東方外来禄 -往年幻想物語-   作:くりすてぃあーね2世

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巻ノ十三 評論家と半霊と

 

 

月日が経過し、やがて四月が訪れた。

三月の頃に見せていた吹雪は嘘であったかのように収まり、積雪は続くものの降雪はぴたり、と止んだ。

陰湿な雲も何処かへと消え去り、太陽が自らの存在を幻想郷中に誇示していた。

 

店内の窓から外の景色を眺めてみると、相変わらずの銀世界ではあるものの、積雪した雪が太陽の光を反射し幻想的とさえ思えた。

そんな頃、店の扉を開く音が聞こえてきた。

またもや人外の客人なのかな、と想像しつつ出迎えてみたが、予想は大きく外れてしまった。

 

訪れてきたのは普通の一般人、それも中年の男性であった。

僕が「何処から来たのですか」と質問すると、男は「里からだ」と淡白に答えた。

 

普通の一般里民を相手にするのは初めてなので、どう対応して良いか迷ったが普段通りに接する事に決めた。

いつも通りに店内に招き入れ、カウンター席に男が座るのを見計らいお冷を提供した。

男は僕が提示せずともお品書きに目を通し、これまた淡白な声色で「炒飯をくれ」と要求してきた。

 

そうして要求通りに炒飯を提供すると、男は黙々と食事にありついた。

飲み物もお冷だけで構わないのか、それ以上の注文をしてくる事はなかった。

里の人間にしてはあまりにもつまらないな、と僕は心の中で思った。人外ならば面白可笑しそうにお店の事を質問したり、食事について質問してきたりする。

いや、もしかしたらそれが"非・常識的"だったのかもしれない。思えばただの人間の客人は初めてなので、僕自身の常識がおかしくなっていただけなのかも。

 

そう思考しているうちに男は食事を終え、「美味しかったよ、ありがとう」と僕に向けて言葉を発した。

その言葉に対して適切な回答をしたのだが、男は間髪入れずに「お代だ」と言って金銭を手渡してきた。

あまりにも機械的な、ひとつのルーティン化された行動に対して僕は呆気にとられつつも、男が去る前に質問を試みた。

 

 

「ありがとうございました。ところで御仁、一つ質問をしても良いですか」

僕は男に向けてそう訪ねた。

男は、構わない、と言って此方に振り替えたので、僕は言葉を続けた。

 

「里には様々な食事処があります。何故、わざわざ僕のお店を訪ねてきたのですか」

 

僕の質問を聞いた男は、然も可笑しな質問だ、と言わんばかりの表情に変え、淡白な口調で答えた。

 

「おかしな事を聞く。此処は料理店なのだから、私のような客が訪れても何も不思議な話ではない」

 

「ええ、確かに。仰るとおりですが」

 

「私は食について少し煩くてね。貴殿の店の味は変わっている。里のどの店にも再現できない味であった。

だが少し文句を言わせてもらうのなら、濃い味付けは人の舌を狂わせる。程ほどにしておきたまえ」

 

男は早口にそう言葉を紡ぎ、「機会があればまた来る」とだけ言い残し、お代の小銭を僕に手渡すと、店内の扉を開けて出て行った。

僕はぽかん、と口を開いたまま、その場から動く事を忘れた。

 

 

 

*

 

 

 

変わった客人の相手を終え、食器類の片付けなども終えたので、今日は人里に向かう事にした。

 

先程の客人が僕に伝えた、"濃い味付け"。僕のお店の料理のほとんどは、里には置いていない調味料を使用している。

男が"再現できない味"と言っていたのは、恐らくその事なのかもしれない。

……と推測すると、先程の客人は食の批評家の方なのだろう。恐らく里の店の料理は食べ尽くしている為、僕のお店の味付けに物珍しさを感じたのか。

けれども、客人に指摘されたところで方向性を変えようとは思わない。

と言って何も行動しないのも良くないので、少しばかし里で販売されている食材や調味料などを見てこようか、そう結論に至った。

 

お店の扉の"開店"の表示板をひっくり返して"閉店"にした。

鬱陶しい積雪でとても歩き難いが、防寒着を着込みいざ人里へ。

 

 

*

 

 

店から人里までは徒歩で数十分も歩けば到着する距離であるが、積雪のため里に着くまでに普段の倍ほどの時間がかかってしまった。

僕のお店から人里までの経路に足跡がいくつか見られたが、恐らく先程の客人のものだろうと推測した。

人里に到着する頃にはそんな推測も頭から消え去り、目的のみに集中した。

 

