テリーに転生したので、ネタキャラ扱いされないよう強くなる   作:なー

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第九話

「これが『ラーの鏡』か! これでムドーを――」

「……へー、これがな。なんというか、本当にただの鏡なんだな」

「でも凄く綺麗……、それにとても神秘的な力を感じるわ」

 

 俺達一行は、とうとう『ラーの鏡』が保管されている部屋にまでやって来た。俺達の視線の先には静かに鎮座している『ラーの鏡』があった。丁寧な装飾が施されてはいるが、それ以外はハッサンと同感だ。真実を映す伝説の鏡らしいが、ただの鏡にしか見えない。

 

「どれどれ? あっ! 私の姿が映ってる!」

 

 真っ先に鏡に駆け寄り、覗き込んだバーバラは歓喜の声をあげる。久しぶりに透明でない自身の姿を見て嬉しいようだ。しかし、バーバラはすぐに肩を落とす。

 

「……まあでも、これがなんだって話よね。鏡に映ったって私が透明じゃなくなるわけじゃないのにね……、あはは」

 

 自虐的に乾いた笑いを漏らすバーバラ。不意にちらりと俺の方を見つめてくる。何かを訴えかけてくるような視線。

 

 そんな目で見るなよ……、分かってるよ。

 ……レック。早くバーバラに『夢見のしずく』を使ってやってくれ。まずはそこからだ。

 夢の世界の住民の姿を可視化させることができる不思議なアイテム、『夢見のしずく』。それをレック達は持っているはずなのだ。それを使えばバーバラは元の姿に戻れる。

 

「……なあ、レック。ミレーユのことがあって忘れてたけど、婆さんに貰ったあれを使えばいいんじゃないか? ほら、俺達が透明な姿から元に戻れたあの不思議な水だよ」

「…………あ、本当だ。僕もミレーユのことがあって忘れてた。えーと、どこにしまったかな」

 

 レックがしまったというように自分の鞄の中を探し出す。どうもうちの姉の言動がインパクトがありすぎて、例のアイテムのことを忘れていたらしい。

 すまない、うちの姉が……。

 当の本人は何のことかぴんと来ていないようで、不思議そうに首を傾げている。

 というか薄々感じてたけど、パーティーの中でハッサンが一番しっかりしているんじゃないか……? 今もハッサンがいち早く『夢見のしずく』のことを思いだしていたし。何より唯一ブラコンでもシスコンでもない。筋肉ムキムキででむさ苦しいが。

 

「バーバラ、少しいいかい」

「え? どうしたの?」

「ちょっと、じっとしていてね。……よっと」

「――――わぁっ!」

 

 レックが小瓶に入った『夢見のしずく』をバーバラに振りまく。

 極小の粒子となった雫がバーバラに降りかかる様子は、幻想的であり魅入られてしまう。バーバラも少女のように瞳をキラキラとさせている。

 やがて、バーバラの全身が光り輝き室内を眩しく照らす。光が収まっていくとそこには、実体をもったバーバラが姿を現した。

 

 ……これが本来のバーバラの姿か。

 半透明な状態では分かりづらかった肌感や髪色に瞳の色。

 毎日見ていたはずだが、その姿はとても新鮮に映る。改めて見るバーバラの姿に一瞬見惚れてしまう。

 

「……えっ! 透明じゃなくなってる! やったやった! テリー見て! 私、元に戻ったわ!」

「……ああ、見えてるよ。……良かったな」

「うん!」

 

 自分の手やら体を見回して、自分が透明人間は無くなったことを理解したバーバラは、ぴょんぴょんと飛びながら子供のように無邪気に喜んでいる。

 その様子を皆が温かく見守る中、バーバラが三人に向き直る。

 

「皆、本当にありがとう!」

「ううん、こちらこそもっと早くに戻してあげれなくてごめんね」

「ま、良かったじゃねえか」

 

 満面の笑みでお礼を言うバーバラに男性陣二人も照れくさそうにしている。無邪気で元気な時のバーバラは本当に可愛いからな……。

 

「……ふふ、そうね。でもバーバラは、どうして透明な姿だったのかしら?」

 

