東方外来禄 -往年幻想物語-   作:くりすてぃあーね2世

2 / 42
プロローグの前書きで書き忘れたのでここに記載させてもらいます。
執筆主は食材や料理など、食学の知識は全くないです。当小説に出てきます料理等に関しましては、作中の雰囲気を出す為の演出に過ぎませんので、読者様の中に博識の方がいらっしゃった場合に、料理等に関して作り方が違う、等と指摘された場合、此方としては対応が難しいのが現実です。

要はあれですね、料理とかは雰囲気重視の描写なので、細かい事は気にしないでねテヘペロという事になります。
それでは、早めですが第一話の方を投稿させて頂きます。


巻ノ一  里外れの

いつの間にか、里外れに建物が建築されていた。

誰の所業かは不明だが、事実そこに建築されているのだから、幻惑等ではない。

ならば誰が建築したのであろうか。

里の人間ではない事は明確である。里の外れで建築作業を行おうものならば、妖怪の類に悪戯をされ仕事にならない。

そう考えるのならば、妖怪達が建築したと思考するのが妥当である。

しかし何の為か。里の人間達では到底、理解に至らない。ただただ、里の人間達に疑問が付いて回るのであった。

 

里の人間達がそんな事を考えているなど露知らず、建屋の主である男は今日も汗を流していた。

 

男は建屋の周囲を見渡し、特に目が付く事がないのを確認すると建屋の中へと入っていった。

建屋の中に入ると、今度はテーブルや椅子に埃が付着していないか、一つ一つ指をなぞらせて確認していた。

その作業が終われば、今度は厨房の中へと入っていく。

建物が建設された当時とは異なり、厨房の中は若干の熱気と湿気に包まれていた。

縦型の冷蔵庫を開けると、多少の食材や飲料水が詰められている。

厨房を後にし、今度はバーカウンターの内部を凝視する。

これまた建設当時は何も置いていなかった棚に、お酒の類の瓶がいくつも置かれている。

バーカウンターの内側……つまり、客からは見えない箇所。そこには板場があり、簡易的な水道も設置されている。

水が流れ出てくるかは不明だが、バーカウンターの内側でも調理作業が出来る事を示していた。

 

男が建屋に設置されている全ての機能を確認し、異常や不具合がない事を確認した。

何も問題がない事が分かると、男は笑みを零した。

そして建屋の入り口まで戻り扉の前へと移動すると、扉に掛けられていた表示板を引っ繰り返す。

その表示板には、"開店"と表示されているのであった。

 

 

*

 

 

「よし、今日から開店だ」

 

扉の前に掛けられていた表示板を返し、"開店"と表示させた。

今日が記念すべき開店日となるのだが、店の周囲は静寂で包まれている。

普通は店の開店日ともなれば、物珍しさ等で繁盛するはずなのだが……生憎と、僕の店は閑古鳥が鳴くレベルなのである。

 

「こりゃあ、暫くは人が来そうもないね」

 

時間帯は早朝と言うには遅く、昼過ぎと言うには早い時間帯。

たとえ開店前に行列が出来ずとも、一日は始まったばかりなのである。

 

「気長に待つとしよう。 軽くお通しでも作っておくか……酒も冷やしておこう」

 

玄関口で待っていたところで、客が来るわけでもない。

ならば今のうちに仕込んでおこうと、店内に戻る。

余談であるが、加熱し温度を上げた酒の事を燗酒と言う。お湯を加えて温度を上げた場合は、お湯割りなどと呼ばれたりする。

日本酒や中国酒などで行われる事が多く、ワイン等で行われる事は少ないらしい。

また日本酒で行われた場合は、飲用温度ごとに名称が付いていたりする。

例えば55度前後のものは飛び切り燗、常温のものは冷や、5度前後のものは雪冷え、等々。

 

「今は暑い時期だから、温めちゃあ飲めないだろうから……冷やすのが良いな」

 

里では普及していない冷蔵庫を使用し、酒を冷やす事にした。

因みに僕は酒には詳しくないので、店でお勧めする事は少ないだろう。

此れといって珍しい酒もない。が、他店では出し得ないだろうキンキンに冷えた飲料は提供する事ができる。

 

