私はプロの小説化では御座いませんので誤字や脱字、文章の欠落など目に余る点が多々あるかと思いますが、よろしくお願いいたします。
それでは冒頭部、プロローグに当たる部分を投稿させて頂きます。
始まりは彼方へ
───某日、某所。
落ち着いた色合いの羽織袴を纏った男性が、一人作業をしていた。
姿容は身形と同じく落ち着いた、もの柔らかな雰囲気の男性である。
男が作業を行っている場所は、人間の住む里から一里ほど離れている場所にあった。
正確に計測すれば一里にも満たないであろうが、大よその距離でも"里外れ"と表現する場所に相応しい。
因みにこの場合の一里は凡そ五百メートル。日本での一里で考えてしまうと、途方もない数字に至ってしまう。
人間の住む里が見える方角から、反対側に視点を当ててみる。
其方の方角は先程とは一転し、何もない。
何もない、というのは人工的な建物が一つもない、という事である。目を向けてみれば、妖しく佇んだ森林やら深い竹林などがあるのが分かる。
そして男が作業している場所。
その場所にはお世辞にも立派とは言えず、かと言って粗末な造りにも見えない建屋が存在していた。
周囲には立派な木々が、その建屋を囲うようにして自生していた。建屋の付近には仕切る目的からか、垣根などが所々に造られていた。
「ふぅ」
男が小さく吐息する。
頬の辺りから静かに汗がしたたり落ち、太陽光が男の額を照らし付ける。
腰に手を当てると、男が何処か満足気な表情を浮かべた。
「……こんなものかな」
誰に言うでもなく、男が呟く。
一仕事を終えたのか、男はその建屋の中へと歩んでいった。
奇妙な場所に建てられたこの建物は一体何なのか、後に分かる。
*
男が建屋に入る。
和風な造りをした入り口に入ると、男は土足のままだ。靴は脱がない。
玄関と思しき場所を通ると右手側に扉があるが、男は通り過ぎた。
更に奥へと進むと、今度は広い部屋に到着した。
その部屋は一般住宅とは異なっており、テレビやらソファー等の近代的な物は設置されていない。
代わりに、大きなバーカウンターに近しいものが設置されている。
反対側にはまだ何も置かれていない巨大な棚も設けられており、隅の方には棚と似たデザインの扉もある。
バーカウンターの正面側には、木作りのテーブルが幾つも置かれており、同じく木作りの椅子も用意されている。
察するにこの建屋は、酒飲みのできる施設といった処であろう。
それもまだ建てられたばかりであり、"居酒屋"と名乗るには少々気早すぎるものがある。
そしてこの男は恐らく、この建屋の"オーナー"といった処だろう。
男はバーカウンターに設けられた椅子に静かに座る。
「……面取りも良し、この椅子も……決して座り心地は良くないが、ガタ等もない」
濁りのないテノールの声色で、男が呟いた。
男は隣りにあった椅子を軽く叩いたり、揺すったりと何かを試すように衝撃を与えていた。
「厨房も見てみよう」
男は立ち上がり、バーカウンターの中にある扉を開けて奥に入っていった。
男の言う厨房を見てみると、良くも悪くも名前の通り厨房である。
厨房には、何処にでも置いてありそうなシンクや、作業台が置かれている。
他にも電気で稼動するコンロや、縦型の冷蔵庫なども用意されている。
「良い感じに置いてあるね。電気はまだ使えないから、暫くはガラクタになるけど」
男が厨房を後にする。
先程のバーカウンターのある部屋に戻ると、そのまま建屋の外へと出た。
時刻は既に昼を回っており、強い日差しが男を照り付ける。
男は外に出るや否や、大きく伸びをし欠伸をした。
「うーん、……はぁ。思ってたよりも本格的な造りになってたな」
「───そうでしょうとも、抜かりはありませんわ」
不意に男以外の声がした。
男は僅かに驚くが、直ぐに平然を取り戻し声の主に言葉をかける。
「そろそろ普通に登場してくれないか、八雲紫」
彼がそう声の主に言い放つと、何もない空間から突如として若い風貌の女性が飛び出してきた。
金髪で中華風の服を身に纏っており、フリルの付いた変な形の帽子を被っている。正面には赤いリボンのような布切れが結び付けられていた。
「あら、普通じゃなかったかしら」
「普通の人は、空間から飛び出してきたりはしないよ」
