苦笑いを浮かべながら詫びを入れてくる。

 ……これ、俺、どういう人物だと思われているのだろうか。

 

 

 

「…………テリー?」

 

 

 

 ここで主人公の後方で見守っていたミレーユが反応する。かつて生き別れた弟の名前と同一なのだ。反応するのは当然の流れといえる。

 「どうしたんだ、ミレーユ?」というハッサンの質問に「……ちょっとね」と答えながらミレーユが前に進み出てくる。

 

「あなた、今テリーって言ったわよね?」

「……え? 私っ!? もしかして私のことが見えているの!?」

 

 ミレーユに話しかけられたバーバラは驚愕する。まさか俺以外にも自分のことを認識している人がいるとは思わなかったのだろう。

 

「ええ見えるわ。それよりもあなた今、テリーって言ったわよね? ……ねえ、あなたの名前、テリーで間違いないかしら」

 

 後半は俺の方を見つめての質問。ミレーユの綺麗で力強い瞳がまっすぐに俺を見つめてくる。

 ミレーユに軽くあしらわれたバーバラは「ええ……、それよりって……、私にとっては大事件なんですけど……」と呆然としている。

 状況を理解していない主人公、ハッサン、バーバラだったが、ミレーユの剣幕を前に、口を挟めない。シンとした周囲の静寂さも相まってピリピリとした緊張感に包まれる。

 俺はようやく現実を受け入れ観念する。ここで変に誤魔化したりしても裏目に出るだけだと判断した。ミレーユの前に立ち、その瞳を真っすぐに見据える。

 

「……ああ、俺はテリーだ」

 

 俺の返事に、ミレーユは緊張したようにごくりと喉を鳴らす。ミレーユは俺の頭から足先までじっくり見つめてくる。自分が記憶している幼いテリーの姿と照らし合わせるように。

 

「……そ、そう。……ちなみに出身がどこかも聞いてもいいかしら?」

 

 そう聞くミレーユの声は震え、瞳もミレーユの心情を表すようにゆらゆらと揺れている。ミレーユは俺が自分の弟であることをほぼ確信しているように見える。だからこれは、念のための最終確認だろう。

 

「『ガンディーノ』だ」

 

 俺がそう答えた直後だった。

 

 

 

 ポロ……ポロポロ……

 

 

 

 ミレーユの瞳から透明な雫がどんどんと零れ落ちていく。

 

「……あぁ、テリー。これは夢かしら……? まさかこんなところで再会することができるなんて。……私のことが分かるかしら? ――あなたの姉のミレーユよ」

 

 感極まったミレーユは、俺に一歩近づきながらそう確認してくる。

 俺の姉であることを打ち明けたミレーユに、俺達を見守っていた三人は驚愕している。

 

 ……すまない。

 俺がテリーになったのはミレーユと引き裂かれてから。だから俺にミレーユと過ごした思い出はないんだ……。

 

「…………え?」

 

 しかし俺は驚愕し、声を漏らす。

 自然と俺の瞳からもミレーユと同様に涙が溢れてくるのだ。拭っても次々と涙は零れてくる。そして同時に俺の心を温かい何かが満たしていく。

 それはまるで、ミレーユと過ごした思い出が、そしてミレーユを想う気持ちはこのテリーと言う存在に刻まれていると証明しているようだった。

 そして俺はほぼ無意識に、言葉を紡いでいた。

 

 

 

「ミレーユ……姉さん……」

 

 

 

 俺の呼びかけに、嬉しそうな笑顔を浮かべたミレーユは返事をする代わりにそのまま俺に抱き着いてくる。ふわりとフローラルの優しい香りと共に柔らかい感触が俺に押し当てられる。ミレーユは俺を二度と手放さないというようにその腕にぎゅっと力を込めてくる。一瞬、ドキッとしたが、ミレーユに抱きしめられていると言いようのない懐かしさと心が落ち着くような温もりを感じる。俺もそっとミレーユを抱きしめ返すのだった。

 ちらっとバーバラの様子が見えたが、様々な感情を混ぜ合わせたような複雑な表情を浮かべて俺達を見つめていた。

 

 

 

 

 

「…………もういいだろ、姉さん」

 

 俺達は熱い抱擁を続けていたが、三人の目もあり、流石に恥ずかしくなってきたのでミレーユを無理矢理引きはがす。

 

「……あ。そ、そうね。……ごめんね、つい感情的になっちゃってたわね」

 

 少々名残惜しそうにしつつも、ミレーユもようやく三人の目があることを思いだしたのか、僅かに顔を赤らめながら、主人公とハッサン、そしてバーバラに向き直る。

 