色々あってお店を開く事にしたのだが、あくまで趣味の範囲でやっていこうと思っている。

僕はそもそも、此処"幻想郷"ではなく、"外の世界"に行きたいのだ。

"外の世界"と"幻想郷"とが繋がっている結界を管理している八雲紫に抗議した結果、この店が建てられた。

いや、そもそもは店ではなく、只の家となる手筈であった。

しかしそれでは面白くないと、僕と八雲紫とで話し合った結果、居酒屋に近い何かを展開する店となった。

僕は"食事処"と表現するつもりだが、八雲紫の中では"居酒屋"となっているらしい。

 

まぁ、別にそれについて言及する気はない。

特にお品書き等も作製しておらず、幻想郷では酒を嗜む人妖が多いから。

そんなに豪華な食事を出さずとも、高級な酒を出さずとも、適当な料理に適当な酒を合わせれば、この事業は成立する。

ただし、人並み以上に食事をする輩も存在すると八雲紫に忠告されたので、それに対応できるように食材は用意したつもりだ。

 

「……しかし、まぁ」

 

待てども待てども、店の暖簾をくぐる者は訪れなかった。

東から昇った太陽は、やがて西へと沈んでいった。それでも此処を訪れるものは一人として現れない。

 

「何となく予想はしていたけど、実際に現実になると……結構辛いね」

 

そりゃそうとも、始めから期待などはしていなかった。

こんな里外れに開店したところで、初日から繁盛するわけがない。

だからこそ仕込みも最低限に止め、無駄な消費なども抑えているのだ。

 

「八雲紫が来なかったのは意外だった。冷やかしに訪ねて来ると思っていたんだけど」

 

ま、良いかと一人ごちる。

 

「さてと、日も落ちた事だし閉めるとするか。 こんな夜中に訊ねてくる人がいるとは思えないし」

 

日が落ちて里の外に出る人間など、余程の物好きしかいないだろう。

そんな物好きがこの店を訪ねるとは……いや、有り得ないとは言い切れない。

しかし、そんなのを当てにする気はないので、早々に戸締りをする事にした。

 

このお店の良いところは、店内に住居のスペースがある事だ。

と言っても寝室が二階にある上に、ひどく簡素な造りになっている。此方の方は改善の余地があるのだろうが、そこまで手は回っていない。

 

入り口の表示板を"開店"から"閉店"に引っ繰り返し、再び店内に戻る。

今日は誰も来なかったが、明日もあるので店内を片付けなければならない。埃や塵を払うだけで済むので、直ぐに終わるとは思うが。

そう思って店内に戻ったつもりであったが、その考えは大きく覆させられた。

 

 

「あ、お邪魔してるわよ」

 

僕は足元で躓き、椅子の角に頭をぶつけた。

その様子を見ていた声の主が、口元を抑えながらのたまう。

 

「ごめんなさい、驚かすつもりじゃあなかったのだけれど」

 

「嘘をつけ、この不法侵入妖怪が。 いつの間に中に……」

 

僕はいつの間にやら店内に侵入していた八雲紫を視認し、言葉を聞いた途端に辟易した。

だがそれも隣りに座っている見知らぬ人物を目にすると、露となって消えた。

 

「あら、紫の言っていた若大将さんね?」

隣に座る若い女性がそう言った。

綺麗な桃色の髪をしており、死に装束の一つである三角頭巾のようなものが帽子の更に上から付いている。

薄い青を基調とした装束をしており、物腰柔らかな雰囲気を放っている。

 

「おや、君は」

 

「そういえばまだ、互いに紹介はしていなかったわね」

 

僕がそこまで言葉を発すると、八雲紫が言葉を挟んできた。

 

「紹介するわね。 西行寺幽々子、私の古くからの友人」

 

「よろしくね~、若大将さん?」

 

八雲紫が桃色の髪の女性……西行寺幽々子さんと言うそうだが、紹介をしてくれた。

 

「西行寺幽々子さん、か。 僕は───」

 