 優し気に微笑みながら落ち着いた様子でバーバラにそう質問する我が姉。俺が関わっていない時はまともに見えるな……。ちゃんと大人の女性という感じがする。

 

「うーん、それが実は私、記憶喪失なの……。気付いたら透明人間だったのよ……。そんな時に私のことが見えるテリーに会って一緒に行動していたの」

「…………へえ、テリーと一緒に、ね」

 

 ミレーユの様子がおかしくなりかけるが、それに気付かないバーバラはそのまま続ける。

 

「……確かに記憶は無い。でも私、あなた達に会ったことがある気がするの――全員一緒によ? ……三人は私に見覚えはある? そんな昔のことでもないと思うんだけど……」

 

 このバーバラの問いに三人は不思議そうに顔を合わせるが、全員顔を横に振る。

 

 ……それってもしかして、以前に三人がムドーに挑んだ時のことを言っているのだろうか?

 

 ムドーの島に上陸する際にミレーユが奏でるオカリナによって現れる黄金の竜――それの正体はバーバラであると考えている。バーバラの祖先であるバーバレラがドラゴンに変身できたことや、ムドーの島上陸時にバーバラが同行を拒否したことが根拠だ。ゲーム中ではその辺が明確に語られなかったので真偽は不明だが、俺はほぼ確信している。そして今のバーバラの発言とも辻褄が合う。

 

「……そっか、三人は知らないかー。……うーん、うまく説明できないけど、私はあなた達について行かないといけない気がするの! だから私も仲間に加えてくれないかしら! 腕には自信があるわよ! きっと力になれるわ!」

 

 バーバラの表情には使命を背負った者が浮かべる力強さがあった。だが、やはりここでも俺の方に一瞬視線を送ってくる。

 

「僕は寧ろ歓迎だよ! 頼もしい仲間が増えるし」

「そうだな、俺も異論は無い。こういう出会いが旅の醍醐味ってものだしな!」

「バーバラのお話は少し気になるけれど、私も同意よ」

 

 三人がバーバラを歓迎する一方、俺は今の一連のやり取りを見て考えていた。

 

 ……ゲーム中ではこの時点でバーバラはこんな黄金の竜を匂わせるようなことは言っていなかった。記憶が無く、やることもないし、とりあえず仲間に入れてくれみたいな理由でレック達の仲間に加わっていたと記憶している。

 こうなったのは俺が原因なのだろうか?

 ……そうだとしても理由はさっぱり分からないが。

 ともかく、今あれこれ考えていても無駄だろう。情報が少なすぎる。

 

 ……それよりもだ。

 …………俺も腹を括るか。

 

 俺は軽い緊張を感じながら短く息を吸い、そして言う。

 

 

 

「俺も行く」

 

 

 

 色々考えたが、結論として一緒にレック達と同行することが良策だと判断した。色々と理由はあるが、まずはバーバラだ。今のバーバラを置いていくのは不安だ。後は単純に――いや、まあそれはいいか。

 ……それに、どうせ姉さんが意地でも仲間に入れようとしてくるだろうしな。

 

 俺の発言に四人が一斉にこちらに振り向いてくる。

 いち早く反応したのはバーバラ。

 

「テ、テリー、どうして? ……さっきは別れるつもりだって言ってたのに」

 

 そう言ってくるバーバラは嬉しさと困惑が混じったような様子だ。

 

「気が変わったんだ。……姉さんと会ったとか色々理由はあるけどな」

「……やっぱり、そういうことなんだ。私じゃないんだね……」

 

 バーバラは悲し気にそう呟く。

 ……あれ?

 俺がついて行くと言えば、丸く収まると思っていたが見当が外れた。あの視線の意味はそういう意味ではなかったのか?