里の内部は外とは違い、ある程度の除雪が施されていた。

人が通る道は薄い氷の膜が張っている程度であり、水分を多分に含んだ雪が溶け始めているのが窺える。

しかし店舗や民家の屋根に積雪されたものは手付かずな為、それらが解消されるには長い時間を要するだろう事も窺えた。来月頃には、元通りの日常に戻るのだろう。

 

人里に訪れて始めに、里の料理店を伺う事にした。

今日は起床して以来、軽い食事しかしておらず腹の虫が喚き始める頃合だった為、その前に鎮めようという魂胆だ。

里には大小様々な料理店が展開されているが、中でも一般的な普通の料理店で食事を済ませる事にした。

 

注文した料理は先程の奇妙な客人と同様に、炒飯とお冷。

里の炒飯は僕のお店のものと比べると味付けが薄く、具も簡易なものしか混ぜられていなかった。

火力も足りているのか疑問に思う。米飯の食感もあまり良くはない。けれどもこの店は、僕のお店よりもずっと繁盛していた。

 

一体何故なのだろうか。

こういっては失礼に値するが、食材の品質は分かったものではないし、調味料の味付けもひどく薄い。

店員の対応だってあまり褒められたものではない。悪く言えば粗暴で、良く言えば気さくで人情味の溢れる……恐らく、それが受けているのかもしれないが。

なのにだ、外ではこの店で食事を済ませようとする客が、表の椅子に座って待っている。

 

店員はそれらの対応に追われ、早々に食事を終えた僕に対し「お代の方は」と急かしを入れてくる。

結局、僕がこのお店で食事以外に口を開く事は一度もなかった。

 

 

 

*

 

 

 

青天を拝みながら里の繁華街を歩く。

周囲の人間は各々の目的に向かって、今日も一日精を出している。

 

僕は思った。

やはりお客様に信頼されているからこそ、お店が繁盛するのだろう。

 

僕の経営しているような得体の知れないお店を訪れるのは、物好きな人間か妖怪くらいだ。

それにあの時の奇妙な客人が言っていた通り、僕のお店の料理は味付けが濃かった。

これはきっと里人には受けないだろう、奇妙な客人はそれが言いたかったのかもしれない。

 

例えばパエリアやピラフなどの、里には無いような小洒落た料理を出したところで、

人々は最初こそ物珍しさで食事をするかもしれないが、恐らく二度目はない。

 

結局のところ、安心で信頼できる食べ慣れた物を人々のニーズに合わせて提供できるお店が、里の料理店を制覇していくのだろう。

僕のお店には、それらに対する向上心というものがまるでない。

これらは全て僕の曖昧な予想に過ぎず、他の人から見れば的外れな考えかもしれない。

けれども実際に人間の客が訪れないという事は、つまりはそういう事であり、里人にとって信用に足らない店だと判断されているというわけである。

 

ならば、と僕は歩きながら思考した。

何も人間に対して媚びて商売する必要もない。あくまで趣味の範疇として経営していくのならば、オーナーの好きな方針で推し進めるべきではないか。

それで利益が出るか出ないかはまた別の問題であるが、商売をひとつの趣味として進めていくのならば、そういう考え方も理解できる。

 

例えお客さんが一騒動を起こした吸血鬼だったり、奇妙奇天烈な妖怪だったとしても、その種種に対して満足してもらえるような形で料理を提供できるのならば、それで良いではないか。

そう考えを固めると、何だか心の腫れ物が取れたような清清しい気分になってきた。

里に赴き営業をするのも、何だか馬鹿馬鹿しくなってくる。

今日はもう帰宅し、度数の低いお酒と塩茹でした枝豆でも堪能しようか。……と、考えながら里を歩いていると。

 

「……おや」

 

里に植えられている木々の近くで、一人の女の子が何かをしていた。

只のそれだけなら、普通に立ち去るだけだったであろう、少女の近くで桜の花びらのようなものが舞ったのもあり、僕はそれに目を奪われた。

こんな積雪している時期に桜の花びらなど、到底ありえないので僕は少女のもとに歩み寄り声をかけてみた。

 

「そこの君」

 

声をかけられる事を予期していなかったのか、少女は肩を少し震わせて此方へ振り返った。

銀色の髪に黒いリボンを付けており、白いシャツの上から青緑色のベスト、そして同色のスカートといった容姿。

腰に一本の刀を差しており、更に背中にも一本の刀を背負っているので、とても物騒だなと思った。

少女は此方に振り返るなり、「何ですか」と返したので、僕は質問を投げた。

 