「レックにハッサン、それにあなたも。ごめんなさい。何が起きているか分からないわよね? この子はテリー。私の可愛い弟なの。ね、テリー?」

 

 ミレーユは嬉しそうににこにことしながら俺に同意を求めてくる。

 

「……そうだな。でも可愛いはよけい――」

「ねえねえ、レックにハッサン、見て頂戴! 私達目元がよく似ているって言われてたのよ! ほら! 似ているでしょう! ……それにしてもテリー、こんなに逞しくて格好良く成長しちゃって……嬉しいような、寂しいような。あ、でも子供の時からテリーはしっかりした子だったのよ? テリーは覚えているかしら? 小さい時に私が体調を崩した時にテリーが――」

 

 俺達に口を挟む隙を与えずに一方的に楽しそうに話し続けるミレーユ。

 ミレーユは物腰が落ち着いた大人の女性と言うイメージがあったがこれは……。俺の中でミレーユのイメージ像がガラガラと崩れていく。

 ……というかミレーユ、もしかして、

 

 ブラコン……なのか?

 

 長年俺と会えていなかった反動なのか、俺に対する愛情が凄まじい。それを悪くないと思っている俺がいるのも確かだが、これは流石に周りから引かれるレベルだ。

 今も永遠に俺エピソードを楽しそうに語り続けているが、主人公――レックとハッサンは苦笑いを浮かべながらミレーユの話を聞いている。ハッサンなんか、小声で「これいつ終わるんだ?」とレックに聞いているほどだ。レックは、「しっ!」とハッサンを注意している。

 バーバラは、どこか羨ましそうな、そして不満気にミレーユの話を聞いていた。

 

「それでね! テリーが採って来てくれた『毒消し草』のおかげで私は元気になったの! ね! 凄いでしょう?」

「姉さん!」

「え? どうしたのテリー?」

「もうその辺にしておこう。皆も困っている」

 

 俺の言葉でようやく状況を理解したらしいミレーユは、「あ、そ、そうね。つい」と恥ずかしそうに三人に謝罪するミレーユだったが、再び俺に向き直ってくる。

 

 全然俺から意識を逸らしてくれない。

 

 ところがその表情は先ほどと打って変わって、引き締まっており、不満と怒りが混ざっている。突然の豹変に驚く俺だったが、その表情は見覚えがあるものだった。これはバーバラもよく浮かべる表情と同じ――。

 

「ところでテリー? なんだかあなた臭うわよ? 何かが腐ったような臭いがするわ。ちゃんと洗濯はしているの? 体は洗っているの?」

 

 と、急に俺に説教をしてきた。その姿はまさに姉そのもの。

 

「いや、これはさっき一階で――」

「それにどうしてTシャツなの? こんな魔物がいるところでそんな格好じゃ危ないでしょう? そもそもどうしてこんなところで食事を――」

 

 ……話を聞けよ。

 全く聞く耳を持たないミレーユを相手にするのが面倒になった俺は、ミレーユを無視してレックとハッサンに声を掛ける。

 

「……あー、姉の件も含めていきなり混乱させて色々とすまなかった。……聞いたと思うが、俺はテリーだ、よろしく」

 

 と、挨拶をしておく。俺だけでもまともだと思ってもらわなくては。もう手遅れかもしれないが。

 

「あ、え、ええと。よろしくね。僕はレックだよ」

 

 レックは俺の格好と周囲の様子をちらっと見て何か言いたげだ。しかしそれを飲み込んで笑顔を浮かべて挨拶をしてくれる。流石は主人公であり未来の勇者。実に人の良さそうな青年というイメージだ。

 

「正直状況がよく分からんが、とにかくお前さんがミレーユの弟だってことは理解した。俺はハッサンだ、よろしくな! ……それにしてもミレーユの変わりようにも驚いたが、こんなところでそんな格好で本格的な食事をするって、テリーも相当変わってるな、はっはっは! 俺は面白いと思うぞ! 仲良くなれそうだ!」

「…………はは」

 

 と、心底おかしそうに野太い声で笑うハッサンを前に、俺が何も反論できずに乾いた笑い声を漏らす。レックは気まずそうにハッサンを肘でつついているがハッサンが気付く様子は無い。

 やはり手遅れだったか……。まあ、分かっていたが。

 ちなみにミレーユは、俺に無視をされたことにショックを受けており、「……も、もしかして反抗期?」なんて見当外れのことを呟いていた。

 

 いきなり色々なことが起こり疲弊した俺は、思わず深い溜息をついた。

 




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