 これまでもバーバラが気分を損ねることは何度もあったが、ここまで引っ張るのは初めてだ。

 流石にどこか二人になった時にしっかり話をした方がいいな……。今日の夜辺りに話すか……。

 

「テリー、勿論よ! 私もテリーに仲間に加わってくれないか誘おうと思っていたの。テリーからそう言ってくれて嬉しいわ!」

 

 続いて嬉しそうにそう言ってくるミレーユ。笑顔を浮かべているが、俺が同行を拒否したらその顔がどうなったのだろうか? 想像するだけでも怖い。

 

「僕も歓迎だけれど、テリーはどうして仲間になりたいって思ってくれたの?」

 

そんなレックの問いに対し、俺は静かにレックに近づいて行く。そしてレックの耳元で「俺が離れることを姉さんが許すと思うか? 先手を打ったんだ」と小声で答えると、全てを察したように「……なるほど」と納得してくれた。

 

「おう! まさか仲間が二人も増えるとはな! しかもとびきり強い二人だ! 俺も負けてられないな! よし、今日は歓迎会といこうじゃないか! 『ラーの鏡』も手に入ったし久しぶりに楽しい夜になりそうだ! レイドック城に報告しに行くのはその後でもいいだろ! 最近ずっとまともに休息もできていなかったしな」

 

 ハッサンが楽し気にそう言うとレックも「ははは、そうだね!」と乗り気である。あまり賑やかなのは好きじゃないが、流石にこの状況に水を差すほど俺も野暮ではない。

 

「あ、じゃあ、お婆様のところに行かないかしら? 人目を気にしなくてもいいし、それにテリーを紹介したいし」

 

 ミレーユがそんな提案をしてくる。

 ……『グランマーズの館』か。

 大丈夫だろうか……。夢占い師を生業とするあのお婆さんは色々見通すイメージだ。俺が転生者とか見抜いてこないだろうか? そんなことになったら色々と面倒だ。……やばそうだったら全力で離脱しよう。

 

 

 

 

 

 まず俺達は、レックの『ルーラ』によって、いったん『サンマリーノ』に向かい、宴の為の食材などを調達することに決まった。

 ハッサンが大量に酒を購入していたことが気になったが、どうもハッサンも姉さんもかなり飲むらしいので多く買っておいて問題無いとのこと。ハッサンは何となく想像できるが、姉さんは意外だ。実際、姉さんに聞くと、本当に飲むとのこと。……大丈夫だろうか? 間違ってもダルがらみはしないで頂きたいものだ。

 一方の俺は遠慮しておいた。別に禁止されているわけでは無いが十代で酒は体に良くないと聞いたことがあるからな。修行をしている身の俺に酒は論外だ。レックとバーバラも酒の味は分からないらしいので飲まないらしい。

 

 ちなみに料理は俺が作ることになった。満場一致で俺に決まった。クリームシチューの実績が大きかったようだ。料理は好きだから文句は無いが、他の人が作った温かい料理を食べてみたいものだと密かに願う。……誰かいないだろうか?

 

 

 

 買い物を終えた俺達は、『グランマーズの館』にやって来た。

 自然に囲まれた地にポツンと立つ館。たまに動物や虫の鳴き声が聞こえてくる以外は静かなもので、既に陽が沈みかかっていることもあり、どこか寂しい雰囲気を醸し出している。わざわざ人里離れたこんな地に住むとは、この館の主の偏屈さを物語っているようだった。

 でも俺は結構好きだ。人がいっぱいいて賑やかなところよりはこちらの方がよほどいい。

 

 先頭に立ったミレーユが「ただいま、おばあちゃん」と声を掛けながら、館の扉を開けて中に入っていく。ぞろぞろと俺達も後に続く。

 

「おや、ミレーユ、おかえり。それに……、ひゃーひゃっひゃっ! 随分仲間を引き連れて帰って来たね。……まあ、分かっていたけどね。バーバラにテリーだね、よろしくね」

 

 怪しげな装飾がされた全体的に暗い部屋を進んでいくと、奥の部屋で椅子に座って事務作業をしている老婆がいた。とんがり帽にローブという、いかにも魔女と言った風貌である。彼女がグランマーズ。お得意の占いで俺達が来ることは分かっていたようだ。魔法とはまた違う不思議な力を目の当たりにして俺は純粋に感心してしまう。

 

「えっ!? 自己紹介もしていないのに!」

「ほっほっほっ。わしは夢占い師、それくらい朝飯前じゃよ」

 

 驚くバーバラに可笑しそうに笑うグランマーズだったが、突然真顔になって俺のほうを見つめてきた。

 

 …………え、なんだ?