「いや……特に意味は無いんだけど、僕の勘違いとかだったら答えてくれなくても構わない。

ほんの一瞬、ちらりとだけ桜の花びらのようなものが見えたんだ。君の手品か何かかい」

 

「手品じゃあないですよ。見間違いでもないかと」

 

僕が知りたいのは、まだ開花の兆しすら見せていない桜の木から、桜の花びらが舞ったのか。

そもそもその木は桜の木なのか、それすらも分からない。

少女は続けて答えた。

 

「"春度"を集めているんですよ。そろそろ頃合かと思いまして」

 

「春度……か。よく分からないけど、そんなものを集めて何になるんだ」

 

「さあ」

 

少女は然も知らぬと言った風に答えた。

 

「見たところ君、只の人間じゃあないね」

 

「そうですね。私は半人半霊、半分は只の人間ですけど」

 

「半分は只の幽霊か」

 

珍しい種族の女の子だったらしく、よく見ると彼女の背後には真っ白い幽霊のようなものが揺らいでいた。

 

「しかし春度とやらが無くなってしまうと、僕の推測だけども春という季節が訪れなくなるのでは」

 

僕の素朴な疑問に、少女は答えた。

 

「ええ、そうなりますかと。きっと冬が長引いて、桜も開花するのを忘れてしまうでしょうね」

 

「……程ほどにしておいてくれよ」

 

「あら、止めないんですか」

 

「止める気はない。でも、僕のお店の周りの春度には目を瞑ってくれないだろうか」

 

僕の言葉に、少女は少し思考するような仕草を見せた。

そして僕のお店の所在を訊ねられたので、詳細を少女に教えた。

所在を知った少女は、「分かりました、善処します」と答えたので、僕は「善処だけでは困る」と返した。

そうして少女が僅かに頬を緩めると、僕に向けて口を開いた。

 

「私は魂魄妖夢と申します。もしも機会があったら、貴方のお店を伺ってみますよ」

 

「僕は天道と言う。ところで、魂魄さん」

 

「妖夢で構いませんよ」

 

「そうか。では、妖夢さん」

 

僕は過去の記憶を掘り起こし、彼女について一つの質問を投げかけた。

 

「僕は君の名前に聞き覚えがある。君の主人は、もしかして冥界の管理人とやらか」

 

そう質問をすると、妖夢は驚いたかのような表情をし、声を少し震わせながら口を開く。

 

「どうして、その事を知っているんですか」

 

「大分前に、僕のお店を君の主人が訪ねて来たんだ。名前は確か、西行寺さん」

 

友人の方と一緒にね、と最後に付け加えた。

僕がそう告げると、妖夢は頭を抱えた。少しの間唸り思考していたが、次第に口を開いた。

 

「すみません、幽々子様は食の太い方なので、恐らく食べ散らかしてしまったかと思うのですが……」

 

「いや、そんな事はなかった。とてもお淑やかな方だったよ」

 

「えっ」

 

またしても妖夢は驚愕し、言葉を詰まらせてしまった。

これらはお世辞ではなく、僕の本心の言葉である。食が太かった記憶は無い。

 

「そ、そうでしたか。なら良かったです。どうですか天道さん、幽々子様のお知り合いとあらば、白玉楼に御案内しますが」

 

白玉楼という単語に疑問が浮かんだが、恐らく西行寺さんの住んでる土地の名前だろうと推測した。

けれども僕は帰宅し一息つきたかったところなので、その件については丁重に断りを入れた。

 

「そうですか……残念です」

 

「申し訳ない、また機会があれば案内してくれ」

 

「はい、その時は必ず」

 

「では僕は帰るよ。僕のお店の周りの春度とやらには、手を出さないでくれよ」

 

始めこそ無愛想だった妖夢であったが、最後はにこやかに挨拶をして別れた。

今思えば春度というものが、春という季節が訪れる為のきっかけを作っているのではないかと思った。

 

まあ、少しばかり春が遅れると考えればどうという事はない。もう四月なのだし、今更一月や二月春が遅れた程度で、騒ぐ事も無いか。

幸いにも暖房の燃料が尽きる事はないので、冬が長引いたとしても僕のお店に支障が出るわけでもないし。

そう考えながら、明日の予定を立てつつ僕は人里を後にした。

 

 

 

 









以上となります。
感想、評価などお待ちしておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
それでは次話でお会いしましょう。
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