そこで呼吸一つ分置いた。

久しく自己紹介というものをしていなかった故、舌が発音の仕方を忘れでもしたのか。

 

「僕は、天道(てんどう)と言う者です。 以後、お見知りおきを」

 

「そ。 天道さんね、紫とは随分仲がよろしいみたいで」

 

「中々の食わせ者ですが芯の強い方なので、いつも世話になっておりますよ」

 

「……それは褒めてるのかしら」

 

八雲紫にそう問われたが、表情だけで返答した。

しかしながらこの西行寺幽々子という女性、八雲紫の友人だという。

仮にも"妖怪の賢者"と呼ばれている彼女の友人とあらば、同じくこの西行寺幽々子という女性も只者ではないだろう事は推測がつく。

 

「ところでこのお店は、お客様に対してお冷の一つも出さないのかしら」

八雲紫が言う。

 

「申し訳ない、少し待っていてくれ」

 

僕は板場に向かい、直ぐにお冷の用意をした。

用意と言っても何て事のない、ものの数十秒で済む事だ。

板場に置いてあるグラスに、製氷室から取り出した氷を投げ込み、中にミネラルウォーターっぽいものを注ぐ。

 

「おまちどうさま、何か持ってくるよ」

 

「ありがとう」

 

そう礼を言ったのは西行寺幽々子さん。

お冷だけでは締まらないので、何か作り置きしていたものを持ってこよう。

 

「ちょっと、違うんじゃない?」

 

再び板場に戻ろうとしたところ、八雲紫が呼び止めた。

僕はそれに対して多少なりとも辟易しながら、応対を試みた。

どうやらお冷に文句があるようで、何だか身振り手振りで僕に抗議していた。

人差し指をグラスに向け、左手を横に振るう。 恐らく、『コレじゃない』という意味だろうか。

次に右手を少しだけ丸め、口元にあてがい身体を少し反らした。そして左手を水平にし、高い位置に持ってくる。

僕は全く意味がわからなかったので、その場を後にして板場へと向かった。

 

 

「はい、おまちどうさま」

 

板場から戻った僕は、適当に作り置きしていたおつまみになりそうなものをいくつか持ってきた。

漬物や枝豆など、後は小さく切った鶏の肉を辛く味付けしたものを用意した。

 

「口に合うか分からないけど、召し上がってください」

 

言いつつも、冷やしたお酒をテーブルの上に並べる。

夏場といえど夜も暑い、冷やしたお酒が丁度良い具合に合うかもしれない。

何を言っているか分からなかった八雲紫には、アルコール分の強い酒を持ってきてやった。

 

「見た事のないお酒ね、美味しいのかしら」

 

「さぁ、僕はお酒には詳しくないから。 とりあえず飲んでみれば良いじゃないか」

 

栓抜きで蓋を開けると、アルコールの香りが鼻を突いた。冷えているのもあり、周囲を冷気が包んでいるのが見て取れる。

氷の入ったグラスに注ぐと、氷の表面温度が上昇し"パキッ"と割れる気持ちの良い音がした。グラス八分目程に注ぎ、八雲紫にグラスを渡す。隣の幽々子さんにも同様の事をした。

 

「ん……、良くも悪くも普通」

 

「そうかい、……そうだろうなあ」

 

不味い、なんて評価ではなく安心した。

僕はお酒の銘柄には詳しくないので、何が高級で何が美味なのか……全くの無知なのである。

 

「ありがと、このお通しも美味しいわよ」

 

「ありがとうございます、西行寺さん。作り置きした甲斐があるってもんです」

 

昼頃に作り置きしておいたお通しを提供したのだが、これが意外にも好評であった。

もっとも、開店中に来店したお客様に提供する予定だったのだが……、複雑である。

 

「天道さん」

西行寺さんが僕を呼びかけた。

 

「貴方、随分と長生きしてらっしゃるのね」

西行寺さんがそう言葉を紡ぐと、お通しの漬物を口に運んだ。

 

「いえ、まあ。年の功と呼べるものは持ってはいませんよ。 それよりも、何故そうだと思ったんですかね」

 

