テリーに転生したので、ネタキャラ扱いされないよう強くなる   作:なー

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第八話

「……え、え、あ」

 

 ミレーユはまだ何が起きているのか分からず混乱しているらしく、俺の背後で戸惑っている。

 

「――姉さん、そこは危ない。早く離れてくれ」

 

 近くにミレーユがいる状況でこいつと戦っては、戦いに巻き込んでしまう恐れがある。こう言っている間にも敵が全力で押し込もうとしてくる。

 

 ……くそっ、きついっ。

 敵の押し込みに堪える為に踏みしめている床に亀裂が走る。

 姉さんは……だめか、まだ動揺してうまく頭が働いていないらしい。

 突然目の前で異次元の戦いをされたらこうなってしまうものなのかもしれない。

 

 …………仕方ない。

 難しいが背後に余波がいかないように戦うしかない。

 一瞬、思考を巡らせてすぐに作戦を組み立てる。

 

 ――俺は、力を一瞬抜く。

 その瞬間、力の均衡が崩れて相手の剣先が俺に向かってくる。俺はそれを自らの剣で滑らすように軌道をずらして俺の左腕に誘導する。

 

 ――そのまま敵の剣は、俺の左腕を切り裂いた。

 

 鮮血が周囲に散らされるが、俺自身にはあまりダメージは入っていない。傷も肉には届いていない。これくらいの怪我なら修行中に死ぬほどできたというもの。姉さんが過保護でかけてくれていた『スカラ』があったからできた作戦。

 とにかくこれで膠着状態は解けた。敵は俺の脱力するという予想外の手によって中途半端に攻撃してしまい、体勢を崩している。

 すかさず、最速の剣技『はやぶさぎり』によって、二連撃を繰り出す。だが敵は『俺』。一撃目を強引に上体を思い切り背後に逸らして避けられ、二撃目はなんとか被弾させることに成功するもののダメージは浅い――体を捩じって急所を避けてきたのだ。……我ながら無茶苦茶な動きである。

 とはいってもダメージを与えたのは間違いなく、これでこちらが優位に立つことができた。向こうはHPは真似できないしな。

 敵もそれを理解してか、たまらずといった感じで地を蹴って背後に大きく飛びのく。

 ――好機!

 

「バーバラっ!!」

「分かってる!!」

 

 俺が叫ぶと同時に待っていましたばかりにバーバラが応える。視線をバーバラに向けると、既に完成させた巨大な炎球――『メラミ』を敵に向かって発射していた。敵は後方に飛びのいた為、まだ空中にいる。敵の着地と同時に弾着する完璧な攻撃。しかし、敵はすぐにバーバラの攻撃にも勘付くと、自身も『メラミ』を唱えて、バーバラの放った『メラミ』に向かって発射する。

 

 ドオオオンンンッッ!!

 

 高熱を持つ炎球同士の衝突によって周囲に衝撃が爆炎と共にまき散らされる。

 視界が一瞬奪われる。

 

「――ま、そうよね。『メラミ』はテリーも使えるものね。…………なら、これはどうかしら!!」

 

 爆炎が晴れ上がらない中、バーバラのどこか試すような声が一体に響き渡る。

 そして爆炎が晴れ上がった同時に、『メラミ』を大きく上回る巨大な炎の渦――『ベギラゴン』が敵に襲い掛かる。

 辺り一面が赤色で染められ、周囲の温度が一気に上昇していく。

 バーバラの会心の攻撃だったが、これも敵は着地と同時に再び大きく横合いに飛んでギリギリ逃れられてしまう。

 

 

 

「『俺』なら『ベギラゴン』程度、避けると信じていたぜ。――これで終わりだ」

 

 

 

 敵の背後から不敵な声。立て続けに攻撃を食らい続けた敵は最早反応するだけの余裕も無く、次の瞬間には絶命した。

 

 

 

 

 

「…………ふぅ、流石に手強かったな。まさか自分と戦うことになるとは」

 

 目の前では、魔法が解けて真っ二つになった『あくまのカガミ』の残骸が横たわっていた。まさかこんな敵に苦しめられるとは。

 と、それより三人は無事か? 特に吹き飛ばされたレックとハッサンが心配だが。

 二人を見ると、吹き飛ばされた先で上体だけ起こして、目をまん丸に、そして口をぽかんと開けて、こちらを見つめていた。大きな怪我は無さそうだ。

 一方のミレーユは腰を抜かしてしまったのか、女の子座りの姿勢でその場にへたり込んでしまっていた。その瞳は僅かに潤っているように見える。

 三人とも俺とバーバラとの実力差に驚いたのだろう。まあ、無理もない。

 

 …………はぁ。

 三人が俺の強さに驚いてくれたというのに、ちっとも嬉しくない。三人を危険にさらしてしまったことが不甲斐ない。今回は『あくまのカガミ』が一体だったから良かったものの、二体以上いればどうなっていたか……。

 

「テリー、その腕大丈夫なの?」

 

 俺が反省していると、バーバラがこちらに近づいてきながら聞いてくる。バーバラが指さす先には、敵に攻撃を食らった左腕があった。今も血が少し流れている。

 

