東方外来禄 -往年幻想物語-   作:くりすてぃあーね2世

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巻ノ十一 小さな天堂

幻想郷を覆った紅い妖霧の異変が解決され、幻想郷にひと時の平穏が訪れた。

人里に住む人間達も体調が回復し、一月後には異変など無かったかのように里は賑わっていた。

異変の後には当然、様々なゴシップが里中で広まった。

それらゴシップを台頭させている一番の要因は、やはり新聞にあると言えた。

天狗が発行している各新聞にて、異変の話題は大きく取り上げられていた。

中には"号外"として扱う新聞も存在しており、無料で配布されるそれは里人にとって大きな情報源となっていた。

そうして生まれるのは、紳士淑女達による噂話の波及だ。

結果としては"博霊神社の巫女が解決した"という事になっておるが、中には自然消滅説や、里郊外に店を構えている店主の仕業など、噂には様々な色をつけられていた。

しかしながら、人の噂も七十五日……数ヵ月後には話題にすら取り上げられなくなった紅い妖霧の異変は、人々の心から徐々に忘れ去られていった。

 

それらが明け、立春。凡そ二月の上旬頃の話である。

里の郊外───約一里程離れた場所に建てられた、小さなお店。

店舗の入り口と思しき箇所には赤い提灯が飾られており、そこが"一杯飲屋"である事を主張していた。

中を覗いてみると小奇麗な短い廊下が続いており、その先にはバーカウンターに似た設備が設けられていた。

外観から察するに赤提灯が飾られている事から"一杯飲屋"を想像させつつも、店内を覗いてみるとそれは"小料理屋"を連想させるものがあった。

一杯飲屋とは、安い酒を飲める大衆向けの店の事。小料理屋とはその名の通り、小規模な料理店の事だ。

カウンター席のみで営業している事が多く、凝った料理に飲料は酒を提供する……大雑把であるが、説明とする。

そんな独特な雰囲気を醸し出すお店の中に、一人の男の姿が窺えた。

 

「…………よし、これで良いな」

 

男は額の汗を拭うと、満足気にそう呟いた。

数ヶ月前の店内と見て比べると、内装は程好く変更されている事に気付いた。

まずカウンターテーブル席以外の小さなテーブルは、全て端に避けられるか、或いは片付けられるかして排除されていた。

 

「どーせ大人数の宴会なんて無いだろうし、必要なかったな」

 

彼自身、開店当初は千客万来と心の中では意気込んでいたらしいが、結果は散々たるものに終わった。

夏を終えて秋を越え、そうして真冬となった昨今。彼は現在、店内を改装しているのだ。

改装と表現したが、行為自体はささやかなものである。言葉にするのなら、店内スペースの小規模化、といったところだろう。

数人の客の相手が限界なのに、大人数の客が来店した日には対応しきれないだろうと、彼が判断したからだ。

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ…………五人か、六人くらいが良いところか」

 

カウンターテーブル席に座れるのは、凡そそれだけの人数に絞られる。

万が一大人数の客が来店した場合は、先程片付けたテーブルを用意すれば事足りるであろう。

 

「うん、改装終わり。お店の名前も決めたし、これで良いだろう」

 

どかっ、と彼は近くの椅子に座った。

テーブルに置かれていたグラスに注がれた水を口に含み、一息つく。

彼が一息ついている間、カウンターの下部から得体の知れない物体が飛び出してきた。

リラックスしていた彼は、突如起こったその出来事に対して驚き、憤慨した。

「なんだ、君は」と、得体の知れない物体に対して問いかける。

するとその得体の知れない物体から、人の形をしたものが飛び出してくるではないか。彼は大層驚いた。

 

「はぁい、天道。私だけれど」

 

得体の物体から飛び出してきたのは、金髪少女の八雲紫であった。

謎の物体から見知った人物が飛び出してきた事で、彼はひどく落胆した。期待はずれも甚だしいと。

 

「紫。君はいつも僕を退屈させないね」

 

「うふふ、そ。褒めていると受け取って良いのかしら」

 

「好きにして」

 

八雲紫はテーブルに置いてあったグラスを取り、水を口に含んだ。先程彼が使用したものと同じものだ。

彼はその事に対しては指摘せず、口を開く。

 

「ところでどうだい、良い感じに改装したんだけど」

彼が八雲紫に問う。

 

「ん、そうなの。大して変わってないと……ああ、そういえば表の赤提灯。貴方にしては美的感覚がないわね」

 

「僕なりに赤提灯はお酒を連想させると思ってね。幻想郷は酒好きが多いと言ってたのは、君じゃあなかったっけ」

 

八雲紫は「そうだったかしら」と恍け、微笑を浮かべる。

 

「で、いい加減お店の名前は決まったの」

八雲紫が問う。

 

「決まったよ。表に看板を出したはずだけど」

 

彼がそう説明すると八雲紫は思考する仕草を見せた。

そうして少しした後、思い出すようにして言葉を紡ぐ。

 

「……貴方は天道という名前よね」

 

「ああ」

 

「お店の名前は……天堂?」

 

「そうだよ」

 

八雲紫の問いに、彼が軽く肯定した。

彼女は若干引き攣った笑みを浮かべると、搾り出すようにして言葉を吐く。

 

「……貴方って結構気障なのね」

 

八雲紫はそう言うが、彼はそれを激しく否定した。

抗議の言葉を並べるが八雲紫はそれら全てを微笑で返す為、彼は抗議する事を諦め板場に回りこんだ。

 

「それで、何か用でもあるのか」

 

「あら、此処は確か小料理屋だったと思うのだけれど」

 

彼女は「確か、天堂とかいう」と付け加え彼をからかうが、彼は相手にしない。

板場にて流水で手を洗った後、手拭いで水気を拭き取り八雲紫に向けて言葉を放つ。

 

「うん、此処は小料理屋"天堂"だ。君はお客さんかい。それとも、また野暮ったい話をしに来たのかい」

 

彼は屈託のない笑みを浮かべ、八雲紫に対してそう問うた。

窓から見えるは一面の銀世界。積雪しており、木々に降り積もった雪がとても綺麗な風景を描いている。

この季節ばかりは動物達も活動を控え、ひと時の休息を取っている季節である。

 

 

────第百十九季、星と冬と金の年。

冠雪は止まる事を知らず、春も過ぎ去りし異変が訪れる少し前の記録である。

 

 

 









導入部なので短めに締めております。
今回から春雪異変の章へと突入していきますので、よろしくお願いいたします。
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