「雰囲気、かしらね。まだお若いのに泰然とした風格を感じる……うちの妖夢にも見習ってほしいところね」

 

「偶に言われますが、泰然自若とは縁遠いですよ」

 

泰然自若とはつまり、常に落ち着いており物事に対して動じないさま、といった感じの意味だ。

見た目の雰囲気からそう言われる事もあるが、内心は穏やかではない。僕を泰然自若と評するのは間違いである。

 

「あら、貴方は今でこそ落ち着いているけれど、昔は破天荒な事をして周っていたじゃないの」

 

「またそんな、噂話に尾ひれが付いただけだってば」

 

僕と八雲紫は昔から顔見知りであり、こうして偶に昔話を引っ張り出してきたりするので、その度に僕は辟易する。

そのやり取りを見ていた西行寺さんが、僕達の関係の事を訊ねてきたので答える。

 

「ええ、もう忘れましたが……気付いた時には喋っている仲だったと思います」

 

「私は憶えてるけど。前から思っていたのだけれど、貴方って少し記憶力が弱いんじゃあないかしら」

 

「……申し訳ない」

 

あまり関心がなかったので忘れてしまっていた。

態々そんな事を口にすれば面倒臭いことになるので、素直に謝罪する事にした。

 

「へぇ、凄く長生きなのね。なら面白い昔話の一つや二つないのかしら」

 

「すみません、僕は旅人じゃあないので話のほうは。そういうのは僕よりも、紫の奴に聞いてもらったほうが良いですよ」

 

為になる話など無いので、僕は西行寺さんの期待には応えられない。下手な沈黙が出来ても落ち着かないので、僕は一つ質問をした。

 

「西行寺さんは普段、何をしてらっしゃるんですか」

 

物腰柔らかな雰囲気を放っており、推測するには何処かの貴族のお嬢様、といったところか。

 

「幽々子はね、冥界で幽霊を管理しているのよ」

 

「うふふ、そんなとこね。どうかしら、貴方も一度冥界に訪れてみては」

 

「……遠慮しておきます」

 

予想はしていたが、やはり大物であった。

冥界には管理人がいるとは噂で聞いた事があるが、目の前にいる女性がその人物であった。

 

「蜉蝣の一期……人の一生なんてあっと言う間ですからね。僕もそのうち、お世話になるかもしれません」

 

「人並み以上に長生きしているのに、よく言うわね。不老不死の類かと思っていたのだけれど」

 

「そんなまさか。斬られれば痛いですし、酸素がなくなってしまったらあっと言う間です」

 

不死の人間かと思われていたようだ。生憎と、僕は不死ではない。

そんなものに憧れはしないが、修羅場を通るたびに不死身だったらどんなに楽かと考えたものだ。

 

 

かれこれと、長い時間彼女達は店に居座り続けた。

特に一日仕事に追われていたというわけでもなく、対して疲労もしていないので良しとした。

食事よりも酒盛りが目的だったようで、食材を激しく消費する事はなかった。

曰く、食事は既に終えてきた後のようであったらしい。その点に関しては八雲紫が、"配慮してやったから感謝しろ"、とのたまっていた。

何の事だか知らなかったので、僕は愛想笑いだけを返事とした。

今日飲んだ酒代を幾許か頂戴し、彼女達はそれぞれの帰路へと着いた。とは言うものの、八雲紫の能力で空間に消えただけであったが。

 

初日は閑古鳥が鳴いてしまったが、冥界の管理人をしている女性が来店したのには驚いた。

店の売り上げ云々は大して気にしていないが、幻想郷の中でも大物の部類に位置する人達とは、率先してコンタクトを取っていきたい。

 

「今度、人里に行ってみるか」

 

少量の酒が零れたテーブルを雑巾で拭いながら、僕はそう呟いた。

 

 





主的には小料理屋をモチーフにしておりますが、バーのようなシックな雰囲気も取り入れたいと思ってしまっており、滅茶苦茶になっておりますね。
今後もよく分からない料理名などが出てきますが、寛容にお願い致します。
それではここまで読んで頂き、ありがとうございました。 次話投稿は未定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。