「ああ、問題ない」

 

 バーバラも俺がこの程度でダメージでどうにかなるとは思っていなかったのか、「そ、良かったわ」と軽く流される。まあ、これまでバーバラの前でもっと酷い攻撃を食らってきたからな。その度に無茶するなと怒られていたが……。

 

「それより援護助かった。完璧なタイミングだった」

「ふふん、当たり前でしょう?」

 

 得意げな顔を浮かべるバーバラ。……良かった、いつものバーバラだ。強敵と戦ったことで、いい発散になったのかもしれない。俺が使用できない『ベギラゴン』で敵を追い詰めたのは悔しいが……。

 バーバラに礼を言った俺は、ミレーユの元へ向かう。この中で一番ショックを受けているようだからな。

 

「姉さん、大丈夫か?」

 

 しゃがみ込んでいるミレーユに右手を伸ばす。

 俺が話しかけたことで、ようやく我に返ったのか、「テ、テリー……」とポソリと呟いて俺を見上げてくる。その表情は未だ困惑で包まれている。

 

「――テ、テリー!? その腕!? そ、そうよ。ああ、私がいたから……、私のせいでテリーが怪我をっ!」

 

 ミレーユは俺の腕の怪我に気付き、両手で口を抑え顔面蒼白になり取り乱してしまう。……しまった、過保護な姉さんがこの怪我を見て気にしないわけが無かった。『アモールのみず』でも飲んで回復させておくんだった。

 

「ま、待ってて、い、今回復の魔法を……」

 

 ミレーユはそう言って必死に魔法を使用するために魔力を集中させようとするが、混乱している為、うまく集中できないようだ。その事実がミレーユをさらに精神的に追い込んでしまう。

 

「姉さん、大丈夫だ。この怪我はなんてことのない、唾をつけておけば治るレベルだ、『なめまわし』ができる敵がいればいいんだが」

 

 俺なりにギャグを混ぜ込んでそんなことを言ってみるが、ミレーユの耳には届かない。慣れないことはするものではないと痛感する。

 

「ど、どうして魔法が……、ま、また、テリーを守れない――」

 

 追い詰められたミレーユは過去に俺達が引き裂かれた時のトラウマが蘇っているようだ。益々顔から血の気が引いていく。

 …………仕方ない。

 俺はミレーユと向き合うようにその場に跪く。

 

 

 

 そのまま俺は、ミレーユをゆっくりと抱きしめた。

 

 

 

「大丈夫だ、姉さん。もう敵はいない。だから落ち着いてくれ。今の姿の姉さんは見たくない……」

 

 なるべく優しい口調を意識して、ゆっくりと姉さんにそう語り掛ける。

 抱きしめた瞬間、ミレーユの全身がびくりと震える。細かく震える姉の存在は酷く小さく感じる。しかし、俺が抱きしめる腕に力を込めると次第にミレーユの震えが取れていく。やがてミレーユの震えが完全に止まり、初めて抱き合った時に感じた安心感のある温かさが伝わって来た。

 

「もう大丈夫そうだな……」

 

 そう言いつつミレーユからそっと離れる。

 ミレーユは、目尻に雫を浮かばせながら、微笑みを浮かべて俺を見つめる。

 

「……ごめんなさい、テリー。いつの間にか私が想像もしないほど強くなってしまったのね。凄いわ……」

「鍛えたからな」

 

 姉であるミレーユに褒めてもらったことで満更でもない気持ちになる。それを隠すように、「ほら、行こう。ゴールはもうすぐそこだ」と促すが。

 

「ええ、でもその前に…………『ベホイミ』」

 

 ミレーユがそう唱えると共に、俺の左腕が温かい光に包まれる。見る見る左腕に付けられた傷跡が消えていき、やがて光と共に完全に傷も消え去ってしまった。

 ……おお、これが回復呪文か。初めて体感した。

 後で教えてもらおう。

 

「ありがとう、姉さん。さあ、行こう」

「そうね。…………あ、あれ?」

「どうした?」

「……あ、あはは、腰が抜けちゃったみたい」

「…………」

 

 困ったように笑うミレーユに、俺は背中を向ける形でしゃが見込む。

 

「ほら、背負うから掴まりな」

「……何から何までありがとう、テリー」

「……別にいいさ、これくらい。……姉弟だろ?」

 

 俺の言葉に感動して泣きそうな声で「……うん、そうね」と答えてミレーユは俺の背に掴まる。しっかり掴まっていることを確認して俺は立ち上がって三人の元へ歩き出す。

 

「……ねえ、テリー」

 

 ミレーユが申し訳なさそうに声をかけてくる。耳にミレーユの吐息がかかり、少しくすぐったい。

 

「なんだ? 本当に気にしなくてもいい」

 

 まだミレーユがおぶられることを遠慮しているのかと思ってそう言うが、

 

「…………おんぶより、お姫様だっこの方がいい」

「…………」 

 

 すっかり姉は通常運転に戻っていた。

 ……まあ、泣きそうな顔を浮かべられるより、こっちの方がいいか。……いいか?

 なんて思いつつ、「降ろすぞ」と一言告げてミレーユを黙らすのだった。




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