「私は妖怪ですもの」
そこまで会話をすると、男はそうですか、と会話をする事を止めた。
「それで、貴方の言っていた話の事だけれど」
八雲紫と呼ばれた女性がそう言葉を切った。
男はそれだけで話の筋を理解したのか、口を開く。
「ああ、ありがとう……十分だよ。 僕が思っていたよりも、ずっと立派だったもんで驚いた」
「当然よ、私が絡んでいる案件だもの」
「此れで安心して居を構える事ができるというもんだよ」
「疑問に思っていたのだけど、この建屋は酒屋とは違うのかしら」
「うーん、そっちの方面は趣味でやっていこうと思ってるからね。 当面の間は二階に用意した私室で寝泊りするだけになるかね」
「あら、そうだったの」
男が二階に目を向けて、そう伝える。
「ま、こんな辺鄙な地にある酒屋を訊ねる人なんて、余程の物好きしかいないだろうけどね」
男が卑屈そうに呟く。
八雲紫はその呟きに、それもそうね。と肯定した。
「なら、私が栄えある"お客様一号"にでもなってみようかしら」
冗談ぽく八雲紫が、男に向けて言葉を放った。
「それも良さそうだね。 でも残念だけど、酒の類なんて一滴もないからお引取り願えるかな」
「お酒なら……ほら、あるわよ」
八雲紫が、裂けた空間の"すき間"に手を突っ込むと、突っ込んだ手が酒瓶を持って帰ってきた。
何やら酒瓶には"千歳鳩"なんて表記しており、男は心の中で深い溜息を吐いた。
「それは君の酒であって、この店のものじゃあないだろう。 それで持て成したところで、君をお客さんと呼ぶ訳には……」
「確かにそうね。だったら、貴方が用意すれば良いじゃない」
八雲紫がそう告げると、男は肩を少し震わせた。
彼女の言葉に反応したのだろう。しかしその表情は焦っているでも、怯えているわけでもなく至って平然であった。
「貴方の能力を使えばそんな事、造作もないと思うのだけれど」
八雲紫がそこまで言うと、男は小さく吐息した。
そして男はおもむろに懐の中に手を突っ込む。すると其処からは、先程八雲紫がやって見せたように酒瓶が出てきたのであった。
「別に能力を使ってまで持て成す気はなかったんだが」
男はそう言い放ち、懐から取り出した酒瓶を八雲紫に向かって投げ渡した。
受け取る際に小さく声を漏らした八雲紫であったが、酒の銘柄を確認した途端、憤慨した。
曰く、此れではない、と。
「普通の酒じゃないのか」
「違うわよ、間抜けね。前に飲んだもっと甘い奴が飲みたいの」
男が再び懐の中に手を突っ込み、酒を取り出した。
酒の銘柄を見てみると、名称の他に果物の絵柄が表記されているのが分かる。
「甘いのってコレか」
「そうそう、それよそれ。真昼間から酔う気にもならないし、此れぐらいが丁度良いの」
ラベルには"アルコール分3%"と表記されていた。
果物で割った若者向けの、所謂"チューハイ"というやつだ。
「前に、それは"幼子の飲み物だ"とかいって馬鹿にしていたのを忘れたのか」
「馬鹿にはしていないわよ。ただ宴会の席で、こんなちゃっちぃのを飲むのはどうなのかしら、と思っただけ」
彼は八雲紫に対して抗議していたが、彼女はいつもの通りに道化るだけであった。
呆れるでもなく、憤慨するでもなく彼が溜息を吐くと、八雲紫の表情が少しばかり堅くなった。
「これで暫くは外の世界に行きたい、なんて言う事もなくなったかしら?」
小さく透き通るような声色で、八雲紫が男に訊ねた。
その問いに対し男は、少しおどけるようにして答えた。
「……さ、どうだろうね。まぁま、飲み物が温くならないうちに飲んでしまおうじゃないか」
それだけ伝えると、男は踵を返し建屋の中───もとい、家屋の中へと入っていった。
自らの問いをはぐらかされた八雲紫は、表情を少しだけ歪ませた。しかしそれも一瞬、直ぐに男の後を追うようにして家屋の中へと姿を消した。
────第百十八季、月と秋と木の年。
幻想郷を様々な異変が襲う少し前、初夏の記録である。
ストーリーや設定などに関してましては、後付によるものも出てくる可能性が御座います。
一章部が執筆し終わりましたので、ハーメルン様の方へ初投稿させて頂く形となりました。
慣れない操作で投稿ミスがあるかもしれませんが、今後ともよろしくお願いいたします。