 

 身構えるも、構わずグランマーズはずいずいと黙ったまま俺の元まで近づいて来る。

 ……普通に怖い。

 俺の目の前に来たグランマーズは、その皺だらけの顔を俺に近づけてくる。謎の威圧を感じた俺は「……な、なんだ」と質問する。他の四人も突然のグランマーズの行動に驚き、静観している。

 

 ……ま、まさか色々と見透かされているのか?

 

 俺がそう考えた時だった。

 

「おまえさん! 臭いよっ! まずはその体と服を洗ってきな!」

 

 鬼気迫る表情でグランマーズはそう怒鳴った。

 そのまま俺は問答無用で浴槽に閉じ込められた。

 汚れた服は閉じ込められる直前にバーバラに渡して洗濯を頼んでおいた。バーバラは「うぇぇ……」と嫌がっていたが、貸一つとして半ば強引に押し付けておいた。

 

 ……それにしても怖かったな。

 

 俺は大人しく自分の体を綺麗にするのだった。早くしないと料理する時間が無くなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はあ、なんで私がこんなこと。……うぅ、臭い。この借りは絶対返してもらうんだから……」

 

 テリーにポイズンゾンビの残骸がついた洗濯物を押し付けられたバーバラは、不満たらたらだった。しかも臭いからと言う理由で館の外で洗濯する羽目になってしまった。館の窓から漏れる光が当たる場所でバーバラは洗濯していた。ちなみに他の三人は夕食の準備に勤しんでいる。

 バーバラは黙々と洗剤を溶かした水が入った桶に洗濯物を順番に入れてごしごしと洗いつつ、今日一日を振り返り、また気を落とす。

 

 ……はぁ、テリーは私の事なんとも思っていないのかな。

 

 深い溜息をついたその時だった。

 

「ん? 上着のポケットに何か入ってる……」

 

 取り出してみると、それは手紙のようだった。光に当てて確認すると宛先が自分になっていた。

 それは、テリーがバーバラの元から去る時に、バーバラにこっそり渡すつもりだった手紙だった(色々あったせいで本人はすっかり忘れている)。

 

「……どうしてこんなものが」

 

 一瞬迷ったが、宛先が自分ならいいかと、バーバラはその手紙を読み始めた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バーバラ、こっちの準備がひと段落したから手伝いに来たわ。ごめんなさいね。テリーの洗濯を頼んじゃって……。バーバラ? どうしたの?」

 

 ミレーユの視線の先には立ったまま微動だにしないバーバラがいた。自分の呼びかけにも一切反応しない。

 ミレーユからは、バーバラの背中しか見えず、何をしているのか分からない。仕方がないので回り込んでバーバラが何をしているのか確かめる。

 そこには、握りしめた羊皮紙をじっと見つめるバーバラがいた。

 

「バ、バーバラ!? あなた顔が真っ赤よ!? どうしたの!? そんなに臭かったの!?」

 

 ミレーユの視線の先には、暗がりでも分かるほど顔を真っ赤にして、心ここにあらずと言った様子のバーバラがいた。基本的には心優しいミレーユが続けて「何があったの?」と心配そうにバーバラに声を掛け続ける。そしてミレーユが驚き叫んだことでようやくバーバラは我に返る。

 

「うええっ!? い、いつの間に!! あ、あの、こ、これは別にな、ななな、なんでもなくて……」

 

 舌も上手く回らないほど慌てまくるバーバラ。相変わらず顔は真っ赤っかだが、それでも握りしめていた手紙を自分のポケットにしまい込むと、

 

「わ、私、本当に大丈夫だから! でもちょっと暑くなったから外の空気に当たってくる!」

 

 そう言って、ばたばたと逃げるように走り去ってしまう。

 

「あ、ちょっとバーバラ! ……どうしたのかしら? というかここ既に外だけれど……」

 

 ぽつんと取り残されたミレーユの呟きが虚しく夜の空気に溶けていった。

 




たくさんの感想ありがとうございます。
引き続き読んで頂けると嬉しいです。
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